IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第二章(2):入学実技試験

Side 一夏

 

「今日の試験は私、山田真耶が担当します。

 よろしくお願いしますね、影内君」

「はい、本日はよろしくお願いいたします」

 

 後日、IS学園の入学試験に俺は本当に来てしまった。

 と言っても筆記試験はすでに終え、実技試験に入ろうとしている。その筆記試験のために昨日まで連日徹夜同然の状態で試験勉強をする羽目になったため、少々瞼が重いのは難点だが。

 

(まさか、今頃になってこちら側の試験勉強をする羽目になるとはな……)

 

 事前に更識楯無から受け取っていたIS学園用の教科書や参考書類、ついでにその他の必用書籍も揃えてもらったため特に大きな問題は無いとは思うが。

 

「それでは、今回の実技試験について説明させてもらいますね」

「はい」

 

 試験を担当してもらう事になった山田教諭の声に意識を向け、その説明を聞き逃さないように注意する。

 

「まず、今回の実技試験のル-ルですが。

 本来の実技試験ではどちらかのISのS(シールド)E(エネルギー)が尽きるか、十分間の実技試験時間が終了した時のSEの残量を比較して勝敗判定を行うのですけど……影内君のIS、ユナイテッド・ワイバーンでしたよね? そのISは、事前に渡してもらった資料によると、原因不明の不具合でSEの残量が表示されないんですよね?」

「はい」

 

 そもそも機竜にSEや絶対防御なんて便利な物はついていない(自動展開の障壁はあるが)のだが、そこに触れると話が拗れるのであえてそのまま進める。

 

「ですので、今回に限り影内君の勝利条件を変更しようと思います。

 影内君、いいですか?」

「内容を聞かせていただけませんか?」

 

 試験時間終了時のSE残量の比較が出来ない以上、確かに勝敗条件の一部変更が必要なことは理解できるのでそれ自体には特に何も言うつもりは無い。

 だが、極端に俺だけが有利になるような条件だったら変えてもらうつもりだった。

 

「はい、そうですね。

 変えるのは試験時間終了時の判定に関する部分で、試験時間終了時点で双方とも健在だった場合は影内君の勝利とする事にしたいのですが」

「申し訳ありませんが、少々変えていただけないでしょうか?」

 

 一応試験でここに来ている以上、俺だけが他の受験者より有利に立っているというのはあまり好ましいものではない。こう言った試験はそもそも一律の基準で計るからこそ本来意味のあるものなのだ。その意味で言えば、使い慣れていないISを使って他の多くの受験者が試験している中で、共通の操縦に関しては十分に慣れている機竜を使っているのだからむしろ不利にするくらいでちょうどだろう。

 事前にアイリさんやルクスさん、更識楯無にも了承は貰っている。遠慮することは無い。

 それに、ユナイテッド・ワイバーンではまだ本格的な戦闘はした事が無いため、この機竜でどこまで戦えるのかを調べておきたい意図もあった。とは言っても、万が一の事を考えて性能水準はISと同程度まで下げているのだが。

 

「えっと……どのように変えてほしいんですか?」

「双方が健在のまま時間切れを迎えた場合、自分の負けと。それだけです」

「……負け、ですか?」

「はい。

 一応専用機も使っている身ですし、俺だけ有利な条件で試験するのも少々不公平な気もしますしね」

「そう、ですか……分かりました。

 それでは、そのように変更しますね」

「お願いします」

 

 俺の言い分に一応の納得は得たのか、山田教諭は審判役の人に連絡を取るといって通信を始めた。

 

(いよいよ実技試験という名の模擬戦の始まり、か……)

 

 気持ちを切り替え、ただ始まりの合図が告げられるのを待っていた。

 

 

―――――――――

 

 

Side 山田

 

(意外といえば意外、でしたね)

 

 男性初のIS操縦者、影内一夏君。彼のIS学園入学の実技試験官をやるにあたり、事前に貰った資料に書いてあった限りのことは知っていましたが、実際にあった彼は思っていた以上に公平な人物のようでした。

 こういった試験で自分が有利な状況を用意してもらっているならそれに預かるのが普通とも言えますが、彼は自分の機体や試験の公平性を考慮し、あえて不利な条件を選びました。

 それも、かなり不利な条件です。もし彼が勝とうとするなら、時間内に私のSEを0にする以外の手段が無い。乱暴な言い方をしてしまえば凌ぎ切ればよかっただけの最初の条件とは雲泥の差があると言っていいくらいです。

 

(でも、手は抜きませんよ)

 

 個人的には彼に好感を持ちましたが、それとこれとは別。試験には一切手を抜きません。それが先生としてやる事です。

 

 審判役を担当してもらう事になっているエドワース・フランシィ先生にも連絡を入れ、ルールの変更を伝えました。驚いていましたが、彼が言った理由を聞いて納得したみたいです。

 

『それでは二人とも。機体を展開し、準備してください』

 

 エドワ-ス先生が準備を告げ、それに従い私達もそれぞれの機体を展開します。私は試験用に調整されたラファール・リヴァイヴを。

 対して、影内君は二本の剣を綺麗な動作で抜剣して――

 

「――降臨せよ。天を穿つ幻想の楔、繋がれし混沌の竜。〈ユナイテッド・ワイバーン〉」

 

――事前の資料にも載っていた、起動用の言葉を言いました。中世の騎士のようなその姿を、ちょっとカッコいいと思ったのは内緒です。

 

接続開始(コネクト・オン)

 

 改めて影内君のIS、ユナイテッド・ワイバーンを見れば、その大きさが数値ではなく実感として感じれます。私の知る多くのISよりも大柄で、ともすれば圧倒されそうになります。また、普通の足以外に単純な構造の二本の足がついた四本足だったり、腕部がロボットアームになっていたりと、特徴的な部分が多いなとも感じました。

 

『2人とも、準備は大丈夫ですか?』

「私はいいですよ~」

「いつでもどうぞ」

 

 私と影内君からの返事を聞いたエドワース先生が高らかに宣言します。

 

『それでは、IS学園入学実技試験。山田真耶、対、影内一夏。

 戦闘開始(バトルスタート)!』

 

 私と影内君の試験(試合)の開始です。

 

(さて、初手はどう出てくるんでしょうか?)

 

 初の男性IS操縦者がどう出てくるのか、ほんの少しの楽しみも交えながら私は普段からよく使うサブマシンガンを構えました。

 この時の私は油断しているつもりはなく、十分に影内君の動きを注意していたつもりでした。

 ですが受験者相手ということもあって、十分であっても万全ではなかったのかもしれません。

 

 結論から言えば、影内君の初撃を私は避ける事が出来ませんでした。

 何故かというと、単純に動作が見えなかったからです。分かったことは、()()()()()()()()()()()()()()という事だけ。

 ほぼ反射的に呼び出して構えた盾で防げたのは、幸運でした。

 

  キィン!

 

 金属同士が衝突する甲高い音が鳴り響き、サブマシンガンで反撃しようとした時でした。盾の向こう側から、すでに影内君が接近してきているのが見えたのは。

 

(速い!)

 

 その速さにも驚きましたが、それだけには終わりません。彼は私が斜めに構えていた盾を足場にして空中で前転すると、いつの間にか両手に握っていた大剣でその勢いのまま切りかかってきました。

 咄嗟に前に踏み込めたので、大剣はかすっただけに終わりました。振り向きざまにサブマシンガンを打ち込みますが、彼は素晴らしい反応で横にステップして避けるとそのまま私のほうに再度接近してきます。

 

(でも、近づいてくるだけなら……!)

 

 サブマシンガンで牽制しつつ、盾を持っていたほうの手にハンドグレネードを呼び出します。そして、近づいてくる瞬間を見計らいピンを抜いてその場に設置。私自身はその直後に後退します。

 

 並みの相手なら引っかかってハンドグレネードの爆発に巻き込まれますので、その後に私自身で射撃して追撃という戦術が成り立ちます。また、回避したとしても私との距離は開くことが多いので私の得意な射撃戦に持ち込むことができることが多く、総じて私の有利に運ぶことが出来るといっていいでしょう。

 さすがにモンド・グロッソなどの大会に出場する一部の猛者には通じないこともありますが、少なくても入学試験のレベルで通じないということは無いと思っていました。

 

 ですが、影内君は『一部の猛者』側の人みたいでした。それも、普通は前進を止めてハンドグレネードに近づかない事で対処するのですが、彼はさらに加速して接近するとあろう事か――

 

  カンッ

 

――グレネードを回し蹴りの要領で蹴り飛ばしたんです。

 

(そんな方法で……!?)

 

 回避した人は今までにも見たことはありましたが、まさかハンドグレネードを蹴り飛ばすような人が出てくるとは思った事もありませんでした。

 蹴り飛ばされたハンドグレネードは少し離れた所で空しく爆発し、影内君の前進を止めるのに全く役立ってない。今までほとんど無かった状況に、一瞬だけ反応が遅れました。

 私が作ってしまったその隙に、影内君は再度接近し大剣での攻撃を仕掛けてきています。

 

  ガギャリィ!

 

 すぐに我に返り、盾で大剣を受け流しサブマシンガン二挺で反撃しようとしましたが、剣を受け流された直後に彼が放ったカポエラのような蹴りが私のサブマシンガンを捉えたため射線が全く合いません。

 さらに、その回転の勢いを殺さずに再度大剣で切りかかってきています。ですが、今度こそはサブマシンガンが間に合うと思って構えた直後――

 

  ガッ

 

――肘が飛んできました。

 

(フェイント!?)

 

 大剣を構えた動作はフェイントで、肘打ちを狙っていたことに気づいた時にはもう手遅れでした。

 肘打ちが正確にサブマシンガンの片方を捉え、私の手の中からそれを弾き飛ばしていました。さらに、肘打ちに使ったほうとは別な手が持っていた大剣はそのまま振りぬかれ、対応できなかった私のSEを削り取っていきました。

 

(強い……!)

 

 もはや最初の受験者相手という気持ちなど一切無く、それこそ現役時代の試合に臨むような気持ちで私はこの状況を好転させるための一手を打ちました。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

(さすがに一筋縄じゃいかないか……)

 

 普段から使い慣れているアスディーグではなくまだ受け取ったばかりのユナイテッド・ワイバーンという事を差し引いても、山田教諭は強かった。

 実のところ、最初の神速制御(クイックドロウ)を用いての機竜爪刃(ダガー)投擲は牽制目的だったのでダメージを与えられるとは思っていなかったからいい。だが、その後にやられたハンドグレネードは焦らされた。あのまま後退して距離をとれば山田教諭の思う壺であることはすぐに分かったためあえて蹴り飛ばしたが、もし少しでも加速を始めるのが遅ければ爆発に巻き込まれていたことだろう。

 

 そして、今しがた山田教諭が行ったのもまた、意外と言えば意外だった。

 

「ハァッ!」

 

(……シールドバッシュ!?)

 

 試合前の雰囲気からではあまり考えられない叫び声をあげながら盾を構えての特攻。今までの行動から考えて射撃が得意なんだろうとばかり考えていたため、山田教諭のほうから格闘を仕掛けてくるのは予想外といえば予想外だった。

 機竜牙剣(ブレード)二振りを振りぬいて迎え撃ったが、それこそが山田教諭の目論見だったらしく当てた直後に後ろへ向けて加速し距離をとった。

 

(なるほど……嵌められたという訳か)

 

 まんまと山田教諭の目論見通りに動いてしまったことに少しの悔しさを感じつつも、山田教諭の次の一手に対応するため武装を切り替えた。

 

 

―――――――――

 

 

Side 山田

 

(何とか距離は取れましたね……これで射撃戦が出来ます)

 

 決して得意ではない格闘を仕掛けた事が今回に限り功をそうしたのか、やっと影内君との距離を離すことに成功しました。

 ですが、油断は禁物です。さっきまでの彼の動きを見れば、気を抜いた瞬間に接近戦に持ち込むくらいの事はやってのけるでしょう。

 

(でも、射撃戦なら……)

 

 彼の近接技能が十分高いことは既に分かりましたが、射撃戦なら私も得意ですしそうそう簡単には負ける気はありません。

 サブマシンガンを一旦収納し、両手にアサルトライフルを展開。取り回しと連射性能こそサブマシンガンより劣りますが、射撃精度や単発の威力においてはこちらのほうが上です。

 そして射撃し始めた私ですが、影内君もただやられるだけではなくその両手にそれぞれ形状の違う銃を握り反撃してきました。

 

 そのまま私達は適度に移動しながらの銃撃戦へと突入していきました。

 

 

―――――――――

 

 

 射撃戦に縺れ込んだ私達でしたが、どうやら影内君は射撃はそこまで得意ではないみたいでした。握っている銃は種別すればマシンピストルとライフルに性能が近いものでしたが、いずれとも数を撃って自身の射撃精度を誤魔化している印象です。

 

(それなら、今ここで……!)

 

 どちらとも地表に降りた瞬間を狙い一気に影内君のSEを削るべく、私は射撃が途切れないように片方ずつ武器を切り替えました。

 右手には大口径ライフル。左手にはガトリングガン。

 いずれも火力に優れ、片方は高精度の単発射撃が、もう片方は弾幕による面制圧とそれぞれに強みのある二挺です。

 

 それで一気に勝負を付けようと私が目論んだ時、影内君も動きました。

 

 一気に右へと動くと、それまで使っていた銃をしまって別なものを出しています。見るからに大口径の射撃装備で、当たれば手痛い一撃になるだろう事は想像に難くありません。

 ですが、大口径の重火器に切り替えた直後の私では避けるのに少々厳しいものがあります。

 

(ちょっと危ない気もしますけど……)

 

 影内君がその重火器のトリガーを引いた瞬間、それまで右手に接続していた盾で受けます。ですが、ただ受けるだけでは姿勢を崩されかねないので角度を付け、さらに着弾した瞬間に盾をパージして衝撃を逃がします。

 

 再度大口径ライフルとガトリングの照準を付け、影内君も加速して私へと近づこうとしているその時――

 

『試合時間終了!

 特別ルールにより、勝者、山田真耶!』

 

――エドワース先生の、試合終了の宣言が会場に響きました。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

「終わり、か……」

 

 どうやら思っていたよりも長い時間射撃戦を続けていたらしい。

 

(正直、決着が付くまで続けたかったが……削りきれなかった、俺の未熟か)

 

 元々この特別ルールやユナイテッド・ワイバーンの使用を決めたのは俺だったのでそこについては特に不満に思うことは無い。結果的には負けたが、試合自体は思っていた以上にやりがいのあるものだった。

 その意味で言えば、最後まで続けたかったという思いも多少は出てくるというものだった。ただ、時間内に倒しきれなかったという意味では俺自身の未熟なので、過ぎた思いなのだろうが。

 

「凄かったですね、影内君!

 あれだったら絶対に合格間違い無しですよ!」

 

 お互いに纏っていた機体を解除した後、山田教諭が少し興奮気味に話しかけてきた。

 

「そうでしょうか?

 大見得切った挙句に負けた馬鹿者が一人いただけだと思いますが」

「そんなこと無いですよ! この年であんなに戦える人なんて、数えるくらいしかいないんですから。

 入学したらよろしくお願いしますね」

 

 少々気が早いのではないかと思う発言と過分な評価があった気がするが、その言葉自体は素直に受け取ることにした。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 無難に返しつつ、時間も押していたので帰り支度を始めた。

 

 

―――――――――

 

 

Side 山田

 

「それでは、本日はありがとうございました」

「はい。

 気をつけて帰ってくださいね~」

 

 試験が終わった後、帰っていった影内君をエドワース先生と一緒に見送りました。

 

「それにしても、彼……影内一夏君、でしたか?

 強かったですね」

「はい、本当に。

 あの調子だったら、卒業するころにはモンド・グロッソの部門優勝者(ヴァルキリー)とかにもなれそうですね」

「男性に乙女(ヴァルキリー)って名前もどうかとは思いますがね」

「……それもそうですね」

 

 他愛も無い会話をしながらも、さっきの試合のことが頭から抜けませんでした。

 

 今まで高機動格闘戦で強い搭乗者と言って思いつくのは、やはり千冬さんです。ですが、千冬さんと彼では大まかな基盤的部分で似ているところはあっても、一刀流と二刀流、ほぼ剣術のみと体術交じりの複合武術、一撃と連撃と、細かい部分では対照的といっても良いほどの違いがあります。

 

 彼がどのような搭乗者として大成するのか、早くも楽しみな自分がいました。


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