IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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ごめんなさい戦闘回は次回まで待ってください本当に申し訳ありません。


第二章(4):依頼

Side 一夏

 

(面倒な事になったな)

 

 三限目の決闘騒ぎ以降は特に問題も無く授業が進み、そのまま放課後になっていた。

 一年生にとっては登校初日という事で部活動の見学や寮の部屋での荷解きなどやる事は多いためか、多くの生徒達は教室から足早に去っていく。その中に紛れて自分も早々に立ち去ろうとした時だった。

 

「影内、お前は少し残れ」

 

 立ち去ろうとした所に織斑教諭に呼び止められた。

 三限での事もあったためあまり付き合いたくは無かったが、無視して立ち去っても後で呼び出されそうだったので結局残ることにする。

 そして教室に残っている人が俺と織斑教諭だけになってから話し出した。

 

「影内、お前がクラス代表の決定戦に使うISだが、予備機が無い。そこで学園、引いては政府からお前に専用機が支給されることになった。

 詳しい日時はまだ決まってないが、学園に届き次第受けと……」

「不要です」

 

 学園だけだったらまだしも政府という時点で薄々支給の真意も察せた。

 世界に467機しかISのコアは存在しない。そして、唯一ISのコアを製造できる篠ノ之束はすでに製造をしていないと言われている。現存するISのコアもアラスカ条約の取り決めの下、厳しく管理されていると言われてはいる。

 用は数が少なく実用上の問題としても貴重なものがISコアであり、そんな貴重な物を預けられるのは本来代表候補生などの実力者か研究機関に所属する人間くらいな物なのだ。

 それを何処の馬の骨とも分からない人間に預けるというのだから、どうせ、表向き世界に唯一の男性IS操縦者のデータ採集が目的だろう。

 

 だが、そんな事は俺には関係無い。そもそもとして扱っているのが装甲機竜(ドラグライド)なので、本当はISは扱えそうに無いというのもあるが。

 

「専用機の事は既に決定事項だ。拒否権は無い。

 それに、機体も無しにどうやってクラス代表の決定戦を戦う気だ?」

 

 元々クラス代表の決定戦は貴女が無理矢理決めたことだろうに、という言葉は飲み込んでおく。仮にも教師に対する言葉でない事位はさすがに理解していた。

 

「入学時の書類にも書いたと思うのですが、既に専用機は持っています。

 それに、今から新しい機体に乗り換えたところで機種転換にかけられる時間も短いですから、いい結果も残せないでしょう」

 

 だから、個人の文句では無く事実だけを述べることにした。

 機種転換のことに関しても実際に一度経験したからこそだった。かつて通常の《ワイバーン》から手に入れたばかりの《アスディーグ》に機竜を変えようとした時、性能差や武装の特性の違いに戸惑い、慣れるのに少し時間が必要だった思い出がある。

 

(今となっては懐かしいか)

 

 第三遺跡(ルイン)方舟(アーク)で出会い、今ではどの機竜よりも馴染むほどになった神装機竜《アスディーグ》。

 まだ自分が使う事になったばかりのころを思い出していたが、すぐに思考を切り替え今話すべきことを話しておく。

 

「……とにかく、専用機は受け取れ。

 これは命令だ」

「この学園では、一教師に専用機の乗り換えを命令する権限があるものなのですか?」

 

 これ以上は無駄そうなので、どこかでボロが出る前に早々に退散することにした。

 

「おい、影内……」

「もし本当に乗り換えさせたいんでしたら、是非自分の会社の上司に掛け合ってください。

 受理されるのであれば、そちらの方がよほど確実でしょう」

 

 もっとも、実際にはその会社も入学前に更識楯無に手を回して貰いでっち上げた架空企業なので、実態などありはしないのだが。

 だが、これからこの一件に関して協力してもらう事を考えると今から気が重かった。

 

「一応言っておくが、支給される機体の性能は折り紙付きだ。

 最初から単一使用能力(ワンオフ・アビリティ)の零落白夜も使える……」

「最初に不要と言ったはずですが」

 

 いい加減にしてほしいと思いながら、席を立ち早々に更識楯無の元にこの件の処理を頼み込むため向かおうとした。

 だが、そこにさらに第三者が現れた。

 

「あ、影内君!

 ここに居ましたか」

 

 現れたのは山田教諭。その手に大事そうに何かを持っていた。

 

「山田教諭。

 俺に何か御用ですか?」

「ええっとですね……まずはこれをどうぞ」

 

 差し出されたのは鍵だった。繋がれたタグに四桁の番号が彫ってある事と今この場で渡された事から察するに、IS学園の寮の鍵だろう。

 

「影内君の寮の部屋の鍵です。

 今日からはそこで生活してください」

 

 それはいいのだが、事前に聞いていた話と違う。確か、男性操縦者という事で部屋を決めかねているという話だったはずだが。

 

「確か、一週間は自宅からの通学だったと思うのですが」

「そうなんですけど、今回一人部屋だった人が同室を了承してくれたので一時的な措置としてその部屋に入って貰う事になったんです」

 

 「そっちの方が色々と安全ですしね」と山田教諭がのんびりとした口調で締めた。事情が事情なため突然であるのも仕方がないと思い、素直に鍵を受け取ってその場を後にする。

 織斑教諭が何か言おうとしたみたいだが、気付かないフリをして早々に立ち去った。

 

 

―――――――――

 

 

「いっち~。ちょっといいかな~?」

 

 鍵に付いているタグに彫られている番号と掲示板を頼りに廊下を歩いていたところ、妙に間延びした声に呼び止められた。

 

「……その『いっち~』ってのは俺の事か?」

「そうだよ~。一夏だからいっち~」

 

 呼ばれ方には特にこれと言って拘ってはいないので自分の事だとわかればいい。それにしても独特だとは思ったが。

 

「それで、俺に何か用か? えっと……」

布仏(のほとけ)本音(ほんね)だよ~。

 楯無お嬢様たちが呼んでいるから、生徒会室にご案内しま~す」

 

 苗字と要件からして、やはりそっち側か。

 

(まあ、ちょうどいいか。

 俺も用があったし)

 

 向こうの用件も聞かなければならないし、ついでに俺の用件も聞いてもらおうと思ってそのまま彼女について行った。

 

 

―――――――――

 

 

Side 楯無

 

「いっち~連れてきました~」

 

 生徒会室の扉が妙にゆっくり開くと、その先から本音ちゃんと本音ちゃんに連れられた影内君が入ってきた。

 

「生徒会室にようこそ」

 

 私の言葉を聞くと同時に虚ちゃんが開いていた椅子に座るように勧め、間もなく全員が席に着いた。

 今生徒会室にいるのは私に虚ちゃん、簪ちゃんと本音ちゃんに箒ちゃん。そして、影内君と()()()()。その人たちがテーブルを囲むようにして座っている。

 

「さて、まずは今日影内君に来てもらった目的だけど……」

「ちゃんとした挨拶は初めてになるね、影内一夏君。

 私は轡木(くつわぎ)十蔵(じゅうぞう)。一応、この学園の理事長をやらせてもらっている」

 

 「表向きは妻にやってもらっているがね」と冗談めかした口調で簡単な自己紹介を終えた初老の男性。普段はこの学園の用務員という立場に甘んじているけど、その実この学園の実務をほぼ全て取り仕切っている人。

 簡単に言えば、この学園内でこの人に逆らえる人はいない。もっとも、手腕と良心が備わっている人でもあるので逆らおうとする人自体がほとんどいないのだけど。

 

「ご丁寧にありがとうございます。

 しかし、何故一生徒に過ぎない自分に対してわざわざ……」

「ああ、そういうのはいいよ。

 私も更識君たちの側の人なのだしね」

 

 その一言で影内君は察したらしい。「そうですか」と一言返事を返し、影内君はそれ以上言わなかった。

 そう、今日影内君に来てもらった最大の理由は彼と轡木さんを引き合わせる事。本来なら入学前にやっておくべき事だったんだけど、日程の都合で今日までずれ込んだ。

 元々轡木さんとは協力の約束を取り付けているけど、諸々の刷り合わせのために実際に会ってもらった。

 

「さて、まず学園内での君の扱いについてだが。

 普段は一般の学生と同じように、()()()()()()()()()()()()()()()が起こった時に裏口で対応してもらいたいのだがね……」

「非常事態、というのは……バケモノ、の事でいいのでしょうか?」

 

 ただの確認なのか、影内君は特にこれといって表情を変えないまま。轡木さんも想定の範囲内なんでしょう、微笑さえ浮かべながら頷いている。

 

「有体に言えばそうだね。

 私も、更識君たちから映像を見せてもらった以上はさすがに無視できないのでね」

「ついでに、見せたのはコレね」

 

 そう言って立体ディスプレイに映像を再生する。映し出されたのは、あの猿のような九体のバケモノを影内君が駆る《アスディーグ》が駆逐するところ。

 

「いくら量産型とはいえ、、教師部隊の使う主力ISの一角である打鉄がこうも一方的にやられるような相手ではさすがに対抗策が欲しくなるものでね。さらに言ってしまうと、もう一角のラファール・リヴァイヴも一部の武装の攻撃力で勝っているとはいえ、そう大差があるわけじゃない。

 その意味でいえば、君と言う存在の重要性は言うまでもないだろう。

 学園内での事に関しては私も一枚噛もう。君が動きやすくなるようにね」

 

 その言葉に、影内君は満足を覚えているようにも見えた。

 

「元よりそれが条件ですし、異存はありません」

 

 影内君のその一言に、轡木さんが頷きを返した。

 これで轡木さんの話はお終い。次は、私の話す番になる。

 

「轡木さん、もうそろそろよろしいでしょうか?」

「ああ。

 更識君、頼むよ」

 

 了承を貰い、影内君の方に向き直る。

 

「さて、影内君。

 まず影内君の専用機の事なんだけど、《ユナイテッド・ワイバーン》の方でいいのよね」

「ええ。その方が隠しやすいでしょうし」

「私達としてもそっちの方が助かるわ。

 で、ここからが本題なんだけど……《アスディーグ》を使う時は私達にも知らせてちょうだい。そっちの方が、何かと動きやすいわ」

「分かりました。その時はよろしくお願いします」

 

 想定の範囲内なのか、影内君は常と変わらない表情のまま応じてくれた。でも、直後に何かに気付いたらしく表情を険しくしていた。

 

「しかし、知らせるとは言ってもここに居る誰かと常に一緒にいるとは限りませんし、その時はどのようにすれば?」

 

 そう、彼の機体は二機とも通信系の機能に異常があり、プライベートチャンネルが通じない。

 けれど、その事にはもう対抗策を用意してある。

 

「箒ちゃん、如月さんに頼んでいた物は?」

「この前整備してもらいに行ったときに受け取りました。

 これになります」

 

 箒ちゃんが持っていたスーツケースから取り出したのは、腕時計型通信機と言うどこかの特撮で見たような代物に顔全体を覆えるマスクのようなもの。

 

「ひとまず、腕時計っぽいのは通信用ね。で、マスクのほうは」

「使った時に正体が割れにくくするためのもの、ですか?」

 

 相変わらず話が早くて助かる。

 

「その通りよ。

 ついでに、余裕があるようだったら体型の誤魔化せるものも着てもらうつもりだけど。いいかしら?」

「はい」

 

 ひとまず実際に動いてもらう事になった時の事については、心配なさそうだった。

 

「それと、寮の部屋の事なんだけど……もう聞いたかしら?」

「一人部屋だった人が同室を了承したから、一時的にその部屋に行く事になったと聞いていますが」

 

 要点だけは聞いているらしい事は分かった。

 でも、肝心な部分が伝わっていない。

 

「その同居人なんだけど……」

「わ、私です……」

 

 私の一言に、簪ちゃんが手を挙げた。

 

(……本当は、あんまり巻き込みたくないんだけどねぇ)

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

「確か……更識簪さんだったな」

「うん……よろしく」

「ああ、よろしく頼む」

 

 彼女が同室と言われた時点で目的は察せた。同室ならお互いに何かしら伝える時に怪しまれずに済む。

 

「もう少し話しておきたい事はあるけど、必要最低限の部分は話せたし一旦ここまでにしましょうかね」

 

 更識楯無がそう締めくくろうとしたが、俺のほうですでに頼みたいことができていたので解散前に声をかけさせてもらう事にした。

 

「その前に、少しいいか?

 申し訳ないんだが、もうすでに頼みたいことがあるのだが……」

「初日で? いったい何かしら?」

「ついさっき、教室で織斑教諭から『政府から支給された専用機』を使うように言われた。

 だが、俺としては諸々の事情により《ユナイテッド・ワイバーン》を使いたいのだが……」

 

 俺の言葉に、更識楯無と轡木学園長が揃って頭を抱えていた。

 さすがに無理か、と思ったがどうもそうではないようで。

 

「……いくらなんでも無茶苦茶すぎるわね」

「目的は明白だが……ちゃんと責任者に確認はとったのかね」

 

 二人揃って何かつぶやいた後、何言か話し合った後こちらへと向き直った。

 

「影内君、ひとまずその話は無視してくれて構わない。

 無理に言ってくるようだったら、私の方から注意しよう」

「『会社』の方に直接言ってきても、断る旨の返事をしておくわ。

 心配しないで」

 

 ひとまず対処はしてもらえるみたいなので、一安心した。

 だが、どうもそれだけには終わってくれないみたいで。

 

「そ~言えば、いっち~。

 クラス代表の事の方はいいの~?」

 

 布仏本音が今日のクラス代表の事を話し出した。

 

「何かあったの?」

 

 更識楯無が聞いてきたので、説明しようとしたところ――

 

「今日の三限でクラス代表を決めるために話し合いが持たれたのですが、その時に影内と私が他薦、自薦が一人いたんです。

 ですが、織斑先生により強制的に試合で決着を付ける事になったんです」

 

――剣崎が素早く簡単に纏めていた。

 

「そう……二人とも、一応聞いておくけどクラス代表をやる気は?」

「俺はありません」

「成り行きですが、私は結果次第という事で」

 

 俺と剣崎の答えを聞き、更識楯無は何かしらを考え込むような仕草を少し見せた後に返事した。

 

「箒ちゃんは好きにやっていいけど、影内君は結果によっては対策仕込むから明日も来てちょうだい。

 ……どうせ必要になるでしょうしね」

 

 どこか面倒そうな表情をしていたが、俺も内面では面倒に思っているので何も言わない。

 

「それじゃあ、改めて今日はここまでにしましょうか。

 轡木さん、今日はご足労有り難うございました」

「何、私も一度直に彼と会ってみたかったしね。気にしないでくれ」

 

 更識楯無が改めて解散を宣言し、その日は終わった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

「私と本音は2015号室だから、ここでいったん分かれることになるな。

 影内、簪。また明日な」

「またね~」

 

 私、影内君、箒、本音の四人で一年生寮の方に向かって階段のところで分かれた。ここからは、私と影内君だけになります。

 少しどころではなく緊張したけど、影内君は過去に似たような状況でも経験していたのか慣れているような感じでした。

 

 そう時間をかけないで私達の部屋になる1025号室に着きました。

 

「それじゃあ、改めて今日からよろしくね。影内君」

「ああ、よろしく頼む」

 

 その後、私たちは同じ部屋で過ごすにあたっての必要なルールを決めていきました。

 やはりこう言った状況に慣れているのでしょうか、影内君の特に気負う事もなく的確に決めていく姿は今まで一体何を経験してきたのかと思わずにはいられませんでした。

 

 この人と一緒に居れば私の知りたいことが分かるかもしれない。そんな根拠のない期待を抱いた初日でした。


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