IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第四章(10):緊急報告

Side 一夏

 

 デュノアへの事情聴取と、フランスにも幻神獣が出現している可能性が浮上した日の翌日。

 あの事はすぐに学園長にも報告が行き、ひとまずデュノア自身は近日中に決まる処分が決まるまでは事情聴取にも使った部屋で軟禁となった。さすがに学園内でのスパイ行為を容認はできないとのことだったらしく、其の事はフランスの方からの緊急の呼び出しという形で決着がついている。

 一方、俺はと言えば授業を完全に放り出して学園から外出しある場所を目指していた。

 

「……もうそろそろだと思うが。

 さすがに《アスディーグ》ほどの速度は出せないか」

 

 今現在、《ユナイテッド・ワイバーン》を迷彩を用いて隠れつつ飛翔してある場所を目指している。

 と言うのも、フランスの一件が内容が内容だったためさすがに此方から連絡して向こうから連絡役を請け負う人が来るのを待つ、という段階を踏んでいると手遅れになる可能性が否めないという結論に達したためだった。そのため、俺の方から直接出向いてでも早く連絡してほしいと更識会長に頼まれたのである。

 俺の方としても、否と言う理由は無いのであればやらない理由もない。そのため授業を完全に放り出して時折休憩を挟みながら連絡のために球体(スフィア)を目指していた。

 

「……?

 こんな晴天で、一部分だけに霧……?」

 

 が、その途中でおかしな場所があった。

 天気は晴天であるにも関わらず、一部にだけ濃い霧が出ている。周囲に水源らしい部分は無く、さらに前日に雨が降ったという事もないのは事前に調べたので知っている。

 つまり、あまりにも不自然なのである。

 

(……考えすぎだと、いいのだが)

 

 正直、霧と言うとあまりいい思い出が無い。

 更識会長が霧を利用した特殊な装備もだが、それ以上にグライファーさんの神装機竜《クエレブレ》の特殊装備《隠れ家の真名(ミストサイファー)》と、シングレン卿の神装機竜《リヴァイアサン》の神装《王権(リーニング)》が強く印象に残っている。前者には摸擬戦で何度も身をもってその脅威を実感し、後者は話に聞いただけであり実際に対峙した事はまだ無いがそれでも十分以上の脅威にしか感じなかった。

 あの霧もそれらと同様の脅威かと聞かれれば確信は持てないが、それでもやっている事が事なだけに不自然であれば警戒するのが当然と言える。ゆえに、速度を落として探知機(レーダー)を起動。念のために探りを入れる。

 

(……探知できない?)

 

 何らかの要因によって探知そのものが阻害されているという事実に、余計に警戒心が強くなる。

 そして、探知機を切った直後に()()は起こった。

 

  キュオォ!

 

「ッ!」

 

 突如として飛んできたのは、見覚えのある極太の光弾。

 

(また無人機か!?)

 

 《ユナイテッド・ワイバーン》の翼を操作して回避しつつ、過去に相対した時の事を思い起こす。

 が、今回はあの霧が邪魔をしてくるおかげか、向こうの状況が一切わからない。加えてこちらは《ユナイテッド・ワイバーン》の迷彩機能を用いつつ飛んでいたはずだが、それにもかかわらずこちらを捉えて射撃を放ってきている。そして、《ユナイテッド・ワイバーン》を使っている以上、この前と違い直接戦闘力の側面で少々劣ると言わざるを得ないだろう。

 

「厄介なことを……!」

 

 咄嗟に高度を落とし、地面スレスレを飛んでいく。さらに飛行コースを一部変更、あの光弾の射線が直接は通らないように低空飛行していく。

 同時に、更識会長へと連絡を入れようとしてみたがどういう訳か繋がらなかった。

 

(またジャミングか!?)

 

 流石に迂闊に《アスディーグ》を使うわけにはいかないが、このまま一方的に攻撃され続けるわけにも行かない。

 

(少々手荒だが……)

 

 止むを得ず機竜息砲(キャノン)を手に取り、出来る限りの速度でチャージ。同時に再度飛び上がり照準を付ける。狙いは、あの霧の中心。

 

「行け!」

 

 一切の躊躇なく、撃ち込む。数瞬の後、機竜息砲が着弾した位置で派手な爆発音が響き、盛大な土埃が巻き上がる。

 幾許もしない内にそれが落ち着いた時、見えたのは何時かにも戦った無人機の一団。確認できた数はおよそ四機だが、その中に場違いな影が見えた。

 

(……銀髪の女の子?)

 

 少々長い銀髪の女の子が、四機中二機の無人機に庇われる形で立っている。どことなくボーデヴィッヒに似た顔立ちだが、少なくても外見からはISなどを纏っているようには見えない。

 いったい何を考えてそのような軽装で立っているのかは知らないが、少なくても撃ってきた以上は敵に違いない。そして、敵の攻撃はほぼ完全に無人機に依存しているだろうことが見て取れる以上、躊躇する理由は無い。ここに他の伏兵がいる可能性も否定できないが、いずれにしても先程から攻撃してきているあの四機を排さなければいけない事には変わりないのでそのまま攻め立てる。

 再度高度を下げ、両手の装備を機竜息銃(ブレスガン)とライフルに切り替える。基本的には周囲の森の中を迷彩を切って出来る限りの速度で進みつつ、タイミングを計って迷彩を使い森から飛び出て銃撃。

 

 進みは遅く攻撃の効率も良くは無いが、それなりの速度で敵の足を止めながら進む分には一定の効果が見込めるのでそれでいい。

 

「……止めきれませんね。

 格闘戦用意」

 

 其れなりに近づいてきた時、あの銀髪のものと思しき声が聞こえてきた。そして、内容から明らかに無人機達の指揮を執っていることが窺い知れる。

 であるのであれば、尚の事逃がす訳にはいかない。

 本来であれば《アスディーグ》に切り替えたいが、さすがにこの瞬間に援護も無しに切り替えるのは危険性が高すぎる。やむを得ず、《ユナイテッド・ワイバーン》のまま格闘戦へと移行していく。

 幸い、向こうから四機中二機だけが突っ込む形をとったために俺としては余り脅威に感じない形で突っ込んできたが、それと同時に霧で視界が遮られかけたため竜尾鋼線(ワイヤーテイル)を用いて片方の一機と《ユナイテッド・ワイバーン》を繋いでおく。

 

神速制御(クイックドロウ)

 

 繋いだ竜尾鋼線を無理やり引き寄せ、視界が霧に覆われる前に無人機と《ユナイテッド・ワイバーン》の距離を近づける。向こうも拳を振り上げてきたが、振り下ろされる前に装甲の薄い部分を切り裂いてしまえば何と言う事もない。

 さらに、回し蹴りの要領で格闘を仕掛ける。無人機は残った片腕を使って受け止めようとしてきたが、むしろ好都合。四つ足の内二つを使って一時的に捕獲すると、そのまま推力任せに振り回し近くにいたもう一機の無人機の格闘からの盾代わりにする。

 盾にした無人機が大破、格闘を仕掛けた無人機も片腕大破という結果に終わり、さらに壊れた部分から無人機の内部に機竜息銃を叩き込み、装甲を無視して破壊していく。

 これで二機は仕留めた。

 

「……凄まじい戦闘能力ですね。

 ()()一夏様」

「…………」

 

 さて、二機を破壊した直後にいきなり霧が晴れたと思ったらあの銀髪が声をかけてきた。

 

「私は束様よりの伝言を預かってきています。

 《ゴーレム》二機を撃破した時点で伝えるように仰せつかっていたため、お聞きくだ……」

「一応言っておくが、人違いだ」

 

 仮面は付けたままなので素顔は晒していないし、変声機も使って声を変えてはいる。

 このまま白を切ってついでに捕まえるかとも考えたが――

 

「いえ、既に貴方の事に関しては束様が直々に確認されています」

 

――面倒な事に、むこうは聞く耳持たず。

 

「まず、束様は貴方が今現在使用している《ユナイテッド・ワイバーン》か、先日使用していた白い機体を所望しています。

 渡してくだされば、束様ご自身が手塩にかけたISを一時的に渡すと同時、より強化したうえで……」

「そもそも織斑一夏ではないが……断る。

 この機体は元々ある方から借りているだけだし、それを抜きにしたところでそんな怪しさしかない場所になんぞ預けられるか」

 

 この言葉に銀髪が一度言葉を止めたが、気にすることでもない。同時、飛び出るタイミングも図っておく。

 

「それと、もう一つ。

 《白式》の事について、束様が確認したいことがあると仰られております。つきましては」

「そんな機体の事は知らん」

 

 確実に面倒事になりそうなので最後まで聞かずに断ろうとしたが、ここでも面倒が待っていた。それも、今後の活動に関わりかねないレベルの物が。

 

「いえ、既に過去の通話ログから貴方が関わっている事を束様は確認なされています。

 ですので、其の事について……」

「知らんと言っている。

 それに、さっきも言ったが話す気も無い!」

 

 言葉を話し終えると同時、背翼を吹かせて一気に無人機へと接近。さらに――

 

「神速制御!」

 

――向こうの反応が一手遅れたその隙をついて、二機纏めて二刀の神速制御で胴体を両断。元よりただで返す気など無い。

 

「!?」

 

 銀髪が驚きの顔を見せるが、あれだけ派手にやっておきながら何も無いとでも思っていたのだろうか。

 

「さて。

 護衛もいなくなったみたいだし、一緒に来てもらおうか。()()についても何かしら知っているみたいだしな」

 

 《ユナイテッド・ワイバーン》を纏ったまま、銀髪の目の前に立つ。

 同時に機竜鋼線(ワイヤーテイル)を取り出し、あまりいい趣味とは言えないが動きを拘束できる程度には縛り付けておく。

 

(一旦戻って、更識会長達に事情聴取でも頼むか……いや、でもな……)

 

 よくよく考えてみれば、銀髪を確保まではしたもののその先に不安が残る。

 まず、仮に更識会長に預けたとして。取り調べの最中に銀髪が俺の事について話す可能性を否定できない上、そうなれば俺としても拙い事になりかねない。何よりも任務に支障が出かねない。かと言って新王国に連れて行っては、万が一こちら側に帰って来たときに新王国を始めとした機竜側の事が漏れるため情報の漏洩防止という意味で好ましくないことが予想される。

 今後の対応について、少し考えていた時だった。

 

「いっく~ん……さすがにくーちゃんを連れて行くのはよしてよぉ~……」

 

 背後から声が聞こえる。

 振り返れば、居たのは主犯と思われる人間だった。

 

「……主犯が自らお出ましか。

 出来うるのであれば諸々と追求したいところだが」

「っも~、そんな言い方しなくていいじゃ~ん♪

 昔みたいに束さんでも全然OKって、そうじゃなくて! ひとまず、そのよく分からない機体を渡してほしいんだけど~……渡してくれないみたいだし。ちょっと乱暴だけど♪」

 

 何か妙に子供っぽい装飾の杖を出してきたが、わざわざ見逃す理由もない。ひとまず「くーちゃん」などと呼ばれていた銀髪を無理矢理手繰り寄せると、そのまま直上に飛び上がる。

 銀髪への負担など知らん。

 

「何をする気だ?」

「……ひ、ひとまず降りてきてくれないかな~」

「この状況で降りると思うか?」

 

 やはり強硬手段を使うつもりだったのか、引き攣った顔をこちらへと向けてくる。銀髪も恨みがましい視線をよこしてきている。

 が、こちらも腸が煮えくり返っているのでお相子とさせてもらおう。

 

「で、何の用だ?」

「あ~、その不細工な仮面の下に誰がいるかくらいは知っているからそんな白を切らないで欲しいんだけど……。

 とりあえずさ、くーちゃんを下してあげてくれないかな?」

「……貴様がこの場から立ち去ったなら考えるが」

 

 少し考えた末、情報源を手放す事にした。

 正直、この天災(篠ノ之束)を相手にしていると切りが無い。急ぎの用事があるうえ、向こうが何を隠し持っているかもわからない。半面、こちらは全力(アスディーグ)ではない上に他に誰かがいるわけでもない。最善とは言えないだろうが、安全策を取るのであればこの場から退去してもらうのも選択肢の一つだろう。

 

「……分かったよ~。

 ちゃんとくーちゃん下ろしてあげてね~」

 

 不本意だとでも言いたげな顔で篠ノ之束は何処からか飛んで来させた人参のような外見の何かに乗り込むと、そのまま去っていった。

 このまま無視して確保も考えたが、付きまとわれても仕方がない。だから、銀髪を下ろして片手に機竜息銃を構える。

 

「お前の主にでも伝えておけ。最後通告だ。

 これ以上関わるな。もし、次があれば――」

 

 話の途中で少し間を明け、銀髪の髪をいくらか掠める程度に単射で撃ち込む。

 落ちた髪を見て銀髪の顔が恐怖に凍ったが、それ位でいい。

 

「――一切の容赦無く、消し去る」

 

 俺からの最後通告に、銀髪は硬い表情で頷くとその場に固まった。

 ここにこれ以上止まる理由もなくなったため、再度迷彩を使用して姿を隠しながら飛翔。

 

「……行くか」

 

 目的地は、機竜側とIS側を行き来するのに現在使っている『球体(スフィア)』。

 報告と相談のため、早く行くことにしよう。

 

 

―――――――――

 

 

Side セリスティア

 

(この道を行くのも、久しぶりに思いますね)

 

 新王国の中でも、極一部しか知らないとある道。繋がっている先は、私にとっても初の教え子と言える一夏が出向いている世界へとつながっている『球体』のある場所。

 私も一夏の見送りの時も含めて何度か来た事はありますが、

 

「元気にやっているといいのですが……」

 

 馬車の中で特に誰に聞かせるでも無く呟きました。

 私にとって、一夏はルクスとは別な意味で大切な人です。自慢の教え子であり大切な後輩であり戦友であり仲間とも言える、そんな人です。

 そんな人だからこそ、心配になるのは必然と言えるでしょう。

 

(それに、彼は……)

 

 前にルクスとアイリと話した事を、思い出しました。

 二人が推測している、一夏の抱えるある大問題について。私も、一夏が苗字を変えた時に二人に言われて納得したのを今でも覚えています。

 

「……出来れば、彼に伝える前に解決したいですが。

 そうとも言えないのがつらい所ですね」

 

 だからこそ、今から向こうの世界に言ってでも伝えなければならない事があるという事実が、両肩に重くのしかかりました。

 しかも、場所が場所なだけに迂闊に助けにも行けないのもつらい所です。

 

 

 そうこうと考えている内に、駐屯部隊がいる場所に着きました。

 ですが、何処か様子がおかしいです。少し騒がしくなっています。

 

「失礼。何かあったのですか?」

 

 対応してくれた兵の一人に確認しますが、そこで予想外の事態が起きていることが発覚しました。

 

「報告します。

 影内一夏が、緊急の報告があるとの事でつい先ほど『球体』より帰還されました!」

「……! 私も彼に話があるので、ちょうどよかったですね。

 彼は今どこに?」

「ラルグリス補佐官が来ると伝えた所、ここで待っています」

「分かりました。

 どこにいるか、案内してくれませんか?」

 

 予想外にも過ぎる事態ではありますが、それでもやることに変わりはありません。

 早く、合流するとしましょう。

 

 

―――――――――

 

 

Side ルクス

 

「一夏、セリス先輩。

 緊急の報告とのことですが、一体何が?」

 

 外面的な意味を多分に含めて建設する事になった自分の屋敷で政務を行っていたところに、突然飛び込んできた報告。夜架から聞かされた時は本当に驚いたけど、でもそれだけの事態になったと考えれば聞かない理由は無い。

 内容によってはリーシャ様やラフィ女王にも立ち会ってもらった方がいいかもしれないけど、今は二人とも別に仕事が入ってしまっているから先行して聞くことにした、

 

「一夏の報告を優先してください。

 私の内容はすでにルクスには伝えてありますが、貴方の話はまだですしね」

「はい。それでは失礼します」

 

 とりあえず屋敷で事情を聞くことにはしたけど、セリス先輩の話は事前に聞いている。

 それはセリスさんも分かっているみたいで、一夏の報告を優先してくれた。

 

「まず、先日IS学園に転校生が来たのですが……端的に申し上げて、彼女にスパイ目的で近づかれました」

「スパイ目的……転校前に身元調査とか行われなかったのですか?」

 

 一緒に聞いていたアイリが疑問の声を上げたけど、僕も同意見だった。

 

「どうも国家ぐるみで行われていたみたいで、書類から何から偽造工作が行われていました。

 幸い、向こうの協力者の手によって大事に至る前にスパイ行為の現場を押さえる事が出来ましたが……」

「そっか……ひとまず、大事無いようでよかった。

 でも、こっちにわざわざ来たって事はそれだけじゃないよね?」

 

 一夏の性格から言って、最終的に問題が無かったのであればわざわざこっちに事前の連絡も無しに来ることなどは考えにくい。だから、続きを促した。

 

「はい。問題になったのはこの先の事で……。

 彼女と彼女が所属しているフランスという国家がスパイ行為に走った原因なのですが、国内で発生した敵性生物の排除にフランスの保有している戦力だけでは足りず、そのために機竜……向こうでは俺の専用ISとして通している機体を欲したためとの事でした。

 そして、その敵性生物の特徴が……」

「まさか……幻神獣(アビス)の特徴と一致したのですか!?」

 

 セリス先輩が驚きの声を上げながら言った言葉に、一夏は神妙な表情で頷いて肯定した。

 

「少し前に向こうで通っている学園に出現したグリプスと似ていたとの発言もありましたから、おそらく。

 そして、もう三つ。厄介なことが推測されまして……」

「その、三つっていうのは?」

 

 さらに続きを促し、話を進めていく。

 思っていたよりも話が大きくなっていることに戦慄を感じるけど、だからと言って手をこまねいているわけにも行かない。だからこそ、出来る限りの情報が欲しかった。

 

「まず一つ目として、出現した幻神獣の種類です。

 話に聞いた限りでは、向こうで確認された種類の中で最も多かったのは、黒蟻型だったとのことで……。しかも、その黒蟻型が巣を作り始めているとのことでした」

「そう、ですか……」

 

 一夏の報告に、少し悩んだけど伝えることにした。

 元々、伝えることは確定している内容だったのでむしろちょうどいいかもしれない。

 

「一夏。実のところ、黒蟻型の巣はこっちでも確認されています。

 その規模は極めて小さい物でしたが……」

「そう、だったのですか?」

 

 一夏が上げた疑問の声に答えたのは、夜架だった。

 

「ええ、私とセリスさんで確認してきましたわ。

 ですが、調べた時にはすでにもぬけの殻だったのが悔やまれますわね」

 

 夜架の答えに、一夏も頷いて納得したようだった。

 そして、再び報告の続きに戻る。

 

「二つ目は、その規模です。

 それなり以上に有力な国を窮地に立たせるほどの数が確認されている上、巣の中にそれ以上の数がいる事も推測されるとのことです」

「大量の幻神獣ですか……むしろ、何の予備知識も持たない国がよく持ちましたね」

 

 アイリが感心したような声で返事したけど、僕もフランスという国に対して同じような気持ちを抱いていた。

 

「はい。ですが、対処しきれていないため最終的に《ユナイテッド・ワイバーン》を《アスディーグ》に繋がる機体として欲した、とのことでした」

「そういう事ですか……」

 

 ようやくスパイ行為と幻神獣の出現が繋がったけど、それはそれでかなり強引な手段に出たなと思った。

 

「それと、最後ですが……。

 目撃された幻神獣と思しき生物の中に、厄介な種類ではないかと思われるものがいまして……」

「厄介な種類、ですか?

 一夏がそのように言うほどの種類はそう多くは無いはずですが……一体何が?」

 

 一夏の報告に、セリス先輩が問いを返した。

 

「はい。外見の証言から、ディアボロスではないかと推測される種類がいるようです。

 それらが、大量の黒蟻型やそれ以外の幻神獣と共に出現し、巣を作った。報告の内容は、纏めるとこうなります。それで、出来れば殲滅という方向で話が進んだのですが、さすがに規模が規模ですので……」

「……流石に、それだけの規模になると一夏でも厳しそうだね。

 僕の方からも、増援を頼んでみるよ」

「お願いします」

 

 覆せないほどの大多数の中に、強力な一体がいる。これは戦術的には極めて厄介だと思えた。数の差で強力な一帯を覆う事も出来なければ、数の差を覆す強力な一機を投入しても敵側の強力な一体に抑えられ、最終的には数の差で負ける。

 ここで一夏がこの事を伝えてくれたのは良かったと思えた。今後の事を考える時間の確保もある程度できるけど、内容が内容なだけに長時間の放置はマズイ。出来る限り速く対処しよう。

 

「それと、さらに追加の報告が……。

 ここに来るまでの道中、向こうのISの開発者である篠ノ之束が接触してきました。ですが、強硬手段を使ってでも《ユナイテッド・ワイバーン》か《アスディーグ》のどちらかを奪取しようとしてきました。

 その時は迎撃しましたが、今後、向こうに来る際には十分注意すべきかと……」

「そうだね……。

 強硬手段を使ってきたみたいだし、これからは向こうに連絡入れるときの人選も考えないといけないかな」

 

 ただでさえ色々と問題が多い行き来に、さらに問題が加わったことは頭の痛い問題だった。

 

(けれど、もう一つあるのか……)

 

 今から一夏に伝えることは、セリス先輩から事前に内容を聞いてはいたけど、改めて話すとなるとまた気が重くなる。

 だけど、それでも伝えないといけない。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

「では、一夏。

 私たちの方からも伝えなければ行けない事があります」

 

 一通りの報告を終えた時、ちょうどセリスティアさんが話し始めた。

 

「俺に、ですか?」

「ええ。恐らく、今あなたが受けている任務にも関わる可能性があることですから」

 

「まず、単刀直入に言わせていただきますが……。

 遺跡(ルイン)から発掘された装甲機竜(ドラグライド)の行先を出来る限り調査した結果、不自然に行先の不明な機体が何機かあることが発覚しました。他国の行先に関してもユミル教国やヴァンハイム公国に協力を仰いで調査しましたが、結果は同様です。

 つまり……」

「向こうに流れた可能性が、あると……?」

 

 俺の返答に、ルクスさんもセリスティアさんも頷いていた。

 

「それも、非常に高いです。

 向こうにいる協力者がそちらの方面に長けているみたいですし、出来る限り急ぐようにお願いできませんか?」

「しかも、そっちの方には強奪してでも手に入れようとする人もいるみたいだしね……。

 流れていないといいけど、先に手を打っておくに越したことは無いし。一夏、お願いできるかな?」

「委細了解しました。お任せください」

 

 再度IS側に行ってからやることが増えたが、それでも基本は変わらない。それに、当初の目的も一応は達成できた。

 

(後は……俺の方が、返事待ちか)

 

 こちらの方で対応を決めるまでに必要な時間もあるし、そこをとやかく言っても仕方がない。

 後は、向こうでこなすことをきっちりこなそう。


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