IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第四章(9):風が止んだ日

Side 一夏

 

 デュノアの一件の後、一度叫んだがそれっきり黙りこんでしまった彼女を連行して、俺は一路生徒会室へと向かっていた。

 理由はただ一つ。更識会長に連絡を入れた後、暫くして更識会長のほうから呼び出しがかかったためである。

 連行する際は簪に剣崎、のほほんさんが手伝ってくれたので見つかる事無く進めたため、それなりに楽ではあったが。

 

(さて、どうなるのか……)

 

 色々と不透明ではあるが、ひとまずやろうとしていた事が完全な違反行為であることには変わりない。

 其のことも含め、諸々と追及させてもらう事にしよう。

 

 

―――――――――

 

 

Side 楯無

 

「ようこそ。シャルロット・デュノアさん」

 

 影内君達が文字通り連行してきた彼女に向かって、私は若干の呆れも含んだ声で出迎えていた。

 

「……」

 

 肝心のデュノア君……いえ、デュノアさんはと言えば、こちらを非常に暗い目で見つめるばかりだけど。

 

「さて、まず本題からはいっちゃうけど。

 こっち見て頂戴」

 

 虚ちゃんにディスプレイにつけてもらい、ある人物との通信を開いてもらう。

 そこに居たのは、確実にデュノアさんと関わりのある人。

 

「……!?

 そ、そんな……」

『……もう、隠せないわよ。シャルロット。

 どうやったかは知らないけど、この人達はもう八割方は調べている。残りの情報が割れるのも……時間の問題でしょうね』

 

 会話を聞いて、私の立てている推測に確信を得た。

 そして、ここからは追求する番。

 

「さて、洗い浚い吐いてもらうわよ。

 ()()()()()()()()()()()のシャルロット・デュノアさんと、現社長夫人にして副社長、そして()()()()()()()()()()()()のシルヴァーナ・デュノアさん?」

 

 

―――――――――

 

 

Side シャルロット

 

「あ、貴女達は……一体、どこまで調べて……」

 

 私の言葉に、生徒会長は資料をめくりながら言葉を紡ぎ始めた。

 

「もうデュノア夫人には説明したけど、確認の意味も含めてもう一度説明しましょうか」

 

 猫の鳴くような声で喋っているけど、今はその喋り方が恐ろしい。

 

「まず、デュノアさん達……というより、フランスがやろうとしていた事は大体調べがついているわ」

 

 そう前置きして、生徒会長は話し始めた。

 

「最初に貴女を男性と偽ってIS学園に編入させる。この時に同じ男性だからという理由で影内君と()()()同室になり、出来る限り()()()()《ユナイテッド・ワイバーン》か男性操縦者の情報を奪取。

 その後、バレなければそのままフランスに持ち帰って解析。バレたら予め用意していた愛人の娘っていう設定の()()()()()()()()の情報を使って温情に働きかけるか何かして時間稼ぎ。ここまでの情報は()()()()セキュリティをある程度引き下げておくから裏付けは取れるようにしておく。その先の情報はガチガチに固めておいた上でね。

 で、そうして何とかして国に情報を持ち帰る。バレていなければさっきも言った通り国からの呼び出しとして、バレていれば国内での捜査の重要参考人か、司法取引か、即刻逮捕のためか……要は一度国に帰れればいいわけだし、言い訳はいくらでもあるわね。で、その後に情報をしかるべきところに渡したら、後は()()()()()()()()である『男性IS操縦者のシャルル・デュノア』を不幸な事故か何かで、『愛人の娘であるシャルロット・デュノア』を投獄されたか何かで表舞台に出られないようにしてしまう。

 そうしてしまえば、表舞台には出られなくなるけど貴女というIS操縦者をフランスは抱えたままにできる上、有用にもほどがある重要な情報が手に入る。そのくせ、ほとぼりが冷めた頃に『デュノア社長夫妻の娘であるシャルロット・デュノア』として復帰の道も残る」

「……」

 

 どこまで、調べているのか。憎たらしく感じるほどの口調で流れるように説明していく姿に、私は一種の恐怖のような感情を覚えていた。

 だけど、本当の意味で背筋が冷えるのはここからだった。

 

「ここからは私の推測も入るけど。そうまでして影内君という男性操縦者か《ユナイテッド・ワイバーン》の情報を欲した理由は一つ。

 フランスは何らかの理由で()()()()()()()I()S()()()()()()()()。違うかしら?」

 

 この言葉を聞いた瞬間、私の心には絶望が広がっていった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 楯無

 

「そ、そんな事は……」

『……』

 

 デュノアさんがうろたえたような声を出しているけど、デュノア夫人は沈黙を守ったまま。

 

「根拠の一つ目として、フランスのISコアの公表されている可動実績を調べてみたんだけど、その中でいくつか偽装と思われるものがあったのよね。で。さらにその実績を調べて行ったら、過去の実績とほぼ同一の物が出てきた。これが一つ目。

 二つ目として、つい最近デュノア社の工場が爆破事故を起こした事が隠蔽されていた事。かなり大規模だったみたいね。さらに、工場がコアの組み込みも含んだISの組み立て作業を行う時もあるうえ、新型の研究所も併設されていたみたいだから旧来の機体を組み替えて新型の装備か何かへの換装作業中に、っていったところかしら。

 更に言えば、この工場爆破事故のおかげで輸出する予定だった《ラファール・リヴァイヴ》が壊滅。それによって発生した違約金によって経営が一気に圧迫。

 併設されていた新型研究所で研究されていた新型機も破壊されたことだろうし、新型機研究にも大きな痛手になったのではないかしら。さらに言えば、其処にも多額の研究資金を費やしていた事だろうから、それが実を結ばずに水泡に帰した以上途轍もない額が無駄になったことでしょうね。

 しかも、これらの事情によって政府も資金援助を停止したでしょうし……」

『……もう、いいわ。

 更識さん……だったわね。見事な手腕よ。是非我が国にも欲しいくらい』

 

 唐突に、私の言葉を遮る声が聞こえた。

 声の主は、これまでずっと沈黙を守ってきたデュノア夫人。その声には、どこか達観にも似た感情が見えた。

 

「光栄な評価ですが、私は今の立場を捨てる気はありませんので」

『あら。残念ね』

 

 最期だけは少しだけ気楽な、冗談を言っているような口調だった。

 だけど、その瞳は強い意志が垣間見える。

 

『でも、そうね。惜しむらくは、貴女達の回答はある一点で大きく間違えている事でしょう。

 ……シャルロット』

「……は、はい」

 

 不意に、デュノア夫人がデュノアさんを呼んだ。呼ばれたデュノアさんは、少し怯えているよう声になっている

 

『私は、少し貴女抜きで話がしたいわ。それに失敗した以上、貴女は不要よ。

 何処へなりと、すくに去りなさい』

「……!? ぼ、僕は……」

『いいわね?』

 

 静かな、だけど聞くものをどこか圧倒する威圧感を伴った口調でデュノア夫人が言い放った。

 そのセリフを聞かされたデュノアさんはと言えば、一気に生気を失ったような顔になっていた。

 

「四人とも、悪いけど別な場所……そうね。確か寮に空き部屋があったはずだから、そこで別にデュノアさんの事情聴取をお願いできるかしら?」

「……分かりました」

 

 ひとまず、今は彼女の言う通りにしましょう。聞かなければいけない事は沢山あることだし。

 

 

 

 それから間もなく、虚ちゃんが主導してデュノアさんは空き部屋へと連れていかれた。

 

「さて、さっき言っていた大きな間違いが何なのか。聞いてもいいかしら?」

『ええ、いいわよ。

 でもその前に……』

「デュノアさんの亡命、ですか?」

 

 私の言葉に、デュノア夫人は穏やかな笑みを浮かべながら頷いた。

 

『話が早くて助かるわ。

 これだけは、あの子にも内緒であの人とも決めていた事だから。どうしてもね』

「……酷い人ですね、貴女()

 意図的に突き放すような言葉を言って、自分たちの元から引き離すことで亡命を促す。そうなれば、デュノアさんだけでも助かるようにしようなんて」

『……元々、この計画を立てたのはフランス政府だったけど。でも、あの子に決断させてしまうほど私達は弱くなってしまった。

 だけど、元を正せばこの原因は私たち大人の問題。大人の問題は大人が片付けるもので、子供に押し付けるものではないのだから』

「……貴女は、それでいいんですか?」

 

 私の言葉に、デュノア夫人はこれ以上何も語ろうとはしなかった。

 代わりに語ったのは――

 

『……そうね。

 もうそろそろ、別な話をしましょう。何故、私たちがこんな事をしたのか』

 

――今回の騒動の、原因についてだった。

 

『まず最初に言ってしまうけど。

 貴女は工場の事故によって、と言ったわね?』

「ええ」

 

 頷いて肯定した私に、彼女は苦虫を噛み潰したような表情で語り始めた。

 

『間違いはそこよ。

 アレは、事故などではなく……災害だった。害獣という名前の、天災』

「害獣……まさか!?」

 

 私の反応にもデュノア夫人は特に驚くでもなく淡々と続けた。

 予想通りだと、言わんばかりに。

 

『ええ。あなたもIS学園で見た筈でしょう。ISを屠ることさえ当たり前のように起こしうる、あの獣たちを。……私たちの国にも、彼奴らが来た。

 初めて現れたのは一年よりほど前。最初に現れたのは……蟻のような外観だったと、聞いているわ』

「蟻、ですか……」

『ええ。とは言っても、それ単体か少数の時は通常兵器で何の問題もなく倒せた。でも、数週間としない内に大量のそれが出てきた。そして、同時に他にも似たような化け物共も出てくるようになって。

 それらが通常兵器を数で押しつぶしてくるほどに、大量に出てくるようになってしまった』

 

 デュノア夫人はそこで一度言葉を切ると、少しの間をおいてから再度話し始めた。

 

『それからしばらくして、その蟻を含んだ大量の害獣を駆逐するために攻撃部隊の編成が決まったの。

 でも、その時にはもう手遅れになっていたのを知ったのは、それから間もなくの事だった……』

「何が、あったんですか?」

『……さっき貴女も話した、研究所が併設されていた工場。

 あそこの地下から、蟻がトンネル掘ってやってきたのよ』

「!?」

 

 私の驚きを他所に、デュノア夫人は淡々と言葉を紡ぎ続ける。

 言葉のどこかに憎しみと後悔を乗せながら。

 

『その時は文字通りの惨劇だった。工場と研究所はどちらもズタズタ、輸出用に生産していたIS数機分の部品と新型試作機がどちらともほぼ完全に破壊された。

 しかも、さらに悪い事に。あの時の研究所には……デュノア社長が……いえ。夫が、視察に向かっていた』

「……!? まさか……」

 

 思わず飛び出た私の言葉に、デュノア夫人は顔を伏せながら答えた。

 その声は、僅かに震えていた。

 

『不幸中の幸いな事に、一命だけは取り留めた。

 けれど、暫くの間は目を覚ます事すらなく、ようやく目を覚ましても寝たきりが長かった……。つい数週間前にようやく車椅子に乗れるくらいまでは回復したけど、でも一生車椅子の可能性もあるのが現状よ……』

 

 そして暫くの間、何かに耐えるように黙った後、話を再開した。

 

『そして、工場と研究所があの化け物共の襲撃で完全に破壊されたのだけど。さらに、あの化け物共は忌々しい事に、そこに()()()()()()()のよ』

「巣……ですか」

『ええ。工場の……今は跡地とでも言うべき状況になってしまったけど、そこに巨大な巣が作られてしまった。そして、そこからさらに大量の化け物共が出現するようになった。蟻型の割合は減ったけど、それとは別なのが現れるようになってね』

「別なの……」

『ええ。貴女達の学園に先日出現したようなのと酷似した奴もいたわ。その中の一種としてね』

 

 そこまで話したところで、デュノア夫人はもう一度話を止めて深く息を吐いた。

 

『そして、ついに総攻撃が決定された。攻撃目標にはあの工場跡も含まれていたわ。

 その時は、当時まだ企業所属で軍事作戦への参加ができなかったシャルロットのISを除いたフランスが保有する全てのISも投入されたし、それ以外にも大量の通常戦力が投入された。

 あれだけの攻撃を行えば、倒せると……そう、信じていた』

 

 そこでもう一度深く息を吐くと、意を決したようにデュノア夫人は話し始めた。

 

『でも、現実は残酷だった。

 それまで確認されていなかった、新しい化け物が出てきた。翼を携えて空を飛ぶ、黒い巨躯の歪な獣人のような怪物。後から確認したら、その姿も能力も悪魔のようだった。

 その戦闘力は圧倒的で……投入されたすべてのISが倒されて。しかも、コアにまでその被害は及んでいて、とても修復なんて望めないほど。当然、使用していた人たちも相当傷付いて……脊髄損傷になった搭乗者さえいた。

 そして作戦は失敗。今は防衛線を張って何とか抑え込んでいるけど、人員と物資の補給、それらにかかる費用……様々な面から、もう支えるのも困難なほど逼迫してきている。政府も私達も、フランスが崩壊した時に発生する難民の避難先をどうにかして探そうとしているくらいだった。

 シャルロットも、そっちに留学する前までは国家代表候補生の立場で軍事作戦に参加していたのよ。それも、かなり強引にねじ込むような形で』

 

 そこまで話したところで、デュノア夫人は薄く笑った。

 嘗ての夫人自身を嘲笑っているような、そんな痛々しい笑みだった。

 

『でも、そんな時にある情報が飛び込んできた。

 IS学園で、四十体以上に上る数の化け物をほぼ一人で一方的に倒した、謎の機体の情報。俄かには信じられなかったけれど、でももう賭けるしかなかった。今のフランスは、それほど追い詰められている』

「だから、今回の計画を……」

 

 私の確認に、特に反応を返すこともなくデュノア夫人は言葉を続けた。

 

『そういう事ね。

 確信があったとは言えなかったけれど、でもあの白い謎の機体と《ユナイテッド・ワイバーン》はとてもよく似ていた。正直なところ、男性操縦者という事実がどうでもよくなるくらい、あの謎の白い機体につながる可能性の高い機体として私達は《ユナイテッド・ワイバーン》という機体を欲したの』

 

 ここまで話して、デュノア夫人はいったん深く溜息を吐いてから話を続けた。

 

『でも、もうここまででしょうね。

 もう既にして《ユナイテッド・ワイバーン》も手に入る可能性は無い上、仮に今の状況を乗り切ってもISコアを失ったという事実が消えない以上、各国からの追及も避けられない。

 今にして思えば、あの時から私達は詰んでいたのかもしれないわね……』

 

 そこまで話したところで、デュノア夫人は大きく息を吐いた。

 吐き出したかった事をやっとの事で吐き出したかのような、そんな顔だった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

「……フランスであった事は、これで全部。

 其の後の事は、大体は生徒会長が推測した通りだよ」

 

 生徒会室での一幕があった後、俺たちは再び場所を移したうえでデュノアから話を聞いていた。

 

「……分かりました。

 ひとまず、貴女にはここに居てもらいます。後々の事は決定次第伝えますので」

「…………はい」

 

 生気の抜けたような顔で、デュノアは返事をしていた。

 常に俯いたまま、弱々しい声を振り絞るように出す姿には思わず

 

「それでは、一旦失礼します」

 

 虚さんはそう言っていったん部屋を出て行った。後に残ったのは、俺と簪、剣崎、のほほんさんの四人。

 

「……」

 

 残ったのは、沈黙。

 

「……一つ、聞いてもいいか?」

「……何?」

 

 だが、個人的には一つ聞きそびれていたことがある。それだけは、確認しておきたかった。

 

「お前は、デュノア夫人やフランス政府の事をどう思っている?」

 

 俺の質問に、デュノアは僅かに肩を振るわせた後に声を震わせながら話し始めた。

 

「僕は……フランスも、父さんと母さんが大きくしたデュノア社っていう会社も、父さんと母さん自身も好きだよ。だから、進んでテストパイロットとかやっていたし、フランス軍の軍事作戦にだって参加した。

 軍事作戦の時に一緒に戦わせてもらった軍の人たちも、皆国を守ろうと必死になっている人たちばかりで。その人たちと一緒に戦えることに誇りを感じたのもあるけど、それ以上にこの人たちの役にも立ちたいと思って。

 けれど、状況は良くならなくて……。そんな時に、この計画の話が来て。

 僕一人が表舞台に立てなくなるくらいで、状況が好転するなら……それでもいいかなって。そう思った……。

 でも、今はもう…………っ!」

「……そうか」

 

 この返答を聞いて、少し思い出していた。

 例えば、アイリさんがルクスさんとディルウィ卿が戦っている時に言い放ったあの言葉であったり。例えば、セリスティアさんがルクスさんを戦いから遠ざけるために入学を認めようとしなかった時の事であったり。例えば、レリィ学園長がフィルフィさんを救うために単身遺跡(ルイン)の最奥に踏み込もうとしたことであったり。例えば、クルルシファーさんと彼女のお父さんのことであったり。

 あるいは、今目の前にいる簪と更識会長も含んでいいかもしれない。

 

(……同じ感じがするな)

 

 彼女のネックレスについている、ある物を見てそれは思った。

 ネックレストップの形を待機形態としている、デュノアの専用機《ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ》。

 

(……食えない人だな、デュノア夫人)

 

 

―――――――――

 

 

Side 楯無

 

「……随分、詳細に言うのですね。

 もう少し手古摺るかと思ったのですが」

『そうでしょうね。

 けど、更識さん。仮にあの子(シャルロット)がISコアを持ったまま貴女達の元に亡命したとしましょう。そうなったら、どうなると思います?』

 

 この言葉を聞いた瞬間、盛大に呆れかえった。

 座っていた椅子の背もたれに体重を預けるようにしてもたれかかりながら、返答を口にした。

 

「食えない人ですね。

 娘の命と将来を確実に約束させる他に、難民となったフランス国民の受け入れ先としての役割りも望むと?」

『流石に、全部が全部とまでは言わないわ。出来る限りでいい。

 でも、仮にあの子がコアを持ったまま亡命してしまったとしたら、日本はISコアの保有数が最初の割り当てよりも多くなってしまう。当然、国際世論の非難もあるでしょうし、最悪を考えるのであればそれ以上も在り得る。

 その事態を避けるためには、私達の口添えが必要。違うかしら?』

「……流石、ほぼ一代の夫婦二人三脚で会社を大きくしたといわれる人ですね。

 計算高い」

『素直に悪女って言ってもいいのよ?』

 

 流石にこの言葉には、首を振った。

 

「言いませんよ。

 若い時の社長夫妻についても調べたのですが、探してもスキャンダルが出てこない夫婦なんて言われて、評判だったらしいですね。それに。先程も言いましたがデュノア社長と夫婦二人三脚、特に経営方面から会社を支えて大きくした立役者みたいですし。

 そのためには、これくらいの計算高さは必要だったんでしょう?」

『さて、どうかしら?

 でも、私があの人を、あの人と一緒に育て上げたデュノア社を、そして我が祖国であるフランスを、そしてシャルロットを愛しているのは本当よ』

 

 そこまで聞いたところで、私は話しを切り替えることにした。

 

「……さすがに、すぐには返事ができません。

 少し間をおいてもいいですか?」

『出来る限り早く、お願いできるかしら?』

「ご期待に添えるようにしますよ」

 

 そこまで話したところで、互いに通信を切った。

 後には、不気味に感じる静寂だけが残っていた。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

「そっちで聞いた話しは、これで全部ね?」

「はい」

 

 デュノアから聞いた話の内容を虚さんが更識会長にも伝えたらしく、内容の一致を確認したところで俺も呼びだされた。

 フランスの問題に幻神獣(アビス)が関わっているのが原因であり、そのために呼ばれたらしい。

 

「影内君。一応聞いておくけど、貴方はどうしたい?」

「……基本的に、あの化け物は殲滅するように仰せつかっています。そして、範囲は指定されていません。

 その意味で言えば、俺としてはフランスにいるのであろうあの化け物も殲滅に行きたいところなのですが」

 

 俺の返答を聞き、更識会長は満足そうな顔で頷いた。

 

「そうね……。彼女たちの話が本当なら、実の所私もそれが最善だと思うわ。

 で、影内君にさらに聞きたいんだけど。単刀直入に言って、彼女たちに話に合った物量の敵を相手にできるの?」

「お任せください、と言いたいところですが……。

 流石に一人では厳しい事になりそうです。そちらが大丈夫なら本社にも増援を打診してみますが……」

 

 詳細な数が分からないので何とも言えないが、さすがに話を聞いた限りでは厳しい事になりそうなのは想像に難くない。ほぼ一人で挑むというのは、無謀に過ぎる。

 出来る限りはルクスさん達の負担にならないよう一人で解決するつもりだが、それで死んでしまっては元も子もない。

 そうなれば、必然と増援に頼らざるを得ない事になる。

 

「是非、そうしてちょうだい。

 こっちもこっちで色々と動いてみるから」

「お世話になります」

「お互い様よ」

 

 意外といえば意外なほどスムーズに話が纏まり、互いの為すべきことが決まっていく。

 

「さて。解決のために、お互いに備えるとしましょうか」

「ええ。よろしくお願いします」


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