IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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今回ちょっと短めです。すいません。

それと、事後報告になってしまいますが一応こちらでも報告しておきます。
一夏の神装機竜名の変更のため5月12日から5月14日のどこかで非公開にし、文章の見直し作業が終わり次第再公開しようと考えております。
申し訳ありません。


第四章(16):黒雨の暴威

Side 一夏

 

 対戦表に表示された名前のうち一つを見て、思わず表情が強張ったのがわかった。

 

「ボーデヴィッヒの試合か……」

「やっぱり不安なの?」

 

 隣で見ていた簪が聞いてきたが、そこにはおそらく意識の違いがある。

 

「いや……正直なところ、相手をしているペアには悪いが勝敗は見えている。

 心配事は、その試合内容の方なんだがな……」

「さすがにその言い方はエグイわよ」

 

 凰がすかさず突っ込みを入れてきたが、それでも事実ではある。それに、下手するとエグイだけでは済まされない事態になりかねない。

 

「下手な慰めのような評価よりも、その中で何を見出すかが重要な時もあるんですよ。

 それで、一夏。心配事の内容は?」

「……ボーデヴィッヒが、どのような戦い方を選ぶかです。

 普通にSEを削り合うだけなら、まだいいのですが」

「一方的な試合になると?

 ですが、前回の騒動を知っているならその程度は想定の範囲内でしょうし、そうでなくても専用機持ちの代表候補生であることくらいはすぐに分かります。言い方は悪いですが、相手チームにとっても想定の範囲内ではなくて?」

 

 アイリさんに聞かれて返した答えに、オルコットが疑問の声を上げた。

 正直なところ、自分の実力を一切理解していない自信家か何も考えずに参加した余程の馬鹿でもない限りはオルコットの意見で正しいと思う。

 が、それとはまた別な懸念があった。

 

「……オルコット。

 一番心を抉られる負け方って、何だと思う?」

「心を抉られる……?」

 

 俺の質問にオルコットは鸚鵡返しのように呟いたが、それよりも先に答えを出した人がいた。

 

「何も出来ないで、負けた時ですよ」

 

 答えたのは、アイリさんだった。

 その目線は相変わらずアリーナの中心を見つめたままだったが、瞳が映している景色は別なもののように見えた。

 

「何も出来ないで負けると、其の後に何も残らないんです。残ったとしても、それは後悔と惨めさだけ」

「……後から、反省する事もできないから。どうすればよかったとか、それも考えることができないから。

 余計に、辛くなるんだよ」

 

 アイリさんの台詞にフィルフィさんが続き、聞いていた簪と凰、オルコットが息を呑むのがわかった。

 

「この試合で、アイツがそれをやるって?」

「……力を、見せつけるために?」

 

 凰が確認のように呟き、簪がその目的と推測される事を言った。

 

「……気のせいだと、いいんだがな」

 

 俺としても外れて欲しい予想を抱きながら、その試合は始まりを告げた。

 

 

―――――――――

 

 

Side ラウラ

 

「下がっていろ」

 

 開幕の宣言が下された直後に、それだけ告げて下がらせる。

 

(下手に飛び回られても、邪魔なだけだ。

 それに、被弾などされて私の評価を下げてもらっても困る)

 

 下がった事を確認し、眼前の二機を見据える。

 二機とも火力寄りのバランス型だろう。装甲や機動系は通常仕様のままだが、その両手には軽量型のグレネードランチャーやミサイルランチャーといった、軽量の高火力単射装備を備えている。

 

(素人の浅知恵が……)

 

 軽くブーストし、大きく横へと移動する。それだけで弾丸が逸れていく。

 単射である以上、一撃を当てるだけでもそれなりにダメージを与えることができる。それが単射高威力の最大の利点だ。そして軽量であれば機動系への影響も最小限で済む。が、同時にそれは一撃を外した時の隙も大きいことを意味し、軽量高火力の装備は総じて弾数が少ない傾向にあることが多い。つまり、確実に当てられる腕前かそれ以前の前座となる牽制用装備が必要となる。

 今回の相手である二人は、二人で攻撃を互い違いに行う事で単射の欠点を強引にカバーしようとしている。それは結構だが、素人に毛が生えた程度の腕前では根幹的な射撃技能に問題を抱えておりカバーしきれていない。

 

(所詮は有象無象……小手先の戦術で覆せると思うな!)

 

 現に、此方の進路を横に大きく振るだけでほぼ全てを回避できている。

 其のうち迎撃しきれないと判断したのか、片方の装備がガトリング、もう片方が両手に重機関砲へと交換した。弾幕狙いの装備だろうが、ヌルいと言わざるを得ない。

 

「その程度で、対策のつもりか……!?」

 

 前進を中断し、急停止をかけて肩の大型レールカノンの照準をつける。狙いは、ガトリングの基部。

 

  ガオオォォォン

 

 発砲音が響き、狙い通りにガトリングの基部を破壊した。

 

「ちょ、まっ……!」

 

 相手ペアの片方が持っていたガトリングが爆発した。それによって発生した爆炎を目晦ましに再度急接近。

 事前にロックオンは完了している。そこへと向かって、ワイヤーブレードを一本投射し、爆炎の先で相手を補足。そのまま巻き取りつつ接近し、捕縛する。

 

 

  ゴゥッ!

 

 次に、スラスターを吹かせて捕獲したまま一気に加速。地面へと叩き付ける。

 

  ドゴンッ!

 

「……ッ!?」

 

 叩き付けた相手が一瞬息を詰まらせ、動きが止まる。

 そのまま残っていた五本のワイヤーブレードを投射した際の速度を以ってメインスラスターと四肢のフレームの装甲の内部へとその隙間から突き刺していく。

 SEは大して削れていないが、それでも相手は詰んでいる。スラスター無しのPICのみで動けるほどの腕など一介の学生が持っているはずもなく、四肢が事実上稼働不能になっている以上は攻撃手段がほぼ残っていない。

 

「……!? う、動かない!??」

 

 フレームと推進系を破壊された相手が何か喚いているが、気にすることもない。

 そのまま試合を終わらせるため、次の相手へと向かっていく。相手も最後の悪足掻き同然に重機関砲を向けてきたが―――

 

「フン……その程度で!」

 

―――《A・I・C(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)》を起動し、()()()()()()()()()()()()()()()()

 目論見通り、内部で銃弾が詰まり発砲時の薬莢が爆発した際の衝撃を全く逃がせずに爆散する。

 さらに爆発で怯んだところへと追撃を仕掛けるべく再度右手を翳して《A・I・C》を使用し捕縛。同時に左手のプラズマ手刀を展開し、切り刻んでいく。

 元々バランス重視のセッティングだったためか、装甲はそこまで厚くない。SEを削り尽くすのに、そう時間はかからなかった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

「……」

 

 言葉が出てこなかった。

 目の前で行われた試合は、もはや試合とさえ呼べない。それほどに一方的だった。

 

「……当たって欲しくない予想が当たったわね」

「……確かに実力はありますが。

 ドイツは、ここまで落ちぶれましたか」

 

 鈴とオルコットさんが口々に評価しましたが、その内容はお世辞にも高評価とは言えないものでした。

 同時に、横では別な意味で格の違いが判る会話が繰り広げられていました。

 

「……一夏君、どうだった?」

「悪い言い方をしてしまいますが、概ね予想通りの試合でした。

 それでも、最後まで戦おうとした二人は素直に称賛したいと思いますが」

「その口ぶりだと、攻略の目途は立ったみたいですね」

 

 最初にフィルフィさんが影内君に無難な問いかけをして、影内君も影内君らしい答えをそれに返していた。そして最後、アイリさんが影内君に爆弾発言ともとれる質問を確信に近い声音で聞いていました。

 

「ええ。前々から考えていた攻略法もですが、いくつかの新しい案も。

 いずれも確信があるとは言い難いものですが……」

「自信を持ちなさい、一夏。

 貴方が積み上げてきた経験はこんな所で砕かれる程度の物ではないでしょう。それに、今はパートナーとして闘ってくれる人もいるのですから」

 

 アイリさんが私の方をちらっと見て、影内君へと言いました。

 さらに、そこに続く人もいます。

 

「アイリちゃんの、言う通りだよ……。

 ね? 簪ちゃん、だったよね?」

「は、ハイ!?」

 

 唐突に、それまで影内君と話していたフィルフィさんが私の方へと声をかけてきました。

 突然の事に驚いて声が裏返った私に、それでも自分のペースを崩さないで語ったことは、私の想定の遥か外のことでした。

 

「……一夏君は、冷静に見えて無理しちゃうから。だから、一緒に戦ってあげて。

 一夏君の、師匠の一人として……友達の一人として、お願いです」

「は……はい!」

 

 私の想像の遥か外側の事を言ってきましたが、その内容は私にとって改めて一緒に勝ち抜いていく決意を固めさせてくれるものでした。

 

(……うん。

 せめて、必死に頑張ろう。やれることは少ないかもしれないけど、それでも……)

 

 そして、決意を新たにした時でした。

 ふと、ついさっきのフィルフィさんの台詞が蘇りました。

 

(……って、アレ?

 確か……今、フィルフィさんは影内君の……)

 

「あ、あの……さっき、影内君の師匠って……」

「……? うん。一夏君に、体術教えたの。私だよ」

 

 この瞬間、私の周囲には疑問と驚愕の入り混じった雰囲気が広がりました。

 

「……まあ、予備知識が一切無い状態で会えばそうなりますか」

 

 最初に呆れとも諦めとも取れる声でアイリさんが言いました。

 

「いや、でも……え?」

「……不躾ではありますが、雰囲気からは想像も付きませんね」

 

 次に、鈴とオルコットさんが混乱と疑問の声を上げた。

 

「安心しろ、オルコット。真実だ。

 俺如きでは練習相手すら務まらない人だよ」

「でも、一夏君にとっては、ルーちゃんが一番の師匠だよね。

 後、一夏君。そういう言い方は良くない」

「ええ。一時間も経たない内に言われた事を忘れましたか、一夏?

 いい加減に自己評価をもう少し高く持ちなさい」

 

 一方、影内君は相変わらず低い自己評価を注意されていました。心なしか、アイリさんが不機嫌そうにも見えます。

 でも、影内君の言い方を聞いていた私としても、彼の言い方はあまり気持ちのいいものではありませんでした。

 

(確かに、真実なのかもしれないけど……それにしたって、自信が無さすぎない……?)

 

 私自身、何度も救われている相手でもあり、今はトーナメントでのパートナーでもある人です。影内君とは実力的に本当にそこまで開いているとしても、必要以上に卑下しているように感じました。

 

(……なんで、こんなに卑下するんだろう…………?)

 

 それまでとは別種の疑問も抱きつつ、時間は過ぎていきました。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

 一悶着あったボーデヴィッヒペアと一般生徒ペアの観戦を終え、その後何試合か終わった後。

 俺と簪は、再びピットに居た。

 

「……いよいよだね」

「ああ」

 

 この後に控えているのは、ボーデヴィッヒペアとの試合。

 とは言っても、相手の戦力はその九割九分がボーデヴィッヒだろう。と言うより、ボーデヴィッヒがそうなるように仕向けるだろう。

 

「さて、傾向と対策は事前に話しておいたが……」

「それ以前に、何が起こるかわからない、だよね。

 大丈夫……とは、まだ言えないけど。それでも、全力で頑張るよ」

「余り根を詰めすぎるなよ。

 いざとなれは、こちらもできる限り……」

 

 事前に話したことの確認と、一時とは言えパートナーを務めている俺が果たすべき最低限の責務として考えている事を口にした、その時だった。

 

「私だって、影内君と一緒に特訓したんだよ。

 まだまだ追いつけたりはしないけど、一方的に頼りっぱなしにはしないよ」

 

 意外なほどに強気で放たれた言葉に、一瞬面食らう。

 が、同時にその変化を好ましくも思った。

 

「そう、か……。頼もしいな」

 

 最初に会った時はどこか頼りなさげな雰囲気であり、同時に気弱そうな面も多分に見受けられる。そんな印象だった。が、今はそんな雰囲気などない。時としてはそういう場面もあるが、全体的には随分いい顔をするようになったと思える。

 

(この短期間にここまで変わる物か……いや、以前からその素養と土台はあったのか)

 

 短期間に随分と頼もしくなった一時の相棒と一緒に、次の試合へと出撃した。

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

「唐澤さん、《打鉄弐式》製作の件は有り難うございました。

 ですが、今は試合ですので……」

「いえいえ、私としても貴重な経験が出来ましたのでお気になさらず。

 むしろ、私としては全力で来て欲しいですね。私も製作に関わった《打鉄弐式》の性能を見たいですし!!」

 

 どこか異様なハイテンションで受け答えをしてくれたのは、三組の所属で整備課の一人として《打鉄弐式》の製作にも協力してくれた唐澤靖子さんです。

 ですが、どことなく見覚えのあるハイテンションに試合とは全く別の意味で不安になりました。

 

「あ、それとその内倉持技研の事……というより、如月さんの開発した製品について、紹介してくれませんか?

 この前、高出力レーザーを利用した装備について話が盛り上がりまして。あんなに真剣に話を聞いてもらえたのは初めてだったので、将来的には如月さんのもとで働くことも視野に入れたくてですね……」

 

 この時、私は必死で現実逃避したくなる気持ちを抑えていました。

 

(……心配事が、現実に………)

 

 ですが、そう固まっているわけにも行かないのでなんとか答えます。

 

「……善処、してみるね」

 

 私は、これだけ応えるので精一杯でした。

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

「……来たな」

「まあ、試合だしな」

 

 試合のために出撃したところ、早速ボーデヴィッヒにお出迎えされていた。特に何の気無しに返事したところ、挑発を重ねてきた。

 

「随分と余裕だな。

 まるで自分たちの勝利を疑っていないかのようだ」

「負けるつもりで試合に臨むヤツは居ないだろ」

 

 が、挑発されるのにも主に機竜世界で慣れたものだったためか、特にこれといって気にするような事でもない。

 

「フン……まあいい。

 叩き潰してやる」

「……その言葉、取りあえずそのまま返しておく」

 

 ボーデヴィッヒの、試合前最後の挑発。

 それだけは、そのまま返した。

 

(……あの時、最弱風情などといった事。

 忘れてはいないのでな)

 

 かつて、ボーデヴィッヒが凰とオルコットを強襲した時の事。

 あの時に、俺が挑発の意味も込めて言った言葉に対して、ボーデヴィッヒが発した言葉。

 

 友人を襲撃された上、彼女のあずかり知らぬ事とは言えルクスさん(最初の師匠)を小馬鹿にでもするような発言が合った事。

 

(纏めて、今回の試合で返させてもらうぞ。

 ラウラ・ボーデヴィッヒ!)


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