IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第一章(7):交渉(中編)

Side 楯無

 

「……じゃあ、あの白い機体の搭乗者は改めて正式な話し合いをするための場所が欲しいって言ってきたの?」

「は!

 また、そのための都合のいい日時も聞きたいと」

 

 白い機体と交渉した翌日。

 私達が返事を待っていたところ、再度の話し合いを申し込んできた。

 

「分かったわ。

 あなたは一旦休んでていいわよ」

「は」

 

 一旦人を払い、少し思案する。

 確かに、先日の話し合いは場当たり的に行われた物という事もあり十分な内容とは言えない。その意味では、何もおかしくは無いんだけど……。

 

(本腰を入れてきた、と見ていいのかしらね)

 

 話し合いもこの後に行うものが本番ということ。その際、向こうがどんな人を連れてきて何を要求してくるのか。それについてはまだ不透明な部分も多いけど、警戒するに越したことは無い。

 とは言え、過剰に此方の人を連れて行ってもある意味で交渉にならない。無意味に向こうの警戒を強める事態に発展し、話し合い自体が潰れてしまっては意味が無い。

 

 この話し合いは、私を含めても極少数で行くべき。それは間違いない。

 問題は誰が行くか。私は確定として、他に誰が適任なのか。

 

 まず、虚ちゃんには同席してもらいたい。虚ちゃんがいると何かと助かるし、何より安心感が違う。

 

 さらに呼ぶのであれば、個人で高い戦力を持ちなおかつ信頼のおける人が望ましい。

 

 その条件で考えて思い当たる人は何人かいる。

 まずは、私の妹の簪ちゃんとその友人の箒ちゃん。この前の時も一緒にいたし、どういうわけかは知らないけど二人とも今回の件に関してはかなりやる気を出している。

 もっとも、簪ちゃんにとってはあの白い機体が現実に現れたヒーローの様に見えたからこの前も参加したかったんだと思う。反対に、箒ちゃんは理由は話してくれなかったけど。

 正直、二人には頼みにくいし私個人としても二人を巻き込みたくない。だけど、二人とも何時に無くやる気になっていた。

 

「……話し合い自体は私がするとして、二人にも同席を頼もうかしらね」

 

 他に当たれるような人は……IS学園経由で知り合った人達。だけど、この人達の場合は不安が残る。

 まず、守秘義務の問題。簪ちゃんと箒ちゃんはそれぞれの事情である程度慣れているからあまり心配していないけれど、IS学園経由での知り合いの人達は元々完全な一般人だった人達なんかもいる分、少しばかり不安は残る。更識家の方で対策を練るにしても、それはそれで限界があるし。

 二つ目に、そもそもこう言った交渉事ができる人がどれだけいるか。単純に場慣れしていなかったり、我が強すぎて交渉そのものに向いていなかったりと、不安要素が大きい人が多い。

 

 更にいるとすれば……家の人か、政府関係者。

 家の人は特にこれといった心配は無い。強いてあげるとすればあの機体を展開されたときとかだけど、さすがにそれは無いと信じよう。向こうにとっても、それはリスクが大きい行為のはず。

 政府関係者は……人による部分もあるけど、今回は外れてもらおう。なにより、変に欲を出されて交渉自体が潰れるのは避けたい。

 

 時間と場所は後でいくらでも調整がきく。とりあえず、虚ちゃんに空いている日程を聞くとしましょう。

 

「……後は、そうね」

 

 残る問題は、交渉の内容について。

 大まかにはこの前言った通りだけど、細かい部分を決めておいた方が説明を求められたときに円滑に進められる。そのためにも、予め協力各所や家の中で確認できる範囲で最大限根回ししておいたほうがいい。

 

(やることは決まったわね)

 

 後は、実行に移すだけ。

 まずは、諸々の問題解決を手伝ってくれる人を呼びましょう。

 

「虚ちゃん、ちょっといいかしら?」

「はい、お嬢様。

 何でしょうか?」

「交渉のための日程と内容の調整に、関係各所と細かい部分を決めたいからアポ取るの手伝ってもらえる?」

「お任せください」

「それと、簪ちゃんと箒ちゃんにも同席してもらいたいから……」

「それは自分でやってください」

 

 ……全部言う前に断られてしまった。

 

「大体、そうやって切っ掛けを掴み損ねてそのままズルズルと引きずったから今のような関係になってしまったんでしょう?

 こういう言い方は推奨されませんが、いい加減に向き合ったらどうです?

 簪お嬢様も、箒さんの後押しもあって向き合おうと頑張っていらっしゃるというのに……」

「そ、それはそうなんだけど……」

 

 相変わらず頼りになるんだけど、こういうところでは容赦が無いのが虚ちゃんクオリティ。

 そんな下らない事を考えていたのがバレたのか、虚ちゃんの目付きが鋭くなった。怖いので止めてください。

 

「まったく、こういった交渉ごとに対してはすぐに覚悟を決めて行動も迅速だというのに。

 どうして、身内の問題になるとグダグダになるんですか……」

 

 虚ちゃんの一言に、私はどうしようも無く反論出来なかった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

『で、一夏。

 そっちの人たちは何て?』

「ひとまず了承の返事を頂きました。返事は後々伝えるとの事です」

『分かった。

 一夏、ご苦労様』

「いえ。この程度、どうと言う事もありません」

 

 更識楯無が指定した場所へと赴き此方側が話し合いを希望している事を伝え、その返事を待つ形となっていた。

 とりあえず、明日もう一度同じ場所へと言ってから具体的な返答を貰えるとのことだった。ただし、それ以上に待たされるかもしれないという事も合わせて伝えられてはいたが。

 

「では、今後は向こうからの返答を待つという事でいいのでしょうか?」

『うん、そうだね。

 でも、その間も出来る範囲でいいから色々と調べたりしてみて』

「了解です」

 

 今後の方針を確定させ、いったん報告が終わった。

 そう思ったら――

 

『ああ、それと一夏。

 こっちからそっちに行く人も決まったんけど、それでちょっと頼みたいことがあってね……』

「頼みたいこと、ですか?

 一体何を?」

 

――ルクスさんが意外な一言を発した。

 ただ、断るような内容ではないので勿論引き受けるが。

 

『その人の護衛を頼みたいんだ。一人は付けて貰える事になったけどそれでも何が起こるかわからないから。

 一夏も普段から慣れている人だし、引き受けてくれると助かるんだけど……』

「俺も普段から慣れている……まさか!?」

 

 さすがにそれは無いと思ったが、普段から俺が護衛を請け負っている人というと、あの人が思い浮かぶ。

 

『うん、多分そのまさかだと思う。

 一夏。改めて言うけど、頼まれてもらってもいいかな?

 

 ――アイリの、護衛を』

 

 

―――――――――

 

 

Side アイリ

 

 最初、この話が来た時は断ろうかと思いました。

 

 でもそうしてしまった場合、兄さんや補佐を務めるセリス先輩、今現在の主であるリーシャさんに迷惑がかかりかねません。最悪の場合、何かしら不利な出来事が降りかからないとも限らない。

 

 そうこうと考えた末、この話を受けることにしました。兄さんは最後まで渋い表情でしたけど。

 ですけど、私が選ばれた理由を考えるとそれも納得です。なにせ、最大の理由がアーカディア帝国の元皇族だからと言う理由。しかも、兄さんはすでに王女であるリーシャ様直属の騎士であり七竜騎聖という立場を持っている以上、迂闊なことはできないと見越しての事でもあるのでしょう。

 

 その中でのこの派遣は、つまり仮に『球体(スフィア)』での行き来が出来なくなったときに戦力を減らさないようにとの意味があるとも考えられます。

 

 しかも、現地に戦力になる人がすでにいるので護衛戦力はその人を頼れという無茶を危うく言われそうになったくらいです。

 

 さすがにそこまで無謀な事は通らず、一人は護衛の人がつけてもらえることになりました。

 

「アイリ君、準備はいいかな?」

「はい、シャリスさん。

 今回はよろしくお願いします」

 

 今回同行してもらえることになった護衛、王立士官学園(アカデミー)では先輩だったシャリスさんに挨拶して荷物を持ち、そのまま前回と同じ手段で『球体』の場所まで向かいます。

 

「普段から一夏君と共にいる君にとっては、私では不満かな?」

「いえ。

 今回は事が事ですし、来て頂けるだけでも心強いです」

「そう言って貰えればありがたい。

 本来ならこの手の交渉事はルクス君かセリスの役割だろうし、護衛なら夜架なのだろうけど……ルクス君には立場があるし、セリスと夜架は何か別な案件があるみたいで来れないみたいだしな。

 彼や彼女らに比べれば、上級階層(ハイクラス)の私では些か不足ではないかと思ってしまってね」

「いえ、そもそも戦えない私としては本当に心強いです」

 

 この言葉は本心だった。機竜が使えない私にとっては、信頼できてなおかつ腕の立つ人が護衛についてくれるというのは本当に心強い事だから。

 

「しかし……まさか、異世界に足を運ぶ日が来るとは。

 人生何が起こるかわからないものだね」

「それは私も同感ですね。

 ですが、二年前の時点で一夏が異世界から来ていましたから。冷静に考えれば、あの時から予期できたことなのかもしれません」

「確かに、そう言われるとその通りだね」

 

 道中、シャリスさんと『球体』について少し話していました。

 

「だが、そもそもアレは何なのかな?

 明らかに自然現象ではないだろうし……」

「私もその意見には賛成です。

 ですが、その答えが出るほどの情報が今はありません」

「それもそうだね。

 となれば、今は目の前の任務に集中すべきかな?」

「そうしてもらえると助かります」

 

 他愛も無い会話の中で出た、『球体』の正体について。

 原因がどちらにあるかも知れないソレを、今から私たちは通って行く。

 行先は、何も分からない異世界。

 

 不安が無いと言えば、嘘になります。

 

「……アイリ君、どうかしたかな?」

「いえ……なんでもありません」

 

 私が不安に思っている事に気付かれたのか、シャリスさんが声をかけてくれました。

 でも私は、心に巣食う不安を隠すように、今回の交渉について書かれたメモに目を落とそうとしました。

 

「ああ、もしかして私はお邪魔だったかな?

 アイリ君にとっては一夏君と二人きりでいられるまたとない機会だったのだろうし……」

「それは違います!」

 

 思いっきりからかってきたシャリスさんの言葉をすかさず否定した私でしたが、それでもなおからかってきたので顔が赤くなっているのを自覚しながらさらに否定し続けることになってしまいました。

 

 でも、このやり取りが私から不安を取り除いてくれたことに、終わってから気付く私もいました。

 

 

―――――――――

 

 

 その後、無事に『球体』付近の常駐部隊がいる場所までつきました。

 『球体』付近の常駐部隊に挨拶と確認を終え、シャリスさんのワイバーンで連れて行ってもらい、『球体』へと入ります。

 

 幾許もしない内に『球体』を抜けると、そこに広がったのは似て異なる景色でした。

 

「ここが……一夏の生まれた世界」

「そうみたいだね。

 さて、ここで待っていれば一夏君が来てくれる手筈になっているはずだが……」

 

 そのままその場で待っていると、間もなくして――

 

「お二人とも、お疲れ様です」

 

――一夏が迎えに来ました。

 

「久しぶりだね、一夏君」

「お久しぶりです、シャリスさん。

 お元気そうで何よりです」

「一夏、今回は色々とお願いしますね」

「お任せください」

 

 その後は、一夏の案内でこちら側の交渉を担当する人が待つという場所まで行きます。

 

 着いてからが、今回の私の役目です。

 

 

―――――――――

 

 

Side 楯無

 

「……来たわね」

 

 交渉日当日。

 私達の方で指定した場所に、あの白い機体の搭乗者と見慣れない二人が訪れた。

 

 一人は綺麗な銀髪の小柄な女の子。もう一人は、青っぽい髪の女性。

 

 彼女たちは、白い機体の搭乗者に先導されながらこちらまで来ていた。

 

「あなたが、更識楯無さんですか?」

「ええ、そうよ。

 あなたは?」

「私はアイリ・アーカディアと言います。

 今回、この交渉を担当させて頂く事になりました。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 

 綺麗な動作で彼女、アイリ・アーカディアは私達へと一礼した。

 

「そう……。

 よろしくお願いね」

 

 一見しただけでは小柄で可憐な女の子という印象で、とてもこのような交渉に出てくる人には見えない。

 だけど、間近で挨拶してその目を見た時。そんな考えは、無くなった。

 

(……年不相応、って言えばいいのかしらね)

 

 柔らかい表情の中にあったその目を見た瞬間、私は彼女を侮る事の一切を止めることにした。

 適切な表現はすぐには見つからなかったけど、その目は本職の交渉人のそれに比べてもなんら劣っているところは見られない。無論、中身が伴っているかは別問題だけど、ここでは一切気を抜かない。

 それに、考えてみればこの少数でここに来ている以上、交渉か護衛かにおいて何らかの高い能力を持っていると見た方がいい。

 

「さて、それじゃあ奥の部屋に行きましょう。

 防音も聞いている部屋だから、外から聞かれる心配もないわ」

「では、そのように」

 

 さて、いよいよこの人たちとの交渉の始まりね。




本当は前後編だけで交渉回は終わらせるつもりだったんです。その後ちょっと戦闘挟んでIS学園入学にしたかったんです。

なのに、増えてしまった・・・・・・・・・・・・。

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