IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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諸般の事情により執筆時間が中々取れず、今までかかってしまいました。すいません。
それでは、お楽しみください。


第三章(6):クラス対抗戦

Side 簪

 

「それで、簪。

 聞きたい事とは?」

「えっと……」

 

 あの訓練の後、私と箒は屋上にいた。それぞれの同居人である影内君と本音には事前に寄り道していくことを伝えてあり、特に怪しまれるという事はない……と、思う。

 そこで、私は「織斑一夏」という人の事を聞こうとした。

 でも、やはり彼女の過去に触れる内容であるのもあって、聞いていいのかどうかには未だ少しの迷いもあった。

 

(どうしよう、かな……?)

 

 私のそんな考えを読み取ったのか、箒は微笑みながら促してくれました。

 

「何度も言うようだが。聞きにくい事だったらとにかく、私に対する遠慮だったら気にしないでいいからな。

 クラス対抗戦もあることだし、気になる事は早めに片付けておいた方がいいのではないか?」

 

 その一言に、私はハッとした。

 

(そうだ。確かにクラス対抗戦があったんだ!)

 

 前日から色々とこの事で混乱していたためすっかり抜け落ちていたけど、考えてみればクラス対抗戦がもう間近に控えている。

 専用機の完成していない私はとにかく、箒が今の立場に居られるのは実力の証左があるからというのは否めない。その彼女に、心理的な不安要因を残すわけにはいかない。

 

(と、なれば……)

 

 罪悪感が無いわけではないけど、今だけは言い訳させてもらう事にした。

 

「えっと、その……箒」

「何だ?」

「その……来てもらって悪いんだけど、クラス対抗戦が終わった後にしてもらっても、いいかな?

 多分だけど……その方がいいと思うし」

 

 箒は私の言葉に、少し訝しむような表情になったけど「分かった」の一言で了承してくれた。

 少しの罪悪感を覚えつつ、その日は互いの部屋へと戻っていった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 箒

 

(……クラス対抗戦が終わった後に、か)

 

 それが私を気遣っての台詞だろう事は、簡単にわかった。

 気遣ってくれた事を嬉しく思う反面、気遣われた事に少々の不甲斐無さも感じる。

 

(遠慮はしなくて良いといったんだが……)

 

 まあ、そこが彼女の美徳とも言える点なので何も言うつもりは無いが。

 

(……あるいは、ただ単に頼りなく思われてるのか)

 

 それはそれで仕方ないとは分かってる。なにせ、そもそも最初に会った時からしてそのような印象を持たれても仕方がないのだから。

 

(とは言え、今はその好意に甘えるしかないか)

 

「ほーちゃん~、かんちゃんどうだった~?」

「取りあえず、クラス対抗戦が終わった後に話すと言っていた」

「そっか~……」

 

 自室に着いた後、同室の本音が心配した声で聴いてきていた。

 ひとまず言われた事をそのまま言うと、本音はやはり元気をなくしたような表情になっていた。

 

「すまんな、役立たずだった」

「そ、そんな事無いよ~……」

 

 本音はそういってくれたが、気遣われた事は事実だ。今現在では何の役にも立っていない。

 

「とにかく、今はクラス対抗戦だな。

 配慮して貰った以上は、しっかりとした結果を出さないといけないな」

「整備が必要だったら言ってね~♪」

 

 クラス対抗戦が終わらない事には何も進まないと思って言った言葉に、本音が頼もしい事を言ってくれた。

 終わった後にどんな話をされるのかは少し気になったが、状況が状況だった事もあり今は目の前のことに集中する事にした。

 

 

―――――――――

 

 

Side 鈴音

 

「いよいよね」

 

 影内と試合をしてそれから一緒に特訓をするようになってから早数日。

 今日はクラス対抗戦の当日だった。アリーナの席にはIS学園の学生の他に、各国の要人や研究機関の人物と思われる人が一面に見える。

 参加者にとっては無様な戦いは見せられない一日だった。

 

「まあ、私だって色々と用意はしてきたけどね」

 

 私自身については言わずもがな、影内達との特訓の事である。特化型からオールラウンダーまで色々なタイプの使い手を連日の模擬戦の相手にできたのは私自身の強化に凄まじく役立った。だけど、それは剣崎も同じ。その点だけでは十分とは言えない。

 《甲龍》にも十分な調整を施したけど、それは向こうも当然のようにやっているのだろう。

 

「まあ、考えようによっては公平(イーブン)って事かしら。

 むしろ、ちょうどいいわ」

 

 後腐れなく遠慮なく、試合できるのだから。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

「一夏、今日はよろしくお願いしますね」

「それは良いのですけど……」

 

 試合が始まる少し前の時間、俺はアイリさんと合流していた。

 

「今日は実際のIS同士の試合の報告と、あなたに直接伝えるべき事ができたので私が来る事になりました」

「伝える事、ですか?」

 

 俺の返しに、アイリさんは頷くと真剣な声音と表情で再度言った。

 

「はい、()()()()()()()です。

 後で、内々に」

 

 酷く真剣なその表情は、ただならぬ内容である事を容易に伝えてくれた。おそらくは、後者の用件がほとんどで前者の用件はこっちに来るための口実みたいなものだろう。

 頷きを返して、その後は何事も無かったかのように二人でアリーナの席まで進んだ。内々にという事なので公になりかねない場所で話すわけにも行かず、かと言って今から二人のみで話せる場所の確保もままならない。

 結果的に、ひとまずもう片方の目的であるISの戦力調査という事でクラス対抗戦の観戦をする事にした。

 

「一夏。今日対戦する二人は、確かあなたもよく知っている人でしたよね?」

「ええ、はい。

 確か、剣崎はアイリさんも知っていますよね。凰とは初めてでしたね。二人とも格闘を得意としています」

「そう、ですか……」

 

 そこで、不意にアイリさんは言葉を詰まらせた。

 

「会ってみた感想はどうでしたか?」

 

 言葉通りに受け止めるのであれば、其処に深い意味は無い。国家代表候補生と言う、同年代の立場ある人に会ってみてどう思ったのかというだけだろう

 だけど、その相手が凰となれば少しばかり話は違ってくる。

 

「会えてよかったと思いますよ」

 

 答えはこの一言に止めた。アイリさんは俺と凰の事を知っている。

 その時点で、多くの言葉を語る必要もないと思ったからだ。

 

「そうですか……。

 無理はしないで下さいね」

「……はい」

 

 アイリさんの一言に、俺は頷く他無かった。

 それが、気遣っての言葉だと分かったから。

 

 

―――――――――

 

 

Side 鈴音

 

「ふ……出てきたわね」

「ああ」

 

 私が自分に割り当てられたピットから出撃して間もなく、豪快な音を立てながら剣崎が飛び出してくる。

 打鉄に似た形状の真紅の装甲に異様に長大な刀を備えた《陽炎》の姿を試合で見るのはもう二度目だけど、相変わらずのアンバランスさに目を引かれる。

 私と《甲龍》も言えた義理ではないけど。

 

「さて、わざわざ前置きも必要ないでしょうし。

 始めましょうか」

「そうしてもらえると助かる。

 私も打ち合いたくて仕方なくてな」

 

 事前のやり取りはそれだけだった。その後は、互いの得物をその手にするのみだった。

 試合の審判を務めている山田先生に、二人とも準備ができたことを伝える。

 

『それでは、クラス対抗戦第一戦目。一組代表剣崎(けんざき)(ほうき)、対、二組代表(ファン)鈴音(リンイン)

 戦闘開始(バトルスタート)!』

 

  ブー!

 

 試合開始の宣言とブザーが鳴り、始まる。

 直後、私と剣崎は何の工夫もなく、いや、工夫する時間さえ惜しいとばかりに全力で接近すると互いの獲物を打ち付け合っていた。

 

  ガギャギギギャギギ!!

 

 鋭利な金属同士が擦れ合う異音が鳴り響き、火花が散る。

 

「真正面から来てくれるなんてね……上等じゃない!」

「それは、お前もだろう。凰!」

 

  ゴガギン!

 

 至近距離で挑発し合い、互いに互いの獲物を弾く。そして、そのまま互いに一回転して再度の斬り合いに突入。

 そこからはひたすらに互いに斬り合った。

 

  ゴギャガギガギャリリギギャリィン!!

 

 剣崎が瞬時旋回(イグニッション・ターン)で主力の大型ブレード《叢》を振り抜いてくる。

 直撃すれば《甲龍》でも大被害は免れない。回転の勢いを殺さぬまま咄嗟に全力で振り抜き、必要最低限受け流す。

 体勢が崩れかけたけど、《双天牙月》を二振りに分割してその切っ先に衝撃砲を当てて無理やり力の方向を変えて振り下ろす。

 

「ハァッ!」

 

 剣崎は剣崎で格納していたもう一刀の方を左腕の装甲に接続、それで受け止めてくる。

 

「その程度!」

 

 さらに、そのまま押してくると一瞬だけ速度を緩めて間合いを作り振り抜いてくる。

 身を屈め高度を下げギリギリ回避し、再度連結した《双天牙月》を懐に潜り込みながら叩き付けるようにして斬り付ける。

 剣崎も瞬時加速(イグニッション・ブースト)で後退して回避するけど、私もそのまま逃すつもりは無く《双天牙月》を投げつけて追撃。投げた後も《龍砲》で剣崎を牽制しつつもう片方を当てて加速させる事も忘れない。

 剣崎もされるがままではなく、投げた《双天牙月》を《叢》で弾き飛ばすとそのまま回避行動に移っている。瞬時加速と瞬時旋回を巧みに使うその軌道は、例え直線的であっても狙うのはなかなか難しい。

 一瞬の隙間ができたその時、剣崎が一気に踏み込んでくる。だけど、私もその後ろに《双天牙月》が来るように予め誘導してある。

 

「そこっ!」

「――ッ!」

 

 一瞬の出来事に、けれど剣崎は対応してきた。瞬時旋回の動きを寸分違わずに合わせてくると、そのまま《叢》で弾き飛ばし、その動きのまま私にも攻撃を仕掛けてきた。

 そのままだと直撃を貰いかねない。だけど、《双天牙月》を投げた後だと手持ちの格闘装備がないため、咄嗟の判断で足を振り上げ蹴りを入れる。

 多少のダメージは貰ったけど、それだけ。戦闘続行には何の支障もない。

 そのまま体を捻り蹴りを連続して放ち、同時に衝撃砲で直接狙う。さらに、影内との時の経験も踏まえて何発かは直接ではなく回避軌道が予測される位置に放つ。

 

  ゴガンッ!

 

 けれど、その中で当たったのは一発だけ。

 出鱈目とすら言える回避技能を相手に、攻めあぐねる形になっていた。

 

(けど、確かにダメージは与えているし私もそこまで貰っているわけじゃない。

 このまま押し込ませてもらうわよ、剣崎!)

 

 

―――――――――

 

 

Side アイリ

 

「あれが、中国の第三世代兵装ですか……」

「はい。なんでも衝撃波を砲弾として打ち出す装備だとか」

 

 一夏の解説を受けながら、私は剣崎さんと凰さんの試合を観戦していました。

 その説明の内容に、イメージ的には《機龍咆哮(ハウリングロア)》の射程が伸びたような装備かと理解していました。

 けれど、その一つの装備に多種多様な使い方を見出している彼女は素直に称賛できる使い手でもあると感じました。使い手のレベルの差はありますが、やろうとしている事にはユミル教国の『七竜騎聖』であるメル・ギザルトさんを思い出します。単純な攻撃手段ではなく、その中から他の攻撃の補助にまで発展させているといった点に関してです。

 さらに、戦術方面では単機による多数方向からの同時攻撃をこなすなど、セリスさんを思い起こさせる事までしています。

 

(機体の性能差でこちらが戦力的優位には立っていますが……あまり、迂闊にはやれませんね)

 

 機体の基本的な性能の差によって実戦においてはいまだ私たちが優位に立てていますが、裏を返せばそれがない場合において彼女たちの技能は決して侮ってかかれるものではないことを示しています。

 

(機竜の調査は……急いだ方がいいかもしれませんね)

 

 私が報告の内容にまで思考を回し始めた時、アリーナに異変が起こりました。

 

 

―――――――――

 

 

Side 千冬

 

  ピルルルル ピルルルル

 

「む?」

 

 アリーナのモニター席で山田先生と共に二人の試合の審判をしていたところ、無遠慮に携帯が鳴った。だが、一応職務としてここに居る以上は普段からマナーモードにしているので鳴るはずが無い。

 そこまで考え、大体相手が誰だかを察する。隣の山田先生に一言断りを入れて、出る事にした。

 

『ちーちゃんちーちゃん、大変だよ!』

「五月蝿いぞ、束。

 で、何だ?」

『大変なんだよ!

 例の化け物がそっちに!!』

「……ッ! 何だと!」

 

 束からの電話で異変を知った、その時。

 目の前に異形が映し出されたのは、その時だった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 箒

 

 それは、突然の事だった。

 私と凰が試合で戦っている最中、突如として起きた爆発。

 

 不幸中の幸いか、それはアリーナの地面の上での爆発だった。だが、アリーナの地面の所々に赤熱した跡が見られる辺り威力は相当のものだろう。しかも、それが降ってきたのは真上から。そこに至るまでには、アリーナのシールドバリアがある。

 つまり、その閃光の一撃はシールドバリアを貫通してなおそれだけの威力があるという事である。

 何がくるのか身構えるのは、当然だろう。私も凰も、目配せだけすると即時試合を中断して爆発の中心を見据えた。

 

 だが、事態は私達の予想を軽く上回る。

 

―――ァァアアアアァァァァアアァァァ!!

 

 遠吠えのような、だが遠吠えと言うには異様な音色の声。それが聞こえると同時、何かが恐るべき速度で墜落してきた。

 

 最初に見えたそれは黒を基調としたISの様な物、だった。

 様な物、と言うのはそれが既に半壊に近い状態であり、尚且つそんな物が半ばどうでもよくなるほどの衝撃に満ちた()()に組み付かれていたためである。それがさらに数組。

 続いて、組み付いている何かと同様の姿を持った()()が群れとなって降りてくる。その数は、確認できただけでも四十以上は居るだろう。

 

 群れとなり機械を食らった()()は異形だった。

 ()()の下半身は獅子だった。()()の上半身は鷲だった。()()には巨大な翼があった。()()の胴は明るい茶色の体毛に覆われていた。()()の頭だけは白い体毛に覆われていた。()()の眼は鋭く猛禽の眼光を放っていた。

 

「―――グァアアアアアアァァァァァァ!!!」

 

 咆哮を上げる()()は、神話に出てくる化け物の姿だった。


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