それでは、続きをどうぞ。
Side 鈴音
「……で、セシリア。
アンタも増援については何も聞いていないワケ?」
「ええ、そうなりますね」
「ラウラも?」
「うむ。私どころか、
専用機持ちの代表候補生として、フランスに飛んだ当日。
同じように代表候補生として呼ばれたセシリアと、ドイツ軍の軍人として呼び出されたラウラと一緒にある作戦の説明が始まるのを待ってた。
「……しかし、ISを倒しうる未知の生物の殲滅作戦か。
それも、大量の」
難しい顔で唸ったのは、ラウラだった。
俯き加減になった顔の中の瞳が見据えているものが何かは分からないけど、私もそのセリフに思う所はある。
「……鈴さん。
その生物とは、もしや……?」
「……クラス代表対抗戦の時の化け物共かもね」
セシリアの台詞に続けるように、同じ心当たりを言い放った。セシリアも同じ考えだったみたいだけど、ハッキリと言葉にした途端に渋面になっていた。
「……私はその時居なかったからそいつらがどのような物か分からないのだが、それほどまでの脅威だったのか?」
「……謎の白い機体が出てこなかったら、今頃は私もセシリアも生きていなかったんじゃないの?」
「勿論、冗談を抜きで、ですわよ。
ああ、ついでに言っておきますが一応箝口令の敷かれた内容ですので、悪しからず」
「軍属になっていればその程度の事、幾らでもあるから別に構わんが……」
私とセシリアの返答に、ラウラは若干苦笑した後に渋面になっていた。
「……しかも、一部の面々の危機感が無さすぎるんだけど」
「鈴さん、その意見に深い同意の意を示しますが、国家代表や副代表、他国の代表候補生に対する言葉ではありませんわよ」
「わぁかってるわよ。
……ま、知らないのは気楽でいいわね」
そして、今現在待機している一室。
フランス軍が一時的に
参加したといっても、遠方にあたる国々はISとその搭乗者のみを送り込んでいる場合も多く、しかもその国の搭乗者も他の国の搭乗者と呑気に話している。それが緊張を紛らわせる目的だったりすればなにも文句は無いのだけど、どうにも今回の戦闘を侮っている内容のそれが多く感じてならなかった。
「我が
「その言葉が聞けて良かった」
横で会話を聞いていたラウラが、微笑を伴って言い放った。その微笑には嘗ての傲慢だった姿の影は見受けられない、自身の部隊への誇りに満ち、他者への安心を促す笑みだった。
(……案外、この顔に惹かれたのが多かったから隊長に抜擢されたのかしらね)
そんな馬鹿なことを考えながら、軽口で返しておく。こうでもしないと調子が崩れそうだった。
「しかし……最後の増援として呼んだっていう面々が未だに来ていないってどういう事よ!?」
「鈴さん、落ち着いてくださいまし。
一応今日は作戦会議並びに説明のみで、しかもまだそれにも時間的余裕はありますのよ」
「しかし、それにしても時間がかかっているな」
そう、今現在ここに居る面々以外で増援に来るはずの、最後の一団が来ない。聞いた話だと、実働要員が八人にサポート一人らしい。
他に、ロシアからIS学園生徒会長で簪の姉である更識楯無さんがロシア国家代表として、日本からは簪と箒が来ることになっているはずなんだけど、其方もまだついていない。
「隊長、お飲み物をどうぞ」
「うむ、すまないなクラリッサ。感謝する」
「いえ、それには及びません。
ご学友の方々も、よろしければ」
「頂きますわ」
「ありがと」
ラウラの部隊の副官だというクラリッサさんが取ってきてくれた水を飲みつつ、今後の展望に少しばかりの希望が持てた。
「しかし、本当に来るのでしょうか……?
他国の部隊と違い、最後の増援として呼ばれた方々は詳細が不明ですし」
「まさかとは思うけど……臆病風に吹かれた、とか無いでしょうね?」
私がそうして、冗談交じりにぼやいた時だった。
「……交通渋滞という名の臆病風に吹かれて悪かったな」
後ろからかけられたその言葉に慌てて振り返ると、そこには――
「……影内?」
「そうだが。どうかしたか?」
――世界唯一の男性IS操縦者と言われる、学友が若干不機嫌そうな顔で立っていた。
―――――――――
Side 一夏
空港から降りた後に乗った車での移動中、臨時基地に着くまでの間に交通渋滞に巻き込まれ予定よりも到着が遅れたが、それでも間に合いはしていた。
着いた直後に僅かながらの一悶着があったが、それはこの際無視するとしよう。
「それでは、作戦会議を行います」
現地の司令官だという、フランス軍の男性が一番前に立って作戦会議が始まった。
「まず、この映像を見てください」
最初に、会議室前の大型スクリーンにある映像が映し出された。
「旧来の小型偵察航空機で撮った、現地の様子です」
その映像には、見渡す限りを埋め尽くす
『……!』
その映像に、参加していた
だが、周りのIS乗りたちの面々は驚きこそすれど、それ以上の物はない。しかも、徐々に侮り始めているものさえいる始末だった。例外と言えば、一度はその脅威を目にした凰とオルコット、軍人として真摯な姿勢で臨んでいるボーデヴィッヒ、俺たちにとっての協力者である更識会長と簪、剣崎、そして俺達にとって今回の一件の発端となったデュノア位なものだった。
「前回の作戦の際は、これらの生物の一団に囲まれた結果、フランスの保有するISを含めた戦力がほぼ壊滅状態に陥りました。
これが、破壊された《ラファール・リヴァイブ》です」
そして、場面が切り替わり回収されたと思しきISが映し出された。それも、複数台分。
それの損傷の状態は酷く、無事な部分を外見から探すのが困難なほどだった。それは俺たち以外もそうで、それまで緊張など感じていなかったIS搭乗者がはっきりと体を強張らせているのがわかるほどだった。
「ISコアは全機辛うじて無事でしたが、搭乗者の中には重症患者も出ています。
以上のように、あの生物たちにはISの防御能力を超えうる攻撃能力を持っていることが確認されています」
この映像を見せた後、会議室は一気に静まり返っていた。雰囲気は映像を見せられる前とは一変し、強い緊張に包まれていることがわかる。
「その生物だが、具体的にはどれくらいが確認されているんだ?」
その質問を出したのは、リーシャ様だった。
「確認されているだけでも、常時五百体以上はいます。
また、その中にISを倒した個体と同種と思われる個体が、常時五体は居ます」
司令官の男性が答え、其の司令官の指示に従い副官の男性が機材を操作し、その個体の映像を見せてくれた。
「その個体が、これです」
(……! やはり、か)
映し出された個体は、紛れも無く
(五百以上の数に、ディアボロスもか……)
流石に数が多すぎる上、脅威度の高い個体も確認されている。これは戦略的に極めて厄介な事態と言えた。
「また、その他の敵性生物も移動能力が高く個体数の多いものほど外周で行動し、我々が便宜的に『
再度映し出された場面には、数階建てのビルにも匹敵する大きさの超巨大な蟻塚のような形状の
(また厄介な奴がいるな……)
また、その上空には《ガーゴイル》と思われる個体も確認できる。
だが、その一連の映像を見ていて、これまでの機竜側での経験とははっきりと違う事実が確認できた。
(やはり、連携をとっている……それに、確かにこれまで見てきた幻神獣と思われる個体ばかりだが、微妙に違う気も……一体、何が……?)
総じて驚異的としか言えない光景だが、同時にこれまで見てきた幻神獣とは違う何かも見て取れる。
だが、それでもやることには変わりない。
「敵側はある程度分かったわ。
此方側の戦力はどうなっているのか、聞いてもいいかしら?」
クルルシファーさんが特に表情を変えることなく、司令官に聞いていた。
「こちら側は、現在フランス国内に存在しているフランス軍の戦車と戦術航空機を最大限に、歩兵戦力も可能な限り。ISは、フランス国内では現在稼働可能な機体がデュノア特別中尉の《ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ》しかないが、各国からの応援により総合計で四十機余りのISが参加している」
「分かったわ。ありがとう」
苦々しさの混じった表情で答えた司令官に対して、クルルシファーさんは表情を変えなかった。だけど、其の額に一筋の汗が見えたことから、内心が伺い知れた。
「味方戦力の配置と敵戦力の配置はどのように?」
次に聞いていたのはセリスティアさんだった。
「IS部隊を最前列に、その後ろに戦車を配置して援護する。戦車隊の周囲は歩兵が護衛する。戦闘機は基本的に爆撃の役割を担い、広域攻撃に徹する」
「IS部隊の編成は?」
「それについては、こちらをご覧ください」
司令官が答え、副官が機材を操作して地図の様な物を表示した。
そこには、範囲分けされた幾つかの枠の中に国名や地域名が書かれている。察するに、その範囲で指定された国々のISが戦闘するとのことなのだろう。
(……機体特性等々は無視か)
考えようによっては無理からぬことだったが、それでも若干、辟易とする思いはあった。
今回、各国が主力として送り込んできたISはその多くが専用機か、それに近いところまでカスタマイズした量産機かのどちらかだった。当然、機体には一癖も二癖もある機体が少なくない。その分強力ではあるが、それらには明確な弱点がある場合が少なくない。
弱点を補いあえるような編成なら、それも気にならなかった。だが、国ごとに分かれてという編成でそれを期待できるかと聞かれると、微妙なところではないかという思いが強かった。
それを感じたのは俺だけではないようで、機竜側から来た機竜使いは僅かに眉根を寄せるなど、傍目には分かりづらいが変化が見れた。
「アタシ達の役割は?」
そんな中で、不機嫌そうな顔を隠そうともせずに聞いたのはメルだった。
「基本的には広域での遊撃を、と考えています」
「……それだけ?」
「はい」
始まる前から疲れた表情になったメルに対し、思わず心の中で労いの言葉を唱えていた。
(総合的な戦力が前回を上回っているからなのか、それともIS関連の陣形や連携、運用理論が不十分だからなのだろうが……いくら何でも大雑把すぎる。しかも、周囲のIS部隊の面々もそれで納得している。
後で機竜使いの間での作戦会議だな、この流れは……)
心の中でそんなことを考えつつ、それ以後は特に進展の無い時間が続いた。
「ちょっと、質問いいかしら?」
その言葉を発したのは、アメリカから来たメンバーの内の一人であるナターシャ・ファイルスと名乗った人だった。アメリカ軍で中尉の階級を持つISのテスト操縦者らしい。
「何か?」
「なるべく多くの戦力が欲しい、というのは今までの説明でよく分かったのだけど……代表候補生は分かるにしても、そこにいる人たちは?」
そうして、こちらの方を見てきた。言わんとする事は分かるが、ここに来てまでそれを言うのかとも思ったのは事実だった。
「彼らは、今作戦の主力を担っていただく予定の方々です」
現地司令官の言葉に、IS搭乗者の一部が怪訝な顔になった。
「
そう言ったのは、アメリカの国家代表IS操縦者『イーリス・コーリング』だった。
確かに、今回来たメンバーの中で顔が知れているのは俺だけだし、俺も俺で世間一般ではあくまでIS学園に通う一学生程度でしかない。懸念も当然といえば当然の物だろう。
俺はそのことに対して特に何も思わなかったが、そうではない人も少なくなかった。
「一夏、
「いいのですか?」
「ああ、遠慮なく見せてやれ」
リーシャ様の考えは違ったみたいで、見せるように指示を出していた。他の人達を見渡しても、一様に頷いていることが見て取れる。
「では、失礼しまして」
一言断りを入れて、会議室の前に立った。
そのまま一振りの
「――覚醒せよ、血毒宿す白蛇の竜。其の怨敵を喰らい尽くせ、〈アスディーグ〉」
あくまで目的が
「……!?」
「……マジ?」
「白い機体の噂は聞いていたけど……これは予想外ね」
《アスディーグ》の右腕がそうであると認識した瞬間、方々から騒めき声が聞こえ始めた。喋っていない人もいるが、それはただ単に驚愕して何も言葉を発していないだけであることが表情から読み取れた。
だが、正体を話していなかったとはいえ、デュノアまで驚いているのはどうかと思った。
「既に察している方もおいでとは思いますが、
IS学園で化け物が現れた時、迎撃に出た白い機体。あの機体の名前は《アスディ-グ》で、搭乗者は俺です」
この一言で、大半以上のIS搭乗者は黙ることになった。
―――――――――
「影内、驚かせてくれたわね!」
「すまんな」
「鈴さん、はしたないですわよ。
ですが、私も驚きましたわ」
「うむ。さすが師匠だな!」
「その任を了承した記憶は無い」
余り細かいところが決まらなかった作戦会議が一時中断した後、俺は凰、オルコット、ボーデヴィッヒの三人に囲まれていた。
学園での何時もの面々と言えばそれまでだが、状況が状況なだけに不思議な気分になっていた。
(しかし……国家代表候補生とは言え、まだ学生である彼女たちまで
同時に、ある程度の軍事訓練を受けているとはいえ、それでも未だ学生の身である彼女たちを命懸けになる戦場に出撃させる。特に内一人は個人的な思いもあり、出来うるのであれば出て欲しくは無い。
(だが、いまさら言っても無意味か……)
思う所はあることは事実だが、今それを言う事はできない。実戦が避け得ないというのなら、闘って守り抜く。これだけが今できる事だろうと、そう決意を固めた時だった。
「ちょっといい?」
そうして声をかけてきたのは、非常に特徴的な外見の人物だった。
まず最初に目に入ったのは、腰まで届く赤髪のツインテール。服装は肩から胸元まで露出する程に着崩した着物に、ピンヒール。アンバランスこの上ないが、其れとは別な意味で目の行く部分があった。
(隻腕に、隻眼……)
右腕と右目が無い。ここに居る以上はIS搭乗者なのだろうが、それとは別にどこか既視感を感じていた。
「アリーシャ選手!?」
「ああ、知っている子もいるの」
「そ、それは当然ですよ!
世界二位の方の名前を知らないなんて、そんな……」
「ですが、確か数年前の事故で現役は退かれたと聞き及んでいますが……」
「だからこの作戦に行かされたんだろうが、ヒヨッコ共が……」
話しかけてきた人物に対し、鈴とセシリアの反応は劇的だった。同時に、その会話からその正体が誰であるかもわかった。
(第二回モンド・グロッソの準優勝者か……)
数年前、自分が誘拐されることになった事件を思い出しそうになって記憶に蓋をした。今更どうと思う事も無いが、万が一何かを悟られでもしたら面倒この上ない事になりかねない。
「それで、お前が噂の男性操縦者か?」
「ええ。影内一夏と申します」
「IS学園での活躍と、白い機体……《アスディーグ》だったな。その噂はそれなりに聞いている。
そう言う事で、後で一勝負してくれ。この作戦が終わった後位に」
いろいろとツッコミどころ満載の要求が出されたが、相手が相手であることも考えて出来るだけ穏当に終わらせる方向で考えた。
「……一応言っておきますが、俺を含めた会社からのメンバー九人は日程の都合によりそう長くは滞在できません。
ですので、申し訳ありませんが」
「ああ、そういう事なら無理強いはしねぇ。
邪魔したな」
それだけ言うと、踵を返して左手をひらひら振りながら帰って行ってしまった。
「もうそろそろ、会議が再開するぞ」
ボーデヴィッヒから声を掛けられ、席に座り直す。
其の後は、作戦会議の続きへと戻っていった。
―――――――――
Side 一夏
「結局……私たちの役割は、広域遊撃という事以外には決まらなかったか」
色々と問題の残った作戦会議が終わり、俺たちは翌日の作戦に向けて俺たちの待機用に割り当てられた部屋へと集まっていた。
「過ぎたことを言っても仕方ないわ。
建設的なことを話し合いましょう」
「許可します。このままで行くのは、色々と危険であると判断します」
「……賛成」
「私も、賛成ですわ」
「さすがに、あれだけだとね……」
「雑だったわね」
「皆さん、早く始めましょう」
「ええ、作戦は明日です。
十分な休養を取るためにも、話し合いを早く始めましょう」
危うく多少の愚痴も交えた雑談になりそうだったところを、俺とアイリさんが制止していた。その流れのまま、機竜使い同士の作戦会議の方へと移っていく。
「さて、まずは最初の迎撃の時の段階だが……」
「そこは任せなさい!」
自信満々でメルが宣言したが、さすがにそれだけでは終われない。そもそも、ここで終わってしまったらこの作戦会議の意味がない。
「待ちなさい、メル。
貴女の実力はよく知っているけど、長時間の戦闘にはまだ問題があったでしょう」
「だったら、どうするのよ」
クルルシファーさんに嗜められて不満げな様子のメルを見て、ルクスさんが徐にクルルシファーさんへと話しかけた。
「クルルシファーさん。メルの援護に入ってくれないかな?」
「ええ。元々、そうするつもりだったしね」
ルクスさんの提案に、クルルシファーさんは快く頷いていた。
「では、メルが先陣を切り、クルルシファーがその援護を行うという事で一角はいいでしょう。
ですが、この範囲です。もう二組、同様の形を構築しておくべきではないでしょうか?」
クルルシファーさんの提案をさらに発展させる形で、セリスティアさんが提案を上乗せしていた。
「それだと二人残る形になるが、その二人はどうする気だ?」
「それは、機動性の高い飛翔型機竜を持っているルクスと一夏にお願いしようと考えています。役割は、押されている場所の支援を主に、広域を飛んでもらう形に。
ルクスは戦局を見渡せる観察力を持っていますし、一夏は普段からこの手の事に慣れているので、お願いしたいのですが」
リーシャ様からの疑問の声に、セリスティアさんは淀み無く答えていた。答えを聞いたリーシャ様も頷きつつ、ルクスさんと俺の方へと顔を向けた。
「との事だが。ルクス、一夏、大丈夫そうか」
「はい、問題ありませんよ」
「委細承知いたしました。お任せを」
ルクスさんと俺の方も、その役割を拒否する理由は無かった。すぐに返事をし、その役割を熟す事を決定する。
「では、残りの組み合わせだが……」
「それは、僕の方からいいですか?」
「ああ、内容は?」
「リーシャ様と夜架、セリス先輩とフィーちゃんです」
ルクスさんが考えていた組み合わせの内容を聞き、リーシャ様が少し考え込んだ。
だが、リーシャ様よりも早く、セリスティアさんが聞き返していた。
「理由を教えてもらっても?」
「はい。
まず、リーシャ様と夜架は、今回の作戦で相手する敵の物量が膨大になるためです。リーシャ様は広域攻撃ができますから、夜架の《夜刀ノ神》の索敵能力との組み合わせは効果的ではないかと考えました。
セリス先輩とフィーちゃんは、性能的に相性がいいのではと考えたためです。普段はセリス先輩に攻撃の主軸を務めてもらいつつ、いざとなったらフィーちゃんに前に出てもらって一時的な時間稼ぎや攻撃をしてもらう。そうすれば、互いの消耗を抑えながら戦えるのではないかと思ったんです」
ルクスさんの考えに、セリスティアさんも少し考えた後に同意を示してくれた。リーシャ様も同様だったらしい。
「そういう事なら、私はいい。
やれるな、夜架」
「ええ。主様の御下命とあらば、容易い事ですわ」
「フィルフィ、よろしくお願いします」
「うん。よろしく」
それぞれが自分の担当を確認し、組むことになる相手へと声をかけていた。
「では、最後に行われると予想される『巣』の内部探索についてだが……」
一通りの確認が終わり、今度はまた別な内容への確認へと入った。
「それも、いいですか?」
「ああ、いいぞ」
「僕とフィーちゃん、夜架の三名を考えています。
夜架の索敵能力は『巣』の内部構造を把握するのに役立ちますし、フィーちゃんの《テュポーン》の重装甲と格闘能力は空間が限定されていることが予想される『巣』内部で戦闘が起こったときに有効かと思ったからです。僕が行くのは、内部に広い空間があった時の戦闘のためです」
事実上の進行役となっていたリーシャ様の確認に、ルクスさんが答えを返した。
「そうだな……確かに、空間が限定されているのであればその組み合わせが効果的か。
二人とも、いいか?」
「問題ありませんわ」
「大丈夫、だよ」
再度の確認にも、一切動じることなく二人とも答えていた。
「さて。
後は、巣の内部を突いた後に何が出てくるか、だな……」
「普通の蟻の巣なら、女王がいるものですがね」
リ―シャ様のつぶやきに、アイリさんが重ねるように言った。
「あの巣の主となると、どれほどになるのか……」
「
「ですが、最悪の場合として、想定はしておくべきかと」
「何が出てこようが、敵なら倒すわよ。私が」
最後の最後、何処かいつもの調子にも戻り始めた面々を見て、アイリさんと顔を見合わせた。
「……結局、最後はこうなるんですね」
「ま、無駄に緊張するよりはいいでしょう。
とは言え、細かい部分がまだ残っているかと思うのですが」
「そうですね、では……」
この後、多少声を張り上げて再び会議に戻しつつ、その後の内容の確認や決定を行っていった。
―――――――――
Side アイリ
明くる日、対幻神獣殲滅作戦の決行当日となりました。
私は基地で待機しつつ、いざという時のために手渡された《ドレイク》の機攻殻剣を腰に差しています。私は基地で待機しての連絡係兼記録係ですが、いざという時は《ドレイク》で自分の身を守るように言われています。蟻型が地中を移動できるという情報があった以上は、警戒しなければならなかったからです。
「では、行ってきますね」
「行ってきます」
作戦の先陣を切ったのは、セリスさんとフィルフィさんでした。
「――降臨せよ、為政者の血を継ぎし王族の竜。百雷を纏いて天を舞え、〈リンドヴルム〉」
「――始動せよ。星砕き果て穿つ神殺しの巨竜。百頭の牙放ち全能を殺せ、〈テュポーン〉」
二人が詠唱符を唱え、所定の位置へと移動していきます。
「次は私たちが行かせてもらうか。
夜架、いいな?」
「ええ、勿論ですわ」
その次は、リーシャ様と夜架さんです。
「――目覚めろ、開闢の祖。一個にて軍を成す神々の王竜よ、〈ティアマト〉」
「――侵食せよ、凶兆の化身たる鏖殺の蛇竜。まつろわぬ神の威を振るえ、〈夜刀ノ神〉」
二人も機竜の接続を完了させ、同じように所定の待機位置へと移動していきます。
「行くわよ、クルルシファー!」
「あんまり慌てないで」
三組目は、クルルシファーさんとギザルト卿でした。
「――転生せよ。財貨に囚われし災いの巨竜。遍く欲望の対価となれ、〈ファフニール〉」
「――相食む二対の穢れ、身に纏いて甦れ。天壌覆滅せし争いの竜よ、〈ドライグ・グウィバー〉」
二人も機竜を展開し、飛翔していきます。
「一夏、僕たちも待機位置に行こうか」
「委細了解しました」
最後は、兄さんと一夏です。
「――顕現せよ、神々の血肉を喰らいし暴竜。黒雲の天を断て、〈バハムート〉」
「――覚醒せよ、血毒宿す白蛇の竜。其の怨敵を喰らい尽くせ、〈アスディーグ〉」
二人も飛翔していき、待機位置へと移動していきます。
私はその光景を見送りながら、作戦の成功を祈っていました。
――これが、長い一日の始まりでした。