IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート) 作:ひきがやもとまち
・・・割と本気でどうしたものか・・・。
朝、目を覚ましたとき視界に飛び込んできたのは、よく見知った土蔵の天井じゃなくて、綺麗な女の子が俺に膝枕してくれながら薄く微笑んでる儚い笑顔だった。
頭の中が真っ白になった。
その次の瞬間、俺は身体全体を拡声器にして絶叫すると、全身のバネを駆使して壁際の隅にまで一瞬にして飛び退いていた。今までで最高記録の、平凡な俺が一生かかっても出せそうにないインターハイ出場可能レベルの偉業だったが正直どうでもよかったので気にしなかったし自覚もしていなかった。
俺、衛宮史郎17歳、高校三年生は生まれて初めて女子と一夜を同衾して過ごすという許し難い禁忌を犯してしまったのであるーー。
「・・・いや、さすがにその反応は私でも傷つくんですけどね・・・」
セイバー(偽)のサーヴァント 異住セレニアが人差し指の指先で自分のほっぺたをポリポリとかきながら穏やかな声音で(少しだけ呆れながらではあったが)苦言を呈す。
万能の願望器である聖杯を求めて殺し合いを行う大魔術儀式『聖杯戦争』。
それに参加するつもりの魔術師たちが自らの代理として戦場に赴かせる主戦力として英霊の座から喚び出されるのがサーヴァントと言う話ではなかったか?
マスターのこの怯えようでは、間違ってもこれから殺し合いに赴かんとする魔道の血に連なりし者には見えないのだが・・・・・・
(・・・“殺し合いに赴かんとしている風には見えない?” ・・・いや、それはおかしい。聖杯がマスターに選ぶのは聖杯を求める者だけのはず。それがなのに魑魅魍魎の類よりかはマシとは言え彼らにとっては雑用にこき使うのが精々の幽霊ごときが現れたぐらいで狼狽え様など見せるものでしょうか? ・・・少し調べてみますかね・・・)
自らを召還したマスターが冷静さを欠いた状態にあるためクールダウンさせる必要性ありと勝手に断定した彼女は、聖杯に対していくつかのお伺いを立てる。
そのほとんどは回答拒否されるか曖昧な返答しかもらえなかったが、一つだけ明確すぎるほど明確な求めていた答えに一番近いであろう回答を入手することに成功できていた。
曰く、聖杯は儀式の開催日が近づいても参加人数がそろわなかった場合、頭数としてのマスターを選び出して礼呪を強制的に授けてしまい、能力や知識の有無を問わずにサーヴァントの召喚を可能にしてしまう悪質きわまりない押し売りの性質を有しているらしい。
前回もそれを原因としてゴタゴタが発生していたらしいのだが、それでもまだ改めていないところを見ると『聖杯に学習能力は期待できそうにありませんねぇ~。困ったときにダメ元で検索かけてみる程度の使い方しかないと割り切っておきますかね』そう結論づけてしまうことにした。
面倒くさいし、今この場でこれ以上は役立ちそうになかったからである。
上の情報を得てから改めてマスターの醜態を見ると、何も知らない一般人がヒロインの胸を揉むところから始まる、お約束系異能バトルのラノベ主人公と同質のものであることが分かるはずだ。
つまり彼は巻き込まれただけの一般人か、それに類する魔術をカジっているだけの素人である可能性が高く、また聖杯戦争に関する知識も皆無か、よしんば持っていたとしても限りなく微量である可能性を捨て去ることは出来ないと言うこと。
それに付随する形で、本来のサーヴァントとマスターの関係性(従者と主、前線に立つ兵士と指揮官)を構築するのが不可能に近いということ。
止めとして、聖杯戦争初心者である初参加者にして特別招待選手である自分は、他のサーヴァントだったら参考に出来てたはずの英霊マニュアルみたいな『サーヴァントとしての常識』が一切合切全く持って通用しない可能性まで出てきたという事で・・・。
(オウ・・・ノウ・・・・・・)
思わず心の中で軽く絶望させられる銀髪ロリ巨乳サーヴァント。
本来なら予備知識を持ってる魔術師が己の願いを叶えてもらうための手段として聖杯戦争を選び、道具としてサーヴァントを召喚する。そのはずだったが今の自分たちには適用できないとなると、いったいドコから話せばよくて、ドコまでだったら知っているのだろうか?
認識を共有していないまま一方的に知識を与えてしまったのでは、それが相手の中で“それ”にたいする全てになってしまいかねない。純粋無垢な子供に洗脳教育を施すがごとき外道は彼女の好みではない。断固としてお断りである。
じゃあ詳しく説明するため時間をかけてる余裕はあるのかというと・・・難しそうだった。
『先輩!? さっきの悲鳴はなんですか!? 何があったんですか!? 何処にいらっしゃるのですか!? お願いですから返事をしてください!
ーーもしかしなくても、また土蔵ですか? 土蔵なんですね? 土蔵にいるんですよね? 分かりましたすぐ行きます待っててください、ええ、先輩は私が絶対に守りますから安心してください。ーー絶対に、ね・・・?』
遠くから聞こえてくる女声。内容もさることながら、台詞の後半がヤンデレ臭い。間違いなく病んでいると断言できてしまうほどに。
もはや一刻の猶予もない。そう判断した後、セイバー(偽)の反応は迅速だった。
すぐさま頭の中で考えをまとめ上げると、今言わなければいけない言葉のみを取捨選択し、速攻で聞き取り安さを維持しながら言い捨てる。
「失礼、本来であれば色々説明して差し上げなければならないのでしょうが、それに必要な時間的余裕がなくなりそうです。
ですので要点だけを掻い摘んで解説しておきますと、私はあなたが何らかの手段で呼び寄せた幽霊が実体化した存在で、エーテル体と言う魔力の塊によって形成されている疑似生命体みたいなものです。あなたから供給されてる魔力によって肉体を現界せしめている仮初めの魂ですので、あなたの都合と私の都合でいつでも消えられます。この様に」
それだけ言ってからパッと姿を消して、パッとすぐさま戻ってくる。
まるで手品ショーみたいな自己証明のやり方であったが、驚き慌てる相手に『幽霊だから』で納得させられる理由付けとしては十分すぎるだろうと予測したのだ。
相手のことを何も知らない者同士の初対面では、第一印象だけが全てだ。ならば相手の持つ自分に対するイメージを既存の知識のみで肯定できる範囲までに情報提供は限定しておいた方がいい。
誤解されたとしても「何も知らなかったから」で矛を収めさせることが可能となるし、可能である内に真相を開かして「ごめんなさい。騙すつもりはなかったんですが、時間がなくて急いでたので・・・」と誠心誠意真心を込めて謝罪をすれば分かって(誤解して)貰える。なにも飛び立った船でエンディングまで行くことはない。冬になっても夏服を着ていれば風邪を引くだけなのだから。
「納得できないだろうと分かってはいますけど、敢えて一つだけ伝えさせていただきます。
私とあなたはとある事件に巻き込まれており、その犯人たちは私たち無関係な人間を自分たちの勝手な都合に平然と巻き込めるロクデナシさんばかりですので気を付けてください。いつ何処で誰が誰に尾行をつけれているのか、そして誰に相談したとしても巻き込まずにはいられないかもしれない危険きわまる連中こそが敵なのだと言うことを」
明らかにジャンルの異なる事件についての説明になってしまったが、現代っ子で魔術とは疎遠な士郎にはむしろ分かり易くて誤解しやすかった。あと、おまけとして正義の味方(志望)の血が騒いできてた。
か弱い美少女が悪の組織(だかなんだか)に狙われていて、自分の家を頼ってきた。
現実ではありえないと割り切っていた士郎の中の『分かり易くて単純明快な勧善懲悪ヒーロー物語』が、今目の前で始まりの門を開きかけてる。
(ーー燃えるぜ!)
注:この世界の士郎は特異点少女の影響により、ちょっとだけおバカになってます。
「聞かせてくれ。そいつ等の狙いはいったい・・・」
「・・・あ、いけません。燃料切れによるエンストです。ちょっとの間消えちゃいますけど、しばらくすれば肉体を再構築する分の魔力量が補充できますので、詳しい説明は後ほど。
ですが、これだけはお約束し足しましょう。
私はあなたの敵には決してならない。これだけは絶対です。どうか忘れないでくださいね・・・」
最後まで言い終えることができないまま、セイバー(偽)は光の粒子となって空気中に(自分から)溶け込んで消えて行ってしまった。
完全に置いてかれてるサーヴァント異住セレニアのマスター衛宮士郎だったが、その彼をしてさえ事態はいつまでも傍観者のままでいさせる気など持ち合わせてはいなかったようである。
ばぁぁっん! と、盛大な音を立てて障子が開け放たれる音が聞こえたと思ったら、庭づたいに東屋まで延びてる石畳の上を猛然と走ってくる後輩の幼馴染み少女の姿が一瞬で目の前まで移動して、尊敬し敬愛する異性の先輩の胸ぐらを掴みあげるかのように「先輩!」と、両手を胸の前でそろえて上目遣いに士郎の顔を真剣な瞳で見つめながら彼女は言った。
「先輩! ・・・ああ、良かった・・・無事でいてくれて・・・。先輩に何かあったらと思って気が気じゃなくなるところでしたよ・・・」
「お、おお、心配かけたみたいですまなかったな桜」
士郎は後輩の女の子で友人の妹でもある少女の頭をポンポンと叩いてやりながら、落ち付けのジェスチャーをしてみる。
それだけで冷静さを取り戻せるのは、やはり恋する乙女の成せる業であるのは否定しないが、奇跡と災害は紙一重でもある。モーゼとか。
桜は女の子特有の目端の良さから周囲の異常を察知し始める。
士郎が土蔵で眠りこけてしまうのは珍しいことではない。その翌日に自分の方が先に朝食の準備を始めてしまっていることだって少なからずありはするのだ。
だが、それにしては朝食の話題を出してこないのはどうしたことだろうか?
あの衛宮士郎が家事より優先すべき事柄なんて子供の頃からの夢である正義の味方関連しか思いつかないが、その割には彼の足下に転がっているのは文庫本が一冊だけ。
しかも表紙に描かれてるのは可愛らしい女の子のイラストとくれば、もはや恋する(ヤンデレ)少女間桐桜が到達できる答えなどひとつしかない。
好きな異性の先輩が朝から挙動不審で(不安定になった精神状態からくる被害妄想)、普段の生活スタイルからは考えられない行動を取り、更には自分にバレないように隠そうとして(被害妄想)微妙に隠しきれてなくて証拠を残してしまってる(被害妄想)。
「・・・先輩。昨日の夜はお楽しみでしたか?」
「☆△×●!?」
・・・・・・当たりだ(壮絶なる勘違い)
この男、私に黙って(暫定彼女)に内緒で他の女と一夜を自室以外で過ごしやがってた・・・(微妙に当たってる)
「・・・そう言えば先輩、なんだか良い香りがしますよね? まるで女の子と長時間密着し続けてた時みたいな匂いです」
「・・・・・・(サーーッ(注:顔から血の気が引いてく音)」
「お顔の血色も良いみたいですし、ナニカ気持ちの良い体験でもされたのですか? 次は私も一緒に体験してみたいので、よければ教えていただけませんでしょうか?
ーーええ。是非ともご一緒したいと思ってますよ? 先輩もそうですよねぇ? ・・・センパイ?」
「・・・・・・(ガタガタガタ)」
「あと、シャツの袖をいつもより3ミリも多く捲ってますし、ズボンに付いてる汚れも昨日と比べて0、1割ほど増加量が減ってます。髪の毛なんか誰かの柔らかい体の部位に押しつけられてたみたいにカーブを描いてる曲線の割合が2度ほど高くなってます。
それからーー」
((怖い! この子怖い! 怖すぎる!!))
衛宮士郎とセイバー(偽)、マスターとサーヴァントとして初の共感。・・・内容はヒドかった。
・・・ちなみにだが、士郎のサーヴァント 異住セレニアはクラス関係なく保持してる基本能力『霊体化』によって周囲の景色に溶け込み、事の始まりからずっと二人の様子を観察し続けていた。
言うまでもなく士郎の抱える事情を(本人からは言いたくないことも含めて)把握しておく必要があったからだが、まさかこの様な修羅場に突入していくとは思ってもいなかったため出てくるタイミングを逸してしまい出るに出られなくなって隠れ潜み続けていたりする。
(さて、この状況・・・・・・割とどうしたものなんでしょうかね~・・・)
生前にそう言った逸話を持たないために魔術は一切使えない英霊セレニアだったが、幸いなというべきかどうか迷うところだが用意されたクラスの中に適応しているのが一つもなかったから二つを品質劣化させてサーヴァント化を可能としたダブルクラスの恩恵(?)によりキャスター(偽)のスキルはなくとも魔力感知だけは出来るようになっていたので観ることが出来てた桜の異質さ。
(魔力の流れって、言うものなんでしょうかね? 体の中をいくつかの配置で変な風に道が敷かれている気がします。普通の人には存在しないものみたいですし、私の生前にこんなもの観たこと一度もなかったので断言はできませんけど・・・・・・)
霊体化して透明になってるから誰にも見えない身体のままで、小首を傾げてみせるロリ巨乳少女。
(この子の心臓近くから感じられる“ヒッドイ違和感”は何なんでしょうかね・・・?
まるで国家に寄生する宿り木みたいな私にとっての天敵の劣化版みたいな感じがしてものすごーくムカついて仕方ないんですけども・・・)