IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第三章(8):蛇竜蹂躙

Side 一夏

 

 一体のグリプスが特出してくる。それを皮切に、その後に何体ものグリプスが数を数えるのも馬鹿らしくなるほどには続いている。

 だが、一度に全てを相手にする必要もない。ひとまずは目の前にまで迫っている一体を処理する。

 

竜毒牙剣(タスクブレード)、アックスモード」

 

 竜毒牙剣の形態の中で最高火力のアックスモード。グリプスは確かに強力な幻神獣(アビス)だが、そこまで防御力に秀でているわけではなく、この形態なら十分に通じる。

 一振り目で突き出されていたグリプスの腕ごと上半身を切り裂き、二振り目でその核を捉える。

 

「――グァァアアァァァ!!」

 

 これで一体は倒せた。

 だが、後続も迫っている。このまま相手をしようにもさすがに数が多く、そのままで捌き切るのは難しい。機竜光翼(フォトンウイング)を準備しつつ、まずは通常の推進器でいったん下がり距離をとる。

 距離を取った先、僅かに作った時間で素早く調律を行い竜毒牙剣にエネルギーを回す。

 推進器に回しているエネルギーも一時的に切れるが、そこは予めエネルギーを溜め込んでおいた機竜光翼のみで推力を得る。

 

「竜毒牙剣、ショットモード」

 

 ショットモードは本来、竜牙射剣(ショットブレード)と同様の機能を持つ形態だがその分撃つ数には限りがある部分もある。その上で数を撃とうとするのなら、一撃一撃にかける威力を下げるか供給するエネルギーを強引に引き上げるか。

 嘗てハイート九体を相手にした時はあくまで注意を引くことが目的だったため威力を下げた代わりに複数回に分けたが、本来、この技はエネルギーの供給を戦陣(センジン)劫火(コウカ)の応用で引上げ、通常の威力の攻撃を連射しつつ、機竜光翼で移動を行うという技だ。

 

「――鎌鼬」

 

 最も、機竜光翼は本来加速用なのでそれのみで飛び続けられる時間は短く、また制御も難しい。

 

  ゴッ!

 

 だが、不可能ではない。現にハイートの隙間を縫うようにして飛べるくらいの事は出来ている。

 そして擦れ違いざま、ショットモードで斬撃を撃ち出し攻撃。

 

「グァァアアアァァァ!!」

 

 狙うのはグリプスの翼。最低限浮く能力を奪えれば地上と空中で敵の数を分けられ、一度に相手する数を減らすことができる。

 そして狙い通りにショットモードの刃で合計十数体のグリプスの両翼か肩翼かを奪う事には成功した。これで一度に相手する数は減らせる。

 そして攻撃が終わると同時に機竜光翼に蓄えていたエネルギーが尽きかけるので再度調律を行い通常状態に戻し、推進器を吹かせて機体を安定化させる。

 

「竜毒牙剣、パワードモード」

 

 最後にパワードモードにした時には既に後ろからグリプスが迫ってきていたが、特に問題無い。

 

神速制御(クイックドロウ)

 

 振り向きざまに神速制御を用い、一気に切り裂く。

 だが、その直後に再度別なグリプスが突撃してくる。切り裂いたグリプスの死体が邪魔になって反応が遅れすでに間近に迫られたが、十分反撃できる。

 

機竜刃鱗(ブレードアーマー)

 

 膝に展開された刃を真上に思い切り突き立て、グリプスの頭を串刺しにする。次いで足を延ばしながら、爪先の機竜刃麟にエネルギーを回し十分な攻撃力を持たせたうえで蹴り上げる。

 狙い通りに切り裂いた瞬間、頭の中で警告音が響いたような気がした。次いで、後ろから二体のグリプスが迫りくる。本来、飛翔型にとって背面は弱点であり、最も警戒しなければならない場所である。

 

「《消滅毒》、機竜光翼」

 

 だが、来ることが分かっているなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。背翼をそちらへと向け、機竜光翼を使用。同時に、消滅毒によって変質させることも忘れない。

 機竜光翼は武装用のエネルギーを推進力に変換するための特種装備であり、《消滅毒》は武装用のエネルギーを変質させる神装。組み合わせれば、極至近距離に限り背面への簡易的な攻撃武装となる。

 狙い通りにグリプスは吹き付けられた消滅毒の只中へと二体とも飛び込む形となり、その表層から浸食される事態になっている。大した出力ではないのでそこまで深いダメージではないが、反撃への布石にするには十分。そのまま回し蹴りの要領で踵の機竜刃麟を突き立て、消滅の毒も重ねて止めを刺す。

 

「竜毒牙剣、ロングモード」

 

 さらに上下左右から数体ほど群がってくるが、回転の勢いを殺さないまま刃を延長して構える。

 

「――円水斬」

 

 そのまま一回転してまず横軸上にいた敵を一掃。この時も消滅毒が効果を発揮し、敵を消し去っていく。さらに回転の方向を90度変えて今度は縦軸上の敵を切り裂く。軸を変えた時に減速した分は神速制御を用いることで補う。これでほんの一瞬だけ周囲の敵を殲滅し、刹那の時間ができる。

 さすがに《消滅毒》をこの調子で連続使用し続ければ、消耗の面で今後の展開が厳しくなってくる。ゆえに一瞬だけできた空白の時間に、今度はこちらから仕掛けるべく《消滅毒》の使用を一時中止し再装填した機竜光翼を吹かせて加速する。

 

「竜毒牙剣、アックスモード」

 

 グリプスの内一体と肉薄した瞬間に、肩の機竜刃麟を喉に突き立ててから竜毒牙剣の内一刀を振りあげるようにして叩き切り、核を切り裂く。その次の瞬間には移動して次の一体を標的とし、アックスモードの二連撃で切り捨てる。

 その瞬間、再度頭の中で警告音がなる。今度は後ろと左右から計三体。少し遅れて上下からも数体。

 

「次から次へと……ロングモード!」

 

 思わず悪態をつきながら、それでも攻撃の手は緩めない。ロングモードの竜毒牙剣で左右のグリプスを突き刺し、其処を軸に機竜光翼で加速しながら回転。両踵の機竜刃麟で上下と後ろに居たグリプスを切り裂く。

 倒すには至らなかったが、それでも傷跡は十分。いったん離れ、体勢を立て直す。

 

「ショットモード」

 

 離れたところでダメージを与えた数体の翼を狙ってショットモードで攻撃。翼を切り裂き地上へと叩き落す。

 同時、さらに右後ろから一体。今度は肘鉄の要領で機竜刃鱗を突き立て、一瞬動きが鈍った瞬間にショットモードからアックスモードへと変更した竜毒牙剣で叩き切る。

 一体を倒したところで、さらに複数方向からのグリプス。

 

「本当に、数だけはいるな……!」

 

 再度、竜毒牙剣を構えて俺は再び迫り来るグリプスを迎え撃った。

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

 目の前で起きている戦いは、一度目の前で見ていて尚凄まじい光景に思えました。

 完全に乱戦と化している戦いの中で、本来数の上で有利なはずのバケモノたちを相手に引くことなく戦い続け、あまつさえ何体も倒しているその姿はとても同い年の人には見えませんでした。

 勿論、機体の性能差というのも加味しなければいけないのでしょうけど、それを抜きにしても尚彼の格闘戦技能は群を抜いていると言わざるを得ません。

 

 そして、此方も此方で状況が落ち着いてきています。もう少しで避難誘導が終わりそうだからです。

 ですが、悪夢はその時に起きました。

 

「……!!

 お姉ちゃん、オルコットさん、こっちへ来る!」

「クッ……お行きなさい、ブルー・ティアーズ!」

「《清き熱情(クリア・パッション)》!」

 

 影内君とアスディーグの方ではなく、私達の方へと一体のバケモノが襲い掛かってきました。

 咄嗟にミサイルランチャーを構え、迎撃します。オルコットさんもビットとライフルの一斉射撃で、お姉ちゃんも《清き熱情》で爆破してなんとか足止めを試みます。

 ですが、それでも徐々に徐々に距離を詰められていく。私達にも焦りが募りますが。もっと悪い事に一部で徐々に避難の足が滞り始めていました。

 理由は明白です。IS三機がかりで止めきれない生物を前に、恐怖感で足がすくんでいるんです。

 

(何とか……何とかしなくちゃ!)

 

 予備で持っていたもう一つのミサイルランチャーを取り出し、二つ同時に撃ちます。

 爆発の反動で何とか止められれば、そんな考えを抱きながら。

 

 

―――――――――

 

 

Side セシリア

 

「間に合わない……!?」

 

 絶望的な気持ちで思わず呟いた、その時でした。

 

『……セシリア・オルコット。聞こえるか?』

 

 ブルー・ティアーズの通信に割り込んできた、機械で合成した事がすぐに分かる声。一体この状況で何を、と問う前にその声が続きを言いました。

 

『お前の機体に、そのバケモノを倒せるだけの攻撃力を付与する事ができる。

 やるか?』

 

 そんなバカな、と思わず声が出そうになりました。

 私の攻撃が通じないのは既に数発撃って知っています。それを、出来るはずが無いと頭ごなしに考えるのは簡単な事でした。

 ですが、目の前の脅威を如何にして退けるかを最も重要視しなければいけないこの状況下において、可能性があるのなら。私は、それに一縷の望みを抱きました。

 

「いったいどうやって、そんな馬鹿げた事を……」

『今、アリーナで戦っている機体は見えるな?』

「はい」

 

 私の答えに、その機械音声は驚きの答えを返しました。

 

『その機体は、ある能力の応用によりエネルギー装備を使っている者にのみ同等の攻撃力を与える事ができる。

 だが、万が一味方に誤射すれば……』

 

 その先は言いませんでしたが、さすがに分かります。

 命は無い、と。そういう事でしょう。

 

(使う選択をすれば要求されるのは必中、と)

 

 同時に、彼の言葉から私が選ばれたのはあくまで《ブルー・ティアーズ》に装備されているエネルギー装備が目当て。私自身の腕前を見込んでという事ではないでしょう。

 

(ですが……この状況では、選択肢は他にありませんわね)

 

「……お行きなさい」

 

 ビットを四機ともあの白い機体の元へと飛ばします。幸い、更識生徒会長と簪さんが爆発性の攻撃を仕掛けていて下さるおかげで僅かながら時間はあります。

 ほぼ一瞬であの機体へと到達したその時、あの機体が一瞬剣を仕舞うとその両腕でビットへと触れました。

 

 瞬間、ビットから異変を知らせる莫大な量の警告が届きました。

 その詳細を読み取ったとき、私は戦慄しました。

 

(弾丸とするためのエネルギーが変質……データは、測定不能!?)

 

 ブルー・ティアーズは元々実戦データの収集という目的もあり多数の計測装置が搭載されています。にも関わらず、その一切が効かない。

 正体不明の、干渉。

 

(ですが、コレで倒せるのなら……ッ!)

 

 私はその警告のほぼ全てを無視し、再度ビットを此方へと引き寄せるように操作します。

 

『出来るだけ至近距離で撃つといい。その方がより効果を見込める。

 それと、効果はその一撃だけだ』

「つまり、接射しろという事ですわね……」

 

 合成音声からの最後の忠告を受け、私はビットの操作へと注力します。失敗は許されないのですから。

 

「グアアァァァ!」

 

 そして、手元にまで戻した瞬間。あのバケモノが、遂に爆発の拘束を破り特出しようとしてきました。その体表は焼け焦げてこそいますが却ってそれが刺激しより獰猛になっているように見えます。

 私はその化け物目がけて、ビットを可能な限り接近させました。

 

「……そこですわ!」

 

 触れて折られる直前、引き金を引きました。

 その時ビットから放たれたのは、私が見慣れた青い光ではなく、禍々しいほどに白い光でした。放たれたそれは、あのバケモノの体を貫通するばかりか当たった場所からさらに崩壊させているように見えます。

 

「こ、これは……」

 

 異常なまでの攻撃能力の一端を垣間見た気がして思わず寒気を感じましたが、ひとまず危機は脱しました。

 

 

―――――――――

 

 

Side アイリ

 

(一夏、賭けましたね……。

 結果的には上手く行ったみたいですが)

 

 一夏がとった行動を横目で見つつ、半ば済し崩し的に手伝うことになった避難誘導の方の状況も確認します。

 避難誘導の方はさすがに終わり始めています。時折危ない場面はありましたが、もう少しで全員避難し終える事でしょう。

 

(やはり、知りえる限りの最高戦力に対する信頼というのは大きいみたいですね……)

 

 先程、オルコットさんがグリプスを倒した時に目撃した幾人かの人があからさまに安堵の表情を見せていたくらいです。実情はとにかく、信頼は厚いのでしょう。

 

『あ、あの……アイリさん?

 さっき、何をどうやってビットの攻撃力を……』

「……《消滅毒》の事は知っていますね」

 

 付近で誰も聞いていない事を確認してから、私は通信機に向かって話し始めました。

 

『はい、一応は……』

「あれは、なにも()()()武装のエネルギーしか変質させられないわけではありません。つまりはそういう事です」

 

 少し離れたところで簪さんが息を飲んだような様子が見受けられましたが、それはいいでしょう。幸い、下のピットが開き始めてISの部隊と思しき人たちが入り始めてもいます。

 

(確か、教師部隊というのもいたんでしたね……ようやくですか)

 

 些か遅い対応のようにも思えますが、まあ、出てきただけマシでしょう。不幸中の幸いな事に、()()人的被害も出ていない事ですし。

 

(一夏の方は……大丈夫そうですね)

 

 アリーナの方には、中央付近で多数のグリプスを相手に大立ち回りしている一夏の姿が見えます。教師部隊が突入したために動けなくなっている剣崎さんと凰さんが退避する目途が立ったためというのもあるでしょう。

 

(戦況は概ね大丈夫そうですが……このままで終わってほしいものですね)

 

 ささやかな望みを抱きながら、私もいい加減避難するために歩き出しました。

 

 

―――――――――

 

 

Side 箒

 

(前にも一度は映像で見たが……凄まじいばかりだな)

 

 片側のスラスターをやられ動けなくなった私は、凰とともにどうにかアリーナの隅まで退避するとそこで一回待機していた。

 そこで見たのは、アスディーグの戦いぶり。前のときは映像で見ただけだったが、この目で見ればその凄まじさがより伝わってくる。

 《アスディーグ》の圧倒的な性能に目が行きがちになるが、同時に癖の強い機体であることが簡単に読み取れるそれを手足のように思う存分操る。そればかりか、あの化け物を常に複数相手取っての圧倒。

 

(この場は、任せる他ないか)

 

 何もできない自分への苛立ちを覚えるが、ここで無謀なことをしてもかえって彼の邪魔になるだけだ。

 だったら、むしろ動かずにいた方がいいだろう。

 

「二人とも、大丈夫ですか!?」

 

 そうして隅で大人しくしていたところ、ようやく教師部隊が到着していた。それぞれに取り回しなど投げ捨てたかのような大型の射撃武器とひたすら重厚な盾を装備している。

 

「山田先生!」

 

 凰が驚いたように叫ぶが、当の山田先生は落ち着いて私達を退避させるように他の教師部隊の人に指示を出すと構え始めた。

 重厚な、壁を持ち歩いているといっても差し支えないほどのそれを自分の前に構えるとそこから少なくても私は見たことがないほど巨大なライフルを構えた。さらに、続いて数人が同じように構える。

 

 

「攻撃開始!」

 

 教師部隊が攻撃を開始した。その狙いは、主に脚や翼などの移動に深くかかわる部分。

 移動力を潰し、その後で交代交代に大火力を叩き込む算段なのだろう。

 

(……とはいえ、基本は地上の敵相手になるだろうが)

 

 今現在、上空の方では影内と《アスディーグ》が暴れまくっている。そこに変に横槍を入れるより、翼を切られるなどで地上に落とされた化け物たちの方がまだ相手するにはいいだろう。空中を移動されるよりは接近までの猶予もある。

 そこまで確認したところで、退避が終わり私達の視界でアリーナの中を確認はできなくなっていった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

 アリーナに多数のグリプスが現れてから、最初はかなり厄介な状況になったが何とか落ち着き始めていた。

 

 いまだ空を飛んでいるグリプスは既に片手で数えられるほどになっており、残りは地上に叩き落とした分だけになっている。

 その地上のグリプスも、重役出勤してきた教師部隊によって削られていた。足を中心に狙ったためか、ある一定の効果は上げているみたいだった。もっとも、あれだけの数でかかって撃破が一つも無いというのは不安要素でしかないが。

 

(機竜だったら汎用機竜でも何体か倒せているだろうに……)

 

 だが、それは今はいい。

 

「グァァァアアァァ!!」

 

 空中に飛んでいた最後のグリプスを倒し、残るは眼下に残るグリプスのみとなる。

 教師部隊の攻撃が相も変わらず繰り広げられているその只中へとは、さすがに飛び込む気にはならない。

 

「竜毒牙剣、ライフルモード」

 

 機竜息銃(ブレスガン)とライフルを足して二で割ったような性能を持つ形態で、その切っ先から光弾を射出する。

 簡単な弾幕を作って教師部隊とは別方向から光弾を撃ち込み、それでさらに数を削っていく。

 

「ショットモード」

 

 ライフルモードで倒せそうにないグリプスにはショットモードを撃ち込み、ダメージを与えていく。

 少しの間それをつづけた後に残ったのは、片手で数えられそうなくらいのグリプスだけだった。

 

「……終わらせるか。

 《消滅毒》、ロングモード」

 

 竜毒牙剣の形態を変化させ、《消滅毒》も起動。準備が整ったと同時に、機竜光翼も使って加速しながら降下。

 その瞬間に、まだ残っていたグリプスの一体が教師部隊の方へと突撃するように動いた。

 

(最初はアイツか)

 

 狙いを定め、一息に近づいていく。

 

「ヒッ!」

 

 教師部隊の一人が悲鳴を上げる。そのまま手にしている大口径のライフルと思われる物を撃っていくが、野生のカンなのか、グリプスはそれを避けて肉薄した。

 教師部隊の一人が、迫りくる爪を前に盾の中へと身を隠す。が、グリプスの筋力ならその盾ごと踏み潰す事だろう。

 だが、その爪が教師部隊を襲う事はない。

 

「やらせるものか」

 

 その後ろから斬りかかる。さらに振り返って後続のグリプスを延長された刀身で一気に数体纏めて叩き切る。《消滅毒》も付与しているその一撃は、問題無くグリプス達へと止めを刺した。

 

 

―――――――――

 

 

Side 千冬

 

 目の前で突如として起きた、謎の生物の襲撃。

 その原因を一部でも知っていそうな天災(バカ)がいるのでそいつを締め上げてでも聞くのは当然として、今は目の前の事を処理する事が先決だ。

 

「……そこの白い機体の搭乗者、まずは化け物への対処の助力感謝する」

 

 私がモニター席からスピーカーを介して放った言葉に、あの白い機体はモニター席を見上げるようにその仮面に覆われた顔をこちらへと向けた。

 圧倒的な性能を持つ、その機体の動きに教師部隊のみならず私にも緊張が走る。

 

「だが……出来れば、投降してもらいたい。

 私達としても手荒な真似はしたくはないが、それ以上に所属不明の機体をそのままにもできない」

 

 白い機体は私の呼びかけに、その仮面の一部を何か操作しながら答えた。

 

『それはできない』

 

 短く、だがハッキリとした拒絶の言葉。その一言に、教師部隊の面々にも困惑が広がっていく。

 そして私が次の言葉を紡ぐより早く、あの機体は動いていた。その両腕に持った大剣を振りあげ――

 

『それでは、これまでだ』

 

――次の瞬間には、地面に叩きつけていた。

 舞上がる土埃に、一瞬視界が奪われる。その次に視界にあの機体を捉えた時には、既に飛び立っていた。

 

「各員、攻撃してでも確保しろ!」

 

 止むを得ず出した指示に、教師部隊の面々がそれぞれに獲物を向けて確保を試みる。

 だが、その全てが当たらない。白い機体は空中を圧倒的な速さで軽やかに舞うと、すぐさま視界からフェードアウトしていく。

 

 

 それが、この事件の幕引きだった。


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