IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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更新期間が再度空いてしまい申し訳ありません。

今回の話に関してですが、書いていて予想以上に長くなってしまったため前後編に分割します。
後編は出来る限り間を空けずに更新しますので、お許しください読者様!


第三章(11):折れて尚、強く(前編)

Side 鈴音

 

 一通り話し終えて、私は一回大きく息を吐いた。

 人に話すような内容じゃなかったかもしれないけど、久しぶりに話せたためか幾分気持ちが落ち着いていた。

 

 それと同時に、一つ疑問に思ったこともある。

 

(……剣崎が、一夏の幼馴染か)

 

 思い当たる節が無いわけじゃない。

 一夏からも、昔知り合いの道場で剣道を習っていた時期があったことは聞いていたし、その道場の名前も知っている。

 

「……剣崎、私も一つ聞きたいことがあるんだけど。

 いいかしら?」

「……? なんだ?」

「一夏と同じ道場に通っていたって言ってたわよね?

 ()()()()()()()と、()()()()()()()()()()()()。聞いてもいいかしら?」

 

 私の質問に、剣崎は一瞬意外そうな顔をした後に何か得心が言ったような顔をした。

 

「……一応、なぜその質問をしたのか聞いてもいいか?」

「昔、一夏から私が来る前に道場に通っていたって話を聞いたことがあってね。

 その時、少し聞いたの。()()()()()()()()()()()とか、ね」

 

 悪いことをしているかなとは思ったけど、でもどうしてもそこだけは知りたかった。

 どうしても、私の記憶の中で一夏が言っていた内容と食い違う部分があったから。

 

「だから、か。

 おそらくは凰の思っている通り、私は一度苗字を変えている。その上で話すのであれば、少々身の上話が入って来てしまうが……」

「それでいい。

 というか、そういう話が聞きたいから言ったわけだし」

 

 私の返事に、剣崎は少しだけ横の簪を見た。

 簪も簪で、剣崎に頷きを返した。

 

 

―――――――――

 

 

Side 箒

 

「私の事、か……」

 

 凰に聞かれ、少し戸惑った。

 正直、あまり人に話していいような内容ではないし、聞いても気分のいい話ではないだろう。

 

「言いたくないんだったらいいわよ。

 強制するような事はしたくないし」

 

 凰はそれだけ言うと、それ以上は追求しようとしなかった。

 隣に居る簪を見れば、止める気は無いみたいだった。頷いただけで、止めるような事は

 

「……いや、凰もあれだけ話してくれたんだ。

 私だけそう都合のいいことを言うつもりは無い」

 

 少し考えてから、それだけ返事した。

 凰にだけ語らせるのは、あまりにも不公平というものだろう。

 

「最初に言っておくが、これから話すことは他言無用で頼む」

「分かったわ。

 それに、元々誰かに話す気も無いしね」

 

 凰が返事したことを確認すると、私は話し始めた。

 

 

―――――――――

 

 

 まず、通っていた道場の名前だが。篠ノ之道場だ。

 通っていた理由は、ただ単にそこの運営元である篠ノ之神社の娘だったから。

 

 で、おそらくは凰の察している通り。私は一度名前を変えている。変える前の名前は……篠ノ之箒だ。

 一夏と一緒に居られた時は……この名前で、過ごしていた。

 

 

 多分、何も気にする事無く信じたいものを盲目的に信じれていたという意味では、あの時が一番幸せだったかもしれないな。

 

 

 でも、そんな日々も、ISが発表されて、白騎士事件が起こって、その有用性が広く認識されるようになって。

 そして、ISの開発者(篠ノ之束)の失踪と共に、終わりを迎えた。

 

 

 当時の日本政府としてはなんとしても篠ノ之束を見つけてIS開発において優位に立ちたかったらしい。ISも発表されたばかりの頃はロクに見向きもされなかったものだが、その優位性が認められると掌を返したように求められるようになっていった事だし。

 だけど、その中で戦術兵器としての価値を見出した者達がやがて特出した勢いを持つようになっていった。後々、女尊男卑団体の母体になったと言われる連中だな。

 

 だが、やはり天災なんて呼ばれるだけの事はあったのか。篠ノ之束の失踪から暫くして、どれだけ必死に探しても見つからなかったらしい。

 その中で政府の、特に急進的な人が目をつけたのは私と両親の、直接関わりのあった肉親だったよ。

 

 ある日、政府の役人たちがいきなり押しかけてきたんだ。

 篠ノ之束の連絡先を教えるように言われたが、その時は私の実家の誰も連絡先を知らなくて教えようが無かったよ。

 それがわかると、今度は今現在テロに狙われる可能性が云々と言ってきて、家族別々に強制的に転居させられた。「要人保護プログラム」と称してな。

 

 それからは、もう散々だった。私達の意見も意思も全部無視して転居させられるものだから、誰かと友人になったりなんて事をする時間も無いうちに次々と転校させられる生活だったよ。

 しかも、女尊男卑主義が蔓延する頃になると輪をかけていって。それを作り上げた人の妹として、目の敵にされるか祭り上げられるかのどちらかだった。

 あの頃は多分、本当の意味で信頼関係のあった人なんて唯一電話で話せた一夏だけだった。

 

 だけど、その一夏も回を重ねるごとに疲れたような様子を見せるようになっていって。そして、剣道も止めると言って。

 色々と言いたい事もあったけど、一夏のあの声を聞いたらそんな気も失せてた。

 

 それと同時に、あの時から……父親から受け継いでいた剣道や剣術に、少しづつ疑問を持ち始めていた。私にとってはそれを通じて一夏や父親と繋がっているような気がしていたけど、でもそれが一夏を追い詰める一因になってしまったんじゃないかって。

 

 そして、それからさらに時間が過ぎていって。一夏が第二回モンド・グロッソの観戦に行く事になった時、実は私にも行かないかという誘いがあったんだ。

 とは言っても、ほとんど強制のようなものだったのだが。

 あの時は、さすがに恨みたくなったよ。篠ノ之束も、政府も。

 

 

 

 だけど、結論から言ってしまうと結局見に行くことは無かった。いや、見に行けなくなったと言うべきかな。

 

 

 

 あの時、私はそのときの住所から空港までバスで移動することになっていたんだが。そのバスの車内で、いきなり銃声が鳴ったんだ。

 

 その直後に覆面を付けた数人の男たちが立ち上がると、いきなり大声で叫びだした。「このバスは我々が占拠した」とな。

 その後の車内はもうパニックだったよ。泣き叫びだす人もいれば、恐怖で縮こまる人もいた。

 一方で、男たちは運転席のほうまで行くと、銃を突きつけながら運転手を脅して指定した場所まで行くように言っていた。

 

 運転手が恐怖しながら運転していく中で、犯行グループのリーダーがどこかに電話をかけて、何か話していた。後で知ったことだが、どうも政府で私の身柄について色々とやっている連中に電話したみたいで、私の身柄の引渡しを要求していたらしい。

 篠ノ之束を誘き出すための材料にするためにな。

 

 そのようになって暫くした後だった。運転手に行き先の指示を出していた犯人が、脅すために銃を突きつけた時。運転手が突きつけられた銃口に恐怖して、短い悲鳴を上げたその時だった。

 

 いきなり、バスが揺れたんだ。それと同時にいきなり加速したような感じがしたんだ。

 銃口に恐怖した運転手が、運転を誤ったらしかった。

 

 バスはそのまま、そのときは知っていた先にあったカーブを曲がりきれずに落下した。

 

 そして、落下したバスは大破して炎上。

 

 その中で、犯人の中でまだ動けるのもいてな。私に向かってきて、こう言ったんだよ。

 「篠ノ之束も、その血筋も、最後まで他者を呪うな」と。そのとき、この人達はきっと女尊男卑の中で被害を受けてきた人たちだろう事は察せた。

 でも、それを作ったのは私じゃないと。私のせいじゃないと、その時だけは、恨みたくなった。

 けど意識があったのはそこまでで、ただでさえ朦朧としていた私は次に起こった爆発の衝撃で完全に気を失っていた。

 

 

―――――――――

 

 

「……と、ここまでが第二回モンド・グロッソの前までに起こったことだな」

「……そんな状況じゃ、恨みたくもなるわよ」

 

 凰の言葉に、私は首を振った。

 

「恨めるものか。

 彼ら……犯人グループは、女尊男卑の根拠となったISを、厳密に言えばその開発者である篠ノ之束を憎んでいた。

 でも、それは……私も、同じだったんだよ」

「……え?」

 

 凰が間抜けな声を出して聞き返してきたが、それも無理からぬ事だろう。

 

「私自身、一家離散の原因というか遠因というか……そのような事態にしておきながら、音沙汰一つ無い姉を恨んだ事は、一度や二度じゃなかった。

 ましてや、ISの登場以後は私自身のこともあって、憎しみは募る一方だった。

 彼らと私の違いは、憎しみを向ける対象が篠ノ之束個人かその周辺の人々も含めるか。そして、それを明確な形で突きつけたか否かだけだった。

 私も、どこかで一歩間違えればあの時の犯人たちと同じになっていたかも知れなかったんだよ」

 

 そこまで話すと、凰は納得しがたいとでも言いたげな表情になっていた。

 隣の簪を見ても、同じような表情になっている。

 

「……続けるぞ」

 

 正直、この二人の性格ならそれは違うと言いそうではあるけど、当事者としてはどうしてもそうは思えない部分もある。だから、今は続きを話すことにした。

 その判断は、最後でもいいと思ったから。

 

 

―――――――――

 

 

 あの事件の後、目を覚ましたときにはすでに病院だった。

 そこで、私の治療を担当した医者から怪我や火傷の痕が残ることを言われたけど、それは半ばどうでもよくなってた。

 そして一通りの説明を受けた後、今度は政府の役人だという人間が入ってきて、あの時の事件が事故として処理されるということを話された。

 色々と理由付けてはいたけど、政府の面子を保とうとする意思が丸見えだった。今まで個々人の意見など無視して進められてきた要人保護プログラムでの転居先が漏れてた事が発覚した事もそうだし、犯人グループの動機はISを根拠とした女尊男卑主義者や女権団体が強引に押し進めてきた、そして政府としても法案という形である一定のところまでは認めていた政府の対応にも原因はある。加えて、被害者の数も決して少なくない。

 それが一気に表沙汰になれば、IS関連の事業を強引にでも推し進めてきた連中にとっては痛手もいいところだったんだろう。

 私が何を言おうにも対応は変わらないの一点張りで、もう聞く気も無かったのだろうな。

 

 さらにその後、それ以後の対応について説明するために久方ぶりに両親と会えることになって。久しぶりに両親に会ったよ。

 けど、その時会った両親はなんというか……。私の言えた義理ではなかったけど、まるで別人だった。

 憧れていた、強かった父親はどことなくやせ細ったような様子で政府の役人に媚を売っていたし、母親はひたすらに篠ノ之束に対する憎しみを口にするばかりだった。とても、自分の腹を痛めて生んだ人に対するそれとは思えないほどに。

 

 しかも、だ。その時、一夏が行方不明になった話もそのときに知ったのだが。その時の両親は、一夏のことを「千冬ちゃんの弟」としか呼ばなくなっていた。

 家族ぐるみの付き合いをしていたと思っていたけど、その実、両親も一夏の事を、織斑千冬(優秀な姉)の弟としてしか見ていなかった事を知った時は、愕然としたな。

 そしてその時、私がそれまで縋っていた剣道や篠ノ之流剣術に対する誇りなんてもう綺麗に無くなった。

 

 そしてまあ、私は一時的に倉持技研に行かされた。ひとまず最強の戦力であるISを使えるようになって自衛ができるようにとの事だったけど、あわよくば開発者の妹という肩書きを使って宣伝することでも考えていたのか。

 反面、両親は一時的にはそれまで同じ措置がとられることになったよ。

 

 

 そうして私が倉持技研に行った時、教官役として出会ったのが如月さんだった。

 

 

 当時の如月さんの印象は、正直あまり良くなかったな。優秀なのだが、時折、やる事為す事に突拍子も無さ過ぎて振り回されたことも一度や二度じゃ無かった。

 でも、それ自体は些細なことだった。何より、当時の私はもう自暴自棄になってて、けれど自殺なんてしようものなら即刻如月さんに止められることになった。だから、ひたすら如月さん監修の訓練メニューをこなして、なんとか気を紛らわせようとしていた。

 結果的にオーバーワーク確定の状態になっていたらしいけど、それを聞いてむしろそれでいいと思ったよ。

 

 

―――――――――

 

 

「あわよくば過労死……なんて、考えたんじゃないでしょうね」

「その通り。過労死を考えた。

 当時の私は如月さんにかかる迷惑なんて微塵も考えず、馬鹿げた事しか考えていなかった」

 

 私の言葉に、凰が思いっきり歯軋りをした音が聞こえた。

 

「……だけど、最終的にそうはならなかった。そのころに初めて会った、ある日本代表候補生のおかげでな。

 なあ、簪?」

「別に、私のおかげじゃないと思うよ」

 

 簪のほうを見ながら言うと、簪は微笑みながら返事をした。

 とはいえ、私にしてみれば、彼女に出会わなければ今の私は無かった事は確実ではないかとさえ思えるので、彼女のおかげなのだが。

 

「一体、何がどうしてそうなったのよ?」

 

 凰の催促に、私は再度話し始めた。

 だが、さすがに凰相手に簪の家柄、つまりは対暗部用暗部の家柄であり、それを当てにした政府が護衛(監視)を目的に付けたという事を話すわけにはいかないのでそこだけは控えさせてもらうことにするが。

 

 

―――――――――

 

 

 その後、色々とあって簪と初めて会ったんだ。だけど、その時は互いの立場とかがあって、あまり打ち解けた感じではなかったよ。

 でも、それから少しして簪と一緒に訓練をする機会があったんだ。後から知ったことだが、如月さんが主導したらしい。

 その時に色々と話したっけな。他愛も無いことから、互いのこと、家族のことに、少しばかりの昔の思い出も。

 

 その時に、簪から楯無さんとの事も聞いたな。

 ロシアの国家代表を務める姉を持つ、日本代表候補生の妹。それだけ聞くと、何とも凄まじく優秀な姉妹だと思ったよ。

 けれど、簪自身はそれに満足していないって聞いた時は、正直驚いたな。

 

 理由を聞いたら、姉に追いつきたいからって。

 なんで追いつきたいかって理由はそういえば聞きそびれていたけど、でもそれをやろうとしているだけでも私からしてみれば凄い事だったよ。私に至っては、姉に追いつこうなんて考えた事さえ無かった事だし。それに、何だかんだと言いつつ結果も出していたんだ。

 色々な事に妥協して理由を付けて誰かを恨んでいただけの私とは、大違いだった。

 

 それ以後、自殺なんて考えていた自分が何だか馬鹿らしくなって。

 必死になって頑張っている人、それも優秀な姉を持った妹っていう私とも少しばかり似たような境遇だった分、余計に自分が情けなくなったというのもあって。

 もう少しだけ、頑張ってみようって。回数を重ねるごとに、少しづつそう思うようになっていった。

 

 それから暫くして簪と話した時に、私の事をすごく頑張っているなんて言い出した時はお世辞を言われたものと思ったんだけど。話を進めるうちに、本心だったと分かったときはまさかと思って。簪の方がよほど凄いと言ったら、そんな事はないなんて卑下していたな。

 それが何だか少し可笑しくて。それから踏み込んだことまで色々と話して。

 

 話が終わるころには、互いに名前で呼び合うようになっていたな。


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