IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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大分期間が開いてしまい申し訳ありません。
一週間ほど実生活のほうで少々忙しくなってしまい、落ち着くまでほぼ執筆が出来ない状況でした。

それでは、少々短めですが新章の開幕になります。


第三章:来たる者、招かれざる獣
第三章(1):転校生


Side 一夏

 

「ねぇねぇいっち~、聞いた~?」

「何をだ」

 

 朝から主語の抜けた会話を繰り出してきたのは布仏本音ことのほほんさん。クラスでそのあだ名がいつの間にか付き、そのまま定着していた。本人も気に入っていたため俺もそう呼んでいる。

 

「今日ね~、二組に転校生が来るんだって~」

「転校生?」

「この時期にか?」

 

 俺が疑問の声を上げた時、近くにいた剣崎も同じように疑問の声を上げていた。

 

「いっち~に~、ほーちゃんも気になるの~?」

 

 本音の問いに、俺たちは揃って頷いて答えていた。

 

「中国から来るんだって~」

「中国から?」

 

 国外からわざわざこの時期に来るとなると、理由はそう多くない。

 

「代表候補生か何か、か……?」

「そうだろうな。

 じゃないと、わざわざこの中途半端な時期に編入させる理由がない。いくら留学生でも、普通にやれば入学に間に合うだろうし」

 

 剣崎の言葉に、俺も納得を覚えた。

 確かに、そうでもなければこの時期にずれ込ませてまで編入させるメリットは少ないだろう。

 

「お二人の予想通り~、中国の代表候補生なんだって~」

「「分かってたんなら先に言ってくれ」」

 

 俺と剣崎が揃って言ったが、当ののほほんさんは相変わらずだった。

 

「まあでも、2組の話だし関係があるのは剣崎さんくらいかな?」

「でも、専用機持ってるのって確か1組と4組だけだし、剣崎さんなら余裕だよね!」

 

 話を聞きつけたクラスメイト達が言ってきた。

 確かに他のクラスの話が直接関係があるのはクラス代表として対抗戦に参加する剣崎だけだろうが、いささか無責任過ぎやしないだろうか。そんなことを取り止めもなく考えていた。

 だが、そんな考えを遮るかのように声が響いた。

 

「その情報、もう古いよ」

 

 突如として教室の入口付近から聞こえてきた声に、皆が敏感に反応する。

 自然と、視線が声のした方である扉の方へと向いた。

 

「2組も専用機持ちである中国代表候補生のこの(ファン)鈴音(リンイン)が代表になったの。そう簡単に勝たせる気なんてないから」

 

 視線の先にいたのは、仁王立ちしている小柄な女の子だった。その顔には勝気そうな笑顔を浮かべ、ツインテールの髪が目を引く。

 その姿には見覚えがあった。機竜の世界に行って名前を変える前からいた、数少ない心の底から友人と呼べた人と、いくらか伸びた背丈を除けばよく似ていた。

 

「ところで、1組のクラス代表って誰よ」

「私だ。久しいな、凰」

 

 剣崎が名乗りを上げると、そのまま鈴音の目の前に立った。

 互いが互いの瞳を見つめ、笑顔を浮かべている。だが、その視線は交わった場所から火花でも出ていそうな雰囲気だった。

 

「三ヶ月前の日中合同演習以来か」

「ええ、そうね。二勝二敗の決着、今度こそ付けてあげる」

「ああ、楽しみにしている。勝たせては貰うがな」

「その言葉、忘れるんじゃないわよ」

 

 宣戦布告とも取れる発言を互いに交わしてから、ふと鈴音が何かに気づいたように聞いてきた。

 

「そういえば、噂の男性操縦者ってこのクラスでしょ?

 どこにいるか知ってる?」

 

 その一言に、態度には出さずに済んだが思わず身構えそうになった。まさか、この学園で機竜の世界に行く以前の友人に再会することになるとは思っていなかったのもあるが。

 

「そこにいるぞ」

 

 剣崎がそれだけ言うと、鈴音は簡単に礼を言ってこっちに来た。

 直後、驚愕に顔を歪めながら。

 

「一、夏……!?」

 

 驚愕しながら紡がれた言葉は、確かに俺の名前を呼んでいた。

 未だに覚えていてくれたことに嬉しさを感じたが、名乗るわけには行かない。剣崎の時と同じように、俺は今の名前で名乗ることにした。

 

「確かに一夏だが、多分想像している人とは違うぞ」

「え……?」

 

 鈴音が虚を突かれたような表情になったが、あくまでそのまま続ける。

 

「俺は影内一夏。

 よろしくな、凰さん」

「そ、そうなんだ……ごめんなさい、変なとこ見せちゃって。

 さっきも言ったから知ってると思うけど、私は凰鈴音。後、さん付けなんて無くていいわよ。堅っ苦しいのは苦手だしね。その代わり、私も影内って呼ばせてもらうけど。

 とにかく、これからよろしく!」

 

 差し出された手に握手を返し、その後は俺と剣崎に軽い挨拶を返して鈴音、いや凰は2組に帰ろうとした。

 だが、そこで余計な一手が加わった。

 

  ヒュッ

 

 突然、後ろから何かが振り下ろされる。咄嗟だったが、そのまま見逃すはずも無い。その何かを止めようとして――

 

  ガガガシッ

 

――俺がその何かを、凰が何かを持っていた手首を、剣崎が振り下ろしていた腕をつかんで止める形になっていた。さすがに三人分の力で受ければ動きも止まる。

 なお、確認すると振り下ろされたのは出席簿だった。これを持つ人間など一人しかいない。

 そして、当の本人は三人にも反応されて驚愕している様子だった。

 

「織斑教諭、最初に注意もしないでいきなり殴りかかるのは如何かと思いますが?」

 

 俺の言葉に、織斑教諭はやっと常の状態に戻った。

 

「……凰、もうSHRの時間だ。早く2組の教室に戻れ」

「言われずとも戻ります。大変失礼しました、織斑先生」

 

 織斑教諭の命令口調に、皮肉がたっぷりと乗った口調で凰が返し、そのまま一組の教室を後にする。

 後にはほんの少し不穏な空気が残ったが、それを全くと言ってもいいほど無視して織斑教諭が告げた。

 

「全員席に着け。只今よりSHRを始める」

 

 さっき会った嘗ての親友に、懐かしさと、覚えていてくれたことに対する嬉しさと、そしてそれらを隠していることに彼女を騙しているような罪悪感を同時に感じ、何とも言えない気分を味わっていた。

 

 

―――――――――

 

 

Side 鈴音

 

 SHRも終わり、一時間目が始まったばかりの時。

 

(……似ていたわね)

 

 私は、授業でやっている内容がもう嫌と言うほど勉強した部分だったこともあって、さっき会ったばかりの影内一夏の事を思い浮かべていた。

 

 別に一目惚れとかそういった事ではなく、私が嘗て親友と呼んだ人に似ていたから。それこそ、今も生きていればあんな感じになったんだろうなと思えるくらいには似ていた。

 

(一夏……)

 

 その事を契機に、私の頭の中には彼の事が浮かんだ。

 姉と呼んだ人の応援のためにドイツに行き、ついに帰って来なかった、大事な親友。

 

 結局、あの時の私達は彼に対して何もできなかった。

 

(だけど、今は……)

 

 残った親友達(弾と数馬)と、約束した事。

 一緒に泣き明かした子()と、誓い合った事。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 その決意は、例え何があっても揺るがない。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

 朝に嘗ての親友との名乗りを上げない再会があったものの、その後は特に何事もなく午前中の授業が終わった。

 そのまま昼食を食べに食堂まで行こうとした時。

 

「お~い、かんちゃん~」

「だから、その呼び方は止めてって言ってるでしょ……」

 

 のほほんさんが目聡く四組の教室から出てきた簪を見つけ、そのまま合流。結果的に俺、剣崎、簪、のほほんさんの四名で向かうことになっていた。

 雑談を交えながら少し歩き、食堂に着いた時だった。

 

 食券機の横で凰が待機していた。やがてこちらと目が合うと、そのまま歩み寄ってきた。

 

「ちょっといい?」

「何か用か?」

「別に用ってほどじゃないけどね。朝の事でお礼言っとこうかなって思っただけよ」

 

 朝の事、と言うと織斑教諭の事だろうか。いずれにせよ、礼を言われるほどのことをした覚えはないのだが。

 

「別に気にしなくてもいいんだが」

「私もだ」

「アンタ達が気にしなくても、私が気にすんのよ」

 

 俺と剣崎が同じことを思ったのか、凰に同じような返事を返したが、それでも礼を言ってくる凰だった。

 言われて悪い気はしないが、少々気恥ずかしいのも本音だった。

 

「っと、簪も一緒ね。

 アンタもクラス代表?」

「う、うん……久しぶり、だね」

「そうね。これからよろしく」

 

 言いたいことを言って俺と剣崎相手には満足したのか、凰は今度は簪相手に話し始めていた。

 内容を聞くに、ある程度の知り合いらしい。考えてもみれば剣崎が凰相手に「日中合同演習」という言葉を使っていた。

 簪も前々から機体を持っていたのだし、それなりの立場があるのだろう。となれば、別にその場にいてもおかしくはない。

 

「久しぶりに会ったことだし、相席いい?

 結構食堂混んでるし」

「私はいいけど……」

 

 簪との会話の中で相席が提案されていたが、この場に居合わせているメンバーの中でその提案を無下にする理由がある者も居ない。そのまま相席することになった。

 

 それぞれが思い思いのメニューを注文し、空いていたテーブルを見つけるとそこに座った後の事。

 

「あの……相席してもよろしいでしょうか?」

 

 空いている席が見つからなかったらしいオルコットも来た。今のオルコットならば特に断る理由もなく、全員が了承を返した。

 全員が席に着いたら、あとは「いただきます」だけ言った後に食べ始めていた。

 最初は時間の制約も手伝ってそれぞれが無心に頬張っていたが、やがて余裕ができると雑談に花が咲き始めた。あるいは、十代女子の姦しさなのかもしれない。

 その中にいる俺はと言えば、基本的に声を掛けられたら返す程度で、後は普通に食事をしていた。

 

「そういえば、凰さん。さっき言っていた方とは仲がよろしかったのですか?」

「うん? さっき言っていた人って……一夏の事?」

 

 その会話の中で、オルコットが言った1つの質問。

 

「ええ。

 随分と驚いているように見えましたので」

「まあ、ね。仲は良かったわよ。

 親友だった。そう思っているわ……」

 

 何気無く放たれたのかもしれないその質問に、凰はどこか遠くを見ながら答えた。だが、その瞳には異様にギラついた何かも見えている。

 

(……親友。それだけでも、最高の手向けだよ)

 

 親友だと、そう思っていてくれただけでも俺にとっては十分過ぎる。

 一方、俺以外のメンバーはこの話題に触れるべきではないと判断したのか、早々に話題を変えていた。

 

 

―――――――――

 

 

 昼食の時に気まずくなる一幕があったものの、それ以外は特に問題も無く凰とはやれていた。個人的には未だに罪悪感があるが。

 そうして昼食も終わり、午後の授業に入る。内容的にはまだそこまで難しいものではなく、特に苦労することも無く内容には付いて行けていた。

 

 そして午後の授業も終わった放課後。

 

 各人が部活に行ったり、それ以外の用事に行ったりと様々だが、その中で俺はといえば少々手持ち無沙汰にしていた。

 王立士官学校にいた頃は騎士団(シヴァレス)所属だった事もあって基本的には自主訓練、声をかけられたりすれば連携などの複数人で行う訓練などを中心としていた。

 だが、当然の事ながらIS学園に騎士団は無いし、実機を使っての訓練が出来る場所はアリーナ内部に限られている。そして、アリーナを使うには申請が必要であり、基本的に出してはいるもののまだ申請は通っていない。

 つまり、実機を使っての自主訓練が出来ない状況なのである。

 

(……まあ、それだけが訓練でもないが)

 

 現状を考えれば、普通に基礎体力などを鍛える訓練をすべきだろう。そもそも、機竜を扱うに当たり基礎体力も外せない要素ではあるのだし。

 そうと決まれば後は実行に移すだけ。そう考え、急造された男子更衣室でトレーニングウェアに着替えると、外に出て他の生徒の迷惑にならなさそうなコースを選定、そのまま走り出した。

 それからいつも通りの鍛錬メニューをこなしていく。今まではクラス代表決定戦までに行わなければならなかった機竜の調整や、更識会長との諸々の取り決めに関する話し合いなども相まってやる時間が減っていたが、今日は久々に全てのメニューをこなせる時間があった。

 このメニューを考えてくれた人(セリスティア・ラルグリス)にはまだまだ及ぶものは無いが、それでもやらない事には向上など望めないのでキッチリとこなしていく。

 

 そうして半分ほどのメニューを終えた後、意外な人影が見えた。

 

「影内、ちょっと待ちなさい!」

 

 大声で呼びつけたのは凰だった。

 心なしか、勝気そうな表情がいつもよりさらに強気になっているように見える。

 

「同室になったティナって子に聞いたんだけど。アンタ、私が転校して来る前に剣崎と試合して勝ったんですって?」

「……クラス代表決定戦のことか?

 あの時は確かに勝たせてもらったが」

 

 質問の真意はまだ分からないが、俺の返答を聞いた瞬間に凰が笑みを浮かべた。笑顔とは本来威嚇のためにあるんだと言わんばかりの獰猛な笑顔を。

 

「そう。実のところ、私は剣崎とは三ヶ月くらい前に四連戦しててね。その時は二勝二敗だったの。

 その剣崎を余裕で下したって言うから、勝負したくなっちゃってね。受けてくれない?」

「……言うほど余裕だったわけでは無いんだが」

 

 あの時は確かに勝ったが、もしどこかで剣崎の一撃が当たってたら分からない部分もあった。その意味では凰がさっき言った評価は適切ではない。

 勝負を受けること自体は全く異存は無いが。

 

「だが、試合は受けるよ。

 そのためには一回アリーナ使用の申請をしないとな」

「そのあたりは抜かりないわ。もうしてきたわよ」

 

 凰の手には確かに申請書類があり、使用が認められた事を示している。

 

「随分と手際がいいな」

「山田先生に審判役を頼むついでに織斑先生に渡してもらうように頼んだら、山田先生のほうで許可を出してくれたのよ。ちょうど、申請した時間に誰も使用申し込みが無いアリーナがあったみたいだから」

 

 そういう理由なら納得も行く。少々腑に落ちない部分もあったが。

 

「分かった。

 で、時間と場所は……明日の放課後、第三アリーナか」

「そういう事で、明日は試合よろしく。

 まあ、負ける気なんてサラッサラ無いけど」

「それは俺のセリフなんだがな」

 

 互いに軽い挑発を交えながら、その場は別れた。

 明日の試合が楽しみだった。


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