IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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最近、受けを狙いすぎて思い通りに書けなくなっていたので思い切って好きに書かせて頂きました。私の作風は本来こんなんです。
余りにも我慢している期間が長すぎたせいで堪りに溜まっていたせいか一話内に納まりきらず、一夏たちの出番は最後だけ。セレニアに至っては名前しか出ないと言う不遇ぶり・・・。

我慢は身体にも作品にも良くないと実感した回です。


40話「原作に帰れなくなったバカたちによる原点回帰」

「責任者はどこ!? この件に関する責任を問われるべき責任者の所在はまだ確認できないの!?」

「落ち着いて下さい、幸原大臣。別にあなた自身が人質に獲られたわけでもないでしょうに」

「人質に獲られている総理大臣は私の兄の嫁の父親の従兄弟の息子の親戚であり、なにより私の尊敬し敬愛している直属の上司です!

 その総理ご自身がテロリストに人質として身柄を拘束されている以上、落ち着いてなど居られません! であるからこそ、私はこうして現場にまで直接指揮に出向いているのですから」

 

 ーーいやそれ、赤の他人って言わないか?

 あと、正直邪魔なだけなんで帰って頂きたいです。

 

 よくある刑事ドラマじゃないんだから、本部のお偉いさんが現場に出向いてこられても足手まといなだけなんですけどねぇ・・・。

 

 

 

 テロリストに占拠された総理官邸をぐるりと取り囲んでいる自衛隊の作戦指揮所の中で、統合幕僚会議議長の風間陸将はそう思った。心の中だけで。

 

 心で思って口には出さない。明治維新後も続いている「見ざる言わざる聞かざる」は今も昔も江戸の頃から変わっていない日本の伝統芸能だ。

 それが良い伝統なのか悪しき慣習なのかまでは彼の関知するところではない。自衛隊の仕事に啓蒙活動までは含まれていないのだ。

 

 ふと、風間が視線を向けた先にキラリと光るものを見つけてたので目を凝らしてみる。

 草むらに隠れるようにして幸原子飼いのカメラマンが地べたに這いずり、スクープ写真をモノにするため得物(ファインダー)を構えている姿が目に入った。

 

 ーーこの寒空の下、ご苦労なことだなぁ。・・・つか、寒くないのかねあれ?

 アスファルトって意外と冬には冷たくなるんだが。

 

 差し入れにコーヒーでも持って行かせるかと考えていた風間の耳朶に幸原みすず防衛大臣の耳障りなキンキン声が轟き、彼は現実問題への帰還を果たした。

 

「・・・だいたい貴方たち自衛隊がいけないんです! ISも使えない癖にいつまでも偉そうに軍服を着続けて恥ずかしくないのですか?

 あなたたちに廻している予算を新型IS開発に振り分けていたならば、今回のような事態は起きずに済んだのです。少しは自分たちの責任を自覚したらどうなの!?」

 

 居丈高な態度と口調で言い切ると、妙に仰々しく見栄えのいい仕草で髪をすく。

 カシャッ、というシャッター音が僅かに聞こえてから数秒の間をおいて「そうだそうだ! 自衛隊は税金泥棒だ!」と言う罵声が聞こえてきた。

 

 この非常時に際してサクラを用意できるとは大した根回しである。あるいは彼女こそが犯人たちを一ヶ月以上匿い続けていた国内協力者なのかもしれない。

 

「そう言えば三日前に有事に際して総理が政務を行えなくなった場合には代理を務めるようにと、副総理に指名されたってニュースでやってたなぁ。

 チラっとしかやってなかったから気にしていなかったんだが、ありゃそう言う意味があったのか。日本の政治も意外と奥が深いぜ」

 

 うんうんと、感心したように何度もうなずいてみせる風間の声など耳に届いていないのか、幸原大臣は得意げな口調でカメラに見えるように演説を始めている。内容は「男はダメ、これからは女の時代」である。

 ここ何代かの政権交代時に必ずと言っていいほど叫ばれるスローガンなので、今更目新しさを探しようもないが所詮、余談である。

 

 

 

 

 一ヶ月以上前の10月10日。日本政府と総理官邸と警察庁と警視庁と統合幕僚本部と内閣府にたいして匿名による極めて重要な情報提供がもたらされた。

 

 曰く、『アメリカ軍から脱走したIS操縦者三名が日本に向かって移動中。彼女らは全員が第一回モンド・グロッソ上位入賞者である。厳に留意されたし』

 

 これを受けて日本政府は各省に事情を通達し、警視庁には「刑事事件として捜査」を要請。それから今日まで何の音沙汰もなく、テロとか忘れて明日に迫ったクリスマスでも楽しみにしてんだろ的な雰囲気の中で事件は起こった。

 平時よりも三割増しな警備の中で総理官邸が襲撃を受け、クリスマスの挨拶に訪れていた代議士十数名とともに総理本人もまた敵の捕虜となってしまったのだ。

 

 ーー国内の首都にあって総理官邸が襲撃され、主権国家のトップがテロリストの人質にされてるようじゃ詰んでるだろ日本。映画じゃないんだから、少しはまじめに身辺警護を固めようぜ。

 

 風間は心の底からそう思う。

 そして周囲を眺め渡す。

 

 世界が戦争ムードに包まれていく中、日本の首都東京はクリスマスムードに包まれていた。

 あちらこちらに綺麗な電飾で飾り付けがなされ、恋人たちが仲良く腕を組んで歩いている。中にはこちらを見ながら大声だして笑う者や、何かの撮影と勘違いしたのか写メを取り出す者たちまでいる始末だ。

 

 ある意味では平和な光景、ある意味では完全無欠の世紀末。それが今の日本を包む悲惨で滑稽な現実であった。

 

 

 

 

 

 エクスカリバー撃墜事件より今日まで、日本は比較的平和な時を過ごしてきた。

 テレビのニュースでは風間が聞いたこともない『著名な軍事評論家』のオバサンが

 

「極めて緊迫している情勢下にあります。政府軍が所有するISの存在によって辛うじて平和が保たれている状態と言えるでしょう。早急に事態に対処するよう、政府にも働きかける必要があるでしょうね」

 

 ーーと評していた絶賛内乱勃発中の国々では、政府軍幹部の大部分を占める『女尊男卑』思想家たちが次々と男性の部下たちに射殺されまくっているのだが、まぁ彼女たち自身の身内じゃないからどうでもいいのだろうたぶん。

 

 他にも昔から隣に住んでる共産主義者の毛さん家では反乱勢力を『軍事利用が禁止されてるIS使って』容赦なく殺戮していってる傍ら、関係ないチベット人やウイグル人の羊飼いとかを『反乱勢力に組みして中国共産党に弓引く恐れがある』として大量に見せしめ虐殺していってるが、日本ではこれらの事件を「ネット世界での出来事。早く現実に帰ってきて仕事しろ」という表現で片づけられている。

 

 後は戦争によって海上輸送が滞り、物資の不足や値上がりが懸念される中。政府は「国債の増発を指示し」一般大衆は「またソレかよ。いい加減別のことやれ、飽きるわ」と罵倒しながら「サンマが先月より二円も高い。いったいどういう事なんだ!」とデパートの店員相手に怒鳴り散らす風景が日常のヒトコマに組み込まれつつあった。

 

 

 

 

 

「・・・カオスすぎるだろ、おい。日本はいつから『シン・ゴジラ』みたいになってたんだよ。ここまで来るとマジでドン引きだわ。完全に『世界最後の日』になってるじゃねぇか・・・」

 

 陸将の独白を聞き咎めたのか、第一戦闘団の田島一等陸佐が声を上げる。

 

「隊長も観てたんですか! いいですよね! 「真・ゲッターロボ」!

 過去の旧作も捨てがたいですが、俺は断然「真」版、神隼人の方が好みです!母艦タワーに侵入してきたインベーダーを隼人がショットガンくるくる回しながら片手撃ちしてる姿には子供心ながらに痺れましたよ!

 俺が自衛隊に入隊したのも当時のアレを再現したかったからで、今の現状には正直ガッカリして退屈してます。俺も銃で人撃ちたい」

「ああ、お前が妙に射撃上手くて、でも撃ち方に変な癖があるのはそのせいだったのか。

 ・・・・・・業が深いなぁ~」

「子供の頃の憧れは、一生の宝物!」

「埋めてしまえ、そんな負の遺産」

 

 どうでも良いことをどうでも良さそうに話している現場責任者のナンバー2とナンバー3に、カメラを意識して取り繕ってたナンバー1幸原も怒りを抑えきれなくなる。

 

「・・・あなたたち! ここが何処で、今がどんな時か分かっているの!?

 国民の血税で養ってやってるんだから、少しは真面目に働きなさいよ役立たずの穀潰しどもめが!」

 

 三十路前半の中途半端美人が放ったヒステリックな雄叫びに対し、二人の自衛隊幹部の反応は凄まじく鈍いモノだった。

 風間が困った風に「しかしですね幸原大臣・・・」と、取り繕うように言ってくるのを遮るために再び怒声を放とうとしてーー

 

「真面目に働こうにも東京のど真ん中で発砲許可なんて今の日本政府には出せないのでしょう? だったら我々のやる事など、ダベるくらいしかないのですが?」

 

 ーーさっと視線を逸らして沈黙の砦に引きこもってしまった。カメラマンも小休止とばかりにポケットから保温ポットを取り出してコーヒーを飲み始めている。もちろん、ノンカフェインで。

 張り込み中のカフェイン接種は尿意を催す恐れがあるので、コーヒーを飲むのは控えめにね。

 

 返事がないのは分かっていたので、風間もことさら求めようとは思わない。

 日本の政治が官僚政治となってから早幾年。官僚による責任分散の悪習を制度化したのが現代日本の統治システムなのだから、今更文句を言ったところで意味などあるまい。

 別に日本の政府が特別悪い奴らで構成されてたからと言う訳ではなくて、官僚とは元来そう言うものなのだから仕方がないのだ。諦めて割り切ることしか特別職国家公務員である自衛隊員には許されていない。

 

 政治家と官僚はまったく別種の役職であり、専門教育を施すのであれば子供の頃から帝王学を学ばせて『君主論』でも読ませてやればよいものを。風間は密かにそう思う。

 

 「子供の教育に悪いから」等という言い分は、良い悪いを区別できない子供に育てた親の教育が悪いと言う子育て信念を持った子煩悩な優しくも厳しい父親風間陸将は、子供の自主性を尊重すべきと信じて息子たちと接している。

 教え導くのが親の役割。断じて自分の考えと違う思想を持つのが悪いことだなどとは教えない。自分と違えば悪だとは、いったい愛する我が子をどこの独裁者に育て上げるつもりなのだろうか?

 つくづく不思議な考え方を持つ国になったものだと、風間は首を傾げてしまう。

 

「民衆の避難誘導は別働隊が担当し、威嚇のためには一定数の兵力は置いておく必要があり、我々指揮官が指揮所を離れるのは外聞が悪いと言われてしまっては、部隊を展開し終えた後の我々は本当の意味で要らん子小隊になってましてねぇ。真面目にやるべき仕事がないのですが、何か割り振ってもらえますか? 今なら雑用任務だろうと喜んで勤めさせてもらいますよ。暇なんで」

「・・・・・・・・・あ、IS部隊は! 虎の子のIS部隊はいつ現場に到着する予定なの!?

 彼女たちさえ来てくれれば、こんな難局いとも簡単にひっくり返せーー」

「真っ先に出撃して真っ先に落とされましたよ?

 管制官の指示もまどろっこしいとばかりに第三世代武装をハッチに突きつけて「今すぐ開けなきゃ撃つわよ!」と芝居がかった口調で宣ってたそうです」

「・・・・・・・・・」

「大臣、以前より政府には苦言を呈しておりますが、IS学園を卒業したばかりで卵の殻すら取れてないヒヨッコのお嬢ちゃんたちを幹部候補生としてキャリア組に抜擢するのは辞めてもらえませんかね?

 いえ、やるのは一向に構わんのですが、その場合はせめてIS操縦者の資格は剥奪してください。幹部ってのは基本的に指揮官としての教育を施すものなんで前線に出るパイロットには基礎からやっていただかないと使い物にならんのですよ。

 おまけに長じてからは防衛省への入職が確定している新米なんて、現場の私たちにとっては厄介なお客様でしかありません。二年と三ヶ月ほどで自分たちの遥か上に行く新人に対して、たたき上げの鬼軍曹役曹長なんかじゃ、怖くてまっとうな軍事教練なんて付けられませんて。

 ノンキャリアとキャリア組の精神的な隔たりくらい、女性初の防衛大臣に任命された時にでも学んでおいて頂きたかったですな」

「・・・・・・あなたは・・・!!!」

 

 男の分際で身の程をわきまえようとしない部下に制裁を加えてやろうと右手を振り上げる幸原。

 たたき上げの自衛隊幹部で任官後一日たりとも訓練を怠らずに鍛え上げてきた『脳味噌以外は筋肉』で出来てる鋼の肉体を持ち、不用意な攻撃は身の破滅を招くこと間違いなしな叩かれる側で「いや、大臣。それはやめた方がいいです危ないです、と言うか振りかぶり方からして素人丸出しで普通の人に当たっても手が怪我を負う」と親切に礼儀正しく紳士的に忠告しようとする風間。

 

 二人の運命が交差して、幸原大臣が右手首を捻って軽い捻挫をするはずだったその瞬間にーー空から舞い降りた空気読まないバカ侍が盛大に着地する。・・・幸原大臣を押しつぶす形で。

 

 

 

 

「流派!魔乳殺人剣は魔王のスカート捲る風よ!

 全身痙攣!電波厨二!

 見よ!東方プロジェクトに熱く萌えているーーーっ!!!!!」

 

 

 

 

 ーー轟く絶叫、始まる剣舞、呆れ果てる風間と地面に突き立つ逆さまの幸原。

 

 しばらくアホがアホやってアホらしく遊んで楽しんだ後、一息ついたバカが大声で名乗りを上げる。

 

 

 

 

「「「「「我ら! 魔王セレニア四天王!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

魔王セレニア四天王の内訳

 

 総司令官:織斑一夏(日本人だから当然参戦権あり)

 副司令官:織斑円(日本国籍ないけど他国のも持ってないから別にいいよね)

 参謀長:チェルシー・ブランケット(イギリス代表候補だから来れないセシリアの代理)

 副参謀長:エクシア・ブランケット(マスコット要員。戸籍から抹消されてるし、何したって国など関係ない!)

 客員参謀:クロエ・クロニクル(束が引きこもったまま出てこないので暇だから付いてきた。そもそもコイツって出生届だされてるの?)

 

 

 ーー混成部隊にも程がある混沌ぶりだった!

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、別にいいんだけどさ・・・・・・・・・」

 

 右頬をポリポリかきつつ、風間は当たり障りのない、だがどうしても聞かねばならない事柄について質問する。

 

 

 

「・・・五人いるんだが・・・?」

「気にするな、よくある事だ」

 

 にべもなく一言で切り捨てた織斑一夏は、最近ISを切ることで異常な快感を感じられるようになった己の愛刀を愛おしげに撫でながら囁きかける。

 

「ふっ、今宵もレッツパーリィだぜ」

 

 注:昼間です。

 

 

 

 ・・・・・・こうして訳分からん援軍(?)が駆けつけたことで敵との戦力差は五分と五分(?)になった。

 

 

 

 次回、戦国不敗(自称)織斑一夏が三バカたちと雌雄を決する!

 はたして勝つのは、どちらのバカだ!?

 

つづく




バケモノ最新話もこんな感じに書き直してます。
私に半端は向いてません。シリアスにやるからには誰かを徹底否定する話しか本気になれません。中途半端な救済など胸糞悪くなるだけでした。

・・・ほんっっっと性格悪いなぁ私・・・。人生見つめ直して今の自分も見直したいです。
たぶん、答えは変わらないでしょうけど。

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