IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート) 作:ひきがやもとまち
注:今までも過激な戦争解釈が出てきましたが、今話の一夏は酷すぎます。そう言うのに耐性が無い方はお読みになられるのを控えてください。あとで活動報告でも謝罪しておこうと思ってます。
「うっ・・・いったい、なにがどうなって・・・・・・」
私、日本国閣僚の防衛大臣の幸原みすずは痛む頭をさすりながら立ち上がると、周囲を見渡して一点を見つめ、愕然とした。
先ほどまで自分の立っていた辺りに、見覚えのないISが数機着陸していた。
その内四機は見たことも聞いたこともない所属不明の機体だったが、指揮官機と思しき白い機体だけは見覚えがあるなどと言うレベルではなかった。
わたくしたち女尊男卑を掲げる日本最大与党にとって政敵以上に恐ろしくて厄介な宿敵!
女尊男卑の象徴にして、現代社会の根幹を成す概念『ISは女性しか動かせない』を根底から覆してしまった『世界初の男性IS操縦者』!
その機体『白式』! 憎むべき日本の敵! 日本女性すべての敵! 台所で見かける黒い奴! 黒いG! ゴキブリ! ゴキブリ人間『織斑一夏』!!
「ちょっと!そこのあなた! IS学園の織斑一夏!
誰の許可を得てここに進入しているのーー」
女尊男卑時代の日本に生きる女性政治家の一人として彼には一言いってやり、身の程を弁えさせなければならない。男は女より下の生き物なのだという事実を思い知らせてやらなければいけない。
そういう義務感に突き動かされ、私は彼に対して怒鳴りつけるように大声で呼びかけたのだがーー
「応さっ!!」
ーーなぜか物凄く嬉しそうな表情で反応されてしまった。
「俺は魔王セレニア四天王の一人にして指揮官!織斑一夏!
またの名をーー東西南北中央魔界天界戦国不敗!
グランドマスター織斑一夏とは俺のことさぁっ!」
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時が止まる音を、そのときの私は間違いなく聞いていた。
「・・・つかさ、お前さっきは日の本言葉しゃべらない奴は死ねって言ってなかったか?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
なぜかは解らないけれど、風間陸将の一言で今度は空気が凍り付いた。
もしかしたら私が気絶している間に何かあったからなのかもしれないけれど・・・少なくとも私には沈黙の意味するところが全く分からない。
若干途方に暮れた心持ちで誰かが反応するのを待っていると、
「ふっ・・・・・・」
意外なことに最初の反応は沈黙の原因でもある、織斑一夏から発せられた。
彼は「この程度のツッコミなら屁でもねぇぜ」とでも言いたげな不敵な表情で風間陸将を振り返ると、
「スシ!フジヤーマ!テンプーラ!スキヤーキ!」
なぜか片言の日本語を一通り並べ立てた後、
「ーーよし、これでもう安心。無理なく日本語が欧米文化と混ざり合って文明開化の音がしたぜ。
日の本の夜明けは近いぜよ」
なにやら一人で「うんうん」と頷き、納得しているようだった。
「凄すぎるゴリ押しでしたね。つか、ゴリ押しの体すら取れていない」
「一向宗の言いくるめの方が、まだしも理屈にはなっていたな」
田島一等陸佐と風間陸将がなにやらヒソヒソ話し合っているのが聞こえてきたが、肝心の織斑一夏には届いているのかいないのか、平然とした態度で堂々と先ほどの続きを勝手に始めてしまった。
バッ! シュババッ! シュバババババッ!!!
よく分からない意味不明なポージングを連発すると、
「四天王諸君! 自らの誇る二つ名を世界に示すのだ!!」
『応!!』
今度は背後にいた四人まで続きだしてしまった・・・。
「はじめてお目にかかります、獅王争覇チェルシー・ブランケットと申します。
IS学園一年一組所属イギリス代表候補生セシリア・オルコット様の代理で参りました、お嬢様にお仕えしているメイドで御座います。以後、お見知りおきを」
・・・メイド!? しかも代理!?
いったい誰なのよこのイギリス人は!?
「は、はじめまして天剣絶刀エクシア・ブランケットって言います!
え、えと・・・なんだか自分でもよく分かりませんがマスコット要員として付いてきてほしいって言われたので付いてこさせていただきました! よろしくお願いします!」
・・・マスコット!? 自分でもよく分からない!?
本気で何しにきたのよ、この小さな女の子は!?
「・・・笑傲江湖クロエ・クロニクル。
やることなくて暇だったから付いてきた」
・・・やることない!? 暇だった!? ニート!? ニートなのこの銀髪の子!?
ニートがなんで女性の社会進出の象徴ISに乗ってるのよぉぉぉぉっ!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・風雲再起織斑マドーー」
「戯けがぁぁぁぁぁっ!!!」
「ふぐおわぁぁぁぁぁっ!?」
名乗ろうとした黒髪美人の子が織斑一夏に殴り飛ばされて吹っ飛んでったーーーっ!?
え? しかも壁砕いて突破しながら突き進んでったけど大丈夫なの彼女!? 普通それ死んでるわよ!?
「不抜けているぞマドカ!
戦国の世のIS操縦者ならば、隙あらば己が仕える主君の寝首を掻き取る程度の覇気を見せずしてなんとするっ!」
「・・・・・・だから!それを!毎日毎晩お前相手に実践しては死にかけてる私の心労も少しは配慮してくれと! 何度も何度も申請してーー」
「こんのバカ弟子がぁぁぁっ!!!!」
「ふぐあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「たかだか紙の上に墨を流しただけの代物に何の価値があると言うのだ?
武士にとって勝つことこそ本義であり、唯一無二の存在価値。
勝ちさえすれば講和条約のひとつやふたつ破ったところで何ほどの事もあるまい!」
「そ、それじゃただの人殺しに・・・・・・」
「人を斬らぬ刀に価値など無いわぁぁぁっ!!!」
「ぶぇるぶぇはぁぁぁぁっ!?」
・・・・・・さっきからいったい、なにやってるのこの子たち?
・・・・・・新手のコントかなにかなのかしら?
「おーい、織斑一夏~。向こうさんがお前に対して、何かしら言いたいことがあるらしいんだが?」
「ん? 風間陸将・・・?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、思い出した。そう言えば今の俺たち、アンタ等の援軍に来てたんだっけ」
「・・・他の何するつもりで来てたんだ? お前・・・」
「うむ、それはほら、あれだ。気分転換に人を何人か斬り殺せばセレニア口説くための、いいアイデアが浮かぶかもしれないと思ったんでな。それでちょっと殺しに行くかと」
「頼むからそういうのは余所でやってくれ。日本国外でな?
日本人IS操縦者が外国で猟奇殺人犯したところで、日本の自衛隊にお呼びがかかるとは思えんし」
「おう、善処するぜ。
ーーで? 通信機はどこだ?」
「こちらです、織斑さん。通信は連絡車両に繋げておきました。
あ、炬燵と蜜柑もありますよ? どうされますか?」
「む、田島一佐か。かたじけない、ありがたく頂戴するとしよう。
・・・・・・ところで蜜柑じゃなくて柿はないのか?」
「柿・・・? ・・・・・・ああ! 光成柿ですか! 確かに忠義の人でもある織斑さんには蜜柑よりも似合ってますね! 今朝配給で回されてきたのしかありませんけど、よければどうぞ」
「うむ、感謝する。・・・あー、テステス。マイクテス。ワレワレハ地球人ダ。
ーーん、良いだろう。始めるか」
なにか小芝居入れないと始められないのかしらね、こいつら・・・。
余りにも余りな事態の連続を前に、私も感覚が麻痺していたのだろう。気づけば不覚にも、ノンキな心構えで織斑一夏とテロリストグループによる話し合いを黙認する形を取ってしまっていた。
ーーでも、私にだって情状酌量の余地はあるはずだ。
だっていくら何でも総理以下十数人の政府要人を人質にとって首相官邸を占拠している武装テロリスト相手にあんな暴言吐くなんて、どう考えてもあり得ない事ですから!
彼、織斑一夏は田島一等陸佐に先導されて通信装置の前まで来ると、傲岸不遜な態度でなにやら言おうとした相手の言葉を制するように、向こう以上に傲慢きわまる態度と口調と表現で傲然と言い放ちやがったのだ。
「身の程知らずで無能きわまる跳ねっ返りどもに告げる。無駄な抵抗はあきらめて、両手をあげたまま愛する母国とやらに逃げ帰れ。今ならまだ、逃がしてやっても良い。
お前たちの故郷では今頃恋人たちがベッドの上で愛を囁きあってるぞ。故郷を離れた遠い島国で聖なる一夜を女たちだけで過ごす己が身を呪いたくないのなら、よく考えて決めることだ」
ーーね?
この状況下でこんなトンデモ暴論が出るなんて、誰が予測できるって言うのよーーっ!!!
「三分だけ待ってやる。それを過ぎても賢明な返答が導き出せなかった場合、当方は貴様等を語り合う意志無きものと断定し、殲滅する。
罪人に必要なのは交渉でも説得でもない。奴らにはそれを理解しようとする意志が致命的なまでに欠如しているからだ。
こちらの言い分を聞く気がないのであれば、無理矢理にでも聞かざるを得ない状況に持って行くのが正しい戦人の作法である。
この戦闘においてどれほど多くの血が流されようとも、責任の全ては誤った選択の末に敗北した敗者の側にあることを自覚しておけ。以上だ、通信を終わる」
ガチャッ、ブツン・・・・・・。
「なーーーーーっ!?
なーーーーーっんて事してくれちゃってんのアンタは!?」
ブチ切りやがった! ブチ切りやがったよコイツ!
向こうから送られてきた通信を受けて、相手には一言も言わせないまま言いたいことだけ言って言い分も要求も聞くことなく、一方的にブチ切りやがっちゃいましたよこのバカ侍はーーっ!!
「な、ななななななーーーっんて事してくれちゃってんのよアンタ!?
どうするの!?どうする気なの!?
いったい、誰がどうやって責任とれるって言うのよこんな状況でーーーっ!!!!」
「??? 風間陸将、いったいドコの誰だ、この化粧分厚いオバサンは?」
「おば・・・!? 化粧が分厚い!?
ここに来る前、ネイルサロンで一時間以上かけて念入りに整えてもらった私のお化粧が分厚いですってぇぇっ!!!」
「大臣、幸原防衛大臣、お願いだから落ち着いてください。さっきから自分の取り巻きジャーナリストの前で失言問題しまくってます。
ほら、あそこをよく見てください。カメラマンが親指立てて私にニカッと笑って見せましたよ。頼みますからこれ以上、自衛隊の醜聞晒しまくらないでいただけませんか?
一応あなたまだ今のところは、防衛大臣なんですから・・・」
ーーもっとも、明日か早ければ今日の深夜中には降ろされてるでしょうけどね。
風間陸将の声で幻聴が聞こえた気がするけど、そんなことはどうでも良いわ! 今はそれどころじゃないですから!
「今あなた自分が何したか分かってるの? 総理以下閣僚を含む十数人の命を人質に取ったテロリストたちに泥を投げつけたのよ?
そんなことをすればどのような事態が起きうるのか、その程度のことも分からないほほど日本の男はダメな生き物なのかしらね!?」
「無論、分かっているとも。これから見せしめによる処刑が始まるだろうな。最終的にはわずか数人残して皆殺しだろう。こちらのとって最良の状態だ。
救う命が一人も居なくなれば、殺すのをためらう理由は些かもなくなるわけだからな」
「なっ!?」
「むしろその方が、アンタたちにとっても都合よかろう?
人質が生きてるから殺される前に救う義務が生じる。助けたところで得にはならず損しかしない連中だったとしてもだ。
ならば見殺しにして死を悼み、政治に利用してしまえるなら使えばいい。死体をどう使おうとも、あの世から訴状請求されることなど有り得ないのだからな」
「・・・!! あ、あなたなんて非人道的なことを・・・恥を知りなさい!」
「王侯貴族だろうと、一介の貧乏人だろうとも、死ねば躯。躯は・・・物だ。物は道具なのだから使わなければ意味がない。
今を生きる者たちのため、死なずにすんだ者たちのため、死なずに生き延びた者たちを死なせないためにも、魂の抜け落ちた空の入れ物を使う。其処になんの矛盾が生じると言うのだ?」
「・・・・・・!!!!!!」
「人とは物食い、物言い、物思うだけの物だ。死んでしまえばな。
そいつとよく似た死体と言う名の木偶人形に、生前のそいつを被せて見るのは死者に対する冒涜だぞ? 亡くなったそいつに対して失礼きわまりないぞ? 眠りについた墓の上に名も知らぬ場所から運ばれてきた石ころ乗せられる身にもなって見ろ。拷問じゃねぇか。死者に鞭どころか拷問加えてどうすんだよ。
そんな悪鬼外道な所行で自らの自己陶酔に利用されるくらいなら、これは百万倍もマシな行為だ。多くの人々の命を明日へと繋ぐ希望の贄だ。
恥じ入るべき点など何処にもない」
「・・・・・・」
「義のため人のため、天下太平、万民のため、孫の世のため後の世のために武士は人を殺し、味方を死なせ、国を滅ぼす。屍の山を築き上げて、その上に己が支配する幕府を打ち立てことを夢見る。
戦国の世の天下取りは、それが全てだ。太平の世が終わり、下克上の戦国乱世が訪れてからずっとな」
「どんなに正しく生きようとも、いかに行儀良く戦おうとも、負ければ己が所行のすべてが悪行として後世にまで残し伝えられ政に利用される」
「それが武士だ。それが戦国の世だ。それが戦国の世に生きる戦人が、己の人生全てをかけて駆け抜けた生き様だ。その生と死だ。
その点について、何人にも否定はさせん。戦国の世の戦で馴れ合いなどと反吐が出る。戦人同士が戦場で解り合うのは、互いの命が平等に失われゆく戦場にあるからだ」
「戦場に貴賤はない。立場は違うし待遇も異なる。死ぬ確率も生きて帰れる可能性も、死んだ後の躯がどのように扱われるかまでもが天と地の差だ。
戦場だろうと日常だろうとも、『平等』などと言う言葉が絵空事でなかった世など人類史には一秒たりとも存在していない」
「お前は俺の考え方を、間違っていると思っている。
俺はお前が平和ボケして甘ったれた、阿婆擦れだと思っている。
戦のはじまりを告げる鬨の声は今この場において出会うより前から、とうの昔に済んでいた。
ならば俺がお前の意見など聞く耳持たないのは、至極当然の道理だろう?」
「なぁ・・・・・・!?」
あまりにも余りな言い分を前に私は二の句が継げずに、なにか言うべき言葉はないかと頭の中の迷路で迷子になりながらも織斑一夏の一挙手一投足を注視していた。
織斑一夏は確か、零落白夜とかいう名前の第三世代武装を掲げて総理官邸を指し示すと、
「あそこに立て籠もっているのは蛮族だ。
俺たちが愛する祖国を穢し、傲岸不遜に下劣に高笑いしている殺すしかない愚者の群だ。
魔王セレニアから与えられた指揮権によって命じる。躊躇なく、嗤いながら敵を殺せ。家畜を襲う害獣のごとく殺せ。夏に飛び回る小煩くて煩わしい蚊の同類と認識して殺せ。
全責任は指揮官と言う名の責任者である俺に押しつけて、一人残らず根切りにしてしまえ。
さぁ、征くぞ。戦がはじまる・・・・・・Last Partyの始まりだ!
やぁぁって殺るぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」
つづく