IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート) 作:ひきがやもとまち
水銀少佐回ではなくマドカ回です。
別に遅れている訳ではありません。こっちが先に出来たという、ただそれだけが理由ですので、お間違えの無いようお願い致します。・・・ホントだよ?
モトマチウソツカナイ。
あと、どうでもいいギャグ回なので超短いです。
「ぐ・・・あ・・・」
訳が分からないまま倒れ伏し、私は自分の身に起こった突然の出来事に理解が及ばずにいた。
事のはじまりはスコールからの連絡。あの狂犬の帰りが遅いから迎えに言ってくれと言うもので、これは当初の想定に組み込まれたいたものだ。別段おかしな話ではない。
元々あのバカに織斑一夏を倒すことなど期待していない。リムーバーで互いの接近に気付くことが出来るようになればそれでいい。最低限度のお使い程度であれば犬でも出来る。
そう思っていたのだが・・・。
「まさか子供のお使いも満足にこなせないほどガキだったとはな・・・仕方がない。こうなれば自分の手でやるまでだ。奴の仲間を人質として使えば奴自身も釣り上げられる。
最悪の場合、友釣りに使うことも考慮に入れねばな・・・」
仲間などと言う薄い信頼関係を信じ切っている、甘ったれた坊や相手ならばそれで充分。そう確信して出向いた先のIS学園だったが、少々見積もりが甘すぎた。
ーー広すぎるのだ。
元は宇宙開発用に作られたISを運用すること前提で作られた操縦者育成校だけあって、敷地面積が広大すぎる。目標の位置がはっきり分かっているならまだしも、何時どこにいるのかすら分からない相手を闇雲に探し回るには余りにも無謀すぎる広さだ。
ーーだからこそリムーバーを使ってISに耐性を持たせ、コール出来る様にしたISコアネットワーク同士を連結することで逆探知を目論んでいたのだが・・・その目論見が露と消えた以上、方針の変換が必要となる。
差し当たっては、第二案を採用するとしよう。
私はサイレント・ゼフィルスをステルスモードで飛行させ、IS学園上空を旋回しながら使えそうな餌を探し求めた。
「ーー居たな。あの銀髪と低すぎる背丈・・・間違いない。ラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツのアドヴァンストだ」
私の同類にして完成品。
私と同じく、人の手で作り出された人間。
人間のための機械、他者にレッテルを貼られた人間、自分より劣っている連中から蔑まれ、罵られ、貶められながらも復讐を望まないバカな出来損ない。
奴を殺せば織斑一夏が出てくる。必ず出てくる。
仲間を見捨てられない弱さを抱えた出来損ないの偽物は、必ず私の前へとやってきて復讐戦を挑んでくる。
そこを迎え討てばいい。時間的猶予がない中、衆目を集める大規模戦闘は極力避けるべきだ。
何よりも騒ぎすぎると“あの人”が出てくる。
この世で只一つだけ存在している私のつながりがーー
「織斑千冬が出てくる前に仕止める。その為にも餌は必要だ」
断を下した私は降下して銀髪の同類の前に降り立つと、未だ気付かずぼんやりしている予想以上に小さくて鈍い同胞のこめかみに銃口を押しつけ、拳銃の引き金を引いた。
・・・・・・はずだったのだがーー
「・・・な、ぜ・・・?」
・・・わけ、が・・・わからない・・・。何がどうなって、何が落ちてきたら、こんな事態になるというのだ・・・?
こいつは誰だ? そして“コレ”は何だ・・・?
まるで、“デカくて黒い人参”に見えるのだが・・・?
ぷしゅー・・・。
私の上へと落ちてきて、容赦なく背骨を逝かせてくれた巨大人参から排気音が響きだす。煙とともに開いていく扉の中から現れたのは私が撃とうとしたラウラ・ボーデヴィッヒで・・・・・・
「・・・はっ!?」
なんだコイツは!? ラウラ・ボーデヴィッヒの双子で姉妹で・・・アドヴァンストだ馬鹿者めが! クローン人間に姉妹などいるか! よしんば居たとしても、全部同じ生き物だよ! 大量生産出来るのに一体だけ特別扱いする組織なんかあるかボケェェっ!
混乱する私を無視するように、そいつはIS学園敷地内におり立つと静かに、だがしっかりとした視線で校舎を見上げーー激しく慟哭した。
「びぇぇぇぇぇっん! 束様ー! どこですかーー! どこなのですかーーーっ!!!
クロエを置いて一体どこへ行ってしまわれたのですかーーーっ!!
お願いですから返事してください!お声をお聞かせください!メールにも返信してください!毎日百通以上長文メール出してるじゃありませんかーーっ!!
一人で過ごす基地生活は、もうイヤですぅぅぅーーーっ!!!」
「「・・・・・・」」
思わず私たち(篠ノ之箒と私だ)は呆然としながら黙り込み、突如として乱入してきた銀髪と禍々しい色をした双眸を持つ少女の奇行を眺め続け、気まずい沈黙は彼女が「たばねじゃままままっ!」と叫んでどこかへ消えてしまうまでずっと続いた。
「・・・はっ! いかん、自分の目的を忘れるところだった!
ラウラ・ボーデヴィッヒ! 恨みはないが、お前の命をもらう! 悪く思うな!」
「・・・ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・?
いや、このバカは異住・セレニア・ショートなのだが・・・?」
「・・・・・・」
THE・勘違い。
恥ずかしいぃぃぃぃっーーーー!!!
「そ、それならば篠ノ之箒! お前で構わん! 織斑一夏を誘き出し、勝負の果てに討ち取るために、お前には犠牲になってもらう!」
「一夏と勝負・・・? 一応聞くが、お前の国籍はどこだ? 専用機持ちのようだが、どこかの国の代表候補か?」
「そんなものはない! 私は国籍を持たないIS操縦者が所属する武装テロ組織「亡国機業」に所属している者だ! 貴様等正規の人間と一緒にするな!」
「なら普通に試合を申請したらいいだろう。国籍を持たないIS操縦者はIS委員会にとって存在していないのと同義だ。IS学園に国家は介入できない建前だし、国からの圧力から守られるかはお前次第。有用な情報なりなんなりをもたらせば、一夏との試合くらい合法的に認めてくれるだろうさ。
なんならIS学園生徒の身分も用意するか?」
「・・・・・・」
・・・思いもしない申し出だった。今まで私の知る世界は亡国機業からみたものだけに限定されていたし、あそこには世界中の最新情報が集まっていると信じて疑わなかった。
当然、国が保証する権利や資格など無きに等しい、非常事態に陥れば真っ先に犠牲の羊にくべられるのは我々だと信じ続け、貫き続けていたのだが・・・。
「・・・私の目的は織斑一夏を殺すことだ。学園の生徒になったところでそれは変わらん。変えようがない。学園に所属している生徒を殺した者を、経営陣が生かしておくはずがない」
「試合中の故意でない一撃での致命は事故の範疇だ。伊達に我々も毎日のように実弾を扱ってはいないぞ? それも飛行訓練中でグラウンドを飛び回っている量産型ISのすぐ側でだ。
宇宙を高速で移動できるISにとって、百や二百の距離など距離とは呼べん。一瞬の合間に至近まで接近されて気付いた時にはあの世だろう。
貴様は知らんだろうが、四月下旬に基本的な飛行操縦訓練があって一夏とセシリアが飛んで見せたのだが、あの時は怖かった・・・。一夏の奴、スピードでは第三世代に勝るとも劣らぬ白式を使って空高く飛んだかと思うと急速落下してきたんだぞ? しかも本人は目標に着陸しようとしていたんだと言い張っていた。
20メートル以上の高さから、重さ1トン以上の鉄の塊が落ちてくるのだ。しかも、操縦者には自分が墜落しているという自覚がないままにな。
あれを恐怖と言わずしてなんと呼べばいいのか、私には未だに思いつかない・・・」
「そ、それはまぁ・・・確かに」
と言うか、この学校はそんなイカレた教育を行っているのか? むしろそれは対尋問訓練ではないだろうか? ほとんど死の一歩手前の恐怖を味わわせながらのIS操縦訓練を一般生徒にまで施しているとは、侮れんなIS学園。
「かく言う私も五月の始めに甲龍の衝撃砲を生身で受けてな。一ヶ月以上入院して三途の川を彷徨ったものだ・・・」
「ちょっと待て。今、聞き捨てならない単語が聞こえたぞ」
「?? なにがだ?」
「衝撃砲だよ、衝撃砲! あれは中国が開発した第三世代IS甲龍の専用武装で、対IS用兵器だぞ! 生身の身体であれを食らえば、無事に済むはずがない!」
「ああ、だから入院したと言ったではないか。聞こえなかったか?」
「・・・・・・」
い、いやその・・・そんな軽く流していい状況なのかそれは・・・?
私の疑問に気付く気配すら見せず、篠ノ之箒は感慨深げに過去を懐かしんで振り返る。・・・夢か幻であってほしい、悪夢のような出来事と共に・・・。
「ーーああ、今でも思い出す。一夏が千冬さんに無手で圧勝した日のことを。
世界最強ブリュンヒルデがやけ酒を飲む相手に断られ、弟の幼馴染みの部屋にまで押し掛けてきた日のことを・・・。
あの日の次は期末考査だったんだけどなぁ~。私の答案は今どこに?」
「はぁ!? ちょ、ちょっと待ってちょっと待って。ぜんぜん理解が追いつかないーー」
「他にもキャノンボール・ファストの優勝目指して高速機動の練習中だった二年生の横を、シャルロットが生身で駆け抜けていったりもしたな」
「おい! 生身でIS追い抜くって、そいつ人間辞めてないか!? むしろ本当に地球人なんだろうなそいつは!?」
「後、アメリカでイレイズドが消失した日の朝に私が目を覚ますと、辺り一面更地と化していた。昨日の夜寝る前まであった旅館は影も形も無く、煙すら残さずにこの世から消え去っていたんだ。・・・まさに、真夏の夜の夢だったよ・・・」
「確実に悪夢の間違いだろう!?」
「ああ、そう言えば知っているか? 更識妹が乗っているISは第六世代なんだ。
世界の常識なんかすっ飛ばして、姉さんすらも超越したよアイツは・・・」
「ただの人災だぞそいつ!? 今すぐ殺せよ、世界が危ないだろう!?」
「それと、さっきの奴が探してた篠ノ之束、私の姉さんだがな。IS学園特別技術講師の御篠ノ之高羽先生が、当の本人その人なんだ。国際指名手配されている姉さんがIS学園に教職として雇われている時点で、テロ組織がどうかなんて大したこと無いぞ?
むしろキャラ設定が薄い。埋没してしまう。今後忘れられないためには、更なる自己鍛錬で新たな境地に達するしかないな」
「お前は一体どこに向かっているんだ!? 明らかにモンド・グロッソとは思えんのだが!?」
ここってIS学園だろう!? 世界で唯一のIS操縦者の育成校だろう!? 最終目標がモンド・グロッソ優勝の生徒が集まる場所のはずだよなぁ!
そんな場所が、なんで亡国機業本部以上に魔界化してるんだぁぁぁぁっ!!!
「とりあえず付いてこい。理事長に話を通してやる。肩書きは校務員だが実質的な理事長はあの人でな。“以前は”学園内の良心と呼ばれる、穏和で親しみやすい人だったよ・・・」
「・・・以前は? まさかそいつもなにか・・・」
「現在のあだ名は「海賊の巨魁」。泰然たる老紳士だと思われていたのが一転、じつは熱血戦争老人であったことが判明し、日夜政府相手に喧嘩腰で交渉に挑んでいるよ。
昨日の朝会で放送された国会中継では「屈辱的な事なかれ主義で私が左遷されるのは是非もないが、その時には私一人では死なんぞ。議会で偉そうな面を並べる政治屋どもを百人ぐらい道連れに・・・いや、いっそのこと議事堂をIS部隊で襲撃して吹き飛ばしてやるわい!
こっちは毒を食らい続けて皿まで食い尽くし、次にテーブルをかじってる最中じゃ。これをかじり倒したら、次は食堂ごとたたき壊してやるから覚悟しておけ!」と啖呵を切って、テレビ局が一斉に報道を規制された」
「完全に反逆じゃないか! いや、むしろ反乱だよ!反乱行為だよ!
こんな反政府勢力、とっとと軍隊を出動させて武力制圧してしまえ!
どんだけ平和ボケすれば気が済むんだ日本政府!」
「と言うより、フランス代表候補のシャルロットが母国を脅迫する形で地位と安全を確保している所からして、学園の評判は既に最悪だ。テロ組織の構成員ぐらい生徒として受け入れても今更すぎる。気にしなくていいから、ゆっくり一夏とバトルしていけ」
「・・・むしろ、お前等の方こそもう少し気にするべきだと思うのは、私だけか・・・?」
「大丈夫だ、問題ない。そこで寝てるバカも同じ考えだ。お前は決して一人じゃないから、心配しなくていい」
「逆に心配しか沸いてこないのだが・・・」
つか、コイツ誰さ。篠ノ之箒の隣でグースカ寝てる奴。さっきから騒がしくしてるのにぜんぜん起きる気配がないんだが・・・。もしかしてコイツも私と同じ被害者で、精神的に疲れて眠りこけていたりとかーー
「ああ、事の元凶で諸悪の根源だ。だいたい全部、そいつが悪い」
「返せ! 私の抱いた共感と同情を少しでいいから返せ!
お前みたいな奴が居るから戦争が無くならないんだっ! 消えろ!」
「遊んでないで早く来い。私はそいつをおぶってやらなきゃいけないから、両手が塞がってしまうんだ。お前がドアを開けなきゃいけないんだから早くしろ。ボーデヴィッヒたちが目を覚ましてこいつが居なくなってるのを知ったら惨劇が起こる。
私はIS学園をミスカトニック大学みたいな魔境にはしたくないんだ」
「たぶん、手遅れだと思うぞ・・・」
むしろダンウィッチかインスマスと紹介されても納得できてしまいそうだ。
ああ・・・なぜ私はこんな場所に来てしまったのだろう・・・? 好奇心、猫を殺すと言うが、それをクトゥルーで再現しなくてもよかろうに・・・。
こうして私は、ごく些細な理由を発端に悪夢の世界へ足を踏み込み、「その世界」から出てくることが出来なくなってしまった。
自らの出生にかんする事情を精算する課程で出会った不可思議な存在に謎を感じ、真実を追い求めた結果、異形なる人ならざる者たちと出会い狂気へと落ちた。
此処は異界だ。地球じゃない。この学園に生息している者共は一人残らず汚染され尽くしているのだろう。人間の常識の枠には収まらない「名状しがたきナニカ」によって・・・。
「帰りたい・・・日常に帰りたい・・・」
「無理だ、諦めろ。
地獄に落ちた者は地獄の中で生き甲斐を見つけるしか無いんだ」
「うっ、ううう・・・・・・」
泣き崩れ、俯きながら私は歩く。
周囲から無数の視線にさらされていることに、今ようやく気が付きながら。
世界よ、警告しよう。此処には決して手を出すな。戦争が起きる。
決して勝てない異形なる邪悪どもと人類による戦争だ。人類に生き延びる術などない。
只一つ、可能性があるとするならば・・・。
それは、自分自身もまた、奴らの眷属になること。
ただそれのみである。
こうして、翌日の朝。
IS学園一年一組に新しいお友達として「織斑円」さんが転入してきたのでした。
わー、ぱちぱちぱちぱち。
セレニア「私が寝ている間に一体何が・・・?」
箒「知らん」
マドカ「むしろ私が教えてほしい。
・・・て言うかお願い、誰か私に何か教えて。
日本の学生がチート過ぎてて怖い・・・」
つづく
色々あって箒も多少耐性がつきました。