IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第四章(13):タッグトーナメント

Side 一夏

 

「……かなり、人が入っているな」

「そう、だね……」

 

 フランスの問題もひとまず解決の目途が立ち、簪の《打鉄弐式》も完成して迎えた学年別トーナメントの当日。

 観客席が各国の要人で埋め尽くされているの控室から見て、多少げんなりした気持ちを抱えていた。

 

(ほとんどは研究機関か各国の軍事関係だろうな……スカウトか青田刈り目的だろうが)

 

 遠慮なく本音を言ってしまえば、新王国の機竜使い(ドラグナイト)として生きていくことを決めている以上こういう場所で注目を集めるのはかえって面倒事になりかねない。

 とは言え、一応はこの学園に通っている以上はあまり露骨にこういった行事を特に理由もなしに参加せず悪目立ちもしたくない。

 

(それに……お披露目位は手伝ってもいいだろうし)

 

 隣で一緒に控えている簪を見ながら、今までの事を少し考えていた。今は選手用の個別控室で抽選の結果を待っている。

 簪の専用IS《打鉄弐式》は一部(第三世代兵装)を除き完成している。完成後は一緒に練習しつつ細かい調整を手伝い、完成度を高めていった。が、やはり完成までにそれなりに時間がかかっているため、十分とは言い難いものもある。

 

(……そこは、俺としても出来うる限りフォローしつつ簪の操縦者としての腕前に期待するか。今まで一緒に訓練した感じだと、十分期待できそうだし。

 とはいえ、さすがに三和音(トライアド)のようには行かないだろうが……)

 

 練度の不安はあるが、もうどうしようもない。出来る限りの最善を尽くすのみだ。

 

「ねえ、影内君」

「何だ?」

 

 そうこうと考え事をしていたら、簪からの声がかかった。

 

「影内君は、どのペアが強そうだと思う?」

「そうだな……。

 確実なのは凰とオルコットだろう。互いの能力が前衛と後衛ではっきりと分かれている分、立ち回りやすいだろうしな。それに個々の能力も十分。

 その次に、剣崎とデュノア。二人とも第二世代の機体だが、基本性能の面では侮れない上、遠近双方からデュノアの手厚い弾幕支援を受けつつ一撃必殺の剣技を持つ剣崎が突っ込んでくるとなるとな……」

 

 凰の《甲龍》とオルコットの《ブルー・ティアーズ》も修復が完了しており、2人も当然参加する。が、やはり修復に多大な時間がかかってしまったため連携の練度に不安が残る事態となっていた。が、2人の機体特性を考えれば無理に複雑な事をするより互いの役割りをキッチリと熟した方が実力を出せるだろう。そして複雑な連携を必要としないという事は、多少の練度の低さは補えるという事にも繋がる。とはいえ、一度その連携を崩されると脆いだろうが。

 剣崎とデュノアの方も侮れるペアではない。いつかにデュノアと摸擬戦したとき、彼女の遠近双方での攻撃能力と、それを支える対応能力の高さは既に見た。そして、剣崎は近接限定とはいえ一撃必殺と呼んで差し支えないほどの剣技を持っており、其処に至るまでの回避能力においては群を抜いていると言ってもいいだろう。想定される戦術はデュノアの種々の銃火器での火力支援を受けつつ剣崎が突っ込む。それだけでも、あの二人なら強力な陣形足り得る。弱点らしい弱点と言えば両方とも装甲が厚くはないことくらいだが、それ以外にも探した方が多分いい。

 

「……個人的に少し聞いておきたいんだけど、ボーデヴィッヒさんとかは?」

「ボーデヴィッヒか……」

「何でかは知らないけど、影内君を目の敵にしていたみたいだし。

 もし当たることになったら、って思って……」

 

 簪の問いかけに、少し考える。

 確かに、ボーデヴィッヒ自身の腕前は悪くない……どころか、おそらくは一年生内においてボーデヴィッヒと並ぶほどの腕前を持つ人はほとんどいないだろう。

 

「……正直、同学年内での個人としての腕前で言えば間違いなく上位だろうな」

 

 だが、今回のトーナメントのルールにおいてはその限りではない。むしろ、やりようによっては脅威度が激減するだろう。

 

「どう戦うつもりなの?」

 

 横の簪が少し心配そうな顔で聞いてくる。

 少し気が早いが、伝えておいた方がいい内容だとは思ったのでこの場で伝えておく。

 

「確かに厄介な装備を持っているし、個人としての腕前も高い。

 が、それだけが勝敗を左右する重要な要素というわけでもない。特に、今回のようなタッグを組んで戦うような場合はな」

「えっと……つまり……」

 

 簡単に要点だけを言ったが、簪は理解が微妙そうな表情をしている。

 だから、もっと直接的に分かり易く説明することにする。

 

「……まず、ボーデヴィッヒの態度からして多分、任意で組んだペアではなくて抽選で決まったペアになるだろうな。そうなれば連携の練度は低いだろうし、そもそもボーデヴィッヒ自身が連携を取ろうとするかどうか自体が怪しい。加えて組む生徒は多分一般の生徒だろうから、凰とオルコットのように互いが役割をこなせばそれなりに形になるという事もない」

「でも、組むペアがそうと決まればボーデヴィッヒさんも対策してくるんじゃ……?」

 

 簪が口にした疑問は至極真っ当なものであり、ある意味では当然と言えるものだ。

 ましてや、ボーデヴィッヒは本職の軍人。連携の重要性を知らないはずがないのだから、むしろ簪の言った通り何らかの対策をしてくると考えるの方が自然だろう。

 だが、個人的にはそうと思えない部分があった。

 

「ボーデヴィッヒはそれを分かった上でフォローしない可能性がある。

 前に戦った時、ISという力を示すことにこそ意味があると言っていた。つまり、アイツは何らかの理由で力そのものを誇示することに執着している。今回のトーナメントのルールで、その目的を果たすのに手っ取り早い手段は何だ?」

「……実質的に、一対二での圧勝?」

 

 核心は無かったのだろう、少し弱い語調で呟き気味に放たれた簪の台詞に俺は頷いていた。

 

「俺も同じ考えだ。

 つまり、ボーデヴィッヒは戦力的な不利を承知であえて一対二の状況での戦いを挑んでくる」

「でも、そんな事……出来るの?

 いくら専用機持ちって言ったって、其処までの事を……専用機持ち同士でのペアもいるのに……」

 

 簪の懸念ももっともだが、今までのボーデヴィッヒの言動や織斑教諭の発言を考えるとやる可能性は高い。

 そう考え、理由も一緒に言っておくことにした。

 

「さっきも言ったが、ボーデヴィッヒ自身の実力ははっきり言って高い部類にある。一般生徒同士のペアだと一対二でも勝負にならないだろう。

 専用機同士のペアを相手にしても、腕と立ち回り次第では互角以上に立ち回ることもできなくはない。いつかの摸擬戦の時の山田教諭なんて、量産機で専用機二機を相手にしていたしな」

「ボーデヴィッヒさんも、それが出来るって言う事……?」

「出来る出来ないより、本人が出来ると思っているだろうって事だ」

 

 俺の返答に、一応は言いたいことを理解してくれたらしい。

 

「もし、そうなったとして……どうやって勝つつもりなの?

 影内君なら心配しなくてもいいのかもしれないけど……」

 

 簪の懸念を聞くと同時に、少し苦笑が漏れ出た。

 

(確かに、手が無いわけではないが。それよりも此方が問題か)

 

 簪の言った通り、ボーデヴィッヒと《シュヴァルツェア・レーゲン》の組み合わせに対する対策はいくつか考えてある。

 が、やはり一人でできることには限りがある。

 

「やりようは無くはないだろうが……それよりも、出来れば協力してほしいんだが」

「……初めての実戦になる《打鉄弐式》で、どこまでやれるかは少し不安だけど。

 でも、頑張ってみるね」

 

 不安を隠しきれていない簪だが、それも無理のない事だ。《打鉄弐式》を使っての衆人観衆の中での公式の試合は初めてであるうえ、彼女自身も思い入れのある機体なのだから無様な姿など見せられないと気合が入っていることだろう。

 だが、今の彼女はそれが重圧となって極度に緊張し、体が硬くなっている印象を受ける。

 とはいえ、上手い事を言えるわけでもない。だから、率直に思っている事だけ告げた。

 

「こういうことを言うのもなんだが……俺は簪の事を当てにしている」

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

「こういうことを言うのもなんだが……俺は簪の事を当てにしている」

 

 ここまで多くの人の中で戦うのは初めての事だったから緊張しっぱなしだった私に、ペアを組んでくれた影内君は意外な一言をくれた。

 

「確かに一人で相手出来なくは無いが、それと勝てるかどうかは別な事だ。

 簪の腕前は一緒に鍛錬していたこともあってある程度知っているし、それが十分信用できるものであることも知っている。

 だから、そんなに緊張しなくていい。普段通りに、全力でやればいい」

 

 今まで、箒と組んでの二対一でもほとんど勝てたことが無いだけにこんな風に言ってくれるのは意外だった。

 

「それに、いざとなれば二人で戦えばいい」

「二人で……?」

 

 影内君の言葉に、少し考え込みかけました。

 ですけど、私が答えを出す前に影内君が続きを答えてくれました。

 

「そうだ。折角の()()()マッチトーナメント、わざわざ一対一を二つやる必要はない。二対二で戦えばいい。

 さっき言ったボーデヴィッヒへの対策でも、その装備特性上ボーデヴィッヒの《シュヴァルツィア・レーゲン》は対単一が得意であることは間違いない。だから、単純に二人で適切に攻め立てるのが一番効果的だろう」

「だから、個人としての腕前だけが勝敗を左右する重要な要素じゃない、と」

「そういう事だ」

 

 影内君の説明に、その考え方へとようやくある程度の理解が得られました。

 けれど、同時にここまで説明されたことと、こういった事をすぐに思いつくことに対してどうしても私と影内君の差みたいなものを感じていた。

 

(やっぱり、まだ頼ってる……)

 

 いくら一緒に訓練させてもらっていると言っても、年季の違いがある上にあのバケモノ相手にも戦えるほどの覚悟と実力がある影内君と私では、やはり私の方が役者不足ではないか。影内君に言って貰ってはいても、そういう思いが抜けきりませんでした。

 そんな暗い方向に行きかけた思考を誤魔化すため、私はトーナメントの組み合わせがもうすぐ表示される画面の方を見ました。

 

「もうすぐ組み合わせが発表されるね」

「そうだな」

 

 だけど、その組み合わせは「まさか」としか言えないものでした。

 

「……初戦から見知った顔とはな」

 

 この言葉のとおり、初戦の相手は鈴とオルコットさんのペア。二人ともいとどは影内君に負けているだけに、もしかしたら相当リベンジに燃えているかもしれません。

 そしてもう二組、気になっていたペア。箒とデュノアさんのペアに、ボーデヴィッヒさんの入っているペア。

 まず、箒とデュノアさんは一般生徒とのペアと当たることになっているようだった。箒とデュノアさんのペアなら問題なく勝ち上がれると思う。

 次に、ボーデヴィッヒさんのペア。影内君の予想通り、ボーデヴィッヒさんは一般生徒とペアを組んでいた。そして、相手はやはり一般生徒のペア。此方も二回戦に勝ち上がってくることになると思う。

 そして、二回戦に上がってくる人を考えると……少し、身構えてしまった。

 

「しかも、この組み合わせだと……二回戦で、多分ボーデヴィッヒさんと当たる、よね?」

 

 そう、今現在の予想のままボーデヴィッヒさんが二回戦に上がって来た場合、私達か鈴とオルコットさんと当たることになる。

 私以外の全員が総じて先日の問題の当事者なだけに、何か問題が起こらないかと心配だった。

 

「そうなるだろうな……。

 まあ、それについては後にしよう。今は目の前の相手に集中すべきだ。凰とオルコットも侮れない相手だし、対策でも練らないとな」

「あ……うん。そう、だね」

 

 影内君に言われ、確かにその通りだと思いました。同時に、そのことに対してなんで考えが行かなかったんだろうと少しの自己嫌悪もでかけました。

 

「それじゃ、鈴とオルコットさん相手にはどうする気なの?」

「そうだな……まず、聞いておきたいんだが……」

 

 そこから、私たちは想定される対戦相手とその対策について話し合っていきました。

 

 

―――――――――

 

 

Side ???

 

「いよいよだ……()()()()()()がどうなるか……実に、実に楽しみだよ…………」

 

 堪え切れず、笑いが漏れる。

 あの嘗ての作品(銀髪のガキ)は活躍しようがしまいが()()()()()()が、せめて俺の実験くらいには役立ってもらおう。

 

「……例の機体、本当に機能すんだろうな?」

 

 だけど、そんな上機嫌なところに水を差してくる声が出てきた。

 口が悪くてガサツな茶髪ロングヘアー。その体には威嚇か警戒のためか、八本の装甲脚を備えるISを展開している。

 だけど、そんな事は()()()()()()。俺自身そこで見ている女にはさほど関心は無い。いや、今のスポンサーという意味ではどうでもよくはないのだが、その気になれば()()()()で制圧してしまえばいい。たかが女にしか使えないIS風情など、どうとでもなる。

 

「そういや、アスカトル(お前の黒蟻)の事で少し話がある。

 分かったら聞いとけ」

「内容は?」

 

 私の作品(アスカトル)に関して、気になる話が出てきた。が、肝心要の内容の方は少し拍子抜けするものだった。

 

「フランスの方で大規模殲滅作戦が少し後に始まるみたいだぜ。しかも、お前が妙に気にしているあの白い機体も参加するとかなんとか。

 どうする気だ?」

「放っておけばいい」

 

 考えるまでもない事なので断言したが、私の発言に女は怪訝そうな表情をし、不信感を露わにした目をしている。

 ここまで低能だと説明するのも面倒だが、説明しなければ食いついてくるだろう。たかが女風情だが、ここで変に問題を起こすのも面倒なことになる。ここは説明してやるとしよう。

 

「下手に手を出して私のアスカトルの限界が見れなくても困るしなぁ……。

 ま、どこまでできるかの試金石にでもしようじゃないか」

「……チッ。

 いいぜ、そういう事にしといてやるよ」

 

 露骨な舌打ちが聞こえてきたが、実験の成り行きの方が重要なので無視しておくことにする。

 だが、その中にもまだ不確定要素はあった。いや不愉快な要素というべきかもしれない。

 

(だけどまあ……新王国の人間、しかも機竜使い(ドラグナイト)もか……。

 不愉快極まりないが、精々実験の比較材料くらいにはなるか……)

 

 トーナメント表の対戦相手の中にいる、一つの顔。

 世界初の男性IS操縦者なんて言う触れ込みでいる(真っ赤な嘘をついている)一人の機竜使い。さらに、その一味だろう新王国に尻尾を振った元皇族と、私もその実験に関わったあの金持ちの女。

 別にいまさらあの国に特別な感情は無い。ただ、私の実験がとてつもなくやりやすかったアーカディア帝国をぶっ壊されたのはかなり頭に来ていた。

 

(……私の実験生活を邪魔しやがって。

 俺の邪魔をする奴は、皆、死ねばいい)

 

 今後の実験の実行計画に少しの修正を加えながら、私は実験の成り行きを見守ることにした。


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