IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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前回の続きです。サブタイトルに「血祭り」とある割にあんまし人が死なない回です。
どちらかと言うと異なる平行世界から集ってしまった反則ISガールズによる蹂躙回です(エクシア出し忘れて残念がってます)。

最後ら辺に番外編で書ければいいなーと妄想している少佐回のウソ予告を掲載しておきましたので、良ければ見てやってくださいませ。


59話「レッツ!血祭りのはじまりだぜ!」

『《エクスカリバーⅡ》チャージ終了まで、あと5分です』

 

 パトリック・ロゴス少将の座乗艦『ヤキン・ドゥーエ』から自らの指揮する船『ドゥーリットル』へと戻った私はEOSハンガーへと直行し、初老の艦長が上げてくる報告を聞き流しながら愛機の最終チェックを順次完了させていく。

 

「了解した。こちらの発進準備も整ったようだが・・・『ピースメイカー隊』はどうなっているのかね?」

『滞りなく終了したしました、クルーゼ様。核ミサイル搭載戦闘爆撃機《ピースメイカー》全五十機は、あなた様が出撃した後、順次発進。後に続かせて日本を核の炎で燃やし尽くしてご覧に入れましょう』

「それは結構。・・・くっくっく・・・」

 

 私は陰惨に嗤い、もうじき全てが終わらせられるのだと思うと悦びで震えだしそうな手をグローブをはめる仕草で押さえ込む。

 

 後わずかで自分の呪われた血の大本を絶つことができるのだ。邪魔する者は許さない。

 家の金を湯水のように注ぎ込むことでISに勝るとも劣らぬ性能を持つに至った我が愛機。米軍ではなくロゴス財団が私的な所有を特例で黙認されていた特別製のEOS《ZGMF-X214 レジェンド》。

 これほどの機体で戦場を駆け抜けながら、死をまき散らす天使たち《ピースメイカー隊》を率いる私は神に愛されているのかもしれない。

 

 ーーいや。

 

 

『レジェンド、カタパルトデッキに上げます。リフトの上昇が完了次第出撃してください。ご武運を』

 

 管制官が気の利いた言葉をかけてくれたことで確信した。

 そう、私は神に愛されているのではなくーー

 

「私こそ神だ。日本人が生み出した。日本人を滅ぼす破壊のかびぃぶるうぃぁっ!?」

 

 な、なんだ!? 何が起こったと言うのだ! 一瞬、激しい揺れに襲われたと思ったらリフトが停止してしまったではないか! これでは日本を核の炎で焼けにいけん!

 

 ブリッジ! おい、ブリッジ! 何が起きているのか説明義務を果たさんか!

 

『あー・・・いやあのそのですね・・・・・・申し訳ありません、クルーゼ大佐。撃たれました』

「そんなことは言われなくても解っているわ! どこだ!? どこを撃ち抜かれたせいでリフトは止まっている!? 機関部か? スクリューシャフトか? それとも・・・ええ、何処でもいいし何でもいいから早急に応急処置を終えて早く私を出撃させろ!」

 

 私は常になく興奮しているらしく、普段なら絶対ださないような大声で部下を怒鳴りつけながら命令する。

 出撃できなければ核が云々以前の段階で私の計画は破綻してしまうではないか! このリフトが動かないと言うなら、せめて私が別の機体に乗り換えて別のリフトを使えるよう誘導してだな・・・

 

『ーーカタパルトデッキです』

「は?」

 

 今、なんと言ったのだ? この男・・・。

 

『先刻から接近後退を繰り返していた敵部隊の一機に狙撃タイプが混じっておりまして、今まで黙っていたそいつが狙い澄ましたタイミングで不意打ちしてきたのです。

 6回にわたる接近直後の後退でパターンに慣らされておりました、申し訳次第もございません・・・』

「ーー謝って済む問題ではないわ! 謝罪する暇があるなら早急に修復作業を始めんか!」

『・・・面目次第も御座いません。敵のタイミングが完璧すぎた上にミサイルまで撃たれてしまい、現状ではドゥーリットルのカタパルトデッキの修復作業は不可能な惨状を呈しておりまして、急ぎ別の艦への連絡船を用意しまーー(プツン)』

 

 ・・・? 不自然なまでに一瞬にして通信が切れたな。いったい何が・・・

 

 

 ガクンッ!

 

「なっ!? ブラックアウトにパワーダウンだと!? しかも他の機能も軒並み機能停止してしまい、緊急脱出装置すらも作動しない!? 救難信号は・・・ダメだ! 動かん!」

 

 これでは私は狭い棺桶の中に閉じこめられたも同然ではないか! 誰か! 誰か私を早くここから出せ! 誰かーーーーーーーっ!!! 助けにきてくれーーーーっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ・・・狙い撃ちましたわ」

 

 キメッ!

 わたくしはお決まりの勝利ポーズを取りながら獲物となった空母を睥睨し、傍らで空中に出現させてるコンソールを操作中のクロエさんに声をかけます。

 

「・・・現在、ドゥーリットルの機能を98パーセントまで掌握完了・・・現刻をもって完全に敵空母は私と『黒鍵』のコントロール下におかれました」

「さすがは篠ノ之博士の一番弟子であるクロエさん、早いですわね。お疲れさまですわ」

「・・・・・・」

 

 誉められなれてはいないのか、この程度の讃辞で頬を赤く染めてらっしゃいます。この方チョロい。チョロかわいい。マジ萌えますわね、銀髪キャラって。

 

「それでどうでしたの? 敵艦隊に核攻撃隊はクロエさんの見つけたドゥーリットルの分以外にも乗っておられまして?」

「・・・いいえ、コンピューターにハッキングを仕掛け、ドゥーリットルから各艦艇へ幾つか中継点を作りながら検索してみましたが、あの空母以外に核搭載機は存在してはいない模様です」

「ふーん。まぁ、もとより敗けに来ている艦隊なのだそうですし、そんなものなのでしょう。どのみち牽制役を務めるわたくしとクロエさんには関わり合いのない事柄です。自分たちに振られた役割をしっかりと果たすことに専念すると致しましょう」

「了解。オルコット様は敵ミサイル群のなから核ミサイルが混じっていないかを感知し続け、私はドゥーリットルのコントロール支配権を維持し続ける。それで宜しいんでしたよね?」

「ええ、お願いいたします。チェルシーはその間、わたくしたちの警護をお願いしますわね?」

「お任せください、お嬢様。主を守るため、この身を張る・・・メイドの本懐です。見事やり遂げてご覧に入れます」

 

 なんだか我が家に仕えているメイドまで織斑さんみたいな事を言い出しましたわね。

 この前一緒に見ていた『ラストサムライ』に思うところでもあったのでしょうか?

 

 わたくしは彼女の質問に頷くことで肯定を示してから、新たに装備された新装備の高性能ぶりに舌を巻きます。高性能すぎて慣熟するのに時間を要しすぎたため今回が最初で最後の実戦お目見えとなってしまうのは残念きわまりないのですけど・・・。

 

「・・・しかし、凄すぎますわよね、このエジプト十字・・・。わたくしのブルーディアーズに積まれているBTシステムの感度をこれでもかと言うほど引き上げてくれています。

 まぁ、そのぶん機体とビットの制御が難しくなりすぎましたが、補って余りある高性能ぶりです。敵のミサイルが熱量の大きさ毎に種類別で判別できるほどですわ」

「束様は偉大なる天才様なのです。えっへん」

 

 胸を前方に突きだしてえばりだしましたわね。お色気キャラとして使えそうですし、参考資料に一枚撮っておきましょう。カシャッと。

 

「・・・そう言えばセレニア様は、この金属チップの塊について妙な呼ばれ方をなさっておいででしたよね・・・」

「ああ、確か・・・『サイなんとかフレーム』でしたわよね。あの人、時折変な単語を口にしまくる方ですので気にしてると疲れるだけですわよ? お役目だけ果たしていれば勝てるのですし、それ以外は指揮官殿にお任せしてしまいましょう。

 どうせ、それくらいしか出来ない方なのですから、出来ることくらいはやって頂かないと不公平というものです」

「・・・割り切ってるなぁ~・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クルーゼ! おい、クルーゼ返事をしないか! ・・・クソッ! すべての通信が切れたまま回復の見込みすらもたたんとは・・・!!」

 

 性格的には危険ではあるが有能な指揮官であることは間違いようがない義理の息子からの連絡が途絶えてから訳3分。・・・不可解な現象を前にして、そろそろ私の忍耐も限界だな・・・。

 

「ーーええい、もういい! IS学園は肉眼で見える距離にあるのだからな! エクスカリバーⅡ発射だ!」

 

 エクシア・ブランケットで得たデータを元に開発したエクスカリバーⅡは名称こそ受け継いではいるが、中身も開発コンセプトも開発理由そのものからして全くの別物となるジェノサイドマシーンである。

 あれはIS操縦者どもを抹殺するため、IS操縦者自身を用いて弾丸として発射する、命の灯を撃ち出す巨大ビーム砲だ。

 私のために!男のために!全人類の正しき未来を守るため、IS操縦者など滅びてしまえばいい! そうだ! それがいい! IS操縦者たちを殺し尽くすためIS操縦者の命を使い尽くせばそれでいい!

 ふは、ふはは、ふひゃははははははははっ!!!!

 

「司令!? せ、せめて後三十秒だけでも・・・」

「構わん! やr「しれーーーいっ!!!」なんだよ今度は!?」

 

 発射命令を出そうとしてる最中に声かけるなよ! 誰だよ! 空気読めよ! マイペースな奴らだな本当に!

 

「か、甲板に・・・甲板に・・・エクスカリバーⅡの甲板上に制服姿の女の子が、緑色の光をまといながら舞い降りてきました!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「なんじゃそりゃああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

 

 不可解にも程がありすぎるだろ! なんだよ、その化け物みたいな奴は! そんな奴がいるものか! いて堪るものかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっい!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はああああああっ!!!!』

 

 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴンッ!!!

 

「・・・・・・(にっこり)」

 

 スタスタスタ・・・・・・。

 

「くっ・・・。ファング・クエイクのパイルバンガーを四方八方から打ち込まれて、ビクともしないとは・・・化け物めが!」

 

 エクスカリバーⅡの直衛を担わされている我らアンネイムドは、非常識な存在を前に後退に次ぐ後退を強いられ続けていた。

 

 とにかく堅い。攻撃が利かない通じない効果が全く見られない。足止めに徹しても侵攻速度を遅くできもしない。

 ただただ悠然と微笑みながら『歩いてくる』無防備な相手を前にしてISで武装しているはずの我々は紙の軍隊よりも無力で無意味な存在と成り果てていた。

 

「た、隊長・・・話が違います! こんなの聞いてない! 生身ではISに敵うはずがないと言っていたではなかったのですか!?」

 

 問いかけてくる部下の叫びも制御を欠いて上擦っていた。当然だろう。こんな生き物・・・地球に存在している生物としてあり得ない!

 

「ーー並の人間ならな! 間違いなく我らが勝る!我らが勝てる! だがーー地球人なのかどうかも定まらん相手と戦うことは想定していなかったんだよぉぉぉぉぉっ!!」

 

 魂からの慟哭を叫ぶ私。

 パトリック・ロゴスによって拾われたときに人間としての名前と心を奪われて、与えられた命令をこなすだけの機械になったつもりで今まで生きてきた私だが。

 

 こいつを見てると人としての心が戻ってくるのを実感する。させられてしまう。

 人として当たり前の感情ーー死ぬのが怖いと言う根源的な『死』への恐怖心が・・・。

 

「ひぃ、ひぃ! な、なんで生身の人間相手に私たちIS操縦者が手も足も出ないんだよぉぉっ!?」

「こんなのは嘘だ・・・あり得ない・・・あっちゃいけないあり得ない・・・」

「あひ、あふへへへへへ・・・あひゃひゃひゃひゃひゃ! 死が来るーっ! 死がやってくるよ私たちを殺しにさぁーっ! みんなで一緒に地獄へ突っ込んでいったら・・・怖すぎるんだろうなぁぁぁぁっ!!!! 助けて死にたくないぃぃぃぃぃっ!!!」

「うわあああああっん! おがあちゃーーーーーっん!!!」

 

 ーーいかん! 相手もこちらも損害0のまま部隊が壊滅してしまった! ちくしょう!

 これが選抜エリートである専用機持ちと、我々一般兵士の差だとでも言うつもりなのか!(ISを部分展開すらしてない事実は都合悪すぎるのでガン無視だ!)

 

「・・・私たちを殺したいなら好きにしろ、化け物。どのみちお前は相手に我々では太刀打ちできない・・・完敗だ・・・。名を奪われ戸籍からも抹消された私たちの存在意義が本当の意味で消え去っtーー」

「化け物? ・・・え? もしかしなくても、僕がかい?」

 

 悪魔としか形容しようのない蹂躙徒歩をやっておきながら、化け物は見た目とは矛盾しない可憐な声と表情で私のつぶやきに反応を示した。

 

 ・・・思い出してみると、戦闘開始より今までで初めて反応を返してくれたうれしい瞬間のはずなのだがーーなんでだろう、これっぽっちも嬉しくねー・・・。

 

「アハハ、違う違う誤解だよ。僕は、とっても可愛い魔王ちゃんさえメロメロにしちゃう魅力的な女の子だよ。化け物だなんて可愛くない呼び方はやめてもらいたいなー」

「・・・・・・(唖然)」

「あ、でも小悪魔とかだったら有りかもしれないね、可愛いし。

 ーーま、それはそれとして仕事をこなさないとねー。え~と、確かこの辺に・・・お、あったあった」

 

 そう言って化け物(自称:小悪魔)はポケットから片眼鏡に似たゴーグル型のめがねを取り出すと左目にかけ、横に付いてるボタンを押して見せた。

 

 ピピピピ、と機械音声がしたと思えばゴーグル上に数字らしきものが映し出されて「ふむふむ・・・東に三歩、北に五歩、そこから西へと進んで六歩目だね」なにやら化け物がつぶやきだしたかと思えば、今度は軽く腕を振り上げてからーー思い直したように元の姿勢へと戻る。

 

「ん~・・・。やっぱり脆すぎる船だから殴っちゃうと沈むだけじゃ済まなくなるよね。中に人の気も感じるし、この程度に抑えといた方がいいよね。チョンッと」

 

 そう言って化け物はつま先の先っぽで甲板の一部をツツくと、「じゃあね、バイバーイ」と片手を降りながら笑顔を浮かべて天の高見へと舞い戻っていく。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!?

 

「い、いかん!茫然自失としてしまっていた! ブリッジ! 聞こえているかブリッジ! 敵目標の撤退を確認。引き際の良さから陽動目的による奇襲だったと推測する。

 先の戦闘で混乱した隙に艦内への工作員潜入を許していないか調べてくれ。大至急だ」

 

 派手な行動で敵の注意を引きつけている間に、別働隊が潜入してくる。陽動戦術においては基礎中の基礎だ。何故わたしは今まで気づけなかった! マヌケか私は!

 

「私は念のために艦内を見て回ろうと思っている。先の攻撃でどこか知らぬ間に穴があいているかも知れないからな。油断は禁もーー」

 

 ピシリ。

 

「・・・??? 今なにか、イヤな感じの音がきこえたような気が・・・」

 

 しかも、気のせいでなければだが、先ほど化け物がつま先でツツいていった辺りから聞こえてきたような気がしなくもない・・・。

 

 ピシリ。

 ピシリピシリ。

 ピシリピシリピシリ。

 

 ・・・・・・バリバリバリバリバリバリバリバリバリぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!

 

 

 

「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? 空母よりもデカい特別艦のエクスカリバーⅡが艦の真ん中から真っ二つに割られたーーーーっ!?

 艦砲の砲口と船尾のスクリューシャフトが天頂方に向けられたまま固定されちゃったぁぁっ!? 海上に飛び出たままデカすぎるお荷物障害物にされちゃったよぉぉっ!!

 誰か! 私たち分艦隊を助けてくださーーーーーーーっい!!!!」

 

 人の心を取り戻した私が最初に抱いた感情は、『生きたい』『死にたくない』『お願い、誰でもいいから私を助けて!』・・・人間として一番基本的な感情が一番最初に復活してきた訳だがーー今この状況で思い出さなくてもよかったのにぃぃぃぃっ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・んなアホな・・・・・・」

 

 ヤキン・ドゥーエの艦橋から沈みゆくエクスカリバーⅡを呆然としながら眺めるだけで何も出来なかった私たち。その事実に気づいたとき、私は自分の中に眠っていた本当の自分自身を再発見した!

 

「ーー何をしておる! 我らは勝つために来たのであろうが! ならば成すべき事を示してみせい!」

 

 怒声として放たれた命令に幾人かの有能な士官たちは即座に反応して私の心証を良くし、逆に目の前に居座り続けている豚のような飼い犬どもは「しかし閣下・・・」と身の程知らずにも意見までしてきおる。

 ふん、仕方ない。聞いてやるか。地位に伴う責任というのも面倒ではあるが致し方ない。

 生まれついての選ばれた民として、持たざる者には親切に接してやらんといかんのでな。

 

「・・・なんだ? まだ異論があるのか?」

「いえ、そうではありません閣下。成すべき事とおっしゃられましても、現状の我が方には敵に対して勝ち目が見いだせません。いったい、なにを成せば宜しいのでしょう?」

『・・・・・・(ピタッ)』

 

 艦橋内の時間が止まったかのように錯覚しそうになるほど、間の抜けた沈黙。

 私が顎をしゃくることで続きを促してやると、相手は一度頷いて。

 

「我々は先ほど敵の奇襲によってエクスカリバーⅡを沈められたことで退路を断たれました。さらには戦力差は戦闘開始時点で最小に見積もりました上での数値、80対1を基準とした戦略構想を練って臨んだ海戦のため30隻以下にまで撃ち減らされてしまった今となっては我々先鋒だけでの戦線維持は不可能であると我らは考えております。

 どうか、ここは功に逸ることなく名誉ある退艦命令を出すべきではないかと愚考いたしますが・・・」

 

 ふん、まさしく愚考だな。無能きわまる詭弁家め。

 よかろう。私が直々に真の兵法と言う者を見せてやる。

 

「特攻だ」

「・・・は? 今なんと・・・」

「特攻だ。特攻するのだよ、体当たりだ。

 クルーゼの空母『ドゥーリットル』には出撃できずに立ち往生しているピースメーカー隊が残っている。当然、核兵器もな。ならば我らがすべきこと等ひとつしかあるまい?」

 

 私は役に立たなかった恩知らずの義理の息子の座乗艦に指先を突きつけながら、だがきわめて冷静に感情を込めることなく、公の立場を持つ公人としての地位身分を意識しながら。

 

「この艦をドゥーリットルに体当たりして誘爆を引き起こしさえ出来れば、日本は核の炎で焼かれて灰になる。

 例えそれがなくても汚染物質が散蒔かれた末に、日本には核の冬が訪れる。

 ちっぽけな極東の島国に引きこもるしか脳のない臆病な黄色い猿どもを滅ぼしに来ているのだから、皆それなり以上の覚悟があろう!?」

『・・・・・・・・・』

 

 返事はなかった。

 

 私は彼らを「ふん」と一笑に付しただけで終えてやると、目前に佇むドゥーリットル目掛けて突撃を開始するよう艦長に命令する。ーーが、いつもなら唯々諾々と従うしかしない無骨者が今日に限って私の手に噛みついてきやがった! 黄色い猿の同類め!恥を知れ!

 

「閣下。閣下は艦隊司令の役職にある方であって、ヤキン・ドゥーエ単艦に限ってでは御座いますが、艦の指揮権は国法により艦長である私の方が優先される決まりとなっておりますれば、どうかご再考願いたく思いますが・・・」

「まさしく愚考だな。無能きわまる詭弁家めが」

 

 私はホルスターから銃を抜くと豚どもに狙いを定めてから、この世の心理について教えてやるためにも世界に対して叫んでやる!

 

「指揮権もなにも、はじめから命令を下してやってきていたのは我々特権階級だったではないか! 貴様等がいったい何をした? 何をしてきたというのだ? 言ってみろ豚ども!」

『・・・・・・』

「何も言えまい。当然だ、何もしてこなかった豚どもに誇るべき実績も功績もプライドの元となる自身すらもありはしないだろうからな。

 成すべき事も成そうとしないでオコボレだけ預かろうと浅ましい願いを抱くならそれも良し、食卓に上がるときのためにも丸々太らせておいてやるかと今まで飼い続けてやったまでのことだ。

 飼い主への義理と恩に報いるためにも、私の言うとおりに死んでこい! 今までも散々他人にたいしてはそうしてきたのだから簡単だろう? ほら、早くしろ。撃ち殺されたいのかぁんぶるぐわんぐわん!?」

 

 ーー今度は何だ!? どの艦がやられたのだ!? ええーい、どっちみち皆沈んで海の藻屑にさせるのだから何隻沈めれられても気にはせん! 前進あるのみだ!

 いざ参らん! 突撃ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!

 

「・・・閣下! 敵です! 敵に取り付かれましたぁっ!」

「なにぃぃぃっ!?」

 

 私は慌てて報告してきた下士官の元へと詰め寄ると胸ぐらをつかみ上げて厳しく尋問する!

 

「どう言うことだ! 説明しろ! 嘘を付くような無礼な真似は許さんぞ!」

「そ、それが、先ほどのエクスカリバーⅡ沈没の伴い我々からの注意が逸れたのを利用して、敵の専用機一機が我が艦の船腹に取り付いて攻撃し始めている状況でして・・・」

「専用機だと!? 機種は! 国籍は! いったい、何処の国の所属機だというのだ!」

「機体名は『甲龍』、中国の第三世代機で操縦者は中国代表候補生の凰鈴音であります」

「中国~? 甲龍~? 凰鈴音~? ・・・ハッ! 話にならん。あんな脆弱な火力しか持たぬ機体では如何にしても戦艦は沈められんよ。せいぜい穴をあけるぐらいが関の山だ。放っておくさ。今時の戦艦が穴の一つや二つを空けられたぐらいで沈められると思いこんでいるのだとしたら子供向けアニメの見過ぎでしかないであろうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どがんっ! ズガンっ! ズボボンッ!ずごっく!

 

「・・・うん、良し。これだけクロー使って穴広げられたら修理もし辛いでしょう。

 続いてのー・・・衝撃砲発射!」

 

 ドン!

 

「もう一発発射!」

 

 ドン!

 

「衝撃砲! 衝撃砲! 衝撃砲! 衝撃砲!」

 

 ドン!ドン!ドン!ドドドドドドン!!!!

 

「よーし、こんだけデッカく広げれば水も十分入って浸水すること間違いなし!

 んで、後は艦内に進入して隔壁として降りてきているシャッターを『双天牙月』で切り刻みながら沈んだ後も一定時間空気の残りそうなスペース探して彷徨き回って、敵が旗艦を撃つのを躊躇ってる間に沈んでいくドゥーリットル内に待機しながら一緒に沈んで時間が来たら天井に穴空けながら海上目指して一直線に飛び上がればいいと。

 うん、今日も銀髪巨乳はエゲツないド外道だわー。きっと胸がデカいから性格も悪いのね、そうに違いないわ。貧乳こそが正義の象徴、巨乳は悪女の武器であり至宝よ」

「止まれ! 止まらんと撃つぞ!」

「いいわよ別に? 撃ちたきゃ撃てばいいんじゃないの? 艦内で使える携行火器は内壁傷つけすぎないためにも威力低めのしかなくて、ISだと避けるために動き回るよりもふつうに受けてた方がエネルギー消費量は少なくて済むから」

「・・・え? あの、ちょっと?」

「あ~、でも生き残りたいんだったら早めに上階へ上がっといた方がいいと思うわアンタらも。この階層が水浸しになるまでの残り時間と、人間の足で走れる時間。計算してみたら絶望的な事態になりそうだから」

「・・・・・・あ。だ、だがしかし! 我々にも意地と名誉とアメリカ海軍としての誇りがある! 艦とともに死ねるのは船乗りにとってはむしろ本望! 大願成就の海が来tーー」

「はーい、ズバっと切り裂き海水注入。また詰まらない税金の無駄をさせてしまったわ」

「た、待避ーーーーっ!!! 総員待避だーーーーっ!!!

 それから閣下ーーーーーっ!!! 退艦命令だしてくださーーーーーっい!!!!」

 

つづく

 

 

 

次回予告にも似た願望(ようするに、こういうの書けたら嬉しいのにな~と言う妄想)

 

 大戦勃発時の混乱で日本政府に見捨てられた末に家族を失った少女は、戦争を終わらせるためアメリカへと亡命。

 元IS学園生の一員として専用機持ちとなり、セレニアたちの前に立ちはだかる!

 

 

「また戦争がしたいのか!? あんたたちはっ!」

「もちろんだ少女よ。戦争は楽しい。凄く楽しいぞ、大好きだ。

 ーーそして、君もまた戦争を待ち望んでいる。戦争が起きて、好きなだけ憎い敵兵を殺しまくれる日を楽しみに待ち望んでいた。

 そうではないかね? 憎しみの炎を胸に宿した悲しき戦争狂の少女よ」

 

「!? ち、違う! 私はそんなんじゃない! 私は・・・私はただマユを・・・母さんを・・・父さんを・・・みんなのために!」

 

「憎しみで赤く染まった血の色の瞳、憎悪と殺意で煮えたぎったドス黒い心、血と炎に縁取られた君に、その機体の赤い翼は実によく似合っているねぇ~」

 

「あ、あ、あぁぁぁ・・・・・・」

 

「敵兵を撃ち殺したとき、弱さ故に守れなかった過去の自分をなかったことに出来た気分になれるのは最高だろう?

 死体の山を築きながら戦争の悲惨さを嘆いてみせたとき、空っぽになった胸を歓喜が満たしてくれてるのが嬉しいのだろう?

 “こっちはあっちと違うから”で罪悪感から解放されて、殺戮を思う存分楽しめるのは最高の気分だったろう?

 “殺したいから殺す”のではなく“殺すしかないから殺しているだけ”にすることで正義の名の下、敵兵を切り刻める快感は他の娯楽で換えが利くものではあるまい」

 

「う、あ、あ、あうううう・・・・・・」

 

「アスカ君と言ったなぁ、キミ。素敵に矛盾を来した戦争愛を持っているじゃないか、キミ。

 キミの憎悪と憎しみの力、是非とも私の軍隊にほしい。どうだね? 今から裏切って私の元にこないか?

 武装SS義勇兵として私の部隊に、最後の大隊に、ベアウォルフに。更なる強大な力を手に入れるために。

 絶対に愉しいぞぉ? 絶対に。アスカ君」

 

「う・・・あ・・・あ・・・う、わあああああああああああああっ!!!!!!!!

 父さん 母さん! マユゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!

 アンタみたいなのさえいなければーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」

 

注意書き:上記のは妄想です。




*ラウラと一夏は意外にも本命として出番待ち中です。
*束さんはIS関係してないと興味ないので開発専門になりかけてます。
*ナターシャさんはセレニアのボディーガードも兼ねてるため前線に出ることは少ないです。
*ちっふーは精神的に色々ありそうだし割り切れてんのか出来てないのか判別できないため待機を命じられてます。
*・・・箒? 量産機しか残ってないですけど出撃させますか? こいつらと一緒に・・・。

*あと、誰か残ってましたっけ・・・?

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