IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第一章(3):神殺しの毒牙

Side ???

 

  ガタン ゴトン ガタン ゴトン

 

 電車に揺られながら、何の気無しに外を見ていた。

 

 今日は私用の専用機に関したデータ取りのために、倉持技研に呼び出された。倉持技研の企業代表を務める友人に相手してもらいデータ取りを終えた後、少し休憩してからその友人に見送られて帰路に着いた。

 

(……私は、何をしているんだろう)

 

 元々、その友人とは家の仕事の都合で知り合っただけだった。

 だけど、その人と関わって、親しくなって、お互いの事を話したりするようになる内に、その友人の事を好ましく、それこそ憧れるような部分さえあった。

 その友人と話したり一緒に訓練したりしている時間は楽しくて、最近の数少なくなった楽しみの一つだったから少し名残惜しかった。

 そしてもう一つ。境遇の側面である意味で私と似た部分があった、いや、私よりもひどい部分があった彼女は、だけどそれに負けずに頑張っていた。本人は「妥協しただけ」なんて卑下して、私のことも「十分以上に凄い」と正面から褒めてくれたけど、それでも私には彼女がとても輝いて見えた。

 だから、ほんの少しだけ。自己嫌悪を覚えていた。

 

(……今日も、一人で夕ご飯かな)

 

 家の仕事の関係で、家族が家にいない日も多い。今日もそんな日だった。

 父と母は家の仕事の都合で政府に、姉はロシア大使館に代表として呼び出されて行っているらしい。お手伝いさんや警備の人もいるけど、一緒に食事なんて滅多にない。

 終電の時間というのも手伝って、また今日も家に帰ったら一人で夕食をとることになるのだろう。

 

 無意識に、専用機になる予定の待機状態のISを強く握っていた。今はデータ収集と私自身の自衛用という名目で預けられている。

 中身も今はまだ量産型の打鉄だけど、そう遠くない内に打鉄を発展させた私の専用機になる。……はずだ。

 

(そうなれば……)

 

 

 

 そうこう考えながら、ただ目的地である終着駅に着くのを持っていた。

 この時は、何時ものように、当たり前のように着くものと思っていた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……え?」

 

 まっすぐに今私の乗っている電車まで突撃してきたその巨大な猿は、あろうことかIS用の刀剣のように巨大な三本の爪で車輪を狙ってきて――。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

「……チッ!!」

 

 アスディーグで出来うる限り早く幻神獣(アビス)のいる場所まで移動しようとしたが、あと少しのところで間に合わなかったらしい。

 すでに事実上複数体の幻神獣に突っ込むことになった電車は車輪を破壊され、走行不能に陥っていた。

 

 視認できる範囲にいるのは、巨大な猿のような幻神獣であるハイートのみ。それが九。

 さっき探知できた数と同じだったことから考えても、今この場にいる幻神獣は目の前にいるハイートのみだろう。

 さらに言えば、ISと思しき機体を纏った年若い女性―多分、俺とそんなに変わらない年の少女―がすでに戦闘していた。左手に持った連射がきく銃をばらまきつつ、右手に持った半壊している日本刀型のブレードを油断なく構えている。与えていたダメージこそほぼ皆無だったが、幸いなことに、そのISの搭乗者はハイートが飛べない幻神獣であることを利用し、うまく高度をとりつつ回避優先の戦い方をしていたため目立った外傷は一部を除き無かった。

 その一部とは右肩部分の装甲で、そこだけほぼ破壊されている。手にしていた日本刀型のブレードも半壊していたところから察するに、飛ぶ前に一撃を受け損なったといったところだろうか。

 だが、なぜその状況で逃げずにその場に留まり続けているのか。一瞬だけ疑問に思ったそれは、けれどすぐに解消された。

 運転席の中に気を失っている人が見える。察するに運転手。多分車輪を破壊された際に頭を打って気を失ったのだろう。この状況で自分が逃げれば、次に無防備な運転手が狙われるのは想像に難くない。

 

 ハイート九体を総戦力とする幻神獣は決して殲滅不可能な戦力では無いが、状況が状況なだけに急がなければならない。

 もはや一刻の猶予も無かった。

 

竜毒牙剣(タスクブレード)、ショットモード」

 

 複数の機能を持つアスディーグの主装備、特殊武装《竜毒牙剣》を備え、その機能の一つを準備する。

 選択したのは竜牙射剣(ショットブレード)と同様の機能を備えるショットモード。

 刃にエネルギーが行き渡り、刻まれたラインが暗い青に強く輝く。

 

機竜光翼(フォトンウイング)、再装填」

 

 武装用のエネルギーを推進用に転換できる特種装備《機竜光翼》、その()()()()()()()()()使()()()()()()()()に使用を一時中断し、エネルギーを最大までチャージする。

 この装備は、使用時に推進器と同じ方向に強い光を飛行機雲のように放出する。本来は副次的な現象だが、今回はむしろこの光の放出をメインに使わせてもらう。

 

 翼と脚部に搭載されている通常の推進器を最大限吹かせ、ハイートの只中をちょうど突っ切れるよう調整しつつ飛翔する。

 まずは、こちらに幻神獣の注意を向けなければならない。

 

「――鎌鼬(かまいたち)

 

 すれ違う瞬間、軽くバレルロールしながら竜毒牙剣のショットモードを複数回に分け開放。一撃一撃の威力は下がるが、通常より低い消費で数を打てる。同時に機竜光翼を開放。発生する強い光を用いてショットモードの発射タイミングと射線を一時的に隠す。この時、ISと電車に当たらないよう細心の注意を払う。

 自身の作り上げた技である本来の「鎌鼬」とは若干異なるが、今回の目的はあくまで注意をこちらに向けること。少なくとも、このままではジリ貧になる可能性の高いISに任せっぱなしよりは被害を抑えられる可能性が高い。だったら、幻神獣の注意をこちらに引き寄せつつ、その間にあのISに運転手を連れて行ってもらえばいい。

 後の不安と言えば、あのISのパイロットが素直に言うことを聞いてくれるかどうかだけだが……そこだけは、その場でうまくやるしかない。

 

 ハイート達にしてみれば突然の襲撃。それも自分たちに十分なダメージを与えうる(機竜)の出現。狙い通りにハイート達は俺の方に注意を向け、同時にあのISへの警戒が大幅に薄れた。

 この機を逃すわけにはいかない。

 

「そこのIS、すぐに運転手連れて離れろ!」

「で、でも!」

 

 ISの搭乗者に警告を出したが、叫び声と共に反論されそうになった。ISの搭乗者としては単に倒せないのが気に食わないのか、二人で当たったほうが確実だと思ったのか。表情からして後者だろう。

 

「万が一増援が来たらあの運転手が一番危険だ!

 犠牲にしたくないんだったら早く連れて行け!!」

 

 本当は周囲に反応が無かったのを事前に確認していたのだが、あくまでそれは探知機(レーダー)で索敵しただけの話。

 例えばドレイクのような迷彩能力を持つ機体だったら探知機から隠れるくらいの事はやってのけるだろうし、幻神獣でも高速飛行が出来るような種類だったら戦闘中に割り込まれる可能性もある。

 加えて、悪い言い方をしてしまうが今まで見た所このISの装備では全体的に攻撃力が不足しているように思えてならない。ハイートも確かに硬質の体毛に覆われているが、それでも十分な攻撃力があれば傷つけるのが不可能ではない幻神獣だ。それにも関わらず、今まであのISが与えたダメージはほぼ皆無である。

 俺個人としても多対一の状況はそれなりに経験したことがあるし、九体のハイートを倒しうるだけの能力がアスディーグにはある。

 

「……ッ!!」

 

 言わんとすることを悟ったのか、あるいは今までの自分の戦績を振り返ったのか。

 ISの搭乗者は一瞬悔しそうな表情を見せた後、運転席のほうへと機体の進路を向けた。

 

 だが、いくら注意が向いていなかったとは言えここまで派手に動けばハイートも気づく。加えて、幻神獣は基本的に逃げる者を追う性質がある。

 ここで見逃すはずもなかったが――

 

神速制御(クイックドロウ)

 

――ここで黙って行かせる俺でもない。

 右手に持っていた竜毒牙剣をショットモードを解除してから神速を以って振り抜き、追おうとしていたハイートの内一体の腕を切り飛ばす。

 

 さぁ、ここからが本番だ。

 

 

―――――――――

 

 

Side ???

 

 凄まじい。その一言に尽きる光景だった。

 

 最初、幻想的な暗い青の光の尾を引いて飛んできたあの白い大柄な機体は、バケモノ九体を相手に圧倒的な力を見せつけていた。

 

 白い機体は、電車の車輪や私の打鉄の日本刀型近接ブレード「葵」と右肩の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)を纏めて破壊した三本爪の一撃を、重厚長大な二振りの大剣を叩きつけるようにして切り付け逸らしながら隙があれば反撃し、さらに剣のように鋭利な装甲の付いた脚部での踵落としや蹴り上げ、回し蹴りと言った体術まで駆使しながら的確に攻めこんですらいる。

 そして何よりも、一対九、という数の差を跳ね返しての大立ち回り。通常一対一ないし同数同士での戦闘がほとんどの競技用ISの搭乗者である私から見れば、同等以上の力を備えた存在との数の差をものともしないその光景は、あまりにも現実離れして見えた。

 

 最初は私も一緒に戦った方がまだ有利になるのではないかとも思ったけれど、これだけ実力が開いているのならかえって邪魔になりかねない。

 何より、たった三回の攻撃でS(シールド)E(エネルギー)を二割以上減らすバケモノを相手に、あの白い機体と同じように戦い持ちこたえられる自信なんて、私にはなかった。

 

 だけど私にもできることはある。さっきも言われたけど、今は運転手さんを助けることだ。

 運転席まで着いたはいいが出入り口が歪んでいて動かなくなっていたため、やむなく強引に破壊し運転手さんを連れ出す。

 後はこのまま離脱するだけとなった時、私はあの白い機体の様子を一回確認しようと少しだけ振り返った。

 

 そこでは、私の思っていた以上に状況が悪くなっているように思えた。

 あのバケモノが数の利を生かして白い機体の周囲を取り囲んでいる。さらに、それぞれが姿勢を低くしていた。

 

(同時に突撃するつもり……!?)

 

 やはり私も加勢した方がよいだろうか。

 そう考えて思わずそちらへスラスターを吹かしそうになった時、私の目は白い機体を操っている人の表情を見た。

 

 声も顔も妙に男性っぽいその人が浮かべていたのは、目を若干見開き口元を三日月のように釣り上げた、恐ろしさを感じさせる()()だった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

「フッ!」

 

 軽く息を吐きながら竜毒牙剣を振り抜き、ハイートの爪を弾く。

 後ろから別なハイートが爪で切りかかってきたが――

 

機竜刃鱗(ブレードアーマー)、展開」

 

――アスディーグのもう一つの特殊武装《機竜刃鱗》を展開、後ろ向きに肘打ちの要領で左肘に追加されたブレードを叩き込む。

 これはアスディーグの各部装甲に直接ブレードが接続される装備で、咄嗟の反撃、密着状態での攻撃、手数の増加などに使える。

 

 左肘の機竜刃鱗を食らったハイートはそのまま仰け反り動きが鈍ったのでついでとばかりに回し蹴りも叩き込む。無論、踵にも機竜刃鱗の刃はあるので普通の打撃より深くダメージを残せる。

 

 更に左右両方から二体のハイートが迫ってきたので、再度竜毒牙剣を振り抜き弾き、直後には姿勢を低くして奇襲を狙っていたのであろう別なハイートへと機竜光翼を使い肉薄、やはり機竜刃鱗の刃の付いた膝蹴りを食らわせて切り抉りながら仰け反らせた後、振り被った二刀の竜毒牙剣で叩き切る。

 

 ここまでしたところでハイート達はいったん距離をとった。改めて確認すれば半分以上の固体に大きなダメージを残せている。

 

 あのISの方へと視線を向ければ、もうすでに十分な距離が開いている。運転手もしっかりと助け出していることも見て取れた。

 

(……仕掛けるか)

 

 両手の竜毒牙剣を握り直し、再度その能力を開放するための準備を整える。

 

 ハイート達は俺の周りに展開し始めている。いずれも姿勢は低く、飛び掛かる前の姿勢であることが窺える。

 

 普通に考えれば厄介な状況。だが――

 

「竜毒牙剣、ロングモード」

 

――同時に来るのであれば、俺にとってはむしろ一網打尽を狙えるいい機会だ。

 そのための準備として竜毒牙剣の機能の一つであるロングモードを起動させ、暗い青に発光する光剣を生成する。

 竜毒牙剣の切っ先から何層にも束ねた障壁を派生させ、その中にブレード用のエネルギーを充填した光剣とでも呼ぶべき物を生成し刀身を延長するロングモード。

 攻撃範囲は広くなるが、その分扱い辛くなる上に障壁とエネルギーを常に使い続けるから意外と消耗する。使うタイミングは見極めなければいけない機能でもある。

 

 今までも機会が無かった訳ではないが、ロングモードに加え()()は消耗が激しい以上そう何度も狙えるものではない。となれば、一撃を以って九体の幻神獣を葬る、というおよそ通常では考えられない選択肢を採る事になる。

 とは言え、以前にも似たような経験がある。これと言って過剰に恐れる必用は無い。

 

 

 光剣の準備を終え、さらに二刀の片方を前に、もう片方を後ろ向きに構える。

 

 直後、ハイートが一斉に飛び掛かってくる。

 

 三本爪が迫ってくる。

 

 九体のハイートが全て俺の間合いの内側に入って来る直前、アスディーグの神装を発動。

 

「《消滅毒(アナイアレイト・ヴェノム)》」

 

 暗い青だった光剣が見慣れた禍々しい白色に変色、発光する。

 

「――円水斬(えんすいざん)

 

 神速制御を以って二刀を水平にその場で回転するように振り抜く。

 

 ロングモードで延長された刀身はわずかな時間差で飛び掛ってきたハイートたちを苦も無く捉え、切り裂いた。

 

 同時にアスディーグの神装もその能力を遺憾無く発揮している。

 アスディーグの《消滅毒》は、武装に注がれるエネルギーを変質させ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。難点も多いので使いどころが難しいが、まともに当たれば幻神獣と言えどもまず無事ではすまない。

 

 現に、円水斬の一撃に直撃したハイートの内一体はすでに上半身と下半身が分断され、さらに傷口は未だに白い光が残りハイートの体を徐々に消し去っている。

 程無くして光は消えたが、その時には既にハイートの核は無かった。

 他のハイートもほぼ同様。両足が掻き消えていたり即死していたりと様々だが、何れも最早戦闘が続行できる状態では無い。

 

 だがその予想に反し、両手を失ったがそれ以外は比較的傷の浅かったハイートが頭から突進してきた。

 一見すれば最後の悪足掻き。だが、それでも決して侮れない威力の攻撃を放ってくるのが幻神獣の恐ろしいところだ。

 

 とは言え、この状況下ではそこまで恐れることでもない。

 

「あばよ」

 

 すでにロングモードを解除し、通常の機竜牙剣(ブレード)と同じような状態になっていた竜毒牙剣を再度神速を以って振るう。

 その一撃は、ハイートの核を捉え即座に勝敗を決していた。

 

 

 この瞬間、ISの飛ぶこの世界での、初の機竜対幻神獣の戦いは幕を閉じた。

 

 

―――――――――

 

 

Side ???

 

 決着が付いた。

 

 運転手さんを避難させる必要があったため肉眼では視認出来ないほど距離はあったけど、その光景はハイパーセンサーを駆使する事でしっかりと見えていた。

 最後、鮮やかな、だけどどこか不気味さを感じさせる白い光を発していた二振りの大剣が円を描いた後、九体中八体のバケモノを倒し、最後に満身創痍とも取れる状態で突撃したバケモノを一撃で沈め、白い機体はその戦いを終わらせていた。

 

 控えめに言って凄まじかった。あの白い機体の性能もだけど、それを操るあの搭乗者も。

 

 高性能な機体というのは確かにあった方がいいものだが、それもいい事ばかりと言う訳じゃない。

 例えば素晴らしい食材を材料にして料理をしても、料理人が下手だと結局味の悪い料理が出来るのと同じように。高性能な機体には、それに見合った搭乗者が必要になる。

 

 その意味で言えば、今目の前であのバケモノ達を葬った機体とその搭乗者は素晴らしい組み合わせだった。

 機体も不可解な部分こそ多く感じられたけど、その性能は私が見てきた機体の中でも群を抜いていると言っても良いほどの機体。特に最後に見せたあの光は恐らく第三世代兵装か単一使用能力なんだろうけど、少なくても私は今まで見たことも聞いたことも無いほど強力な、それこそ世界最強(ブリュンヒルデ)の「零落白夜」よりも高い攻撃力を秘めているのではないかとさえ感じられた。

 その機体をまるで自分の手足と同じように操ったあの搭乗者も、並みの代表候補生など歯牙にもかけないほどの腕前ではないかとさえ確信させるほど。そして何より、あのバケモノ達を相手にまったく引くことなく戦い抜きなおかつ勝利して見せたその覚悟は私には真似出来そうに無いものだった。

 

 

 程無くしてあの白い機体はどこかへと飛び去った。

 一瞬追跡しなければいけないのではないかとも思ったけど、ここで運転手さんを見捨てるわけにも行かない。

 

 

 命の恩人を見逃す絶好の言い訳を手に入れた私は、ここから一番近い施設が倉持技研であることを確認すると、受け入れてもらうため通信を始めた。




戦闘描写って難しい・・・・・・・・・。
って言うか、これ本当によかったのだろうか・・・・・・?

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