IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

23 / 90
第二章(9):閉幕の剣舞

Side 一夏

 

「ハァァッ!」

「オォッ!」

 

 互いに叫びを上げながら互いの得物を手に取り、斬り合いにもつれ込んだ。

 まず剣崎があの異常に大きな刀を異様な加速で旋回しながら振り抜いてきた。異常な大きさも相まって大迫力だが、それ以上に剣速が問題だった。その剣速は異常に速く、普通に振り抜いただけでは間に合うかどうか怪しい。

 ゆえに、こちらも神速の一閃を以って迎撃する。

 

「ゼァッ!」

 

  ガギャン!

 

 剣崎の一撃を、神速制御(クイックドロウ)の一閃で跳ね上げる。

 非常に重い一撃ではあったものの、無事に弾き飛ばせた。が、剣崎はその勢いを利用して一回転すると振り上げるようにして再度切り付けてくる。一撃目よりはまだ余裕があったため、神速制御に使ったほうとは別の機竜牙剣(ブレード)で切り付ける。

 

  ギャリン!

 

 刀と剣がぶつかり合う金属質な音が響き、火花が散った。

 二刀とも使った俺は即座に蹴りを放つが、今度は剣崎が腕の装甲を利用して受け流してきた。続けざまに放ったもう一発の蹴りに関しても同様。

 

  ゴガゴン!

 

 機体を捻るようにして回転させながら、二刀の機竜牙剣で二連撃を仕掛ける。

 

  ギャギギン!

 

 剣崎はあの異様に巨大な刀を真横に構えて受け止めると、その直後に反撃に転じてきた。横一文字の一閃。機竜牙剣の内一刀で受け止めつつ、もう片方の機竜牙剣を突き出す。

 

  ギィン!

 

 だが、その一撃を剣崎は身を捻ってかわすとその体勢を元に戻し動きのまま、いつの間にか取り出していた小刀のようなブレードを突き出してきた。

 

  カキン!

 

 機竜牙剣の内一刀を盾のように構えて弾き、もう一刀で反撃を試みる。

 だが、剣崎はあの小刀が外れたことを悟るとすぐに収納し、再度あの長大な刀を両手で握り振りぬいてきた。

 

  ギャギン!

 

 派手な音が響き、互いの距離が少しだけ離れた。すぐに背翼の推進器を使い加速すると二刀の機竜牙剣をタイミングを合わせて切りかかる。

 剣崎は右手にあの刀をマウントすると、肩部分のアーマーも使って支えつつ俺の二刀を受け止めていた。

 

  ガギィィン!

 

「ッアアァァァ!」

 

 そのまま叫ぶと、剣崎は異常な加速で突っ込んでくる。さっきマウントした刀はその状態のまま肘打ちのような姿勢に構えていた。肘の外側に切先が伸びているところを見るに、多分肘を振り下ろすような形での斬撃だろう。

 動きは読めるが、速度が凄まじく普通に振るのでは間に合わない。だから、再び神速の一閃に頼ることにした。

 

「神速制御……!」

 

  ギャガン!

 

 重い一撃だったが、神速の一閃で再び弾き直撃を避ける。だが、弾かれた勢いを利用して回転すると今度は肘鉄の要領でその切先を突き立てようとしてきた。

 当然、そのまま当たるような事はしない。突き出された刀を、機竜牙剣で振られる方向に逆らわないように弾いて強引に加速させ回転させる。

 

  ガギン!

 

 結果、無防備な正面を晒した剣崎に対しタイミングをずらした蹴り上げを放つ。が、剣崎は腰のスラスターを素早く動かして後退し、こちらの蹴りは空振りに終わった。

 その隙を見逃す剣崎ではなく、再接近して自身の刀の範囲に俺を捉えるとすぐにその刀を振り抜いてくる。回避してから振り抜くまで、何秒とかかっていないほどの早業。

 機体の上下がまだ戻り切らない内から背翼を吹かせ回転し、その勢いを以って二刀を振り抜く。

 

  ギャギン!

 

 互いに弾かれるようにして動き、少し距離が空く。その間の、僅かな睨み合い。

 剣崎も俺も、すぐに構え直していた。そこには、一切の隙が見当たらない。

 

 ここまでの極短時間の、圧倒的な密度の剣戟と格闘の応報。そこで感じた、以前戦った更識楯無や山田教諭とは違った、刀によって成り立っている圧倒的な強さ。

 

(まったく、やりがいのある……!)

 

 だからだろうか。俺は、ただただこの一戦に対し全力になり、ただただこの強敵(友人)に勝つことだけを考えていた。

 

 

―――――――――

 

 

Side 箒

 

(強い……ここまでとは、な)

 

 まだそこまで長い時間戦ったわけではないが、影内の強さを実感するには余りにも十分すぎた。これで本来の機体(アスディーグ)ではないと言うのだから、その強さは底が知れない。

 

(今はまだ何とか均衡がとれてるが……)

 

 格闘戦で今はまだ何とか持ちこたえてはいるものの、正直言ってかなり苦しい立ち回りだった。それで何とか均衡が取れているという状況なのだから、もしこの均衡がどこかで崩れでもすればそこから彼の連撃に飲まれ、為す術も無くとまでは言わないが敗北は避けられないだろう。

 

(それにしても……なんだか、なぁ……)

 

 彼と対峙していると、どうしても昔を思い出してしまっていた。私がまだ名前を変える前の、幼かった頃の事。

 

(……いや、それは今考える事じゃない)

 

 思考を切り替えて、目の前の試合に集中する。

 今現在におけるこの均衡は簡単には崩せないが、かと言って手を拱いていても勝利は遠退くばかりだろう事は分かり切っている。だが、逸って下手な事をすれば即敗北に繋がりかねない。

 油断を許さない、強い緊張を伴う状況。だが、同時にここまでの使い手と戦えたことに対する喜びと、負けたくないという意地のようなものも強く感じている。

 

(さて、どう攻めるか……)

 

 影内も私も、一度離れてからは構えたまま動いていない。お互いに呼吸が乱れているというわけではない。ただ、仕掛けるタイミングを計っているだけだ。

 最初は余りにも滾りすぎて待ちきれなかったのとある種のなつかしさに突き動かされてしまったが、今度はそういうわけにも行かない。

 「叢」をよりきつく握りながら、影内の一挙手一投足を見逃さないように、つぶさに観察する。

 

「ッアアアァァァ!!」

「オオオォォォッ!!」

 

 だが、それも長くは続かなかった。何が合図になったかなんてわからなかったが、本能的に腰の可動式スラスターを吹かせていた。

 互いに吠えながらの、ほとんど同時の接近。だけど、素の加速では私が押し負けそうなので重ねて瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使用。当たり負けしないだけの加速は得られたが、それだけで押し切れるほど甘い相手でもない。

 影内は再度、あの異常な速度の剣戟を放ってきた。一動作のみの、超絶的な速度を持つ剣劇。速度と質量を破壊力にしている私にとって、大質量の大剣を超絶的な速度で振れるなど、厄介な事極まりなかった。

 

(何とかして、この剣を攻略しないと、な……!!)

 

 再度、あの嵐のような連撃との打ち合いにもつれ込みながら、私は影内に勝つための一手を模索していた。

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

 攻め手と守り手が二転三転する、密度の濃い格闘戦。

 僅かな時間で繰り広げられるそれを、私はただただ言葉もなく見つめていた。

 

 ややあって、彼と彼女の距離が少しだけ離れた。そして二人とも構え直し、少しの間だけ睨み合う。

 

「ッアアアァァァ!!」

「オオオォォォッ!!」

 

 だけど、その均衡は長く続かない。再度二人はどちらからともなく接近した。箒に至っては瞬時加速まで使っている。

 

「……凄い」

 

 再び始まった圧倒的な技量と技量がぶつかり合う格闘戦を、それだけ呟くと後はただただ黙って見ていました。ですが、黙っていたのは私だけではありません。観客席で見ているほとんどの生徒が、黙って見ていました。

 

(凄い……凄い。凄い、凄い!!)

 

 いえ。正確に表現するならば、魅入っていた、と言うべきでしょう。圧倒的な密度の、全力の格闘戦にはそれだけの魅力がありました。

 私個人としては、かつて一度、彼と姉が対峙した時の試合も見ています。ですが、この試合にはそれとは別種の凄さがあった。互いの持つ近接用の得物のみでここまでの試合を展開するなんて、近年の大会でも滅多に無いから。

 

 絶えず鳴り止まない剣と刀がぶつかり合う金属質の音。その中に混じる二人の叫び声。

 他の音が何一つといってもいいほど聞こえてこないように感じた。それほどに、誰もが魅入っていた。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

 剣崎に再接近し、再び剣と刀をぶつけ合い斬り合う。

 異常に大きな刀をあの異常な加速の旋回も使って振っているにも関わらず、その剣技は相変わらず凄まじく冴えわたっている。

 

(本当に、凄まじいな!)

 

 此方も二刀に加え蹴りも交えながら格闘戦を繰り広げる。

 手数では此方が勝っているものの、剣崎の一撃の威力は侮れない。もしあの異常な加速を乗せた一撃を受け損なえば、痛手になることは間違いない。

 

(気も抜けない……!)

 

 心地よい緊張感を感じながらも、同時に勝つための一手を仕掛けるタイミングを模索する。

 だが、最初の打ち合いよりもより的確な一撃を剣崎は放ってきており、心なしかより集中しているようにも見える。このままでは、どこかで此方が斬られかねない。

 だからと言ってそればかりに気を配ってもいられない。所々で混ぜられる小刀も的確な攻め手となっており、そちらにも注意しなければならないからだ。

 

(特性の違う二種類の得物……か)

 

 俺自身も剣の間合いが突然変化することがどれだけ厄介な事かは、使う側としてよく知っている。だからこそ、両方へ気を配ることが重要な事も理解している。

 だが、これらすべての要素に対する注意と集中力がどこまで持続するかは分からない。

 

 一度目と二度目の斬り合いで、互いに消耗していた。数値として出ているのは剣崎の方だけだが、こちらも細かくダメージを受けている事に変わりは無い。

 

 その状況下でさらに剣崎との斬り合いを続けることになったが、やがて再び距離が離れる瞬間が来た。

 互いに得物を構える。二度目の斬り合いを始める前の時よりも、より深く。

 

(ここで、仕掛けるか……!)

 

 剣崎はこの攻防で決着を付けるつもりなんだろう。両手で構えるのみならず、右手にもあの長大な刀をマウントしている。

 だが、決着を付けようとするのは此方も同じだ。そのための一手を準備するため、機攻殻剣(ソード・デバイス)を握り調律の画面を開いた。

 

 

―――――――――

 

 

Side アイリ

 

「一夏、ここで決着を付けるつもりですね」

「……そ、そうなんですか!?」

 

 私の呟きに、それまでひたすら試合の観戦に集中していた簪さんが驚いたように声をあげました。

 彼女の問いに頷きを返して、その理由を少し説明しておきます。

 

「今、一夏が何か画面のようなのを開いたのが見えませんでしたか?」

「見えましたけど……」

 

 調律の画面を開いたのは一瞬だったのに、簪さんはよく見ています。

 

「あれは、あの機体の各部への出力を調整するための画面です。一夏は、《ユナイテッド・ワイバーン》の出力バランスを一部変更して、次の一手を準備したのでしょう。

 ですが、理由は伏せさせていただきますが、それは危険性の高い行為なんです。特に、今の一夏にとってはここ一番の場面でしか使わないほどに」

 

 そして、一夏が何を狙っているかなど簡単に分かります。兄さんほどではありませんが、伊達に行動を共にする時間が長かったわけではありません。

 大方、障壁へ回すエネルギーを減らして機竜牙剣に回したのでしょう。完全に切ったという事は無いと思いたいですが。

 

「じゃあ、次の一撃でこの試合は」

「決まるでしょうね」

 

 簪さんが再び対峙する二人へと視線を戻しました。未だ動かず、だけど確かな緊張感が伝わってくる其処へと。

 

 

―――――――――

 

 

Side 箒

 

(何かしたが……何をしたんだ、アレは?)

 

 影内が画面のように見える何かを表示して何かをしたが、詳しい事が分からない。

 だが、影内の持つ二刀の大剣が僅かに輝きを増した気がした。若干不気味さがあったが、この一撃で勝負を決めてくる気だろうことは読み取れた。

 だが、それに対し私ができることはない。ただ、勝負を決めるために次の一撃を確実に直撃させる事だけだ。

 

「ッハアアァァァァァ!!!」

 

 瞬時加速を使って踏み込み、一気に「叢」の間合いにまで詰める。

 

「オオオオォォォォォ!!!」

 

 影内もかなりの速度で踏み込んでくる。

 

 互いの距離は一瞬で詰まり、互いの得物が避けられないほどになる。

 

 その瞬間に瞬時旋回(イグニッション・ターン)を一瞬だけ使って旋回しその勢いを「叢」に乗せて振り抜く。それまでと違い、「叢」二振り分と《陽炎(カゲロウ)》自体の重量を加えた一撃は、まず間違い無く必勝の一撃になる。と言うよりは、ならなければ今現在のこの機体の最大火力が通じない事になる。

 

 影内も私の一撃に合わせて、あの超速の一閃を放ってくる。

 だが、さっきよりも強力になった一撃ならあるいは。そう思っていた私を、影内は超えてきた。

 

(……なっ!)

 

 輝きを増していたその大剣の横薙ぎは私の一撃を弾き飛ばした。のみならず、私のSEまでその余波で削ってくる。

 だが、それだけに終わらない。

 

「――円水斬!」

 

 機体を捻るようにして回転しながら、もう一刀も振り抜いてくる。姿勢を崩されていた私は同じく超速で放たれたその一閃をもろに受けた。

 さらに、もう一度同じ動作で攻撃してくる。回転と言う単純と言えば単純な動作を基軸にした攻撃は、私を一撃目と同じく捉えた。

 直撃だけで三撃。その威力は凄まじく、それだけで私の残りのSEを奪い去って行った。

 

 最後、衝撃を受けきれずに吹っ飛ばされた私はアリーナの地面に叩き落とされ、気が付いた時には《陽炎》が解除されていた。

 

  ブー!!

 

『試合終了!

 勝者、影内一夏!』

 

 試合の終わりを告げるブザーが、影内の勝利を告げるアナウンスが響き渡る。

 

(……ああ、負けたのか)

 

 それを聞いた時に、ようやく実感が湧いてきた。

 負けたこと自体は悔しいが、試合そのものには悔いはない。それほどまでに、いい試合だったと思った。

 

「……剣崎、怪我は?」

「無事だ。中々凄まじかったがな」

 

 影内が地面まで降りてきて機体を解除した後、そう聞いてきた。だが、私もそう柔な鍛え方はしていないと自負している。

 

「……私の敗北だったが、良い試合だったと思っている」

「それは俺もだ。ありがとう」

 

 私の言葉に、影内は笑顔で答えてくれていた。

 その後は特に言葉を交わすこともなく、互いのピットへと戻っていった。今はそれだけで十分だった。

 

 観客席からはもう何を言ってるのかわからないほどの歓声が響いている。一昔前の自分からは想像も出来ないような状況に、未だに戸惑いが浮かぶ。

 

(だが……悪くない、な)

 

 自分自身への照れ隠しのようなことを考えながら、ピットの中へ入りアリーナを後にした。

 

 これが、クラス代表決定戦最後の試合の終幕だった。




次回はクラス代表決定と例のパーティー、行ければ一部の人の事情についても行く予定です

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。