IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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更新期間が空いてしまい申し訳ありません。
諸般の事情により執筆が進まず、今までかかってしまいました。

それに加え、今回の話は不安しかない……。


第三章(10):声を上げるために

Side 簪

 

「それで、簪。

 聞きたい事とは?」

「うん……えと……」

 

 今、私は箒と一緒に屋上のほうに来ていた。理由はこの前の話の続きをするため。

 「織斑一夏」という人について聞くため。

 

「別にそんな気負わなくていいだろう。

 予想外の形にすぎたが、もうクラス対抗戦も終わったしな」

 

 箒は気楽そうに、心配しなくていいという感じで言ってくれました。

 ですが、内容が内容なだけに心配は拭えませんでした。

 

「……箒。最初に言っておくけど、もし気を悪くしたらごめんなさい」

 

 だけど、このまま引きずるわけにも行かないと、そう思って。

 そして、箒も私の言葉を聞いてからは真剣な顔つきになった。

 

「確か、その……幼馴染の人がいるって、前に言ってた事があったよね」

「ん?

 確かに、そう呼べた人はいるが……」

「その人のことについて、その……教えて欲しくて…………」

 

 私の質問に、箒は意外そうに眼を見開きました。ですが、それも少しの間の事で、すぐに懐かしそうに目を細めると、どこか遠くを見ながら話し始めてくれました。

 

「幼馴染……と言うと、私にとっては一夏の事になるが。

 それでいいんだな?」

「えっと……その……うん」

「ああ。誤解無いように言っておくが、影内の事じゃないぞ。

 名前は『織斑一夏』。昔……まだ、私が前の名前だったころに幼馴染と呼んだ人だよ」

 

 箒はまずそれだけ言うと、少し困ったような顔を浮かべながら続く言葉を言いました。

 

「幼馴染と言っても、実の所、そう多くを語れることは無くてな。

 別に関わり合いが薄かったとは思っていないが、私と彼の関係はかなり単純だったんじゃないかと、今になってそう振り返っているだけだ」

 

 そこまで言って前置きを終えた後、箒はさらに言葉を続けました。

 

「一夏と小学校の低学年だったころに色々あって知り合って、その後は家が近かったのと、同じ道場で剣道や剣術を習っていた時期もあって親しくしていたと思う。

 それが、大体小学四年までは続いた」

「……あのプログラムが実行に移される前まで、っていう事?」

 

 私の言葉に、箒は少し寂しさの見える顔で頷きました。

 

「そうなるな。

 当時は家族ぐるみの付き合いをしている、仲のいい友人……いや、親友だと思ってたよ」

 

 そこで少し言葉を切って、箒は当時の状況の続きを話し始めました。

 

「ただ、離れ離れにはなったが不幸中の幸いな事に、一夏と私は電話を中心にある程度のやり取りをする事ができたんだ。そこで、色々と話したよ」

 

 「最初のころは他愛の無い話ばっかりだったな」と、どこか可笑しそうに箒は笑って言いました。

 ですが、その直後に腕組みしている手を僅かに強く握り締めながら――

 

「暫くして、剣道や剣術を止めるって聞いた時は、驚いたよ」

 

――振り絞るように、それだけ言いました。

 

「同じ道場で一緒に剣道やってたころの一夏は、姉の……織斑先生の自慢になれるような、そんな弟になろうと努力を欠かさない奴だった」

 

 それだけを聞けば、仲睦まじい良い姉弟のように思えた。

 でも、今の織斑先生がどれほどの事を成し遂げているかを考えれば、それがどれほど大変な事かなんて想像さえ出来ないほどの事だった。

 

「だけど、止めるといったその時の声は……酷く疲れているような、でも肩の荷を降ろして少し気が楽になっているような、そんな……なんとも言いがたい声音だったのを、今でもよく覚えている。

 正直、その声を聞いたときは後悔した。なんで、もっと早く気づけなかったんだろうって」

 

 平静を装おうとしている箒ですけど、その声が震えている事は隠せていませんでした。

 

「あの時はとにかく、一夏の状態が心配になった。

 泣いているんだったらまだいい。怒っているんだったら、失望しているんだったらまだ分かる。

 けれど……あの、疲れたような声で、どこか他人事のように言われたあの言葉は……今でも、鮮明に思い出せるくらいには記憶に残ってるよ」

 

 箒はそれだけ言うと、また少し言葉を切ってから続きを話し始めました。

 

「その後暫くして、第二回モンド・グロッソの観戦に行くことになったと言ってな。とは言っても、あの状態から考えるに……多分、形式的なそれだったろうけど」

 

 そこで箒は一旦言葉を切ると、肺から空気を全部抜くかのように深い息をしてから最後の締めに入りました。

 

「その後は、簪にもいつかに話した通りだ。

 私は後になって一夏がドイツで行方不明になったことを知って、私自身の周りの事もあって自暴自棄になりかけて……その後は、簪も知っての通りだ」

 

 そこまで話すと、箒は一通りの話は終わりだと短く告げました。

 私はこれ以上箒に聞くのは悪いかな、と考えてその話を切り上げようとして――

 

「……知っている名前が出てきてると思ったら、二人揃って何話してんのよ」

 

――私達にとって予想外の人が居たことに、二人揃って驚きの声を上げかけました。

 

 

―――――――――

 

 

Side 鈴音

 

「……知っている名前が出てきてると思ったら、二人揃って何話してんのよ」

 

 私がいきなり来たからか、声をかけた二人は相当に驚いているようだった。

 

「鈴!?」

「凰!?」

「大声で呼ばなくても聞こえてるわよ」

 

 軽く突っ込みながら、二人の会話に入っていった。さすがに、二人の話題に出てきた人のことについてはいくつか言っておきたいこともあったことだし。

 

「ちょっと模擬戦の相手してくれそうな人を探してたのよ。

 で、そしたらあんたら二人がここで私にとっても親友である人の名前が出てきてるもんだから、何事かと思ってね」

 

 取りあえず私が二人を探していた理由だけ告げると二人はそれで納得したようだった。

 でも、今はそれも半ばどうでもよくなっている。

 

「で、私は最初の質問に答えてもらって無いけど?」

「私はただ簪に聞かれたから答えていただけだが」

 

 私の一言を聞いた箒は、簪のほうに視線を移していた。

 そして、簪の方も同意を示すように頷いている。

 

「その……出来れば、聞かないでもらえると、ありがたいんだけど……」

 

 だけど、理由は言いたくないようだった。

 でも、それは別に構わない。誰しも言いたくない事や言えない事の一つや二つはあるだろうし。

 

「……ま、話したく無いんだったら無理に話せとは言わないけどさ」

 

 それだけ言うと、思わずほんの少しの間だけ遠くを見た。

 

「……鈴も、その……親しかったんだよね」

「……ええ。

 私にとっては親友よ。()()()()

 

 今でも、その部分を自分で聞いてほんの少し驚くくらいには強い語調で言っていた。

 

「鈴……何が、あったの……?」

「……聞きたい?」

 

 簪が恐る恐ると言った風に、だけどどこか強い意志を感じさせるような雰囲気で聞いてきた。

 今まで見てきた彼女はどこか弱気な印象を受けるときが多かっただけに、少し驚きはしたけど、内容が内容だっただけに私も無意識のうちに声が固くなっているようだった。

 

「……出来れば」

 

 だけど、簪は引かずに聞きたいといった。

 内容が内容なだけに暗い話になるかもしれないけど、友達が真剣な表情で言ってきた事を無碍にする気は無い。

 

「……途中から、少し陰気な話になるわよ」

 

 それだけ前置きして、私は話し始めた。

 

「……初めて会ったのは、小五の始めのころ。

 さっきの剣崎の話も加味すると、入れ替わりみたいになったのかしらね」

 

 

―――――――――

 

 

 初めて会った頃は、私と私の家族が来日してまだ間もない頃だったっていうのもあって周囲から孤立しがちだった。学校でもそれは変わらなくて、私自身日本人と中国人のハーフってのもあって物珍しかったのか、色々言われたりしてね。

 その中での一夏との出会いといえば、まず自己紹介をよく聞いていなかった一夏に性別を間違われた事に、私がキレてグーで殴るなんていう最悪のものだったわ。ま、後になって一夏が聞いてなかったのも仕方が無かったんだって分かったんだけど。

 

 時間がたつにつれて、馴染めていない私に対して集中的に悪口が言われたり……そういったことがよく起こるようになったわ。

 

 でも、そんな時に一夏がその中心になっていたグループと大喧嘩してね。その時はまだそんなに仲が良かったわけじゃないのに、真剣に怒ってくれたのよ。

 それが、ひたすら嬉しくて、ありがたくて。後で何度も「ありがとう」って言った。でも、一夏は「大した事じゃない」って笑って言ってた。

 その後、当時はまだ怪しい部分があった日本語を仕事で忙しかった両親以外に一夏からも習うようになって、対人関係の面でも色々助けてもらって、やっと周囲に馴染めるようになった。

 その頃になって、互いの事も少し踏み込んだ事まで話すようになって。血縁上の姉が織斑先生であることもその頃知ったわ。

 

 その頃の一夏は、ひたすら頑張っていた。勉強も、剣道も、家の事も。それこそ寝る間も惜しむなんて言葉が生易しく聞こえるくらい。

 

 元々、織斑先生との二人家族だったって言うのもあって、出来るだけ負担をかけないようにしつつ良い結果を残して、心配させないように、自慢になれるように。そのために、アイツは頑張っていた。

 でも、その頃台頭し始めたISが、徐々に徐々にそれを狂わせて行ったと思う。

 

 織斑先生自身、元々能力が高かったのもあって周囲からは優秀な人って認識されてたけど、それもあくまで周辺だけの話で済んでいた。なのに、ISでとてつもない結果を出(第一回モンド・グロッソ優勝なんて)してしまったから、ISに関しては比類なき能力を持つ、世界的に有名な人になった。

 そして、それと同時に広まって行った女尊男卑の風潮。合わせて考えれば、一夏がどうなるかなんて明白だった。

 

 それ以前にもそれなりにいい結果を残していたから、周囲からの期待は際限なく膨れ上がる。一つの成果を残すたびにそれが基準になっていって、もっともっとって。最高の姉を持っている弟なんだから、出来るだろうって。

 だけど、実際には裏で途轍もなく努力していたわけだから、成果を残すたびに一夏は自分を追い詰める事になっていった。

 

 それが小学六年の頃で、それからそう時間を置かないうちに卒業して中学に進学して。その頃に中学でよく一緒にいる事になった親友達……五反田弾やその妹の蘭、御手洗数馬と始めて会った。

 中学の頃は、大体一夏と私と、さっき言った三人で一緒にいたわ。……あの時までは、ね。

 

 その頃も、まだ一夏は頑張っていた。ただ、その頃はもう本当に酷くなっていて、勉強やら練習やらバイトやらに費やす時間が際限なく増えて、ご飯を抜いたり寝る時間がまともに確保されていないなんて事がザラだった。

 さすがに酷すぎたから、当時の親友達や親に相談して、私の両親がやっていた中華料理屋や弾と蘭の家がやっていた食堂にバイト先を移してもらったりした。まかないでちゃんとご飯を食べてもらったり時間の融通がきくようにするためにね。

 

 それと、その時になって発覚したんだけど、織斑家の台所事情は本当に良くなかったの。

 助成金や賞金が出てるから良い生活してると思われがちだけど、実際にはそんなの遠征費や強化費用でほとんど消えちゃうから手元に残るのはそれほどじゃなかったのはその時初めて知った。IS関連は予算が異常なほど大きく取られてるからそんな事無いと思う人もその当時は居たけど、でもISはまだ出始めてから大して時間が経っていない、しかも未解明の技術が使われている機械。そんなものだから、研究費や研究施設を建てるための費用に大部分が使われて、その残りを選手に分ける事になる。

 そうなれば、必然的に手取りは少ない金額になっていった。

 

 しかも、一夏に限って言えば姉が姉だったって事もあって、結果をひたすら求められて居たにも関わらずそのために何かを教わる事もできなかった。習い事をしようにも金銭的な工面ができるほどの余裕は無かったし、仮に教わろうにも姉があんまりにも結果を出し過ぎていて、しかも最初期の草分けじみた部分もある人だったから、じゃあ弟も大丈夫だろうって言われて放置されたりなんて事もあった。

 そんな事、できるはずも無いのに。

 

 私達もできるだけ一夏の負担が少なくなるようにしようとはしたけど、でも焼け石に水だった。全然、一向に良くなる気配なんて無かった。

 周囲の人にしてみれば、姉に追いつこうと頑張る一夏が結果を出した時に追いつけるよう応援する事は「善意」だったわけだから。善意でやっていると思い込んでいる行為を止めるように言った所で、変わるわけも無かった。どれだけ声を上げても、それは周囲の声に押し潰された。

 

 それでも一夏が頑張り続けたのは、ただの一点。

 姉に……織斑先生に、認めてほしかったから。ただの一言、頑張ったって言ってもらえれば、それで十分だって。

 

 だけど、それも長続きはしなかった。

 

 一夏が剣道の全国大会で優勝した事があったの。普通だったら賞賛され、皆から認められるだけの成果のはずよね?

 

 でも、そのときの一夏に向けられたのは、決して一夏自身を認めるものじゃなかった。

 誰も彼もが「織斑千冬の弟」であることにばかり目が行って、一夏自身が積み重ねた事を見ている人は居なかった……それこそ、血筋だけが重要と言わんばかりで、一夏の人格は無視されていた。

 

 でも、一夏にとってももうそこはどうでもよかったのかしらね。何でもない事のように、家に帰って言ったわ。

 それこそ、優勝者なんて思えないほど、静かにね。その日は家に居るっていってたわ。

 

 だけど、その次の日……剣道も何も、全面的に止めるっていった時は、さすがに何があったか問いただしたわ。

 そしたら……織斑先生に電話したらしかったの。当時の一夏にしたら珍しくね。そして優勝を報告して、かえって来た言葉は……「私の弟だからな。これくらい当然だろう」だったって、言っていた。

 人によっては最高の褒め言葉として受け取る人も居るのかもしれないけど、あの時の一夏にとっては最低の褒め言葉よ。それまでの一夏が積み重ねてきた事を、無碍にしているのも同じだったから。それも、一夏にとって一番認めて欲しかった実の姉がね。

 しかも、言葉を少し変えれば一夏にとってはどうでもよくなっていた周囲の人とほとんど変わらない言葉だったんだから、なおさらよ。

 結局、電話したその日は家で自分の作った簡単な料理を食べて寝たらしいわ。

 

 なにをしても、どうあっても、決して認められる事は無い。自分がどれだけ頑張ったところで、結局はその後ろに居る……いえ、前にいる人にしか目が行かない。

 もう、どうでも良くなったって言ってたわね。正直、それを聞いた時は一夏の態度にも納得がいった。

 とりあえず、弾たちにも相談してその日は祝勝会を開いたわ。その後は、今まで過剰にやっていた事を全面的に止めて、整理して、一夏のバイト先も随分絞ったわね。結局、残ったのは私の両親がやっていた中華料理屋と弾たちの家の食堂だけだった。

 

 それ以後は休んでいる時間が増えていったけど、そのほうがいいと思った。

 今までが、無理の塊みたいなものだったから。

 

 周りや織斑先生がとやかく言った時もあったけど、もう一夏は気にしなくなってたわ。でも、それのほうが当然よ。

 

 

―――――――――

 

 

「それが、第二回モンド・グロッソの前までにあった、大体の事。

 細かい部分を話せば更にあるけど……」

 

 そこまで話したところで改めて剣崎と簪を見ると、簪は半泣き状態で、箒は表情こそ見えなかったけど、何かを耐えるように組んだ両腕を強く握り締めていた。

 正直、これ以上を話すのは少し躊躇った。なにせ、今までも十分に酷いけど、これからが本番になるのだし。

 

「聞くのが辛いなら、ここら辺で……」

「……続けて、くれないか?」

 

 震える声で告げたのは、箒だった。

 隣の簪を見れば、半泣き状態だけど、確かに首を縦に振っている。

 

「……本番は、これからよ」

 

 それだけ告げると、私も続きを話し出した。

 

 

―――――――――

 

 

 一夏が剣道とかを止めてから暫く経って、第二回モンド・グロッソが開催されたわ。

 一夏としてはそこまで真面目に見に行く気はなかったみたいだけど、でも織斑先生に無理言われて形式的に行かざるを得ない状況になってね。

 

 その時は空港まで見送りに行ったわ。

 後になって……その時が、最後に一夏を見ることになるなんて、思いもしなかった。

 

 その数日後。

 第二回モンド・グロッソの決勝戦が終わるころ、織斑先生()()が家に帰って来たのよ。

 

 さすがにおかしいと思って、押しかけて問いただした。

 

 そうしたら……「誘拐されて、行方不明になった」なんて、言ったのよ。

 

 さすがに信じられなくて、更に問い詰めて。

 ドイツで織斑先生の出場を停止させるために一夏が誘拐された事。その時、日本政府が交渉を完全に放棄した事。織斑先生にも伝えなかったこと。

 そして……一夏は、最終的に誘拐先で行方不明になった事。

 

 その後、一応は捜索がされるみたいな話になってたけど、それも時間が経つにつれて有耶無耶になっていった。

 一か月くらい経つころには、もう打ち切りになった。

 抗議しようにも私達はドイツで何が起こったのかなんて分からないから動かすための決め手に欠けるし、知っている織斑先生は「別なところに捜索を頼んだ」とか言って何もしなかった。とくにどこに頼んだとかは一切言わなかったけどね。

 その時はもうただの酔っ払いにしか見えなかった。しかも、挙句の果てには「私の弟があのくらいで」とか言い出して、その時は本気で殴り掛かりそうになったのよね。

 

 さらに政府の方が追い打ちをかけてきてね。政府がテロ関連が云々みたいなこと言って情報の規制を関係者へ求めてきたのよ。しかも、違反したら厳罰付きで。

 完全に隠蔽目的な事くらい、すぐに分かった。

 

 

 その後は私も自暴自棄になりかけたんだけど、その時は蘭が止めてくれた。私まで失いたくないって言って。

 その日、二人で一晩中泣いてた。

 

 その後、皆で一つ約束したの。

 

 結局、誰も彼も一夏の事を無下にして、都合のいいように捻じ曲げようとした。けど、私たちはそれに対して結局何も出来なかった。

 声を上げても押しつぶされるか、上げる事さえも出来なかった。

 

 だから、上げた声を聞かせるために。意味のある声にするために。

 

 どんな手段でも立場でもいいから、強くなろうって。

 

 

―――――――――

 

 

「……とまあ、私事が大分入ったけど、これが私が一夏に関して知っていることの大体よ。

 細かい部分は結構省いたりしているけど」

 

 一通り話し終えて、まずは深く息を吐いた。

 これほど一夏のことを話したのは、随分と久しぶりだったから。

 

「凰……」

「だから……鈴は、そんなに強くなろうとして……?」

 

 二人の言葉に頷いて、すこしだけ補足した。

 

「私にとって、強くなるのはただの手段。後ろ盾を得るのも同じ。加えて幸いなことに、わたしには同じ目的を持った信頼できる親友たちがいる。

 自分の意見を、声を押し通すための手段を得る事に、もう躊躇いは無い」

 

 だから、私はせめて堂々と宣言する。

 

「私は、凰鈴音は、織斑一夏の親友だって声を上げる。

 一夏が決して無価値じゃないって、私が証明する。この力は、そのためよ」


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