IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第二章(11):それぞれの道

Side 一夏

 

「いや~、ご足労頂いちゃって悪いわね~」

「お気になさらず、更識会長」

 

 生徒会室に呼ばれた俺は、入ってすぐに更識会長からの軽い挨拶に出迎えられていた。

 一応、正式に生徒会に入ったので呼び方もそれに相応しいものに変えている。

 

「さて、早速で悪いけど本題に入るわね」

 

 そういうと、更識楯無は分厚い紙束を取り出した。

 それをめくりながら、そして妙に苦々しい顔をしながら話し始めた。

 

「政府があなたに使わせようとしてたISについてなんだけど。現状維持、つまり今あなたが使っている《ユナイテッド・ワイバーン》をそのまま使っていてもらう方針で正式に決定したわ。勿論、学園側でもそれは同じよ」

 

 そこまで言うと、更識会長は一回こちらへと向き直ってから再度話し始めた。

 

「ひとまず解決が遅くなって申し訳ないわ。

 でも、これでもう政府からの介入はないと思うわよ。後、学園長からの正式な書類も貰ってきておいたから受け取ってね」

 

 そう言って手に持っている紙束とは別に何かの書類を取り出すと、それを俺の方へと渡してきた。内容を見れば、確かに学園長からの書類であることが窺える。

 

「確かに受け取りました。

 それにしても、早い対応ですね」

 

 俺の言葉に、更識会長は苦笑いで返していた。

 

「ほぼ完全に日本政府の恥なのが辛いところなんだけどね。

 今回やった対応も、言っちゃえば密告と大差無いし」

「密告、ですか?」

 

 更識会長は頷くと、話を続けた。

 

「ええ、そうよ。

 今回あなたに専用機を渡そうとした人たちは、正式な手続きを踏まずに担任である織斑先生に一足飛びに連絡していたのよ。言い換えれば、一部の人たちの暴走ね。当然こんな事をすれば大問題になるから、立場上の上官にあたる人や対立している派閥の人たちにこの事を裏付け付きで教えたのよ。

 後は勝手にその人たちで暴走した人たちを何とかしてくれたってわけね」

 

 言うのは簡単だが、この短期間で裏付け付きというのはそう出来る物でもないだろう。彼女や彼女の家の関係者たちの手腕の一端を見た気がした。

 

「その結果がその量の報告書類ですか」

「まあ、報告書類以外にもあったりするんだけね。

 コレとか」

 

 そう言って紙束を何枚かめくると、俺にそのページをみせてきた。

 

「政府の人間があなたに渡そうとしていたISのスペックよ。

 まあ……内容は若干呆れる物だったけどね」

 

 「試しに読んでみる?」と言われたので試しに読んでみた。

 それから数分。内容は確かに呆れる他なかった。

 

 《白式》と銘打たれたその機体は、基礎的な性能の面においては高機動系のそれに分類されるもので、()()()()()()()()()()()()()()悪くはない物だった。だが、最初にこれを渡されそうになった時は実技試験の時だったはず。最初から完成している機竜ならいざ知らず、そこまでに用意したとすれば短すぎるように思われる。

 だが、本番はここからだった。

 

「装備が純近接用ブレード《雪片弐型》のみ……」

 

 笑えない冗談にしか思えなかったが、どうやら本気らしい。

 さらに読み進めていくと、その原因も書いてあった。

 

「《零落白夜》……」

 

 自分のSEを犠牲に、相手のSEへと大ダメージを与える一撃必殺の能力。

 だが、過剰な攻撃力は相手の絶対防御すら貫通し、相手を即死させかねない代物と化している。

 

「確認してみた感想はどう?」

 

 更識会長が聞いてきた。感想はおおよそ予想で来ているとでも言いたげだったが。

 

「……本当にこれが専用機ですか?」

「政府の人間にとってはそうみたいね」

 

 呆れを感じさせる声音を隠そうともしていないが、俺もそこは同じように感じていたので何も言わない。

 

「明らかに競技で使うような機体じゃないと思うんですがね……。

 実戦でもそこまで役に立つとは思えませんし」

「言うわねぇ……ついでに、どういった理由でそう思ったのか聞かせてもらっても?」

 

 実に楽しそうな顔で更識会長が聞いてきた。

 

「まず、競技で使うには火力が()()()()()ね。

 《消滅毒(アナイアレイト・ヴェノム)》での経験があるので言わせてもらいますが、確かに一撃必殺の能力は自分の優位を約束し相手に対して多大な威嚇効果を生みます。

 最初から命を懸ける覚悟ができているのであれば特に動きが鈍ったりはしませんが、多くの場合は絶対防御によって命が保証がされているのがISの試合でしょう。そこに、その前提を覆す物を1人だけ持って行っては、他の参加者の自覚の有る無しに関わらず焦りや恐怖を生み、通常ならできている判断が遅れたり誤ったりする可能性を否定できません」

 

 俺の考えを、更識会長は満足そうな表情で聞いていた。

 

「なるほどね。

 じゃあ、実戦で役に立たないって言った理由は?」

「刀が届かない範囲で複数機を展開、包囲されれば袋叩き確定でしょう。それを抜きにしたところでこのブレードだけが唯一の装備である以上、それが破壊されれば攻撃手段がありませんしね。そのブレードにしたって、範囲が狭いですし。ブレードの刀身以上の厚みを持つ物理装甲で全身を覆った相手とかが現れたら手の打ちようがないんじゃないですか?

 それに何より、使った時点で自分の稼働時間を減らしていく以上、数を相手にするとどうしようもないでしょう」

 

 更識会長が今度は感心したような表情になった。

 

「私も同じ考えよ。

 それにしても、直ぐにここまで思いつくとは思わなかったけど」

「一応、《アスディーグ》での経験もあっての事ですけどね」

 

 さらに、ここでは言っていないが、実戦においては複数の敵機を相手にすることを前提に考えてしまうと、どう考えたところで選択できる武装の少なさが不利に繋がる。

 ルクスさんの神装機竜《バハムート》も、決して豊富な武装を持っているとは言い難かった。だが、それでも高い応用性を持つ神装があった。無論、本人の技量にもよる部分も多分にあるが。

 だが、この機体にあるのは至近距離での一撃必殺のみ。取れる戦術そのものが限定されすぎていて、応用性も何もあったものではない。その時点で、対策のされやすさも違うだろう。

 

「全く……似たような構成で世界最強(ブリュンヒルデ)になった人がいるからって、それを他の人ができるわけでもないのに」

 

 苦笑しながら、更識会長は《白式》をそう評価した。俺も似たり寄ったりな評価ではあったが。

 そして同時に、その名前を聞いてあることを思い出した。

 

「そういえば、織斑教諭はどうなったのでしょうか?」

「一応、厳重注意よ」

 

 やったことの割には軽いなと思いつつ、これから文句を言われないのならそれでもいいかと思った。

 そもそもなぜここで働いてるのかと思ったが。

 

「なんで教師やれてるのかって思ってる?」

「まあ……否定はできませんね」

 

 初日の事を考えれば、どう見ても向いているとは思えなかった。そんな俺の返答を聞いて、更識会長は再度話し始めてくれた。

 

「あの人がここの教師になったのは、実のところ各国共通の思惑があっての事なのよ」

「各国共通の思惑……?」

 

 俺の言葉に、更識会長は困ったような表情で頷いていた。

 

「平たく言うと、ISコアを持つ国同士でのパワーバランスの維持よ」

 

 その一言で、大体は察せた。

 

「まあ、大体は想像がついていると思うけど、一国だけが最強の操縦者を要していると、他の国から目の敵にされたりする可能性も否定できないのよ。

 さらに言えば、二機以上のISを要していれば一ヵ所では確実に勝ててももう一ヵ所で蹂躙される可能性も否定できないしね」

 

  機竜側で例えれば、少数の代わりに『七竜騎聖』レベルの人がいるのが一国のみで、他の国にいる機竜使い(ドラグナイト)が全員中級階層(ミドルクラス)の代わりに大多数いる、と言ったところだろうか。実際にそこまでではないだろうけども。

 

「だから、一国だけが特出せずどの国でも利益を得られるように中立であるここに勤務してもらってるのよ。

 さらに言うと、どうにも前回のモンド・グロッソの後の一時期にドイツ軍で教官を務めていたみたいでね」

「ドイツ軍で教官?」

 

 あの元姉、そんな事をしていたのか。

 どう考えても何かを教えられるようには思えないのだが。

 

「そうよ。そこで教えた子たちが結果をしっかり出したみたいでね。

 それで()()教員としてはやれるんじゃないかって話が上がって、今に至るって事よ」

「ドイツ軍の教え子が結果を出した、ですか……」

 

 実際問題として教え子本人と会うことは無さそうだが、あの指導でよく結果が出せたものだなと感心していた。

 

「まあ、世界最強が指導した優秀なIS搭乗者を各国で分けたいのが本音ね」

 

 その話を聞いてある程度の納得を覚えたが、同時に新たな疑問が出てきた。

 

「……それだったら、なんで一年の指導に?

 基礎的な部分の指導は内容があまり変わりませんし、二年か三年の指導になるかと思うのですが」

「……それが現実よ」

 

 更識会長は完全に苦笑いだった。その表情を見て、俺はこれ以上聞くのを止めた。

 

「さて、少し長話しちゃったわね。

 話したいことは最初に終わってるし、もういいわよ」

「そうですね。

 それでは、失礼します」

 

 それなりに実りのあった話を終え、俺は自室へと向かった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 箒

 

「影内、少しいいか?」

 

 生徒会室から出てきた影内を見て、声をかけた。

 

「剣崎? 何用だ?」

「いや、クラスの皆が呼んでいてな。今夜、食堂に来てほしいと」

「食堂に?」

 

 その後、私は必要な事を影内に伝えるとそのまま別れた。

 

(……剣筋はもはや似ても似つかわなかったが。こう話してみるとどうしても、な)

 

 この胸の内の思いを、悟られないように。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

「「剣崎さん、クラス代表就任おめでとう!!」」

 

  パン! パパパン!

 

 その日、利用時間が終わった食堂にて。

 祝福の言葉とともにクラッカーの音が鳴り響き、剣崎のクラス代表就任パーティーが開かれていた。

 

 当の剣崎本人はと言えば、このような状況に慣れていないのか驚くやらお礼を言うやら顔を赤くするやらで大変そうにしていたが。

 そうして暫くは和気藹々と進んでいた。

 

「はいは~い! 新聞部で~す!

 私は新聞部副部長の(まゆずみ)薫子(かおるこ)。絶賛話題の影内一夏君と剣崎箒さんの取材に来ました~!」

 

 その中で突如として現れた人影。

 新聞部副部長だというその人は、現れるなりまず剣崎のほうへと突撃していた。

 

「先ずは剣崎さん! クラス代表になった感想をどうぞ!」

「ええと……クラス代表として、企業代表として、恥じることがないよう精進していきます」

「う~ん……無難て言えば無難、かな?

 それじゃ次、影内君! ズバリ先日のクラス代表決定戦の感想とその強さの秘密をどうぞ!」

 

 剣崎にわざわざ質問しておきながら不満を漏らすその態度は中々感心を覚えるが、今は自分に降りかかってきたのをどうにかするのが優先そうだった。

 

「そう、ですね……。

 クラス代表決定戦に関しては、二人とも強かったですし戦い甲斐がありました。強いて不満を上げるとすれば、最初から全力のオルコットを相手してみたかったくらいですね。後になって記録映像で確認しましたが、ぜひ勝負してみたいです。

 強さの秘密なんてありませんよ。日頃の訓練と、師と呼べる人たちの教えを守っているくらいです。あと、個人的に強くなりたい理由があるくらいです」

 

 俺にとっては極々当然の反応。だが、どうも妙に食いつかれてしまったらしい。

 

「ほうほう……師の教え、とは? 後、強くなりたい理由も」

 

 ここで機竜側の人たちのことを話すわけにもいかず、これ以上食いつかれても困る。

 そう判断し、ひとまず無難な形で終わらせることにした。

 

「さすがにそこまでは話す気ありませんよ。

 長い話になりますしね」

「ほうほう……じゃあ、後からならいいのね?」

「止めておくことをお勧めしますよ。

 俺の会社の上司のプライベートにも関わりますしね」

 

 そこまで言うと黛部長は露骨に残念そうな顔をしていた。

 ひとまずこれ以上は聞かれなくて済みそうなことに安堵しつつ、それ以降は壁の花を決め込む。

 

 それからはこれという事もなく、パーティは平和に終わっていった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

 影内君がなにかクラスの人達に呼ばれている間。

 自室に1人の時に、自室のベットに横になりながら考えていた。

 

「……」

 

 昨日、影内君から聞いた話の事を考えていた。

 

「『最弱』を含む二つ名……」

 

 影内君が言っていた、彼の師匠の話。

 全部は話してもらえなかったけど、それでも話してもらえた部分にあったその言葉は、どうしても影内君の師という印象とは繋がらないものだった。

 そのことを聞いたら、影内君は真剣に語ってくれた。

 

『確かにその人は最弱を含んだ二つ名を持っている。

 けど、そこに不名誉な事なんて何一つない。あの人は、大切な人を守るために、そして理想を貫くためにその剣を握っている。それは、誰にでもできる事じゃない。

 もしあの人がそんな人じゃなかったとしたら、俺もここまで来れなかっただろうしな』

 

 凄く意外だった。ここまで強い影内君なのだし、自力でも強くなれたんじゃないかとも思ったから。

 

『それは無いな。

 強くなれたのも、なろうとしたのも、その人達が居てこそなんだ』

 

 私も、影内君のように強くなれるだろうか。そう聞いたら、影内君はそれを否定した。

 自分のようになる必要なんてない、と。

 

「私自身の、強さ……」

 

 自分の強さを追求すればいいと。

 

『そう、自分自身の強さ。

 そのために誰かに教えを乞う事はあるし、俺もそうだった。けど、結局行きついた戦い方はその人たちとはずいぶん違うものになった』

 

 私にもそれが見つけられるだろうか、それを聞くと影内君の方が今度は聞いてきた。

 

『どうして、そこまでして強くなりたいんだ?』

 

 私は、答えに詰まって咄嗟に言えなかった。

 

『俺が知っている強い人達は、皆それぞれに強くなろうとした理由があった。

 お前は、どうだ?』

 

 影内君の問いに、私は答えられなかった。

 答えがなかったんじゃない。ただ、詰まってしまっただけ。

 

「……お姉ちゃんに、追いつきたい」

 

 1人だったら言えるこの理由を、なんで影内君の前で言えなかったのか。

 

「追いついて……どうなりたいんだっけ……」

 

 きっと、この部分が欠けているから。

 前にも箒から言われたことがあった。追いついて、そこからどうしたいのかって。

 

 私はそれに、いまだ答えを見つけられていなかった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 束

 

「フンフフンフ~ン♪」

 

 順調に組み上がっている《紅椿(アカツバキ)》を見ながら、私は非常に上機嫌だった。

 大事な大事な妹への、誕生日プレゼント。

 

 今、箒ちゃんが使っているあのIS(鉄屑)よりも遥かに高い性能を持つ、この大・天・才の私が丹精込めて製作した最新最高性能のIS。

 

「喜んでくれるかな~? 喜んでくれるよね~♪」

 

 この前なんか有象無象と戦って妙にダメージ食らっちゃったらしいけど、この機体ならそんなことは万に一つも無いだろう。

 

「そ・れ・に~♪」

 

 あの化け物共に会ったとしても、この《紅椿》なら早々に死ぬようなことはないだろう。なんせ、それ専用の対策も積み込んだのだ。

 仮にあの羽生やした黒い奴に会っても、すぐにはやられないだろう。

 

「うんうん、こっちはこれでっと~♪

 あっとは~……」

 

 反対側、《紅椿》よりさらに未完成の二機のISに目を向ける。

 桜色の装甲を纏う武士のような意匠を持つISと、白色の装甲に覆われた騎士のような意匠のIS。

 

「この二機ならば~、あの黒い化け物なんてイチコロだね~……♪」




次回、オマケを挟んでから次の章に行く予定です。

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