IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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たまたま午後からの出勤だったので暇つぶしに書きましたが、
今までで一番ヒドイ話です。
一応、予告通り山田先生視点ですが職員室での話です。
魔装学園ネタがちょっとだけ入っています。


7話「IS学園職員室にて」

 IS学園の職員室は今、亡者たちで満ちた死都と化しています・・・。

 掃除をしていないので腐臭が漂い、換気をしていないので空気が淀み、カーテンを開けていないので暗がりに包まれています。

 

 そして亡者たちの王ーーいいえ、女王は虚ろな目と虚ろな口調のまま、虚空を通じて死界へと渡る手段を模索していますーー

 

 

 

 

「・・・大きな星が点いたり消えたりしている・・・彗星かなぁ・・・いや、違うな・・・彗星はもっと、バァーっと輝くもんなぁ・・・」

 

 

 亡者の女王、ブリュンヒルデ織斑千冬。

 彼女の呟きは絶望を、表情は嘆きを、挙動は失望をそれぞれ与え、優秀な人材だけがそろっているはずのIS学園教師陣を次々とゾンビに変えていき、現在生き残っている生者はわずか私だけ。

 

 すでに中枢機能は麻痺し、脱出も不可能。援軍の目処も立たず。

 もはや、私の命運もまた風前の灯火です。

 

 

 

 

 そもそも、なぜ世界で唯一のIS操縦者育成校の職員室がこのような事態になってしまったのか・・・・・・?

 

 それは全て、一人の少女の入学から端を発するのです・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すみません、自己紹介がまだでしたね。

 私の名前は山田真耶。一年一組の副担任で、担任である織斑先輩の学生時代の後輩です。

 

 先輩にあこがれてIS学園教員に就職した私は、まだまだ新人なので仕事が遅く、今年度の新入生のチェックが遅れていました。

 

 そんな中、一人の新入生のデータがーーいえ、データの一部が目に留まり、思わず仕事の手を止めて凝視してしまったのを今でもハッキリと覚えています。

 

「ーー異住・セレニア・ショート。IS適正ランク・・・『F』?」

 

 正直、何の冗談かと思いました。

 現時点で確認されている最低ランクはDのはずです。学園の生徒たちもほとんどがB、少数がCで、Dランクは今のところ数名を確認したことがあるだけ・・・それも、適正はあっても低すぎてISの部分的操作しかできず入学させる必要なしと、学園執行部が決定していたはずでは・・・

 

「ああ、そいつか・・・。

 山田先生、そいつが入学するのは不思議でも不自然でもない。

 なぜならそいつもまた、『世界で唯一』だからな」

 

 突然声をかけられた私は、思わず「ひゃん!?」と変な声を上げてしまい、恥ずかしさに顔を真っ赤に染めながら振り向くと、そこにはーー女神が立っていました。

 

 長い黒髪、切れ長の双眸、すらりとした長身、抜群のプロポーション。

 女という生物の完成形がそこで息をしていました。

 思わず、息が詰まります。

 私は生まれてこのかた、これほど綺麗な人を他に知りません。きっとこれからも現れないでしょう。

 彼女は気高く、凛々しく、尊く、毅然とした・・・まさに女王の風格を持つIS学園のーーいえ、IS界の覇者でした。

 

「織斑先生・・・」

 

 私は陶然と呟きます。

 第1回IS世界大会『モンド・グロッソ』優勝者及び格闘部門優勝者。

 その強さと美貌を称えられブリュンヒルデの異名を与えられた最強。

 陰では他の教員たちからも「IS学園の守護神」と呼ばれ崇め奉られている一代の女傑です。

 

「・・・・・・って、え?「世界で唯一」って、せんぱーー先生の弟さんのことですよね?」

「ああ、あいつも世界で唯一だが、こいつも世界で唯一なんだ。ーーもっとも、意味合いが違いすぎて誰にも注目されていないがな」

 

 ですよね。私もいま始めて名前を聞きましたし。

 

「じゃあ、なにが「世界で唯一」なんですか?」

「世界で唯一「最低ランク」の適正を持ったIS操縦者・・・そういう事だ」

「・・・・・・・・・ああ、そういう・・・・・・・・・」

 

 納得はできましたが、正直微妙な気分です。

 

 だって・・・いくらなんでもその理由、酷すぎませんか?

 

「・・・気持ちは分かる。が、割り切れ。

 こいつを逃したらいつまた同じデータが取れるか分からんのだからな」

「・・・取る必要ありますか? これ・・・・・・」

「・・・・・・・・・だから、世界で唯一なのに誰も注目していないんだ・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ・・・・・・もう、何も言えません。

 いったいどういう星の元に生まれればこんな不幸体質になれるのか? それに関して調べた方がよっぽど人類の発展に役立つんじゃないかと思える程です。

 

 だってーーあまりにもタイミングが悪すぎますから。

 

「・・・よりにもよって「世界でもっとも注目されている世界で唯一」と同期で入学することになる「世界でもっとも注目されていない世界で唯一」なんて・・・間違いなく比較されますよね・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・だろうな」

 

 ただでさえ、ランクの高さ=強さという間違った認識が世間に流布されているなかでの同時入学・・・・・・地獄ですね。私だったら絶対に自殺します。

 

「・・・・・・・・・お上の下した決定には逆らえんが・・・せめて我々教員だけでも、こいつに優しくしてやろう・・・・・・」

「・・・そう・・・ですね・・・・・・」

 

 こうして一部教員たちの間で「異住さんを慰める会」が結成されたのですがーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーまさか彼女が、この死都を作り出せるほどの悪魔ーーいえ、魔王だったとは、その時には思いもよりませんでしたよ・・・・・・

 

 

 

 

「・・・セレニア魔王棚にお供えするのを忘れたのは誰だぁぁぁぁっ!?」

「え、嘘? あ、本当だ! バカバカバカ、こんの大バカぁぁぁ!

 あんたのせいで私たちまで祟られたらどうしてくれんのよっ!?

 早く自首しなさいよ、このクズ!」

「ちょっと! そこはセレニア邪神踏み絵がある場所よ! 土足で踏んで呪われるのはアンタ一人じゃ済まないんだから、とっとと退きなさいよ!

 て言うか、あんた死ね! 大邪神セレニア様のお怒りを買って死ね!」

「さぁ、祈りましょう。冥府より暗黒神セレニア様が見ておられます。

 祈り、崇め、奉り、世界の滅亡から我らだけでもお目こぼし頂くのです。カーメン」

「「「カーメン」」」

 

 

 ・・・・・・いつの間にか、ゾンビたちが怪しげな宗教を始めていました。

 もうIS学園はダメかもしれません・・・。

 

 

 ・・・まぁ、気持ちは分からなくもないんですけどね。

 自分たち全員が全力で挑んでも掠り傷ひとつ負わせられない相手が格下に、それも遥か格下の世界最弱に言葉だけで精神崩壊させられたのを見れば、呪いとか祟りだとかを信じたくなるのは分からなくもないです。

 

 それに、昔は疫病を祀ることで災いから身を守る風習もあったそうですから、必ずしもおかしくはないです・・・・・・いや、まぁ、やりすぎ感はありますけども・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「かゆ・・・・・・うま・・・・・・」

「ああ!? 主な原因である織斑先生までゾンビ化し始めた!?」

 

 マズいです! これじゃあパンデミックが起きてしまいます!

 

 

 

 

 

「おお!?なんと言うことだ! 大魔王セレニア様がお怒りになっておられる!!」

「危険だ! 世界が・・・いや、宇宙の法則が乱れるぞ!」

「このままでは我々の命が・・・そうだ! 生け贄を、生け贄を捧げるのだ!」

「!名案だ! おい、誰か!美しい生娘を何人か攫ってこい! 学園には生け贄が満ち溢れているぞ!」

「おお! 我らの命の為に愚かな生徒どもを、大魔王セレニア様への貢ぎ物として祭壇にその生首を晒すのだ!」

「人間狩りだ! 人間狩りを始めるぞぉ!」

『おおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!! すべては大魔王セレニア様と我ら忠実なる下僕のために!!!』

「ダメェェェェェェェっ!?」

 

 なんか邪教集団が悪魔主義者の黒魔術結社みたいになってるんですけどぉ!? 収集つかないにも程があるんですけどぉ!?

 

 お願い、誰か助けて!

 助けて、おりエモォン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラっーー

 

 大混乱の中、突然職員室の扉が開き、

 

 ざわっーー

 

 開いた扉から中に入ってきた人物を見て、混乱は質を変えました。

 

 

 

 

 崩壊寸前だった職員室の秩序を一時的にでも取り戻させたのはーーもう一人の「世界で唯一」でした。

 

 

 

「織斑君・・・」

 

 そう。

 織斑先生の実の弟であり、世界で唯一の男性IS操縦者であり、クラス対抗戦で醜態をさらしたパンダさんであり、昨今ではマンガ執筆に青春を掛けている学園随一のオタク生徒として知られている彼がそこにいました。

 

 

 

 

 ーーいえ、違います。彼ではありません。

 彼はーーこんなにも神々しく輝いてはいませんでした。

 

 

 

 職員室が機能不全に陥ったこの数日間で彼に何が起きたのでしょうか?

 その凛々しさと真っ直ぐな視線は、以前とは比べものにならない覇気を感じさせます。

 正直、今の彼には元代表候補生だった私程度では勝てる気がしません。

 織斑先生でも、十本に一本は取られるのではないかという気さえします。

 

 それ程までにーー別物のオーラを纏った新たな覇者がそこには居たのです・・・・・・。

 

「千冬姉・・・いや、織斑先生。一つだけ訊いておきたいことがある」

 

 静かなのに良く通る声で彼は織斑先生に問いかけます。

 その声にも態度にも、以前までの未熟さは微塵も感じられません。

 まるでーー脱皮したかのような変貌ぶりでした。

 

「いち・・・か・・・?」

 

 それまで虚ろだった織斑先生の声に感情が戻ります。

 ハイライトが消えていた瞳には光が宿ります。

 死人のような顔に生気が戻りました。

 

 今ここに、ブリュンヒルデはーー織斑先生は復活したのです。

 

『お、おおお・・・・・・』

 

 職員室の誰もがその目映いまでに尊い光景に目と心を奪われていました。

 これは、神の奇跡です。

 邪神は真なる神に破れ、大魔王の呪いは解かれ、永遠に続いた冬が終わり、IS学園に春が訪れました。

 

 正義は勝ったのです。

 

「一夏? ・・・本当に一夏なのか?」

「ああ、間違いない。俺さ。世界最強ブリュンヒルデの弟にして、世界で唯一の男性IS操縦者の織斑一夏とは俺のことさ」

 

 ・・・?

 なんでしょう、この違和感は・・・。

 なんだか、織斑君の言葉に微妙な自己陶酔を感じるのですが・・・。

 

 私の戸惑いをよそに、二人の兄姉は手を取り合い、対話はさらに熱さを増します。

 

「千冬姉。今日、俺が此処にきたのは他でもない。ISスーツについて絶対に訊いておきたいことがあったからだ」

「・・・ああ! なんでも訊いてくれ!どんなことでも答えてやるとも!・・・・・・ん? ちょっとまて。いまお前ISじゃなくてISスーツって言わなーーー」

 

 織斑先生が戸惑ったように制止するのも聞かず、織斑君は真っ直ぐな、真っ直ぐすぎて他のことには興味がない様な視線で実の姉に問いただしました。

 

 

 

 

 

 

 

「ISスーツにはーーエロいことをする事で接続改装し強くなる、背徳武装みたいな装備は実装されていないのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、ブリュンヒルデとして歴代最高記録の右ストレートが変態の顔面にめり込み、壁を突き破ってグラウンドへと吹っ飛んでいきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として、IS学園と織斑先生は生き永らえたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、この一件でセレニア大魔王棚へのお供えモノと、邪教集団であるセレニア教徒が増えることになったのは言うまでもありません。

 

つづく




一夏の描いた漫画のタイトルは「IS学園H×H」です。
あくまでも使い捨てのネタです。
クロスオーバーにはなりませんのでご承知おきください。

次回から鈴編ですが、これはさっさと終わらせます。
シャルとラウラを早く出したいからです。
この作品における二大ヒロインは彼女たちですのでご理解のほどを。

あと、誰得と思うかもしれませんが一夏との仲も良くなります。
そして、セレニアにヒロイン属性がプラスされる予定です。
期待しないで待っていてください。

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