IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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申し訳のしようもございません・・・。本来なら本編の方をさっさと進めなければいけないと分かっているのに、新作言霊の出来が今一過ぎるあまりにまたしても必要のない番外編でお茶を濁す展開に・・・!!!

次こそはちゃんと書きたいです。本当の本気で心の底からそう思っております。

ちなみに今話の内容はサブタイ通りに楯無会長とクルーゼさんとのバトルです。
ISはあんまし出てきません。理由づけの説明は記載しておきましたが、納得できない方も多いだろうなとは思います。
それでも自分が面白そうだと感じたので書きました! 反省はしていますが過剰すぎる現実論の持ち込みに応じる気持ちは御座いません!
 と言うより、知識不足なので出来ません。能力値の問題ですのでご理解いただけたら幸いです。


番外編「更識楯無VSアサクラ・クルーゼ」

 ーー静まりかえった東京湾。

 米艦隊は損耗した兵力を補充中で動けず、東京都の住人たちはアズラエルたちが行った無差別砲撃から逃れるために都市部を離れて比較的近場にある山中等に避難している。

 

 港の近くにあるホテルーー正確には『元』ホテルと呼ぶべき廃墟だがーーの一室から一昨年ほど前までIS発祥の地として栄華を誇っていた日本の首都だった瓦礫の山を見下ろしながら仮面の米軍士官アサクラ・クルーゼは静かにせせら笑った。

 

 

「人の欲は留まることを知らない。その業によって生み出された科学力は人の欲の象徴とも呼べるものーーIS技術によって創られた今の時代はまさに人の夢、人の望み、人の業の集合体。全人類にとっての・・・悪夢そのものだ。

 自らの造った技術を信じたいが余り盲信の域に達してしまった結果、IS技術を絶対だと思いこむ。

 ISに不可能などない、ISで出来ないことが既存技術で出来るはずがないのだ・・・とな」

 

 彼の出身は特殊部隊であり、今も昔も特殊部隊の主たる任務は公にはし辛い内容である事例が多い。

 それは、ISという圧倒的な軍事力を抑止力となる形で用いたことで世界平和を実現した今の時代においても変えることができなかった人類の抱え続けている業の一つ。

 

 女尊男卑思想が根付いた時代にあって、未だに特殊部隊が男社会である最大の理由は受ける任務の内容が各国IS操縦者の暗殺及び拉致・誘拐などの対女性を想定したものばかりであるからだ。はじめから敵がISを所持する圧倒的強者であることが前提なのである。

 

 それ故に彼らはIS操縦者本人よりも、ISを用いる側の心理に精通し尽くしている。その弱点・欠点・満身しやすさ油断しやすさ傲慢さ等々、彼女たちには精神的脆弱さが極端に大きい事例が異常に多いことを事実として把握しているが故の対IS男性部隊がこの時代における特殊部隊の在り方になっていた。

 

 そのため彼らはISに頼らない戦い方を当たり前のように心得ている。

 電子ロックされた艦内から原始的手法によって脱出するぐらいなら訳はないし、監視カメラも配置するのはIS関連技術に対する対策の方が優先されているから掻い潜りやすい。

 

 己の持つ科学的才能を盲信しすぎて失敗した愚かな天災。その世界一バカな天才に敗北した世界が彼女の造った欠陥品を盲信しすぎた結果がこの体たらくだ。

 長所を過大に評価して、短所を過小に見積もりたがる。

 優れている点ばかりを持ち上げて、劣っている部分を「長所で補いうる」として低く見たがる傲慢さ。リスクよりもメリットを重視して安全策を軽視し、往々にして博打のような作戦をこそ良しとする。

 

 軍事ロマンチズムの極地と呼ぶべき状況が今の『戦争を放棄した平和な時代』に体現されてしまっている。これが人類が滅ぶべき愚かな種族である事を示す証拠でなくて何だというのだ!?

 

 

「自ら育てた闇に食われて、人は滅ぶ。その為にも戦争は継続して頂かなければならない。この時代を終わらせるわけには行かない。今はまだ、その時ではないのだよ異住セレニア・ショート・・・。

 君の言う平等の思想・・・嫌いではなかったがね。それでも寄り多くの人々は、君のようになりたいと思うことは決してないのだと知るがいい・・・」

 

 手元のコンソールを指で叩きながら、彼はIS学園の見取り図と内部構造とを分析してゆく。学園祭の時に入手した学園側から配布されていたパンフレットから読みとれる範囲までしか確定情報と呼べるほどの精度はないが、逆に言えばここですら軽く扱われている部分には学園側も大した注意も警戒心も持ってはいないと言うこと。

 

 敵の意表を突くからこそ奇襲と呼ばれる。

 敵が「此処を敵が突くはずなどない」、そう考えているポイントこそが最も狙いやすく侵入しやすい、男にとっての理想的な進入経路であり破壊工作時の狙い目でもあるのだ。

 

「人を一人殺すだけの為に、IS等という仰々しい兵器など用いずともよい。ほんの一瞬だけ電流を流せば事足りる。

 あるいはスプレーに偽装した青酸ガスでもいいし、日常的に接種している薬の量を少しだけイジってやっただけでも死ぬのだ、人という弱い生き物たちの群れは。

 にも関わらず、神を気取った愚か者の悪夢にいつまでも振り回されるしかない世界など、人類など、滅んでしまって一向に構わないではないか。それだけの業を、罪を、人は侵し続けてきたのだから・・・」

 

 コンソールでの確認作業を終えた彼はそれを納めて、今度は傍らに置いてあった拳銃を手に取ると壁に向かって銃口を向け静かな声で問いかける。

 

「君もそうは思えないのかね? 人と人とが殺し合う戦争をやめさせた存在、人類にとって最高の夢『世界平和』を実現させた究極兵器ISを与えられ、他の誰より多くの人を殺めさせられた少女、日本の対暗部カウンター組織の長にして、日本が抱える闇そのもの・・・更識楯無くん。君も私の考えを認めることなく否定しにきたのかね?」

「ーーアハッ。さっすが対IS『操縦者殺し』のエキスパートさん。私が付けさせてた尾行の人員ぐらいはアッサリ見抜かれちゃっていましたか」

 

 

 明るい声と共に壁の後ろから出てきて姿を現した青髪の少女に、クルーゼは内心で舌打ちしながらも表面上は何事もなく会話を継続するフリをしてみせる。

 

「そうでもないさ。彼の腕前は大したものだったよ? さすがは『あの』更識楯無が仕込んでやっただけの事はあると感心させられてばかりだった。

 日本を陰から守るためなら手段を選ばず相手も選ばず、あらゆる手段で以て結果だけを優先するヒトデナシの更識。その最高傑作とまで謳われた人の持つ悪意の集合体・・・そうなるよう造られた少女・・・私も同類として感嘆の念を禁じ得ないほど凄惨に過ぎる過去をよくぞ乗り越えられて今に至れたものだ。敬服させられる」

「あら、嬉しい。まさか貴方からお褒めの言葉をいただけるだなんて思ってもいませんでしたわ、ミスタ・クルーゼ。

 でも、ご謙遜を。貴方の方こそアジアでは有名人ですわよ?

 将来有望そうなIS操縦者の卵たちを言葉巧みに誑し込んで本国までお持ち帰りしてしまう、全世界の性犯罪者が憧れた白い仮面の男アサクラ・クルーゼ。又の名を・・・ロリコン親父。ぷー! まさか国の命令こなしてたらロリコン呼ばわりされるだなんて、貴方も計算外だった事でしょうね!お悔やみ申し上げますわミスター!うぷぷ~♪」

「いやいや、そう言う君こそ大した人気ぶりだよ?

 毎日のように更新されている全裸教の布教ブログなど、今やアメリカのヌーディスト界において知らぬ者がいたらモグリだと断言されるほどで・・・」

「全裸こそ神が与えたもうた至高の衣服! 全裸以上に素晴らしい服など、この世に存在してはならない!」

「・・・・・・いや、そこで突然大まじめに切れられても困るのだがね・・・」

 

 何気ないというよりかは心底どうでもいい内容の会話を、首を傾げたり大袈裟なジェスチャーを交えたりとアメリカのトークショーばりに意味のないコメディー地味たやりとりを交わしあう彼らだが、その実これらの行動全てが彼らにとって致命の一撃足り得ていたかもしれないのだと、いったい誰が見ただけで理解できるだろうか?

 

 彼女たちの背後にある壁には、数秒ごとにバラバラの感覚でナイフの針山が突き立てられては増えていっていた。

 相手の意識が逸れたと見るや、死角からの投擲によって相手の肌を猛毒の塗られた刃で掠らせてやろうと小細工を労し続けるため、ただそれだけのために彼女たちはこの無意味な会話を続けていたのだという事実を、いったい誰が説明を受けることなく把握することが可能となるだろうか?

 

 戦士は副業、暗殺者こそが本職であり天職であると周囲の部下には嘯いている希代の暗殺業者二人による命を奪い合うための会話はそのまま継続されていく。たぶん、どちらかの命の灯火が消し去られるまでずっと・・・・・・。

 

「君たちがいくら叫んだところで無駄なことだっ! 戦争は既に起きてしまい、米軍の勝敗に関わりなく人類は戦争の歴史を思い出した! 果てなき憎しみによる負の連鎖を繋げるための種が人類自身の手で撒かれたからだ!」

「種?」

「そうだとも! 競い、ねたみ、憎んで、その身を食い合う!

 人々の間に根付かせた嫉妬という名の憎悪の種さ! それを君たちは知らぬ間に自らの手で撒いていた!」

「・・・・・・・・・」

「君たちIS操縦者こそが戦争の引き金を引いた! 引かせた! 引かせてしまった!

 他者より強く・・・他者より先へ・・・他者より上へと! 同類同士であるはずのクラスメイトでさえそうだったはずだ!」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒを思い出せ! 織斑マドカを思い出せ! 篠ノ之箒を、織斑一夏を、セシリア・オルコットを凰鈴音を! 彼女たち専用機持ち全てが強さを求めて他者を蹴落とし、自覚なきままに己の信じる正しさを他人に押しつけようとする!

 自分こそが正しいと! 自分の正しさこそが唯一無二の正義だと!

 誰も知らない世界の真理を、己が都合のみで決めつけて、憎しみの目と心で引き金を引くことしか知らぬ者たちの世界で・・・君はいったい何を! 誰を信じるというのかね!?」

 

 

 

「え? セレちゃんと自分との愛だけは信じてますけど、それが何か?」

 

 

 

 

 

 

 コケッ。

 

 ・・・・・・思わず転んでしまいそうになるほど予想外すぎるアッサリとした答えに、クルーゼは目の前の少女が一瞬だけ分からなくなってしまった。

 

「な、なに・・・?」

「だからセレちゃんですよ。異住セレニア・ショートちゃん。私の後輩でIS学園1年1組に所属しているヘンテコリンでロリ巨乳な女の子。彼女が『これはこうだと思います』って言ったら無条件で信じ込んじゃうと思いますよ? 今の私って恋する乙女過ぎてますから」

「・・・その少女が正しいのだと誰が分かる?」

「え? 本人自身が自分の言ってることを信用しきっていなさそうな子ですけど?」

「・・・・・・・・・」

「しょせん人は自分の決めた、ちっぽけな世界観しか持つことの出来ない生き物ですからね~。『世界とはこう言うものだ』『人とは、人類とはこう言うものだー』なんて一番よくあるパターンですし、特別珍しいことでもないのでは~?」

「・・・・・・」

「あ! そうだ、いっそのこと日本のライトノベル業界に新人として書いて応募しちゃいましょうよ! それで佳作とれたら次はデビュー! 売れたら小金持ちで女の人とかよって来ちゃうかもですよ~?」

「・・・・・・」

「人生の幸せの八割ぐらいはお金で購えちゃう程度のものですから、そんなに意識し過ぎなくても宜しいのでは~?」

「ーーーーーっ!!!」

 

 突然、それまでの冷静で正確きわまるナイフ投擲からは想像できないほどの激しすぎる殺気を伴って放たれたクルーゼの一弾に、楯無は彼の心の弱点を見出した。

 

(ようやく釣れたか。意外に気の長い相手だったわね。おかげで余計な怪我を負わずに勝てそうだわ)

 

 内心でホッと安堵の息を付く楯無。

 実のところ彼女にとってこの戦闘は、非常にやりにくい相手との、殺り難すぎるハンディキャップ戦だったのである。

 

 第一に、今のクルーゼと更識楯無とでは立場が異なる。価値の重さが違い過ぎている。一対一で正々堂々決闘した末に討ち果たした代わりに「左腕の肩を貫かれた」など、決して許されていいレベルの問題ではない大損害なのである。

 

 なんと言っても、彼の艦隊は既に敗退している。

 彼は敗軍の将であり、今更その首になど意味もなければ価値もない。日本本土に上陸してこなければ無視してしまって構わない程度のムシケラとしか楯無からは認識されていない。

 

 にも関わらず彼女自身が出張ってきたのは、価値が変動しようとも彼の強さが揺らいだわけでは決してないからだ。相変わらず強い。

 ただし、IS操縦者の命を奪うとき限定でだが・・・。

 

(彼はIS操縦者を殺すことのみに特化している暗殺者。対IS戦闘に於いて生身で戦う彼にIS展開して突っ込んでいくのは自殺行為に他ならない。

 私の敷かせた更識家の狩り場にしたところで、今となってはバレていたと見るべきだろうしね・・・。そうでもなければ逃走経路を模索し始めても良い頃なのに、ただ一点だけの突破口を、私を抜けた先に設定している時点で更識流『殺しの舞台作り』は破綻している。

 なんとか被害を抑えて楽に勝つ方法を模索してたんだけど・・・これは使えそうね。少し試してみるか)

 

「それが君の信じる正義かね? 更識君。もしそうだとしたら、ずいぶんと即物的すぎる代物だと言わざるをないな。

 この世界が何故こうなってしまったのか、このような世界にしてしまったのは誰なのか、このような世界を創り出した連中が何を求めて、何を得るために新世界創造と旧世界の破壊を目論んでいたのかを、君なら知っていてもおかしくないと思っていたのだがね?」

「ええ、もちろん存じておりますですよ? お金の為でしょう?

 あと権力と~、地位と~、おいしいご飯と~、豊かな老後の生活と~、玄孫の代まで食べるに困らず贅沢できる潤沢すぎる裏金資金と、表に出したら不味すぎる白磁のティーセットコレクションとかでしたかね~?」

「そこまで分かっていながら何故・・・」

「え? 良いじゃないですか、お金のために戦って人殺すのって人間らしくって」

「・・・なんだと?」

 

 急激にクルーゼの行動に冷静さが戻ってきたのを感じ取り、楯無は唇を噛みしめながらも、心の中ではほくそ笑む。

 

 いい調子だ、そのまま行けと。テンションの上下動のフリ幅を大きくしてくれるのは率直に言って有り難い。それに何より『本音を素直に口にしているだけで相手を怒らせれるのは楽で良い』。たかだか一殺幾らの暗殺家業で、本気になるのは馬鹿らしすぎる。

 本気になれる何かを得るには、それまで生き延びていなきゃならないし、その時のために必要な資金を得る手段が更識には楯無しかなかった。だから自分は更識楯無をやっている。仕事として、収入を得るために。只それだけのために。

 彼女は個人的な幸せを味わってみたいという願望があるからこそ、会ったこともない大勢のために見ず知らずの赤の他人と殺し合うことが出来ているのである。

 

 殺しに美学なんて持ってない。

 戦争は必要悪だとか言われてるけど、別にやんなくても解決できたんじゃなーい?と授業を聞く度に思ってきた。

 国のため、守るべき人々のためと言われながら生まれ育ち、自分にとっては価値のない赤の他人を救うために、ISの台頭で職を失った傭兵たちが食い扶持求めて上陸してくるのを瀬戸際で処理し続けた花の学生時代。

 

 二束三文の端金で命を賭にくる傭兵くずれたちを殺した後に町中で他人の命をかけさせてでも守りぬいた平穏な日常――子供たち同士が平和的に弱い者虐めをして馬鹿笑いしているシーンを目撃したとき、彼女は自分の心を壊すことに決めた。そうでもしなければ壊れてしまう。それほどまでに今の時代は醜すぎてたから・・・。

 

「ほら、うちの家系って人を殺して給料もらうのを伝統としてきた家系ですんで~。べっつにお金のために人殺すのに抵抗感ないんですよねぇ~。

 ああ、いえいえ解りますよ? それが悪いことだってぐらいのことは流石の私にも分かってます。分かっているんですけども~、な~んか分かりづらいんですよねぇー、そ・う・い・う・の!

 むしろ、人撃ち殺すのにご大層な理由なんか必要ありますぅ~? どっちにしても殺すことには変わりないのに理由付けなんかが意味あるのって、殺す側の罪悪感を減らす以外になぁんにも見つかりそうにないんですけどもぉ~?」

「・・・・・・・・・」

「て言うか~、人類滅ぼしたいならハッキリそう言ったら良いんじゃございません?

 『私は世界が憎いから滅ぼしたいんだ、ただそれだけなんだ、個人的に許せなく思うから殺し尽くしてやりたいだけなのに、社会に向かって吠える勇気がない、世界と向き合うには自分は小さすぎる雑魚だったから正当化の理由がほしかっただけの臆病者なんだーっ!』って、正直に大声で白状したらスッキリするかもしれませんよ~?

 王様の耳はロバの耳~♪ クルーゼの仮面は人に素顔を見られるのが怖い臆病者を守る盾~♪」

「~~~~~っ!!!!」

 

 そこからは凄まじい早さで投擲されあうナイフとナイフの投げ合いが、会話とともに行われ続ける。まるで言葉でも言い勝たなければ自分自身の存在価値が失われてしまうと恐れているかのように、クルーゼの攻撃は口でもナイフでも苛烈を極めた。

 

「人の欲が! 人の業が! 人類の育てた闇こそが今世界を食らいつくそうとしているのに、何故それを認めようとしない!?」

「欲があるから人類の文明はここまで進化することができました~。人類が欲深だから今の豊かさがあるんですぅ~。

 欲がなかったら人類なんてとっくの昔に植物にでも滅ぼされてたと思いますし~、人を滅ぼしかねない思想に私は賛成できましぇ~ん」

「その果てに行き着いた今が『これ』だ! 人の欲の行き着く果て、避けようのない不可避の絶望! 滅び! 虚無! 光さえ届かぬ永遠の闇! そこに行き着くのが人類にとって不可避の未来であり、増えては滅び滅びては生まれる、そんな無意味な行為に膨大な数の人命を費やす人類の文明のどこに価値がある!」

「人の選んだ選択肢の果てに待っているのが滅びだったんじゃぁ~、仕方ありませんねー。大人しく沙汰を待つと致しましょう。

 た・だ・し~♪ 最後の選択肢で『滅びたくないから無駄にあがく』を選んだあ・と・で・ね★」

「いつの時代も変化は必ず反発を生み、それによって利益と損益が生じた末に人々は不安から異を唱え、やがて軋轢は戦争へと発展していく! その繰り返しだ!

 今までずっと続けてきた愚かな歴史を、君は今まで通りにこれからも続けていくことに賛成すると言うのだなっ!?」

「変化しないで止まっちゃうのは単なる停滞。進んでないけど戻ってもいない、生きてるのか死んでるのかもアヤフヤな半死人のみが暮らすゾンビたちの理想郷。

 私としては生きてくためだけに仕事するようなゾンビ状態なんてゴメンでーす。ディストピア!」

「!!! そこまでしてやる価値が、意味が! 人類のどこにある! 今まで犯してきた人類の業を誰が許してやれると言うのだね!?」

「私が許します。歴史も許してくれるでしょうね、必要悪だったからと。

 後の世に生き残った人たちにとっては戦争中の人間が至った真理なんて、その程度の価値しかないのが実状ですからから~♪」

「傲慢な!」

「強欲で進化してきた人間なもので★」

 

 

 

 

 

 ・・・・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・

 

 やがてナイフの投げ合いが一段落してから荒い息を付き、一人の少女と一人の男が向かい合って睨み合っていた。

 

 男の方は仮面をかぶり表情を隠しているのに、隠れていない顔の下半分が怒りの形相に歪みきっている。

 

 少女の方は着ている服こそボロボロになってしまっているが、その身体に掠り傷一つ負っていない。

 

 精神的な優位性を確保し続けている楯無だったが、実力的にはクルーゼの方が押していた。

 体力的にも激しく動き回って大声を出しまくっていたはずのクルーゼなのだが、それでも服の裾さえ切られていない事実に楯無は内心で呆れざるを得ない。この化け物野郎めが、と。

 

(・・・でも、今の時点で私の勝ちは揺るがなく“なってしまった”。それだからこそ余計に厄介さが増したような気もするけど、今はそこまで気にしないわ疲れるだけだから)

 

 心の中で嘆息しつつ、楯無は誘うように隙を見せながら背後に刺さったナイフの針山へと視線を移して数を確認し、心の中で抱き続けた疑念が間違っていなかったことを確信する。

 

 明らかに人体の持つ積載量を越えすぎた数のナイフがハリネズミ状態を形成している、自身の背後の壁を眺め回しながら。

 

(タネは分からないけど、何らかのトリックを使っているのは確かな数。それでいて、今は投げる手を止めている。何故か? 弾切れ? こちらを安堵させて油断させたいから? それとも単なる体力回復中?

 ーーたぶん、これ全部が当たりだわ。どれを実行しても良いし、どれにも実行しない理由がないもの。こちらを確実に仕止めるために残り少ないナイフを有効活用法を考えながら、実行に移すときに必須となる体力も回復中。・・・イヤな奴!ヤな奴!ヤな奴!)

 

(でも、それは確実にナイフの量が残り少ないことも意味している。少なくとも、残り一本以上“あるのは確実”として、どれだけ必要な無駄を得るために無駄撃ちができるのかが少し気になるところよね。敵の残段数がわからないんじゃ、勝ちを前にした側としては安易な計算がすごくし辛い)

 

(一番の問題は私の勝利が確定していること。どんなに生身で戦うままでは不利であっても、ISを展開して突っ込めば勝ちは揺るがない状況にまで持って行くことは出来てるから、だからこそ“厄介きわまりない”)

 

(基本的に人とISが戦う場合、ISの勝ちは揺るがない。これはワンオフ・アビリティーがどうとかじゃなくて、単純にISの性能が操縦者の能力に加算されて底上げされるから。絶対防御も無視できない。

 極端な話、アレがあるなら相打ち狙いの一撃を見舞ったところで死なずに済む。致命の一撃は絶対に避けられる。それが今回は非常に厄介な事実に繋がってしまってる)

 

(私は生きて帰れる勝利を目前に控えた勝利者で、相手は私を突破しない限りは自分が生きてける未来がない。

 「今はまだ」って言う枕詞を付け足す必要ありだけど死ぬわけにはいかない人間は、死なないためならどんな無茶だってやってのけれるから強い弱い関係なく滅茶苦茶メンドクサい。今を生き延びられるなら腕の一本程度なら目眩ましに爆弾として置いていけれる。勝ち戦で要らぬ損害なんか出すのは勿体ない)

 

(私には今『生きて帰りたい』と言う願望が実現できる立ち位置にあって、敵はその優位性を捨ててでも殺してやりたいと思えるほど価値もなければ思い入れもない。とは言え学園外の人間にとってはまず間違いようもなく脅威となる存在ではある。

 一方で彼はおそらく『死中に活路を見いだす際』には、自分自身の命を捨てることこそが一番生き残れる確率が上がることを知っている。自分の方が不利な殺し合いを幾度も潜り抜けてきた見下されのプロでもあるんだろう。今はIS全盛の女尊男卑で、彼は男性だから。

 こういう相手が生き延びようと足掻いている時には射程範囲内に入っていきたくないんだけどな~、怖すぎる。片腕なしで戦後生きてくのはキッツいって分かり切ってるからやりたくねー。

 ・・・あ~、アカン。こうなると断然こっちの方が不利になるわ精神的に、大前提となる戦略条件的に見てもめっちゃ不利。不利すぎる)

 

(まず間違いようもなく、今の私は致命の一撃を知覚した際に『踏み込めない』。踏み込むことで乗り越えられない。五体全てを守ろうとして確実に退くことを選んでしまう。

 逆に相手は躊躇しないし、ためらうことは決してないと思う。踏み出すことで身体の一部を失ってでも今この場を脱出することに全てを使い捨てられる。

 『腕一本で死なずに済むなら安いもの』・・・確かにその通りではあるんだけど、勝利直前のこっち側にとっては出来れば巻き込まれたくない無理心中の類なのよねー・・・どうしよう?)

 

(・・・あ~ん(ToT) 今思うと早いうちからミステリアス・レイディ出して消耗させるためだけに使い潰しちゃえば良かったかも~(>o<) 出すタイミングを逸しちゃったから遊兵みたいな扱いになちゃったじゃないのよもう!)

 

(でもなぁ~・・・ISって特徴ありすぎてて癖が強くて、対象を絞りまくった専用の対応策とか練られていると不利すぎるからな~。

 よく言えば癖の強い機体、悪く言えば『事前に対策練られてると無意味化し易い』内容の攻撃が多いのがワンオフアビリティーの特徴。

 特殊すぎてるから初見殺しとしては優秀なんだけど、二度目からは最初の時より工夫しないと効果激減しまくり半減以下。騙し討ちには最適な、人殺すのにだけ向きまくってる殺人手段です。同じ相手とは戦わなくてよくできる戦闘にもおK。

 試合? 必殺技が通用しなくなるのは見ていて格好良いと思われるわよ?)

 

(ーー以上、更識楯無IS学園生徒会長兼全裸教教皇猊下による戦況分析でした。

 総合結果だけを述べさせていただきますとーー逃げていい? あるいは逃がして誰か別の奴に仕止めてもらいたいんですけどマジでマジで。

 あ~ん(ToT) 誰か助けてセレえも~ん!)

 

 

「どうしたのかね? 学園最強。死相が浮かんできているぞ」

「貴方こそ。生色が漲ってきてますよ、人間もどきなゾンビのくせに」

 

 

 クルーゼが浮かべていた薄ら笑いを消し、唇を不快さで歪めながら嘘偽りなく正直な気持ちで相手の少女を心底から罵倒する。

 

「傲慢だな。さすがは才能も未来も保証された選ばれし者たち、明日を夢見ることを許された子供たちだな。・・・反吐がでる」

 

 楯無は扇子を開いて口元を隠しながら目だけで嗤って見下しながら、嘲笑混じりの侮蔑を放つ。扇子の文字は「哀れで無様」。

 

「見苦しいわね。徐々に迫ってくる死の恐怖に耐えきれず、プライド故に泣き叫ぶところも見られたくないアダルトチルドレンの大人って生き物は。自暴自棄の無理心中に付き合わされてるこっちの身にもなって頂戴、反吐が出るわ」

 

 クルーゼは楯無の言葉を受けて血が滲むほど拳を強く握りしめ、楯無は心中で盛大に舌打ちしながら(ここまで言っても攻めてこないか・・・!)と心の中で歯ぎしりする。

 

 

 二人はこのとき、認識を完全に共有できていなかった。

 クルーゼはIS操縦者たちと日本に対して異常な憎しみを持つ義理の父によって改造された遺伝子強化体であり、生まれながらに有していた寿命の大半を削られることでIS学園最強にも勝る優秀な身体能力を手に入れられたが残り時間は後わずかになっていた。

 だからこそ、人生の最後は世界をこの手に掴んで復讐をと思っていたところを邪魔されたばかりか、長年のあいだ復讐すると誓ってきた相手を別の相手に殺されたことで「せめて世界だけでも・・・!」と言う風に暴走してしまっている事情が存在していたが、楯無にはそれがなかった。

 

 早い話、彼女の本心を嘘偽りなく並べ立てるとしたならば。

 

「ていうかですね~。人類だ~、世界だ~って子供みたいに大きなこと言ってる暇あるんだったら、とっとと死んでいただけません? ハッキリ言って今のあなたが他の誰よりも生きてる価値ない人間もどきなんで。

 人様に迷惑しかかけられない私たちみたいな人殺しは、せめて死ぬときぐらいは赤の他人様の迷惑を考慮してやっても良いんじゃないでしょーかと思う今日今このときの私でありまーす」

 

 悪意に満ちた明るすぎる声で放たれる毒舌。それが今の彼女の在り方だった。

 絶対に欲しいモノがあり、それを手に入れるためなら敵を何人殺したところで気にするほどのことじゃない。

 愛とは所詮、独占欲の別称でしかないのだから綺麗事で飾りたてる必要性など微塵も感じない。欲しいから欲しい、独占したい、自分が相手を好きなんだから相手も自分を好きになるべき!

 

 そう言う感情の傲慢さを、頭のいい彼女はとっくの昔に自覚している。

 だからクルーゼの言葉にも徹底した否定と罵倒を返し続ける。「私の欲しいモノを殺そうとしてんじゃねぇ」と言う感情論を理由として。

 

 

「・・・有史以来、人類の歴史から戦いを無くさなかった最大の宿敵、無知と欲望! それを君は肯定すると言うのかね!? 終わりにすべきだと、やめさせるべきだとは思わないと言いきるのか!

 人は誰しも生まれてきたからには幸せになる権利があるのだと、そう世界に向かって叫ぶ気概も、優しさも、君は持ち合わせる価値などないと、そう言いたいのか!?」

「平等なんて生まれてきたときに、母親のお腹の中へ置き忘れてくるモノですからねー。

 安心安全な子宮の中から引きずり出されて出てきた先に待っていたのは、荒涼なる荒れ野。人は生きていくため獣を狩り、皮を剥いで服として洞窟に住んで飢えを凌ぎ、生きてくためには他の命を刈り取らざるをえなくなったのです! ああ、無情!

 ーーま、要するに神様がそうしてなさいって人間様たちに上から目線で命令してるんだとでも解釈しとけば良いんじゃないですか~? 『人間なんてこんなモノ』と割り切って生きていけば、存外に人の世の醜さも可愛らしく映ったりするときもありますよ♪」

「~~~~~~っ!!!!」

 

 最後の挑発。そして、決定的な対立。

 自分とお前は違うのだと、楯無は彼女らしい表現でハッキリと断言して見せたのだ。

 あなたの選んだ道は自分にとって夢を叶える障害でしかないのだと。邪魔だから排除する。それだけの価値しかお前とお前の唱える人類説には感じていないのだと。

 

 決定的な対立が最終決戦へともつれ込もうとした刹那の刻!

 

 ・・・楯無の耳元に隠されるようにして取り付けられていた周囲に配置している部下たちからの連絡報告用インカムに緊急連絡が入り、身体を微動だにさせないままで目線だけをゆっくりとインカムに向けられていく様を一秒も逃さず観察し続けたクルーゼだったが、彼女の目が驚きの余りわずかに見開かれたその一瞬を仮面に隠された瞳が見逃すことは決してなかった。

 

 クルーゼの唇が動き、歯の間に挟まっていたナニカを噛み砕く「ゴギッ」と言う音が聞こえてきた瞬間に楯無はISを展開。その場から全速力のランダム軌道で離脱を図る。

 

 そうした直後、一瞬前まで彼女がいた足下の床から光が流出して室内を焼き、数秒後には爆発光に包まれて消滅し尽くす。

 

 楯無は油断なく奇襲に備えながらも、敵を見つけたら投射武器でいつでも狙えるように準備を完了させておくまでしたのだが、結局は骨折り損の草臥れ儲けになってしまった。

 

 煙の中から人間離れした跳躍力で飛び立つ姿を見つけた瞬間に撃とうとしたのだが、それが無防備な背中を晒しての逃走だったので撃つことが出来なかったのである。

 

「・・・戦いが始まってよりずっと見せてこなかった背中・・・私が彼の身体で唯一目視で確認し切れていない不安要素を晒されての逃亡じゃあ、今の安全第一楯無会長さんに撃つのは無理なのよね~・・・。

 あ~あ、バッカらしいしアホくさ~い。私って昔からこんなに弱っちい女の子だったかしらね? どう思われます? 妖怪のお弟子さん。魔王ちゃんの叔父さんとしての意見も聞いてみたいんですけども~?」

 

『いやいや、アレで良いと思うぜ? 叔父さん的にはだけどな。て言うかアレだ、あの瞬間に仕止められたら俺が困るし批判できん。まだアイツには使い道があるんだから殺さないでやってくれマジで』

「は~いはい。わっかりましたよぉ~だ。

 ・・・それで? 更識はどこら辺に配置することで彼を何処に誘導するおつもりで?」

『国会議事堂だ。地下の秘密会議室に総理以下、閣僚のゲスどもが屯している。そこを奴に襲撃させたい。セキュリティが厳重すぎて壊す以外に開けようがなかったんだが、奴さんの鍵開け技術なら何とかしてくれるだろ。

 んで、何人か撃ち殺した後で日本国民に対して事件の真相を暴露させるとかの目的から連れ出してきたところを自衛隊が射殺する。

 風間には総理自身の口から自分たちで判断して行動しろと言われてるらしいから国と国民を裏切った政府をテロリストと一緒に何人か巻き添えで死なせてしまっても仕方ないで諦めてもらうしかない。後はふつうに生き残りを保護して筆木も助けて後始末押しつけて日本国国民の皆様方には俺たちと議長たちが共同で書いた草案通りに演説ぶっこいてそれで終わりよ。後のことは後の世代の若い連中に任せるさ。

 はは、あのケバい無能オバタリアンにもやっと出番が回ってきたってわけだ。国民からの憎しみを引き受けてもらうスケープゴートとしての役割がな』

「・・・・・・結局最後の最後でおいしいとこだけぜ~んぶ持ってちゃうあたり変わりませんよね、伊能の叔父さまは。死んだら地獄行き決定してますよ、きっと」

『そうか? まぁ、決定してるんだったら仕方ないな、どうしようもない。変えさせようがないからこのまま突っ切っちまおうぜ。

 死後の進路で悩まなくてよくなったなら、次は死ぬまでの進路を考えるのが健全な生き方ってなもんだ』

「はぁ・・・・・・なぁ~んか久しぶりに罪悪感がズッシリと肩に来たな・・・誰のせいなんだろう・・・?」

『お? いまさら罪悪感に苦しんでるのか若人よ? だったら年長者にして経験者からのありがたーいアドバイスだ。耳かっぽじってよく聞いときな?

 ーー人間、生きてりゃその内人生は終わる。終われば死ねる。

 だが、それがどんな終わり方をするかは自分じゃ決められない。聖人が豚みたいにのた打ち回って苦しみながら殺されることもあれば、どうしようもない極悪人がベッドの上で家族に泣きながら看取られるような幸せな結末を迎える場合だってある。

 そのどちらであろうとも、自分自身が幸せに感じるか不幸だと思うかは規定がない。死ぬときに分かることだし、それまでは誰にも分からん。

 罪への裁きなんてその程度のもんさ。他人が勝手に決めて勝手に裁いてくれる。他人事として捉えて他人事として生きていけい。

 どうせ罪悪感も含めて人の気持ちなんか他人にはダイレクトに伝わったりしたら恥ずかしいだけの赤っ恥黒歴史もん間違いなしな代物なんだから気楽に、な。HAHAHAHA!!』

「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 その日の更識楯無の書いた業務日誌。

 

「あの叔父にして、あの姪っ子あり。以上、終わり。疲れたから寝る。起こしたら殺させて頂きます(`へ´)フンッ。」

 

つづく


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