IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート) 作:ひきがやもとまち
尚、今話は前回の戦いが終わった後の後日談です。
皆さん、こんにちは。
今回のお話は、学園島の地下で壮絶なる死闘(と言う名の一方的な蹂躙)が行われていた頃、地上において己と異なる文化を持った人間たちが互いを否定し、拒絶しあい、狂騒のただ中へと世界を陥れる物語。
IS世界を包む、混沌の渦。
しかと見ととどけて頂きたい。
IS学園文化祭は言うまでもなく学生主体のイベント。運営も計画も責任者もぜんぶ学生たちだけで行われ、賄われます。
無論のこと店舗運営に必要となる費用も文化祭運営委員会に提出した計画書に記載した見積もりが通った分だけ卸されて、それ以外は学生たち自身で稼いだ分のみ。親からの援助は一切NG。
なにしろ国際色強すぎる学校です。オマケに留学生たちは全部が全部国家を代表するVIPたち。下手に親からの支援有りになんてしたら「親族を自称する、会ったこともない血縁者」からの寄付金でスゴいことになりかねません。
賄賂はダメ、絶対。公共の民間イベント運営は、できうる限りクリーンに。
「ほら、セレりん。
早く縛られて天上から吊されないと、お客さん来ちゃうよ?」
そして私は今、再びの虜囚へ。
ーーそうだ、地獄へ行こう。JR投獄。
「はーい、こちら三時間待ちでーす。なんちゃってー♪
あは♪ うそうそウソでっす☆ ホントは20分待ちだよン♪
・・・あ、でも貴方になら特別追加料金でサービスしてあげても・・・」
「ええ、大丈夫です。学園祭が終わるまでは開店してますし、私は営業時間内であればずっとお待ちしていますから。
ーーなんでしたら、お店が終わった後も呼んでさえいただけたのなら、何時でも何処へでも・・・」
・・・本当にここが税金で運営されてる国立の高等学校で、彼女たちは本当に国家を代表するレベルのエリート生徒達なのか大いに疑問を抱かざるを得ない光景が眼下に広がっています・・・。
ここはIS学園一年一組の教室。またの名を「魔王喫茶クリスタル・パレス」。
世界征服を目指す魔王が征服費用を捻出するために運営している喫茶店、というコンセプトを元に飾りたてられた豪華な喫茶店です。・・・訳わかんね。
つか、内装が豪華すぎます。煌びやかですし華やかです。
ーーまるで、中世のお城をそのまま移築してきたかのような・・・・・・。
「お金の力に負けたんだよ・・・」
教室の隅ではマブダチののほほんさんが落ち込んでいます。
文化祭を心底楽しみにしていた彼女は、あくまで自分たちのみでの運営にこだわり「お金の力で勝つのは反則だよぉ~」と穏やかに、そしてのほほんと主張したのですが、副委員長権限で強引に押し通されてしまいました。
財力と権力が結びついた結果、夢しか持たない理想が破れる。
よくある事ですよね。マネー・イズ・パゥワァ~。
ーーこの様な異常事態になっている原因は、言うまでもなくオルコットさん。
亡父の跡を継いでオルコット家の家督を継ぎ、所有していた多数の権益全てを手にした彼女の口座には莫大な資産と株式が。
そして、オルコットさん自ら陣頭指揮を取ることで自家が経営している幾つかの会社と工場の収益。
これら全てを合わせた総額は目が眩むほど。住んでる世界が違いすぎますね。
とは言え、これらはあくまでオルコット家の所有している資産であってオルコットさん個人の財産ではない。オルコット家の物をオルコットさんが勝手に使って良い道理などある訳がなく、法律も許しちゃくれません。
なので、これらは全てオルコットさん個人が所有している品々から提供された物品。
電車でオタクがお嬢様にもらったティーカップも、ロードス島に住んでる金鱗の竜王も、何故か置かれている「良い物だぁ」な骨董の壷も含めて、全部が全部オルコットさんからの好意的支援だけで成り立っています。
ーーちなみにですが。これらの品々を彼女自身は購入していません。
ほぼ全て「支援金」「寄付金」「贈答品」「お礼の品」「黄金色の菓子」で形成されてます。
・・・・・・賄賂・・・ダメ・・・ぜったい・・・・・・。
「さぁ、脱ぎましょう! 全裸こそが至上! 全裸こそが至高!
全裸こそ、神が人に与えたもうた最も自然な衣服! 人類皆全裸!
六十億総全裸を実現させるため、あなたも今すぐ着ている物をすべて脱いで全裸教へと入信するのです!」
「ぎゃぁああああっ!?
恥女で変態の美人が全裸で迫ってくるぅぅぅっ!?」
「いやぁぁっ! 誰か警察呼んで! 変態を捕まえてーっ!」
「くそっ! ダメだ、繋がらない! 電波が妨害されてて通信機器が全部使用不能にされちまってやがる!」
「おい! こっちはドアも開かねぇぞ!?」
「こっちは窓もよ!」
「非常ドアも非常ベルも警報も、全部作動しやがらねぇ!」
「誰か! 誰か助けて!
お願いよぉぉぉぉっ!!」
「うふふふふふふふ。ようこそ、私のパライゾへ。
此処に来た者には二つの選択肢が与えられるわ。
ヴァルハラか全裸か、二つに一つよ。
さぁ、選びなさい!」
『ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!』
・・・・・・私には何も聞こえていません。今さっき廊下から聞こえてきたのは全て幻聴です。幻聴と言うことにします。させてください。
聞こえなかった・・・いえ、何もなかったんです。なにも起きてはいなかったんですよ。
ーーそう言うことにしておきましょう。たぶん、それが一番平和的だ。
「ちょっとそこの落ち武者、テーブルに案内しなさいよ」
(ん、この声はーー)
聞き慣れたトーンの、やや乱暴でありながら照れ隠し百二十パーセントな口調。
見下ろす先にいたのはやっぱり凰さん。今日はチャイナドレス姿でシニョンも付けてて可愛らしいですね。
「何をしてるんだお前は・・・ついに狂ったか?」
「今のアンタと、セレニアにだけは言われたくないわよ、その台詞!
うちは中華喫茶やってるから、ウェイトレスやる娘はみんなこの格好なの!」
一枚布のスカートタイプで、かなり大胆にスリット入ってる所から見て、凰さん相当気合い入れて今日に備えていたんですね。顔が真っ赤ですよ。
「あたしがウェイトレスやってるっていうのに、隣のアンタのクラスのせいで、全然客来ないじゃない!
ーーせっかく一捻り加えたって言うのにさぁ・・・」
ん? 一捻り・・・?
なんでしょうか、ちょっとだけ興味があります。
幸い凰さんはまともな方ですので、クラスメイトの皆さんもまともな方が多いのでしょうしね。
「店名は「中華喫茶ヨーロピアン」。
パンチから始まってキックでつなげた後に、プロレス技で締める接客が売り文句よ」
「・・・ドM喫茶かなんかなのか、その店・・・」
「だから中華喫茶だってつってんでしょうが! 人の話ちゃんと話聞いてなさいよね。
本当に全くもう・・・良い? 次聞き逃したらハイヒールの踵で踏むから。分かったわね?」
「中華なのに履いてる靴がハイヒールなのか?」
「だからヨーロピアンなのよ」
「・・・・・・そうか・・・・・・」
ああ! なんか久しぶりに織斑さんが、ズーンと沈んでる! すっげぇ懐かしい光景!
でも、何故でしょう? ぜんっぜん嬉しくない!
「と、とにかく! 案内しなさいよ!」
「承知。ーーでは、こちらへ参られよ勇者殿。僭越ながら魔王陛下に成り代わり、私がお相手いたす。
さぁ 天下分け目のカルボナーラとペペロンチーノのどちらかを選ぶバトル・オブ・セキガハラ。存分に迷い戸惑い、狂おしさのあまり狂気の納豆巻きを選ぶがいい!」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇっい!!!!」
織斑さんのセカンド幼馴染み、憤激す。ーーって、誰でも怒るわ! むしろ、これで怒らない奴の方が可笑しいわ! 脳に蛆が涌いてるわ!
「うるさい奴だな。そう言うのがルールなんだよ。文句あるなら金だけ置いて、とっとと帰れ。俺は客のバストサイズを目測で見極めるのに忙しいんだ」
「とんでもなくダメな店員ね、アンタ!
ふ、ふん! まあ、ルールなら仕方ないわね。・・・うん、仕方ないわね」
チョロい! このツインテール、めっちゃチョロイン!
思わず将来が心配になるほどのチョロさに、私も思わず唖然。身近なところに潜んでいたクリーチャーに遭遇した気分です。
如何にもなツンデレ的反応でおなじ台詞を二回言ったあと、凰さんは織斑さんの先導により、無事空いているテーブルへと到着することが叶いました。
おめでとうございます、凰さん。
無事に到達できて良かったですねぇ。
「まさかテーブルに着くまで一度のエンカウントも起きないとはな・・・いったい、どんだけ幸運の持ち主なんだよお前・・・」
「この店の方こそどんだけよ! むしろ、ドン引きするわ!
なによエンカウントって! この店って喫茶店じゃないの!?
敵と戦いながら茶ぁしばく喫茶店なんて、あってたまるかぁい!」
「ちなみにだが、勝つと高確率でレアアイテムをドロップするのが布仏系モンスターのノホホンだ。覚えておくと冒険が楽になるぞ?」
「何に!? そして、何処で!?
一体全体、此処は何処でなんなのよーっ!」
解:魔王が住んでるラストダンジョンです。
「それで、いったい何を求めてここまで来たのだ勇者よ。
事と次第によっては、生きて帰れるなどとは思わぬことだな」
「思うわ! 誰だって思うわ! 何処の世界に生きて還ってこれるかすら分からない喫茶店へ行くバカがいる!?」
「己の意で来ない奴は来なくていい。物の役に立たん。欲しいのは良い兵士だけだ」
「アンタはいったい何なんだー!」
「俺は俺であり、俺たちは人だ。俺は俺の理で疾走る。
これこそ俺が極めし剣の極意ーー巨乳道だ」
・・・うん、なんかもう・・・・・・
・・・・・・訳わかんない・・・・・・。
「そ、それじゃ・・・この、『武士のご褒美セット』って何よ?」
「ああ、領地だ。討ち取った武将の御首を首実検に駆けて裁定し、手柄に応じて適切な広さの領地を褒賞としてだなーー」
「・・・ねぇ、ここって日本よね? 今って二十一世紀よね? ISが主役の時代になったはずよね? あたし、間違ってたりしてないわよね?
ーーなのに、なんでアンタだけ戦国の常識で生きてんの?」
「俺は功名餓鬼だ。生来の病的なソレだ。ソレしか持っていない。
俺の行動原理は何処だろうと何時だろうと、こっきり只一つ。
俺は乳揉みを行うつもりだぞ?」
「最低だ! 最低のクズ男だ!
お巡りさーんっ! 痴漢です!変態です!変質者です!性犯罪者です!
逮捕してくださーーーっい!!」
・・・・・・あはは・・・はは・・・・・・はぁ・・・。
「はいはい、騒ぎ立てないの。他のお客さんがびっくりするでしょう?」
「なぁっ!? せ、先輩?
ーーその格好は・・・?」
突然に織斑さんと凰さんとの間に扇子が差し込まれ、ぱんっと開いたそこには『全裸』の文字が。
・・・これはまぁ、考えるまでないですよね・・・。
「ふっ。水臭いわね、鈴ちゃん。私のことは会長ではなく、そう!
ミロのヴィーナスとでも呼ぶが良いわ!」
「・・・えっと・・・確かにあれも全裸ではありますけども・・・」
「局部を手で隠してる分、まだあっちの方が恥じらいがあるよな。ここまで堂々とされると流石に萎えてしまって、オッパイが大きくても触手が伸びない。
ある種のバケモノ・・・オッパイチュウアウだな」
チゥウアウ=ベトナムが誇る英雄で、長さが三尺ある爆乳を持つ女傑。
・・・・・・大きさ関係なくね?
「さて、私もお茶しようかしら」
「それは構いませんけど、せめて服着てください。営業妨害です。他の誰よりもあなたが全裸で来たことに驚いて、他のお客さんたちが逃げ散ってしまいました」
「そうなの? それじゃあ仕方ないわね。弁償するためにもウェイトレスとして働いて、接客してあげましょう。
ーー当然、全裸が制服よ」
「ダレカー、タスケテクダサーイ」
本日二度目の、どよーんと沈んだ表情の織斑さん。
今日は珍しいモノをよく見る日だなぁ。
「どうもー、新聞部でーす。話題の変態喫茶を取材に来ましたよー」
ひときわ騒がしい女子生徒の乱入。新聞部のエースで二年生の黛薫子先輩です。
ことあるごとに代表候補たちの写真を撮りにくるので、今では結構な顔なじみになっています。
・・・そう言えばラノベで定番の「新聞部のエース」と言う役職についてなのですが。
エース云々以前に、新聞部が大会やって競い合ってること知ってるのって全国の学生さんたちのうち何割くらいなんでしょうかね? 少なくとも私の前世では知りませんでした。てっきりラノベ界だけに存在している称号みたいなものだとばっかり。
順位があることすら知らない人を前にして「自分は新聞部のエース」って名乗るの、結構痛いですよね。「流通科学科のエースで金上虎於」みたいなもんです。
そのうち黛先輩も「新聞部のエースでシャッター黛」とか名乗る日が来るんでしょうかねー。・・・カッコ悪・・・。
「あ、薫子ちゃんだ。やっほー」
「わお! たっちゃんじゃん! 服着てないのも似合うわねー。
あ、どうせなら噂の魔王ちゃんとツーショットちょうだい」
言いながらも、既にしてシャッターを切り始めてます。楯無さんに至っては「あは~ん♪」とダブルピースまでしているほど。
・・・・・・なんでしょう、二年生ってこんな変態揃いなの? 変質者で満たされた魔窟なの? IS学園二年生マジぱねー。
「・・・・・・帰る」
「ありがとうございました。お会計、占めて三千五百円になります」
「あたし、なんも注文してないのにお金払わなきゃいけないの!?
しかも、三千五百円って高! 完全にボッタクリじゃないの!」
「うちは支払い能力のある相手から払えない人の赤字分を補填してもらう運営方針なんだよ」
「なにその半端な正義感!? 良い店なのか悪い店なのか全然分かんないんだけど!?」
「阿呆が。客を選り好みする店が良い店であるはずがない。
いいか、鈴。よく覚えておけ。世の中には二種類の人間がいる。奪う者と奪われる者だ。俺たちは奪った奴から奪うのを生業にしているだけだ。他の犯罪人どもとなんら変わるところがない。
『武士は犬ともいえ、畜生ともいえ、勝つことこそ本義に候』ーーこれが日の本の漢と言うものよ」
「うっ!? ・・・な、なんだかスゴく、カッコいい・・・」
チョロ! チョロすぎる! あまりのチョロさに鈴は鈴でも「フラおれ」の凜先輩になっちゃってますよ! お願いだから、そんなくだらない理由で世界線越えないでくれません!?
本当にマジなお願いですから!
「一夏のバカーっ!!
あ、後であたしのクラスにも来てくれないと許さないんだからねぇー!」
テンプレーーーっ!!!!
「鈴ちゃんは去った。でも、いつの日にか第二第三の鈴ちゃんが・・・」
「うん、カッコつけてるところ悪いんだけどさ、たっちゃん。その台詞はせめて服着てから言おうか? オーラありすぎて周囲の人がドン引いてる。
ーーいっそのこと、他のお店の子に服借りて売り子さんのお手伝いしたら? たっちゃんだったらきっと、ウェイトレス姿も似合うと思うんだけどなぁ」
「あらダメよ、薫子ちゃん。運営側である生徒会の長が売る側で参加したりしたら最終的な売り上げランキングに意味がなくなっちゃうじゃないの。
政治は裏側を黒く塗りつぶすことで、表には灰色しか染み出させずにクリーンな運営を。それが私のモットーなのよ?」
「・・・うん・・・なんか今、日本の政治の裏側にある真実の姿を見せられた気がするよ・・・」
注:情報ソースは実体験。更識家は日本の暗部で、楯無は当主であると共に実行部隊の長の称号も兼ねてます。
・・・んで、なんかよく分からぬ間に始まっていた写真撮影。どう言うこっちゃい。
一人目、オルコットさん。
「はぁはぁ・・・。
せ、セレニアさん。もっとスマイルを・・・。具体的にはアヘ顔ダブルピースで・・・」
はい、ボッシュート。仁君人形じゃなくて、オルコットさんをボッシュートでご退場願いました。
二人目、ボーデヴィッヒさん。
「お母様とラウラは全然身長差がないので並びやすいですね! それに小さくてお軽いので持ち上げやすいですし、だっこもできます! お姫様だっこです! ラウラには無理なので羨ましいです!
・・・あ。でも今比べてみたら、ラウラの方がちょっとだけ背高かったです・・・」
「ぐはぁっ!」
私、ボッシュート。保健室へ行きたかったのにデュノアさんが片手をかざして完治してくれたのでダメでした。
・・・・・・ちっ。
と言うわけで三人目のデュノアさんです。
「ね、ねぇ、セレニア。この服、どうかな? 変じゃないかな?」
「似合ってますから大丈夫ですよ、デュノアさん。自信を持っていいと思います」
「ほ、本当!?
じゃ、じゃあ思い切ってウェディングドレスを二人分発注しちゃおうかな・・・」
「やっぱり普段通りにデュノアさんが一番です。その姿も大変お似合いですが、私はいつも着ているミニスカート姿がまぶしいデュノアさんでいて欲しいなぁ~」
出ないと死にます、私が。
たぶん、人生の墓場に首まで埋まって。
そして、やっとこさ最後の一人。篠ノ之さんの番が廻って来ましたが・・・。
「「・・・・・・」」
この組み合わせで、どういう反応をしろと・・・。
原作メインヒロインと半端なTS転生部外者コンビの二人は、結構長い時間お見合いして過ごしましたとさ。
「や~。一組の子は写真映えしていいわ。撮る方としても楽しいわね。
ーー衣装が奇抜すぎるところが特にね」
「ですよねぇー」
黛先輩のお言葉に私も深く深く、ふかーく同意します。
いやもう本当に、これはすごい。スゴすぎる。ほとんどRPG風テーマパークです。
例えるならば「魔界戦記ディスガイア」もしくは「サモンナイト」ですかね?
世界観無視しまくって和洋折衷な服装とか装備とかのごちゃ混ぜチャンポン時空。・・・行きたくねー。
もう、来ちゃってますけども。
「薫子ちゃん、あとで生徒会の方もよろしくね」
「もっちろん! この黛薫子にお任せあれ!
・・・でも、撮るときは服着てね? 掲載できないし、したら私が逮捕されるから」
「努力しま~す♪」
どんっと胸を叩いて答えた後、控えめにお願いする黛先輩。
ふむ、最近の文化系部活動のキャラは元気ですねぇ。「げんしけん」が懐かしいですよ。今じゃ戦える文化系の方が多くなっちゃいましたからねぇ、時代は変わったものです。
なにもかも皆、懐かしい・・・と言うヤツですね。
「そうそう、一夏君、それにセレちゃん。私、もうしばらくお手伝いするから、校内を色々見てきたら?」
「・・・えっ、まだ居座るんですか・・・? 完全に営業妨害になってるんですけど・・・」
「いいのいいの。気にしな~い、気にしな~い。お姉さんの優しさ出血大サービス「ポロリもあるよ☆」だからね♪」
「ポロリじゃなくて丸出しなんですが・・・。
まぁ、俺がいなくなるとクラスメイトが喜ぶんでいいですけど」
「それなら大丈夫ね。行ってらっしゃーい」
こうして私たちは文化祭巡りの冒険の旅へ。
私の同意など必要とせずに、長旅へと出発です。
ルイーダの酒場がブラックに思えて仕方がない今日この頃。
と言うわけで、私から見たIS学園文化祭の出し物一覧です。
『芸術は爆発だ! つまり! 爆発も芸術なのである!
安全機構などという機能美がない装置などを全て除外した「科学部と合同の美術部によるプラスチック爆弾解体ゲーム」』
「いや、死ぬだろ普通」
「同感ですね」
ここはスルーして次の店へ。
「料理部ですね。日本料理を作ってお出ししているそうです。
デェノアさんが入部してみたいと、お話ししてくれました」
「そうか。あいつの料理は美味いからな。・・・量は多いが・・・」
「・・・ですよね~・・・」
ほんと、あの大きさの身体で一体どこに入るんでしょうね、あの質量は・・・。
まさか、胃袋が宇宙の人だったり? ファイトしてきなさい。
変なことを妄想しながら調理室内へ。
「お、これ肉じゃがじゃないか。昔は肉じゃががうまい女と結婚しろって風習だったらしいぜ。・・・チラリ」
「そうだったんですか? 私は、外国のビーフシチューを日本人が見様見真似で作ってみたら出来た、作り間違い料理だと聞いてたんですけど」
「・・・・・・」
「まぁ、今だと確かに定番扱いされてますからね。私も習いましたし。
お粗末で拙いものでも宜しければ、今度ご馳走しますよ」
「是非に」
顔が近い、顔が近い。
「茶道部は抹茶の体験教室をやってるみたいですね」
「・・・・・・」
「・・・? どうしました織斑さん? 入らないんですか?」
「悪いが、ここは止めようセレニア。縁起が悪い」
「・・・理由をお聞きしても?」
「本能寺を連想させる。
俺たちがどこかの寺で寝ている時、起きたら火矢で囲まれてるのは嫌だ」
「・・・そですか・・・」
と言うわけで、ここもスルー。
完全に根も葉もない風評被害でしたけどね。
「『吹奏楽部の楽器体験コーナー』か。セシリアの奴がお勧めしてたな。
是非にもお前と行けって」
「・・・なぜ私と?」
「さあな。とにかく入ってみりゃ分かるだろ。
んじゃ、失礼して。たのもー」
「さぁ、お鳴きなさい子猫ちゃんたち! 貴女たちの身体を楽器に見立てて、わたくしの指によって旋律を鳴り響かせるのです!
そしてわたくしに、さらなるアイデアを! より素晴らしい芸術を!
アートです! 世界は神の愛で満たされた最高のエンターティナー! 人間、それ即ち芸術品なのです!」
『あぁん♪ ステキですぅ、セシリアお姉さまぁっん☆』
「「・・・・・・」」
私たち(主に私ですが)全力逃走。二度とここには近づかん。
「最後が剣道部による・・・「占いの館」?
・・・なんで?」
「票が取れないからチェンジしたんだろう。来る途中の廊下に「剣道部による剣道体験コーナー」って書かれたポスターが貼ってあったぞ」
「・・・いいんですかそれ? 文化祭の最中に出し物勝手に変えちゃって。運営側から許可が下りるとは到底思えないんですけど・・・」
「バレなきゃいいんだろう、きっと」
「うっわ、完全に非合法だ」
今まで一番ヤバいのが、まさか大穴の剣道部だったとは・・・。やはり、侮れませんねIS学園文化祭。
「いらっしゃいませ。花札占いで恋愛運でも占いますね」
「ああ、よろしく頼む」
・・・って、即答!? しかも了承!? え、でも相手私ですよ!? 私なんですよ!?
元男と恋愛運占ってもらって本当にそれでいいんですか、ハーレムラブコメ主人公!
「えーと、それじゃあふたりで手を合わせて向き合って、そのままの状態を十秒間維持。・・・その後、おもむろに互いの唇と唇を近づけていってブチュー、っと」
「んー・・・って、なんだそりゃ! 恋人になる前からやる事じゃねぇぞ!」
「いやいや大丈夫。最近の若い男女だとこれが普通だから大丈夫。
既成事実作って形式を後から付け足すと、あら不思議。見事に正当なカップル誕生です。
これが、我が剣道部による恋愛運占いの実体」
「大昔のお見合い番組か!」
「Yes.No.マクラ有るけど・・・要る?」
「・・・一応もらっておく。代金は学食の食券三千円分で」
「毎度」
高っ! 出来合いのマクラに三千円って高! どう見ても粗悪品な安物ですよそれ!
つか、これって絶対運営側から許可受けてない違法販売だ! 国立学校内で違法な売買が・・・って、他のと比べたら詐欺商法の方がまだマシだぁぁぁぁっ!!
「あら、お久しぶりですわねセレニアさん」
「ーーって、虚先輩!?
・・・どうされたんですか、その格好・・・?」
「・・・行方不明の会長に代わってシンデレラの代役を・・・」
「し、シンデレラ・・・?
えっと・・・その露出度で・・・?」
「・・・「冬の女王シンデレラ」とのことです・・・」
クイーンズブレイド・グリモワールぅぅぅっ!!
「ーー帰ってきたらお仕置きです。帰ってきたらお仕置きです。帰ってきたらお仕置きです。帰ってきたらお仕置きです。帰ってきたらお仕置きです。帰ってきたらお仕置きです。帰ってきたらお仕置きです。帰ってきたらお仕置きです。帰ってきたらお仕置きですーー」
・・・おおう、虚先輩がダークサイドに墜ちてしまいました。ダース虚さんの爆誕です。
そのうちに仮面とか付けるんでしょうか? それとも黒いビキニ鎧着て鞭振り回したりするんでしょうか? どっちも国立学校には居て欲しくねぇー。
「つ、疲れました・・・」
「馬鹿者。それはこっちの台詞だ。
お前から話を聞くためにどれだけ探し回ったと思っている」
文化祭一日目が終わり、夜になって人気が消えたIS学園。
そこから歩いていける場所に自動販売機があるので、私たち二人は待ち合わせをして落ち合ったのです。
「と言っても、私の方から言うべき事は粗方言ってしまったんですけどねー」
「誰になにを説明している。とにかく私にはお前に、どうしても確認しなければならないことが有るのだ。嫌でも付き合ってもらうからな、そのつもりでいろ」
「はぁ・・・。別にいいですけども、一体なにをお聞きになりたいので?
昨日の晩に話したこと以外で思いついてる事は、未だないんですけども・・・」
昨日の夜、私は文化祭一日目に行われるIS戦争一回戦に出場してもらうため篠ノ之さんの自室へお邪魔し、この茶番劇について今現在私が想像、もとい妄想している範囲内で全てをお話ししました。全てを知った上で参加の是非を問いたかったからです。
「あの時聞いた話は俄には信じ難いものばかりだったが・・・。それでもひとつだけ、絶対に確認しておかなければいけないものが混じっていたからな。それについて質問したい」
「はぁ。では、どうぞ」
つか、眠い。
身体のサイズのせいなのか、この時間帯は既にオネムしてたい時間なんですよ、普段であるならばね。
早く終わってくれないかなぁ~。・・・ねむねむ。
「セレニアーーこの戦争の勝敗に初めから意味など無い、これは本当の事なのか?
私はそれのみが切実に知りたいのだ。頼む、後生だ! 教えてくれ!」
「ああ、それですか。それについてなら別にいつ聞いてくれても良かったのに」
なにもこんな時間に外で待ち合わせる必要なかったなぁ~。ねむねむ。
「特別なことはなにもない、普通に考えれば分かる話でしてね。
このイベントは彼らが進めている計画の第一段階。その前座に過ぎないんですよ。客寄せのために作られたイベント、客寄せのために作られた舞台。全てが彼ら脚本家によって紡がれたストーリー上における登場人物。
役者は配役通りに踊らされる定めにありますからね。国家のシステムに組み込まれている限り、いくら無頼や反体制を気取っても、しょせん予定調和に過ぎません。
IS学園生、国家代表及び代表候補、各国から支援を受けてる亡国機業・・・IS操縦者の全てがどこぞの勢力に所属しているのは、その為でして。
謂わば人類皆客寄せパンダな状態です。自由が、あるようで無い。決められた範囲内での思考を自分でも気付かぬうちに強要されている。「自分は自分だ」と思いながらも実際は「与えられた自分」と言う役を演じているだけだ。これでは絶対に彼らの思惑からは逃れられない」
眠気で朦朧としているのか普段より過激なことを言っちゃってる自覚があります。
でも、仕方ないですよね。だって眠いんだもん。寝る子は育つもん。
なので、ねむねむ。
「戦術とは状況を活かすための技術で、戦略とは状況を作るための技術なんだそうです。その観点で言うならば、彼らは戦術家ではなく戦略家であり、戦略家である以上に政略家です。
世界すべてが彼らの作った戦場である以上、そこで起こる全ての戦闘が彼らにとって計画表に描かれているスケジュールの一環。勝利も敗北も与えられるものであって、勝ち取るものではない。ましてや力付くで奪い取ることなど絶対にできない。そう言う風に彼らは社会を作ってしまった。
彼らこそ、このIS世界における神だ」
かつて、地球から宇宙へと人類を力付くで移民を強行させた地球連邦政府。
人類史初の地球統一政体。
逆らう者には容赦しない、絶対的な神そのものな存在。
それに彼らは成りつつある。
いや、あるいは既にーー
「彼らに勝敗は関係ない。なぜなら彼らは既に勝っているからです。
この戦争は見世物であり茶番。客寄せのために行われているだけの前座に過ぎない。
ならば、本番があってしかるべきであり、それこそが彼らの描いた壮大な戦略の完成型。
ーー彼らはほとんど血を流すことなく、世界を一つに統一した地球規模の共和制国家を誕生させるつもりだ・・・・・・」
説明しながらも眠気に制圧されつつあった私は、不覚にもその人影の存在に気がついていませんでした。
私の傍らに立ち、右手に持ったハンドガンで私を狙い構えている織斑先生若い頃バージョンな女の子の存在にーー
パァンッ! と、乾いた銃声が轟きーー、
ズドォンッ! と、重い落下音も轟きーー、
「ぐへぇっ!」と、踏みつぶされた蛙のような少女の声が轟きーー、
ーーやっと静かになりました。
「ぐー・・・むにゅむにゃ」
「ーーって、諸悪の根元寝てるし!」
つづく