IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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時間がかかってしまい申し訳ありません。個人的な事情により執筆の時間がなかなか取れませんでした。
それでは、お楽しみください。


第三章(9):蠢く悪意

Side 一夏

 

「一夏。お疲れ様です」

 

 戦闘終了後、大回りした後にいったん《アスディーグ》の接続を解除し、《ユナイテッド・ワイバーン》に切り替えてから迷彩を使用して学園に帰って来た俺を迎えてくれたのは、アイリさんだった。

 

「ありがとうございます」

 

 《ユナイテッド・ワイバーン》の接続を改めて解除しながら、短く答えた。

 

「さて、一夏。終わってすぐで悪いのですが……後始末のために、学園長が呼んでいます。案内しますので、一緒に来てくれませんか?

 生徒会や他の方々も同様に呼ばれ、すでに向かっています」

「委細了解しました」

 

 頷き、案内に従って歩を進めていく。疲労による少々の眠気は何とかこらえた。

 案内されたのは、前に轡木学園長に会った生徒会室ではなく地下にある部屋だった。無闇矢鱈と厳重なところから考えるに、表沙汰にできないような話をする時にでも使うのだろう。

 中は会議室のような作りになっており、既に轡木学園長や生徒会のメンバー、その場で対処にあたっていた専用機持ちの面々に、山田教諭を筆頭とした教師部隊、現場で指示を出していた織斑教諭もいる。

 

「さて、揃いましたね」

 

 アイリさんと俺が最後に来たのを確認して、轡木学園長が切り出した。

 

「ではまず今回の事件の経緯について。

 織斑先生、お願いできますか?」

「はい」

 

 織斑教諭が立ち上がると、そのまま説明を始めた。

 

「まず、今日の事件はクラス対抗戦の第一試合、1組対2組の試合の最中にアリーナのシールドを破り、正体不明の生物が襲撃してきたことです」

 

 その説明と同時に、背面のスクリーンに大量のグリプスが襲来したあの瞬間からの映像が映る。

 

「その後、試合の最中だった剣崎と凰が襲われる事態に発展、観客席の方では隔壁に異常があったためパニックが起こりかけましたが無事に避難はできました」

 

 いくつか突っ込みたい部分があったが、それは後でよさそうなので今は無視して何も言わなかった。

 

「その後、謎の機体が乱入」

 

 そこには、派手な着地音とともにグリプスの只中へ特攻した仮面等を付けた俺と《アスディーグ》が映し出されていた。

 こうして見ると中々派手だなとまるで他人事のように思いながら俺はその映像を見て、アイリさんは見慣れているとばかりに無反応。轡木学園長に生徒会メンバーと剣崎と簪はやや複雑そうな表情で、凰とオルコットは戸惑いを含みながら、教師部隊の大半はその動きの一つ一つを観察するように、教師部隊の残りと織斑教諭は親の仇でも見るような目でその映像を見ていた。

 

「謎の機体はこちら側へと攻撃すること無く、正体不明の生物へと攻撃を開始。

 以後、直接的な攻撃は一切してきませんでした」

 

 そこで一回言葉を切った織斑教諭は、その後に「ただし」と続けた。

 

「こちら側の呼びかけも無視し最終的には逃走したため、目的等は一切不明です」

 

 そこで改めて一回話を切り、その時の映像をみせた。俺が無視して逃走した時のである。

 

「教師部隊は少々時間がかかりましたが、ハッキングによってアリーナ側の扉を開けて突入。未知の生物への対策という事もあり、遠距離から高火力攻撃を行うための装備へと変更したうえで突入しました」

 

 そこまで説明し、最後に「以上です」とだけ言って締めくくった。

 

「さて、ここまでで何か質問等ある人はいますか?」

 

 学園長が発言と同時に一度確認するように見まわした。

 

「質問、よろしいでしょうか?」

 

 横にいるアイリさんに目配せして確認を取り、その後に質問のために手を挙げる。轡木学園長は「どうぞ」と一声だけ返事すると、促すようにこちらを見据えてきた。

 

「あの未確認生物が来た時の映像をもう一度見せてもらってもいいでしょうか?」

「ええ」

 

 そのすぐ後に、轡木学園長の指示で山田教諭が映像を巻き戻してくれた。

 改めてその時の映像を見れば、そこにグリプスとは別の何かが見て取れる。

 

「この時に、未確認生物の何体かと組み合っている黒い物体が見えますが……これらが何であるのか、確認はしたのかどうかについてお聞きしても?」

「それは今現在調査中だ」

 

 俺の質問に、織斑教諭が間髪を入れずに答えていた。横目で轡木学園長の方を見れば、軽く頷いていたのでこの話はそこまでにしておく。

 

「学園長、私からもご質問よろしいでしょうか」

 

 その次の質問はアイリさんだった。

 

「どうぞ」

「では、失礼して。

 教師部隊が突入するまで()()()時間がかかっていましたが、その原因となった隔壁についてどこまで判明したのかお聞きしても?」

 

 一部の教師が色めき立つが、アイリさんはそれを気にするようなそぶりも見せずにいる。そして、ここでも答えたのは織斑教諭だった。

 

「外部からのクラッキングにより、隔壁が強制的に降ろされたためだ。

 クラッキング元に関しては現在調査中だ」

「分かりました。有り難うございます」

 

 敵意さえ見せる目で一部の教師がアイリさんの方を見るが、気にすることでもないと言いたげにそれまで通りの様子でいた。

 

「では、ほかに何か質問のある人はいますか?」

 

 学園長が再度促した時、手を挙げた人が二人いた。

 

「凰さん、オルコットさん。何でしょうか?」

 

 手を挙げたのは凰とオルコットだった。

 二人は一瞬互いの顔を見ると、話す順を決めたみたいでまず凰が話し始めていた。

 

「質問ではありませんが、少し補足しておきます。

 あの白い機体に関することですが、あの機体が本格的に未確認生物との戦闘を始める前に、私に合成音声で『俺の敵は、あの化け物共だ。お前たちじゃない』と言っていました」

 

 さらに、その言葉に続くようにオルコットも続けた。

 

「私の方からも、補足です。

 観客席まであの未確認生物が来てしまった時、あの機体の搭乗者かその関係者と思しき合成音声による通信が入ってきました。

 内容はあの未確認生物への対抗策についてで、私の装備の攻撃力を向上させることができると。

 結果としてはその通りで、私はあの機体の支援のもと撃退に成功しましたわ」

 

 二人の捕捉に、一部の面々がざわつき始めた。そんなはずは無いという声もあれば、味方なのかという声、そして何としてでも行方を追うべきだという声も所々から聞こえる。

 

「静粛にお願いします」

 

 学園長が一回その場を締め、次の話題を切り出していた。

 

「では、他に何か意見のある人はいますか?」

「良いでしょうか?」

 

 そこで手を挙げたのは、織斑教諭だった。

 

「影内、他の専用機持ちが避難誘導をしている中お前はどこに行っていた?」

 

 《アスディーグ》で戦ってたよなどとはもちろん言えないので、適当な言い訳を考え始めた時だった。

 更識会長が織斑教諭に気付かれないように俺と虚さんに目配せすると、虚さんが手を挙げて話し始めた。

 

「それについては私の方から。

 生徒会として現場の状況確認をするため、一度彼に連絡を取った後避難のための人員は十分だと判断し()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()下側の扉まで来るように伝え、その後細かい経路を私と合流してから進む予定でした。

 ですが、その最中に一部の通路が崩落しました。無理に突破しようとすると私を巻き込む危険性があると判断した影内さんは、その後少しづつ通路を確保していきましたが、最終的には出遅れる結果になりました」

「……そうか」

 

 露骨に不愉快そうな顔を露わにした織斑教諭だが、それ自体はどうでもいいので放っておく。それと、虚さんには後でしっかりお礼を言っておかなければ。

 

「では、次に移ります。

 これら一連の案件に関する処理ですが、まずは箝口令を敷きます。それ以外の部分について、意見のある人は述べてください」

「学園長、破壊された隔壁の件についてはどうしましょうか?」

 

 織斑教諭の発言に、教師部隊の中の一部が賛同するように頷いている。

 

「それについては、私の方から答えてもいいでしょうか?」

 

 俺がその質問に対して何かを言うより早いタイミングで、アイリさんが答えていた。

 

「それに関しては、我が社の方から修繕費を出す予定です。

 今回の行動に関しては人命優先という意味で致し方ない部分があるとして、それについてはすでに話が通っています。

 それと、我が社の方からも一応の処罰を出す予定です」

 

 実際には架空企業だったはずなので、本当の出所は違うだろう。

 軽く更識会長の方を見れば、してやったりという感じの笑みを浮かべている。一枚かんでいそうなので後で詳しく聞くことにしよう。

 

「俺からも一つよろしいでしょうか」

 

 それと、いい加減に言っておいた方がよさそうなので俺自身も口を開くことにした。隣のアイリさんの方を見れば、頷いてくれていたのでそのまま続ける。

 

「一度、教師部隊の方々は緊急事態への対応を見直した方がいいかと。

 特に今回の場合、相手は只々暴れていた獣たちです。不幸中の幸いなことに白い機体の方にばかりあの獣たちが集中していましたが、先程の映像と証言を加味すると、もしあの機体が来なかった場合は人的被害も免れなかったのではないかと考えます」

「そ、そんなはず無いでしょう!

 世界最強の兵器であるISをあれだけ投入したのに……」

 

 俺の発言に、ついに我慢の限界が来たのか教師部隊の一人が騒ぎ出した。

 だが、その内容は呆れる他無い。同時に、不可思議な納得も得ていた。

 

(これじゃ対策が欲しくなるわけだ……)

 

 騒いでいるのは一部で、実際にはそうでない教師や騒いでいる教師を白い目で見ている教師もいる。だが、そういった騒ぎ立てる人がどれだけ集団としての力を落とすかなど、言うまでもないことだろう。

 

「いえ、影内君の発言は強ち間違いでもありません」

 

 はっきりとした声で一部の教師の発言を否定したのは、更識会長だった。

 

「あの場で避難誘導を手伝った者の一人として言わせてもらいますが、あの時、未確認生物の内一体が観客席まで到達し、やむを得ず迎撃しました。

 ですがその時は二機がかりでの爆発性の攻撃による足止めが精々で、オルコットさんがあの機体からの支援を受けて撃破する直前にはそれさえ突破されそうになっていました。

 IS三機がかりで一体への集中攻撃でも倒しきれなかった所を考えると、専用の対策を練るというのはむしろ必須ではないかと」

 

 あくまで提案の形だったが、その声音は確信に近い響きを帯びていた。

 さらに、一部の教師部隊の面々からもそれに賛同する声が聞こえてくる。専用の対策の作成に関しては織斑教諭まで賛成に回っていた。

 

「では、対策に関しては後々、そのための会議を持ちます。いいですね?」

 

 轡木学園長がそう言って締め、この話題は一旦打ち切られた。

 

「他に何か質問、提案のある方は?」

 

 轡木学園長が再度問いかけ、周囲の面々を見渡した。だが、それ以上の意見は挙がらない。

 その状況を確認して、轡木学園長は「では」と切り出した。

 

「避難誘導を行ってくれたオルコットさんと凰さんについては特に問題がなかったため何もなし。ただし、この後一度報告書類の提出のみお願いします」

「分かりましたわ」

「了解しました」

「教師部隊の方々は後で再度、()()()()()()()()()()根本的な対策を講じるために会議を開きます。いいですね?」

「了解しました」

「影内君への処罰に関しては直属の上司であるアーカディアさんと、貴女方の会社に一任します。ですが、最終的にどのような処罰になったかは此方にも伝えてください」

「分かりました。一夏、いいですね?」

「委細了解しました」

「生徒会のメンバーと剣崎さんはこの後、別に集まってください。いくつか話すべきことがあります」

「わかりました」

「白い機体については私の方から専門の方々に調査を依頼しておきます。それでいいですね?」

 

 轡木学園長のそれぞれに対する対応のまとめに、異論は出てこない。

 

「では、今回の会議はこれにて終了とします」

 

 轡木学園長から終わりが告げられ、その時の会議はお開きとなった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 千冬

 

「……で、あの黒い無人ISは貴様の仕業か、束?」

『そ、そうだけど……ちょっと怖いよち~ちゃぁ~ん~……』

 

 通信先で半泣き声を出している天災(バカ)がいるが、そんな事はどうでもいい。第一、こんな声を出したところで反省するような奴でもない。

 

「で、一体何をどうしてああなったんだ?」

 

 私の再度の問いかけに、束も観念したように話し始めた。

 

『えっと~……まず、試作した『ゴーレム』何機かをちょっとそっちに向かわせたんだけど~……』

「ゴーレム……あの無人機の事か。

 で、なんで向かわせようとしたんだ?」

『箒ちゃんどれだけ強くなったのかな~ってのと~、程よく陽炎(あの鉄屑)壊して新しい機体渡したかったな~っていうのと~、いっくんが出てきてくれればついでにユナイテッド・ワイバーン(変なの)も壊して早く白式使って欲しかったな~っていうのがあってですね~……』

「……貴様、いい加減にしろよ?」

 

 通信先で小さな悲鳴があった気がしたが気にしない。そんな事はどうでもいい。

 

「一応、私も学園の安全を預かる立場の一人であるにも関わらず、よくもまあそんな事が言えたものだな。

 そんな事をしている暇があったら早く例の物を仕上げたらどうだ?」

 

 少々ドスを効かせたが、効果はあったらしい。

 束は壊れた自動人形のように何度も一定のリズムで頷いていた。

 

「で、それがどうしてあの化け物共に繋がったんだ?」

 

 だが、このままでも埒が明かない。なにより、今はあの化け物共ともう一つが先決だ。

 

『う~ん……それがちょっと分かんなくてね~』

「……何だと?」

 

 だが、返ってきた答えは私の想像の斜め上を行っていた。

 

『それがさ~、二日前に下見した時は待機させてた所に何にも無かったのに今日になっていきなりだったんだよね~。

 それで状況を確認した時にはもう戦闘になっちゃってて、振り切れずにそのまま行くことになっちゃったと』

「貴様という人間は……!」

 

 ここまで酷いと処置無しの一言に尽きるが、だからと言って何もしないというわけにも行かない。これ以上暴走されても被害が広がりかねない事なのだし。

 それに、今日になってあの数がいきなり現れたというのも、それはそれで不気味な話だった。

 

「……とにかく、余計な事はするなよ。

 あの二人も、今の状態だとそうそう簡単に受け取るとは思えんしな。今以上に受け取る気のない状況を作っても仕方がないだろう」

『う~ん……じゃあとりあえずはあの二機の仕上げにかかるね~』

「そうしていろ。

 ああ、それともう一つ。調べておいて欲しい事がある」

 

 こいつの行動に忘れそうになったが、今回はもう一つ重要なことがある。

 

『ん~、何々~?』

「今日、あの化け物の大群をほぼ単機で屠った機体が現れてな。

 その機体の追跡ができないかと思ったのだが」

『……あの大群を、単機で?』

「ああ」

 

 私の返事を聞いた束は少しの間停止した後、唐突に不気味な声を上げていた。

 

『私が……大天才のこの私が!

 こんなに苦労してるってのに!!

 一機だけでの対処を止めて二機がかりにしたってのに!!!

 それを単機で悠々と!!!?』

 

 徐々に徐々に、束のボルテージが上がっていく。それはもう狂笑にさえなりかけるほどに。

 

『分からない解らない判らないわからない解らないワカラナイわからない!!

 どうすればどうやればそんな事出来るかなァ!?』

 

 いい具合にやる気が出てきたみたいだが、もうそろそろ止めないとマズイか。

 そう判断し、頃合いを見て私も叫んだ

 

「おい、束!」

『……ん~、何~?』

「取りあえず、追跡はやるのか?」

『当然!』

 

 何時に無く生き生きとした表情で束の奴は答えていた。

 

(まあ、やる気があるのはいいことだが。

 だがまあ、釘は刺しておくか)

 

「見つけても逸るなよ。

 できるだけ壊さず殺さずに。最悪、例の二機ができるまでは追跡だけでもいいだろうし」

『わぁかってるよ~♪

 この束さんの頭脳をもってしても全然見当もつかないシステムを積んだ謎の機体。こんな、私の人生で初めてと言ってもいい機体を壊すなんてとんでもない!

 じっくりゆっくり解析したいところだね~♪』

「搭乗者の方も殺すなよ」

『ん~……もしかして、ちーちゃん。搭乗者の見当がついてたりする?』

 

 この異常なテンションでもこちらの考えを言い当ててくることに微妙な苛立ちを覚えるが、それを指摘したところで改善するような奴でもない。そこは諦め、本題に戻ることにした。

 

「まあ、ある程度な。

 確信には程遠いが」

『そっか~……ま、いいけどね~』

「じゃあ、頼んだぞ」

『りょ~か~い』

 

 その一言を最後に、通信は切られた。

 

 

―――――――――

 

 

Side 楯無

 

 影内君とアーカディアさんが生徒会室に入ってきたことを確認してから、私は話を切り出した。

 

「二人とも、こんな時に来てもらって悪いわね。

 とりあえず、座って」

「失礼します」

 

 二人が席に着いたところで、話を切り出す。いま集まっているメンバーは、影内君が初めて学園長に会った時とほぼ同じ、違いは、アーカディアさんもいる事だけ。

 話す内容は、影内君も一度確認しようとした、あの黒い機体について。

 

「話す前に、少し失礼。

 生徒会の皆さんと学園長、事後処理への協力ありがとうございました」

 

 話そうとした直前、アーカディアさんが丁寧にお礼を言ってくれました。

 今回の事に関しては、むしろ彼が居なければ大惨事になっていた危険性も極めて高いからお礼を言うのはむしろこっちなんだけどね。

 

「そういえば、今回の事後処理のあれは一体……?」

「まあ、簡単に説明しちゃうと事前にそういう話にしようって話を準備したのよ。ついでに、実際の費用は私達の方でどうにかしておくから心配しないでちょうだい。それと、『白い機体』に関しても適当に報告しておくから」

 

 影内君が納得したように頷くと、「ありがとうございます」と丁寧にお礼を言ってきた。

 

「気にしないで。

 それに、どうしてそこまでして戦力を欲しがったかは今日の会議でわかったでしょ?」

「それは……そう、ですね」

 

 その時の様子を思い出したのか、影内君は苦笑いだった。

 

(ま、そうもなるわよね)

 

 その対応にある種の必然のようなものを見出しながら、私はやった甲斐はあったかと思った。

 IS学園の教師部隊は、一応は軍属だったりもするけど実情として経験している戦闘は競技のみである人が多い。そのような人員構成である以上、どうしても緊急時の対応の速さや的確さに個人差が出やすく、有り体に言って危機感のない人もいる。

 その中で出現した、あの化け物たち。

 

(本当に、影内君が居てくれてよかったわ)

 

 本題に入る前に思案にふけってしまいそうだったけど、そこは思考を切り替えて話を進める。

 

「それじゃあ、本題に入るわよ」

 

 前置きを一つ。少しの間をあけて、私は話を切り出した。

 

「内容は、今回の会議で影内君も指摘していたあの黒い機体について。

 まず、無人のISであることが確認されたわ。編成は純戦闘用の機体が四、サポート用と思われる機体が一機だったわ」

 

 虚ちゃんがコンソールを操作して件の機体の残骸を表示してくれた。

 

「戦闘用の機体はいいんだけど、問題はサポート用の機体よ。

 この機体には大量の電子戦装備が積み込まれていたんだけど、その中の一部に今回の襲撃と深く関わっている機能があったの」

「どんな機能ですか?」

 

 すかさず質問してきたのは影内君だった。何時もながら、この手の対応の早さには驚かされる。

 

「一つは周辺にナノマシンを散布して、周辺の電子機器を狂わせる機能。

 仕組み上ISには効果が無いみたいだけど、それ以外の機器には電子基板に侵入してその機能を狂わせる事ができるみたいね」

 

 私の説明に、影内君と箒ちゃんの表情が険しくなった。

 

(まあ、隔壁の異常は十中八九この機能のせいね)

 

 多分同じことを考えながら、さらに説明を続ける。

 

「二つ目は、自機周辺の広域にジャミングフィールドを形成する機能。アクティブステルスとでも言えばいいのかしら。

 この機能を使うとレーダー類の多くを無力化できるみたいね。これのおかげで、あの大軍の発見がアリーナのシールドバリアが破壊されるまで大幅に遅れることになったわ」

 

 この説明に影内君の表情が険しいを通り越して凶悪になりだした。けれど、私も多分内心で同じ表情をしている。

 

「でも、この機体のコアを解析してある重要な情報がわかったわ。

 この機体の航行ルートがある程度割れたの。そして、その中に無人島があることも分かったわ。今はまだ確認中だけど、例の化け物が潜伏している可能性が非常に高いの」

 

 私の説明に、影内君はその真意を読み取っていた。

 

「つまり、その島にいる化け物を始末してほしいと?」

「そういう事ね。

 できれば明日か明後日にでもと言いたいけど、さすがに今日の事もあるし暫くの間休んでから……」

「いえ。可能であれば今晩にでもやってしまいましょう」

 

 さすがにこの一言には私も驚いた。

 

「だ……大丈夫なの!?」

 

 簪ちゃんが驚いたように聞いてるけど、むしろそっちが普通の反応だと思う。私も、同じ気持ちだった。

 

「はい。何とか……」

「一夏。回避できる無理はしないでださいね」

 

 そこに釘を刺したのは、アーカディアさんだった。その表情はいつも通りに見えたけど、何処か心配しているようにも見える。

 

「今から夜の出撃まで休めば大丈夫です。それに、一人では無理だと判断すれば帰ってきます」

 

 再度アーカディアさんが何か言おうとしたけど、思い直したのか、それ以上は何も言わなかった。

 その後は、今晩の出撃の段取りを決めてから解散した。

 

 

―――――――――

 

 

Side アイリ

 

「中々、とんでもない話でしたね」

「はい、本当に……」

 

 一夏が今使っている部屋へと入ると、私たちは話し始めました。同室の簪さんは剣崎さんと何か別な話があるとの事で、今は居ません。ですが、私としても一夏と内々に話がしたかったので、間がよかったと言えばよかったのですが。

 内容は、既に決まっています。

 

「それで、内々の話というのは?」

「……先日、セリスさんと夜架さんの二人がとある場所に合同で任務に赴きました」

「あの二人が、同じ任務に?」

 

 一夏はすぐに、その事態の異常性を察したようです。

 そう、今では特層階級(エクスクラス)機竜使い(ドラグナイト)、それも神装機竜まで持っている二人が同時に赴かなければいけない。そう考えれば、それがどれだけ重要視された任務であるかは簡単に分かることです。

 

「そこで、奇妙な幻神獣(アビス)が確認されました」

「奇妙な、幻神獣……?」

 

 一夏が訝しむような表情になり、目付きが鋭くなりました。

 

「はい。なんでも、小さなガーゴイルやキマイラのような幻神獣だったと」

「小さな幻神獣……」

 

 一夏の目付きが一層鋭くなりました。おそらくは、まだ見ぬ敵へと思考を巡らせているのでしょう。

 

「それと、もう一点。

 こちらもまだ確実なことは言えないそうですが、新種と思われる幻神獣も目撃されました。巨大な黒蟻のような姿だそうです」

「巨大な黒蟻、ですか……。

 ですが、それをなぜ今に」

「時期ですよ」

 

 一夏の表情が、変わった。

 

「その顔だと分かっていると思いますが、最近の『球体(スフィア)』が確認され始めたころから、あの黒蟻型と思しき幻神獣と、小さな幻神獣が確認され出したんです。

 今はまだ確実な事は何も言えませんが、もしかしたら……」

 

 その先の言葉は言いませんでしたが、要りもしませんでした。一夏も、既に察している様子です。

 

「さて、一夏。

 私が伝えるべき事は伝えました。よければ、此方の方の事を聞いても?」

「……あ、はい。委細了解しました。

 まずは……」

 

 この後は、雰囲気を和らげる意味も含めてこちら側の事も少し聞いておきます。

 今夜にも再度の討伐に出なければならない一夏の緊張を、少しでも和らげるためにも。


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