IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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諸般の事情により更新まで大変時間がかかってしまい、申し訳ありませんでした。
それでは、続きをどうぞ。


第五章(3):『巣』攻略戦、前編

Side セシリア

 

『作戦開始!』

 

 通信越しに、作戦開始の合図が送られました。それと同時に、空中から爆弾やミサイルによる爆撃があの化け物や『(ネスト)』へと降り注ぎます。

 ですが、その多くは化け物の放った攻撃によって撃ち落とされました。さらに、爆撃を契機として地上や空中に待機していた化け物たちが一斉に動き出し襲いかかってきました。

 それに合わせ、戦車隊も砲撃を開始しました。大量の砲弾が発射されましたが、それも数をある程度削るのが関の山で後から後から湧いて出るように化け物が襲い掛かってきます。

 

『IS部隊、直近の敵を攻撃してください。

 歩兵は戦車に近づいた敵の撃破と、IS部隊の援護を』

 

 通信が入り、私たちの攻撃が始まりました。

 それぞれの国家ごとに分けられた部隊が、突出してきた一部の化け物と正面からぶつかりました。さらに、その後方からはISの銃火器による射撃と、歩兵の操る火器による攻撃が開始されています。

 ですが、それでも圧倒的な物量差が覆せていませんでした。倒した敵の死骸を踏みつぶしながら、後続の敵が迫ってきます。

 

『各機、一旦空中に飛んで攻撃を!』

 

 私を含む、この区域のIS部隊の隊長を務める『イーリス・コーリング選手』から指示が出されました。

 迫りくる壁の様にさえ見える化け物の大群を相手に、私たちも上空に飛び上がりつつ呵責無い攻撃を浴びせ続けます。ですが、それでも一匹を倒す間に五匹ほどが迫ってきているような状況に、徐々に余裕が無くなりつつあります。

 

『リーシャ様、あちらに纏まっていますわよ』

『ああ、そうだな。

 では、まずは一発と行くか!』

 

 そんな状況であるにも関わらず、むしろ不敵な声と一切の緊張感を感じさせない声が聞こえてきました。

 

『《七つの竜頭(セブンヘッズ)》!』

 

 叫び声が木霊した直後、朱い閃光が視界を埋め尽くしました。

 やがて、閃光が止んだ後には、何も残されていませんでした。

 

「……何の、冗談ですの?」

 

 余りにも馬鹿げた威力を目の当たりにし、一瞬、場違いなほど呆けてしまいました。

 

『何を呆けている。

 次が来るぞ!』

 

 再び、あの朱い閃光を放った朱色の機体から通信が入り、私たちは我に返りました。

 再度それぞれの得物を構え、再び迫りくる化け物へとその照準を向けます。そのまま、再度の呵責ない攻撃が浴びせられて行きますが、やはり止めきれずにそのまま後ろへと突破されています。

 

「……戦車隊、歩兵隊!」

「戦線を抜かせるな!

 押し返せ!」

 

 地上の後方で敵を迎撃していた戦車隊と歩兵隊が、突出した敵へと攻撃を仕掛けています。

 ですが、それでも全ては押し返せず、突破を許しています。さらに、空中からも敵が迫っており、私たちは其方の敵にも攻撃して押し返さねばなりません。しかし、それは必然的に地上への援護が薄くなることを示しており、僅かに躊躇を覚えました。

 

『あら、でしたら私がお相手してさしあげましょうか?』

 

 ですが、その瞬間。細いワイヤーの様な物に、地上の敵の一部が切り裂かれました。

 

「……!?」

『呆けている場合ではありませんわよ。

 リーシャ様、空はお願いしても?』

『この状況では仕方ないしな。

 地上の方は任せたぞ』

『ええ。お任せ下さい』

 

 地上にいる黒い機体がいつの間にか敷設した細いワイヤーが、敵を切り裂いたみたいでした。

 さらに、広域に敷設したそれがあの敵の進路を阻害し、進行速度を遅くしています。それは、一部を除いて遠距離攻撃能力に乏しい敵が必然的に迂回しています。ですが、その先にはあの黒い機体がいます。

 黒い機体が自身の方へと誘導された敵を、絶え間ない斬撃をもって出迎えていました。その一撃で寸断される敵の死骸を一顧だにすることなく次から次へと切り裂いていく姿は、一種の畏怖さえ覚えるほどの物でした。

 さらに空中から接近してきた飛行能力を持つ個体は、いつの間にか飛んできた何かによって直線上へと押し出された後、再度撃ち放たれたあの朱色の閃光が跡形も無く焼き尽くしていました。

 

「い、今のは……」

『私の特種装備の一つで、《空挺要塞(レギオン)》。

 簡単に言えば、私の指示を受けて自己推進する鏃型の投擲装備だ』

「……射撃機能が付けば、完全にイギリスの《ブルー・ティアーズ》の上位互換ですわね。

 性能面ではそちらの方が上そうですし」

『そういう話は是非とも後でじっくりとしたいが……今は、目の前の敵だ!』

 

 その言葉の直後、地上と空中、双方で敵が倒されていきました。

 その行動に私たちも触発され、再度、攻撃が再開されます。戦車隊と歩兵隊もそれは同様で、敵の集中している場所へと、或いは孤立した敵へと攻撃を仕掛けていきます。

 孤立した敵への集中砲火で僅かながらも数を減らすと同時に、戦力の中核を為す二機に出来る限り敵の多い方へと向いていてもらうためです。

 

『一夏。

 私たちの方から見て右方向へと抜けていった敵がいるが、処理を頼めるか?』

『委細了解いたしました。お任せを』

 

 その通信が聞こえてくるのと同時、深く暗い青の光を従えながら、一夏さんの駆るあの白い機体《アスディーグ》が右手に飛んでいた化け物を一太刀の元に寸断すると、そのまま私たちの方へといったん近づいてきました。

 

「この中で、エネルギー系の装備を持っている人は?」

「……一夏さん、もしや」

「ああ。

 《アスディーグ》の単一使用能力《消滅毒(アナイアレイト・ヴェノム)》はエネルギーを変性させ、触れた敵を消滅させる能力を持っている。そして、正体を明かす前にオルコットには一度やったことがあるが、《消滅毒》はエネルギー系の装備に限り、他者にもその能力を適用できる。射程の低下は招くが、それでも今の状況なら使うべきかと思ってな」

 

 その言葉に、私とともに戦っていたIS搭乗者たちのうち何人かが騒めきました。

 

「一夏さん、いつかと同様に」

「ああ」

 

 迷うことなく、私の《ブルー・ティアーズ》の装備に適用してもらいました。

 一発限りですけれど、一撃で撃破できる強みは計り知れません。その意味でいえば、迷うことなど何もありませんでした。

 

「それ、私にもいいかしら?」

 

 そう言ってきたのは、アメリカのIS搭乗者であるナターシャ・ファイルス中尉でした。

 

「私のIS、《銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)》には多連装のエネルギー弾を撃てる《銀の鐘(シルバー・ベル)》があるわ。

 相性はいいと思うわよ?」

「同意します。

 適用するにはその装備に直接触れる必要がありますので、こちらに」

「分かったわ」

 

 その言葉を発すると同時に、ファイルス中尉は背部の羽根型のスラスターユニットを前の方へと向けました。

 その行動を受けて、一夏さんも私とナターシャさんそれぞれの得物に《アスディーグ》の腕が触れました。その瞬間、何時かのときと同じように弾丸を構成するエネルギーが変性し、多くの計測器でエラーコードが表示されます。

 それは、隣でともにその能力を適用してもらっていたファイルス中尉も同じでしたが、彼女の場合は初めての事だったためでしょうか、些か慌てている様子にも見受けられます。

 

「一応説明しておきますが、その能力は確かに一撃で相手を消滅させることを可能にします。

 ですが、それは基底出力に依存して効力が変わるうえ、能力の性質上、射程距離がおよそ三分の一になります。ですので、十分に引き付けてから攻撃すべきかと」

「了解したわ」

 

 ですが、一度説明が入ったおかげで落ち着いたのでしょうか。すぐに平静を取り戻すと、冷静にその一撃を使うべきタイミングを計っているようでした。

 

「必要でしたらもう一度、付加しに来ます。

 ですので、あまり気負わずに」

 

 まるで場違いなくらいの気遣いの籠った声でそれだけ告げると、一夏さんはすぐに別な方を向いてしまいました。

 

「リーシャ様、そちらには?」

「両方に頼む」

 

 其の後、朱色の機体の付近まで近づくとそのまま二三言葉を交わし、そのまま《七つの竜頭》と《空挺要塞》という装備両方へと《消滅毒》を適用していきました。

 さらに、それだけには終わりません。

 

「夜架さんは?」

「お願いしますわ」

 

 さらに、いったん地上の方まで降りると今度はあの黒い機体へと《消滅毒》を使用していました。

 空中の朱色の機体の《七つの竜頭》と《空挺要塞》、さらに地上の黒い機体の大剣がそれぞれ不気味な白い発光を蓄え、敵へと襲い掛かっていきます。

 朱色の機体は複数の《空挺要塞》で一体を狙いつつ確実に減らし、その効果が薄くなってきたと見ると即座に《七つの竜頭》を撃ち放ちました。しかも、その射線へと《空挺要塞》を使って敵を押し出しています。そのまま、押し出された敵が文字通り消滅しました。

 一方、地上の黒い機体はそれまであまり手を出さなかった大型の敵へと肉薄するとそのまま異常なほどの速度を持つ剣戟で敵を寸断していました。速度を重視したのだろうその一閃は、しかし付加された《消滅毒》の効果がいかんなく発揮されており、全く問題のない威力となっています。

 一夏さん自身も分断される形になった敵の小集団へと肉薄し、その手に持つ二刀の大剣を振るっています。何の問題も無く極短時間で殲滅すると、別な場所へと飛び去って行きました。

 

「呆けている場合じゃねぇぞ!

 各機、攻撃!」

 

 コーリング選手からの怒声に、皆が一斉に攻撃を開始しました。

 

「イギリスの!

 あの黒いのを狙えるか!?」

「黒いの……」

 

 言われ、指定された先を見ます。

 そこには、黒い翼人の様な体躯を持つ敵が飛んでいます。数は、三。

 

(私に付与された《消滅毒》は合計で五発。

 二発は外せるとみるか、二発しか外せないとみるか……)

 

 正解としては、後者でしょう。

 

(命が掛かると、ここまで違うものですか……)

 

 引き金を引く指が震えそうになり、両肩に重い何かがのしかかっているようにも感じます。この作戦が始まってからずっとそうでしたが、目の前で行われた凄まじいの一言に尽きる戦闘にその感覚を一時の間、失っていたみたいです。

 しかし、再度《スターライトMk-Ⅲ》引き金に指をかけたことでその緊張が蘇ってきました。

 

「……当たりなさい!」

 

 最初に《スターライトMk-Ⅲ》による射撃。通常時の射程の三分の一より少し短い程度の位置で撃った其の弾丸は、確かにあの黒い翼人へと直撃した。

 ですが、それを見た他の二体が不規則にその軌道を揺らしながらの飛行へと変更しました。

 

(小賢しい真似を!)

 

 狙撃手が相手するには微妙に嫌な機動に、少し身構えました。

 ですが、私の手持ちはレーザータイプの《ブルー・ティアーズ》の四機。故に、四機とも飛ばして片方を包囲するように動かします。

 

「……そこですわ!」

 

 一発目の射撃を回避した翼人の背後にもう一機を待機させての、背後からの射撃。

 一発は外しましたが、それでも二発目で確かに撃破しました。

 

(残り一体!)

 

 先程と同じ戦術で、そう考えかけて一瞬迷いました。

 あの敵は先程、私の狙撃に対して一回で対応策をとってきました。つまりはある程度の知性があり、こちらの攻撃に対する対抗策を練ることが可能であるという事です。

 

(先程と同じでは、回避されるかもしれない……ですが、なら……)

 

 どうすべきか、そう考えた時でした。

 

  ヒュッ! ドンッ!

 

 空気を切り裂きながら飛翔した朱色の物体が、あの翼人へと激突しました。翼人へと与えた衝撃は凄まじく、あの翼人は一気に体勢を崩していました。

 

『今だ!』

 

 その声の主は、あの朱色の機体を操っている方からでした。どうやら、《空挺要塞》というのを一機、ぶつけてもらえたようです。

 無論、この絶好の機会を逃す気などありません。残る二機の《ブルー・ティアーズ》で間髪入れずに撃ち抜きました。

 

『貸しにしておくぞ』

 

 朱色の機体の主がそれだけ言うと、そのまま前へと向き直りました。そのままそれまでと同じように戦闘を続行しています。

 

(何と言う、空間把握能力……!)

 

 私も特性の面で似通った武器を使うのでわかりますが、あの手の武器を使うには周辺の空間のどこに何があるのか、それを詳細に把握する必要があります。いくらハイパーセンサーの恩恵があるとは言っても、それは簡単な事ではありません。

 にも関わらず、あの朱色の機体はそれを事も無げに自分が意識すべき空間以外にも気を配り、最適なタイミングで《空挺要塞》の一機を突撃させた。それも、あの速度からして一切の躊躇も無く。

 

「ナタル、行け!」

「ええ!」

 

 私が朱色の機体の性能と搭乗者の腕前に戦慄を覚えた直後、ファイルス中尉の《シルバリオ・ゴスペル》が敵陣の上空へと突出しました。

 

『Fire!』

 

 ファイルス中尉の叫び声が通信機越しに聞こえた瞬間、《シルバリオ・ゴスペル》の真下へと大量のエネルギー弾が放たれました。さながらエネルギー弾による一人爆撃とも言えるその様は、見ていて圧倒されます。そして、《消滅毒》も付与されたうえで放たれたその大量のエネルギー弾は、直撃した眼下の敵を文字通り消し去っています。

 

「敵陣に穴が開いた!

 一気に畳みかけるぞ!」

『戦車隊、歩兵隊前進!

 敵を押し返せ!』

 

 この機を逃すつもりの者はここには居ません。

 防戦から一転、攻勢へと出ました。

 

 

―――――――――

 

 

Side ラウラ

 

「各機、各々の判断で砲撃開始。

 ただし、突出した敵を優先して攻撃、一体たりとも通すな!」

「「「了解!」」」

 

 黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)の参加者全員からの返事が木霊し、レールカノンによる砲撃が開始される。

 着弾すれば高威力も手伝いそれなりの傷を負わせられるが、致命傷に至る者は少なく、その多くが傷つきつつも接近してきている。

 

「各機、近接戦に備えろ!」

 

 号令を出し、接近戦に備えさせる。小隊各員もそれぞれの得物を用意しつつ、接近され切る前に少しでも削るために砲撃を続けていく。

 

  ドゴンッ!

 

「……!?」

「近いのと、集まっているのは大丈夫……」

「ですので、孤立している敵や遠方への敵の削りをお願いしても?」

 

 あれだけ接近されたにも関わらず全く動揺せずに、そして呆気ないほど簡単に倒したにも関わらず油断なく構え直すと、地上と空の両方でそれぞれが戦いだした。

 

「総員、聞いていたな?

 孤立した敵を各個撃破。遠慮はいらないぞ!」

「「「了解!」」」

 

 黒兎隊への指示を変更し、自身もレールカノンによる砲撃を再開する。その狙いは主に孤立した敵で、集中砲火することで着実に数を減らしていく。

 一方、増援メンバーとして来てもらった二人はと言えば、凄まじいの一言に尽きた。

 

「《竜咬縛鎖(パイル・アンカー)》」

 

 地上の方は強靭なワイヤーアンカーのような装備を振り回して敵を捕捉したり、或いは直接攻撃したりしていた。そして、自身の至近距離まで迫られたときに繰り出したのは、ただの拳打。だが、その威力は馬鹿げてるものがあり、木っ端か何かのように蟻型を始めとした地上の敵を吹き飛ばし、粉砕していく。

 

「雷閃」

 

 空中の方は何をしているかもわからないものがあり、凄まじい勢いと精緻さで突撃槍を振るい、時折その先端から電撃と思しきそれを放っている。離れていようが近かろうが関係ないと言わんばかりの強さだが、それさえも序の口

 

「《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》」

 

 ()()()()()()()()()()()敵の背後を一瞬でとると、そのまま突撃槍の一突きで葬っていた。さらに、振り向きざまの雷撃でもう一体、倒している。

 

(……師匠(影内)があのような言い方をしていたのも納得だな。

 圧倒的過ぎるぞ、コレは……!)

 

 敵である化け物共もあの二機がこの場における最も大きな脅威であると分かっているのか、集中的に狙うようになってきている。だが、そうして敵が集中したところを、或いはその中に入っていない小集団を狙えばいいだけである此方からしてみれば狙うべき標的が集中しているのは一網打尽にしやすいとも言えた。

 間もなく、歩兵隊と戦車隊からも砲火が放たれる。外しようがないほど分かり易い狙いがある状況で、その火力は十分に生きていた。

 

(だが、この布陣ではあの二機に負担が集中する……早急に打開策を取らなければ……)

 

 私がすこしの焦りを覚えだした、その時だった。

 

『援護、入ります』

 

 通信機から聞こえた、もう一人の声。その直後に見えた、黒い機影。

 紅く光るラインが刻まれた、美しいとさえ感じるほどの漆黒を纏う機体だった。それが敵へと隣接すると、流れるような動作で敵が寸断されていく。

 

永久連環(エンドアクション)

 

 それは一度に止まらず、何度も続いていく絶え間ない攻撃が敵を次々と葬っていった。片時も休むことのない攻撃の嵐は、時として敵の攻撃をも切り裂いてすらいる。

 

(……凄まじい。これでは、まるで……!)

 

 影内と比較してなお冴えわたる剣技を前に、嘗て師事した世界最強(織斑教官)の事を思い出した。だが、それは同等とすら思えるものを見たからではない。

 

(まるで……織斑教官ですら、越えているようではないか……!!)

 

「さすがですね、ルクス。

 私も負けていられません!」

「私も、頑張る……!」

 

 あの漆黒の機体に触発されたのか、近くで闘っていた二人の動きが先程にも増して良くなってきていた。ただでさえ戦力としてあまりにも大きく水を空けられている状況で尚、さらなる強さを見せつけられている状況は、私の想像のはるか上を容易にいくものだった。

 

(だが……今は、素直に追いつきたいと思える。

 そのためにも、この作戦を生きて勝ち抜き、隊員たちと研磨し、師匠(影内)に師事しなければ!)

 

 私が内心で決意を新たにしている中、敵の一陣の大部分を片付けたあの二人は支援に来た漆黒の機体と何かを話していた。

 

『僕が後続を削っておきますので、二人は無理しないでくださいね』

「それは貴方にも言える事ですよ、ルクス」

「うん。これ位なら、大丈夫」

 

 あれだけ倒してなお止まらないのかと恐怖にも近い感情を抱いたが、其れとは別な

 

「……! 隊長、右前方より突出してくる敵が!」

「問題ない。

 シャルロット!」

『了解!』

 

 その中、砲撃とあの二機を回り込むことで回避したのだろう敵がこちらへと迫ってきていた。

 だが、その位置には既にフォローに回ってくれる機体がいる。

 

  ガガガガガ!

 

 けたたましく実弾の発射音が鳴り響いた。

 

「トドメ!」

 

 ドンッ!

 

 最後の一撃にパイルバンカーを突き刺し、敵を沈黙させた。

 私たちとは違い、日本に入国する前は特別中尉という立場で、この戦場で戦っていたらしかった。安定性と武装運用能力の高いラファールを、そのまま至近距離で大量の弾丸を当てるための装備として運用していたらしい。

 

「各機、警戒態勢を維持しつつ前線を押し上げる。

 進め!」

「「「了解!」」」

 

 周辺の敵が粗方一掃されたのを確認し、前線を押し上げていく。

 ここからが、本格的な攻勢だ。

 

 

―――――――――

 

 

Side 鈴音

 

「……馬鹿馬鹿しいくらい強いわね」

 

 いま、目の前で戦っている白と赤の機体を見ながら、私自身も戦っているにも関わらずそんな感想を抱かずにはいられなかった。

 

「さぁ……ドンドン来なさいよ……!」

 

 小柄な体格に全く似合っていない凶悪な表情から好戦的なセリフを吐きながら、大量の敵を相手にむしろ前に出てひたすらに死骸の山を築いていた。

 それも、ただ機体の性能による前進ではない事は見ててよく分かった。ある敵には一度加速をつけて斧槍を豪快に叩き付けつつ、次の瞬間には石突の方でやたら硬い毛で覆われた敵を相手に突いて発火させると、それで丸裸になった敵の何体かを再度切り捨てている。

 

「《ドライグ・グウィバー》、飛翔形態(ワイバーン・モード)

 

 それが終わるや否や、蟻型の一体を踏み台にして飛び上がると機体を変形させて敵が密集した位置の上空へと態々飛び上がっていた。先程とは単純に外観の違いがあり、先程のは陸戦に特化した形態、今度のは空戦に特化した形態なのだと推測できる。

 

「《地砕角弾(グランドバスター)》!」

 

 瞬間、下方へと何かが発射された直後、爆発が起こった。その威力は馬鹿げているの一言に尽きるものがあり、下方の敵をほぼすべて消し炭に変えている。

 なのに、まだ止まらない。そのまま飛んでいくと、今度は数体ほどの学園にも出現した奴らの前に出て一閃。灼熱を纏って振るわれたそれは、あの化け物の羽を見事に焼き尽くしていた。

 だけど、その直後。真後ろから黒い化け物が襲い掛かっていた。

 

「ッ!」

 

 一緒に戦っていた簪が咄嗟にミサイルの照準を付けたけど、結論から言えばミサイルが撃たれる事は無かった。

 

  ビシュ!

 

 一条の閃光が黒い化け物の頸に突き刺さると、着弾点を中心に凍り付かせた。そのまま動きを止めた化け物へと、紅白の機体が振るった斧槍によるトドメの一撃が突き刺さる。

 

『メル、あんまり前に出ないで頂戴。

 孤立しかねないわよ?』

「そういうのをフォローするのが補佐官の仕事じゃないの?」

 

 メルと呼ばれた紅白の機体の搭乗者は、窘められた事を意に介していないかのように再度敵のど真ん中へと突撃していく。

 

『だからと言って、無闇矢鱈と前に出られても困るわ。

 もう年も年なんだから、自重も覚えて』

「別にいいじゃない。後ろにはクルルシファーが居るし、前に行っても一夏(親友)がフォローしてくれるし。

 それに、私はあいつらを殺さずにはいられないし」

『だから、それは問題なのよ。

 それに一夏に無理をさせないで。あの子もあの子で問題が無いわけではないのだから』

 

 あまりにも気楽な会話とは裏腹に、その攻撃は苛烈だった。

 紅白の機体が積極的に前に出て敵を葬り去っていく。半面、先程の長距離射撃をこなした薄い水色の装甲を持つ機体は相変らず長距離射撃を主体とした戦術をとり続け、的確に敵を狙撃し続けている。

 

(なんて命中率よ……)

 

 一時期のタッグトーナメントでセシリアと組んでいて教えてもらった事だけど、この距離での射撃なんてそうそう当たるもんじゃない。それをさも当然の様に直撃させるのだから、彼女の狙撃の腕前は異常としか言えないものがある。

 しかも、それで孤立した敵の撃破から集団の足止め、突出した紅白の機体のフォローまで、狙撃役がこなすべき役割かそれ以上の事をほぼ完璧ではないかと思えるほどにこなしていた。

 

「鈴、感心するのはいいが手は止めるなよ!」

「いつ私が手を止めたってのよ、箒!」

 

 私が増援としてきた二人の動きに戦慄にも近い感情を覚えている横から、箒の注意が飛んできた。

 私と箒は機体特性上、前衛以外の役割をこなすのが極端に困難だったためにこの配置になっていた。中衛に簪と楯無さんが、後衛として戦車隊と歩兵隊という構図になっている。

 私としては別段、手を抜いていたつもりは無い。けれど、箒にはそうと取られてしまったらしかった。

 

「二人とも、《山嵐》撃ち込むから下がって!」

 

 簪からの呼びかけに、反射的に二人とも一旦下がる。その少し後に、大量のミサイルが撃ち込まれていた。だけど、数体残ってしまっている。

 倒そうとしてすぐに踏み込もうとした直後――

 

「《清き熱情(クリア・パッション)》」

 

――楯無さんの《清き熱情》が炸裂していた。それも、わざわざ《山嵐》やそれ以前の格闘で開けられた傷口を狙って。

 これで数体は倒せたけど、楯無さんを含めた四人の今までの撃墜数が増援二人のうち片方の半数にも満たない事には不甲斐無さしかなかったけど。

 

「三人とも、あの二人に遅れないようについていくわよ。

 ドンドン前線を押し上げて行っているしね」

 

 この場のISチームのリーダーでもある楯無さんからの号令がかかり、私たちも前に出ていく。

 ここからは、私たちが少しずつ押し込んでいく番だった。


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