IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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話の流れ上、今回まではシリアス展開にせざるを得ませんでした。申し訳ございません。前編後編で前編出した後だとどうにもならなくて・・・。
次回に頑張りますので今話は期待しないで話の流れ上必要な回なんだと割り切ってください。ハッキリ言って詰まらないので。

・・・もう少し早くギャグ展開にする方向に決めとけばよかったなぁ~。
やっぱり新約は必要ですね。頑張ります。


30話「主人公敗北イベント(でも成長とかはない)」

「ーー少しは驚かれると思ってはいたが、流石にそこまで意外さに満ちた顔をされるとは思っていなかったよ。言っては何だがセレニアちゃん。君、けっこう人間味があって魅力的な人間なのだと私は思うよ。おそらく君は否定するのだろうがね」

「・・・・・・」

 

 国防委員長の揶揄に応えることなく、私は彼の顔を凝視し続けました。それ以上の余裕がなかったからです。

 間接的にとはいえヤン提督の名前を出されたことで私の精神的均衡は完全に崩壊し、ただただ狼狽え騒ぐだけの無力な小娘に成り下がっていましたから。

 

 何故、彼が私とあの人を結びつけたのか? その理由が、サッパリ分からない・・・・・・。

 

「いや、普通わかるからね? 彼を知っている者が見たならば君の言動と思想が彼を意識しすぎていると一目で分かる。・・・まぁ、彼はここまで分かり易くて可愛げのある見た目と性格はしていなかったが・・・」

「・・・うるさいです、ほっといて下さい。私なりに必死にがんばって劣化版ヤン・ウェンリーに成ろうとしてるんですよぅ・・・」

「いや、そんな可愛くイジケた表情と口調で認められても説得力という物がだね・・・と言うか、いきなり全肯定するんだね君は。もう少し下手な抵抗をするものだとばかり思っていたのだが・・・」

 

 双方互いに微妙な表情を浮かべた状態で、しばらく沈黙がおります。遠くから「い~し焼~き芋~」と言う、秋の定番にして風物詩、今でも(なぜか)廃れていない伝統文化のポピュラーソングが聞こえてきて、更に空気が微妙なものとなります。

 

 少しだけ居心地が悪くなってきたので換気をしようと、私は無理矢理委員長に話題を振ってみました。

 

「と、ところで国防委員長はどうして私とヤン提督を結びつけるに至ったのですか?

 自分で言うのも何ですが、あんまり似てないと思ってるんですけどね私としては。ほら、その・・・なんと言いますかーー萌えキャラ的に!」

「・・・うん、まぁ確かに。換気するためとはいえ、自らのコンプレックスを引き合いに出してまで自虐する素養は、彼には欠けていたかもしれないね」

 

 ほっとけ! かなり放っとけ! その点は突かなくていいから早く話し進めなさいよ!

 私の犠牲が無駄になっちゃうでしょう!?

 

「端的に言うとだね。ふつう人間という生き物は、主義だの思想だののためには戦わないんだよ。主義や思想を体現した人のために戦うものなんだ。革命のために戦うのではなく、革命家のために戦うものなのだよ。

 私の知るイゼルローン共和政府は死せるヤン・ウェンリーを奉じて戦った。その際には彼の代理として養子のユリアン・ミンツ君を立てたのだがね。

 ここまではおそらく、君も知るところだと思うのだが・・・この観点から見て言うならば、君の奉ずる思想の体現者がヤン提督だという答えには自ずとたどり着けるさ。たとえ私のような「歩く衆愚政治」とでも呼ぶべき人間の屑だったとしてもね」

「う、うぐぅ・・・」

 

 返す言葉もありません・・・確かに彼の言うとおりではあるのですから。

 

 ただ正確を期すのであれば一部の微調整、及び表現の変更を要求したいところではあります。

 

「確かに私がヤン提督を理想とし、彼の下位互換で劣化版になりたいと願い続けてきたのは事実です。ただ誤解してほしくないのですが、私は提督になりたいし成れると良いなと思い続けてきただけであって現実には決してなれないし及ぶことがない事も知っています。

 才能の差だとか個性の差だとか言う以前に、私とあの人ではスタート地点に差が有りすぎて勝負になりません。いえ、成立すらできないほどに私はあの人よりも“恵まれ過ぎている”」

「「・・・は?」」

 

 どう言うわけか分かりませんが私の告戒にお二方は、さも驚いたと言いたげな表情で口を開け、ポカンとしながらも私の話を聞く姿勢にはなってくれました。

 私は私で長年積もり積もった不安と自戒、誰にも理解されなかった思想を隠し立てするのが無意味なほどに調べ尽くされて居るであろう人たちにたいして隠す気にもならず、むしろ事情を知る同士として思いの丈を全力でぶつける方を選びぶつけまくります。

 

 

「私は両親を失ったことはありません。自分が死んだだけです。父親を亡くして路頭に迷ったことも、せっかく合格した大学に行けず仕方なしに行った士官学校で苦労したこともありません。

 また、私の生まれた国は平和な現代日本です。

 百五十年間戦争を続けて誰も平和を知る者がいなくなった銀河系とは異なり、悲惨な戦争を知っているからと言う理由で若者を見下し「最近の若いモンは」等と言う愚痴に利用する老人と、働かなくても親が養ってくれて親亡き後まで国が保証してくれる生活に慣れ親しみすぎた腐った蜜柑と呼ばれても仕方がない生き方をしている若者がウヨウヨしている豊かな国です。

 その国で生まれ育ち、死んでいった私が生まれ変わった先も前世と似たような制度を持つ現代日本でした。

 やはりここでも若者は働かずに無駄飯を食える身分を正当な地位として甘受しています。老人たちは昔のことを語りたがる癖に自分たちが若い頃、人類の平均寿命が50年程度だったことも忘れ「長生きできて当たり前、70、80で死ぬのは早すぎる死だ」等と言う思想に染まり、自分たちが如何に幸福な生活を送れているのか、その生活が大勢の同胞たちの屍の上に立つ空中楼閣に過ぎないことにも気づかずに「平和は続いて当たり前、戦争になった時はアメリカがなんとかしてくれる」と安全神話を信じ込み、挙げ句が自らの権利と生活は国から保障されて然るべきものであり、その役割を果たさない果たせない政府は無能だ役立たずだと罵り、「国民の期待を裏切った」等と彼らを選んだ国家主権者たる国民自らが役割を放棄したような事を大声で吠えたてまわり、営利企業と化したマスコミはスポンサーである国民の欲する情報を欲している形で欲している内容だけを提示し、専門家を自称する名前も知らない大学のお偉い先生方は名士の箔をつけるために国民感情を煽る形の内容を意図的に垂れ流す。

 自由惑星同盟の初代市民五十万人が長征一万光年を成し遂げられた原動力、アーレ・ハイネセンを私は心から尊敬していますし、日本の偉人たちにだって彼に負けない偉大な人物はいっぱい居るんです。なのにそう言った人物は意図的に歴史の教科書から削除され、政府と大人たちに都合のいい逸話を持った人物たちだけが彼らに都合よく脚色されて紹介されてるんです。酷いと思いませんか!?

 小栗上野介さんなんて間違いようもなく偉人中の偉人でしょう? なのに日本中どの教科書にも載ってなくて彼の功績「日本で最初」が全部坂本竜馬の手柄にされてるんですよ! それなのに京都で無差別テロを繰り返しまくった西郷隆盛が伝説的英雄みたいな扱われ方をして、新撰組や赤穂浪士の討ち入りを初めとする「君、君足らずとも、臣、臣たれ」と言った江戸幕府が自分たちの支配体制強化を目論んで制定した武士道を、まるで古来から続く侍の精神、日本人の魂、「どんなに時が流れても忘れてはならない尊い覚悟」とか、そんな既得権益層に取ってのみ都合のいい思想が当たり前の常識になっているんですよ! こんな物を「人のことを思いやる心」と言われて、耐えられると思いますか!? 私には絶対に耐えられません!

 しかも、しかもですよ? 国民一人一人の個人的問題に関してもです、特定の誰かの言葉を否定するとき決まって使われる言葉が「みんなそう言ってる」なのですが、それ言ってる人たちの大半が「本当にみんなそう言っているのか」確認取ったこと一度もない人たちばかりなんです! その点を指摘すると「また屁理屈を・・・」とか言って見下してくるばかりで、会話そのものは中断して用事を思い出すんです。誰も相手の本音と向き合い否定される勇気がないにも関わらず「人の目を見て話せ」と肉体的な問題にすり替えて自分の優位性を保とうとしてくるんです。

 正々堂々? 正面切って戦え? 剣に銃で挑むとは卑怯な奴め? アホですか、どいつもこいつも。

 暗殺者は陰に潜んで不意を打つのが正道的な戦い方です。数が少ない側が奇策を用いて奇襲を掛けるのは当然。数で圧倒している側が正面切って挑んでほしいのもまた当然。ただの挑発台詞がどうして正義の味方の代名詞になっているのか全く理解できません。

 銃しか使えないガンナーが剣士を相手に剣で挑めとか、処刑宣告ですか? 自分から死にに来い殺してやるからと、そう言うことですか? 自殺願望持ってる人に言いなさいよそう言う理屈は。

 なにからなにまで可笑しいんです、この世界も、私の生きてた現代日本も、この世界の日本も含めて歪んでるんです。このままじゃ民主主義が死んでしまうんです。地球連邦が地球統一政府になっちゃうんです。宇宙に人類が進出するために一年戦争ではなく、シリウス戦役が必要になる未来だってあり得るんです。

 それなのに、どうして誰も戦争危機について本気で考えようとしてくれないんですか!? どうして憲法解釈なんて制度での解決を目指すんですか!? 今のままの憲法で有事の際にどうすれば対処できるのかを討論しないんですか!?

 大事なのはハードじゃないんです! ソフトなんです! 制度やシステムをどれだけ高性能化しても、扱う側の人間が戦争を理解していない限り役立たないんです! ダメなんです! 戦いの勝敗を決めるのは人なんです! 平和を守るのも憲法を守るのも制度じゃないんです! 制度を守り、平和を守らんと欲する国民一人一人の個人の意志なんですよ!!」

 

 

「せ、セレニアちゃん? 落ち着いて落ち着いて。

 なんか途中から前世の話だと思われるのが混じっていたよ?」

「ぜぇ、ぜぇ・・・」

 

 いけません、熱くなりすぎました。深呼吸して心を落ち着けましょう。

 

「すーーーー、はーー、すーーー、はーー・・・・・・」

「うん、その大きく一度吸ってからゆっくり一度吐くと言う呼吸法は有効だけど、どう考えても現代日本の女子高生がやるものではないから辞めた方がいいんじゃないかな?」

「効率的に回復できるのに?」

「うん、効率云々を大事にする学生というのは理系タイプなんだろう? 君は明らかに文系タイプだしやめた方がいいと思うね。人からは変な目で見られかねない」

「う・・・善処します・・・」

 

 まさかの、世界征服たくらんでる黒幕から説教される女子高生の図です。あり得ない画ですが仕方がありません。だって私ですから。

 

「ーーさて。あまりにも衝撃的すぎる君の心の闇を暴露されて話が中断してしまったが、ようするにだね。我々がこの世界で地球連邦の樹立する為に数ある選択肢の中から敢えてISを選んだ理由について話そうと思っていたのだがーー」

 

 ガララッ!

 

 パシャっ! パシャパシャパシャ!!

 

 国防委員長が話を再会しようとした矢先に戸が開き、店の中に如何にもな格好のカメラマンが乱入してきてフラッシュを炊きまくりました。

 

「よっしゃ特ダネ確保!

 いや~、まさか平凡な日本の定食屋で今をときめく次期アメリカ大統領様々とお会いすることが出来ようとは。

 あ、申し遅れました。私は小村崎と言いまして、とあるテレビ局に所属している取材スタッフの一人です。もし宜しければなのですが、これから今交わし合っていたお話についてジックリご説明していただきたいと思いましてーー」

「君、処理してくれたまえ」

「はっ」

「なっ!? お、俺は正式に日本国籍を持つ日本国国民の一人だ! 同盟国たるアメリカには俺を幽閉する権利はないはずだぞ! だいたいそんな事をしたら国民も政府も黙っていない!

 いいのか! もうすぐ大統領選挙があるんだぞ!? その前にこんな不祥事が露見したらお前は終わりだ! 政治家生命どころじゃない、人間として社会生命が絶たれることになるんだ! それを分かっているのかーーおい、やめろ!俺に触るな!話を聞け!

 日本政府が黙っていると思うなよぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・・」

 

 

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「・・・で? 彼はどうなるんです?」

「ん? もちろん処分するよ?

 残念だが今の日本は、政府が国民の命と国家の安全を秤に掛けてくれる理想国家ではない様だからね。合法的に手続きを済ませて不法滞在外国人としても良し、適当な犯罪の罪を濡れ衣で着せて収監し、電気椅子か絞首刑かを選ぶ権利を与えてやるも良し。

 すべては私たちの一存次第だよ」

 

 委員長はナプキンで口元を拭いつつ、ごくごく普通の口調で当たり前のように同盟国国民の人権無視を宣言しました。

 

「権利、主張、人権。どの様なものであろうとも、相手に認められて初めて意味と効果を持つ存在は相手がそれに対して守り、尊重するだけの価値を認めない限りは無効で無意味だ。守らせて尊重させるためには認めてもらえるだけの価値を示し続ける義務があるんだよ。

 それを怠った者の権利と主張と人権が無視されるのは世の理だ。権利と主張は守るべき義務、果たすべき役割を果たした者だけに与えられるべき特権なのだからね。断じて民主国家に生まれたと言うだけで無条件に与えられるべき物じゃない。違うかな?」

「・・・・・・・・・」

 

 私は返答を拒否してそっぽを向きます。

 そんな私の反応など意に介せず、国防委員長は言葉を続けて私を精神的に間接口撃し続けてきます。

 

「アーレ・ハイネセンの唱えた民主主義思想「自由・自主・自立・自尊」。素晴らしい理念だ。エゴの塊である私ですら、素直に憧憬の念を禁じ得ないほどに。

 ーーで? 彼の血脈を次ぐ正当なる民主主義政治の後継国家たるべき自由惑星同盟百三十億の市民諸君は、果たして口で言うほどにアーレ・ハイネセンの理想を尊んでいただろうか? いなかっただろう?

 なにしろ私のような人間が権力を握るのを手伝い、祖国を枯死させ他人に対する生殺与奪を欲しいままにしているのを黙ってみているばかりか憂国騎士団だかなんだかと勇ましく名乗りを上げて、共に立って私と対決すべき同胞を弾圧する連中だ。理念や理想など、遙か遠い御空の上にでも放り投げて蒸発させてしまったのだろうさ。

 それを不死鳥のごとく蘇らせるためには数百億リットルの同胞の血を欲する、国民主権の民主主義国家・・・あり得ないだろう、そんな腐れ民主主義」

 

 私は軽く目を見開いて国防委員長を、エゴの怪物ヨブ・トリューニヒトの顔を凝視してしまいました。

 そこには確かにアニメ版で見た彼の、全面降伏を決定した矢先にアイランズ新国防委員長からの抗議にたいして嘲笑と共に浴びせた、卑しい悪意に満ち満ちた顔がありましたが・・・どう言うわけか私の心には侮蔑の思いが沸き上がりません。私もまた、利己的な理由で民主主義精神を腐らせてでもいるのでしょうか?

 

「私は国民の総意によって選ばれた国家の代表だ。代表だった。

 口先ばかりが達者で、自らの権利を主張する時と他人の責任を追及する時にだけ声がデカくなる、愛すべき同盟市民百三十億の総意によって選ばれた人間だよ。

 だから私は彼らを利用するための道具とだけ見なした。義務を放棄し、権利だけを主張して特権を与えて欲しいのならば与えてやろうと思ったのだ。「支配者の悪口を言えば良いだけの気楽な立場」という特権を」

「・・・!」

 

 それは・・・!

 

「権利権利と騒ぎ立て、自らが腐った政治を改革しようと言う気概を捨て去り、政治家の自浄能力にのみ期待する市民など、私から見れば臣民だ。彼らにとっては偉大なる銀河帝国皇帝陛下だろうと、自由惑星同盟最高評議会議長だろうとも関係ないだろうさ。

 自分たちを守ってくれない、自分たちの権利と自由と財産の安全を保証してくれない政府と首相は、根こそぎすべて暴君だ。陣頭とって改革に踏み切れば独裁政治だ。国家百年の計で持って一時的に弱腰を見せれば国家を任せるに値しない臆病者だ。

 こんなものさ、自分で決めた覚悟と貫くべき意志を持たない、自らの人生と向き合おうとしてこなかった人間たちなんてね。誰かに依存して生きているから、ネームプレートが変更されただけで狼狽え騒ぎ、実際にすべてを変更させられてしまう。実に醜悪極まりない。反吐がでるよ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「私がこの世界でISを使い、議長に教えてもらった地球連邦政府構想を実現するための手段とし、その中心地に日本を選んだのは、この国が同盟と酷似していたからに他ならない。

 我々が神様気取りで与えた試練を突破できたのなら、それで良し。正当な権利を保証されて然るべき国民と認めて、我々自身と同様に対等に扱おう。

 逆に突破できず、試練を前にして膝を屈したならば敗残者だ。戦争における敗者はすべてを奪われるのが当然の義務。故に、すべてを奪おう。

 国も、土地も、人権も、生活も、金も誇りも歴史もすべてを奪い尽くして、形ばかりの自治を認めてやるだけだろうな。それこそ形だけ、たいして長い時間でもないだろうがね」

 

 ・・・・・・・・・。

 

「それが嫌なら考えさせなさい、日本の国民たち全員に。

 考えなければ死ぬか、さもなくば滅びるのだ。これほど面白いエンターティンメントは他にないよセレニアちゃん。何故ならこの問題を解決するには力ある一部の有資格者、IS適正を偶然手に入れただけの世界最高戦力が、なんの役にも立たないんだからね。

 今まで見ていることしかできなかった観客たちが、一斉にリングの中へと放り込まれるわけだ。慌てない方がどうかしているが、慌てているだけだと死んでしまう。

 そんな時どうするかで人の価値は決まると、私は考える。

 危機を前にして恐ろしいからと目を背け、死ぬだけか。

 それとも無力感に苛まれて引きこもり、震え上がりながら「自分の価値はこの程度だ」と自覚するか。

 あるいはーー君のように弱さを自覚しつつも蟷螂の斧を手にとって、強大なる竜に一矢を報い、その一撃が歴史を変える可能性に全精力を賭けられるか。

 どれだろうなぁ。どれでもないのかなぁ。楽しみだなぁセレニアちゃん?

 喜ぶが良いよ。君の思い描いた理想、「人民が人民による人民のための政治を掴む為の民主主義思想」が実現する可能性の種が蒔かれた。

 芽が出るかどうかは、これからの彼ら次第。君が関わることは出来ない政治の問題だ。子供の出る幕はないし、出たとしても誰も聞いてはくれやしない。現実は子供向けアニメのようにはいかないからね。少年少女が議会で何を発言しようとも、結局は大人たちの政争ゲームに巻き込まれて飲み込まれて消化され、下水処理場へと流されるのだ。政治権力という名の、無ければ困るが近づくと腐臭がこびり付く下水処理場に」

 

 ・・・・・・・・・

 

「今日この場に君を呼んだのは、これを伝えてあげたかっただけだ。形は違えども、共に自らの信じて奉ずる民主主義を持つもの同士として伝えておくべき義務があると感じた。だから呼んだ。

 ーーが、呼んだだけだ。これを聞いて君が何が出来るというわけもない以上、何も求めはしないさ。私はただ義務を果たしただけなのだから」

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

「これからの戦いで君の出番はない。これからどうするかは、日本国民が考えるべき問題だからな。たかだかIS学園の一生徒に出来ることなど何もない。

 強さだけでは、襲い来る敵に討ち勝つことしかできないのだから」

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

「ではなセレニアちゃん。今日は会えて楽しかったし嬉しかった。良かったとも思うが、これは私の感想だな。君にとって今日の出会いが良かったものなのかまでは把握していない。少なくとも、その顔を見る限りにおいては良くなかったようだがね」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

「さて、帰りましょうか議長。いつまでも他国に居座り続けるわけにもいきません。日本政府から非公式に許された滞在時間を過ぎると、対外的に面倒になる。制度と手順は可能な限り守らなくては」

 

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「お勘定。彼女の分も含めて一万円を置いていくよ。これで足りるのだろう?

 ーーなに? 多すぎる? うちは値引きもぼったくりもしない主義? 変なところで誠実だね日本人は・・・・・・。

 わかった。なら残りは彼女を慰める料理に使ってやってくれ。紳士として泣き顔のレディを置いていくのは気が引けるのだよ。なにかしら女の子が喜びそうなお菓子でも出して、頭でも撫でてやってくれると嬉しいな。それじゃあ、ごちそうさま。美味しかったよ」

 

 

 

 

 

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 ごとりっ。

 

「お待ちどうさま。お子さまランチです」

「わだじ、こどもじゃないみょん!」

 

 

 

 

 主人公の泣き顔をバックに続きます。




アメリカに帰国途中の飛行機の中で、

ト「そう言えば議長。途中から一言も喋っておられませんでしたが、どこかご加減でも?」
ゴ「トリューニヒト、多少の会話は食卓に華を添えるが・・・食事中にあの長広舌はいかんよ。
  マナー違反だ。君も地位と責任を持つ身なのだから、弁えたまえ」
ト「あ、はい、その・・・申し訳ありませんでした・・・」
ゴ「うむ」

説教対決。セレニア0勝1敗。トリューニヒト1勝1敗。ゴップ1勝0敗。
だんまりを決め込んでマナー通りに食事してたゴップの一人勝ち。マナーは正義。

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