IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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明け方頃に目が覚めて二度寝する気にならなかったから適当に書いてみました。
「ネギま!」はまだです。出来れば今日中に出したいものですね。テスト版なので期間限定でですけども。


39話「セレニアは初めて自分が少女であることを意識した」

「・・・はい? 密告? 複数の情報筋からIS学園に向けて・・・ですか?」

 

 胡乱気な私の反応に織斑先生は、生真面目な表情で頷き返します。

 事態の深刻さを理解してはいるようですが、どうにも最近この人の状況認識能力に齟齬を感じている私としては容易に判定しかねるため、とりあえず判断は保留で。

 

「そうだ。それぞれがまったく異なる方面から入った、異なる内容のタレコミだ。

 しかし学園側で精査したところタレコミ情報のすべてに共通している部分がひとつだけあり、それを補完するに足る物的証拠も確認してある。まず間違いないと見ていいだろう。

 問題は、如何にしてこれに対処するかだが・・・・・・」

「あぁ~・・・」

 

 うん、やっぱり状況認識がちょっとだけ可笑しいですこの人。今一番気にすべきなのはそこじゃないと思うんですけどねぇ・・・。

 

 情報がもたらされた。それも当面敵対している勢力に関する重要な情報が。

 

 これを受け敵勢力首脳の思惑について考えない人って、やっぱりどこか可笑しいと思うんですよね。私はですけども。

 

「問題の信憑性を云々するのは警察の仕事でしょう? 問題解決の方策についても同様です。国会の対策会議にでも丸投げしてしまえばそれでよろしい。

 こちらはあくまで受けて側なんですから向こうがハッキリと敵対行為を示した後、臨機応変に対応できる準備を整えておけばそれで問題ないのでは?」

「それでは遅い。間に合わなくなる。一般市民に被害が出てからでは遅いのだ。

 奴らに日本国内への侵入を許せば、市民を人質にとっての大規模テロを行われることは自明の理。ならば率先して入国前に敵を叩き、被害を最小限に押さえることが我々IS操縦者の役割と言うものだ。

 せっかく事前に情報を得られたのだから普段と違い、積極的に防衛行動に出る事も可能だろう?」

「どうやって?」

「・・・・・・は?」

 

 当然の質問をしたら不思議そうな顔をされる。この場合の私の反応ってどうしたらいいのん?

 

 

 生まれ変わってから初めてかもしれませんが、胃ではなく頭に激しい頭痛を覚えながら私は渡された資料の一つを指さして、

 

「タレコミ情報の一つに書いてあったでしょう? “彼女たちはワシントン空港から民間旅客便を使い、日本に向かっている”と。

 正規の手続きを経て民間航空機に搭乗した外国人の乗客相手に、IS使って何させるつもりですか貴女は。彼女たちだけなら撃ち落としても無理矢理もみ消すことが可能かもしれませんが、商用で訪れてる民間商社マンとかが他にも大勢乗っているんですよ?

 外国企業にそっぽ向かれて、海洋貿易国日本が飢え死にしないで済むとでも?」

「そ、それは・・・だが、しかし!」

 

 だが、しかし!・・・の後が続かなくなる織斑先生。どうにも彼女はこっち方面が苦手な人みたいだなと言うのが最近の私の総評です。

 端的に言って、戦バカ的な要素がかなり強い。戦いに関しては結構優秀でスーパーロボット作品に出てくる老艦長的思考のできる『戦場内に限っては優秀』な人物。あるいは『一度の戦いで一人の犠牲者を出すことなく勝つのが目的』である場合は適任。そんなところではないでしょうかね?

 

 一度の戦いで所持金すべてと手持ちのアイテムを大量消費してでも良いから犠牲なく勝つことを目的とした戦術シミュレーションゲームの指揮官主人公タイプ。

 

 大軍を率いて全世界を支配するため他国を侵略していく『大戦略シリーズ』ではなく、父親の敵を討ちたい自分の民族を守りたいと言うささやかで平凡な願いから戦争に参加して結果的に一大勢力の総司令官になってしまう『タクティクス・オウガ』タイプなのでしょう。もしくは『スパロボ』のブライトさん。

 

 極端すぎるほど極端な一点特化型司令官、とにかく目の前で苦しんでる人たちを助けるために全力を出し、仲間たちを死なせないため裏側でいろいろ工夫しているタイプ。

 その反面、視野狭窄に陥りやすく仲間を傷つけるものたちには無条件で憎悪を抱ける。ただし敵に対して、仲間や自分と似たものを感じた途端に刃を納めて背を向ける類の、よくあるヒーローマンガの主人公的な人格保持者。

 

 ・・・そう言えば彼女がIS操縦者を引退したのは、織斑さんをテロから救った後のことでしたね。なるほど、それが未だに尾を引きずって思考を硬直化させていると言うわけですか。無理もないとは思いますが、無益なことでもありますね。

 

 贖罪など、所詮は自己満足です。やりたいと思ったのなら自分だけの問題で収まりきる範囲でやるべき事だ。他人を巻き込んでまでやることじゃない。

 自分の犯した罪の重さに苦しんだあげく、世界中の人々を救済するためとか抜かして人殺ししまくってる輩には感謝の気持ちを込めて、眉間に鉛玉でも撃ち込んで上げればよろしいでしょう。よけいなお世話だ、良い迷惑だと言いながらね。

 

 私のこれも同様であり、自分のエゴのために引き金を他人に引かせている自覚はあります。それを受け入れて未来永劫苦しみつづめる覚悟がないのであれば、戦争指揮など始めからするべきではない。それが私の導き出した答えです。

 

 

 

「確かにタレコミ情報はすべてバラバラの内容で、発信者も身元不明な匿名希望が無数にいます。確認できた人たちにしても8割以上が縁もゆかりもない人たちで形成されている。

 ふつうに考えれば彼らに因果関係は成立しないのでしょうが・・・いくらなんでも出来すぎてます。明らかなアメリカ政府からのメッセージを匂わせて来ているとしか思えません。

 だとしたら敵の思惑について思いを馳せるのは、当然の反応なのでは?」

「そ、そうかもしれんが・・・しかし証拠がない。今のところお前の推測だけで成り立っている机上の空論だろう? そんなものを基準に作戦を考えてもいい事態ではないのだ。弁えろ」

 

 尤もな意見ではあるんですけどねぇ~。分かりやすすぎる部分に着目しすぎです。

 木を隠すには森の中、落ち葉を隠すには林の中、重要な情報を隠すには無数のゴミ情報の中に紛れ込ませるのが一番確実だし、第一楽でいいんですよ。

 

「バラバラの情報は確かに単一で見ると信憑性を欠くものばかりで、信頼できるものは八割方確認済み。その内容は『アメリカ軍から脱走した専用機持ちIS操縦者が日本に向かって移動中』のひとつのみ。

 間違いなくそうだと確信できる情報だけ見るとこうなりますが、しかし・・・見方を変えればどうです? 信憑性など度外視してすべての繋がりそうな部分だけを意図的に選んで継ぎ接ぎしていったらどうなると思われますか織斑先生?」

「・・・・・・どうなると言うんだ?」

「こうなりました」

 

 私が渡された資料をすべて読み終え、あくまでも私に理解できて、敵情報に範囲を絞り限定した上での情報をすべて繋ぎ合わせると・・・・・・

 

「これは・・・!!」

 

 はい、出来ました。敵ISおよび操縦者たちの綿密なプロフィールの完成です。

 

 驚愕の表情を浮かべる織斑先生ですが、私は別のことが気になって意識が茫洋としてる状態だったため、その時には気がつきませんでした。

 ようやく気づいたのは、彼女の次の言葉を聞いて返事をするとき。

 

「しかし・・・何故なんだ? これらは全て国家機密に類するSSS級の重要書類だぞ。そんなものがどうして民間からのタレコミに混じって送られてくるのだ?」

「送るよう依頼しているのがアメリカのトリューニヒト大統領だからでしょうね、きっと。個人的なコネだけでなく、適当な商人に情報与えて『日本政府にでも売って小遣いにでもするといい。大丈夫、情報に嘘は混じってないし問題にならない程度に小出しにしてるから全部そろわない限りは役には立たん。

 なによりも君たちは求められた物を適正価格で売っているだけだろう? 誠実な商売をおこなう相手に礼を失するような無粋な真似を、お辞儀の国日本は許していないよ』とでも言い添えれば、まぁ教えた相手の三割くらいは売りに来るんじゃないかなと」

「三割!? たったそれだけなのか、この紙クズ山は!?」

 

 さっきよりも驚き慌てる織斑先生。どうやら情報確認には彼女も駆り出されてたようですね。お疲れさまです。

 

「別に彼ら商人にとっては、この情報で儲けを出す必要性は些かもありませんからね。元手がタダで得た情報です。利用できるときに利用し、使えるときに使ってやろう程度の意味合いしかないのでしょう。むしろ、依頼されたときに何らかの便宜ははかってもらってるでしょうから、既に儲けは出ているとも言えますしね。

 商談の時にでも噂話として提供すれば場の空気を支配しやすくなる。仮に当たっていた場合には自分への評価は高まり、外れていたら後日菓子折りでも持って頭を下げにいこう。何事もなければ単なる馬鹿話で終わる程度のものです。

 彼らから見てこの依頼は、当たればそれなりにデカくて負けても大した傷は負わない、グレーゾーンでも問題ないし一期一会に則って言えば『今その場の商談相手』の心理面だけを考えて商談に利用できさえすれば、それで商談丸儲けという奴ですよ」

「なんて七面倒くさいことを・・・」

「やる方と対処させられる方にとってはですけどね。計画の立案と実行までには然程の手間もかかりません。『考えついたからやってみた、上手く行こうが行くまいが関係ない。当事者同士の問題だろう? だったらお互い、好きなようにやっていろ』的な思考法で十分です」

「ぐ、ぐぬぬぬぬ・・・・・・」

 

 まだ見ぬ敵に(もしかしたら私にも)怒りの目を向けている織斑先生から視線を逸らして天井を見上げると、私は先ほどから気になっている事について再び思考を巡らせました。

 

 

 今回の件で一番得するのは誰なのでしょうか?

 答え=アメリカ合衆国大統領ヨブ・トリューニヒトと上院議長のゴップさん。

 

 

 私が始めてしまった世界規模の混乱が一向に収まらない主な原因は、各国政府与党を占める若手女性政治家たちが思うように動けてないのが大きな要因となってます。

 これはなにも彼女たちが完全無欠の無能だと言ってるわけではありません。経験不足なのは否めませんが、それでも一応の統治能力を持った水準に達している人材が半数近くを占めてます。それだけいれば当面の問題解決に協力しあえてもおかしくはない。

 

 にも関わらず彼女たちが国や派閥、所属している政党の垣根を越えて協力しあえない理由とは、実のところパイプがなくて連絡が取り合えない状況にある。只それだけだったりするんですよね。いやマジでマジで本当に。

 

 政権が変わる際に引き継がれるべき外相担当の持つ各国要人との繋がり、もしくは個人的な連絡手段を彼女たちは殆ど引き継げていません。『白騎士事件』の混乱の中で散逸してしまったからです。

 

 

 

 

 あまり知られていませんが『白騎士事件』が発生したとき、日本を攻撃可能な各国のミサイル二三四一発が同時にハッキングするという凶行は世界中に絶望的なまでに大きな被害をもたらしました。

 自分以外はみんなバカと称する篠ノ之博士には想像も出来ない愚かな行為としか思われなかったでしょうが、世界中の技術関連の担当者たちは『取り替えても、また破られるだけだから』等という理由で第三者にハッキングされたコンピューターを政府中枢に置きつづける訳にはいきませんでした。

 大急ぎで新品への交換と機種の変換、セキュリティを強化した新型の開発に着手しなければならなくなる中で起きた次なる変化は『女尊男卑』の台頭。

 

 これにより今まで男が占めていた社会上重要なポストが女性に奪われ、世界の支配階層は大幅な維新を迫られました。急速すぎる新陳代謝は必然的に歪みを生みます。

 対処能力を大きく超えた事態に、熟練の担当者が降格されて新任の若手が割り振られたばかりの各部署は混乱を広げる一方でした。

 中には古参の男性職員と若手女性職員の間で性的な問題が起きたと騒いで機能を一時的に完全凍結せざるをなくなったケースもあるそうですから笑い事ではありません。

 

 古いモノは古いから悪い、新しくなれば良くなるに違いない。そんな根拠のない妄想に取り付かれた一部の人々に振り回されつつも、世界同時並行で断行されていく社会への女性進出。

 彼女たちに悪意はありません。ただただ純粋に女性の権利拡充と、性差別の撤廃を願って行動していただけです。彼女たちが悪を成したのではなくて、結果的に彼女たちが世界と社会からいろいろなモノを奪ってしまう最悪を犯してしまった、それだけの事なのです。

 

 

 

 

 

 ーーそれから約十年、世界は穏やかに時を過ごしすます。

 そう、『穏やかに』。

 混乱の中で散逸した様々な情報、重要書類や地下連絡網、交渉相手の個人データや大物政治家を掣肘しておくための物的証拠、過激派などの構成員名簿や下部組織との繋がりを示すタレコミ情報。

 

 その他諸々の多くを永遠に失いながらも世界は十年もの長きにわたり『穏やかに』過ごしてきました。

 その意味するものとは何か?

 即ちーー『そんなモノ、始めから存在しなかったことにした』『新しい時代は新しい指導者の元で創られていくべきである』そう言うことにしてしまったのです。何代目かの各国政府首脳陣が次々と。

 

 前政権から引き継がざるを得なかった諸々難題を放り投げて、権力の甘い汁だけ吸いたくなった『女尊男卑』に乗っかって台頭してきただけの楽天家たちが。

 IS世代の甘ったれたお嬢ちゃんたちが。母親が途中から父親に取って代わり、後を引き継ぐ形で地位を次いだ二世半議員の苦労知らずどもが。

 変わろうとする世界に可能な限り適応できる社会と人間を育成しようとしていた過去の世代を『骨董品』と罵り、親たちから権力を奪い取ったバカ娘どもが社会の反動化を推進してしまったのです。

 

 技術分野という民衆の目に見えやすい分野では大幅な発展と進歩を遂げる世界の裏側で、社会機構全般にわたって弱体化がもの凄い勢いで進みつづけていました。

 

 

 

 

(隣の国に住んでる大物政治家と内密に話をするのも一苦労な時代にあって、彼らのような『利権政治業者』が一番に求めるモノとは何か?

 まぁ、ふつうに考えて各国要人との渡りを付けるための切っ掛けですよね、やっぱり)

 

 IS操縦者の担うべき役割についてなにやら熱弁を振るってるっぽい織斑先生は於いておいて、私は思考し続けます。

 

(世界を経済面から支配できる工業力と生産力がアメリカにはある一方、必要とする物資の全てを自国内で生産できるわけではない。

 仮に出来たとしてもコスト面で損しかしない。安上がりで品質もいい国から輸入した方が手っ取り早いし格安だ。その上、その国の経済を握れれば死命を制することも出来てしまう。現代の戦争は経済戦争こそがメインですからね。あの二人がこの程度のことに気づかないはずもない以上、一刻も早くこの不毛すぎる世界規模の混乱を終息したいはず。

 また、地球連邦政府の樹立を軍事力で行えばどんな結果を招くのか。それは私よりもゴップ議長の方が詳しいはずです。『人類の存続』が目的の彼が目の前の事態だけ見て後のことを考えないなど有り得ない。そして彼は国防委員長より格上で、委員長も議長には敬意を払っていた。仲違いするほど利害も性格も異なるとは思えない)

 

(ならば今回の件で本当にいたいこととはーーあまり考えたくないんですけど『私にたいして落とし所を提供している』と見ていいんでしょうかね・・・? 確かにこれなら日本政府をアメリカとの交渉の場へ引きずり出すのが容易になりましたけど・・・)

 

(でも、それならどうして私などを相手にする? 日本政府は弱腰です。交渉を持ちかければホイホイと尻尾を振って飛びつくはず。軍事的に支配したいのであれば、私と戦わなくてもやりようは幾らでもありますし・・・。う~ん・・・わからん)

 

 思考しながら私は『ある可能性』に思い当たり、必死にそれから目を逸らそうとしますがダメでした。他に可能性を考えついても即座にダメ出しを出してしまう自分が今だけスゴく恨めしいです。

 

 だから私は考えます。考えてしまいます。最悪のプランを、最低の未来図を、これ異常なく気色の悪い最低最悪の将来に対する青写真を。

 

(まさか議長、そして国防委員長。貴方たち私にこう言ってるんじゃないでしょうね?

 『世界に対して力を示し、社会的にも政治的にも日本と民主主義を守れる立場になれ。この世界にいない師匠の背中に隠れるのも大概にしろ。

 いい加減、大人になるときだぞ異住・セレニア・ショート』と・・・)

 

 

 

 

 ぞくり、と。

 途轍もない悪寒に襲われた私は両手で自分の身体を抱きしめ、その時ふと思いました。

 

 私の身体って、こんなに細くて頼りなかったんだな、と。

 

 

 

 生まれて初めて本当の意味で自分が女の子なんだと自覚した私は、私が私になるため何をすべきなのか、今まで考えもしなかった事への思考を強制されていくのです。

 

 

 

 

 これはIS操縦者たちの物語ではなかったのかもしれません。英雄の時代に活躍した政治家たちの物語ではなかったのかもしれません。あるいは本来の主人公、織斑一夏さんの物語ですらなかったのかもしれません。

 

 

 

 

 この物語は私が《インフィニット・ストラトス》の世界に実在している異住・セレニア・ショートと言う名の、一人の少女になるために必要な物語・・・なのかもしれません・・・。

 

 

つづく




言霊ISは銀英伝ではないので、敵性国家と言えども貿易は普通にしてます。航空機だって普通に出入りしてますよ?
ただし旅行客とかは激減してます。まったく来ません。だからこそ商人の渡航客が重要になってるのが言霊日本の現状だったりします。

注:前回で軽く触れましたが今一度軽く説明しておきますと、三バカの愚行はマイントイフェル大佐の策謀です。なので正規の手続きを経て民間機で渡航するのも彼の差し金です。アメリカの航空会社は真面目に仕事してます。サボってません。
そこの所はご理解の程を。

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