IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第三章(5):クラス対抗戦に向けて

Side 一夏

 

 皆と鍛錬をした翌日。

 その日は特に何事もなく始まり、普通に朝練をしてから授業に行った。簪が朝練をした事自体に驚いていたが、そこはすぐに「影内君だしね」と妙な納得を覚えていた。解せぬ。

 そして、すかさずに翌日から朝練にも付き合わせてほしいと頼まれ、放課後の鍛錬に慣れてきたらと返答した。それもそうかと簪も納得してくれたのでその話はそこで一旦終わらせる。

 その後は特に何事も無く互いに準備を済ませて朝食。道中で剣崎と本音が合流し、さらに食堂前で凰とオルコットが合流していつものメンバーが構成された。

 朝食後は教室に行き授業。いつも通りといえばいつも通りで、特におかしい事は無い。

 

 ただ一点、気になる事はあった。

 

(……気のせいだといいが)

 

 簪の様子が少しだけおかしく感じた。それも、昨日の夜あたりからずっと。

 一見いつも通りに見えるが、何か考え事をしているように感じる。

 何も言わないという事は言いにくい事なのか言いたくない事なのか。今は判別が付かないが、余人がそう易々と踏み入る事は憚られる事というのも十分に考えられるのでそう迂闊に聞くのもどうかと思う部分があった。

 

(……本人が話すのを待つしかないか)

 

 今現在の関係に罅を入れるのも好ましくは無いし、今は少しだけ様子を見る事にした。

 本当に、ただの思い過ごしだといいのだが。

 

(……まさか、な)

 

 昨日の事と言えば、俺としても本来厳重に秘密にしなければならない事がある。

 まさかあんな所に付いて来る人が居るとは思えないが、かと言ってその可能性が0とは言えない。

 

(もしそうだったとしたら……)

 

 もし本名と来歴が割れた場合、俺が日本政府にとって不利益な人間と判断されてもおかしな事ではない。そして、彼女達は一国の暗部に類する人間。

 あまり気は進まないが、そうなった時の非常手段もいくつか視野には入れておくことにした。最悪、機竜側に逃げ込む事も考えておかないといけないかもしれない。

 

(思い過ごしか、彼女たちがそれを無視してくれるのであればいいのだが……)

 

 一抹の不安を覚えつつも、その時はいつも通りに過ごしていた。

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

 朝起きたときからずっと、やはりどうしても昨日の事が気になっていた。

 

(どうして……どういうこと……?)

 

 努めて平静を装い、いつも通りを心がけて過ごして過ごした。

 でも、頭の中で考えていたのは昨日の影内君と織斑先生の会話の事。そこから更に考えられる、いくつかの疑問。

 でも、それらに対しいくら考えても答えが出てこない。何より、私は圧倒的に影内君の事を知らなさすぎる。

 かと言って、本人に直接聞くのもどうかと思う。それが本人に触れられたくない事だったら、尚更に。

 

 影内君との関係は、今のところは悪くないと思ってる。だからこそ、今の関係に罅を入れるような事は避けたかった。あのバケモノ相手の戦力という意味でもそうだし、個人的にも影内君から聞きたい事や教わりたい事が沢山あるというのもある。

 

(……そう言えば)

 

 影内君の苗字を織斑先生と同じにすると、織斑一夏になる。

 この名前には聞き覚えがあった。

 

(確か、箒が幼馴染だって言っていた人と名前が同じ……)

 

 随分前に少しだけ聞いただけで、詳しい事は知らないしもしかしたら違う人かもしれないけど、聞く価値はあるかもしれない。

 だけど、それもそれで憚られる事だった。何より、箒自身も今でこそ落ち着いてるけど、一時期は本当に大変な思いをしていた。そんな彼女に、あまり昔の事を思い出させたくないというのもあったから。

 

(後は、鈴も同じ名前の人を知っているようだったな……)

 

 いつかの昼食時に聞いた、一夏という名前の人との関係。親友だといっていたし、同じ人の事を言っているのならもしかしたら何か重要な事を知っているかもしれない。

 だけど、それにも少し迷いがあった。あの昼食のとき、鈴はその人の事を遠い目と異様にギラついた何かを混在させながら思い出していたから。

 

更識家(いえ)のほう……は、マズイかな)

 

 更識家の情報網で調べられないかなとも思ったけど、それだと必然的にお姉ちゃんに相談する事になる。

 今現在の私とお姉ちゃんの関係は、正直な所少し微妙な距離感がある。一時期よりは箒の後押しもあって改善しているけど、それでも我儘を遠慮無く言えるような関係とは言い難い物がある。

 更に言うと、そもそも影内君自身がどういった経緯を持つかでこの場合は大きく変わってきてしまう事も考えられた。無いとは思いたいけど、万が一を考えれば最終手段にせざるを得ない。

 

(……織斑先生は、ダメだよね)

 

 さすがに当事者と思しき人は論外とした。何より、どんな対応をされるかが全く予想つかない。最悪、それに関して色々と言われて影内君やお姉ちゃんに迷惑がかかるという展開だけは避けなければならないし。

 

 その後も色々と考えはしたけど、結局答えは見つからなかった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 箒

 

(さて、どう声をかけたものか)

 

 普段と変わらないように始まった一日だったが、少しだけいつもと様子が違う友人がいた。

 最初に気付いたのは朝食で同席になった時。何時もと変わらないように振る舞っていたが、どこか落ち着きなく見える。

 

「ほーちゃん、ちょっといい~?」

「本音、どうした?」

「えっと~、かんちゃんの様子がちょっとおかしいかなって思うんだけど~」

 

 本音も似たような思いを抱いたらしい。私とは比較にならないほど簪との付き合いが長い彼女の事だし、何もおかしな事などないのだが。

 

「本音もそう思うか」

「ほーちゃんも~?」

「ああ」

 

 とりあえず本音と意見が一致していたため強ち間違いではなかったのかと思いつつ、そこからどうしようかと少し思い悩んだ。

 彼女が何を思い悩んでいるのかは知らないが、今までにも随分と世話になっているのだし出来るのなら何か力になりたいとは思う。

 が、内容そのものが他者に話しづらいものだった場合はそうも言っていられない。

 

(さて、どうしたものか……)

 

 解決策らしい解決策は思い浮かばず、少々と頭を悩ませる事になった。

 

「かんちゃん、大丈夫かな~……?」

「……今までも何だかんだとは言いつつ簪はやれていたし、早々に大丈夫じゃなくなるとは思わないが。

 だが、そうだな。折を見て、それとなく聞いておくか?」

「いいの~?」

 

 本音が簪に向けるそれとは別に私も心配してくれた。その心遣いは有り難いものだが、今は簪の事が優先だろう。

 

「私も、簪や本音には随分と世話になっているしな。

 上手い事が言えるかどうかは分からないのが辛いところだがな」

「……ほーちゃん、ありがとね~」

「気にしないでくれ。

 お前たちがしてくれた事に比べれば、なんと言う事も無い」

 

 本音の言葉に軽く返し、その後はまたいつも通りに過ごした。

 その時は、まさかあんな事を聞かれるとは思っていなかった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 鈴音

 

「さぁて、影内!

 今日も特訓よろしく!」

「元気だな、凰……」

 

 ほぼ知っている内容ばかりを復習する事になった授業を終えた放課後。

 私はさっさとトレーニングウェアに着替えて影内たちと約束していた特訓に顔を出していた。すでに簪は顔を出しており、少し遅れて剣崎と本音が合流してひとまず全員が揃った。

 と思ったところ、さらに少し意外な人物がこちらに合流した。

 

「あの……少々よろしいでしょうか?」

 

 現れたのは一組のセシリアだった。

 

「オルコット、何か用か?」

「えっと、そのですね……よろしければ、私もトレーニングに参加させてはもらえないかと思いまして……」

「俺はいいが」

 

 セシリアの意外と言えば意外な問いに、影内は迷う事無く頷いていた。その後に一回他の面々も見渡してたけど、わざわざセシリアの申し出を断る理由のある人も居なかったため全員が了承し、そのままセシリアも参加した。

 

 それからしばらくの間、主に昨日と同じ体力方面の特訓が行われた。

 昨日よりも更に少しだけ賑やかになった特訓だったけど、さすがに休憩が挟まれる頃には静かになっていた。最低でも肩で呼吸をしていて、セシリアに至っては完全に沈黙している。

 

(まあ、でも……無理は無いわね)

 

 それだけキツいメニューなのだ。そして、これより更に厳しいメニューをこなしている人も居るというのだから、影内の周りのレベルはおかしいと言わざるを得ない。

 そんな愚も付かない事を考えてたら、本音がさながらマネージャーのような感じでスポドリを配り始めた。手際のよさに感心しつつ、私も受け取ってしっかり水分補給しておく。同時に体も出来る限り休めて体力を回復させておく。

 

 なにより、今日はこの後が本番なのだから。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

「さて、今日はアリーナの使用許可が取れたし実機使って訓練するか」

 

 俺が確認程度で言った言葉に、本音以外の全員が表情を引き締めた。

 その後は、軽く人数分けを行う。メンバーは、剣崎と簪、鳳とセシリアの組み合わせを基本として、俺は前半と後半でそれぞれに入る事になった。剣崎と凰を一緒にしてひたすら格闘戦なんてのも考えたが、冷静に考えるとこの二人は後にクラス対抗戦で試合する事が既に決定している。直接対決はそのときまでお預けのほうがいいだろう。

 その上でこの組み合わせにしたのは、それなりに理由がある。

 剣崎は基本的に射撃や特殊な装備の扱いを苦手としており、その上で格闘戦を仕掛けるなら避けるか被弾覚悟で近づくしかない。だが、それで有効になるのは相手が対抗策を持っていないときだ。その点、簪は射撃と格闘が両方出来るという話だし、対応能力を鍛えるには最適だろう。何度もあの組み合わせで訓練してるらしいし、剣崎と試合して見つけた部分を伝えれば十分だろう。

 凰とオルコットについてはそれぞれに目的がある。オルコットは射撃こそ正確だが移動しながらのそれはできないため、回避に難がある。機体の装甲も厚くはないので、せめて射撃と回避の切り替えを出来るようにならないと今後の苦戦が予想される。凰は全体的に射程が短いため、あの衝撃砲をより上手く取り扱うしかないだろう。その意味で、オルコットのビットを相手にするのは良い訓練になるだろう。

 

 と、これが未だ教えられるほどの能力はない俺が考えた案であり、その後いくらかの話し合いを挟んで少し修正した後に基本的なメニューが決まった。

 

「それじゃあ、始めるか」

 

 簡単に号令をかけ、それぞれに訓練を始めた。

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

 暫く訓練を続けて、丁度アリーナの使用時間の半分が過ぎようかといったところで休憩が入った。

 その頃にはほとんどの人が息を上げていた。主な原因は影内君が参加した時の凄まじいまでの運動量によるもので、試合をした時は時間制限があったからそこまで気にはならなかったんだけど、時間制限が試合よりも遥かに長い時間ほとんど衰える様子無く動く影内君を相手に、私達も最初は良かったけど後半は本当にバテていた。しかも、二対一でもほとんど有利になれなかったのもある。

 

 そんな中で、それまでと同様に本音が飲み物を配りつつ影内君と何かを話していた。

 

「いっち~、IS学園にはこんな設備があってね~……」

「……それは使えそうだな。

 後でもう少し詳しく……」

 

 学園にあるトレーニング用の設備について話しているらしい。今後の特訓は一体どうなるのだろうか。

 

「簪、大丈夫か……?」

「箒……大分、疲れたかな」

「そうか……私もだ」

 

 疲れて座り込んでいる私のそばで、同じく座り込んで箒も休んでいた。

 そんな中で、特に何の気無しに雑談を交わしていた。

 

「そういえば、簪」

「ん、何?」

「……何か、あったのか?」

 

 その中で問われた、一つの問い。それに、私は酷く動揺していた。

 

「な、何もないよ!?

 聞きたい事があったらちゃんと聞くし……」

「聞きたい事があるんだな」

 

 その中で冷静に返された一言に、私は見抜かれていることを悟るとそのまま頷きました。

 

「そうか。

 何を、誰に聞きたいんだ?」

「それは、その……」

 

 口ごもる私に、箒は急かそうとはしませんでした。

 

「言いにくい事だったら別にいいが。

 だけど、一応言っておく。私に対するそれだったら遠慮はしなくていいからな」

 

 箒は最後にそれだけ言うと、丁度休息が終わったのもあって特訓に戻っていきました。

 

(……覚悟を決めた方がいいのかな)

 

 箒もあれだけ言ってくれたのだし、『織斑一夏』という人について聞くとすれば近いうちの方がいいのかもしれません。

 そのためにも、一歩を踏み出さないといけない。それだけを決めると、私も特訓に戻っていきました。

 

 

―――――――――

 

 

Side 束

 

「う~ん……箒ちゃん、いつまで陽炎なんて(あんなの)使う気なのかなぁ~」

 

 《紅椿》の方も大方仕上がってきてるし、後は細かい部分や第四世代の象徴《展開装甲》も後は可動データをとって調製するだけになっている。

 やろうと思えばなればすぐにでも渡せるし、その気になればちーちゃん経由で私の方には連絡できると思うんだけどな。

 

「ああ、そう言えば……いっくんも、白式使ってくれないね~」

 

 いっくんも、あの奇妙な四つ足ばっかりで、白式を全然使ってくれない。

 あんな大きいばかりの機体より、白式の方がいいと思うんだけどなぁ……。

 

「一回ちーちゃんに連絡とって色々聞かないといけないかな……」

 

 そうと決まれば話は早い。

 

「とうっ」

 

 適当に携帯電話をとるとちーちゃんの番号を押した。


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