IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第四章(7):鳴り響く雨音

Side 一夏

 

 寮長室から部屋へと戻ったが、その時にはすでに結構な時間が経っていた。消灯までもそこまで時間があるというわけではないので、やることだけ早いうちに済ませるべきだろう。

 

「お帰り、遅かったね」

 

 同室のデュノアに迎えられる。既にシャワーを浴びたとのことで、くつろいでいる。

 

「もう遅いけど、シャワー浴びる? 一応すぐに浴びれるけど」

「助かる」

 

 さすがに時間が遅かったことを考慮してか、シャワーが使える状態にしているらしい。

 疲れはとりたかったので入る事にはしたが、念のために何も仕込まれていないかは調べる。結論から言えば特に何も無かったのでそのまま入ったのだが。

 少しぬるめのシャワーを浴びながら、今までの事を思い出していた。ボーデヴィッヒとの一件、《打鉄弐式》の問題とその顛末、デュノアに関する新たな疑惑、最後に織斑教諭の事も。

 

(……正直、任務の事だけに集中したいところだが。

 そうもいかないのがなぁ……)

 

 多分に諦めの様な物を含んだ溜息を吐きはしたが、それで状況が好転するわけでもない。

 問題を片付ける手段を講じつつ、その日は消灯までの時間が無かったのもあって特に何事もなく終わっていった。

 

 

―――――――――

 

 

Side セシリア

 

「……で、今日はなんでか知らないけど箒と簪、本音は急用で別行動。

 影内は生徒会関連で遅れるみたいだから、先に始めちゃいましょ」

 

 ボーデヴィッヒさんが影内さんに勝負を挑んだ日の翌日の放課後。いつものように特訓のためアリーナに集まった私ですが、その日は大半以上の人にそれぞれの事情があっていないか、後から来るかという時でした。最初からいた人は、私と鈴さんのみです。

 

「ええ。

 では、何から始めましょうか?」

「何時もメニューの大元を考えてるのは影内だけど、今は居ないしねぇ……。

 とりあえず、軽い模擬戦でもする?」

「さすがに最初から模擬戦は……」

 

 そうして、鈴さんと訓練の内容について話し合っている時でした。

 

  ドンッ!

 

 鳴り響いたのは砲撃音。

 それが自分たちを向いていると判断したのとほぼ同時、反射的に回避行動を取っていました。

 

「……いきなりね」

 

 鈴さんが呆れながら、視線を砲弾が放たれた場所へと向けました。

 その先には、ドイツの代表候補生と、その専用機にして第三世代機《シュヴァルツィア・レーゲン》が佇んでいます。

 

「……一応お聞きしますが、何用でしょうか?」

「中国の《甲龍》とイギリスの《ブルー・ティアーズ》か?

 ちょうどいい、私と戦え」

「いやよ。

 っていうか、やるにしても正式な手順を踏んだらどう?」

「昨日のデュノアさんの話が全く身になっていないご様子ですわね。

 程度が知れるというものですわ」

 

 私たちの非難もどこ吹く風。ドイツの候補生は何も気にせずに鼻を鳴らしただけでした。

 

「フン……負けるのが怖いのか?」

「……訂正してあげるわ。

 勝負したいんなら、まずは正式な手順を踏みなさい」

 

 鈴さんが完全に呆れ声ですが、やはりドイツの候補生は気にしないみたいですわね。

 私も呆れ返りますが、同時に直感の告げるまま、《ブルーティアーズ》のビットを準備しておきます。

 

「なら……嫌でも戦うようにするだけだ!」

 

 直後、あろうことか、ドイツの代表候補生は私達ではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()照準を合わせました。

 当然、発砲すれば大惨事は免れません。

 

(一時期の私だってこんな事はしませんでしたわよ!)

 

 こんなくだらない事を考えていられたのも短い間の事。内心で毒づきながら、咄嗟にビットを構えて引き金を引きます。

 

  ビシュ!

 

 回避行動を取らせ、発砲は阻止します。さらに鈴さんが衝撃砲で追撃してくれたおかげでこれ以上無関係な生徒たちには被害が出ませんでしたわ。

 代わりと言ってはなんですが、私たちが済し崩し的に戦闘に突入してしまいましたけど。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

 今回は純粋に生徒会としての仕事で呼ばれたがそれも無事に終わり、アリーナに向かって歩みを進めていた。

 書類仕事自体は今となっては慣れたものなので特に問題も無いが、久方ぶりだったためか少し精神的に疲れのようなものを感じてもいた。

 最も、訓練するにあたっては支障ない程度だが。

 

  ドォォン……

 

「ん?」

 

 聞こえてきた爆発音。

 音源は向かおうとしていたアリーナの方。

 

「……一体なんだ!?」

 

 反射的に毒づいたが、意外にもその言葉に答えてくれる女生徒が居た。

 

「ぼ、ボーデヴィッヒさんが第三アリーナでオルコットさんと凰さんに!」

「ッ! すまない、誰か先生呼んできてくれ!

 余裕があったら織斑教諭も!」

「わかった!」

 

 答えた女生徒も元々そのつもりだったのか、慌てて走り去っていく。

 だが、俺はもうそちらを見ていない。会話が終わると同時に、アリーナに向かって走り出していたから。

 

 

―――――――――

 

 

Side 鈴

 

 まさかの無防備な生徒をロックオンするとかいう暴挙をやらかしたドイツの候補生を相手していたが、正直言って状況は余りよろしくない。

 なにより、コイツは周辺を全く見ずに戦闘しているものだから流れ弾がまだアリーナにいる他の退避していない生徒の方に流れかねない。

 必然的に、私たちの動く範囲は限られる。

 

「やりづらいですわね……ッ!」

「さすがはあの人の教え子、って言ったところかしら」

「フン……その程度の腕前で、代表候補生か? 笑わせる!」

 

 私の皮肉も気にしていない。というより、多分気付いていないみたいね。

 馬鹿馬鹿しいにもほどがあるけど、事実分が悪いのはこちら。

 

『……セシリア、少し付き合いなさい』

『鈴さん……?』

 

 このままでは被害が拡大しかねない。

 そう判断した私は、セシリアに個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)で少し打ち合わせることにした。

 

『いい? 今の状況のままだとどのみち後ろの生徒が危険にさらされる。だから、アイツの射線上に他の生徒が入らない位置を取る。攻撃は二の次。とにかく上空か反対側で回避重視で戦術を組み立てる。

 それと、アイツのISも第三世代機ってことは多分何か第三世代兵装があると思うけど、確かアンタと同じ計画の機体よね? 何か知らない?』

『残念ですが、何も』

『そう……』

 

 ここでアイツの手の内が分かればやり易かったところだけど、分からない以上は仕方ない。

 ひとまず、今現在の最大の問題はあの肩のキャノン砲。威力も弾速も十分。普通に砲として優秀。だけど、それ以外に射撃装備を出していない以上、他にないと信じたい。

 

『ひとまず、他の生徒がアイツの射線上に入らないように立ち回りましょう』

『分かりましたわ。

 鈴さん、いつかのように前衛お願いしますわ』

『いいわよ。

 その代わり、後衛はお願い。衝撃砲とビット(私たちの第三世代兵装)もガンガン使って行きましょ』

『良くってよ!』

 

 そこまで話したところで、私とセシリアは互いに弾かれるように動いた。

 

「貴様らなど……私の敵ですらない!」

 

 色々と言いたいことはあるけど、それは全て後回し。

 私は上に、セシリアは他の生徒達が余りいない方の横からアイツの後ろ側へと回り込んでそれぞれに攻撃を仕掛ける。私は衝撃砲を、セシリアはライフルを。

 だけど、ドイツの代表候補生は肩の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)から何かを射出した。その数、二。射出されたけど速度はそこまでではない事と、何かが繋がっている事から見てワイヤーか何かを鞭のように使う装備と思える。

 セシリアも気付いたみたいで、ライフルでの攻撃を中止して回避に移っている。だけど、それでいい。

 私に方には何もしてこないけど、それなら仕掛けるだけ。《龍砲》を多少狙いは大雑把でもとにかく撃ちまくる。

 

「そのような物……私と《シュヴァルツィア・レーゲン》には通用せん!」

 

 私が撃った直後、ドイツの代表候補生は右手を私の方へと向けてきた。

 そして、《龍砲》の衝撃弾が着弾する直前――その威力を失った。

 

「効果が無い……それがその機体の第三世代兵装ってわけね!」

「今更気づいたところで、遅い!

 貴様らなど、このAICの前では無力だ!!」

 

 そう思ってんだったら正規の手順を踏んで示せば、誰もが認めただろうに、とは思ったけど口にはしない。

 そして、そのままでは《龍砲》が無意味そうなので周辺に撃ち込んで土煙を上げる。同時に、セシリアに()()()()を打診しておく。

 私の話しを聞いた直後、セシリアは頷いてくれていた。幸い、ドイツの代表候補生は目晦まし代わりにした土煙のおかげで私とセシリアの話しはばれていないと思われる。

 それと、上まで上がった土煙だけが妙に対空時間が長い。理由は不明だけど。

 

(多少は攻略の糸口が見つかるといいんだけど……)

 

 完全に土煙が晴れる前に、再度ワイヤーのような装備が見えた。合計は六。それが半々に私とセシリアに襲い掛かってくる。

 《龍砲》で撃ち落としながら真下へと《双天牙月》を構えて急降下。

 

「教官ほどの腕前があるわけでもないのに、AICに向かってくるのか……愚かな!」

 

 予想通りと言えば予想通り、相変わらずの侮蔑を向けてくる。でも、今だけは()()()()()

 これまた予想通りに《双天牙月》が受け止められたけど、それも予定調和。

 

「……そこですわ!」

 

 私が上からかかっていったことで、真横はガラ空き。その周囲の一部を、セシリアが操作するビットが他の生徒が射線上に来ないように包囲する。そして、一斉射を仕掛けようとした。

 

  ビシュシュシュシュ!

 

 放たれる四つの光弾。

 だが、向こうも腐っても代表候補生。躊躇なく《AIC》という装備を解除すると回避行動に入った。結果、一撃も入らない。

 

(なんだってこう、力()()は受け継いでんのよ!)

 

 内心で毒づきながら、ドイツの代表候補生がAICを解除したことで拘束が解除された私も追撃を仕掛ける。だけど、その追撃もいなしかわされ逸らされていく。

 織斑先生の嘗ての教え子は無駄にその実力を見せながら、私たちに着実にダメージを与えに来る。認めたくはないけど、状況的にはジリ貧だった。だけど、その甲斐あってか無関係な他の生徒の避難は完了しつつある。当初の目的は十分に果たせていると言えるだろう。

 

 だけど、そう考えていた間が、隙になった。

 

「そこだ、馬鹿が!」

 

 ボーデヴィッヒが手刀を入れてきた。そのままなら大した脅威にはならないけど、生憎そうはいかないみたいで、その手首から何か光の刃みたいなものが展開されていた。

 

「近……ッ!」

「潰れろ!」

 

 そのまま、続けざまに何発か貰う事になってしまった。

 私の《双天牙月》も大柄な武器である以上、密着されすぎると振るい辛い。半面、あの手首から出ている刃は至近距離でも十分な威力があることでしょう。

 だけど、それ以上の追撃は来なかった。

 

「……ようやく、来たか。

 影内一夏!」

 

 ドイツの代表候補生の視線の先には、影内がいる。

 一方、影内は私とセシリアに目配せして避難するように促していた。

 

(ここは撤退すべきね)

 

 すぐにそう判断した私は、セシリアと一緒にその場を後にし始めた。

 どのみち、ダメージレベルが気付いたらBにまでなっている今だと、足手まといにしかならない可能性もある。

 

(悔しいけど……まかせたわよ、影内!)

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

 二人が退いたのを確認してから、一度ボーデヴィッヒに向き直る。

 相も変わらずふてぶてしくすら見える微笑を浮かべるボーデヴィッヒを一瞥し、おそらくは無駄だろうがいくつかは聞いておく事にする。

 

「……何をしてるんだ、お前は」

「フン……私はただ、この力を証明するだけだ。

 ISという、絶対的な力をな!」

 

 そこにあったのは狂信者の顔だった。

 

「……証明してどうする気だ」

「愚問だな。

 ISという、選ばれた人間だけが使える絶対的な力を示す。それ以上に理由など要る物か!?

 敵を叩き潰すための、圧倒的な力を示すことにこそ意味があるのだ!!」

 

 色々と呆れる他無い部分が多分に含まれているが、困った事に彼女が遠慮無く仕掛けてくるおかげで此方も対処せざるを得ない。

 幸いな事に、凰とオルコットがかなり頑張ってくれたおかげでアリーナの他の生徒の避難はすでに完了している。遠慮なくやれるだろう。

 

(後で二人とも少し話をするか……)

 

 考えを巡らせたが、それも少しの間の事。ひとまず、今は目の前の問題から片付けなければいけない。

 

「……安心しておけ、ボーデヴィッヒ。

 お前は確かに強いよ」

「ほう?」

 

 ボーデヴィッヒが一瞬意外そうな顔をしたが、それもある種興味の範疇の外にある。

 第一、『最強』を信奉している彼女が次の台詞を聞けば逆上するだろうことは確実だろうし。

 

「俺が師事した『最弱』には確実に勝てないだろうが」

「……何だと?」

 

 一瞬でボーデヴィッヒが鬼の形相になったが、気にするほどの事でもない。

 

「聞こえなかったか?

 俺にも何人か師と呼ぶ人がいてな。その中でも最もお世話になっているあの人には……『最弱』を含む二つ名を持つ、あの人には足元にも及ばない。

 そう言ったんだ」

 

 この一言に一瞬で沸点に達したらしいボーデヴィッヒは、次の瞬間には不気味な笑い声をあげていた。

 同時に、肩の砲撃装備と思しき部分がこちらに向く。

 

「ク……ククク。

 ほざけ、最弱風情が! そこまで言うなら、その証拠を示して見せろ!!」

「そうか。

 なら、そうさせてもらおうか!」

 

 実の所、努めて冷静を保ってはいたが俺としても友人たちを攻撃されていい気などするはずもない。

 少々手荒にはなるが、いい加減にしてもらうとしよう。

 

  ドンッ!

 

 派手な音が向けられていた砲口から鳴り渡る。

 最も、大した脅威には感じない。脅威には違いないが、《七つの竜頭(ゼブンヘッズ)》の威圧感に慣れた身としてはいなせるという時点でそう大事に考える必要もない。

 

神速制御(クイックドロウ)

 

 神速を以って《機竜牙剣(ブレード)》を振るい、あの大口径砲の弾丸を逸らす。

 

  ギャギィ!

 

 直後に細長くしなる鋼線のような装備が飛び出してくる。察するに《竜尾鋼線(ワイヤーテイル)》のような装備だろうが、数は六。あまり見たことは無い数だった。最も、それ単体で脅威になる場合などフィルフィさんの《テュポーン》の特殊装備である《竜咬縛鎖(パイル・アンカー)》くらいなものだが。

 

(ま、警戒するに越したことはないか)

 

 幸いなことに、ボーデヴィッヒはあの鋼線(ワイヤー)を包囲するように動かしている。が、正面はあの大口径砲に頼るつもりだったのか意外と穴が開いている。

 罠の可能性も無いとは言い切れないが、仕込まれるまえに仕掛ければいい。

 

  ゴッ!

 

 背翼の推進器を思いっきり吹かすと同時に四つ足全てで地面を蹴って跳躍。一気に距離を詰める。

 

「フン……正面から来るだけか!」

 

 ボーデヴィッヒはあの大口径砲を再度撃ってきたが、再び神速制御を用いて弾く。弾速は中々のものだが、それだけで止められるほど軟な鍛え方はされていない。特にセリスティアさんには。

 そうして肉薄した直後だった。

 

「フン……教官でもないのに正面から剣技だけで来るなど。このAICの前には無力だ!」

 

 ボーデヴィッヒが叫び、右腕を前に突き出した。直後、斬りかかろうとしていた右腕の《機竜牙剣》が全く動かなくなる。

 特に何かがあるわけでもないのに、だ。

 

「……なるほど。

 相手を拘束する装備、とでもいったところか」

「今更気づいたところで……」

「存外、遅くないものだぞ」

 

 が、それでも全身を止められない限りは意外と反撃の余地がある。ひとまず左手の装備を《機竜息銃(ブレスガン)》に持ち替え、至近距離から銃撃。

 

「ガァッ!」

 

 不意打ちだったためかそれともAICという装備の操作にでも集中していたのか、ボーデヴィッヒは特に何かをするでもなく正面からくらっていた。

 

(悪いが、動きが拘束されるのは《暴食(リロード・オン・ファイア)》の結界や《天声(スプレッシャー)》で慣れてんだよ……)

 

 この機を逃す気もないので、拘束を解かれた《機竜牙剣》で再度攻撃を仕掛ける。

 

(さて、いい加減に止まってもらおうか……!)

 

 

―――――――――

 

 

Side ラウラ

 

(予想はしていたが……ここまでの物か!)

 

 私が教官から教わった力を示すため、他の代表候補生を叩き潰し、最強として君臨する。

 その中でも、最大の障害となるだろうとは予測していた。この、影内一夏という男は。

 

(事前の調査においても、コイツの実力の高さについては予想していたが……《A(アクティブ)I(イナーシャル)C(キャンセラー)》を初見で突破しただと!?)

 

 高い回避技能と近接戦闘技能。加えて、補助と割り切れば必要最低限はあると思しき射撃技能。そして、ある種異形ともいえる異様な高性能機。

 強敵である事は最初から分かっていたが、その力量は予想を超えていた。

 

「この……舐めるな!」

 

 反撃を仕掛けるが、そのどれもが有効打となっていない。半面、奴の攻撃は私の《シュヴァルツィア・レーゲン》のS(シールド)E(エネルギー)を着実に削り取っていく。

 そして、私がプラズマ手刀で何度目かの攻防を仕掛けようとした、その時だった。

 

「……全く。これだからガキの相手は疲れる」

 

 その声に、私の体は一瞬で凍り付いた。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

「……全く。これだからガキの相手は疲れる」

「教官!?」

 

 ようやく現れた織斑教諭は普段と変わらぬスーツ姿であり、ISどころかISスーツさえも装着していない。にも拘らず、ISの武装である近接ブレード《葵》を軽々と扱い、更にはボーデヴィッヒの一撃を横から抑え込む実力。

 

(一応、世界最強(ブリュンヒルデ)と呼ばれるだけはあるか)

 

 少し後ろを見ると、最初に口頭でアリーナの異変を教えてくれた女生徒が息を切らしながら立っていた。どうやら、彼女が織斑教諭を連れてきてくれたらしい。後でお礼を言っておこう。

 

「いい加減にしておけよ、ボーデヴィッヒ。

 模擬戦をやるのは止めん。だが、人命に関わる事態が起きては見過ごす訳にはいかない。どうしても戦いたければ、学年別トーナメントの時にでも決着をつければいい」

「……教官が、仰られるなら」

 

 素直に頷いたボーデヴィッヒは、ISを解除する。直後に《シュヴァルツェア・レーゲン》が光の粒子へと変換され、弾けて消えた。

 終わったのなら俺としても機竜を纏い続ける事は無い。俺も俺で解除した。

 

「……影内も良いな?」

「ええ、問題ありません」

 

 簡単に返事だけ返して、その後は早々にアリーナを後にする。

 一方の織斑教諭も、すでにアリーナに生徒がいないためか早々に後にしている。

 

 

 そして、この数時間後。学年別トーナメントまで一切の私闘を禁じる校内放送が流れる事態になった。


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