IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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投稿の仕方に不備があったとご指摘を受けましたので投稿し直させて頂きました。ご容赦いただけたら幸いです。

追記:話数を通しで見たら1話だけポツンと浮かんでる状態は逆に解り辛くしているだけだと気付きましたので『章分け』を解除しました。
その際に「念には念をと」投稿し直してあります。内容は昨日と同じですのでお間違いなきようお願いします。
こちらの不手際が元で迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした。


エピローグ1「強いからギャグでやり直せる、父娘でニューゲーム」

 人でごった返す・・・と表現するにはまだ遠く、往事の賑わいが帰ってきているのを実感させてくれる程度に留まっている二度目の敗戦と戦後復興を経験中の日本にある羽田空港。その一隅に今の私はいました。

 

 あれから少し髪が伸び、髪型も時折だけですが変えるようになった点を「女の子としての自覚が出てきた」とナターシャさんや楯無さんに指摘されるようになって数ヶ月が経過してますけど・・・・・・あの頃までの私って、そんなに女の子っぽくなく見られてたんですね。はじめて知りましたよ。自分でも生まれ変わってから色々学んで実践してきたつもりだったのに~。

 

 

「・・・っ!! シャルロット! よく無事で・・・・・・っ!!!」

「お父さん! 久しぶりだね、お父さん!」

 

 ーーーまぁ、何はともあれ今日は久々の再会です。

 私とかつての級友たち・・・ではなくて、今や5校新設されたIS学園分校の内4番目の学校で初代生徒会長に就任されたシャルロット・デュノアさんと、そのお父さんであるアルベール・デュノアさんが開戦までも含めて三年近くぶりに父娘で再会できる運びとなったのです。

 

 そして私は彼女の付き添い・・・などという綺麗なものでは全くなくて人質役。「変なことしたらコイツ殺すぞ?」と言う意味合い込めて黒服二人が左右にたって警護という名の監視任務中。下っ端からVIPになっても良いこと全然ありませんでしたねー、本当に。

 

「シャルロット・・・!! ーーあの時は本当にすまなかった! 謝って許してもらえるとは思っていないが、それでも今だけは謝らせてくれ! 本当に・・・本当にお前にはすまない事をしてしまった・・・!!!」

 

 至近距離まで走ってきたら、顔をクシャリと歪めて泣きだしそうな表情へ変わり、最後は土下座せんばかりのスゴい勢いで頭を下げてくるデュノアパパさん。変なところで日本風な謝り方が流行っているのはこの世界の特徴なのかなー? 日本語がどこに行っても必ず通じるのと同じような理屈によってね。

 

「会社と社員を守る責務を負った社長として、間違ったことをしたつもりはなかった!

 ・・・だが、失った今ならわかる。決断自体は正しくとも、お前に自分の意志を言葉にして伝えなかったのは私自身の臆病さ故だったということが!

 ーー私は長い間ほったらかしにしていたお前と言葉を交わすのが怖かったのだ。恐れていたのだ。本音をさらして拒絶されるのが怖くて怖くて仕方がなかった。だから逃げたのだ! 社長としての責務を言い訳に使い、父親としての責務を果たしていない娘との面会を・・・。私は心の弱い臆病な男親だったのだな・・・・・・」

 

 最盛期と比べたら取るに足らない数とは言え、人気が全くないわけではない空港ロビーで厳めしい外見をした中年のオッサン男性が十代半ばを少し越えただけの娘に対して真剣に頭を下げる姿は周囲からの共感を呼び、隣にたってる黒服さんも少しだけ感じ入るところがあったようです。僅かですけど表情がブレかけてましたから。

 

 

 以前までならこう言うとき、皮肉気な考察しかしなかった私。

 でも時代は、世界と共に代わりました。今はもう、病的に人を疑い世界を疑い疑心暗鬼にかかって被害妄想の精神病質者並に戦争理論を持ち出さなくても良い平和な世の中。

 武器よさらば、戦争にさようなら。流し流させた血の量も忘れて今一時だけでも平和な暖かみを噛みしめよう。世界よ、人類よ・・・・・・これが真の世界平和ですっ!!

 

 

「母さん共々お前には迷惑ばかりかけてきてしまった・・・・・・今さら償いだなんだと言う資格がないのは重々承知しているのだが、それでも敢えて言わせてほしい!

 シャルロット! 私と一緒にフランスへ帰ろう! そして一緒の家で二人で暮らそう! 幸いにも今の私は会社の中でそこそこの地位にあり、収入も安定している。高すぎる地位は望まないし、お前との時間を何よりも優先して余生を生きると約束する!

 だから・・・・・・っ!!!!」

 

「えい☆」

 

「ぐほはぁーーーーーーーーーーっっ!?」

 

 

 ・・・かわいらしい掛け声と共に放たれたデュノアさんによる、猫の手みたいな女の子パンチ。それだけで数十メートル先まで吹っ飛ばされていって、壁だか柱だかに頭からぶつかり、理屈は不明なれど激突した瞬間にガンッ!という空き缶が凹んだような音と、「ガンッ」と書かれた吹き出しが演出ででてくる幻覚を見せられまでしました。

 

 なんとなく、「うるさい!」の一言でリングの外まで吹っ飛ばされていったミスター魔王さんを彷彿させられる光景を前に、隣の二人は現実を受け入れられなかったのか慌ててサングラスを拭いはじめました。

 このぐらいで驚いてたんじゃ神経持たないんですけどねー、私の監視役って。

 素直にマイントイフェルさんから直属の部下を借りてくれば宜しいですのに、上司が政治にこだわりすぎるわりに現場を知らず、部下の健康面を重視しない人物だと下につく人たちが困るんですよねー、分かります~。

 

「あだだだだっ!? あだだだだだぁぁっ!? し、シャルロット! お、お前・・・いきなり一体なにを・・・・・・っ!?」

「もう、お父さんてば性急すぎるんだから。物事には順序があるんだし、それを提案する前にやるべき事が他にあるでしょ?」

「・・・・・・??? ーーーーお、おおそうか! そうだったな、すまなかった。確かにお前の言うとおりだ。私としたことが喜びのあまり、段階を数段飛ばしで駆け上っていたようだな。面目ない・・・まったく、これで嘗ては世界第三位のシェアを誇っていた会社社長だったのだから笑い話にもならんと言う奴だな。

 どうやら、ようやく復旧した日本フランス間の連絡便を確保したことで浮かれすぎていたようだ。許してくれ、シャルロット・・・・・・」

「お父さん・・・ううん、いいんだよ。判ってくれただけで十分すぎるほど僕は嬉しいんだから・・・っ!!」

「・・・シャルロット! こんなに優しいお前の気持ちを言われなければ判ってやれないダメな父親で本当にすまない・・・!

 ーーーそうだよな・・・何よりもまず最初にすべき事は母さんの墓参りと謝罪と花を手向けることに決まっているよな・・・・・・」

 

「え~い☆」

 

「ほげらべすべはぁっっ!!??」

 

 

 またしても吹っ飛んでいくデュノア元社長。

 絶対に死んでる距離を飛ばされて、絶対に死んでる高さから落下したのに鼻血だけで済んでる辺りはシャルさん的手加減によるものなのかなぁ~。うーん・・一切合切理解不能。だから私はこの件に限り、考えるのを放棄しました。

 

 ・・・ですので左右のお二人から「おい、これどう言うことだよ説明しろよ」的な視線を向けられても今の私にゃ答えられません。

 何を見ても、何を聞いても、何を知っても、何も言わず。それこそが戦場で生き残る最善の策だとグリザイヤで言ってましたので実行するだけです。

 新たにIS学園本校の生徒会長となった身として保身も覚えなければならない私としては賢明な判断だったと自己採点しておきますよ。後は知らん。

 

 

「じゃ、ジャルロッド・・・? いったひ、なにほ・・・・・・?」

「やだなー、もうお父さんったら平和ボケしすぎで親として当たり前のこと忘れたりしちゃダメなんだよ? お母さんに対して謝るのは大前提なんだから、そんなの僕が求めるわけないじゃないか。僕が求めていたのはもっと別のものなんだよ?」

「べ、別のもぼ・・・?」

「うん」

 

 笑顔でうなずいてデュノアさんは、デュノア元社長の前に膝をつき、右手の平を上に向けた状態で、母親が死んでから呼ばれるまで会ったこともなかったという父親に対して突き出しながら、満面の笑顔で平然と少しだけ嬉しそうにハニカみながらこう告げたのでした。

 

 

 

 

「生まれてから一度ももらったことがない、お小遣いと養育費。全額耳そろえて支払ってちょーだい☆ おとーさん♪ 親子の話はその後ジックリすれば問題なしだよ★」

 

 

 

 

「なんか娘が天使の笑顔でものすっげぇ俗っぽいこと言うようになってるーーっ!?」

 

 

 愛娘さんの変貌ぶりに驚愕せざるをえない、小遣い踏み倒し男親社長のアルベールさん。

 驚くのも無理はありません。なにしろこの世界の人たちで当初からこの手の話に乗ってきてくれたのは母と妹ぐらいなものでしたからねぇー。親から貰うことは余り考えない人たちばかりだったのは、原作では主役張ってた織斑さんの価値基準が登場した直後はそうだったからなんでしょうかね?

 ・・・・・・その場合はまたしても私のせいで今のデュノアさんにまで遠くとも確かな悪影響がーーーーーうぅぅ、なんだか久しぶりの胃に激痛がががががが・・・・・・っ!!!

 

 

「それに、僕が通ってた小学校の学費とか学外学習の移動費とかって、苦しい生活の中でお母さんがコツコツ遣り繰りしてきたから出来たことであって、あれのせいで無理がたたって死期が速まったって言うんだったら慰謝料とか賠償請求とか色々払って貰うために出るところ出たっていいんだよ?

 今の僕はこれでも一応、世界最強を越えてるんだから、道理を力付くで通させるぐらい大した苦労じゃないんだからね?」

「い、いやしかし待て。待つんだシャルロット、冷静に話し合おう。

 そもそもお前は国家代表候補生としてフランス政府から公式に認められていたわけで、早い話が失業して0からじゃないけど1から再スタートせざるを得なかった私よりかは懐豊かなはずだと思っていたのだが・・・?」

 

 デュノア社長の最もらしい言い分。

 然れどもそれは『払わされる側が正しいと信じたい正当性』であって、『払って貰いたい側の正義と真実』とは相容れるはずが御座いません。

 

 ハッキリ言いましょう。無理です。

 「してもらう側」と「させられる側」の認識は決して一致することはなく、互いの距離をどうやったら少しでも縮められるだろうかと、一生かかっても解決しない問題を一生かけて解決目指して努力していくのが人間関係というもの。

 「あっちとこっちが違うから争っている」状況の中で正しさなど口にしたところで余計にこじれるだけなんですけどねー。どうして判ってもらえないのかなー、不思議だなー。

 

 

「フランス政府が出してくれてたお金は、僕じゃなくてフランスの代表候補生『シャルロット・デュノア』に向けての物だったはずでしょ?

 内訳も、お父さんをその他一人に分類した国民すべてが払ってくれてた税金で構成されてるわけだしね。

 国が希少な人材を厚遇するのに多額の税金を注ぎ込むことと、一人の男親が生まれてきた娘に対してお小遣いも払ったことがないくせに上から目線で「あーしろ、こーしろ」って言いまくって極東の海に浮かぶ島国まで出張させるのは流石にやりすぎだったと今では僕はそう思っているんだ。

 他人が自分たちの都合で払ってくれてた税金と、世界三位のシェアを持つけど潰れかかってる貧乏会社の社長さんが、給料も支払わずに「娘だから」と言う理由だけで何やってもいいだなんて考え方は間違えまくっているよねー?」

「う・・・・・・そ、それは・・・・・・」

「一つだけとは言え、命をこの世に産み落とすのってそんなに安易な覚悟でやっていいことじゃないもんね? 人の命は大事だもんね? 守るだけじゃなくて作るときにもよく考えなくっちゃダメなんだよお父さん。

 僕たち子供は夫婦の愛の結晶じゃなくて、一個の生命、一つの命、この世に生まれた物食い、物産み、物思い、物言うだけの生き物なんだ。

 物を消費し続けて生き続けられなくなったら只の物になっちゃう脆弱な存在。それが僕たち人間なんだよ? お父さん」

「・・・・・・」

「生き物と物との違いはね。ただ、「求めるか求めないか」だけなんだ。生きているなら求め続けるはずだから。

 物を、幸せを、誰かと過ごす幸福な一時を、生きている限りは求めずにはいられない。欲しいと思わないではいられない強欲な存在。それこそ人間なんだよ。

 そして他の誰かと関わりながら生きていきたい以上、その場所は社会に求められるしかないんだ。人は社会的生き物だからね、こればかりは仕方がない。社会で生きていくのに何が必要なのか? 愛か優しさか親切心か? ・・・違うよね?

 だって、違うって思ったからお父さんは僕を売り飛ばして会社の維持費に使おうとしたんだもんね?」

「・・・っ!! ち、違う! それは違うぞシャルロット! 聞いてくれ! 私があのとき選んだ選択肢はそんな人でなし行為ではなく・・・・・・っ!!!」

「目的はどうあれ、選んだ行為自体は企業スパイと娘の身売り。それだけで説明できちゃうことだったんじゃない?」

「・・・・・・っ!!!!」

 

 デュノアさんの言葉。これもまた正論。

 基本的に「想いが大事で結果は問わない」なんて考え方のもと選んだ行動が禄な結果を招いた試しはないのでね。むしろ盛大に他人を巻き込みまくって壮絶な無理心中したあげくに英雄譚として語り継がれていること多しな世界の七不思議。

 

 あれは一体どういう理屈なんでしょうかね~? 敗軍の将が最期だけ綺麗に飾って己の無能と死を美化する行為を賞賛する心理は生まれ変わった後でもサッパリ判りません。「生きてこそ得ることの出来る栄光」って、自己陶酔の末の特攻じゃないと思いたいんだけどなぁー。

 ・・・・・・まぁ、子供の頃に「カッコいい!」と思ってしまった感想が未だ消えたわけでもない私の言えた事じゃないのは分かってるんですけどね?

 

 

「人は誰だって人を利用して生きている。

 でも、それは助け合いだ。悪いことなんかじゃ決してない。人は一人で生きていけない以上、誰かの手を借りるため嘘や方便をつかって時には利用するのだって必要になるのも分かる。

 人は人に借りを作り、その人への借りを返すため別の人にも借りを作っては返していく。そうやって人の輪が広がっていくのはスゴく良いことだよ。僕は嬉しい。

 けどーーーーーあの時お父さんは僕に、何一つとして払う気がないまま借りていったよね?

 自分の命と財産をフランス政府相手に抵当に入れただけで。僕には何も返さないまま死ぬ覚悟をしていたーーー卑怯だよねそれ? 商売人としてモノすっごく」

「・・・・・・・・・っ!!!!!!」

「僕一人とラファールを付属して日本へ送り、一夏君に預けさえすれば僕だけでも助かるだろうと算段したのは今の僕なら分かる。理解が出来る。

 これでも設立されたばかりの分校を運営している身だからね。予算のやりくりとか大変なんだよ? 前より偉くなったのに毎日毎日どこかの誰かに頭を下げにいくって大変なんだよね、スゴくよく分かるよ偉くなっちゃったから」

 

 ・・・はい! はいはいはーい! 私も賛成します! 大賛成しますよ、その意見! 分不相応な地位についちゃった小物の苦労はよくわかります! ええ、本当に! 心の底から共感しますよデュノアさーん!!

 

「でもさぁー。だからこそ重要だと思えるようになったんだよね、計画性の大切さがイヤと言うほど身に染みてる今日この頃なんだ・・・・・・。

 返す気のない借金とか、誠意だけ示してお金借りれると思いこんでるオ馬鹿さんとか、『お金に苦しんでる人がいるから支援しろ支援しろ』って自分の勤めてる会社が潰れる可能性も考えずに自己満足な正義感で物言う人たちって・・・・・・ほんとーにムカつく時あるんだよね。分かるよお父さん。今の僕なら『あの時のお父さんの気持ちは』よーく分かる・・・・・・本当に、コロシテヤリタイクライニハ」

「ひ、ヒィィィィィィィィィィィッ!?」

 

 デュノアさんブラック爆誕。最近この人、新しい変化のバリエーションが急激に増えだしたんですよねー。時間が経過したせいでしょうか? それとも状況が変わって、敵の種類も変わったから?

 変化する環境に適応して進化していけるかどうかで、生物的優劣は決します。伝説のスーパーフランス人(とかなんとか言ってましたね、だいぶ前に。意味分かりませんけども)であるデュノアさんにとって環境に適応するとは、新たな戦場に適合して進化していくこと自体を意味しているのかもしれません。

 

 そう! たとえるなら偶然手に入っただけの槍で結構な数の強敵に勝ち続けてしまったシャルルマーニュ十勇士の一人アストルファの様に!

 

 

 ・・・・・・ごめんなさい、言ってみたかっただけで特に意味はない人選だったです。気に入ってるキャラと男の娘つながりで絡めてみただけです。悪気はないので許してテヘ☆

 

 ・・・・・・・・・・・・更に恥ずかしい。やはり元男が女の子らしい挙措とやらを意識してやるのは失敗の元です。今まで通り自然体で生きましょう絶対に。

 今のままだと恥ずか死ぬ・・・・・・キュ~!(>_< )

 

 

「だからね、おとーさん。お金ちょーだい☆

 今学校にお金まったくないの。それこそ一銭だって無駄に出来ないほどお金ないの。日本そのものがお金なくなっちゃってる状態から再出発している最中だから、ない袖は幾ら探しても無いままなの。袖を売った方が遙かに役に立つレベルで全くこれっぽっちもお金がないんだよ。

 だからさ、お父さ~ん。お金ちょうだい、お金ー! 生まれて始めてする一生のお願いだよ! 今までのツケだけでもいいから払ってくださいお願いします!」

「娘にはじめてされたお願い事が「お金ちょうだい」だった男親が流す悲しみの涙でできたナイアガラの滝!」

 

 おー、すごい。これぞまさしく世界最大の滝ナイアガラ。この場合、滝は滝でも『涙滴』で出来てますから韻を踏んでいてよろしいですね。

 

 ・・・・・・もしかしなくても最近の私、当初の織斑さんに似てきてませんか? い、イヤだなぁー・・・・・・。

 

「えー、別にいいじゃんこのぐらい。他の子たちだったら物心ついた時には言ってるんだよ? 『お父さん、お小遣いちょうだい!』って。

 悪意もなく自覚もないままにお金を無心にくる小悪魔たちより、罪の意識がある僕の方が遙かにマシだとお父さんだって思うでしょ? お金に苦労した会社経営者だもんね! わかるよ!」

「わからない! 会社を失って会社社長じゃなくなった今の私にはお前の言ってることがサッパリ判らない! いや、むしろ分かりたくない! 子供は無知で無邪気で悪気もなく親に小銭をセビりにくる方がずっと可愛いい!」

「そんなの親側の勝手な都合の押しつけじゃないか! 夫婦のメンタリズムだけで産み落とされて、生まれた後になってからリアリズムを持ち込まれて放逐されて、自分の身が安全になってから都合の良い幻想上の娘を求め出すなんて、お父さん勝手すぎるよ!」

「何とでも言うがいい! 親とは子供に夢を見る生き物なのだ! こう育って欲しいと願いを込めて人格も知らないまま了承も得ずに勝手な願望の押しつけにより生涯使い続ける名前を決めてしまうほどに、勝手きわまる存在が親なのだ!」

「あー、開き直ったーっ! お父さんズッコーイ!」

「ふはははは! やっと分かったかシャルロットよ! 大人とはズルい生き物なのだ! 大人しかなれない親とはズルい生き物の代表格なのだ!

 だからこそ、何度でも親は子供に求め続けるのだ! 自分の理想を! 自分の願望を! こうあって欲しいと願いながら! こうなってくれたら幸せに違いないと決めつけながら親なりに全力の想いをぶつけ続ける! それが親という生き物なのだ!

 子供に夢を押しつけなくなった、自称『物わかりのいい親』を名乗る共同生活者とは違うのだよ! 共同生活者とは!」

「言ったなーっ! よーし、だったらそこにある無人っぽい個室で思う存分語り明かそうじゃないか! 互いの思いを! 互いの事情と都合を! 妥協点が見いだせるまで何日間だって話し続けてあげるから覚悟してよね! 言っとくけど僕の体力は超スッゴいからね!?」

「おうさ! 望むところだ! 私とて一代で成り上がった元貧乏零細商人出身者、段ボールに特売で買ったジャムだけ塗って食べて戸口を凌いだ青春を忘れたわけではな決してない!

 壮年から中年に達しようとしている漢の意地を見せてやる! ゆくぞーーー!!!」

「オーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」

 

 

 ノッシ、ノッシと、仲良く空港の空き部屋を無断使用しにいくフランス人親子ふたり。それを見送ることしかできない処刑役にして警護役な首縄係ふたり。・・・何なんでしょうね、このヘンテコリンな格差って・・・。日本人だから精神ひ弱とか? ーー日本の首狩り妖怪が身近にいるから微妙だなー。

 

 

 はぁ・・・・・・。

 

 

「さて、と。それでは私たちは帰りましょうか? 私のIS学園本校でも仕事が山積していますので、今日の主役が見えなくなってしまった以上ここに残り続けることに意味はないでしょう?」

『ーーーえ!? あ、いや、そう言うわけにもいかない。我々には君たち二人ともを護衛するという任務があってだね・・・』

 

 実際には「君を人質に取ることでいざというとき周囲にいる人たちと日本国を守るという密命が」とは、職務的にも立場的に言えない不自由きわまる人たちです。

 職務に誠実な点だけは好意に値しますけど・・・・・・今だけは少しだけイジワルするのに利用させていただきますね?

 

「そうですか、では仕方がありませんね。“どちらかお一人だけこの場に残って”彼女を守ってあげてください」

『・・・・・・え?』

「どうされましたか? その為の二人配備なのでしょう? 私たち二人がバラけて行動したときにも対応できるようにと言う配慮で人手の足りない中を二人も護衛のために回していただいたと解釈していたのですが、違いましたかね?」

『い、いやそれは・・・違わない・・・と、思うんだけども・・・・・・』

 

 嘘ですけどね。私の言ったことの方こそが嘘です。

 本当の本音は「私たち二人が別々の方向に逃亡したときのために追えるように」と言う名目の元「どちらかを犠牲にしてでも必ず残った一人が任務を果たして本部に危機を知らせること」。

 付け加えるなら「彼ら二人が同時に制圧され無力化されたとしても、二人諸共に後方から私たちを監視しているユニットも複数ついてきているでしょうし、この場に一人の故老が二人残ろうが大差ない。どちらかが死ぬだけで任務は果たせる」と言うもの。

 

 そうなのです。この二人はどちらを選んでもいい。“任務を果たすために命をかけれるというなら”どちらを選んでも一向に構わない。本当に“お国のために死ねるなら”ーーーですけどね?

 

 

『や、やはりダメだ。そう言う任務内容の変更は本部に確認をとってからでないと出来ないのが日本のやり方なのだからな。シビリアンコントロールの重要性は学校でも習っているだろう?』

「そうですか。では仕方がありませんね、残りましょう。

 いや~、本音を言っちゃいますと「残る」と言ってくれて助かりましたよ本当に。お二人とも、心の底からありがとう御座います」

『・・・へ?』

「いえ、実はあの人、私たちの中で一番感情の抑えが効かない人でしてね。普段はおとなしい分、怒ると超怖いのです。それこそ『怒髪天を突く』感じで」

『ほ、ほう? そんなに凄いモノなのかい?』

「ええ。新聞でもたまに見かける『空飛ぶ金色のオーラに包まれた金髪の美少女戦士』に変身しちゃうぐらいには」

『!? あ、あの怪奇伝説まがと噂されながら証拠となる破壊後があちこちで発見されていて、政府の命を受けた我々公安部が厳重に情報統制が敷いている、あの怪人物が彼女だったと言うのか!?』

「ええ、そうですよ? あれ? もしかして知らなかったんですか?」

『・・・・・・・・・(サーーーッ/注:血の気が引いて青ざめていく音)』

 

 

 うん、まあ知りませんわな普通なら。夜空を高速で移動して去っていく怪人物なんて征服王ライダー様並に捕捉不可能です。見つからないのは自然の道理。そして証拠を消さずに去っていくのも野菜人ぽくていいですよね。

 『龍の玉』で神様呼び出して証拠隠滅願う以外に完全犯罪のやり方知らない人たちですから当然です。・・・よく考えてみたらもの凄いスケールの大きな完全犯罪の証拠隠滅法だったんですねあれって・・・。

 

 

「彼女が暴れ出したら空港ぐらい一瞬で散り一つ残さず消滅させられてしまいますのでね、そのとき道連れになって死んでくれる方が二人も側にいてくださるのは本当に心強くて助かりますよ。

 お二人とも、私まだ死んだこと無いので、あの世というモノがよく分かりませんし道案内のほう、どうかよろしくお願いしますね?」

『・・・・・・(ガタガタガタガタ・・・)』

「ーーーあ、そう言えばなのですが。今思ったんですけど、この件について本部とかいう人たちはご存じなのでしょうか? もし知らない可能性があるなら早めにお伝えしといた方がよろしいかと存じますよ? ちょうど二人いることですし、短時間離れて連絡してから戻ってくる分には問題ありません」

『・・・・・・っ!!!(目がキラーーーッン!)』

「そう言えば今回の戦役でも公衆電話が思いの外役に立ち、あちらこちらに新設し直されたと聞きました。先ほども空港ロビーの脇で見かけた気がしたのですが、行くだけ行ってみられるのは如何でしょう? なぁに、歩いて二分もかからない至近距離に壁を挟んであるだけの場所です。手間も時間もかかりゃしませんよ」

『・・・・・・(互いが互いを生け贄にして自分だけ助かろうとしている目をぶつけ合ってる)』

 

 

 そして始まる、丁寧な口調で礼節を守りながら行われる『事故の主張の正しさ証明合戦in逃げるための口実(本音は連絡するフリして「実は・・・」と口実設けて逃げ出す気まんまん大戦)』が、私を挟んだ頭の上で静かに暗い熱を保ちながら繰り広げられていくのでした。

 

 頃合いを見計らって私から「私が黙っていればすむ話なのでしょう?」と持ちかけて三人一緒にこの場を退去。後でこっそりマイントイフェルさん子飼いの駐在武官さんに告げ口して終わりとしましょう。彼には直接報告できるよう合法的に設置された緊急ダイヤルがあるわけですから使わなければ勿体ないですよ、税金が。

 

 

 人選ミスをした日本政府も悪く、そのようなミスをする政府に投票した国民たちも悪い。告げ口なんかで同民族を売った私のことも悪くいう生徒は必ず現れるでしょうし、今回は何もしてないアメリカだけが僅かに得する程度なら十分に平等な裁きの顛末と呼びうるもの。

 

 ですが私はこの場でハッキリ言っておきましょう。誰にも聞こえないよう小声でコッソリ堂々と嘘偽り無い本心を。

 

 

「・・・・・・十数年ぶりに実現できたはじめての親子喧嘩、存分に楽しんできてくださいねデュノアさん」

 

 

 喧嘩が出来ない仲のいい人間関係なんて存在しません。喧嘩をしなくていい仲のいい人間関係だったらあるでしょうけども。

 親子だから、友達だから、家族だから、恋人だから。これらを使って相手にエゴを押しつけるとき、喧嘩で抵抗できないのは仲が悪いと言うことです。

 あるいは相手を対等な親しい者ではなくて、『自分を下に見下ろして上から目線で押しつけてくるのが当たり前に考えている独裁者』と見られているという事。

 

 私も、そしておそらくは他の人たちも、奴隷とは友達になれません。心が奴隷の人を対等な人間であると思い続けることは不可能だからです。

 対等な見ている相手には、同じように自分のことも対等に見て欲しいという気持ちがなければ対等な友情は成立できない。

 また、相手を欠点ばかりが目立つ愚かな人物だと断定していようとも、たった一つの長所があって、それは余人にとってはどうであろうと自分にとっては何よりも代え難い、他の誰も持ってない最高の長所だと思えるのであれば他人に否定されるような差別的関係であろうとも、彼らの中では対等な関係が築けているのでしょう。

 

 

 しょせん友情もまた感情です。怒りや憎しみ、殺意などの醜い気持ちと発している場所は同じくする物。愛情も親子愛も家族愛も愛は愛であって感情ですから、同じ理屈で説明が付いてしまう程度の物。

 すべての感情は平等に自己満足であり、本来であるなら自分以外の他人にとっては大した価値のない存在。

 その程度の物だからこそ、他人には理解される必要のない価値という物が人によっては存在し、他者に受け入れられないのは構わなくても侮辱されるのだけは許せない気持ちが沸き上がってくる。

 感情論は他人とは決して分かち合うことの出来ないものなのです。「向こうとこちらは別の人間、違う生き物」なのですから当然です。個人間の諍いだって人間同士で戦いあう関係なのですから戦争の理屈が通じないこともないでしょう。

 

 

「・・・まぁ、そもそも戦争なんて物自体が「俺が正しいからお前は間違っている」と言い合って、ガキ同士の喧嘩に銃火器刀剣持ち出してきたから大事になり、特別なものだと勘違いされただけの代物ですからねー。理屈が通用しないのも、また宜なるかな・・・です」

 

 基本的にはガキの喧嘩の延長線上にある行為にすぎないのが戦争の本質。そんな下らない物に巻き込まれて怪我なんかさせられたら堪ったもんじゃありません。個人間での言い合い、殴り合いで済ませてくれた方が他人にとっては余程ありがたい。

 

 親子喧嘩、夫婦喧嘩、痴話喧嘩。何でもかんでもどんと来いです。いくらだって勝手にやっててつかぁさい。

 他人に迷惑がかからない個室の中を選んでやってくれるなら私はいつでも歓迎させていただきますよ。私個人と他の人たちが巻き込まれない限りはね?

 

 

 

 

 ・・・・・・一年前のあの日、変わろうと決意して変わるために色々してきた私でしたが、結局のところ今も私は変わることなく理屈っぽい。

 やはり最近とみに思うようになった「あの言葉」が人の世の審理なのでないかと思ってしまうのは、私が愚民だから故の弱さなのでしょうか?

 

 

 私が最近思うこと。

 それはーーーー

 

 

「たった一年かそこらで人が変わるわけねーだろうーが、馬鹿らしい」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・こういう内容の言葉。

 本当に、人類の進歩って遅いモノなんですねぇ・・・。

 

 

 

 

 

 

 ーーんで、その日の夜。

 

「ただいまーっ! お父さんから同性婚していいって許可取ってきたよ! だからセレニア! 結婚可能年齢に達したら海外移住して結婚しよう! 幸せにしてみせるから!」

「・・・・・・アンタいったい父親との再会中になに話してきたんですか・・・・・・。

 あと夜遅いんですから、はよ自分とこの学校に帰りなさいって(人質としての意味合いから本校と分校との距離は県を跨ぐレベルで遠いのです)」

 

「・・・・・・ZZZ(夜9時すぎたのでオネムなボーデヴィッヒさんです。デュノアさんか私と長時間離れすぎると情緒不安定になるので私と一緒に住んでます。護衛も兼ねてますが夜早いので暗殺とかには無力です。

 訓練積んでるから殺気感じて飛び起きれる子供なんて実在しねぇーっ!のです!)」

 

 

つづく

 

 

 

 

おまけ:「セレニアが最近している髪型バリエーション」

 ツインテール。

 普通におろしてロングストレート。

 でっかい帽子に押し込んで目深に被る等。

 

 

おまけ2:「セレニアが最近しているファッション」

 ショートパンツにTシャツ、帽子のボーイッシュ系。

 プリーツスカートにネクタイ、ブラウスのお嬢様系。

 たまにベレー帽や麦わら帽子を被るときもある。

 

 

 下と違って上は胸が邪魔で子供が着ていたお古は入らないためHLサイズが多い。

 裾の調整はのほほんさんにやって貰っているため、最近夫婦感が増したと一部で評判。

 セシリアから同人誌のネタに使われだした事実を二人が知るのは、戦後初の「コミックマーケット」開催日を待たなくてはならない。

 

 

 一見すると裕福そうに見えるだけで、実際には戦火で家を失ったり仕舞っておくためのスペースが無くなってしまった人たちなどがやってるフリーマーケットで買ってきているため格安。

 オーバーオールとワンピースは目にする度に屈辱を掻き立てられてしまうセレニア終生の怨敵。許すまじ。(笑)

 

 

おまけ3:「IS学園分校の特色について」

 基本的には専門校扱いなので地域によって規模が異なり、専業とする職種もバラバラ。シャルロットの4校目が実質的には一番新しい。

 基本は国立だから国が運営費を出してくれるけど、成果出さなきゃ減らされるのが国立の厳しいところ。当然、一番新しくて実績のないシャルロットの4校は火の車状態です。

 

 注:5校目は出来はしたけど専門校として機能しているとは言い難い。ぶっちゃけ戦争狂少佐殿を監禁するためだけに造られたような施設。当たり前だが役に立ってない。


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