IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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再び更新期間が空いてしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます。本当に、すいませんでした。
それでは、続きをどうぞ。


第五章(4):『巣』攻略戦、中編

Side 一夏

 

(今のところは、順調か……)

 

 幻神獣(アビス)の殲滅作戦の最中、周辺の確認をしながらそう考えた。

 現在、三方面から幻神獣の『(ネスト)』へと侵攻しているが、まだ特に大きな問題は起こっていない。幻神獣の総数は圧倒的の一言に尽きるが、それも大雑把な削りを機竜側と戦車や歩兵で、細かい部分をISに行ってもらう事でなんとか優位に進めている。

 心配な点と言えば、ただでさえ消耗の激しい神装機竜でこのペースのまま戦闘を継続して、果たして持つのかという事だが。

 

(……ま、俺が心配する事そのものが烏滸がましいか。

 あの人たちに比べれば、共に戦えている事が光栄なレベルだし。それに……)

 

 考えた最後の部分に、自分の中で否定の意を示した。

 

(いや、アレは使用禁止になっているしな。

 それに、下手をすれば自爆にしかならない以上、安直に使用を考えるのは避けるべきか)

 

 愚考ともいえる思考を早々に切り上げ、戦闘へと集中していく。

 ルクスさんと俺の役割は、基本的には押されている味方の支援。だが、今現在は特に苦戦している場面も見られないため、主に分裂した小集団へと攻撃を仕掛け、部隊の背後への回り込みなどを阻止する役割を担っていた。

 

(今のまま、特に何事も無く作戦が終わってくれればいいが……)

 

 どことなく何処かで何かが起こる予感を覚えつつ、部隊の進行の支援をこなしていった。

 

 

―――――――――

 

 

Side ルクス

 

(今のところは順調、かな……)

 

 周辺の状況を一通り確認し、状況を整理していた。

 

(だけど、厳しくなっていくのはここからかな)

 

 『(ネスト)』の周辺にいる敵を見ながら、そう考えた。

 そこにいるのは、双頭の幻神獣であるオルトロスを筆頭に、巨躯の幻神獣であるゴーレムが直近を守っている。空中にはガーゴイルとディアボロスの二種によって構成された直近部隊とも言うべき群れが存在している。

 

(それに……以前からの報告にもあったけど、やっぱり複数種で連携して行動している)

 

 これまでとはハッキリと違うと言える幻神獣の行動を前に、戸惑いもあった。

 今までの経験で言えば、複数種の幻神獣が連携を取ったのは誰かが角笛を吹いている時か、一部の終焉神獣(ラグナレク)が居た時くらいだった。

 だけど、ここにはそれにあたる存在がいない。角笛を吹く人も、少なくとも今は終焉神獣のような存在もいない。

 

(音が聞こえてこないって言う事は、多分、角笛じゃない。そもそもこんな広域に音を響かせられる笛なんてないはず。

 となれば……)

 

 今までの経験を無理に当て嵌めるのであれば、今回は終焉神獣がいる可能性が高い。だが、そもそも終焉神獣は遺跡(ルイン)に一体ずつしかいない存在であり、つい最近できたことが確認されているこの巨大な蟻塚のような(ネスト)でそのような存在がいるかどうかは分からない。

 

『普通の蟻の巣なら、女王がいるものですがね』

 

 作戦会議の時のアイリの台詞が思い浮かんだ。

 

(あるいは、本当に……)

 

 そこまで考えて、思考を一旦切り替えた。

 目の前の、新たな幻神獣の群れに接近してきたから。

 

 

―――――――――

 

 

Side シャルロット

 

(凄い……)

 

 圧倒的な戦力。それしか言葉が見つからなかった。

 前回の、僕自身は参加できなかった作戦の時は通常戦力やフランス最高峰と呼べるIS操縦者の一団が機体ごと撃墜されるという散々な結果に終わっていただけに、そして、それ以後の僕も参加した侵攻阻止を目的とした緒戦でも苦戦続きで徐々に戦線を押されていただけに、今回の順調ぶりは目を見張るものがあった。

 

(もう……別次元の強さにしか思えないよ……)

 

 私も決して、倒していない、というわけではない。けど、余りにもその数がかけ離れていた。私とラウラの率いる黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)も、着実にではあるけど倒していっている。

 けれど、今この場で戦っている二機も、影内君の駆る《アスディーグ》も、現実離れしているとさえ言えるほどの力を見せつけているだけに、自信なんて欠片も持てなかった。

 

(でも……これだけの実力者と高性能機があれば、今度こそは……!)

 

 ある種の戦慄を覚えつつも、同時に作戦の成功への強い手ごたえを感じていた。

 現に、もう少しで『巣』に到達できそうなところまで詰めている。

 

「シャルロット、気を抜くな!」

 

 ラウラからの掛け声に、もう一度気を引き締めた。

 僅かな時間の後に突出してきた敵へと再び多量の弾丸を叩き込み、バンカーで止めという一連の流れでなんとか倒していく。

 

(この前も、ほとんど同じ戦術で何体か倒したけど……全然、弾数が足らなかった。

 なのに、今回はむしろ余裕がある)

 

 残弾数も確認し、まだ戦えることを確認する。

 確かに今回の作戦の要は影内君たちの駆る八機だけど、だからと言って何もせずに手を拱いているというのはあり得ない。

 

「せめて、最後まで……!」

 

 そう決意した時、戦況がさらに動いた。

 

『最前線の部隊が、『巣』の付近へと到達。

 未確認生物の直近部隊と交戦に入ります』

 

 いよいよ、あの巨大で忌ま忌ましい場所への足がかりが手に入るかもしれない。

 逸る気持ちを抑え、僕も自身の役割に徹した。それが、フランスを取り戻す最善の手段だと信じて。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

『一夏、こっちの方に来れる?』

「委細了解しました。少々お待ちください」

 

 ルクスさんから竜声による通信が入り、その内容を確認して、ルクスさんのいる位置まで移動を開始する。幸い何とか目視できる範囲だが、IS部隊付近で小集団の殲滅を中心としていた自分と違ってルクスさんは最前面付近で戦っていたらしく、俺よりも幾分前にいるように見えた。

 道中で接敵した場合は容赦なく切り裂き消滅させながらその位置まで前進し、ルクスさんと合流する。

 

「只今到着しました」

 

 ルクスさんと合流し、顔を見合わせる。それも僅かな間の事で、直ぐに本題に入りだした。

 

「今から、『巣』の付近を守っている四種の化け物を殲滅する。

 一夏、付き合ってくれるかな?」

「お任せを」

 

 一切の躊躇い無く頷いた。四種とは、地上のオルトロスとゴーレム、空中のディアボロスとガーゴイル。この人と一緒であるなら、あの程度の幻神獣は容易い。

 

「一夏、君は地上の二種を。僕は空中の方にあたるから。

 それと、《消滅毒(アナイアレイト・ヴェノム)》も貰って大丈夫かな?」

「委細了解しました」

 

 即座に《バハムート》の特殊武装である大剣《烙印剣(カオスブランド)》へと《消滅毒》を付与していく。

 終わった直後に二人でそれぞれの敵の元へ飛翔した。

 

「――落鋼刃」

 

 ゴーレムの光弾を適当に回避しつつ接近、そのまま直情から《竜毒牙剣(タスク・ブレード)》の内一刀を真下へと構えて急降下する。

 

  ガギャアアァァァ!

 

 金属質で耳障りな音が鳴り響き、ゴーレムの片腕を切り落としていた。

 拳をもって反撃を開始したゴーレムに対し、使っていなかったもう一刀を神速制御(クイックドロウ)を用いて一刀両断。元より硬質の体を持つゴーレムだが、《消滅毒》の前にはその防御は意味をなさない。

 さらに、神速制御の一振りを振り抜いてそのまま半回転。後ろから迫っていたオルトロスの前両足を切り落とし、移動能力を奪う。

 オルトロスはそれでも襲いかかろうとしてきたが、前のめりの状態から後ろ脚だけで飛び掛かるにはどうしてもワンテンポ遅れる。それは、この《アスディーグ》にとっては遅すぎる動作だった。

 

  ドッ!

 

 突き出された犬の頭のうち片方へと、落鋼刃で使用した方の刃を構え直し、その顎を両断するように突き立てる。

 だが、それでもオルトロスは生き残っている方の顎で噛み砕こうと頭を突き出してきた。

 

「仕舞いだ」

 

 だが、距離が近すぎる以外は特に脅威ではない。左手の《機竜刃麟(ブレードアーマー)》を展開し、貫手の要領で《竜毒牙剣》と同じように顎を裂くように突き立てる。

 《竜毒牙剣》と《機竜刃麟》を展開した左手を抜くころには、次のオルトロスが襲い掛かってきている。ゴーレムも外敵の排除のために移動しているようだが、元々移動能力は高くないため遅れに遅れており今はまだ脅威となりうる場所にはいない。

 

「次、か」

 

 《竜毒牙剣》を備え直す暇も無く、オルトロスが接敵してくる。が、それでも大きな問題ではなかった。

 踵の《機竜刃麟》を展開し、回し蹴りの要領で頭部を切り裂く。それだけでは仕留めるに至らなかったが、続くもう片方の足先の《機竜刃麟》を用いた蹴りで追撃を入れる。この時、《機竜光翼(フォトンウイング)》を片方だけ起動して回転のバランスを崩し僅かに前に出る事で、より深く切り付ける。当然、致命傷に至らせた。

 さらにオルトロスが二頭ほど来ているが、その前に別な場所から移動してきたと思われる鹿に似た幻神獣であるハインドの群れが近づいていた。その少し後ろには数体のハイートもいる。

 

「《竜毒牙剣》、ロングモード。《消滅毒》」

 

 《竜毒牙剣》の形態を切り替え、同時に飛翔。さらに《機竜光翼》も準備しておき、適当な位置で真下へと向かって起動する。

 狙った位置は、ハインドの群れと数体のハイートの中間地点。

 

「――円水斬」

 

 神速制御で二振りを同時に振るい、周囲を円形に切り裂く。数体のハインドとハイートを巻き込み、さらに《消滅毒》の効果もあって文字通り消滅させた。

 残ったハインドとハイートは問題なく殲滅できる程度であったため、《消滅毒》を切って消耗を抑えながら戦い、間もなく全滅させる。

 小休止する間もなく今度はオルトロスが来るが、其れに関しても一対一の状況である以上は十分に対処が可能だ。

 一息に《機竜光翼》も使って踏み込み、腰だめに構えた《竜毒牙剣》を二振りとも振り抜く。防御障壁を纏った形態であるパワードモードによる一撃目でオルトロスの攻撃を弾き、再高威力の《アックスモード》による一撃で二つの頭の間を狙い、二分割するようにして叩き切っていく。

 だが、ここで別な問題が起きた。

 

「……三体、か。

 贅沢な足止めだったな」

 

 周囲には、鈍足でありながらもここまで移動してきたゴーレムが三体。察するに、これまでのオルトロスを囮か足止めにしてここまでゴーレムが移動する時間を稼いだのだろう。

 何とも贅沢な話だが、状況だけを見れば絶望には程遠い。

 

  ゴッ!

 

 ゴーレムの内一体が拳で攻撃してくるが、直撃する前に《機竜光翼》を起動。ほぼ垂直に飛び上がる。

 が、そこでもう一体のゴーレムが光弾を撃ちだしてきた。通常の推進器による機動で十分に回避できたためそのまま回避、ついでとばかりにショットモードへと変更した《竜毒牙剣》を用い、光波を発射。光弾を撃ってきたゴーレムの頭部を潰しておく。

 最後の一体も同じように光弾を発射しようとしていたが、その前に手を打っておく。再装填が終わった《機竜光翼》と通常の推進器を同時に使用し、機体に一息に莫大な推力を与える。さらに、《竜毒牙剣》の内一振りをアックスモードへと変更。

 

「――旋墜斬(せんついざん)

 

 擦れ違い様に半ば推力任せの一撃を叩き込み、本来防御力に優れるであるゴーレムを一撃のもとに斬り抉っていく。

 並みの機竜をはるかに上回る加速力と速度、そして威力に優れるアックスモードの組み合わせだが、最高速度に到達する瞬間に合わせて振り抜かないとあまり意味のないものになってしまうため、少々注意の必要な技でもあった。

 だが、この瞬間には確かな威力を発揮している。半ばから折れるように倒れたゴーレムを一瞥し、次のゴーレムへと肉薄していく。

 次の相手は、最初に光弾を放ってきたゴーレム。拳の一撃を横向きの《機竜光翼》で回避し、続く一撃も同様に回避。懐へと潜り込む。

 

「――翔炎斬(しょうえんざん)

 

 アックスモードの《竜毒牙剣》へと、《戦陣(センジン)劫火(コウカ)》を応用してエネルギーを集中。その状態であらかじめ装填を完了させておいた《機竜光翼》を吹かせ、垂直上昇。攻撃力の強化された剣は遺憾なくその威力を発揮し、二対目のゴーレムを切り砕いた。

 《機竜光翼》の効果が切れるころには既に出力状態を戻し、最後のゴーレムへと向き直る。

 もはやなりふり構わず、その拳と頭部から放たれる光弾で攻撃してくる。だが、そのどれもが《アスディーグ》にとっては遅すぎる。拳はその威力こそ脅威だが当たらなければ意味は無く、光弾も三次元的に移動し、時折速度を変更することで単調な狙いから外れていく。

 

「《消滅毒》」

 

 最後のゴーレムへと肉薄し、二振りの《竜毒牙剣》と全身の《機竜刃麟》での多弾攻撃を仕掛ける。

 付与された《消滅毒》の効果により、ゴーレムは本来大した傷になどならない程度の斬撃でも十分な致命傷へと至らしめることができる。今回は念を入れての多段攻撃、致命傷にならないはずが無かった。

 

「地上の方は殲滅終了。ルクスさんの方は……」

 

 殲滅を確認し、空へと目を向ける。確認するまでもないと思ったが、その通りだった。

 

 

―――――――――

 

 

Side ルクス

 

「ガーゴイルに、ディアボロスか」

 

 一夏と別れて、空中の方にいる二種の幻神獣、ガーゴイルとディアボロスへと接近していく。

 接近に気付いたガーゴイルが羽型の光弾を発射してきたけど、それ自体は特に問題も無く避けられる。必要最小限の軌道で回避した後、ガーゴイルは半ば無視して先にディアボロスの方へと接近。

 

神速制御(クイックドロウ)

 

 ディアボロスがその巨体を生かし、刀剣のように巨大な爪で攻撃してくる。本来であれば脅威的な一撃だけど、一夏から貰った《消滅毒》の効果が付与されている今では特に脅威にはならない。突き出された手から神速制御の一閃で切り裂いていき、その一撃でそのまま倒す。

 

(何時もの事だけど、本当に味方の強化にも使える神装だなぁ……)

 

 一夏の神装は一見すると圧倒的な攻撃能力が目に付く神装だけど、その実、他者へも付与できるという性質がその価値を別な方向にも伸ばしていた。その気になれば機竜部隊の攻撃力を丸ごと激増できるという能力は、一夏自身のある種の才能と相まって多大な戦果を挙げていた。部隊でも単機でも価値ある能力、僕の知っている神装機竜でもこれに当てはまる能力はそうそうない。

 

(だけど……だからこそ……)

 

 そこまで考えたところで、戦闘へと戻った。

 次のディアボロスとガーゴイルが襲ってくるけど、そこは一気に攻勢へと出ていく。

 

永久連環(エンドアクション)

 

 《消滅毒》の効果がまだ切れていないことを確認して、連撃へと移行していく。

 普段は手古摺るような相手でも、《消滅毒》を付与した状態であれば、使いどころを間違えない限りは圧倒的な優位を築ける。特に、連撃を重視しているために《暴食(リロード・オン・ファイア)》を使って複数撃の威力を一点に集中させない限りは威力が不足しやすい永久連環とは相性が良すぎるほどだった。

 そうして、残りのディアボロスとガーゴイル数体を一気に倒し切る。

 

「ギィェェアァッ!!」

 

 残していたガーゴイルが攻勢に出てくる。僕がこれまで先手を取っていたため、逆に先手を取らせないようにしようと考えての事なのだろう。

 けれど、むしろこっちの方が僕本来の戦い方だった。

 

「極撃」

 

 その爪で攻撃しようとしてきたガーゴイルに対して、攻撃される瞬間にその腕に剣を添える。威力をそのまま反転させた攻撃は、十分にガーゴイルへとダメージを与えていた。そこからさらに攻撃を重ね、一体を倒す。

 残った直衛のガーゴイルは、二対。その二対が、同時に突出してきた。

 

(同時攻撃、か)

 

 さらに、光弾も放ってくる。

 牽制からの同時攻撃。目的は、おそらくそんなところだろうと読めた。

 

「《暴食》!」

 

 先の五秒間で事象を激減させ、後の五秒間で圧縮強化する《バハムート》の神装《暴食》。対象は自己ではなく、周囲の空間。もっと言えば、放たれた光弾と、放った機竜爪刃(ダガー)

 規模が規模であるため負荷も小さくて済み、すぐに次の行動へ移れる。その行動は、片方のガーゴイルへの接近。

 

「ギィェァッ!」

 

 咆哮と一緒に、腕が突き出される。

 

「即撃」

 

 けれど、分かり易い大振りの攻撃は合わせるのも簡単だった。腕の振りの隙間に合わせて、神速制御を用いての即撃を当てる。

 そのまま、幻神獣の核も切断。これでガーゴイルの内一体も倒した。

 だけど、今この瞬間に背中側からもう一体のガーゴイルが迫っている。

 

  ドッ!

 

 だけど、ガーゴイルの腕が刺さることは無い。さっき投げていた機竜爪牙が、腕と体に突き刺さっているから。

 狙い通りに行ったことに安堵しつつ、振り向いて一閃。これで、最後の一体を倒した。

 

「一夏、そっちの方は?」

 

 竜声で通信したことろ、頼もしい返事が返ってきた。

 

『殲滅はすでに終えました。

 そちらも、問題ないみたいですね』

「うん。

 ところで、このあともう一役頼めるかな」

『委細お任せを』

 

 こっちも一夏のいた方を目視で確認したけど、確かに問題無さそうだった。

 さらに、後方の方も一段落しつつある。大規模な部分はこの場にいる機竜やIS、さらにこの世界の兵器で武装した部隊全ての活躍によってほぼ殲滅されており、同時に残った小集団も駆逐されつつあった。

 

(今が、頃合いかな)

 

 全体に余裕が出来つつあるという事は、僕たちも動きやすくなるという事。

 僕たちの目的としては、どうしても『巣』の中へと突入する必要がある。だけど、巣の中に何がいるかも分からない以上は迂闊に突入できない。

 だから、外の状況が落ち着くまでは待ちたかった。だけど、待ちすぎて『巣』の中から増援という展開は徐々に追い詰められていくことを意味するために避けたかった。

 

「リーシャ様、もうそろそろ……」

『巣の中へ突入、だな。

 確かに、頃合いだろう。司令部へは私が話を付けておくから、そっちはフィルフィと夜架の二人と合流しておいてくれ』

「はい」

 

 リーシャ様との通信が終わり、一夏の方へと向き直る。

 

「一夏、まずフィーちゃんをここまで連れてきて。

 其の後、あの巣に風穴を開けて欲しい」

『突入されるのですね』

 

 一夏からの確認に、頷いた。

 

「うん。

 そのために昨日決めた突入メンバーをここに集めて、一夏にあの巣への突入口を開けてもらいたいんだ」

『委細了解しました。

 では、まずフィルフィさんを連れてきますね』

「うん、頼んだよ」

 

 出した指示に対し、一夏はすぐに了解の意を返してくれた。同時に、すぐにフィーちゃんの方へと飛んで行ってくれている。

 

『ルクス、いいか?』

「リーシャ様?」

 

 そして、僕も夜架と合流するために飛び始めた時だった。唐突に、リーシャ様からの通信が入っていた。

 

『アイリ経由で司令官には突入の許可をとった。

 ただ、突入のタイミングだけは少し待てとのことだ。地上の歩兵隊の補給がもう少しで終わるから、そこまでな』

「了解しました」

 

 リーシャ様から思ってたより早く許可が取れた事が確認でき、ひとまずの難関は突破できたと感じた。

 

(後は、実際に突入してからどう出るか、かな……)

 

 一応、突入口には一夏達に居てもらって内部から出てきた場合の対処を頼もうかと考えている。

 だけど、全員はそこに居られない。何より地底にトンネルを掘って移動することが確認されている以上、周囲を警戒する必要がどうしてもある。

 故に、探索に求められるのはなるべく短時間で有用な情報を持ち帰る事。

 

(でも、あの規模……厳しそうかな)

 

 規模が規模なだけに単純に時間がかかることが予想され、しかもあの蟻が作り上げた以上は嘗ての『遺跡(ルイン)』の経験も役に立つかどうかが怪しい。

 

(それでも……やるしかない)

 

 やるべきことを心の中で確認しながら、僕たちは準備を進めていった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

 突入メンバーであるルクスさん、フィルフィさん、夜架さんの三名が集まり、突入の準備が整う。歩兵隊や戦車隊も補給が終わり、いよいよその時がやってくる。

 

「《竜毒牙剣》、アックスモード」

 

 《竜毒牙剣》の形態を切り替え、二振りとも最高威力の形態にする。

 

「戦陣・劫火」

 

 さらに、エネルギーを集中させ威力を激増。

 

  ゴガアアァァァン!

 

 振り下ろした二振りは、確かに『巣』の外殻に穴を空けていた。

 幸い、中から追加の幻神獣は出てこない。軽く中を見ても其れらしい影は無いので、少なくともここからはしばらく出てこないと推測できた。

 

「それじゃ、言ってくるよ。

 一夏、ここの監視はお願いね」

「留守はお願いしましたわよ」

「ちょっとだけ……待っててね」

 

 三者三様の挨拶を聞いた後、見送った。

 

(さて……こちらは、この穴と周辺の警戒か)

 

 自分の役割を確認し、俺は其の場で適度に力を抜きつつすぐに動けるように待機していた。

 

 

―――――――――

 

 

Side ルクス

 

「思いのほか、通路は広いみたいだね」

 

 『巣』の中に入って数分、思いのほか広い通路に少し戸惑いながら進んでいた。

 すでに突入するときにあけた穴は見えなくなっているけど、それはあまり気にしないでおくことに居た。今は、前に進む方が重要だから。

 

「……主様、此方に進めば地下に進むことになりますわ。

 上の方へと行く道もあるみたいですが、其方には何もいませんので、地下に行くべきでは?」

「そうだね。ひとまず、地下方向に行こうか。

 フィーちゃん、何か気づいたことはある?」

「ん……今は、何もない」

「そっか。

 何か気づいたことがあったら、すぐに教えてね」

「わかった」

 

 今現在は特に大きな問題も無く進みながら、それでも必要最小限の警戒は怠らずに進んでいく。

 

 それから暫くは歩を進めた。

 散発的に幻神獣が出てきたけど、少数や単数だったこともありそれは問題なく倒せた。時折、少し広めの空間に多数の幻神獣が集まっている時もあったけど、狭い通路との境界付近におびき出して数の利を生かせないように立ち回りながら戦う事で対処した。

 

 そうして、一時間以上の時間が経過した頃。

 

「……主様、この先に巨大な空間がありますわ。

 多数の弱い幻神獣の反応と、巨大な幻神獣の反応が一つあります」

「……いよいよ、かな。

 フィーちゃん、準備は……フィーちゃん?」

 

 夜架の反応に、この『巣』の『女王』と呼ぶべき存在との対面になるのかと思った時だった。

 隣のフィーちゃんが、鼻を抑えながら不快そうな表情をしていた。普段は無表情に近いだけに、この時の反応には驚いた。

 

「……変な、臭いがする」

「匂い?」

「……血のような、鉄のような、生臭いような、腐ったような……嫌な、臭い」

 

 その言葉に、思わず夜架と顔を見合わせた。

 フィーちゃんの感覚は、ある特殊な事情によって常人よりも遥かに優れている。そして、その感覚の鋭さは幻神獣に対しても言えることだった。

 

「何か、あるね。

 とにかく今は前に進もう。フィーちゃん、大丈夫?」

「うん……大丈夫」

 

 さらに数分ほど進むと、唐突に、開けた空間に出た。全体的には、中心に巨大な土の柱が立った御椀型の空間のように思える。その広さは馬鹿げているものがあり、小さな貴族の屋敷位なら入ってしまうのではないかと思えてしまうほどだった。

 だけど、最大の問題は()()()()()()()()

 

「……主様、弱い幻神獣の反応元はここの天井ですわ。

 しかし、これは……」

 

 夜架が珍しいまでに、感情を露わにしていた。

 でも、それも無理のない事だと思う。僕自身も驚愕を隠せていないのを自覚出来ていた。

 

「ルーちゃん、臭いの元……これだよ……」

 

 フィーちゃんが、顔をしかめながらそう言った。僕もその言葉に、納得を覚えた。

 

 そこにあったのは、人間大からゴーレムやディアボロス等の大型の幻神獣が余裕で入るほどの大きさのものまで、大小さまざまな大きさのある――黄色い、楕円形の、虫の卵のようなものだった。

 

「……これ、は」

 

 その卵は淡く発光しており、心臓の脈動のように明滅を繰り返している。

 それが、広大な天井の全面に所狭しと張り付いており、一分は壁面にも張り付けられている。

 

  ―――キ

 

 そうして三人とも絶句した時、奥の方から明らかに人ではない何かの発した声が聞こえた。

 その方向へと、顔を向けると――

 

  ―――キエエェエアァァァァ!!

 

――明らかに、これまで見たどの蟻型よりも遥かに大きな蟻型の個体がいた。嘗て対峙した終焉神獣《ポセイドン》にも匹敵するほどの巨躯に、その背には羽蟻のような羽がある。

 そして、蟻の腹部にあたる部分の先端から―――あの黄色い卵を、生み落としていた。

 

  ――パリ

 

 すぐに女王と思われるその個体を倒そうと身構えた時、上の方から異様な音が聞こえてきた。或いは、女王がついさっき上げた叫び声ともとれる声に反応したのかもしれない。

 

  ――パリパパパリリパリリリ

 

 上、つまり天井の方へと眼を向けると――

 

  ――キ

 

――あの卵が一斉に割れだし、多量の孵化が始まっていた。

 しかも、そこから生まれていたのは蟻型だけではなかった。例の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

  ――キイィィィキイィィキイィキィキイキキィィキキキキキキキ!

 

 一斉に孵化した大量の蟻型及び小型幻神獣と、目の前の女王を相手に、僕らは戦いを始めざるを得なかった。




全くの余談ですが、最後の蟻と女王蟻は構想段階だとガメラのレギオンをモチーフにした何かにしようかと思っていた時期もありました。

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