慣れない新生活で色々とやっているうちに、時間が経ってしまいました。重ね重ね、申し訳ありません。
それと、突然ですが、ある事情によりアンケートを取りたいと思います。答えて下さる方は活動報告の方にお願いします。
タイトルは「一夏の神装機竜名に関するアンケート」です。是非参加してください。
Side 簪
(やっぱり、二人とも強い……もう立て直してきてる……)
序盤は影内君の戦略もあって優位に進めていたけれど、それでも鈴とオルコットさんは巻き返してきている。
私達の敗色が濃厚になったとは思っていない――むしろ、最低でも同等だと思う。けど、同時にここまで巻き返してきた鈴とオルコットさんの腕前を改めて感じていた。
(でも、私だって!)
私と《打鉄弐式》だって、このままで終わる気は無いし、影内君の足手纏いになるつもりも無い。
(でも、ここからどうやって攻めれば……?)
だけど、今は鈴とオルコットさんの二人を相手にどうやって攻め立てるか。それが分からなかった。
鈴とオルコットさんは二人とも、特性は違うけど
だけど、そうやって考え込んで逡巡していた私へと短い問いが投げかけられました。
『簪、《山嵐》は後何斉射分残っている?』
『まだ結構残ってるけど……どうするつもりなの?』
唐突に影内君から問われた私は、未だ衰えない目の前の攻撃を警戒しながら答えました。
答えた直後、横目で少しだけ影内君の方を見ると――頼もしい、不敵な笑みを浮かべていました。
『この状況の打開と、最後の仕上げを頼みたくてな。
その分が残っているかどうかの確認だ』
そして、私の疑問に帰ってきた影内君の答えは、やはり頼もしい物でした。
だけど、影内君の組み立てたその戦術の中に私が果たすべき役割があるのなら、それを出来る限り早く把握しておきたかった。
『まず、合図するからその時に一回《山嵐》を派手に撃ち込んでくれ。
合図の内容は……』
一夏の作戦とその根拠を聞き、私はその作戦への確信と一握りの不安を抱きながらも準備を進めていきました。
―――――――――
Side 鈴音
(……影内が下がった。
何を考えてるの!?)
今現在、拮抗し始めているこの戦況での後退。
ほぼ確実に影内と簪の戦略だけど、ここで仮に乗っからないように動くとすれば私たちも距離を取っての様子見になる。
だけど、その場合良くても戦局は膠着。影内の射撃も格闘が目立ちまくっているから印象が薄いだけで、射撃の腕も低いわけではない。簪の火力は言わずもがな。半面、私達は遠距離での瞬間的な火力は低め。私の衝撃砲はどちらかと言えば牽制や相手の体勢を崩すのに向いていて、セシリアは単射の威力は並みかそれより少し高め位のためある程度の数を当てないと火力が出にくい。
(遠距離では、むしろこっちが不利……なら!)
「セシリア!」
「お任せ下さいまし!」
すぐに体制を整えると、セシリアの援護を受けて影内に追撃を仕掛ける。
影内も射撃を仕掛けるつもりだったのか、片手には拳銃のような、もう片方には拳銃型を大きくしたような大型砲を用意している。けど、その状態だと良くても四つ足を使った格闘が精々。
(今、格闘を仕掛ければ……影内相手でも、打ち勝てる可能性はある!)
前に出ればそれだけ攻撃を受けやすくはなるけど、迎撃する以上はどうしても私の方に攻撃が集中する。そうなれば今度はセシリアが攻撃しやすくなる。
一歩間違えば再び分断されかねないけど、今の影内は両手が射撃武器。簪も《打鉄弐式》の多連装ミサイルと連射型荷電粒子砲を展開していて、格闘戦に移行するには少しだけ間がある。今なら、この二人を相手に格闘で優位に立てるかもしれない。
(賭けになるけど……分の悪い賭けは、嫌いじゃない!)
罠の可能性は捨てきれない。けれど、それを警戒して何もできないようだとこの強敵二人を相手にしての勝利なんて望めない。
そう考えて、セシリアに援護を任せて私は踏み込んだ。
―――この時、二人がほんの僅かに会心の笑みを浮かべていたことに、私は気付かなかった。
―――――――――
Side 一夏
(来たな……今の凰とオルコットならそうすると思ったが、予想通りか)
凰が予想通りの行動を取ってきたところで、少し後ろの簪の準備を確認する。
「そこぉっ!」
真正面から最短の距離を出し得る最速で凰が接近してくる。
そして、その手に握られた二刀の青龍刀が俺に向かって振り抜かれる―――その直前。俺は、チャージを終えた
「……ッ!」
「ハァッ!」
ガギンッ!
俺の行動を見て、凰が一瞬だけ驚きの表情を見せた。それと同時、一刀のみ手にした
あの重い二刀を相手にしての神速制御では押し切るのに威力が少々心もとないが、それでも体勢を崩すには十分。現に、凰は姿勢を横に揺らしていた。
さらに、振り抜いた直後に空いていた片手に
ヒュッ!
狙う相手は凰ではなく、後方に控えているオルコット。元々回避能力そのものに難のあったオルコットは、俺の狙い通りライフルを握った手に竜尾鋼線を巻き付けられる事態になっていた。
「さて、二対二でもするか? 二人とも」
返事など待たずに、反撃しようとしてきた凰へとカウンター気味に二本の右足を使った回し蹴りを入れ、胴体を挟み込む。さらに、二本の左足で今度は足を拘束する。
「ちょ、動け……この!」
「させないよ!」
ドシュシュシュ!
咄嗟に衝撃砲を放とうとした凰だが、そこは簪からの援護が入った。ミサイルが何発か凰へと殺到していた。
「ッ!」
当然ながら今の状態では回避行動ができないため、迎撃か防御の二択となる。そして、凰が選択したのは衝撃砲による迎撃だった。
が、迎撃に衝撃砲を使ったため俺の方からは逸れる。そして、俺はその間に竜尾鋼線を思いっきり引き寄せながら四つ足で凰を拘束しつつ推進器を使い全力で加速した。
ゴッ!
加速の反動を感じつつ、全力で引き寄せる。
元々推力ではこちらに分がある以上、勝算は十分にあった。
「な、これでは……!」
「セシリア、避けなさい!」
いい加減に此方の意図に気付いた二人が何とか衝突を回避しようと試みるが、無論、そんな事は許さない。
そして、簪の方も準備が出来ているようだった。
「っらあああぁぁぁ!」
拘束していた凰を回し蹴りの要領で振り回した後、オルコットの方へと脚で投げた。
「ちょ、待っ!」
「ヒィッ!」
二人が短い悲鳴を上げている間に、距離が一気に縮まり――
ドガアァ!!
――派手な衝突音が鳴り渡り、二人が激突した。
この機を逃す手は無い。
「簪!」
「任せて!」
後ろで待機していた簪に呼びかける。
その両手には先程投げ渡した機竜息銃と機竜息砲、両肩の
ドドドドドドシュガギュウウゥゥガガガガガビシュシュシュシュシュン!!!
この量の装備が一斉に火を噴き、激突から未だ立ち直り切れていない二人へと襲い掛かる。
これほどの火力を相手に無事で済むほどの装甲を凰とオルコットは持ち合わせていない。途轍もない速度でSEが削れていき、間もなく底をついた。
―――――――――
Side 簪
「……か、勝てた…………?」
粗方撃ち尽くした私は、思っていたよりも凄い事になっている爆炎の向こうを見つめながら呟いていた。
『試合終了!
勝者、影内一夏、更識簪ペア!』
高々と鳴り響いた審判役の先生の声に、ようやく実感が湧いてくる。
でも、勝利の余韻に浸れていたのはそこまでだった。冷静に考えれば、鈴とオルコットさんが空中に投げ出されている可能性が高い。しかも、最後は必死だったこともあって遠慮なく撃っていただけに、尚更だった。
「簪、オルコットの方頼む」
「了解!」
そこには影内君も気付いていたみたいで、すぐに手分けして二人の手元に飛んでいく。そして、予想通り装甲が自動で解除されたISから放り出された二人を受け止めると、そのまま軟着陸。
「ああああああ負けたああアァァァ!!」
「くっ……やはり、お二人ともお強いですわね」
着陸して二人を立たせた直後、悔し気な様子を隠そうともしていない二人の叫び声が響いた。
でも、心なしか少し晴れ晴れとした表情にも見える。
「でも、まぁ……二人とも、強かったしね。
これで次負けたりしたら承知しないわよ?」
「ええ、本当に……。
敗者は潔く舞台袖に下がらせていただきますが、お二人の御健闘をお祈りさせていただきますわ」
二人がその場で称賛と応援をくれたことに、素直に嬉しく思うと同時に少し気恥ずかしくも感じました。けれど、それ以上に誇らしくもありました。
「……二人も強かったよ。以前よりもよほど。
今のお前たちと試合を出来た事、誇りに思う」
「わ、私もだよ!」
そして私が少し感動して呆けていたところで、影内君が二人への返事を返しました。私も慌てて後に続きましたが、そんな私の様子を見て鈴とオルコットさんが微笑みながら私の方へと向き直りました。
「それとさ、簪。
アンタ、相方に負けないくらい輝いてたわよ」
「ええ。お二人の連携、思わず嫉妬してしまいそうでしたわ」
二人からの言葉に、思わず涙ぐみそうになりました。それほど、嬉しい言葉でした。
横で影内君も満足気な様子を見せていたことも、拍車をかけていたかもしれません。
それから間もなく、それぞれのピットへと戻りました。
―――――――――
Side 一夏
「一夏、簪さん。
二人とも、お疲れさまでした」
「あ、アイリさん」
「観戦されていたのですか」
試合を終え、整備室から出てきた俺と簪は、直後にアイリさんとその護衛として来ているフィルフィさんに迎えられていた。
「……いい、試合だったと、思うよ」
「有り難うございます」
「あ、えっと……有り難うございます!」
体術の師でもあるフィルフィさんから言われ、少し誇らしい気持ちになった。
一方、相方を務めてもらっている簪は何故か完全に焦って混乱しており、一杯一杯な様子に見受けられる。
「簪、落ち着け。
そんなに緊張しなくても大丈夫だ」
「わ、分かってる、よ……大丈夫大丈夫……」
「全然、大丈夫そうに聞こえませんよ。
もう少し気を楽に持ってください」
見ていたアイリさんも何処か可笑しそうに微笑みながら、簪へと話しかけていた。
そして、アイリさんの護衛として来て頂いているフィルフィさんは一歩前に出ると―――
「……これ、食べる?」
「え、あ……い、頂きます」
―――手に持っていた、IS学園の購買で買ったと思しき菓子パンの一部をちぎって手渡していた。
俺の方はある意味でフィルフィさんらしい行動にどことなく安心感を覚え、簪の方もそのゆっくりとした口調とお菓子を差し出すという毒気を抜かれる行動で緊張も解れたらしかった。
「さて、一夏。
滑り出しは上々といったところですか」
「ええ。
幸いなことに、相性も腕も良い相方もいますしね」
「ふぇ!?」
簪の方をほんの一瞬だけ見ながら話したところ、アイリさんも「そうですね」と微笑みながら返事を返してくれた。……笑みが微妙に黒く見えたのは気のせいだと思うが。
「それは良かったですね。
ですが、今後は何が起こるか分かりませんしね。十分気を付けるように……。また、誰かから目を付けられているみたいですし」
そして、次いで放たれた言葉は少し棘があるように感じた。
「ええ、まぁ……」
「この前の報告の時にでも言ってくれればよかったのですが……出来る限り、伝えるようにと何度も言ってきたはずですが?」
「解決の目途は立っていましたし、あの時はより優先すべき事がありましたので」
「もしかして……ボーデヴィッヒさんの事、報告してなかったの?」
横で聞いていた簪が目聡く事情を察し、切り込んできた。
心なしか、少しジト目気味になっている気がする。
「ああ。
「そうなんだ……」
言っている別件の内容はすぐに分かったらしく、簪はそれ以上の追及はしてこようとはしなかった。言いたいことはありそうだったけども。
だが、別な人からその続きが話された。
「……一夏君。ダメだよ」
フィルフィさんから、言葉少なに、だけど確かに叱責が下された。
「アイリちゃんも、ルーちゃんも、私も……皆、心配してるんだよ。
だから、ダメ。ちゃんと話して」
「で、ですが……こちらの方だけで処理できる事案でしたら、そうした方がよいかと思いまして……」
俺の話を聞いても、フィルフィさんは激するようなことは無く少しだけ優しい表情になって――
「話してくれれば、皆で頑張れるから。ね?」
――諭すように、言ってくれた。
不意に言われた言葉に、思わず涙ぐみそうになったが、誰の目があるかも分からない手前何とかこらえる。
「前々から言っているとは思いますが……貴方は自分
…………まったく、なんで家の男性は心配ばっかりかけるんでしょう……」
さらに、アイリさんも言い聞かせるような口調で言ってくれた。後半は声が小さかったこともあって上手く聞こえなかったけども。
「……はい。次からは出来る限り報告します」
返事は短く止めた。それだけ言うのが精一杯だったから。
「さて。
今から次の試合を案内してほしいものですが……」
そこでアイリさんは何を思ったのか、僅かに目線をずらしてから再度向き直ってから話し始めた。気のせいかもしれないが、少し険しい表情になっているように見える。アイリさんの横にいるフィルフィさんも同様だったため、多分気のせいではないと思うが。
「少し、
確か、第三アリーナでしたよね?」
「はい」
「では、一夏。先に行って席を確保しておいてくれませんか?」
「委細了解しました」
寄り道の内容が気にならないわけではないが、フィルフィさんもいる事だし多少の事なら問題ないだろう。それに、俺も行かなければならないような事になったなら連絡が来ることだろう。
そう判断し、この場は行くことにした。
――後々、この判断を大いに後悔することになったが。
―――――――――
Side アイリ
一夏と簪さんが第三アリーナの方へと行ったのを見送り、声が届かないくらいの距離まで離れたのを確認してから後ろの方へと向き直りました。
「いい加減、出てきたらどうです?
一教師が一生徒とその後援者の会話を盗み聞きするのも、あまり良い趣味とは言えないと思いますが?」
「いけしゃあしゃあと……言ってくれるものだな」
出てきたのは、予想通りと言えば予想通りな人物。織斑千冬、其の人でした。
「で、今回は何用ですか?」
「フン……貴様らと話す気など無い。
一夏をああも変えた連中になど」
彼女からの返答に、かつて一夏から報告されたことを思い返しました。
彼女には既に一夏の正体が割れていることですし、一夏から聞いた過去の彼女の話とこれまでの言動から考えると今の一夏があのようになった原因の一端が自分にあるとは思わないでしょう。
(まあ……あの
過去のある過ちを思い返し、思わず苦笑が漏れそうになったのは何とか堪えました。
一方、彼女はそんな私たちの様子に苛立ちを感じている様子を隠そうともしていませんでした。
「では、何をしに来たのですか?」
「こうするために、だ……ッ!」
このままでは何も進まないと思い、話を進めようとしてきた時でした。
彼女は、一気に私目がけて間合いを詰めてきました。その右手を握り締めて、腰のあたりに構えながら。私には戦闘技能の類は皆無である以上、避けることはできないでしょう。
「……させない、よ?」
「……な、に!?」
ですが、それが私に届くことはありませんでした。護衛として来てもらったフィルフィさんが前に割って入り、放たれたその拳を掴んで受け止めてくえたからです。
余程の自信があったのでしょうか、彼女は面食らったような様子でした。
「アイリちゃんを、守ってって……ルーちゃんに、言われたから。
やらせない、よ……!」
その心強い姿に私は安心感を覚えましたが、反面、彼女は少し気圧された様子でした。
その姿に背中を押されたようにも感じたこともあり、少しだけ話すことにしました。
「……私には、家族がいます。
たった一人だけの、家族です」
「……一人、だと?」
「ええ。その人以外の家族は、今は居ません。
私にとっては唯一の肉親であり……一夏にとっては、最初の師でもある人です」
それを聞いた瞬間、彼女は殺意に満ちた目を向けてきましたが、気にする事でもないので続けることにします。
「其の人は、困った人でしてね……心配ばかりかけるんですよ。その癖、厄介事にも首を突っ込みたがるような人です」
「……そんな人間に、一夏が!」
「ですが……そんな人にも、自慢できるような点はあるんですよ。
そして、本人の前では絶対に言いませんけど。私はそんな人が私の家族で良かったと、今は心の底から言えますから」
相変らず剣呑な雰囲気のままでしたが、それは次の私の話で
「そして、最後に。
私は、一夏から貴方がそのような存在だったとは、一度も聞いたことがありません。
「そ……そんな、馬鹿な事がある物か!」
信じられないといった表情を顔に張り付けて叫んだ織斑千冬さんでしたが、其処に取り合う理由はありません。
「いえ、事実です。
どうして、そのようになったのか。よく考えてみてください」
そこまで言ったところで、急速に織斑千冬の覇気は萎んでいったように見えました。
「……一つだけ、言っておくね」
そしてその場を去って一夏の元に行こうとした時、意外と言えば意外なことに、フィルフィさんが話し始めました。
「アイリちゃんに、手を出したりしたら。絶対に、一夏君は貴女を許さないよ。
……一夏君にとって、アイリちゃんはそれだけ大事な人だから」
意外といえば意外な言葉に、思わず顔が熱くなったのを感じました。
(……それが、異性としてのそれだったら最高だったのですが)
ですが、それがどういった意味であるかも知っている以上、手放しに喜べるものではない事も知っています。
(……その程度で、諦められるような物でもなかったのですが)
そこまで考えたところで、おかしな方向に行きかけた思考を元に戻します。
そして、フィルフィさんにも声をかけて一夏達の待っている第三アリーナの方へと脚を向けました。
―――――――――
Side 箒
「デュノア、援護頼む!」
「OK!」
第三アリーナでの第一試合が、私達の初戦だった。
相手は三組の一般生徒同士のペアで、実力的には悪くなかった。双方とも打鉄だが、片方が近接仕様、もう片方が超長距離射撃用
(戦術の発想と着眼点は悪くないが……装備が少々極端すぎるな)
だが、少しばかり無駄が目立つ。アリーナ程度の交戦距離では《撃鉄》の射程距離を持て余す上、長距離精密射撃のための性能を優先している以上どうしても砲身冷却や再装填にかかる時間が長く、ひいては連射効率が悪いといえる。そして、相手の射程距離内で連射効率の悪い武器というのは回避技能が高いか確実に当てられる射撃技術のどちらかが無いと厳しい。また、格闘戦仕様の方も武装の総数が多く、持て余し気味になっている。機動力を殺さない範囲で適正な装甲を追加してるのはいいが、持て余している格闘用装備を減らして牽制用の装備でも積むべきだろう。
(ま、初期の私よりはずっといいが)
そこまで考えたところで、少し自虐的な方向に行き始めた思考を、切り替える。
(だが、年季だけはこちらが上だ。
加えて、デュノアは遠近双方で高いレベルの実力者……悪いが、ここは通させてもらう!)
「ハアアァァァ!!」
近接戦仕様の《打鉄》を纏った生徒へと
仕留めるまでには至らなかったが、反撃を受ける前に離脱。すぐに後ろで精密射撃仕様の《打鉄》を纏っている生徒へと狙いを変更する。
後ろから近接仕様の《打鉄》を纏った生徒が追いすがってくるが、それは阻止された。
「僕を無視しないで欲しいな」
デュノアが構えたアサルトカノン《ガルム》と重機関砲《デザート・フォックス》の銃弾が正確に刺さり、見事に近接仕様の《打鉄》を沈黙させた。
さらに、私の方もすでに接近を終了させている。そのまま近接戦へと持ち込み、SEを削り取っていく。
間も無く、決着は付いた。
―――――――――
Side 一夏
「見事な物だな、あの二人は」
「……いい動き、してるね」
「短期間で構築したとは思えないコンビネーション……」
「ええ、素晴らしい腕前ですね。
しかし、それでも当たれば負ける気はないのでしょう?」
第三アリーナの観戦席、最初に簪と二人で観戦を始め、其の後にアイリさんとフィルフィさんの二人と合流し、最後に機体の整備を最低限終えたらしい凰とオルコットの二人が来て、最終的に六人で観戦をしていた。
「ええ。
当たるようなことがあれば、全力で迎え撃ちます」
「アンタが言うと洒落にならないわよ、それ……」
「今は簪さんと言うパートナーも居ますから、中距離以遠の火力も充実していますしね……。
一年のトーナメント優勝候補ではなくて?」
見ていた凰とオルコットがぼやくように言っていたが、その評価自体は素直に受け取っておくことにした。
が、後には気を抜けない相手がいる事も事実。それに、俺も俺でまだまだ目標とする高みには至っていない事も自覚しているつもりではある。
「その評価自体は光栄なのだがな……」
「でも、負ける気が無い事は確かなんだよね?
一緒に頑張ろう!」
「ああ、頼む」
隣で見ていた簪が元気に宣言してくれたところで、次の試合の組み合わせが発表された。
――その組み合わせの中には、「ラウラ・ボーデヴィッヒ」の名前もあった。
―――――――――
Side ラウラ
(やはり勝ち抜いてきたか……予想通りと言ったところだろう)
トーナメント表を確認し、次の試合で当たることになった相手を確認していた。
そこには、予想通りのペア。影内一夏と更識簪。後者はデータ不足による
(……敵を砕く力こそ、必要なのだ。それを示すことにこそ、意味がある。
それだけが、兵士の全てだ)
だが、敵がいかに脅威であれど、やるべきことは変わらない。
「……叩き、潰す!」