IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート) 作:ひきがやもとまち
なお、ものすごい睡魔に襲われながら書いたため結構出来が悪いと思われます。問題点だと感じる箇所がございましたらご指摘ください。あとで直しておきますので。
軽く今話の説明をして置くと、セレニアとマイントイフェルによる日本の現状説明回です。
追記:書き忘れてましたが、一夏のバトルは次話でやります。必殺の巨大ビームブレードで全部真っ二つです。
ーーこれは織斑さんが総理官邸で切った張ったをし始めた頃。
IS学園女子寮における私自身の私室にて。
「ーーなるほどね。今回のバカ騒ぎはあなたの就任祝いと私への挨拶をかねた自己紹介だったと言うわけですか。そういう解釈で間違っていませんよね?
OKW総参謀長ワルター・G・F・マイントイフェル大将閣下?」
『・・・いやはや、驚いたな。議長たちから聞いてはいたが、まさか本当に私のことまで知っているとは・・・。君の前世で生きていた世界には大いに興味と魅力を感じるな。是非とも経済的に支配してみたい』
唇を歪めて薄く嗤って見せる、金髪碧眼で顔に頬傷をもつ白人の美青年。
OVA『紺碧の艦隊』および『旭日の艦隊』に登場するナチスドイツの参謀長。後に欧州帝国の皇帝となるハインリッヒ・フォン・ヒトラーの側近にして、主人公たち最大の宿敵と呼ぶべき要注意人物。
そして私が今まで最も警戒し、できれば来ていて欲しくないなぁーと神に祈り続けていた転生者でもありました・・・・・・。
議長と国防委員長の二人がこの世界に来ている事を知って以来、私は他の作品世界からも転生者が来ているか否か。それだけが気がかりで気がかりすぎて、周囲に心配させまくってしまうほどに情緒不安定な状態が常態化しつつあったのですが・・・あろう事かそれを完全解決してくれたのは『来て欲しくない、あっち行け』と希い続けていた人物の一人にして、中でも結構苦手な部類に入る嫌なタイプのご本人。
言うまでもなく私は参謀タイプの人間ですが、だからと言って優れた王佐の才を持つ優れた人材とは到底言えないショボすぎる能力の持ち主です。
おそらくその事実がコンプレックスとなって心理に影響を与えていたのでしょう。私は自分と同じ参謀タイプのキャラクターで自分が絶対に適わないと言い切れる何名かを無意識のうちに恐れ、必死になって悪夢から逃れようとしていた自覚が、今はもうあります。
その筆頭は当然のように当然のごとく、銀河帝国軍の軍務尚書パウル・フォン・オーベルシュタイン元帥なのですが・・・正直なところ彼が来てた場合、私ではどうにもできませんから両手を上げて全面降伏するより他ありません。
規格外の化け物と一緒に並べて同格扱いするのはやめていただきたいですよね、本当にまったくもう・・・・・・。
他にも腹黒メガネや絵の下手な宮廷画家など数え出したら切りがない私よりも優秀な参謀キャラクター。
その中で私が彼を特に警戒していたのは彼の軍事思想が結果を得るため犠牲を容認し、むしろ推奨してまで必勝を目指すという極めて非人道的なモノであり、私が常に破却し続けている類の戦略に他ならないから。
そうです。私が本能的に彼を恐れるのは彼自身のもたらす被害や犠牲ではなく、『私自身がそれを思いついていて』実行できる戦力を『持ってしまっている』からに他なりません。
それはダメです。選べない。選んでしまえば覇権争いに発展してしまう。民主主義を唱える軍事指導者が主導する戦争なんてあってはならない。私はそう信じて生きてきたし、死んでからもそれは変わらない変えられないのです。
どのみち私にはルドルフ・フォン・ゴールデンバウムになる力はない、器量もなければ才能もない。でも、力はある。
『指揮下にあって自由にできうる戦力』という圧倒的すぎる力がね・・・。
『ところでどうだね? フロイライン・セレニア。
テレビはちゃんとニュースを報道してくれるようになりましたかな?』
考え込んでいた私に嫌なタイミングで今一番聞いて欲しくない言葉を質問形式で投げかけてくるイヤミでキザなナチスの伊達男。
私は嫌々ながら視線を私室のテレビ画面へと移し、『おおよそ二ヶ月ぶりに見ることができた』戦争に関する報道番組で『インタビュアーが慌てふためいている光景』を見つめながら忸怩たるものを感じて苦虫をかみしめていました。
あまりにもアホらしすぎる事実として、最近私が見てきた報道番組その全てが『近く内乱発生の恐れがある』『首都近郊で戦闘が慢性的に続いている』『国軍が保有するISが反乱勢力の拠点に対して攻撃、敵味方に民間人を含む死傷者多数』などの紹介文とともに流される日本人に馴染みの深い危険地帯の代名詞である中東の『どこか』で行われている『爆撃シーンと歩兵が陣形組んで発砲しているところ』『現地武装勢力へのインタビュー』これで全部だったという恐るべき現実。
お隣の中国事情に関しては『海上用ISの開発を決定。南シナ海を武力制圧か?』で終わり。北朝鮮及び韓国の現状説明は『ヒトラーもどきの独裁者っぽい小太りの女性が偉そうに広東語で語っている台詞に日本語で嘘翻訳した文章を添える』だけ。
ロシア? 北方領土に関してどうのこうの言ってるだけしか流れてませんが、それがなにか?
ああ、アメリカに関しては美辞麗句の天才さんが演説してるのを日本の専門家さんたちが色々分析してましたねぇ。ほとんどが最終的に『日本人の認識そのものを改める必要がある』で落ち着くのばっかりでしたけど。
・・・これほどまでに現実と乖離しまくった報道が全てのテレビ局から流れているのは何故なのか分からず、私は表社会でも影響力を有している会長に質問してみたところ、返ってきた答えは又しても『女尊男卑』が大きく起因していやがったのです。
「『白騎士事件』でISの力見せつけられてぇ、世界各国がISの重要性を認識してぇ、ISは女性しか使えないから女性の社会進出は劇的な速度で進んだ。まぁここまでは良いわよねぇ~。常識的な展開で、さほど異常性は見いだせないし。
で、問題はここから。
いっくら『白騎士事件』で世界各国の軍勢を破ったISが女性しか操れないからって、それがいきなり男女逆転現象起こせると思うぅ~?
ましてISが兵器としての力を見せつけたのは『白騎士事件』が最初で最後。それから十数年間もの間ISは単なる大人気スポーツ製品としか認識されていなかったのよ? どこの世界にオリンピックの花形種目で一番になれるスター選手が政権交代まで起こさせる影響力を持てるって言うのよまったくもう」
「おまけにアラスカ条約でISの軍事利用は禁止されたから、ISは軍隊にだって銃を向けられない。権力の介入はIS学園外ならOKでも世間様が見逃してくれないから裏でコソコソ使うしかない。
映画じゃないんだから裏社会で一番巨大な勢力が、正体も見せずに表社会まで支配するなんて絶対無理~。公の場では公の効力を持たない裏社会の力は役に立ちましぇ~ん。
法的根拠も持たずに表立ってISで解決しようとするくらいなら、IS前面に押し出して征服戦争でも始めた方が早いわよねきっと」
「武力として実戦に用いられなくても、行使しないという選択をしたことで別の意味合いを持つのが強力すぎる兵器の持つ力。
世界はISを核兵器と同じ感覚で交渉カードとして用い続け、表だって行えなくなった戦争をモンド・グロッソというスポーツ大会の形式をとって平和的に行ってきた。
世間を騒がすスター選手と超高性能機が爆誕するとき民衆は顔を赤くして声援を送り、各国首脳は顔を青くして黙り込む。
そういう形でISは政治に利用され続けてきたの」
「でも、いくらISが政治に利用できるからって日本は民主主義国家。密室外交だけじゃ女性総理は作り出せても女尊男卑という思想を市民に根付かせられないわ。
だから彼女たちが行ったのはISを武力としてではなく、カードとして用いる新たな戦争の形態。即ちーー民意を味方に付けることで男どもから地位を奪い、熱狂が冷める前にライバルたちを追放してしまうこと」
「モンド・グロッソで世間が熱狂し始めてた頃、私の属する裏社会では不審死の発見が後を絶たなかった。
ある企業の後継者候補筆頭だった男性が突然に急死して、その代理として急遽嫁ぎ先から呼び戻された経営経験のない若くて美しい『三女』の女性が、翌年に選挙を控えた女尊男卑を掲げる野党勢力の幹部に後押しされて社長に就任。その直後、謎の失踪を遂げてから自殺。死因は溺死で、側には三日前に離婚届が出されたばかりの夫が刺されて亡くなってた。
遺書には「地位に伴う責任と、愛する彼が女尊男卑で落ちぶれてくのを見てるのが辛かった」って書いてあったわね確か。うろ覚えだけど」
「そんな事件が続出しているにも関わらず、テレビも新聞も口裏を合わせたように同じ様なことしか言わないし、注意深く見れば分かる程度に情報も教育も統制されて、思想の画一化が謀られていた。
『女尊男卑』を確立するために地位を求める女性たちが協調しあって敵を排除し、地位と権力と権限を奪い、排斥する。
他人を中傷し、国家を誹謗し、世の中で起こっている全ての悪行を『男尊女卑』に押しつけながら、マッチポンプの要領で受け皿も用意しておく周到さと念の入れよう。
女の情念って怖いわよね~」
「・・・なぁにセレちゃん? その顔はなにか私に言いたい事があるのかしらん?
大丈夫、言ってもいいのよ。やさしい楯無お姉さんは怒らないからね☆
さぁさぁ、どんどん言ってちょうだい。お姉さん待って待って待ち続けてるから~ん♪
鞭も蝋燭も常備されてるから大丈夫だ問題なーー」
ーーこれ以上は思い出したくないから閑話休題。
『アラスカ条約には戦っている両軍が捕虜を殺さない戦時条約と似た側面があってね。
高機動兵器でありながら火力に乏しく、戦線に投入すればジリジリと真綿で首を窒息させられるような戦いが続発してしまうことを恐れたが故の条約でもあったんだよ。
当時はまだ女尊男卑が浸透していなかったし、男尊女卑と女尊男卑が半々な時代だったからこそ可能だった現実的な条約調印だったんだ』
『当時世界では、戦争や紛争が散発的に起き続けていたからね。当然の事実認識としてこの事を知っていた何カ国かの首脳が顔を取っつきあわせ、数週間かけて捻り出したと「思いこんでいる」妥協案が、IS学園設立にかこつけて成立させたアラスカ条約締結という安全保障のための国際条約・・・だった』
『ああ、過去形だ。残念ながらね。
我々が十数年がかりで立てた計画を日本人の小娘如きに邪魔されたと聞かされたときには前世を思いだして随分と怒り狂ったものだが・・・今ではそれほど気にしてはいない。
君という人間を知った今となっては、むしろ壊したのが君で良かったと思っている。不確定要素に計画を破綻され、せっかく立て直しかけていた祖国を世界諸共オシャカにされてはかなわん』
「それで今回の事件を日本で起こさせた。
日本政府がマスコミや企業と癒着しまくって作り上げ維持し続けている、『以前までと何も変わらない平穏な日常』を根底から壊すために」
『その通りだよ、フロイライン・セレニア。君はなかなかに賢いね。そして賢明だ。
私が何を申し出たくて今回のような茶番を仕組んだのか、既に今の時点で理解できてしまっているらしい』
「・・・・・」
『ISは絶対数が少なく生産も出来ない高機動兵器という性質上、その多くが戦略的重要拠点に配備せざるを得なかった。当然のことだが、重要拠点の全てが軍事基地というわけではないし、重要度の高さに反して敵からの攻撃を受ける可能性は低い場所にも価値によっては配備されている。
それが今回、実際に戦争で運用されてみて初めて分かった問題点に世界は困惑を隠し切れていない。
ISは実戦で使うと思っていた以上に“決定力に欠けすぎている”』
『火力の乏しさは開発当初から判明していたことだし、用途を試合用に限定するのであれば問題と呼べるほどの欠陥でもない。平時においては大した問題と誰も思わなかったことだろう。
しかし世界の情勢とともにISを取り巻く状況も一変してしまった。もはやISは取り返しのつかない事態を引き起こしかねないだけのお荷物に過ぎなくなってしまったのだよ』
『ISによる奇襲はその速度によって必ず先手をとれる反面、威力の問題で致命傷を与えることは決して出来ない。
《ゴールデン・ドーン》の持つ《爆発火球》のように威力を最優先で向上させて開発した武装もあるが、あれらは逆に威力が高すぎるせいでエネルギーの消耗が激しすぎる。
継戦能力はおろか遅まきながらも到着した迎撃部隊に足止めされて戦闘中にエンストなどと、笑えない事態に至りかねない。
勝って無事に帰還してくるどころか、生還すら危うい兵器に搭乗したがるパイロットなど、私の生きた世界にも僅かしかいない。スポーツ用品として教え込まれた世界なら尚更だ。
結果としてこの世界で今行われているISを用いた世界初の戦争は・・・滑稽な様相を呈してしまっているよ』
『各国の基本戦略は損耗抑制・・・と言うより、ISは一機も失いたくない傷一つけられたら責任者の責任問題。ISをかすり傷一つ負わない形で戦力として戦場に投入せよ、だ。滑稽すぎて声もでないよ。
私の知る南条内閣の日本はおろか、アメリカのルーズベルト政権よりもなお無能きわまる戦争童貞たちが戦争を指揮している状態だな』
『敵ISとの接敵をおそれた幹部連中は攻撃対象としてISの配備されてない拠点へのハラスメント攻撃と、護衛戦力の限られている補給部隊に対する襲撃。
そして民間人も使う交易路とインフラ設備の破壊だ。これらによってチマチマと敵を疲弊させようとし続けている。対峙しあう両陣営のどちらともがだ』
『今や世界はパラダイムシフトを起こして、WW1はおろか中世期にまで戦争の概念が遡ってしまっている。にも関わらず現代の戦術を用いて戦うべきだとする専門家たちの権威が邪魔で昔ながらに戻せない。
通常兵器が主役でなくなった戦争ならば、ISだけで戦って決着を付けられる戦争形態に戻した方が効率的だし経済的にも都合がいい。
君も、そうは思わないだろうかフロイライン・セレニア? 是非とも君の意見を聞いてみたい。遠慮は要らないから忌憚のない意見を聞かせてくれたまえよ』
ーーこんにゃろう・・・・・・。
内心イライラする気持ちを抑えつつ、私は彼が言って欲しがっているのであろう回答を一見一句過たずにお答えします。
なにしろ現実問題、それ以外に私たちの考える戦争概念は成立させようがないのですから。
「ーー両軍がそれぞれ大きな戦力を用意し、あらかじめ協議した末に決定した戦場において取り決められたルールの元で行われる戦争。
現代まで進んだ文明を中世期まで巻き戻すつもりだと、そう仰りたいのですかマイントイフェル大将閣下?」
『少しだけ異なるな、その解釈は。無論、意図して間違えたのであろう事は理解しているが、こちらも仕事だ。あえて訂正させてもらおう』
「・・・・・・」
『ISを使った戦争だけ“限定的に中世の様相に戻してしまおう”と、私はそう言っているだけだよフロイライン。
もとよりISは中世期における人類にとっての騎馬兵に近い。なによりこの世界は、WWに見られるように補給手段の充実と相まって戦争規模は被害規模とともに拡大の一途を辿っているのだ。この状況下で広大な宇宙空間での使用を想定して作られたISの本格的実戦投入は時期尚早と私は断定させていただく。
今の時点での人類はISに関してのみ管理統制する、絶対的な力を持った神の如き巨大勢力が必要不可欠なのだよフロイライン』
「・・・・・・」
『無論、我々は独裁をする気はない。ISもアラスカ条約に則って適切な扱いを徹底することを確約する。この点に関して我々は絶対にうそを言う事はあり得ないと断言できるのだがね・・・』
当たり前だ! 思わず手に持つ携帯を空高く投げ飛ばしたくなる一言でしたが、寸でのところで堪えました。
アメリカの主力はEOSだろうが! もうIS用無しだろうが! 戦力として使う気サラサラねぇだろうが!使う必要性すら欠片もないだろうがぁぁぁぁぁっ!!!
しかも!
私が断ったら今まで政府が隠してた諸々を暴露するぞって言う脅しを三バカ使って仕掛けてきたと間接的に白状しておいて、意見もなんもあるかーい!
真実の一端伝えられただけで日本全国パニック状態で勝手に自滅だコノヤロー!!
ーーぜぇぜぇ・・・・・・
『私に使える全てのカードは切らせてもらった。次は君の番だよフロイライン。
ーーで、君のお返事は?』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その日の夜。IS学園寮の自室において私は
「しばらく旅にでます。探さないでください」と書いた紙切れを届けてもらったのに、帰還してきた皆様によって強制的に祝勝パーティーに付き合わされる事となります。三次会まで含めると全部で10時間も続く祝勝会をぶっ続けでね!
ーー落ち込んでるときぐらい、落ち込ませてくださいよ!
いい加減にしないと、セレちゃんぶつじょーっ!
つづく