IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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新章突入です!
そして、ついにあの二人が出てきます!


第四章:異形の影
第四章(1):橙の風、黒い雨


Side 一夏

 

 幻神獣討伐を目的とした無人島への襲撃と、その帰り道で無人ISに襲撃された日から暫く経った日の事。

 今日までにはまだ幻神獣と確定したものはいないらしく、いつも通りに鍛錬をしつつ学業にも励んでいた今日この頃。

 

 今日の朝練には簪と箒、凰も加わっていた。この三人は元々の体力もあったためある程度慣れてくれば朝練にも問題なく参加できたためである。さすがに鍛錬量自体はかなり手加減するが。さすがにセシリアはこの三人に比べ体力面ではまだ問題があったため朝練には参加していない。

 

「さて、朝練は何やるのかしら?」

 

 そして、朝から元気な凰が内容を聞いてきた。

 

「とりあえず、基礎体力を鍛える。

 今から本格的に機体を展開して鍛錬するのは時間的に厳しそうだしな」

 

 実の所、王立士官学校(アカデミー)では朝から機竜を使っての訓練なんてよくやっていたが、それは制約が少なかったためである。

 基本的に実機を使える場所がアリーナ内部に限られるため申請が通らないと使えないのだが、いかんせん時間が早すぎるため中々通らない。さすがに教職員もこの時間に起きるのは一部を除き辛いらしかった。

 そのために朝練は基本的に基礎体力の向上や体術・剣術の鍛錬が主となっている。

 

「時間と場所の都合を考えれば妥当なところか。

 で、どれくらいやる気だ?」

 

 剣崎が聞いてきたので、ひとまず考えていた分を特に考える事も無く口にした。

 

「とりあえず、放課後にやっている分の半分くらいを考えているが」

 

 そして、この瞬間に一瞬だけ三人が固まった。なぜだ。

 

「……朝からかなりやるんだね」

 

 簪が辛うじてそれだけ言ったが、特に驚く量でもないだろう。

 こうして、多少不本意なことががありつつも特に問題なく朝練の時間は過ぎていった。

 

 

―――――――――

 

 

 そして、普段通りに朝食を食べて授業の準備を済ませ、それぞれの教室へと向かっていきSHRが始まった。

 だが、その日はいつもより少し騒がしかった。

 

「私はやっぱハヅキ社製かなぁ」

「そう? あれって性能表見るとデザインだけじゃない?」

「そのデザインが良いんでしょうが!」

「私としては性能的にミューレイのかなー」

「あれ高いじゃん」

 

 ISスーツに関する話をしているようだった。

 確か、今日からISスーツの申し込みが始まるため、そのような話が出たのだろう。

 

「ISスーツか……そういえば、影内。

 お前はどこの物を使っているんだ?」

「あ~、それ、気になるな~。

 何使ってるの~?」

 

 その中で出たのは、俺が使っている装衣についてだった。

 

「会社の方の特注品らしい。

 詳しくは聞いていないから、これ以上は分からん」

 

 まさか古代遺跡からの発掘品などとは言えないため適当に誤魔化し、そのまま流していく。

 

「諸君、おはよう」

「「「おはようございます」」」

 

 その喧騒の中、織斑教諭が入ってきた。入って来ただけで黙らせるのは教育が行き届いているというべきか流石の恐怖政治と言うべきか。

 

「今日から実機を使用しての訓練に入る。

 訓練機だがISの実機を使用しての訓練だ。事故など起こしようものなら間違いなく病院行きになる。それも含め、各人気を引き締めるように。

 なお、一部の面々を除きISスーツの申し込みも今日から始まるから、忘れず注文するように。注文したISスーツが届くまでは忘れず学校指定の物を着て来い。いいな?」

「はい!」

 

 先程まで話にもあったISスーツに関して織斑教諭が必要事項を言い、全員が返事をした。

 

(実機訓練か……)

 

 気楽なものだな、とだけ思ったのは少々と機竜世界側の基準で考えすぎだろうか。

 おそらくこのクラス、と言うよりはIS学園に在籍する人たちはその多くは生徒や教師を問わず、IS学園でISに関する知識や技術を学んだとして、それを生かすのはモンド・グロッソなどの大会などを想像するだろう。

 だが、実際にそれだけに止まるというのは考えづらい。そもそもとして最強の兵器を謳っている以上、軍事的に使われる可能性が高い状況であることは明白だ。

 競技の事しか考えていない者たちが、実際の脅威―過日の幻神獣(アビス)など―に会えばどうなるか。先日の教師部隊の事も考えれば、気が滅入るばかりだった。

 

(……そのような状況のためにいるわけだが。

 まあ、とにかく全力を尽くすか)

 

 どのみち、任務が終われば機竜の世界に帰るつもりなのでそこまで深く関わり合う気もない。この世界の問題はこの世界に生きる人たちに任せる事にしている。

 この世界の出身者として考えれば、そしてこの世界に友人がいる身として考えれば、薄情に過ぎる考えかも知れないが。

 

「山田先生、SHRを」

「はい! 突然ですが、転校生を紹介します! しかも2人ですよ!!」

「「「ええええええええええええ!」」」

 

 クラスメイト達から驚きの声が上がるが、俺も内心同じように思っていた。

 尤も、意味合いは少し違うと思うが。

 

(……この時期に、このクラスに、転入生か。

 また更識会長たちを頼ることになりそうだな)

 

 一組にわざわざこの時期に転校などしてくる以上、どうしても多少の邪推は入るというもの。加え、少し前には幻神獣を撃退した謎の白い機体という体で《アスディーグ》を人前に晒したばかりだ。

 何もないに越したことは無いが、警戒は当然だろう。

 

「入ってこい」

「は!」

「失礼します」

 

 織斑教諭に呼ばれ、二人の転入生が入ってくる。

 一方は濃い金髪を後ろで結び紫がかった瞳が目を引く、どちらかと言えば中性的な顔立ちの人物。もう一人は小柄で、腰まである長い銀髪と左目に付けた黒い眼帯が目を引く、赤眼の少女である。

 この二人を目にしたときのクラスの反応と言えば、最初は二名の教師を除き固まっていた。原因は明白、金髪の方が着ていた制服が、俺が着用している物とほぼ同様の()()()制服を着ていたためである。

 

「それでは、自己紹介をお願いします」

 

 山田教諭が二人に促し、まず金髪で男性用制服を着用している方が自己紹介を始めた。

 

「シャルル・デュノアです。此方に僕と同じ境遇の方が居ると聞いて、フランスから転校してきました。

 不慣れなことも多く迷惑をかけてしまうかもしれませんが、皆さんよろしくお願いします」

 

 デュノアが一礼して自己紹介を終えようとしたが、そうは問屋が卸さなかった。

 

「お、男の子……?」

 

 クラスの誰かが呟いただけなのだが、いかんせん静寂に包まれた中でのそれだと響く。

 

「はい。こちらの方にも男性操縦者の方がいると聞きまして、それで――」

 

 デュノアが喋れたのはそこまでだった。

 そして、俺は既に耳を塞ぐ準備をしている。

 

「「「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」」」

 

 いつかの自己紹介の時を彷彿とさせる黄色い声の大音量が鳴り響いていた。

 そして、それが収まるころを見計らって塞いでいた耳を離して再度周囲の反応を窺うと、今度は各々が勝手に騒ぎ出していた。

 完全に登校初日の俺の状況のデジャブだった。

 

「男の子よ! 2人目の男の子!」

「金髪紫瞳の美形! 守ってあげたくなる感じの!」

「1-1で男子を独占! やったぜ!」

「イィィヤッホオオオォォォ! さぁいこぉうだぜぇえええぇぇぇ!!」

 

 クラスの面々は世界で二人目の男性操縦者の登場に色めき立っており、明らかの隣の二組に対して授業妨害になっていることが容易に想像できるレベルである。

 それでもこのクラスに誰も来ないのは、皆が真面目に授業を受けているからだろう。

 そして、このクラスの面々はもう少し静かにするという事はできないのだろうか。

 

「騒ぐな! 静かにしろ!」

「み、皆さんお静かに! まだ自己紹介が終わってませんよ!」

 

 そして、織斑教諭と山田教諭が大声を出して何とかその場を収めていた。

 

「ボーデヴィッヒ、自己紹介しろ」

「は! 教官!」

 

 ボーデヴィッヒと呼ばれた彼女は姿勢を正し、異国のそれと思われる敬礼を織斑教諭へと返していた。

 一方の織斑教諭はと言えば、生徒の手前か露骨に煙たがるような事こそしていないものの微妙に面倒そうな感じだった。

 

「私はもう教官ではないし、お前も此処ではただの一生徒だ。わかったら、私の事は織斑先生と呼べ」

「了解」

 

 相変わらず固い態度のまま、姿勢を正して返事をしている。

 だが、続く自己紹介は短かった。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 それだけ堂々と言い放つと、後は黙ったままだった。

 

「……あの、以上ですか?」

「以上だが?」

 

 山田教諭が何とか場面を打開しようとしたが、返って来た返答はそんな山田教諭の努力を色々と台無しにするものだった。きっとこの時のクラスの皆の気持ちは、二人目の男性操縦者への興味以上に山田教諭への同情が占めていた事だろう。

 同時に、先程までの会話からいくらか彼女の経歴に思い当たる部分も出てきた。

 

(前に更識会長が言っていた、ドイツ軍時代の教え子か……)

 

 いつだったか、更識会長から織斑教諭がドイツ軍で教官を務めていた時期があり、その時の事が元になって実技教員としての話が出て今に至る、というのを聞いた事がある。

 おそらく、彼女はその時の教え子なのだろう。本当に会うことになるとは思っていなかった反面少し驚きはしたが、それ以上に面倒事になりそうな予感がするのが嫌だった。

 それに、彼女の転校もそれなり以上には不可解だった。

 素人目から見ても軍人であることがわかる彼女だが、なぜわざわざIS学園に、と個人的には少し疑問にもなる。ISの扱いに関しては大方は軍で習えるだろうし、部隊単位での訓練や運用上の問題も考えれば外に出したくないのではないだろうかと考えることもできる。

 

(まあ、気にしても仕方ないか……)

 

 あくまで自分には関係の薄い事と考え、その場は黙っておこうとした。

 だが、そんな俺の考えとは裏腹に、ボーデヴィッヒから近づいてきた。

 

「お前が影内一夏か?」

「……? そうだが」

 

 俺の返答に、ボーデヴィッヒは俺の方を観察するように少しの間見ていた。

 尤も、観察するように見ていたのは一人だけではなかったが。

 

(露骨だな……まあ、ボーデヴィッヒだけでもないが。

 目立たないだけで、デュノアもか……)

 

 ボーデヴィッヒの行動が派手なのでそちらに目が行きがちだが、よくよく注意するとデュノアもこちらを観察するように見ていることが窺える。

 

(……二人について、更識会長にも相談するか)

 

 三度頼ることになる事実に対して少々気が重くなるが、背に腹は代えられない。

 

  パンッ!

 

 だが、今までの状況の一切を切り替えるように織斑教諭が手を叩いた音が響いた。

 

「それではSHRを終える。

 各人はすぐに着替えて第2グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘だ。それから影内、お前はデュノアの面倒を見てやれ。

 それでは解散!」

 

 織斑教諭の掛け声に合わせてクラスの女子たちが一斉に動き出した。

 一方、デュノアは器用に女子たちの間をすり抜けると此方まで来た。

 

「君が影内君だよね。改めて、僕は――」

「すまないが、自己紹介は歩きながら頼む。男子はアリーナに急増された更衣室で着替えなんだ。それと、遅れた場合それなりのペナルティが付くから急いだほうがいい」

「え? う、うん!」

 

 デュノアが少々戸惑っているようだが、それを気にしている暇はない。急かしながら、急ぎ足で更衣室へと向かっていく。

 

「とりあえず、俺は影内一夏。俺とわかれば呼び方は何でもいい」

「さっきも言ったけど、僕はシャルル・デュノア。

 僕も呼び方は何でもいいよ」

 

 割とスラスラと日本語を話しているが、それでもいくらかの突っかかりを感じる喋り方だった。

 

(……付け焼刃、と言うほどではないが……妙に違和感を感じるな)

 

 気にするほどではないが、それでも違和感は覚える。

 だが、そこに対して思考出来たのはそこまでだった。

 

「いたわ! 影内君と転校生よ!」

「者ども、出会え出会え!」

 

 どこぞの時代劇を彷彿とさせる台詞回しとともに、女子の一団が現れた。授業はどうした。

 

「ええい、早く行くぞ!」

「わ、分かった!」

 

 さすがにこの異様な光景を前に、デュノアも急ぎ出したらしい。

 その後、俺たちはその後も現れる女史の一団から逃れながら、何とか更衣室へと向かっていった。

 

 

―――――――――

 

 

Side シャルル

 

 IS学園への転校初日。様々な意味でまさかの事態には見舞われたけど、何とか影内君と知り合うのは成功した。

 そして、この学校の人たちってあんなに男の人に飢えてるのか、と疑問に思わずにはいられなかった。

 

「……こ、この学校って。い、いつもこうなの?」

 

 更衣室に着いた時点で割と疲れることにはなったけど、同じだけ走った影内君は体力も相当あるみたいで特に問題ないみたいだった。ちょっと悔しかった。

 

「何時もより酷いな。

 まあ、今日はデュノアも来たから、その影響だろうな」

「そ、そっか……」

 

 影内君の若干投げやりになっている説明に、僕も同じように投げやりな気持ちになってきた。

 だけど、気持ちを切り替えて次に取るべき行動に移っていく。

 

「えっと、ここで着替えて準備すればいいんだよね?」

「そうなる。時間も押してるし、早くしようか」

 

 影内君に言われて、すぐに着替えを始める。とはいっても、やることと言えばほとんど脱ぐだけ。色々と隠すには、そちらの方が都合がいい。

 一方、影内君のほうもほとんど同じように脱ぐだけみたいだった。

 だけど、それよりも気になる物がある。

 影内君の使っているISの待機形態である、あの剣。

 

(……アレさえあれば)

 

 何としても、現物か……最悪、データだけでも持ち帰らなければならない。

 アレさえ何とかすれば、僕の目的は達せるのだから。


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