IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート) 作:ひきがやもとまち
将来的に誰かと幸せになってるのかな? な感じで未来のセレニアについても少しだけ描写してあります。
なお、今回は風景描写とかは大部分削りました。電池足りなかったことと、書き始めたら切りがない性格を自覚したからです。短くするには削るよりほか手がありませんでした・・・。
マイントイフェルが立案した世界大戦の終わらせ方と、出番が少なく見せ場もほとんど持ってかれてる千冬姉さんがどのような思いでセレニアたちを見てきたかが僅かばかり書いてあります。要は嵐の前の静けさの回。
終わりまであと少しですが、頑張ります。
「ーーつまり・・・」
私は画面に映るマイントイフェル大佐の顔をウンザリしながら見返して、聞くまでもない質問を敢えてぶつけてみました。誰よりもまず自分自身を納得させたいから。只それだけの理由によって。
「私に貴方が率いる艦隊を殺し尽くせと言われるのですか? 第三次世界大戦を始めさせた責任を取るために」
『その通りだよ、フロイライン異住。やはり君は物分かりがいいから話しが進めやすくていい。私にとっては理想の話し相手だよ』
「私としては二度と話し合いたくない相手だったんですけどね・・・」
『泣かされたからかね?』
「・・・・・・」
『冗談さ。そう怖い目で睨まないでもらいたいものだ。殺戮させた数では君の方が上なのだから、参謀将校に過ぎない私としては身が縮こまりそうな怖さを感じているよ』
そう言いながら優雅にコーヒーを飲んでみせる元ドイツ軍のヒトデナシ軍人さんはルパート・ケッセルリンクよりも小憎らしくて可愛い気がありません。生まれて初めて殴りたいと思った相手が太平洋を挟んだ向こう側にいるのが心底ねたましいし憎たらしいです。
『私を知っていた君のことだ。当然、蒙古決戦についても存じているのだろう? アレを米海軍相手に海で再現してもらいたい。
あの時に私が立てた作戦は95パーセントの成功を以て敗北したからな。今度は95パーセントの失敗で勝利を掴みたいのだよ。敗北という名の勝利でもって世界大戦を終わらせる。良い敗け方で戦争を勝利に導くことこそ、今生の私が立てた世界戦略の真骨頂なのだから』
大高総理とも高杉長官とも異なる形で世界大戦を終わらせようとする彼の思想は、悔しいことに私の共感が得易すぎるものであり、ものすごーく嫌な気分にさせられるほど似通より過ぎた精神性の持ち主であることがわかってスゴく嫌だ。
『あの決戦の敗北が私の前世における人生の終わりであった以上、それ以降の歴史がどうなったかは知りようもない事ではあるが・・・まぁ十中八九ベルリンの伍長が次の戦争を起こして敗北し、惨めな最期を遂げたのだろう。自分の野心を制御できずに食われた男の末路とはそういうものだよ』
「・・・・・・」
『あの敗戦が世界の趨勢を一気に講和へと傾けさせた。それでも恐らくは一時停戦にしか持ち込めなかったであろうと私が予測する理由は、世界最強の我が欧州帝国陸軍が健在だったからだ。今生においてもそうなる結果は目に見えているーーが、しかしだ。
なにも好き好んで東洋のことわざ「バカは死ななきゃ治らない」を否定する必要性もあるまい? 死んだのだから治ったところを見せるのは転生者の義務と言うものだ。違うかね?』
「・・・・・・」
『ここまで言えば続きは予測できるだろう? 我が軍の敗北を以て講和へと傾く世界と米国政府、それに日本。これら全てに反発するのは戦争で被った被害と賠償金が釣り合わないと叫ぶ命の価値を金銭で測ろうとする正常な精神と判断力を保持しているまともな人たちだけだ。
彼らは現実的に今と向き合っている以上、偽りの停戦になど同意すまい。必ずや連邦軍に統合されるために解体される国軍を目にして将来訪れる軍閥化の脅威を予測するだろう。それを逆用するためにも我々は負けなくてはならんのだから当然だがね』
「・・・・・・具体案は? いったい、誰を犠牲の羊に使うつもりなんです?」
『遠征に随伴する将校の中に一際目立つ男がいる。祖国に忠実で、軍紀を守り不正を許さぬ理想的な軍人精神の持ち主だ。当然ながら軍民問わず高い人気と信頼を得ている。
逆に、その一方では議長と大統領を終始一貫して否定してきた毒舌家であり、詭弁と巧言令色の達人として忌み嫌ってきた正しい認識の御仁でもある。尊敬に値する好漢だ。
彼なら私も安心して殿を任せられるから、その彼の戦死を以て平和の礎とさせて頂こう。それが平和を願って死んでもらう彼へ手向ける私なりの謝罪だからな』
「・・・・・・・・・」
『彼は歴史ある名門軍人一族の嫡子であり、跡取り息子だ。当然成人している息子がいる。
彼には亡父の意志を継いでアメリカのためアメリカ国民のためにも国賊たる議長と大統領を打倒するため立ち上がってもらい、反戦派の主力を一手に引き寄せていただこう。後は私が何とかするから君は見ているだけでいい』
「・・・よろしいのですか? 私はてっきり、事後処理にまで付き合わされるものとばかり思ってましたけど・・・」
『子供の手を借りねばならんほど、今生の私は人材に不便は来していないつもりだ。大粛正もなかったことだしね。
なに、心配は要らない。これでも犠牲の上で勝利を得るのが得意でね。必ずや君たちに敗北して祖国に勝利をもたらしてみせるさ。
ーー日本では、伊納がなにやら画策していたようだが・・・別に敗戦国の政治家の意向を汲んでやる義理は我が軍にもないのでね。勝手にやらせてもらうつもりだよ。
後のことは後の世代に任せられさえすれば、それでいい』
「後の世代・・・」
『その通り。戦後の世界は我々アメリカがリードする。軍閥化も何れは現実のものとなるだろう。世界は勝者によって支配され、敗者は名目上の自由と平和を与えられて支配の中で平和と共に生きていく。人類の歴史とはそう言うものだ。
・・・が、これもまたしかしだ。
勝者が永遠に勝者であり続けた例がひとつも存在しないのも、人類の歴史ではあるのだからな』
「・・・・・・」
『残念なことに議長の世界では勝者が勝者であり続けたまま歴史が進んでいったらしいが、大統領の世界においては勝者は敗れ、ボロをまとって歴史の影へと埋もれていき、閣下の祖国も燃え落ちながら別の形で生き延びていったという。
おかしな話だ。そして面白い話でもある。どちらも今より未来の世界で起きた戦争の話でありながら、全く別の異なる結末と未来を迎えている。どちらも同じ自由民主主義を奉ずる民主国家であるはずなのだがね』
「・・・・・・」
『これが元OKR参謀将校の私から見た、自由と民主主義だよフロイライン異住。
我々がどんなに足掻こうとも、民衆は時に国家を壊し、自由を壊し、世界を戦渦の渦に巻き込みながらも必ずや立ち上がって自由の旗を振るい独裁者へと立ち向かう。そうであるべきだし、そうでなければ面白くない。世界は多様性に満ちていた方が経済的にも都合がよろしい。
君にも戦後世代として頑張ってもらいたいし、その為にも時代の終わりを迎えさせるため「第二次白騎士事件」を起こしてもらうぞ。もっとも、今度のは流血込みでだがね』
『君が成すべき事はただ一つ。部下たちに向かってこう言うだけでいい。
「戦争を終わらせるため、地獄を創ってこい」と。
それが戦争を始めた者の成すべき責任だ。それが嫌だと言うのは人として当然のことだ。大いに言って大いに喚きまくってくれ。君なら膝でも胸でも貸してくれる相手に事欠いてはいないのだろう?』
『言うのはいい。個人の自由だ。だが、最終的にやるべき事はやってもらうぞ?
それができない人間が戦争を始めたのだとしたら・・・私は君を生涯許すことなく軽蔑し続けるだろう。自己の信じる正義のために戦争を利用しただけの戦争犯罪人としてね。
ではお互い、戦場で剣を交えて再会できる事を楽しみに』
ピッ。
「・・・・・・・・・」
フラフラと。
私はIS学園寮を歩き回りながら、夜の食堂までやってきました。
ゲームとかでは都合良く起きてたサブヒロインか主人公の友人キャラに誘われて慰められて立ち直って最終局面に立ち向かえる名シーンになるはずのタイミングで、私の場合に限ってそれはなく誰もいない静かで閑静な暗い食堂が待っていてくれるだけでした・・・。
「・・・お酒、飲んでみたいかも・・・」
なんとなく、ユリアン・ミンツが同じ事やってたのを思い出してそう言った私でしたが、別に本気でそう思っていたわけではありません。未成年者の飲酒は禁止って、うひゃわぁっ!?
「こ~ら。学生が夜に寮内を歩き回っちゃ行けません。消灯時間はとっくに過ぎてるんですから自室に帰ってさっさと眠りにつきなさい。子供は夢見る時間が大人よりも多く必要なんだから」
「な、ナターシャせんしぇい・・・」
背後に立っておられたのは今夜の警備担当ナターシャ・ファイルス先生でした。一応は敵国人なんですけど今更過ぎるIS学園で気にする人など入るはずがありません。
流石にちょっとどうかと思う時があるにはあるのですが・・・今更ですしねぇー・・・。
ーーちなみにどもちゃって噛んじゃったのは秘密です。誰にも見られてないなら誰も知らないことなのです。知らないことは存在しないこと。それでいいのですよ!
「ーーなんだか顔色が悪いわね。なに? 夢は夢でも悪夢でも見た? それとも今目の前で起きてる現実を悪夢に感じたりでもしたの? あるいは、避けられない未来で待ってる結末が悪夢確定してたりするのかしら?」
「・・・だいたい全部あってましたね・・・」
つか、あんたは何だエスパーか。私も欲しいぞそれ・・・やっぱいいや。要らないし欲しくない。絶対No.サンキューです。持ってると禄なものが見えてきそうにないですからね・・・。
「ふーん・・・?」
要領を得ない表情で私を見据えていた先生でしたが、なにやらゴソゴソやり出したと思ったら私に対してある物を渡してこう言いました。「飲め、少女よ」と。
ーーって、酒じゃん! お酒じゃん! 生ビールじゃん! 未成年者に国立学校教師が絶対にお勧めしちゃ行けない物じゃん! 辞めちゃえ不良外国人教師!
「迷ったときは飲む。飲んで忘れる。若い頃はそれでよし」
迷いなく言い切る彼女の目には・・・酔いが見えてました。完全に酔っぱらっております。宿直室で夜な夜な宴会やってる教師がいるって噂で聞きましたけど、まさか貴女だったとは・・・!!!
「お~い、セレニアー。お前はいつになったらうちの一夏を貰ってくれるのら~? いい加減はっきりしろ、このヒトデナシ魔王め~」
「って、貴女もですか織斑先生!」
なんだこの学校! なんなんだこの国立学校教師ども! 子供に飲酒させないためにも自分たちが飲まないように気をつけるのは常識でしょう!? なんだって未成年者の私が、そんな事で気を使わなくちゃいけなくなってーー
「だーいじょーぶだから、しんぱいしなくていーんだから、全部私たち大人に任せて好きに選んでくれてかまわないから」
「・・・・・・!!!」
「そーですよー、セレニアさーん? 私たちは弱いですけど子供を守る大人なんですから、あなたたちの未来くらいは守ってみせますよー? 誰にも奪わせたりなんかさせませーん。どーんとこいでーす。勝てないまでも戦って守って死んでやるー」
「そうだー、そうだー、その通りだファイルスー。同じ特攻だったら敵を倒すためじゃなくて、子供たちを守って死ぬのが現代日本の大人の役割だー。現代ニッポンばんざーい。子供を死なせる社会なんて断じて認めないぞー」
「そうだー、そうだー、子供たちを死なせたくないなら自分たちが戦えー。殺したくない死なせたくないとか言いながら、自分が死んで逃げようとするなー、戦えー、戦えー、子供たちのために戦えー・・・・・・ぐぅ」
「ぐがー、くかー、すーぴー・・・・・・」
「・・・・・・」
なんか大人たちの乱痴気騒ぎに巻き込まれたみたいですが、新年年明けなんてこんなものです。気にしても仕方ありません。若者は若者らしく床で眠る大人たちのためにも布団を取ってきて掛けてあげましょう。
ーー細やか過ぎるとはいえ、救われた者たちからの恩返しは、今のところこれだけで勘弁しといてくださいね?
「「どういたまして~・・・ぐぅー・・・」」
「・・・・・・はぁ」
ほんの少しだけ原作織斑さんの気持ちが分かった私は、マイントイフェルさんからの依頼を承諾するため、皆さんに命令するため今は寝に戻ります。よく寝た明日は、きっと今よりマシな顔で命令できて皆さんに気遣われないよう気を使ってあげることができると思うから・・・。
「・・・・・・・・・ふふ」
ーーその夜。
第二の人生において私が初めて笑みを浮かべられてたことを実感するのは、今からずっとずっと先のこと。全てが終わって傷ついて、それでも私の隣で笑ってくれてる人が教えてくれた今の私と変わったところ。
「あなたのお陰で、最近、よく笑えるようになったんです」
生まれ変わったときには思いもしなかった変化。想像すらできない未来。あり得ないと決めつけていた出来事が訪れる未来を得るために。
私は私のできることをやるしかありません・・・よね? 多分ですけども。
「さぁ、IS時代最後の戦争を始めましょう。一つの時代と戦争を終わらせるために」
始まりがあって、終わりがある。
なら、始まりにいなかった私は終わらせる方に参加する。いい案配になったものです。
ーー余談ですが、あの後部屋へと戻る途中。私は渡されたままのビールに口を付けてみたところ・・・。
「なにこれ・・・苦い、マズい・・・吐き・・・そ、う・・・」
その日、もう二度と酒なんか飲まないと誓った私はユリアン・ミンツと相性が悪そうだと判明した瞬間でした。
ーーあと、味覚がお子さま趣向だった事については禁則事項でお願いしますね?
つづく