IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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今更ですが、今日って年末で明日が年明けでお祝いするモノなんですよね。今朝ようやく気がつきました。
でも何をどうやってお祝いしたらいいのかわからない。一緒に祝う相手もいない。

どうしよう・・・そうだ! 今年一番お世話になったのは読んでくださっている皆様なのだから皆様にお返しをしよう!
と、考えて書いた年末年越しお祝い編を投稿します。
真冬で年末なのに夏祭り回です。あまりの季節感の無さに自分自身がビックリしてますが、原作では秋の京都で止まってるのでどうしようもありませでした・・・・・・

お祝いなのでお気楽回です。ギャグと萌えだけで書きました。
ちょっとだけ乙女なセレニアをお楽しみください。


ノリで書いた番外編
年越しお祝い編「恋に焦がれる原作主人公」


 カラコロ、カラコロ・・・

 

 下駄の鼻緒がプツリと切れた、と言う歌詞があるそうですが、意外と頑丈なんですね下駄って。それに履き心地も悪くないし、日本的情緒が感じられるのも良い。

 正直、利便性やコスト面を勘案すると私生活において日常的に使用するのは不経済にすぎると思いますが、祭りや縁日へ行くときくらい履いてみるのも悪くないです。

 

「ーーここが篠ノ之神社ですか。

 鳥居に「しののの」と書かれていますが、先祖の方は漢字が苦手だったのでしょうかね? それとも、元は違う字が宛てられていたのに何かの事件で使えなくなり、別の字が使われだしたとか・・・?

 その場合、何らかの歴史ある宝刀が『いわくつき』だったりするんですが、実際のところどうなんでしょう・・・って、はっ」

 

 いかんいかん。自分がここに何しにきたのか完全に忘れて、いつも通りに無意味な思考へ没入してしまうところでした。

 

「せっかく本音さんから勧められたのです。せめて今日くらいは息抜きしましょう。

 ・・・帰ったらまた、あのお二人の相手をしなくちゃいけませんしね・・・」

 

 ついため息をつきたくなってしまう拒絶したい現実。

 でも、現実はいつだって理想の前に立ちはだかり、大抵の場合は現実が勝利を収めるものです。つまり私は戦う前から敗北確定している当て馬。

 誰が敗けを承知で挑むもんか。絶対に戦いを回避してやる。

 

「・・・とはいえ、縁日やお祭りなど来たことないのでドコに何があるのか分かりませんね。案内掲示板とかないものでしょうか・・・って、あれ? 織斑さん?」

「よっ、おつかれ」

 

 普段と異なり軽い口調で片手をあげながら挨拶してくるのは、我らが原作主人公にしてIS学園が誇る妖怪・首置いてけの織斑一夏さんです。

 今日は制服ではなく私服のようですね。いかにもラフなのが好きそうなイメージでしたが、実際に彼が今着ているのは甚兵衛姿。日本の祭りの正装です。いかにもラノベ主人公的なイケメン美青年な彼とはいえ、一応は日本人設定。

 黒髪黒目で体格的にも和服がとてもお似合いです。

 

「こんばんは、織斑さん。奇遇ですね、こんな所で。

 あっ、最初に言うべきでしたが、その和服姿とても似合っていますよ」

「そ、そうか? サンキューな、セレニア。

 お前も、その・・・ゆ、浴衣姿が似合ってて驚いてるよ。

 正直、なんていうか・・・すごくキレイだ」

「そうですか、社交辞令でも嬉しいです。有り難うございます。

 それと、気を使わせてしまったようで申し訳ありません」

「・・・・・・・・・」

 

 ・・・? なぜに無言? それもスゴく不満げな表情で・・・まぁ、いいか。

 ーーそれにしても、私に着物が似合っているというのは流石に無理がありすぎるでしょう。

 

 着物は体型を隠してくれるので胸の大きさはどうにかなれど、持って生まれた銀髪碧眼だけはどうしようもなし。どこから見ても日本かぶれな外国人がコスプレしてる風にしか見えません。

 

 キレイとかありえねぇー。ないない、絶対ない。有り得ない。

 

 とはいえ着物自体は結構好きなんですけどね。なんだかんだと言いつつも、母にねだって着付け教室にも通い、自分一人で着られるようになりましたし。

 身体が日英ハーフになろうとも心は日本人の大和魂。

 たとえ那由他の彼方にまで転生しようとも、日本大好きであることに変わりなし。・・・日本がない世界に転生しちゃったらどうするかは現在考え中。

 

「そんな事はどうでもいいとして織斑さん、今日はどうしてこちらに?

 たしか今朝のホームルーム前では篠ノ之さんと夏祭りがどうのと話していたようにお見受けしましたが・・・篠ノ之?」

「どうでもいいって・・・。まぁセレニアだと仕方ないのか・・・。はぁ・・・。

 ーーそう言うことだ。ここがアイツの実家で、俺たちが子供時代を過ごした思い出の地、篠ノ之神社。一応は俺とアイツが剣の道を同じくしていた頃、毎日のように道場で立ち会ったもんさ」

「へぇ~。幼馴染みとしては中々良好なご関係だったんですね」

「まぁな。アイツも子供の頃は伸び代があったよ。今なら抜かれる前に首を掻き取れるくらいに弱くなっちまったけどな。とはいえ、女首なんか取っても手柄にはならんが」

「そ、そうですか・・・」

 

 あ、あれ~? お、おかしいなー。会話前半と雰囲気が違いすぎるような気がするんですけど・・・。

 これじゃ完全に戦国武将との会話になってしまう。なんとかして話を逸らさねば!

 

「と、と言うことは篠ノ之さんが舞うという神楽を観覧されに来られたんですよね。

 でしたらーー」

「そうだ。舞を見てーーアイツを笑いにきた」

 

 クワトロ大尉ーーーーーっ!!!!

 なんか最近この人、いろんな戦争大好きキャラが被りまくってません!? お腹一杯ですからもういいよ!

 あと少しは空気読めよ! 分かるだろ! 今の話題を変えようとしてるんだって!

 いや、人のことを言う資格がないのは分かってますけどね!

 

「そ、それでしたらご一緒しましょう。舞が始まるまで時間がありますし、屋台を一人で見て回るのも味気ないですし。

 ーーそれに私が一人でお祭り見物してると迷子扱いされかねませんから・・・」

「そ、そうだな。それは大変だから気をつけないといけないな。

 わかった、一緒に行こう。エスコートは任せてくれて構わない」

「よろしくお願いします・・・」

 

 ・・・くそぅ、自分の自虐で自分が傷つくってどうなのよ・・・?

 空気を回復しようと思って自爆したら、空気と一緒に自分も粉々ってイヤすぎるし痛すぎるよぅ・・・。

 

「ほら! わたがしに焼きそばに焼きもろこしと一通りあるんだ! なにか奢ってやるよ!

 だから頼む、機嫌直してくれ! なっ?なっ?この通り!」

「・・・うぁい・・・くすん」

 

 ・・・念のために一応説明しておきますけど、泣いてませんよ?

 

 これは心の汗です。

 断じて涙ではありません。断じてです。

 

 大事なことなので二度言わせていただきます。

 

 

 

 

 

「おや、金魚すくいが出てますね」

「そうだな。やってくか?」

「遠慮しておきます。飼うところがないですし、金魚鉢は値段の割に場所ばかり取って必要性に乏しい。金魚自体も愛でるための魚にしては見た目があまり好みじゃない。

 なによりも「すくい」と言う名前が嫌いです。

 なんですか「すくい」って。まるで「救ってやる」みたいに聞こえます。ちゃんと「掬い」と書いていただきたいですよ、紛らわしい。命を売り物にしておいて何を救うと放言する気なんだか」

「そ、そうか・・・それじゃあ仕方ないな・・・アハハ・・・」

 

 

 

 

 

「焼きそば屋さんですね」

「そうだな。食ってくか?」

「こういうイベントの屋台で出てる焼きそばは原価を押さえて味も薄く、食品としてのグレードはB級グルメ以下ですからねぇ。お祭り気分を調味料にして美味しくなる類の食べ物です。

 お祭りを調味料にすれば何でも美味しくなるんでしたら、もっと安いのでもよくありません? お母さんから頂いたお小遣いを浪費したくないんですけど」

「そ、そうか・・・それじゃあ仕方ないな・・・あ、アハハハ・・・」

 

 

 

 

 

「射的屋さんですね、懐かしい」

「そうだな。やってくか?」

「・・・そうですね。せっかくお祭りに来たんですし、どれかひとつくらいチャレンジしてみたい」

「・・・! そうか!よし、払いは俺に任せとけ!

 一回300円? じゃあ1000円払うからセレニア一人に三回+一回やらせてやってくれ!」

「え、それだと織斑さんにご迷惑がかかりますし、お店側にもルールがーー」

「大丈夫! 俺バイトしてたから貯金あるし! あと、読み切り一位で大賞受賞して賞金100万入ったから!」

「・・・そうですか? それじゃあ遠慮なく」

「ああ! 遠慮せずにどうぞ!(た、助かった・・・)」

「おお、可愛らしい嬢ちゃんが次のお客さんかい。

 子供から金を取りすぎるのも気が引ける。一回分はおまけしとくよ!」

「・・・・・・・・・」

「ん? どした嬢ちゃん? 元気ねぇけど腹でも壊したか・・・って、おい兄ちゃん、俺をどこに連れていく気ーー」

「無論、地獄まで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・えぐっ、えぐっ・・・」

「・・・・・・(き、気不味い・・・)」

 

 私たちは現在、神社裏の林を抜けた先にある開けた場所にいます。

 説明するまでもなく、涙ぐんでるロリ巨乳(着物で大きな胸が隠れるから、ただの幼女)を連れ歩く男子高校生という事案確定な場面を他人に見られたくないからと、気を使って人気のない場所まで連れて来てくれたのです。非常にありがたい。

 

 とはいえ私も所詮は感情の動物たる人間。悲しむ時だってありますし、泣きたいときも普通にあります。

 もちろん、涙が止まらない時だってちゃんとあるんです・・・。

 

「えーと・・・なんだ。その、あー・・・」

「・・・えぐっ・・・えぐっ・・・ぐすっ」

 

 なんとか泣きやませようと慰めの言葉を探しているらしい織斑さんには申し訳ないですが、たぶん今は無理です。

 何故だか今日に限って感情が抑えれない・・・嬉しいとか悲しいとか、普段はあまり感じないことまで感じてしまう。

 別に今日が特別な日じゃないのに。平凡な夏休みの一日なのに。

 なのに何故か今日を特別に感じている私が微かに、でも確かに居るのもまた事実。

 

 ようするに・・・泣きやめません。子供みたいに嗚咽し続けてます。

 みっともないですし、恥ずかしくて仕方がないですが我慢できないのですからどうしようもありません。

 

 しばらくは現状維持をーー

 

「・・・えぐっ・・・ん?」

 

 ふと、視線を感じて目を向けると、織斑さんが珍獣でも見つけたときのような顔で私を見つめていました。

 なんですか、その表情。私の無様な姿を笑いたいなら笑えばいいのに。

 

「・・・なんですか?」

「いや、意外だなって思ってさ」

「・・・は? なにがです?」

「セレニアが普通の女の子みたいに泣いているのが、だよ」

 

 ・・・? なに言い出してんですかこの人? 今更すぎて引くわ。

 

「みたいもなにも、私は最初から普通の女子高生でしたよ。出会ったときから、ずっとそう言ってる。「私は無能で無力なFランクでしかないですよ」とね」

「確かにそうだけど・・・それ、誰が信じるんだ?

 どう考えてもお前が普通だと思ってるのはお前だけだぞ」

「だとしたら、皆さんの目が節穴なんでしょう。

 私は無能で無力です。自分一人では何も出来ず、何一つ成すことが出来ない平凡な凡人。

 ごく普通の一般人で、だからこそ織斑さんたちを必要としている」

「・・・!」

 

 ああ、ダメだ。この先は言っちゃダメです。

 これ以上は私の存在の、転生者という特殊生物について触れてしまいかねない内容が含まれてしまう。

 でも、我慢できない、しきれない。全力で押さえ込んでも秘密の中枢しか隠せない。

 

「私は確かに特殊な存在ではあります。普通の意味での普通では決してない。

 でも、無力です。何も出来ない。

 世界に影響を与えうるかもしれない立ち位置にいるのに、自分が与えたかもしれない影響を自分で解決することすら決して出来ない役立たずです。

 もしかしたら今も誰かに影響を与えたかもしれない、与えているのかもしれない。何も出来ていないのかもしれない。しれないしれない・・・私が把握している事なんて、把握できる事なんて何もない。

 だから、貴方たちが要るんです。貴方たちじゃないとダメなんです。

 私には貴方たちが必要で、私は“貴方たちのことが欲しい”んです」

「・・・・・・!!!」

 

 あれ? なぜだか織斑さんが右手で鼻を押さえてしまいましたね。どうしたんでしょうか?

 ・・・あと、何故だかさっきから視界が回るのでしゅが、ろうしたんでひょう・・・。

 まるれ、酔っぱらっひゃときみたいにゃかんりに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「うにゃ~・・・」

「せ、セレニア!? ・・・って、酔って寝てるし。

 もしかしてアレか? 箒の神楽を見てから配られてた甘酒か? 甘酒で酔ったのか?

 ・・・ここまで来ると才能だぞオイ」

 

 体力がないのは知ってるが、これは体力関係なさ過ぎだろ。身体が弱いのも関連してない。

 ただの萌え体質だ。天性の萌えキャラだ。マジで惚れるから止めてくれ。俺にだって我慢の限界はある。

 

「うにゅ~。にへへ~」

「・・・・・・」

 

 ・・・はっ! 今俺なにしようとした!?

 キスか!?キスなのか!? 酔って寝ている女の子の唇を奪おうとしてたのか!?

 恥を知れ織斑一夏! お前は本物の武士たる戦人だろうが!

『武士は犬ともいえ、畜生ともいえ、勝つことこそが本にて候』という言葉を忘れたのか!

 

 ・・・・・・あれ? 別に問題なくないか?

 うん、問題ないな。

 

「それじゃあ、いただきまーー」

 

 ガササっ!

 

「!?」

 

 咄嗟に身を躱す。

 攻撃地点である夜空に目を向けると、そこには俺の宿敵が右手で光の玉を弄びつつ、目視できるほどに濃い密度の殺気を纏って俺を睥睨していた。

 

「ふふふ、織斑君は悪戯好きだなぁ。でも、ダメだよやりすぎは。子供の火遊びが大の大人を殺すことだってあるんだから。

 それなのに火薬庫の隣で花火遊びなんかしてたら“事故死”したって自業自得になっちゃうよぉ?」

「・・・へっ。相変わらず桁違いの殺気だな凶戦士。

 正直、今はまだお前と戦うには時が満ちてないんだがなーー」

「じゃあ、逃げるかい? 背中を見せて尻尾を巻いて全力逃走する? ボクはそれでもいっこうに構わないけど?

 ーーどうせ、虫けら一匹見逃したところで大差ない。彼女はボクの・・・ボクだけの花嫁だ。誰にも渡さないし、汚させない。

 彼女に手を出すようなら潰すよ? 虫のようにプチッと、ね」

「はっ、負け戦こそ戦人の死に場所として相応しい。

 ーーいいだろう。お相手しよう、フランスの凶皇子シャルロット・デュノア。

 お前の首ほど死出の旅路へ持って行くのに相応しい手土産はない」

「たかが下級戦士が言ってくれるじゃないか。

 いいだろう、だったら教えてあげるよ。本当の死と絶望をねぇぇぇっ!!!」

 

 

 

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之神社消滅。奇跡的に死傷者はなし。

 昨今、日本国内でも活動を始めた武装テロ組織「亡国機業」の関与している可能性があると匿名での垂れ込みが各新聞社宛てに送りつけられ、各社は一斉に報道。号外も出たため日本政府は対応を迫られている。報道管制を敷くには遅すぎた。

 

 

「ご、ご先祖様から受け継いだ篠ノ之神社が・・・・・・あふんっ」

「ゆ、雪子叔母さーっん!?

 おのれ、許さんぞテロリスト共めが! 今に、今に見ているがいい!

 必ずや・・・必ずやお前たちに復讐してやるからなーーーっ!!!」

 

 なお、箒の叔母である四十代後半の女性は倒れた二日後には回復し、今では神社再建のために忙しく走り回っているそうです。

 担当医曰く「死亡は確実だと思われたが、なぜか理由もなくいきなり完治してしまった。自分にも訳が分からない」とのことです。

 

おわり




今話はお祝い編なので本編とは関係なしです。
本編新章は来年から始まります。

ダメな娘ですが、来年もまたセレニアを宜しくお願い致します!
では、皆さん。健康にはくれぐれも気を付けて、良い年越しと良い年明けを! 

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