IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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色々と私生活でやることがあり、大分時間がかかってしまい申し訳ありません。
それでは、続きをどうぞ。


第五章(5):『巣』攻略戦、後編

Side ルクス

 

「フィーちゃん、全力で下がって!

 夜架、地上の方に今の状態を伝えて!」

 

 言いつつ、僕も永久連環(エンドアクション)でひたすら生まれたばかりの小型幻神獣(アビス)や蟻型幻神獣を倒していく。

 

(一体一体の能力が低いのがまだ救いかな……永久連環でも倒せる)

 

 一応、通常の幻神獣より大分低い能力であることに、ある種の救いがあった。これでこれまでの幻神獣と全く同じ能力だったとしたら、単純に数で押し潰される危険性もあった。

 

「《竜咬爆火(バイティング・フレア)》」

 

 フィーちゃんもそれを察知したのか、半ば無理矢理に退路を作っている。というか、自分の通った道を退路にするかのように敵を薙ぎ払いながら進んでいく。

 もちろん、その道を無駄にするようなことはしない。

 

「夜架、伝えた!?」

「ええ……ですが、地上の方も厄介な事になっているみたいですわよ、主様」

 

 夜架が常と変わらない、けれどどこか苛立ったような声で続けた。

 

「地上では、トンネルを掘った蟻型によって後衛部隊を担当していた戦車と歩兵が囲まれたようです。

 地上に残っている方々が応戦しているようですが……IS部隊の対応が遅れている上に一部が独断専行を働いたらしく、芳しくないようですわ」

「……どのみち、僕らもここで応戦していれば不利は避けられない。

 急いで地上に戻って、そこで全員で応戦するよ。地上までの通路の間に女王以外の幻神獣(アビス)を倒す。フィーちゃん、通路まで道を開けて! 夜架、後ろの敵を僕と二人で足止め!」

「承りましたわ、主様」

「分かった……!」

 

 足の車輪で唸りをあげながら、フィーちゃんの《テュポーン》が重装甲と膂力を最大限に生かして突き進んでいく。

 僕と夜架はその道を辿りながら、後ろや上、横から来る敵をいなしていく。

 

(今は、下がるしかない……通路で敵が来る方向を一方からに限定できれば、まだ対処のしようはある。そこまで、行けば!)

 

 この状況を打開するため、とにかく敵をいなしながら後退を続けていた――。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

『畜生! 地中からの奇襲だと!』

「……ッ!」

 

 開けていた通信から、嫌な状況を指し示す声が聞こえてきた。

 

『一夏、『巣』の入り口の監視はもういい!

 近場の敵をとにかく倒してくれ!』

「委細了解しました!」

 

 リーシャ様から竜声による指示を受け、すぐさま飛んでいく。

 

(……広い!

 複数箇所で同時に地中からの奇襲を仕掛けたのか!)

 

 思っていたよりもはるかに悪い戦況に、焦る気持ちが生まれてくる。しかも、今までは見られなかった羽蟻型の幻神獣まで出現してきており、空中での戦力も増している。だが、今はそれらによる焦りを押し殺し、冷静にやるべきことを迅速にこなしていくことを最優先にしていく。

 とにかく、まずは近場の敵から順に切り伏せていき、少しでも被害を抑えることを優先。

 

『一夏、後ろの方は私達がなんとかするから、一夏は付近の方をお願いね』

「委細了解した、メル」

 

 メルからの通信に、自身の役割を再認識する。同時に、最も近かった敵が此方の射程の内側に入ったため、一気に攻め立てる。

 

「《竜毒牙剣(タスクブレード)》、ライフルモード」

 

 《竜毒牙剣》のモードを切り替え、ライフルに近い性能にする。そこから幻神獣の集団へとひたすらに撃ち込み、まずはその標的を此方へと向けた。

 

「ショットモード」

 

 間髪を入れずにショットモードへと移行し、本格的な攻撃を仕掛ける。同時に、その只中へと踏み込み、さらなる攻勢へと出ていく。

 

(この間に、少しでも戦車隊と歩兵隊が離脱してくれるといいんだが……)

 

 横目で刹那の間に確認すれば、狙い通り、戦車隊と歩兵隊が徐々に後退や集結を開始している。

 だが、反面、IS部隊は総崩れと言ってもいい状況だった。

 

「そ、そっちに敵が……!」

「早く援護して!」

「ちょ、このタイミングだと……」

 

 主に一部の搭乗者が酷いだけなのだが、他の搭乗者がその一部のフォローをしなければならず、陣形の構築もままならない状況だった。

 元々、IS部隊は多数の敵を相手にした場合には火力不足に陥りやすい部分があった。それを助長するような形で起きている事態には、頭を悩まさせられた。

 止むを得ずに其方にも赴き、数体ほど幻神獣を切り裂いてから離脱。此方へと幻神獣を引き付ける。IS搭乗者が何か言った気がしたが、正直に言って気にしている余裕は無かった。

 

(ルクスさん……地上の戦況は支えます。俺よりも他の師匠達の方が活躍していますが。

 ですので、どうか『巣』の方をよろしくお願いします!)

 

 そうであって欲しいと思いつつ、俺は剣を振るい続けた。

 

 

―――――――――

 

 

Side ルクス

 

 最下部と思われる大量の卵があった広場から何とか逃れ、比較的細い通路で正面から蟻型や小型幻神獣(アビス)を迎え撃っていた。

 地上の方にも大量の敵が出現しているとのことで、しかもその敵に奇襲に近い形で包囲されているという状況下では、この数の幻神獣を連れて行くわけにはいかない。だからこそ、ここで迎え撃つ必要があった。

 その中での唯一の救いと言えたのは、生まれたばかりのためか、戦闘力が低い事だけだった。今まで戦った同種のそれよりも更に低く、特別な一撃でなくても十分に倒せる。

 

(でも、こうも数がいると……!)

 

 一体一体の単位で見れば十分に余裕をもって倒せる。けれど、単純に数が多くて対処に時間が掛かっていた。後ろに女王もいる以上、あまり時間を掛けたくはない。けど、それを許さない数が襲ってくる。

 

「――特種武装《蜘蛛ノ糸》」

 

 そうして苦慮していたところに、夜架が糸の罠を張った。

 数体が止まり切れずに、あるいは気付いていない後続に押し出されるような形で糸の罠に切り裂かれる。

 

「主様、これで多少は時間稼ぎと、敵の来る方向の制限ができますわ。

 ……尤も、焼け石に水でなければ良いのですが」

「ううん、十分だよ。

 これからは、後退に合わせて適宜張り直してくれる?」

「お安い御用ですわ、主様」

 

 夜架の張った罠により、少し幻神獣の進行が遅くなる。

 出来る限り倒しながら、同時に最初の強引な突破で消耗しているフィーちゃんの様子を確認する。

 

「フィーちゃん、大丈夫!?」

「まだ、大丈夫……」

 

 言葉こそ強がっているけど、明らかな消耗が見られる。

 

(やっぱり、地下空洞から脱出するときに無理して……でも、僕も夜架もあんまり余裕が無い。

 でも、何とか地上までは!)

 

 かなりの焦りが出てきたけど、その中に僅かながら突破口は存在している。

 

(とにかく、生まれたばかりの幻神獣だけでも抑えて、できるだけフィーちゃんの方には行かせないようにして……)

 

 そうして場当たり的ではあるけど対策を練りながら後退を続けていたけれど、その中でさらに事態が悪い方向に転んでいることが予想できる一言が発せられた。

 

「ルーちゃん、大きいのが来る!」

「……!! 夜架、探知!」

「……あと数分、といった距離ですわね。

 急いで離脱することを進言いたしますわ」

 

 フィーちゃんの台詞に、急いで確認するように指示を出す。

 そして、確認してもらった夜架からの報告で、その状況を確認した。

 

「二人とも、迎撃は必要最小限。とにかく『巣』から全速力で出るよ!」

「分かった……!」

「承りましたわ、主様」

 

 すぐに後退速度を上げて、できる限りの速さで『巣』の出口を目指していく。幸い、行きで通って来た道は全てそのまま生きていたために、来た道をそのまま後戻りするだけで済んでいた。

 だけど、そうして後退していく最中で不意に地震のような振動を感じ始めた。

 

(まさか……!)

 

 思ったよりも早い展開に、一瞬だけ最悪の展開が頭をよぎる。

 

「二人とも、障壁に出力を回して!」

「主様、来ますわ!」

 

 その瞬間、下から土の壁を砕きながら―――あの女王が、真上へと向かって侵攻してきた。

 

「!!」

 

 足場が崩れたことで、大半の幻神獣が落ちていく。けれど、それはフィーちゃんと夜架も同じで――。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

「……!」

 

 『巣』の方から異様に大きな崩落音の様な物が聞こえてきたため、思わずそちらを振り向いていた。

 そこは、中心付近から陥没するように崩落が始まっており、地上部分の大半が崩れる事態になっていた。

 

『な……なんだ、アレは!』

『ば……バケモノ……!』

『……ア……ア……』

 

 そして、同じように崩落し始めた『巣』のほうを見た歩兵隊の隊員やIS部隊の隊員たちから悲鳴が聞こえだした。

 が、無理もない。俺も以前に何度か似たような巨大な敵を見たからある程度落ち着いていられるだけで、驚いてはいるのだから。

 

『女王様が登場、か……』

『あら、いずれ同じ立場になるのにそんなこと言っていいの?』

『蟻の女王と一緒にするな!』

『言い争いは不許可です。どのような能力を持っているかは不明ですが、油断は禁物です』

『アレも一応幻神獣なんでしょ? だったら、私が倒すわよ!』

 

 一方、同じようにあの女王蟻と思しき敵を目に付けたリーシャ様、クルルシファーさん、セリスティアさん、メルの四人もそれぞれに反応を返していた。

 と言っても、それは悲観的なものではなく、立ち向かう決意に溢れているものだった。

 

『一……一夏、聞こえる!?』

『ルクスさん!?』

『来れるんだったら、少し手伝って!

 今、崩落に巻き込まれて上までの通路がほとんど通れなくなっているんだ。しかも、足場も崩されたからフィーちゃんと夜架も宙吊りになっている。僕の《バハムート》じゃ一人連れて行くのが限界だから……』

 

 ルクスさんからの要請に、考える必要などなかった。

 

「委細了解しました。少々お待ちください」

『ありがとう。夜架、ナビゲートしてあげて。

 リーシャ様、すいませんが……』

『地上の方は任せろ。それより、早く来い』

『承りましたわ、主様。

 一夏、準備は大丈夫ですか?』

「もう少しだけ、お待ちください。

 地上の方の幻神獣と、まだ交戦中でして……!」

 

 すぐに話しは纏まったが、こちらの方の準備が整っていない。歯がゆい思いを抱きつつ、同時に早く向かうためにできる限り早く殲滅しようとした時だった。

 

「その程度の雑魚だったら任せてくれてもいいわよ」

 

 真横から、戦っていたキマイラの内一体に対してメルの《ドライグ・グウィバー》の《竜戦斧槍(ハルバート)》が襲いかかっていた。陸戦形態(ワイアーム・モード)での膂力と車輪での加速を乗せて、なおかつ十分な支えを持って無駄なく放たれた一閃はほぼ致命の一撃と化している。

 

「戦闘してたらたまたま近くに来ちゃっててね。

 ここは私が持つから、お兄ちゃんの事は頼んだわよ。親友」

「……委細心得た」

 

 心強い援軍との短いやり取りに、拳を突き合わせるような動作を挟んでからすぐに向かう。

 

『一夏、その位置からしばらく真下に。

 いずれ土壁に突き当たると思いますが、そこからは適宜、道を指示しますわ』

「委細了解しました」

 

 夜架さんの指示通りに飛んでいき、そう時間をおかない内に言われた物と思しき土壁に突き当たった。

 

『一夏、そこは右下の孔へと入ってください。

 そこからは――』

 

 そこから数分ほど夜架さんの指示通りに進み、間もなくルクスさんたちの待つ位置へと到達した。

 

「遅くなり、申し訳ありませんでした」

「ううん、大丈夫だよ。

 一夏、それで早速で悪いけど、フィーちゃんを連れて行って貰ってもいいかな?」

「委細了解しました。

 フィルフィさん、よろしいでしょうか?」

「うん、いいよ」

「夜架は僕が連れて行くから、それでいい?」

「ええ、問題無いですわ」

 

 手短に確認を済ませ、実行へと移っていく。

 ルクスさんの《バハムート》へと夜架さんが《夜刀ノ神》の《蜘蛛ノ糸》を巻き付け、俺の《アスディーグ》にもフィルフィさんの駆る《テュポーン》の《竜咬縛鎖(パイル・アンカー)》を適度に巻き付けて軽く吊り上げられるようにする。

 

「今からできる限り短時間で『巣』から出るよ。

 其の後は、全員であの『女王』を倒そうと思っているんだけど……」

「その他の幻神獣はいつも通り俺が相手しますか?」

 

 『巣』から脱出するために上昇している間、少し話しあっていた。

 そこでのルクスさんの提案に、個人的には大きく抵抗する気は無かった。確かに、幻神獣側で残った戦力で最も大きいのはあの女王であろうことはたやすく予想できる。

 その他の幻神獣も脅威であることに違いは無いが、それでも十分に相手取れる範疇ではある。半面、あの女王はその巨体と重量だけでも相当な脅威であることが予想され、最優先で倒すという考えにも十分に賛同できた。

 

「いや、一夏にもこっちで戦ってほしい。

 他の幻神獣はIS部隊や歩兵隊、戦車隊の方に任せたいんだ」

「……こういう言い方するのも悪いのですが、それで大丈夫ですか?」

 

 ルクスさんの考えに、単純に疑問に思った。

 今まで戦った限りだと、IS部隊や通常兵器を使用する部隊の火力では厳しいように思われた。少数だったら十分に倒せる可能性はあるが、今、外にいる幻神獣はまだ大多数と呼べるほどの数がいる。最低でも一人、機竜側から助けに入る必要があるのではないかと思った。

 

「それは大丈夫。倒せなくても、最低でも足止めだけしてくれていれば十分だから。

 それと、あの女王を最優先で倒しておきたい理由は別にあるんだ」

「別に、ですか?」

 

 俺の疑問に答えたのは、ルクスさんではなくフィルフィさんと夜架さんだった。

 

「あの女王、卵を産んでいた……」

「しかも、その卵から幻神獣が生まれているのも目撃しましたわ。

 おそらく、あの女王蟻はある程度の条件が整えば、()()()()()()()()()()()()のでしょうね」

 

 二人の台詞に、はっきりとした戦慄を感じた。

 その事実が意味することは、つまり――。

 

「ここで逃せば、『次』がある……!?」

「そう言う事になるね。

 一夏。なんとしてでも、あの女王蟻だけはここで倒すよ!」

「委細、了解しました!」

 

 ルクスさんの宣言に賛同し、揃ってできる限りの速度で上昇を続ける。

 出口は、もうすぐだった。

 

 

―――――――――

 

 

Side リーシャ

 

「司令部へ。IS部隊と戦車、歩兵隊は現在どうなっている!?」

『戦車隊と歩兵隊の生き残りは後方で陣形の再構築中、負傷者はほぼ既に収容した。だが、IS部隊は一部から混乱が広がっており、未だ立ち直れていない状況で……』

 

 通信手という、連絡を担当する役職からの報告を受けて頭を抱えた。

 

「だあああぁぁ!

 それ相応の責任というものがあるだろうに、其の一部は自覚無しか!」

 

 通信を切った直後に、思わず悪態をついた。

 此方側の世界で最強と呼ばれるIS部隊が一番混乱しているという体たらくだと聞けば、無理もないと思って欲しかった。

 

「愚痴と文句は不許可ですよ!

 今更言っても何も変わりません!」

「分かっている!」

 

 互いに組んでいた相手が『巣』の中へと突入したために即席で組んだセリスに突っ込まれるが、その内容は私も重々承知している。ただ、それでも口から思わず出てしまう愚痴と言うものがあった。

 

「クルルシファー、メル!

 そっちは大丈夫か!?」

『私の方は問題ないわ。

 ただ、注意を払わないといけない範囲が広すぎるけど……!』

『こっちはとりあえず手当たり次第よ!

 ……って、あの女王、翅を広げてるわよ! クルルシファー、翅だけでも撃って! 逃げられる!』

『簡単に言ってくれるわね……!』

 

 二人からの返事を聞き、状況の悪化を悟った。

 

(この状況……こちら側の撤退支援はある程度片付いたが、クルルシファーとメルはまだ手が空きそうにない。

 こうなったら……!)

 

「セリス!」

「何かしら?」

「この場を任せてもいいか!?

 私はあの化け物(女王蟻)を、最低でも足止めする!」

 

 私の提案に、だがセリスは首を振った。

 

「それは不許可です。

 貴女の《ティアマト》の方が広域での戦闘力に優れています。半面、私の《リンドヴルム》はどちらかと言えば一対一の方が向いています。

 その役目は、私です」

 

 セリスの指摘に、歯軋りした。

 言っていることは正論であり、私としても性能による適性を考えるのであればそうすべきであることは理解できる。

 だが、それはあの未知の女王蟻を一人で相手取ることを意味している。

 

「……いざとなったら、私が《天声(スプレッシャー)》で押し潰してでも止める!

 無理はするなよ!」

「心配は不許可ですよ。

 ある程度の戦力が集中できる状況になるまでの足止めという役割は心得ています」

 

 それだけ言うと、セリスはあの女王蟻へと向かおうとして――

 

『すいません。遅れましたけど、時間稼ぎの役割は僕がします。それと、できれば全員で此方に来てください。

 あの女王蟻、思っていた以上に厄介な能力があります』

 

――その前に、待っていた私の騎士がその到来を告げた。

 

「……遅いぞ、ルクス!」

『申し訳ありません。

 ですが、今からは――リーシャ様の騎士として、七竜騎聖として、しっかり働きますから』

 

 

―――――――――

 

 

Side ルクス

 

「ところで、リーシャ様。

 少し、司令部の方に話を通してもらえませんか? 少しの間だけ、幻神獣の相手を戦車隊と歩兵隊、IS部隊の方に任せたいと」

『理由は?』

 

 リーシャ様の怪訝な声に、すぐに答える。あの女王蟻だけは、ここで仕留めておきたかった。

 

「あの女王蟻、幻神獣を増殖させる能力を持っています。

 このまま放置して、もし逃げられでもすれば」

『……もう一度、同じ事が起こるという事か。

 分かった。話は私が付ける。それまでに、他の面々に話して集めておいてくれ』

「はい」

 

 やり取りも短く、リーシャ様は了承してくれた。

 そして、リーシャ様が司令部へ話しを付けてくれているその間に、僕の方も準備を進めておかなければいけなかった。

 

「セリス先輩、クルルシファーさん、メル。

 今からこちらに来れますか? あの女王蟻だけは何としても倒しておきたいのですが」

『もう少し待ってください、ルクス。

 今受け持っているところがあと数体で片付きますので、終わり次第行きます』

『私は戦車隊と歩兵隊の展開が終わったら行くわ。

 IS部隊の支援は……展開が終わった戦車隊と歩兵隊に任せましょう』

『私はここら辺の幻神獣を倒し終わったら行くからもうちょっと待ってねー』

 

 三者三様の返事を聞き、十分に合流の見込みがあることを確認する。クルルシファーさんの声がほんの少しだけ呆れ気味だったのはこの際気にしないでおいた。

 同時に、この場にいる四人で時間稼ぎし、できるなら女王蟻の戦力を少しでも分析しておいた方が今後の役に立つと思えた。

 

「フィーちゃん、夜架、一夏。

 今から全員集まるまでこの場に女王を押し止める。それと、できる限りでいいから女王蟻の能力や弱点を探すから、協力してくれないかな」

「分かった……」

「承りましたわ、主様」

「委細了解しました」

 

 三人全員が二つ返事で承諾してくれたのは有り難かったけど、基本は僕が相手するつもりだった。

 三人はこれまでも長時間の戦闘を熟しているし、消耗も激しいはず。それに、確実に止めを刺さなければいけない以上は全員が集合し、より確実に倒せる状況になるまで温存しておきたい意図もあった。

 

「一夏、回避重視でとにかく飛び回って、できるだけ注意を引いて。夜架は周辺から来る幻神獣がいないかの監視と、居た場合の迎撃。フィーちゃんは地上から攻撃できそうなら攻撃してみて、様子を見て。僕は空中からやるから。

 とにかく、今は回避と足止めを中心に。あの女王蟻は未知数だから、無理はしないで」

 

 簡単に竜声を介して指示を出したところ、再び全員が応じてくれた。

 

(さて。

 ここから、どこまで探れるかな……)

 

 ある意味で非常に重要な場面に、僕も強い緊張を感じていた。

 

 

―――――――――

 

 

Side 楯無

 

「あの化け物を最優先で倒すから、他はIS部隊と戦車隊、歩兵隊で持ち堪えろですって!?」

『はい。

 あの化け物を万が一逃がした場合、再び『巣』を作られる危険性が発生し、最優先で撃破する必要があるためとのことです。

 この上申は既に認められています』

 

 簡単に言ってくれる、と言いかけて何とか堪えた。

 

「了解しました!」

 

 通信を切ると、思わず舌打ちしかけて何とか思いとどまれた。

 

(確かに数は減ってきているし、各個撃破ができない状況じゃない。

 けれど、それにしても主力を全て一ヶ所に集める……思い切った判断をしたわね、あの一行……)

 

 他の場所が完全に私たちに任されるというのは、確かに本来こうあるはずだったと言える状況だろう。むしろ、其れでどうにかできなければこれ以降の不安が大きすぎる。

 だけど、それでもどうにかできる気がしなかった。少なくとも、今現在のIS部隊で彼ら彼女らの代わりは絶対に務まらない。

 

(それでも、やってやるしか無いのね……)

 

 決断までに、時間は掛からなかった。

 

「簪ちゃん、《山嵐》お願い!

 とにかく広域で動きを止めて!」

「分かった!」

 

 簪ちゃんに先制でミサイルを撃ち放ってもらい、まずは大雑把でもいいから動きを止めると同時に削りを入れておく。

 これで、一部の足が止まった。

 

「箒ちゃんと鈴ちゃんは動きが止まったのを各個撃破!」

 

 返事するよりも早く、二人は動き出していた。半ば力任せに叩き潰すように、それぞれの持ち味を生かした形の格闘で数を減らしていっている。

 私も私で二人が相手している敵以外の敵へとある程度近づき、蒼流旋で関節などの比較的脆い部位を中心に狙っていく。ここで倒し切る必要は無く、止めは後続に箒ちゃんと鈴ちゃんに任せる形で削りに徹する。この形を維持しつつ、最低でも戦線を維持していった。

 どうしても小数向きの戦術になるけど、別にこの場にいる全ての敵を倒す必要はない。

 

『火力支援、開始します。

 IS部隊は前に出ないでください』

 

 通信とともに、未だある程度の数がいる後続へと戦車と歩兵による火力支援が突き刺さっていく。その火力の前に大部分の敵が飲み込まれていくが、あの化け物はそれだけで倒れてくれないのも事実だった。

 でも、着実にその体躯へと傷は蓄積していっている。

 

(これだけの火力支援があれば、私達がやるのは突破してきた敵の撃破だけ……それも、かなり傷付いた敵の撃破。

 あの化け物も驚異的だけど、決して不可能じゃない……!)

 

 ほんの少しだけ、あの巨大な蟻の方へと視線を移す。そこには、既に増援として来てくれた八機が集結しつつあった。

 

(頼んだわよ!)

 

 この作戦の成否に関わる一戦を前に、私も自分の戦いを続けた。

 

 

―――――――――

 

 

Side ルクス

 

(ある程度の能力は割れてきたかな……)

 

 数分ほど引き付けている間、ある程度あの女王蟻の能力は割れた。

 攻撃方法の一つは巨大な顎とその巨大な体躯を生かした格闘攻撃。それは予想の範疇だった。そして、もう一つ。

 

「―――キエエェエアァァァァ!!」

 

 空間そのものを凶器へと変える、大量の蟻酸。それを卵と同じように腹部の先端から放っていた。霧のように広がっていく其れは、ある程度飛んでいるうちに広がり、やがて地面へと落ちて行っている。

 だけど、長時間その中に居ればいるほど致命傷へと近づいていくその攻撃は、広域への攻撃という事もあって単純な脅威となっていた。

 

(だけど、攻撃らしい攻撃はこれだけ……突破口は十分にある!)

 

 回避と時間稼ぎをしつつ、勝利への策を練り続ける。

 

『ルクス、こちらは粗方片付いた。今行くぞ!』

『ルクス、聞こえますか?

 今、そちらに向かっています』

『私も概ね、行けそうな状態になったわ』

『今から私も向かうわよ』

 

 そうして時間稼ぎしつつ作戦を練っていたところに、リーシャ様、セリス先輩、クルルシファーさん、メルからそれぞれ連絡が入った。

 

(もうすぐで、全員が揃う。

 その時に、一気に決着を付ける……!)

 

 長期戦でそれぞれ消耗が激しい事を考えれば、機会は多くない。

 強い緊張を感じながらも、その時を待っていた。

 

 

―――――――――

 

 

Side セシリア

 

「この!」

 

 迫りくる化け物共を前に、徐々に押され始めていました。理由は明白で、この区域を担当していた一部のIS部隊の隊員が独断専行を働いたために陣形が崩れ、そこから敵がなだれ込んできてしまったからです。

 此方の支援を担当してくださっていたあの二機も、今は親玉としか思えない巨大な蟻を倒すためにそちらの方へ向かってしまった以上は私達(IS部隊)や戦車隊、歩兵隊が相手するしかない。

 

(せめて、全員が足並み揃えられたらまだ抵抗も出来よう物なのですが……)

 

 心の中で僅かながらに悪態を吐きつつ、トリガーを引き続けました。

 

(まだ、持たせることはできる……でも、火力不足が深刻ですわね。

 一撃では倒せないというのが、ここまで響くとは……)

 

 後方からの火力支援もあって今は持たせられていますが、それもいつまで続けられるか分かりません。

 

(影内さん、早く決着を付けてくださいまし!)

 

 情けないとは分かりつつも、私はそう思わずにはいられませんでした。

 

 

―――――――――

 

 

Side ラウラ

 

黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)各員、弾幕を切らすな!」

「「「了解!」」」

 

 部隊単位で行動し、全機に装備されているレールカノンを用いてとにかく戦線を維持するように弾幕を張り続けた。

 

「シャルロット、右前方に突破したのが一体。処理を頼む!」

「OK!」

 

 小数で突破した物の処理はシャルロットに任せ、私達は相変わらず火砲による足止めに徹する。

 そうすればある程度化け物が集中する場所が生まれだし、そこに戦車隊や歩兵隊からの火力支援を集中することで有る程度効率よく敵を倒すことができた。

 

(しかし……抜けたことで、あの二機の凄まじさがより一層わかるな。

 ここまで、厳しいとは……!)

 

 あの二機が最大の脅威となるであろうあの巨大な敵の対処へと向かった事で、この戦線は私たちで持たせざるを得なくなった。

 決して対処が不可能というわけではないが、それでも厳しい状況であることに変わりは無い。

 

(せめて……弾薬が完全に尽きる前には、決着を付けて欲しいものだが。

 そう贅沢も言ってられないな)

 

 心の中で出た弱音を自分で否定し、再度、レールカノンの照準を合わせていく。

 終わりが近い事を、信じながら。

 

 

―――――――――

 

 

Side ルクス

 

「……以上で、どうでしょうか?」

 

 全員が合流した後、考えてた策を説明し、それぞれの反応を待った。

 

「……フッ、面白い、

 私は賛成だ」

「ええ、やる価値は十分にあると思うわ」

「その策、許可します。

 私も全力を尽くしましょう」

「……ん、分かった」

「承りましたわ、主様。

 微力ながら、お力添えさせていただきますわ」

「私もお兄ちゃんの策に乗るわ」

「委細承りました」

 

 ほぼ即答に近いくらいの時間で、全員からの返事を貰えた。

 

「―――キエエェエアァァァァ!!」

 

 威嚇のためか、あの女王が奇妙な咆哮をあげる。そのまま大顎を地上にいる夜架を狙っていた。

 

「――《空踏(からふみ)》」

 

 だけど、夜架は特に焦ることも無く回避に移っていた。けれど、速度には秀でていない特装型神装機竜である《夜刀ノ神》では避けきれない。

 そう、そこで何もなければ。

 

「《竜咬縛鎖(パイル・アンカー)》」

 

 夜架に大顎の一撃が到達する前に、フィーちゃんがその動きを拘束するために女王蟻の脚の一本に《竜咬縛鎖》を巻きつけ、その動きを制限した。

 当然、もがき、障害となった存在を排除しようと動き出そうとする。だけど、それを叶えさせるわけにはいかない。

 

「「強制超過(リコイルバースト)」」

 

 《空踏》で飛び上がったところを《バハムート》で運び、脚の二本を強制超過で切り裂く。巨体を支えるだけあって耐久力も尋常じゃないものがあったけれど、それでも大きく動きを制限させるだけの傷跡にはなった。

 

「キエエェエアァァァァ!!」

 

 僕と夜架を敵として倒すためだろう、女王蟻は腹部を曲げて大量の蟻酸を放とうとした―――その時。

 

「させないわよ」

 

 クルルシファーさんの《ファフニール》の特殊武装《凍息投射(フリージング・カノン)》が腹部と胸部の継ぎ目へと連続で照射される。そのどれもが着弾し、関節を凍らせた。

 その状態では当然動けないが、それでも女王蟻はもがき、その翅を動かして飛ぼうとした。けれど―――

 

「逃がすわけないじゃん」

 

―――飛翔形態(ワイバーン・モード)で飛んだメルの《ドライグ・グウィバー》が振るった《竜戦斧槍(ハルバート)》の一撃を受け、片方の羽が斬られる。切り痕が赤化していたところを見るに、《ドライグ・グウィバー》の神装《相克の天理(デュアルシフト)》で極度に熱化した《竜戦斧槍》を振るったのだと推測できた。

 だけど、それだけに終わらない。今度はその場から離脱する直前だった。

 

「《地砕角弾(グランドバスター)》」

 

 もう片方の、残った翅に向けて放たれた一撃。大威力の爆破攻撃であるその特殊武装は、確かにもう片方の翅を根元から吹き飛ばしていた。

 そのまま一時離脱したメルと替わるように、今度は一夏が入って行った。一夏が攻撃しようとしている甲殻の下には、女王蟻の核があることを既に夜架によって探知してもらっている。

 

「――落鋼刃」

 

 最大の速度をもって真下へと向けた《アスディーグ》の全重量を剣先の一点に集中させる攻撃に、今は更に重ねる。

 

「《天声(スプレッシャー)》!」

 

 リーシャ様の神装機竜《ティアマト》の神装《天声》を用い、一分だけでも強力な重力場を作りあげて動きを遅くする。さらに、この重力場によって一夏もさらに加速し、放とうとする一撃の破壊力を増していた。

 

 ガギャアアアァァァン!

 

 甲殻へと当たった一夏の一撃は、確かにその甲殻を広域に渡って砕いていた。だけど、それだけでは倒すに至っていない。

 

「《星光爆破(スターライト・ゼロ)》」

 

 一夏がその場から離脱したのと入れ替わるように、セリス先輩が入っていった。砕けた甲殻へと降り立つのと同時に、ゼロ距離から《星光爆破》を叩き込んでその体表を抉り取っていく。

 さすがにここまでされれば女王も何とかしようと更に暴れ出そうとしたけど、それは敵わなかった。

 

「暴れ過ぎだ!」

 

 リーシャ様が《空挺要塞(レギオン)》を操作し、脚の関節部へと連続して叩き込んでいく。最後にはトドメとばかりに《七つの竜頭(セブンヘッズ)》を至近距離から撃ち放ち、足の一本を完全に折っていた。

 しかも、それに続く形でクルルシファーさんと一夏が別な足をそれぞれに攻撃していく。クルルシファーさんは《凍息投射》で動きをほぼ完全に止め、一夏に至っては《消滅毒(アナイアレイト・ヴェノム)》を付与した《竜毒牙剣》のロングモードで一刀両断している。更に、脚が動かなくなったことで負担の軽くなったフィーちゃんが《竜咬縛鎖》を巻き付けたまま車輪(ドライブ)を最大限に動かした。これによって無理に開かれた脚は何かが断裂するような音が鳴った後動かなくなっていた。

 

永久連環(エンドアクション)

 

 永久連環で《星光爆破》で完全に甲殻が吹き飛ばされた場所へと斬撃を刻んでいく。狙う方向は女王蟻の核。でも、これだけでは多分倒せない。

 

「《暴食(リロード・オン・ファイア)》」

 

 だから、《バハムート》の神装で斬撃の威力を遅延させ、威力を集中させると同時に一気に到達するようにしておく。

 そして、《暴食》が圧縮から強化開放へと移ったその瞬間――

 

「キエエエエエェェェェエアァァァァアアァァァァ!!」

 

――遅延されていた斬撃が、一斉に核を襲った。

 核へと斬撃が到達した瞬間に、女王蟻はついに倒れた。同時に、無事だった関節も徐々に力を失い、或いは千切れて行っている。

 だけど、その状況を長く見つめているわけにも行かなかった。

 

「さて、後は残った幻神獣の殲滅か」

 

 リーシャ様が言った通り、戦場にはまだ残った幻神獣が数多くいる。僕たちの消耗も激しいけど、まだやるべきことが残っていた。

 

「ええ、早々に切り捨てるとしましょう……こちらの宿も、お世継ぎを作るには中々良さそうでしたし」

「ふ、不許可ですよ!

 今は戦闘に集中してください」

「なんなら、私が全部相手してもいいわよ?」

「自重してちょうだい、メル。

 貴方も長時間戦闘しているんだから……」

「……残りも、頑張る」

「とりあえず、手当たり次第切り捨てればいいのでしょうか?」

 

 夜架、セリス先輩、メル、クルルシファーさん、フィーちゃん、一夏がそれぞれに話し始めた。

 

「ひとまず、最初と同じ役回りで残りを倒し切りましょう。

 それでいいですか?」

 

 全員に問いかけたところ、それぞれに了承を得た。

 だけど、もうすでに残りの幻神獣は統率を欠いている状況にあった。この状況ではよほどの下手を撃たない限り、負ける要素は無い。

 それから暫くして、戦車隊や歩兵隊、IS部隊とも共同して残った幻神獣を倒し切った。

 

 

 ―――これが、この作戦の結末だった。


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