IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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前回の戦闘の事後処理回となります。
それと、意外な人(?)とこの小説初のオリキャラが出てきます。


第一章(4):動いた者、蠢く者

Side 一夏

 

『で、一夏。

 そっちで周辺を確認していたところハイート九体を確認、すでに殲滅したけどそっちのIS搭乗者に見られた可能性が高い、っていう状況なんだね?』

「申し訳、ありません……」

 

 戦闘後、再度周辺の索敵に戻った俺は改めて周辺に敵が居ないことを確認すると、今度は『球体(スフィア)』付近に戻り『球体』をなるべく目立たなく偽装すると共に簡単な野営地を敷設していた。と言っても、簡単に骨組みを組んだ後周囲に森の色に溶け込めるように緑色の布をかけただけだが。

 元々周辺を索敵していたのもそのためで、見られたりするのを防ぐためだったが、結果として幻神獣を発見、優先事項であったため速やかに殲滅する事態となった。

 

『ううん。気にしないでいいよ。

 僕たちとしてもまさかこんなに早く幻神獣と遭遇するとは思ってなかったし、ね。それに、犠牲者が出なかったならそれで十分だから』

 

 竜声による報告を静かに聞き、状況を簡単に纏めたルクスさんは冷静に返答を返してくれていた。

 だが、俺としても意気込んできた手前、この結果は冷静になると痛い部分が多い。何より、この世界のIS搭乗者に見られたというのは決して小さい事実ではない。

 あの状況では犠牲者を出さないためとは言え、やはり早計だったか。

 

『一夏、確かに痛手ではあるけど事前の対策が十分じゃなかったって言う意味では君だけの責任じゃないから。とにかく、今後の活動方針について話そう。

 何かあった方がいいものとか無いかな?』

「そう……ですね」

 

 少し逡巡した後、ひとまず優先して回して欲しい物を口にする。

 

「まずは、何か顔を隠せるものをお願いします。

 それとフード付きのローブのような物も」

 

 やはりこの世界で機竜を使うとなれば、何かしら正体を隠す物は必要だろう。今回の一件で改めて思い知った。

 とは言え、先に挙げた二つは元々支給される予定の物で、単にこちらに持ってくる際に諸々の都合で後回しになってたに過ぎない。

 それはルクスさんも承知のことだったので、順番を先に回すということで話しておいてもらえるとのことだった。

 

『それと、そっちで交渉事になった場合もできるだけこっちに知らせるようにね』

「了解です」

 

こうして、今回の一件に関する事後処理は終わった。

 

 

――と、()()()()思っていた。

 

 

―――――――――

 

 

Side ???

 

 戦闘が終わってから通信を入れ、そのまま倉持技研に再度戻っていた。

 あの運転手さんも頭を打って気絶していたけれど、こっちにつくまでの間にすでに目を覚ましていました。

 

 事後処理としては、運転手さんはバケモノの事は覚えていなかったため突然の事故として話しておき、運営会社の方にもその方向で話を通しつつ、このことが拡散しないように諸々の方面で手を撃つ方向ですでに纏まっているみたいです。

 この対応も、これはこれで間違ってはいない対応ではないかとも思いました。何より、「ISが通じないバケモノが確認されました」なんてニュースになったら大混乱必須なのは想像に難くない事です。特に恐ろしい事態として、IS登場以後に一部で出現し始めた女尊男卑団体やそれに近い思想を持つIS搭乗者なんかが認めたがらずに無闇にISで攻撃、周辺に甚大な被害なんて事になったら洒落にならない。

 

 ですが、大きな範囲での事後処理に関しては、私にこれ以上出来ることが無い以上そこまで気にしてはいませんでした。むしろ、この遅い時間に対応に出てくれた人に申し訳ないな、と漠然と考えていたくらいです。

 

 倉持に着くと、私の専用機「打鉄弐式」の開発者の一人にして、企業代表を務める友人の機体の設計主任から整備主任まで務める技術者である「如月(キサラギ) 網太(アミタ)」さんが迎えてくれました。この人が対応を買って出てくれたみたいです。

 

「如月さん。この度は対応してくれてありがとうございます」

「い~やいや、更識君は気にしなくていいさ。

 僕としても君が打鉄弐式を纏って飛ぶその瞬間を是非とも見たいからねぇ!」

 

 お礼を言ったところ、一種の異様なハイテンションで飛躍した返答を返してくれました。

 ……前々から思っていたのですけど、如月さん、いい人だし技術者としての腕も確かで信頼できる人なんだけど、なんていうか……時折、常人では理解し難いテンションになったり一体いつ使えばいいのかもわからない武装を製作したり、挙句の果てにはどう考えても奇行としか取れないような行動をしだしたりと、よく分からない部分のある人です。友人に至ってはド直球に「変態」呼ばわりしていたほどです。いい人だし腕も確かなんですけど。

 

「簪、大丈夫だったか!?」

「箒!? なんでISスーツ着てるの!?」

 

 そんな失礼なことを考えていたら、もう一人来ました。

 倉持技研の企業代表を務める友人、()()()です。二年ほど前までは名字が違ったらしいですが、今は改名して「剣崎(けんざき)」姓にしたらしいです。

 その彼女がISスーツ姿。一般的な基準で見ても真面目で体調管理を怠らない彼女にしては少し夜更かしに過ぎる時間で、しかもどう考えても寝る前の格好ではありません。

 そのことについて私が聞くと――

 

「お前が正体不明の敵に襲われてるって聞いて、居ても立っても居られなかったんだよ!

 如月さんから最初聞かされた時はどうなるかと思って……」

 

――との事でした。

 箒は本当に私のことを心配してくれていました。ISスーツを着ていたのも、大急ぎで出撃しようとしたけどギリギリ間に合わなかったらしいです。

 箒にも迷惑をかけてしまったことに申し訳無さを感じつつも、ひとまず今からの対応についても話してもらえました。

 機体は戦闘データの収集や破損部分の修復も込みで預かって貰えるとの事。修理費も倉持技研の方で持ってもらえるみたいです。ひとまず機体周りの事は心配しなくてすみそうです。

 ですが、どうやってこれだけの資金を出したのか。そこだけはかなり心配になりました。

 

「ああ、費用の事は心配無いよ。

 そもそも機体に関しては完全に必要経費、情報操作云々に関しても政府主導でやるとかなんとかだしねぇ!」

「なんで私の考えてることが分かったんですか」

「気にするな、簪。

 この人相手だと気にするだけ無駄だ」

 

 如月さんとは私以上に長い付き合いになる箒がそう言ったので私は深く気にするのを止めました。

 

「ああ、それと。

 簪。宿はどうするんだ?」

「あ……」

 

 迂闊だった。完全に思案の外だった。

 どこか空き部屋か倉庫か、とにかく最低屋根が付いている場所を貸してもらえるように交渉しようかな、と考えて――

 

「決まっていないなら私の借りている寮の部屋に来ないか?

 一人部屋だから、少々手狭に感じてしまうかもしれないが」

 

――思わぬ救いの手を差し伸べてもらえました。

 

「わ、私としては嬉しいけど……箒はいいの?

 迷惑じゃない?」

「全然。

 如月さん、これで大丈夫でしょうか?」

「No, problem!! むしろ僕から言おうと思っていたくらいさ!」

 

 最後に箒が今回の事後処理担当になってしまった如月さんに確認を取り、少なくても今ここで私に直接関わる範囲の事後処理が終わりました。

 

「そう言えば簪。お前を助けたって言う、白い機体についても聞いていいか?

 私も念のために聞いておきたいんだが……」

「うん。私はいいけど……」

「ああ、それも映像見せちゃっていいよ。

 守秘義務付くけど問題ないよね?」

「はい」

 

 こうして、私は如月さんの許可も貰ったので白い機体について箒に映像付きで話すことになりました。

 

 

 意外な感想がもらえることも知らずに。

 

 

―――――――――

 

 

Side ???

 

「……虚ちゃん、それ本当?」

「はい、お嬢様。倉持技研から映像付きでの情報です、間違いありません。

 ……本音、あなたも起きてちゃんと聞きなさい」

「……はぁ~いぃ~~…………」

 

 深夜、ロシア大使館からの呼び出しから辛うじて帰ってこれた私を待っていたのは耳を疑うような報告だった。

 

 倉持技研の付近に出現したISに十分なダメージを与える未確認生物と、それを撃退した異常な高性能を見せたISの出現。

 

 言葉にすればたったこれだけだけど、その意味は計り知れないほど大きい。今現在の情勢では、間違ってもニュースにしてはいけない内容だとさえ思える。

 

 特に、量産型の打鉄だったとは言え現在単体では最強の軍事力であるISが通じない未確認生物が出現したとなれば、各国の軍がまた再編成なんてことになりかねない。一般に知られれば女尊男卑団体が何かしでかすであろう事も容易に予想できる。それだけに止まらず、不当に虐げられてきた男性が一気に過激派化なんていう最悪のシナリオまでもが一瞬頭をよぎった。それらがもたらす混乱による被害は計り知れないものになる事も想像に難くない。

 

「で、これがその映像、ね……」

 

 そしてその未確認生物を倒しうるISの存在。下手すればこっちの方が重い事実かもしれない。打鉄では傷を付ける事さえままならなかった未確認生物を一体九で倒したなんて言う半ば冗談じみた情報が入れば、各国ともその機体を狙うだろう。むしろ、未確認生物という『外敵』ではなく『人間』が乗っている分、各国がどんな手段でその機体を手に入れようとするか、分かった物じゃない。

 

「……中々強いわね。

 機体もだけど、これは搭乗者も一流かしら」

 

 映像を改めて見直して見れば、その機体と搭乗者の異常性が改めて確認できる。

 

 機体も搭乗者もどちらかと言えば格闘戦向きであることが伺える。だが、目の前のみならず全周囲に気を配り、あまつさえ同等以上の力を持つ複数の敵を迎え撃つというのは言うほど簡単なことではない。どころか、並みのIS搭乗者ではまず出来ない。

 そして本当に男性っぽい。本当に男性なんじゃないかと思うくらい男性っぽい。

 

 さらに挙げるとすれば、機体の形状。

 現在主流になっているISはその多くが体の形状に合わせ装甲が付いている形式といっていいものばかり。だけど、この機体は一般的なISよりサイズは大きく、腕部にいたっては完全に外部から操作するロボットアームのような形式になっている。

 過去にロボットアームのような部位を搭載した事例が無いわけではない。しかし、それも先端は五本指の手のような形状ではなかったはずだし、あんな大剣を自由自在に操れるほどの駆動出力は無かったはず。新モデルかもと思ったけど、確か開発元であるアメリカはアームその物の数を増やす方針だったはずだから違うはず。

 

 極めつけは最後に見せたあの白い一閃。あれだけ明らかにそれまでの斬撃と威力が違う。

 通常の武装とは考えにくい以上、思い当たるのは第三世代兵装か単一使用能力(ワンオフ・アビリティ)。有力なのは単一使用能力の方だけど、それにしたって()()()()()()()()。高威力の単一使用能力と言って思い出すのは世界最強(ビュリュンヒルデ)の称号を持つ「織斑千冬(おりむらちふゆ)」が使用した第一世代IS「暮桜(くれざくら)」の単一使用能力、「零落白夜(れいらくびゃくや)」だけど、あの能力はあくまでIS相手には高火力が望めるというだけ。そもそもS(シールド)E(エネルギー)があるとは思えないあの未確認生物相手にはあの能力は役に立たない。

 

 一体どこの誰が作ったのか。その謎は深まるばかりだった。

 

(可能性としてあり得るのは……)

 

 まず浮かんだのはISの生みの親である天才「篠ノ之束」博士。

 だけど、もし本当に篠ノ之博士だとしたら手の打ち様が無い。今現在各国が血眼になって探しているにも関わらず見つかっていない人を相手に、一体私達だけでどうするのか。

 

 他にはどこかの国家が秘密裏に開発した可能性。

 だが、それだったらわざわざ日本でその機体を晒す必要が無い。存在を認識させたいのなら大々的に発表すればいいだけだし、隠したいのなら他国にまで持ってくるのは大きなリスクになる。わざわざそんな事をする必要は無い。

 

 さらにあるとすれば、どこかの研究機関。

 だけど、果たして一機関の力であそこまでの機体が作れるのか。それについては疑問を禁じえないし、どこかの国家が支援していたならそれは結局国家が秘密裏にやってるのと大差ない。

 

「……さすがに、今の段階で大本がどこかを特定するのは無理がある、か。

 虚ちゃん。この搭乗者の顔……出来れば全身のアップとかできないかしら?」

「分かりました。

 協力各所に相談してみます」

「それと、あの未確認生物についても出来るだけ情報を集めてみて。

 過去に出現したことが無いかとか、他に目撃情報が無いかとか」

「了解しました。

 本音、あなたも手伝ってくれる?」

「分かったよ~、おね~ちゃ~ん~~……。

 あ~。後、かんちゃん今日はお泊りだって~~」

 

 その瞬間、私は本音ちゃんのほうに振り向きほぼ反射的に本音ちゃんに確認していました。

 

「それってどういう事?」

「あ~っとね~……さっきの映像、かんちゃんの打鉄で取ったやつなんだって~~。

 で、かんちゃんが乗ってくる予定だった電車がその前に壊されちゃったから、今日は倉持技研のお友達の部屋に泊まってくるって~~」

 

 なるほどなるほど、この映像は簪ちゃんが命がけになって撮影した物なのか。

 つまり簪ちゃんはあの生物に危害を加えられそうになったということか。

 

「絶対に許さんぞ未確認生物!

 じわじわと根絶やしにしてくれる!!」

 

 ならば止まる必要は無い。私はあの生物を殺し尽くすだけだ。

 

 「お嬢様落ち着いてください」なんて声がかけられた気がするけど私は至って冷静だ。

 

 

 それと、あの白い機体の搭乗者がもし私達の敵ではないと確定したならば。

 今更かもしれないけど、あの子の姉として、お礼だけは言おう。


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