IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第一章(2):光の先、故郷という名の任務地

Side 一夏

 

「……行ってくれるのか、一夏」

 

 リーズシャルテ様に問われるが、迷わず頷く。

 

「一夏、あれほど言ったんです。

 絶対帰ってきてくださいね?」

「勿論です」

 

 アイリさんが普段と変わらぬ調子で、だけどどこか威圧感にも近いものを出しながら話しかけてくる。

 でも、心配してもらえていると思うと嬉しかった。

 

「リーシャ様」

「分かっている」

 

 その一方で、ルクスさんとリーズシャルテ様が何かを確認するように頷きあった。

 

「一夏、出発日時やその他諸々についてはこの後細かく決めるぞ。

 勿論出来うる限り最大限のバックアップはさせてもらう。さすがに同行するメンバーについてはどこまで出来るかわからないが、出来るだけ伯母上にも掛け合ってみよう」

 

 リーズシャルテ様はそう力強く宣言してくれた。

 さらに、ルクスさんも――

 

「僕としてもいざという時は出来るだけ駆けつけられるようにするから。

 一夏、あんまり無理しないようにね」

 

――と、心強い言葉をくれた。

 とは言っても、やはり各国の最高戦力である『七竜騎聖』。アティスマータ新王国での最高戦力の一人でもあるルクスさんを、無闇にいつ閉じるかもわからない『球体(スフィア)』の向こう側に行かせる訳にも行かない。となれば、ルクスさんが来る場合は多少の無理を押し通すことになってしまうんだろう。

 やはり、出来る限りのことはやれるように俺自身も備えなければ。

 そんなことを考えていると—―

 

「一夏。一応私からも言っておくが、お前も今は特級階層(エクスクラス)の、それも神装機竜を持つ機竜使い(ドラグナイト)なんだ。

 新王国は今でも優秀な機竜使いが不足している。私たちとしても、お前ほどの機竜使いを邪険にしようとは思わないし、お前が仲間でいてくれる限りは全力で助けさせて貰う」

 

――まるで念を押すかのようにリーズシャルテ様は言った後、さらに思い出したように付け加えた。

 

「ああ、それと。

 一夏、キメラティック・ワイバーンの操作は覚えているか?」

「キメラティック・ワイバーンですか? 多分今でも操作できると思いますけど……」

 

 質問の真意はともかく、確かにあの機竜の操作はリーズシャルテ様ほどじゃないにしろ出来るには出来る。

 というのも、機竜操作を覚えてまだ間もないころに、色々あってリーズシャルテ様のキメラティック・ワイバーンを使うことになった際に教わっていたからだ。

 そして質問の返答に満足したのか、リーズシャルテ様はわずかに微笑みながら、満足そうにさらに付け足した。

 

「そうか。

 実は新しい機竜を開発しているんだが、今回の任務にうってつけじゃないかと思ってな。一夏さえ良ければ、持って行かないかと思ってな」

「……リーシャ様、今度は何を作ったんですか?

 物によっては、さすがに今回の任務で使わせるわけには……」

 

 すかさずルクスさんがツッコむけど、リーズシャルテ様は自信満々に「大丈夫だ」と言ってそのまま続けた。

 

「今回のはキメラティック・ワイバーンの基礎的な部分を基に、ワイバーンとドレイクを掛け合わせたんだ。ワイバーンの戦闘力も若干強化されたうえ、ドレイクの特殊装備も扱えるようにした機竜だ。

 今回の任務の先遣隊は、おそらく小規模なものになるだろう。そんな状況下で、できることが多い機竜と言うのはそこまで悪い選択肢ではないと思ってな」

 

 確かに、リーズシャルテ様の言うことにも一理ある。

 

 異世界なんてところにいつ閉じるかもわからない『球体』を通っていく以上、帰れなくなってしまったら新王国全体の戦力に関わりかねない大部隊を行かせることは出来ない。だが、幻神獣の総数も分からず、最悪の場合として神装機竜の流出も考えられる以上、それなりの戦力を用意しなければならない。

 更に言えば、二年前の時点で俺はすでに幻神獣(アビス)らしき化け物を向こう側で見ている。いるであろうという予想がつく以上、戦闘は避けられないと考えるのが妥当だろう。

 となれば、上級階層(ハイクラス)か特級階層を中心にした少数精鋭化は必然だろうし、さらに向こうの世界のことを多少なりとは言え知っているというのは大きい。

 

 改めて自分が選ばれた理由を自覚しつつ、さっきリーズシャルテ様が言った機竜の利点を考える。

 確かに、ドレイクのような特装型の機竜の有無は任務の成功率に多大な影響を及ぼす。それは今までの経験から身に染みてわかっていた。だが通常のドレイクは飛べず、向こう側のISは基本的に飛べる。あった方がいいのは確実だが、そのままでは少々不安に思う部分もある。

 そこにドレイクと同等の特殊装備を備えたワイバーンがいればどうか。飛行により高い移動能力を確保しつつ迷彩を使い、探査も行える。確かに偵察役としては適任だろう。

 欠点を上げるなら、操作難易度の高さ。前例としてキメラティック・ワイバーンは機攻殻剣(ソード・デバイス)二刀流という前代未聞の操作方法も相まって正直操りづらかった。

 だが、一応操作できるのであれば十分選択肢になりうるだろう。ここで断る大きな理由は無い。

 

「後で詳しい仕様を教えてください。それで決めようと思います」

「分かった。じゃあ、これに関してはいったん保留だな」

「他にも決めなきゃいけないことはあるし、そっちを決めちゃおうか」

 

 とりあえず機竜のことはいったん置いておくことにし、他の優先事項を決めておく事になった。出発日時や向こうでの行動、何かしらの組織に目を付けられた時の対応等々。

 

「じゃあ、決めていくぞ、まずは…………」

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 諸々の方針を決め、ルクスさんやリーズシャルテ様を含めた関係者皆が準備を済ませた後。

 

 

 結局、現地である向こうの世界に、常時滞在することになったのは俺一人という、納得出来るような出来ないような結果となった。

 

 理由としては、先遣隊の目的があくまで調査であると言うこと。名目上ではあるが、個人での対処が不可能と判断されるほどの敵と遭遇した場合は素直に増援を要請しろと言う意味である。そのためにこの世界の『球体』付近には、周辺からの侵入者対策と言う意味合いも多分に含んでいるが、新王国の上級階層かそれ以上の機竜使いを中心とした部隊が常駐するとの事だった。また、何かしらの交渉ごとになった際もすぐに連絡し、安易に結論を急がないようにとも指示を受けている。

 無論、前提として出来うる限り向こうの世界の人に被害が及ぶような事態は避けなければならないが。

 

 しかしそれでも不安は残る。何より、竜声を介して通信したとしても来るまでに時間差が発生するのは避けられないし、何らかの手段でそれも妨害されるかもしれない。そもそも、竜声の範囲外に居た場合は通信そのものが出来ない。

 やはり新王国の執政官たちは異世界に対し懐疑的な思いを多分に感じているらしい。それでも派遣が行われるのは、ラフィ女王陛下の人柄ゆえだろうか。

 

 出発時刻は今日の深夜。それまでに最終的な準備を済ませつつ、普段お世話になっている人たちに任務でしばらく離れることを告げる。

 

 以前にもある程度長期の任務を受けることはあったが、やはり今回の任務はそれらの比較にならないほどの長期間に及ぶということもあってそれなりに色々言われることが多かった。

 最も、そのほとんどが総じて身を案じてくれるものであったり、激励であったのは嬉しかった。

 

 

 そして、出発まで後少しの時刻。

 完全に日が落ちた深夜。空を見上げれば星空が見える。

 

 結局、向こうには俺のアスディーグの他に、リーズシャルテ様が製作したもう一機の機竜も持って行くことになった。

 操作は確かに少々難しく感じたけど能力的には悪くなく、特に飛行しつつ索敵も行えるというのは魅力的だった。アスディーグは飛翔型の機竜ということもあり、サポート能力を持つ機竜の存在は大きい。しかも、リーズシャルテ様の計らいで武装や性能のバランスをアスディーグに近づける形で調整してもらえた。もし仮に突発的な戦闘になっても、それなり以上の対応が可能だろう。

 

 目の前には相変わらず光を放つ『球体』が浮かんでいる。吸引されたりこそしていないが、その存在感は凄まじいものでついつい目を向けてしまう。

 今からあの中に飛び込み、かつて自分の生まれた世界へと赴き、幻神獣や機竜、そして『球体』に関する調査をする。幻神獣と機竜に関しては場合によって撃破も込み。

 言葉にすればこれだけだけど、今から行う任務はこの二つの世界全体に関わる可能性も高い分、重要な任務でもある。反面、事情が事情なだけに戦力に関しても慎重にならなければいけない。

 そんなことを考えていると、アイリさんが入ってきた。

 

「一夏、準備は大丈夫ですか?」

「アイリさん。

 はい、問題ありません。出来る範囲の準備は済ませました」

 

 そう答えるとアイリさんは一言「そうですか」と言い、少し間をあけて「それはそうと」と続けた。

 

「くれぐれも、無茶なことはしないでくださいね。

 一夏も兄さんも、もう無茶が当たり前だと言わんばかりのことが何回もあったんですから」

「はい。善処しま……」

「やらないでくださいね。」

「は、はい……」

 

 そうこうと少しの間やり取りをしながら、出発時間を待っていた。

 そんな中、さらに幾人かの人がテントの中に入ってきていた。

 

「一夏、調子はどう?」

「一人で赴くとは……中々無茶な任務を受けましたね。

 まあ、あなたなら多少のことは大丈夫かと思いますが、呼ぶべき時には呼んでください」

「くれぐれも主様のお顔に泥を塗るようなことは慎むようになさいね、一夏」

 

 現れたのは、ルクスさんにセリスティアさん、夜架さんの三人。さらに、少し遅れてリーズシャルテ様も入ってきた。

 

「一夏。お前のアスディーグと渡したユナイテッド・ワイバーンの調整はどうだ?」

 

 現れた直後の第一声がこれだったことに思わずリーズシャルテ様らしさを感じた。

 

「俺とアスディーグ、ユナイテッド・ワイバーンの調子は良好です。

 実際一人で行くのに不安は残りますし、呼ばなければいけないような事態になったらよろしくお願いします。

 ルクスさんの顔に泥を塗るようなことは俺としてもやりたくないので、気を付けます」

 

 一人一人に応えつつ、さらに何言か注意を受け、それに応える。

 出発までの残り少しの時間。恩人でもあり師でもあり、何より命懸けの場所を共に潜り抜けてきた仲間でもある人達の言葉は、これからの任務を完遂するという覚悟と、生きてこの人達の元に帰るという決意を改めて与えてくれた。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

Side アイリ

 

「一夏君、後数分で出発時刻だ。

 機竜を展開し、準備を済ませてくれ」

「はい」

 

 常駐部隊司令官を勤める人が出発時刻を告げました。

 それとこの司令官さん。一夏も何度か任務で一緒になったことがあるみたいで、指揮官としても人としても尊敬できる人だと話していました。

 

「――降臨せよ。天を穿つ幻想の楔、繋がれし混沌の竜。〈ユナイテッド・ワイバーン〉」

 

 リーズシャルテ様から預けられたユナイテッド・ワイバーンを召喚し、接続。

 依然変わらず光を放つ『球体』を見据え、背面の推進器を吹かし浮き上がりました。

 

 そのまま飛び込む直前、一夏は私達の方を一回だけ見ました。

 

「それでは、出撃します」

 

 言い残して、一夏は光球の中へ飛び込みました。

 

「……ちゃんと、帰ってきてくださいね」

 

 誰にも聞こえることのないように小さく、だけど確実に私は呟いていました。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

Side 一夏

 

 光が収まり、幾許もしない内に着地した。そこにテントはなく、『球体』があるのみだった。

 

 周囲に誰もいないことを確認し、探知機(レーダー)を起動。通常のドレイクと同程度の探知範囲はそれでも十分に広く、その役目を果たしてくれていた。

 周辺に目ぼしい敵はいないであろうことを確認し、探知を一回終える。その後、迷彩を起動したうえで推進器を吹かし、飛翔。場所を変えて再度探知を行う。

 そんなことを数度行い、探知範囲を徐々に広げていった。

 

 やがて、遠目に電車の線路が見えてきた。

 改めて戻ってきたんだなと思いつつ、もし仮に電車が通っても見つからない位置を探して再び探知機を起動、索敵を開始する。

 事態が悪い方に向かっているのが発覚したのはその時だった。

 

「……嘘だろ」

 

 まず、電車がこっちに向かってきている。それはいい。迷彩で隠れればいいだけだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()……!?」

 

 かつてガーゴイルと思しき幻神獣一体を相手にIS三機が蹂躙される光景を見た者としては、この事態を放っておけない。時刻は深夜だが、電車が運行している以上は運転手が乗っているだろうし、もし仮に乗客が乗っていた場合はさらに被害が広がることになる。

 距離的にはそこまで遠くないが、電車が幻神獣と遭遇する前に間に合うかどうかは微妙なところだ。

 今すぐ現場に急行し、速やかに幻神獣を掃討しなければならない。幻神獣も、アスディーグなら数的にはその大半がディアボロスでもない限りは問題無いレベルだ。

 

「アスディーグを使うしかない、か」

 

 一瞬だけ悩んだ後すぐにユナイテッド・ワイバーンの接続を解除し、アスディーグの機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜剣する。

 

「――覚醒せよ、血毒宿す白蛇の竜。其の怨敵を喰らい尽くせ、〈アスディーグ〉」

 

 すぐさま召喚し、接続。

 背面と脚部の推進器を最大まで吹かし、幻神獣の移動先を予測しながらその位置まで向かう。

 方向を定めた直後、すぐさまチャージを終わらせたアスディーグの特殊武装の一つ《機竜光翼(フォトンウイング)》を使用しさらに加速。

 

「……間に合えよ!」

 

 焦りを押し殺し、今はとにかく幻神獣を倒すために飛んだ。




次回、ようやく一夏と神装機竜〈アスディーグ〉が戦闘しますよ!

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