第五章(1):異界より来たる者達
Side 一夏
フランス行きの前日。
平日ではあったが、授業よりも遥かに優先度の高い用事があったため俺は完全に学校を放り出して『
今現在、更識家の協力によってこの付近に設立したという設定にした本社に近づく不審人物の監視、という名目で『球体』付近の監視を依頼している。最初は不審がられたが、何とか了承はしてもらった。
「さて、予定ではもうそろそろのはずですが……」
「ゆっくり、待ってようよ」
「いえ、あまりゆっくりもしていられないのが現実では?」
一緒に待っているアイリさん、フィルフィさんと会話を交わし時間を潰していた。
今この場には、協力者である更識家の関係者はいない。それは更識会長や簪たちも例外ではなく、本当にIS世界側の協力者は一人もいない。
(さすがに、もうそろそろ時間が迫っているはずだが……)
向こうのメンバーを考えると、恒例の
「……来た、よ」
だが、それも杞憂だった。
僅かに『球体』の発光が増すと、その中から幾人かの機竜を纏った人影が見えた。その数は六人。そして、その姿が鮮明とするにつれて良く知っている人たちであることが知れた。
「皆さん、ご足労有り難うございます」
出迎えの意味も込めて、まずは簡単な挨拶だけした。
「いいよ。これほどの事態だったら流石に一夏でも大変だろうしね」
「お礼は不許可ですよ。これも、私たちの為すべき事の一つですしね」
「そうね。私としてはルクス君と一緒に居られる口実を作ってくれたことだし、むしろ感謝してるくらいよ」
「でしたら……こちらの方で、世継ぎを作られるのですか?」
「おいちょっと待て!?
いきなり何を言っているんだこのエロ女!!」
「……ルーちゃん。こっちのお菓子、食べる?」
最初はルクスさんからの、これまでの働きに対するいい意味で不相応な労いの言葉をかけてもらったが、それを噛み締める暇も無く何時ものやり取りが開始されてしまった。だけど、相も変わらぬこのやり取りに、思わず笑みが零れそうになる。この人たちが揃うと、いつもこうだった。
「異世界に来ても相変わらずですね。兄さん」
「いや、それは皆にも言える……っていうか、皆に言ってよ!」
「さっすがお兄ちゃん、モテモテね。でも、クルルシファーみたいな貧相な体の人に好かれてもねーっ♪」
「あら、それは私の事を言えるようになったという事かしら?」
「……くっ! いいもん、一夏!」
「……こっちもこっちで平常運転ですね、一夏」
「いえ、それは俺のせいですか?」
そんな状態のルクスさんへと容赦のない一言を入れるアイリさんに、そこへとツッコミを入れるルクスさん。茶々を入れようとしてクルルシファーさんから手痛い反撃を貰ったメルからなぜか肩車の体勢を取らされ、再度のアイリさんからの容赦ない一言を貰う事になった俺。
(……このメンバーで集まったときの恒例のパターンと化しつつあるな)
なんとなく不思議な感慨を覚えつつ、このままここで立ち往生とも行かない事情も鑑みて声を張り上げることにした。
「これ以上待たせてもいけないので、早く行きましょう!」
「そうですよ。ただでさえこちら側の協力者である更識さんをお待たせしているんですから、早く行きましょう。
ですが、一夏。ギザルト卿を肩車したままだと今一つ緊張感に欠けるのですが」
「……ギザルト卿、申し訳ありませんが降りてください」
「公の場だけど、気にするような場所でもないから何時もの呼び方でいいでしょ?」
上ったときと同じく無意味に軽やかな身のこなしで俺の肩から降りて言ったメルは、何時の間にかいつもの調子に戻っていた。
「さて。では、改めて行くとするか!」
この場での代表を務めることになっているリーシャ様が改めて宣言し、ルクスさん、リーシャ様、クルルシファーさん、セリスさん、フィルフィさん、夜架さん、メル、アイリさん、俺の九人はその場から全員で移動する事になった。
―――――――――
Side 楯無
影内君、アーカディアさん、アイングラムさんの三人が本社からの増援メンバーを迎えに行っている間、僅かに手持ち無沙汰になった間に少しばかりの考え事をしていた。
(ここに来ることにしてあったって言っていたけど、でもどうして……?)
考えても見れば、最初に簪ちゃんを助けた時の位置もこの付近だった。そして、それ以後もこの位置を中心に活動しているように見受けられる部分が多々ある。
「お嬢様、考え事ですか?」
「まあ、ね。
今までも何度か調べた、影内君たちが何者かについて、だけど……」
そんな私に声をかけてきたのは、虚ちゃんだった。
「それですか……。
前に調べた時も、結局何もわかりませんでしたしね。本音なんか、瞬間移動でもしたみたいなんて言い出す始末でしたし」
最後の一文、虚ちゃんは冗談めかしたつもりで言ったことはすぐに分かった。
だけど、私は不思議とそれがそこまでの間違いではないように思えてしまっていた。
「瞬間移動、ね……」
「……お嬢様?」
訝しむように私の顔を虚ちゃんが覗いてきたけど、その時の私の思考は全く別の場所にあった。
(瞬間移動……確かに、そうだとすればこんな山奥に拠点と思しき場所を構えている事にも……出入国記録そのものが存在しない事にも……それに、条件が限定的とはいえISを超える性能を持っていて男性である影内君も使える機体群、そもそもアレはISなの……!?)
一気に意識が思考の中へと傾きかけた時、私を現実へと引き戻した。
「……お嬢様、増援の方々がお見えになられましたよ」
「……ん。ありがと」
虚ちゃんが見ている方向を私も見れば、そこから九人の人影がこちらに向かって来ていることがわかる。背格好が微妙に違うけど、その容姿までよく見えるようになってくるにつれて意外な思いを抱くことになった。
(……? なんで、一人だけ黒いローブ付き?)
一人だけ妙な格好をしていたけれど、そこをつつくのはまた後の事にした。
ここでいきなり帰られても困ることだし。
「ようこそ。歓迎するわ」
「ああ、こちらこそ、世話になる。
一応の代表者を務めることになった、リーズシャルテ・アティスマータだ。よろしく頼む」
私の挨拶の言葉に答えてくれたのは、一番前に出てきた短い金髪と、少し勝気な感じのするのに全く嫌味を感じさせない表情の中に強い意志を映し出す朱い瞳を携えた女性。容姿から考えられる年代的には私達とそう変わらないであろうことが想像できる。
「もう知っていると思うけど、更識楯無よ。
とりあえず、今日の宿に案内するわ。具体的な話をそこで確認したいのだけど、いいかしら?」
「助かる」
短い返事だけだけど、それと同時に見せた笑顔に不思議と引き寄せられそうになった。
(……カリスマ、って言っていいのかしらね)
見たものを半ば理屈抜きで惹き付ける、それが出来る人なんてそうそうお目に掛かれるものではない。にも関わらず、この人はそうなんだろうなと漠然と思った。
だけど、そこに引き込まれるわけにも行かない。あくまで、今は彼らから見て外部の協力者という立場に止めておく。
(彼らが何者か、それが分かればもう少しやりやすくなるんだけどねぇ……)
僅かに抱いた感情はおくびにも出さず、ひとまず移動用に用意していた車に案内していく。虚ちゃんが気を聞かせて、皆が乗る前に合わせて車の扉を開けてくれた。
「一夏、コレが……!」
「落ち着いてください、リーシャ様……」
ただ、車に乗るときにリーズシャルテさんが少し興奮気味だったのが気になった。
―――――――――
「さて、ひとまず今日泊まってもらう予定の部屋だけど……どうかしら?」
取りあえず止まってもらう予定のホテルの部屋へと案内し、部屋を見てもらった。さすがに九人が一斉に泊まれる部屋は無かったので、三人部屋が三つとなっている。
今はそのうちの一室。それぞれ、簪ちゃんと虚ちゃんに案内してもらっている。
「お世辞抜きに、いい部屋だな」
案内していたうちの一人であるリーズシャルテさんから、思いの他良好な評価を頂いていた。
(ま、不評よりはいいか)
ひとまず案内した先の部屋に荷物を置いてもらい、別に用意していた大部屋に集まってもらう事にした。
「さて……荷物も置いたし、確認の方に移っても?」
「ああ、構わない。
ルクスとセリスも、それでいいよな?」
「はい」
「許可します」
同室予定の二人も概ね気に入ってくれたらしく、それぞれに同意しつつ荷物を置いて行っている。
(しかし……相変わらず、謎の黒いローブね)
正直に言えば凄まじく目立っているけど、不思議と見失いやすかった。というか、同行している色々と煽情的な服を見た黒髪の美人が手を引くたびに見失っていたと思う。
そうこうと考えているうちに、一時的に借りている大部屋へと付いた。
「それじゃあ、まずは互いの紹介と行きましょう。
もう顔見知りの人もいるけど、初対面の人も多いしね」
「ああ、そうだな。
それじゃあ、私からでいいか?」
「ええ、どうぞ♪」
そこまで言うと、「では」と前置きしてから自己紹介を始めてくれた。
「さっきも言ったが、私の名前はリーズシャルテ・アティスマータ。一応、今回の増援メンバーの代表を務めることになっている。機体の名前は《ティアマト》だ。
用向きがあれば気楽に言ってくれ。後、口調も堅苦しい方向のは無しで頼む。正直、堅苦しいのは好かないんだ」
どこか悪戯っぽい印象の明るい笑顔で言われ、私も「そうさせてもらうわ」とだけ返答させてもらった。
「次は私ね。
名前はクルルシファー・エインフォルク。機体は《ファフニール》。私も今回の増援メンバーの一人よ。よろしく」
今度は薄い青の長髪で、クールな印象の長身の女性。涼やかな声で、だけどどこか悪戯っぽい印象も受ける。
「それでは、次は私が。
セリスティア・ラルグリスと言います。機体は《リンドヴルム》。私も今回の増援メンバーの一人です。よろしくお願いしますね」
エインフォルクさんの次は、金髪で長身の女性。ハッキリ言って女性として凄く羨ましい体形に、意志の強そうな瞳とどこか硬い口調が強く印象に残った。
「……私は、いいかな?」
「……まあ、両方知っていますしね」
次に声を上げようとして、思いとどまったのはアイングラムさんだった。確かに、この名にいるメンバーの中では双方とも知っているだけに、飛ばしても大きな問題は無いように思われる。そして、それを指摘したのはアーカディアさんだった。
「では、僭越ながら次は私の方から。
名前は
五人目の紹介は、妙に色っぽい服装の黒髪の美人さん。色々と煽情的な部分が目立つけど、所々で出ている卓越した能力や根拠も無く感じる人として不安定な印象が、ある意味での要注意人物という感想を抱かせた。
(ま、そんな事はおくびにも出さないし。味方となれば心強いの一言に尽きるからいいけど)
「じゃ、次は私ね」
言うと、この中でも一際幼い印象を受ける女の子が立ち上がった。立ち居振る舞いも、他のメンバーに比べて子供っぽい印象が目立つ。
「増援メンバーの一人で、名前はメル・ギザルト。で、私の機体は《ドライグ・グウィバー》。
気軽にメルって呼んでね」
正直に言ってアーカディアさんがいた時点である程度予想はしていたけど、それでも驚いた。
(下手すると私と同年代か、それ以下でしょ……こんな子が……?)
影内君からは、増援に来てくれる人たちは折紙付きの実力者ばかりという事を事前に聞いていた。その中でこの年で来ているのだから、それはある種の異常と言ってもいいでしょう。
だけど、この場でその疑問は押し殺した。どのみち、今詮索したところで意味は無い。そういう部分もあって、この疑問は無視することにした。
「では、最後になるが……」
アティスマータさんが目配せすると、黒ローブの人が一歩前に出た。
「……ルクス・アーカディア。増援メンバーの一人で、機体は《バハムート》。
よろしくお願いします」
最後に紹介された人は、ローブを纏った例の人だった。紹介そのものも短めだったけど、話し終わった後に顔の部分だけを出して見せてくれた。いくらか童顔だけど顔立ちは良く見える。ただ、どちらかと言えば男性っぽい感じがした。
「……って、アーカディアって」
「私の家族ですよ」
そう言ったのは、アーカディアさんだった。
「そうだったの……」
「ややこしいようでしたら、名前の方でも構いませんが」
「そうさせてもらうわ。ルクスさんのほうも、いいかしら?」
「ええ、構いませんよ」
疑問もすぐさま氷解し、手早く次へと移っていく。
そう、今度は私たちの方の自己紹介。
「それでは、今度はこちらの方から。
日本の暗部にあたる家のうち一つ、更識家の当主を務めさせてもらっている更識楯無よ。今回のバックアップやら何やらを担当させてもらっているわ」
私の紹介に、増援メンバーの方々はそれぞれに反応を示してくれた。
だけど、その中には悪い反応は見受けられない。
「楯無お嬢様の従者で、
以後、お見知りおきを」
一礼とともに、虚ちゃんが紹介を終えた。その感触も、概ね良好と言えるもの。
「妹の、更識簪です」
「その友人の、剣崎箒と申します」
その次に紹介した二人のも、無難と言えば無難なもの。感触も悪くない。
「かんちゃんのおさな」
「本音……?」
「……簪お嬢様の、従者で、布仏本音と、申します」
最後に、本音ちゃんがいつも通りの挨拶をしようとしたところ、虚ちゃんの一睨みと妙に平坦でゆっくりとした口調の前に、ちゃんとした挨拶をした。
ただ、この時の増援の方々からは、微笑ましい物を見たという気持ちがありありと伝わってきた。
そのままにするわけにも行かないので、一つ咳払いをして雰囲気を何とかした後に話を続けることにした。
「それじゃあ、今日の……と言うか、今後の日程を確認したいのだけど。いいかしら?」
「ああ、頼む。
一通りは一夏から聞いているが、やはり事前に確認しておくに越したことは無いしな」
答えてくれたのは、一応の代表だというアティスマータさん。最初に言った通りに砕けた口調で、そこに堅苦しさは感じない。
(ま、私もこういう雰囲気の方が好きだし、いいけどさ)
すっかりあちらの雰囲気に呑まれている事に危機感が無いわけではないけど、今現在は無問題と判断してそのまま話を続ける。
「ひとまず今日はここで休んでもらって、明日の朝一の便で出立する予定よ。フランスに着いた後は車で移動になるわ。で、そこで現地で待機している部隊と合流して作戦説明、その翌日に作戦開始ね。
現地の部隊はフランスを中心にした欧州合同部隊が主だけど、他にもアメリカやアジア各国、ロシア等々の国々がISを中心とした戦力を送り込んでいるわ」
「ISを中心とした、か……」
「……? どうかしたかしら?」
アティスマータさんが小さい声で、尚且つ鋭い目付きで呟いた。
それまでとは一変した様子を流石に見逃すわけにはいかず、その真意を聞こうとした。
「いや、気にしないでくれ。
これ以上の戦力や作戦に関する内容は、現地についてから、そこの指揮官も含めたうえで話し合った方がよさそうだしな」
その言葉に対する増援メンバーの返事を確認するかのように、アティスマータさんが周りの面々を見渡した。それに答えるように、それぞれが首肯したりして同意の意を示している。
「分かったわ。これ以上は、現地についてからにしましょう」
作戦に関する話はここまででいったんお終い。
そして、ここからは私達からの細やかな前払いと行きましょう。
「ところで、増援メンバーの皆さま。
これから夕食となりますが、このホテルでのそれでよろしいでしょうか?」
実にいいタイミングで、虚ちゃんが話を切り出してくれた。
「ああ、問題ないが」
やはり、答えたのはアティスマータさんだった。特に反対意見も出てこないので、
「では、ご案内します。こちらです」
「ああ、それと。
ここのレストランはここ近辺の中では一番評判のいいところよ。バイキング形式だから、好きなだけ食べて頂戴。其の後は各部屋でくつろいで、明日に備えて」
私の言葉に、それぞれがそれぞれの反応を示してくれた。けれど、それは概ね良好なもの。
(態々用意した甲斐はあったか)
いくらかの満足感は覚えつつ、私も夕食をとるために下りて行った。
―――――――――
「遠慮なく食べていいとは言ったけど……まさか、ここまで食べる人がいるとはねぇ……」
夕食のバイキングの席にて。
私も含めた全員が更識家の伝手も使って貸切った食堂にて夕食を食べていた。けれど、私はそこで、主に約一名の凄まじい食事量を目撃することになった。
「美味しいわね」
「ええ、中々の物です」
エインフォルクさんとラルグリスさんはいい。時折エインフォルクさんがルクスさんやラルグリスさんをからかっていたりするけど、それはじゃれ合いの範疇のそれとしてみていい範囲でしょう。
「うむ、いい味だな。
しかし……」
アティスマータさんもエインフォルクさん、ラルグリスさん達と一緒に、言葉少なだけど美味しそうに食べていた。でも、なぜか時折炊飯器の方や照明を見ては何かを考え込んでいる。
「……まさか、古都国のそれに似た料理があるとは」
切姫さんもそれまでと余り変わりない様子で食べていたけど、時折、本当に僅かだけど懐かしそうな様子が見受けられた。
「ルーちゃん、食べる?」
「いや、フィーちゃん取り過ぎだからね!?」
そして、ルクスさんとアイングラムさん。終始、凄まじい量を取ってくるアイングラムさんにルクスさんがツッコミを入れる形になっていた。
しかも、取って来た料理の九割方はしっかりと自分の胃に収めているので、決して無駄に取ってきているという訳でも無い。ただ、その食事量そのものに驚かされている私がいるのも本当の事だった。
「……いつもこんな感じなの?」
「何時もとは一部が違いますが、まぁ……」
「リーシャ様と夜架さんだけですね、普段と違うの……」
一方、ギザルトさん、アイリさん、影内君は同じテーブルについて食べていた。増援メンバーの中では年下組と言っていいのかもしれないけど、何故か一番常識的な席になっているようにも思えてしまう。
(……総じて、不思議な人達ねぇ)
何とも言えない感想を抱きつつ、私たちもそれなりにしっかりと食べていた。
「お嬢様……さすがに、この食事量は……」
「……後で、追加で払っておいて頂戴」
小声でこっそりと、虚ちゃんと大事なことを決めておくのも忘れずに済ませておいた。
―――――――――
Side 一夏
「思わぬ歓待でしたが、前払いと考えた方がいいのでしょうね」
「別に、取引の条件以上の事をした覚えはないのですけど」
「私としては、美味しい料理が食べれたしそれでいいけどねーっ♪」
夕食後、俺達は三人一部屋となっている自室へと戻っていた。
部屋分けは、俺とアイリさん、メルで一室。他に二室取ってあり、内一室にはルクスさんとリーシャ様、夜架さんの三人、最後の一室にクルルシファーさんとセリスティアさん、フィルフィさんの三人となっている。部屋の並びとしては、俺達の部屋とクルルシファーさんたちの部屋でルクスさん達の部屋を挟むような感じになっている。
どうしてこんな並びにしたのかというと、簡単な事で。
「しっかし……この並びにして正解でしたね」
「おにいちゃんってば相変わらずモテモテねー♪」
「……一応、協力者がいるといっても右も左も分からない場所のはずなのですが。
よく飽きずに集まりますね」
隣のルクスさんたちの部屋から、
ただ、同時にここは公共のホテルでもあるので隣の部屋に宿泊客が居たら迷惑になるだろう。だからこそ、集まりそうな部屋を自身達の部屋と空き部屋になりそうな部屋で挟む形をとった。なお、最初に言いだしたのはアイリさんであることを付け加えておく。
「無駄に緊張するよりはいいんじゃない?」
「にしても、限度というものがあるのでは……?」
「もう、気にしても無駄なんですよ……本当に、兄さんの女癖の悪さときたら……」
「いや、さすがにそれは……」
「本人に自覚が無いだけで、女誑かしっていうのは合ってんじゃない?」
「メルまで……」
此方も此方で緊張感に欠ける話題を続けていたが、夜が更けるとともにそれも終わりになっていく。
(さて……明日はいよいよ、現地入りか)
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Side 楯無
「さて……もうそろそろ出発になるけど、準備はいいかしら?」
「ああ、問題無しだ」
一泊してもらった翌日。空港前でフランス行きのメンバーが全員いる事を確認し、そのまま乗り込んでいた。
ただ、その道中。空港内部で増援メンバーの方々が割と戸惑っていたのが少し意外だった。何と言うか、空港そのものに慣れていない感じがする。
「さて、今日乗る飛行機はアレよ」
ひとまずロビーで待っている間、待機している飛行機の内一機を指さした。
「アレか……!」
まず最初に反応したのは、アティスマータさんだった。心なしか、目が輝いているように見える。そして、それぞれに搭乗予定の飛行機を見て物珍しそうな反応を示してた。
唯一反応が薄かったのと言えば、影内君ただ一人だけ。
「それじゃあ、行きましょうか」
搭乗橋を通って、そのまま全員で乗り込んでいく。
「国家代表が使うように用意されている飛行機よ。
本来は関係者以外立ち入り禁止だけど、それだけに一番確実に安全だから今回は使わせてもらっているわ」
「豪華だな……」
「IS関連は無駄に予算が多く取られてるからねぇ……。
それと、実は簡易のIS用補給装置とかも付いていたりするし」
「……そんなものまで!」
「使う機会があるかどうかはとにかく、ね……」
影内君が感心したように言ったけど、私としては呆れを含んだ返事しか出せなかった。
「流石に離着陸の時は席に着いてちょうだい。
それじゃあ、もうそろそろ離陸よ」
様々な事が起こりつつも、一路フランスへと向かっていく。
例の化け物共が、跳梁跋扈しているであろう場所へと。