IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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更新です。前話が鬱展開だったためにノッテ書いたところノリ過ぎました。内容も文章も滅茶苦茶です。
次話が水銀少佐回ですので息抜きのギャグ回だと思って下さい。

なお、次話でバトルが終わった後、セレニアの文化祭めぐりを行います。
原作だと一日分しか描かれませんでしたが、どう考えてもあの規模の文化祭が一日だけしかやらないと言うのは無理があるので二日間行う設定にしました。ご理解下さい。

まぁ、ぶっちゃけ萌え成分が足りないので私が書きたいだけなんですけどね!


23話「今年のIS学園文化祭、演劇部の演目は『グランギニョル』です」

「・・・で? こんな所まで俺を連れ込んで何がしたいんですか、巻紙さん?

 俺、そろそろ戻らないと副委員長のセシリアに怒られるんですけど?」

「あら、世界で唯一の男性IS操縦者が放ったとは思えない言い分ですね。クラスメイトの一般女子生徒くらい、あなたのルックスと特権を持ってすればどうにでも・・・」

「ぼっちでしてね。犬は寄ってくるのに人は寄ってこない。

 好かれたとしてもパンダとしてです。男として好いてくれそうな奴は一人しかいませんねぇ。

 ・・・ああ、でも俺と毛虫どちらを選ぶかと聞けば半分以上が俺を選ぶと思いますし、そういう意味では好かれていると言っていいのかもしれませんねぇ。

 ーー巻紙さんは、どう思いますか?」

「え、えぇと・・・その・・・そ、そういうのは主観の問題なんじゃないかしら?」

 

 思わぬ返しに内心焦りつつ、無難な答えを返す自称IS装備開発企業『みつるぎ』の渉外担当・巻紙礼子こと亡国機業の実戦部隊所属破壊工作員オータムは、目の前の男を心中で激しく罵った。

 

(知るかよクソガキ! てめぇらの平和ボケして一面にお花畑が広がってる恋愛脳なんざ燃やしちまえば意味も価値もなくなるんだよ! ボケが!

 せいぜい残ってる間に舞台劇でも楽しんでりゃ良いものを、のこのこと付いて来やがって。ーーったく、これだから平和ボケした国の苦労知らずなガキは嫌いなんだ)

 

 数々の戦場を渡り歩き、数多の死闘を勝ち残ってきた彼女にとって、この日本は出来損ないの箱庭だ。今すぐ燃やし尽くしたいし、一秒たりとも滞在時間を延ばしたくない。それほど彼女にとっては嫌すぎる場所だった。

 

 だから、さっさと仕事を終わらせて帰りたい彼女にとって、目の前で適当に周囲を眺めているターゲットの織斑一夏が自分の言葉を疑いもせず、抵抗どころか質問すらせずにアリーナ下にある更衣室まで付いてきてくれたのは素直にうれしい。

 正直、拍子抜けだった。

 

(いくら平和ボケしてるつっても限度ってモンがあるだろうに。こいつら本当に普段、どうやって生き延びてるんだ? こんなんでも生きてける国にはISどころか拳銃一丁だって勿体ないぜ。

 まぁ、高性能なの買ったところで撃っても当たりゃしねぇんだし、良いカモだとは思うがな)

 

 苦笑いを浮かべながら心中でせせら笑っている彼女だが。

 当の相手である少年が、スーパー化して空を飛ぶフランス人美少女と生身で戦っているシーンを見たらどう思うのか、大変気にはなる。

 が、それはまたの機会にして話を進めよう。

 

 

 室内のほぼ中央に位置しているリング状の電灯。光量を調整して薄暗さを保ち、光の真下にいる目標の姿はある程度見え、逆に向こうからこちらを視認しようとすれば目を眇めて暗さに目を慣らす必要がある、作業をするには絶好の場所。

 

 そこまで目標を誘引した今、正体を隠す意味も必要もない。

 ーード派手なパーティーを始めようじゃねぇか! なぁ、おい!?

 

「実はーーこの機会に白式をいただきたいと思いまして」

「いいですよ。はい、どうぞ」

 

 

 

 

 

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「・・・・・・え?」

「どうかしたんですか? 白式が欲しいんでしょう?

 だからこそ俺は「お渡しするので命だけはお助けを」と言ってるんですよ。

 何か問題ありました?」

「え、えっと・・・・・・」

「ほら、取り外しましたよ。このガントレットをお渡しすれば俺の命は助けてもらえるんですよね?」

「え、ええ・・・」

 

 マズい。自分でもハッキリとそれが分かった。

 猫をかぶったまま精神的足払いを食らったせいで、態勢を持ち直すのに時間が掛かりすぎた。戻らない顔のせいもあって、ついつい被っている猫をそのまま演じて猫らしい返しをしてしまった。

 これでは、今更になって白式を展開してから渡してくれとは言えない。展開後でないと強奪できないことがバレてしまう。

 

(クソッ! 私としたことが迂闊だった! このガキがヘタレなチキンだと初めから分かってさえいれば、こんなヘマはしなかったのに!)

「どうしました、巻紙さん? 早く受け取ってくださいよ。そして俺を逃がしてください。これが目的で俺をこんな所まで誘い込んで来たんでしょう?」

「そ、そうだけど・・・」

「だったら、さぁ早く。俺、早く帰って鈴たちのクラスがやってる中華喫茶を冷やかしに行きたいんですけど?

 あ、知ってますか巻紙さん? 鈴の親父さん、中国の方で夫婦一緒に中華料理屋やってるんですけど、親父さんが作ってくれる酢豚超美味しいんですよねー。また食べに行きたいなぁ~。

 どうせだったら巻紙さんも一緒にどうですか? 家この近くだったりします? なんだったら迎えに行きますけど?」

「い、いえ、そういうのはちょっと・・・ね?

 私の自宅、会社の近くでIS学園の近辺じゃないのよ。それにほら、あれよ。会社の営業が未成年者と一緒に食事とか誤解を招く元でしょう?」

「そっかー、そうですよねー。さすがに巻紙さんは大人だなぁ~。

 ・・・彼氏とか居たりします?」

(知るかボケ! 少しは黙れクソガキ! こっちは今それどころじゃねぇんだよ! 殺すぞマジで!)

「彼氏は・・・いないわね」

「お、少し間があった。・・・もしかして巻紙さん、百合の人だったり?」

「はぁ!? ・・・いえ、何でもないわ。気にしないで。

 ーー別にそういうんじゃないんだけどね、ただ少し男の人にイヤな思い出があって・・・」

 

 

 

 

 亡国機業の工作員オータムは蜘蛛の糸を操ることを自慢にしている。

 それは彼女が強奪した自身の専用機アラクネⅡの和名が『王蜘蛛』である事も影響しているのだろうが、それ以上に彼女の性格が起因していた。

 ハッキリ言って陰湿なのである。

 

 おまけにプライドだけが高く、独占欲が強く、捕らえた獲物が手から逃げ出すのを黙って座視することがどうしても出来ない。

 そういう性格が彼女の危機探知センサーを局地型にしてしまっていた。

 

 自分の基準で人も物も見る。自分と異なる価値観の存在を受容できない。

 自分に対しての諫言は誹謗中傷にしか聞こえず、己が最強だという自負のみで自尊心を保っているから喧嘩っ早く、上から目線で接せられることに慣れていない。

 

 それゆえに現在、自らが陥っている蟻地獄の存在に気づいていない。

 虚栄心にまで肥大化している自尊心が邪魔をして、気付いているのに気付くことが出来ないのだ。

 自分自身の張った蜘蛛の糸に、己自身が絡み取られて自らのエゴに食われかけている。

 そして、その事実にすら気付いているのに認められないーー。

 

 

 あまりに稚拙な罠。それゆえに効果があるとセレニアが保証した小動物捕獲用の子供だましは、強いからこそ強さを警戒するオータムには気付いているのに気づけない。

 気付いてしまえば最強であるはずの自分が子供だましに引っかかったのだと認めざるを得なくなる。それゆえに彼女は、気付いていてもその事実を認めることが断じて出来ない状況に陥っていたーー。

 

 

 

『ーーと、そんな感じの心境なんじゃないですかねぇ。多分ですけども』

「あくまで“多分”を外すことはしないんだな、お前は」

『事実ですからねぇ。

 だって、相手の気持ちなんて見えませんし~。私、エスパーじゃないですし~。読心術なんて習ってませんもん。セレちゃん、悪くない!』

「駄々をこねるな、子供かお前は」

 

 はぁ・・・まったく、こいつは。変なところで大人じみていると思ったら、途端に子供になる。つくづく掴み所のない、不可思議な奴だ。

 

(いや、だからこそこんな手を考えついたという事か。

 普通の人間ならば“こんな物”でIS相手に挑もうなんて思ったとしても実行しないし、出来ないからな)

 

 私はそう思いながら手の中に収まる小さな鉄の塊を見下ろして一息つき、あらためて“これ”について話題に乗せる。

 

「ずっと、古くさい古くさいと思ってきたが・・・すごいなコレは。本当に相手には何も聞こえていないらしい。おまけに、息を吐こうと会話をしようとクシャミをしそうになろうとも、絶対外には音が漏れない。

 ・・・どうして廃れたのだろうか? 理解できん」

『モンド・グロッソだと使い道がないからじゃないですか?』

「ーー耳の痛い話だなぁ・・・」

『古いから要らないと、学園倉庫に大量の在庫が眠っててくれて助かりましたねぇ』

 

 本当に耳の痛い言葉だった。

 なぜ我々は姉さんの提供したISの表面上の凄さばかりに魅入られてしまって居たのだろう。“コレ”の凄さと比べればイグニッション・ブーストもワンオフ・アビリティも大したことが無かろうに・・・。

 

「しかしまさか、フルスキン装甲のヘルメットにこんな使い方があったとはな・・・」

 

 私は自分とセレニアが被っているフルスキン・タイプのISが装着している頭全体を覆うヘルメットを軽く叩きながら一人ごちる。

 

 宇宙での使用が前提のため、太陽風にも強力な紫外線にも汚染物質にも対処が可能で、そのうえ超小型酸素ボンベまでもが付属しているという優れ物過ぎる逸品。

 これこそが真に時代を超越した、規格外のオーパーツと言えるだろう。

 

 事実として、『白騎士事件』後に世界各国研究機関へと送りつけた姉さんからのプレゼントには対IS用の装備はなに一つ入っておらず、宇宙開発用のこれらの道具一式が大量に詰め込まれていたらしい。良い歳をしてハンガーに引きこもっている姉さんから聞いた確かな情報だ。

 

 つまり、世界中のISが持っているあらゆる武装は各国で生産した既存品であり、本当に『生まれてくる時代を間違えた天災、篠ノ之束が開発した真なる超発明』はこれらの平和利用品の事を指す。コアの解析をした末に生み出された諸々の品々は、その余録と言ったところだろう。

 事実、コアの中身は今持って謎のままだしな。

 

 

 

 まったく・・・こいつが世間一般の常識など欠片ほども尊重していないことは知っていたが、まさかここまでとはな・・・。正直、想像すらしていなかった。

 

『そうですかね? 元々は宇宙開発用に作られたのがISですよ?

 だったらヘルメットに空気循環システムや双方向通信システムくらい付いてると考えるのが常識的発想だと思いますけど?』

「お前がそう思うのならそうなんだろうな。お前の中ではな」

『・・・・・・あれ? 今、私ディスられませんでしたか?』

「さて、予定していた欲しい情報は一夏があらかた手に入れたようだし、作戦の第二段階に移るぞ」

『ねぇ、もしかして私、無視されてたりしません? してますよねぇ? そうでしょう篠ノ之さん? ・・・篠ノ之さん?

 あれ? 通信システムに異常がないのに返事が返ってこない・・・もしもーし? 聞こえてますか篠ノ之さーん? 貴女の幼馴染みのクラスメイトで席が隣同士のセレニーー』

「篠ノ之箒。

 押して参る!」

 

 雑音を無視して私はーー拳銃を手に持ち、相手に撃ちかかる!

 

 

「・・・?」

「どうしました巻紙さん? なにか見つけましたか?」

「い、いえ。なんだか今、何かが私に当たったような気がして・・・」

「気のせいなんじゃないですか?

 まぁ、仮に当たっていても痛みすらない物なんか無視していいんじゃないっすかね?」

「・・・それもそうね」

 

 

(いいんだ!? それでいいんだ!?)

 

 私は思わず心中で盛大にツッコミを入れてしまった。

 よく考えれば大声を出したところで聞こえるのは通信チャンネルを限定してセットしているセレニアだけしかいないのだが、それすら思い至らないほどの驚きであり衝撃だった。

 

「ま、まさか今のをスルーされるとは・・・」

『平和ボケしてますよねぇ。あんなので本当に戦場では大丈夫だったんでしょうか? 人事ながら心配になりますね。

 私にする資格ありませんけども』

 

 まったくだ。

 心の底からセレニアの言葉に賛同しつつ、目的を果たした私は作戦の第三段階に入る。手に持つ獲物をサイレンサー付きエアガンからサプレッサー付きのマシンガン『MG3』へと持ち替えて、今度はよく狙い構えてからフルオートで撃つ!

 

 

 じゃゃかかかかかかかかかん。

 

 どどどっどどどどかどかどかどかどかどかづづづどかどかがばんどかばこづどどどどどどど!

 

 

「危ねぇっ!」

 

 咄嗟に横に飛んでやり過ごし、近くのロッカーの陰に隠れた私だが内心慌てていたし、それ以上に怒り狂っていた。

 

 本気でどこのバカだコイツ等!? こんな狭い屋内で“六挺”もマシンガンぶっ放した大バカ野郎どもが!! 跳弾ってもんを知らねぇのかよ!

 くそっ、これだから平和ボケした国のド素人野郎は!

 

「おい、クソガキ!

 コイツ等、お前の仲間かーー」

 

 相手が実力行使にでた以上、もう取り繕う必要はない。

 素に戻って問いただそうとした私の声に別の声が被さり、そのまま掻き消した。

 

 

 

 

 

「ちわーっす!

 全日本マシンガンラバーズでーす!」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

「やっちまえー!」

「ひゃっはー!」

「たのしいぜぇぇぇぇぇ!」

「おお、マシンガンの神様!」

「オープンボルト! 略してOB!」

『OB! OB! OB! OB!』

 

 

 訂正。ただのアホたちでした。

 

 ーーって、

 

「本気で誰だコイツ等!? 全日本マシンガンラバーズなんて武装集団聞いたことねぇぞ!? いや、むしろ本当に武装集団なのか!?

 明らかにヤバめでイっちまってるトリガーハッピーじゃねぇかぁぁぁぁっ!!!」

 

 いや、これマジな話でコイツら誰なんだ本気で!? 戦場の混乱より、わっけ分からんのだが!?

 

 当初はクソガキーー織斑一夏の増援の線を疑ったが、その可能性がきわめて低いことに自分でも即座に気が付く。

 なぜならコイツの主要な仲間たちは全員、居場所を確認した上で作戦に望んでいるからだ。敵本拠に単独潜入しておいて敵増援の可能性を考慮していない作戦など成り立たない。死んでこいと言われてるようなものだ。誰がやるか。

 

 

 まぁだからこそ今現在、コイツ等がなんなのか全然分からなくなっているんだけどな・・・。

 

 

(中国の代表候補は自分のクラスの一年二組教室でチャイナな売り子!

 フランスの代表候補も自分のクラス一年一組でメイドな売り子!

 ドイツの代表候補も同じくメイドで売り子!

 イギリスの代表候補もメイドで売り子!

 唯一の例外はロシアの代表で学園最強がアリーナで演劇の主役中・・・って、売り子率高いなオイ!?

 人を笑顔で撃てる奴らが笑顔で接客するなよ! 怖いわ逆に! 完全にサイコじゃねぇか!

 ああ、そうか。やっぱコイツ等仲間だ! 同類って名前のお仲間だ! 関わったら私までめでたくコイツ等の仲間入りーーざっけんな、イヤじゃボケぇ!

 死んでも入らんし、殺されても入る気はねぇ!)

 

「ーーっつか、おい織斑! お前も白式展開しろよ!

 流れ弾に当たったら死ぬぞ、一瞬で!」

 

 殺すつもりで近づいた相手の心配なんざしたくはないが、この際はやむ得ない。白式を強奪する前に死なれても困る。

 死体ごと持って帰れば奪えるが、余計な手間をかけると技術部の連中がいちいち五月蠅いからなーー

 

「いやー、すんません。今の音に驚いてガントレット落としちゃったみたいでして。

 薄暗くて見えないんで、探してもらってもいいっすか?」

「ダメに決まってんだろうがクソボケがぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 こいつもバカだった! どいつもこいつもバカばっかりだった!

 もうヤダこの国!

 平和ボケは死の病って言うけど、人様まで巻き添えにしないでくださらない!?

 

 

「最強の敵を倒した奴が最強のマシンガナーだ!

 全員、奴をねらえ!」

『応!』

「でもさー、最強を倒しちゃうと、つまんないな。その後どうすんの?

 一緒にいる男も倒す?」

「いっそ、俺たちだけで遊ばないか?

 生き残った奴全員、仲間同士で撃ち合って」

『賛成』

 

 

 本気で人様を巻き込むなぁぁぁぁぁ!!!!!!!

 

「あーもう! あーもう!

 もういい! 離脱だ! こんな魔窟なんかに一秒たりとも居られるか! さっさと逃げ出してスコールに報告だ!」

 

 目標が目標を紛失したんだから、任務失敗は私の責任じゃねぇ! 断じてねぇ!

 全部、社会とコイツ等とコイツ等とコイツ等が悪いんだ! 誰がなんと言おうとも、今回だけは絶対に私のせいじゃねぇ!!

 

「日本なんて、大っ嫌いだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

 

 アラクネⅡを展開した私は鍵をロックしておいた扉を破壊し、全速力でこの空域から離脱した。

 

 此処には二度と来ない! 絶対に、金輪際近づかん!

 

 そう心に誓いながら・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「本当に行っちまったな・・・」

「行っちゃいましたねぇ」

「・・・これでも勝利と呼べるのだろうか?」

 

 釈然としない。ものすっごく釈然としない。なんだかすっっごく納得行かないぞぉ!

 

 憤る私に作戦の立案者自身が慰めなのかなんなのか、よく分からない言葉を投げかけてくる。

 

「いいんじゃありません? 実際、篠ノ之さんだからこそ相手も騙されてくれたようなものですし」

「私だから・・・?」

 

 どう言うことだ? 確かに私は銃を撃った。リモートコントロールで部屋の四隅に設置してある異なる型のマシンガンも一緒に撃った。

 だが、それがどうしたと言うのだろう? あんなもの誰がやっても同じ結果がでる。

 重要なのはせいぜい、最初に撃ったペイント弾だけのはずだが・・・?

 

「彼女はおそらく、学園側の主要な生徒はあらかじめマークしておいたはずです。当然、専用機持ちの代表候補を中心にね。

 だってそうでしょう? 生身で居るときにはレーダーに引っかかる要素がなく、展開すれば核ミサイル装備可能な戦略爆撃機以上の戦力となり得る、理想的なまでに破壊工作に特化している戦略級の科学兵器だ。見えないのは同じでも、速すぎて見た後の避難がほぼ不可能なぶん、毒ガスより性質が悪い。歩く人間殺戮兵器です。

 そんな人たちを自分より弱いからなどという理由で無視するなんて、普通じゃ考えられません。見張りを一般人に紛れ込ませて複数名で一人を交代交代監視していることでしょう。

 そんな中、一人だけ専用機を持たず代表候補でもない御方が一人だけいます。誰だと思います?」

「・・・・・・私、か」

「ぴんぽーん」

 

 無表情に人差し指を立て、楽しそうに見せようと懸命に努力しながらセレニアが道化る。なんとなく、ツッコんだら相手の努力を無に返してしまう気がしてツッコメなかった。

 一夏も気持ちは同じらしく、唇を引き結んだまま表情の選択に困った顔をしている。

 変なところでお茶目なのは可愛いと呼ぶべき要素のはずなのに、どうしてコイツがやると何でもかんでも普通に行かないのだろう?

 生まれつきの体質なのか? できれば移さないでくれ。

 

「相手の中に誰が居るのか分からない。しかも、敵が使ってきているのは屑鉄扱いされてる旧式の銃火器。

 これは間違いなくブラフだ、本命は別にいる、どこだ? ・・・と、なるわけですね。

 あるいは、コイツ等が敵の全てだったとして、あの轟音で誰かに気付かれた可能性はないか? コイツ等が誰かに無線で知らせている可能性はないか?

 旧式装備を使う連中がハイテクなんて持っているのか分からない。システム的にロックはしたが、それらが旧式相手に通じる物なのか他国の学園の設備だから確信が持てない」

 

 いつも通りに淡々と解説するセレニア。

 ーーどうでもいい話だが、最近のコイツはこうしている時が一番生き生きしている風に見える・・・ひょっとして普段、のけ者扱いされてると思って寂しかったのか?

 

「挙げ句は、あの頭の愉快なセリフの数々。どう考えてもまともじゃ有り得ない。

 戦場の常識は、日常を生きる者にとって致命的な毒と成り得ても“何がなんだかよく分からない連中には通じるのかどうかよく分からない”。

 古参兵ほど経験則を尊ぶものですからね。ああいう手合いと遭遇したら撤退戦を視野に入れるのが、むしろ当然ですよ。敵の情報を得る前から突撃する理由もなし、自分一人だけがリスクを背負わなければならない道理もなし。

 ましてや利己的な理由でかき集められたテロ集団じゃねぇ・・・思想テロ組織とかなら話は別だったんですけども」

 

 相変わらず怖いことを平然と言う奴だな、おい・・・。

 

「あの状況で敵が突撃してくるのであれば、その理由は彼女がこだわり続けた存在、白式をおいて他にはない。かと言って、いかに大規模な施設でないと外せないと言われてはいても、所詮はIS管理のために作られたIS委員会からの発表内容。どこまで信憑性があるのやら、です。

 だったら肝心の白式と織斑さんを切り離し、彼女が長時間居座り続けるのを躊躇う理由を作ってあげるだけのこと。

 言い訳と正当性、リスクと面倒くささ。

 そして、撤退することで持ち帰られる今までにない情報がいくつか・・・。

 これだけ揃えれば多分、撤退してくれるだろうなぁ~、と」

 

 だろうなぁ~って、お前・・・はぁ。

 まぁいいか、済んだことだし水に流してやろう。

 武士は細かいことには拘らない!

 

「そうか。うん、そうだな。

 なんにしろお前は一夏を守るために万全に備えた。言うほど私も危険じゃなかった。 今回はお前の言葉が私たちに危機意識を持たせるためのモノでしかなかったのだから、良しとしよう!」

「・・・ん? いえいえ、実際問題超危険でしたよ、私たち?

 正直、相手がプロだったらどうしようかなぁ~とビビっていたほどでして。

 いやー、相手が素人でよかったなぁ。おかげで死なずに済みましーー」

 

 がしっ!

 

「・・・どう言うことだ?」

「・・・今、自分で水に流すって言ったのに~・・・」

「ど・う・い・う・こ・と・だ?

 せ・つ・め・い・し・ろ!」

 

 凄みを利かせると、渋々と言った感じで口を開き説明を始めたので、私も振り上げた拳をおろす。

 まだだ、まだ早い。

 お仕置きの時間はタップリあるんだ。まずは話を、聞くだけ聞いてやろうじゃないか。

 

「彼女は篠ノ之さんがリモコンで遠隔操作している五挺のマシンガンから一斉射撃での奇襲を受けた時、彼女は咄嗟に物陰へと逃げ込んだでしょう?

 映画とかだとセオリーになってる動きなんですけどねぇー。あれって実は悪手なんですよ」

「え?」

「ああ、いえいえ普通に敵と正面衝突した時なんかは、あれで正しいんですよ?

 奇襲であれ夜襲であれなんであれ、待ち伏せされていたとき以外は概ね正しい判断ですし」

「・・・? なぜ待ち伏せの時はダメなんだ?

 伏せていた敵に襲撃されて身を隠すために周囲の障害物へと飛び込むのは至極当然の一手だろう?」

 

 少なくとも時代劇や時代小説の主人公は、いつもその手で窮地を切り抜け、卑劣な悪を切り裂くのだ。勧善懲悪とは斯くあるべし。

 

「どうせもう補足されてますからねぇ。どこに逃げ込んだって結局は想定の範囲内。

 ましてや、待ち伏せしていたからには周辺の地形も確認済み。どこが逃げ込みやすくてどこがどう安全で、どこを攻めればそこに逃げ込まざるを得なく出来るか全部相手の作戦に組み込み可能。

 私だったら、あえて最初の攻撃で遮蔽物の影に逃げ込ませて、そこに伏せておいた兵で飛んで火にいる夏の虫にしますね。その方が楽ですから」

 

 ・・・・・・正義は死んだ!

 

「それをせずに素人じみた手法で素人じみた反応を示した彼女は、やはり本当の戦争をした経験が少ないようですね。まぁ、ISがある時代の専用機持ちならば、むしろそれが自然でしょう。

 なにしろ展開さえすれば如何なる攻撃にも対処できますからね。そりゃ、油断は出来ずとも経験値は貯まらなくなりますよ。だって、意識が『防御すること』に傾きすぎますもん。危機意識だって何処かに置き忘れるのが当然です」

「弱いから臆病になり、臆病だから狡猾な罠に気付きやすい・・・?」

「おそらくは。

 もともと戦略はともかく戦術は、弱い側が強い敵に勝つために考えるべきものです。強くて数が多いのであれば小細工などせず、真っ正面から正々堂々攻め込んだ方がいい。確実に勝利が手に入りますからね。

 だいたい正々堂々なんて言葉は、有利な側が己の有利さを維持したまま戦いに挑むため使う言葉だ。弱い側が正々堂々戦って勝った例なんて殆どない。

 強者が弱者に挑むとき、追いつめた獲物を逃がさないために使う卑劣な一言。

 それが“正々堂々”と言う絶対正義が絶対悪を逃がさず殺すために使う、蜘蛛の糸なんですよ」

「・・・・・・」

 

 ーー私は、隣で無表情に淡々と絶望を告げる変わり者の友人の顔を見つめていた。

 

 見つめることしかできなかったからだ。

 

 ・・・そうなのだろうか? 私は思いだしてみる。

 

 時代劇の主人公は皆、正義のために戦い、“勝利していた”。

 だが、大河ドラマの主人公の多くは、最後の戦で負けていた。勝者には成れなかったが、褒め称えられていた。“正義の味方とは言われていなかった”が。

 

 正義の味方は悪を倒す者だ。悪に勝つ者であり“勝利する者”だ。

 無論、負けることもあるし、負けた相手に再度挑んで辛くも勝利し、称賛を浴びるシーンには毎回感動を覚える。“負けたときに人々から冷たく蔑まれるシーンがあるから”尚更だ。

 

「私は・・・・・・」

 

 ーー間違ってはいないだろうか?

 

 「正義」がではない。正義と人々が呼ぶ概念が、だ。

 

 ーーもしかして私たちは刷り込まれてはいないだろうか?

 「正義」や「尊い」と言った諸々の言葉の意味の捉え方を。

 正しい意味を知るための手段を、真理に到達するための道を、いつか至れると信じているモノそのものを。

 誰かによって作り替えられ、変質させられてはいないだろうか?

 

(わからない・・・)

 

 今まで考えたことにない疑問に、私の心は千路に乱れて掻き乱されるーー

 

「いや、本当に良かったですよね。

 なにしろ、セオリー通りに撃ってくる方向へ最大火力の反撃をされたら一瞬でアウトでしたから。

 IS無しで攻撃食らえば拳銃弾でも即死の可能性ありましたしねぇ~。ああ良かった、生き残れて」

 

 ・・・ちょっと待つのだ、そこの合法ロリ巨乳。

 

「・・・つまりは、なにか?

 お前の立てた作戦は、本当に文字通り“命がけ”だったと、そう言うことなのか?」

「はい、そうですよ?

 だから昨晩そう言ったでしょう?」

「・・・・・・」

 

 ああ、確かに言ってたな。言ってたけどな。

 言われて即座に納得し、本当の事実なのだと実感できる女子高生などお前しかおらんわぁっ!

 

「ーーおい、セレニア。

 俺も今になって気付いた疑問があるんだが、聞いても良いか?」

「・・・? 織斑さんもですか?

 構いませんけれど・・・なんでしょう?」

「なに、大した事じゃないんだがな。

 ーーお前、今回は出番なにもなかったのに、なんだって強引に出撃メンバー入りを要求したんだ?」

「あっ!」

 

 そう言えば確かに!

 

「セレニア~♪

 ちょっとだけ話したいことがあるんだが、私と一緒に女子更衣室へOHANASIをしに行かないか?」

「・・・イヤです」

「大丈夫大丈夫。安心して良い。何もしないし、怒らない。その点だけは、私が保証してやろう」

 

 怒らないだけで、お仕置きはするつもりだがな? 嘘は付いていないのだから問題ない。

 うむ、我ながら実に素晴らしい正論だ。

 思わず自画自賛してしまいそうな程に。

 やはり、正義は正しくて悪は間違っている。

 

 

 ーーだからこそ、悪い子にはお仕置きが必要なのだがな。

 

 

 

「さぁ、行くかセレニア。

 ーー地獄の門が開いている」

「イヤですーーっ!!」

「こら、暴れるんじゃない!

 ここで脱がされたいのか!」

「ここ以外でもイヤなんですけど!?」

 

 ええい、今更になって往生際の悪い!

 覚悟を決めろ異住・セレニア・ショート!

 妹と同じ格好になる事の何がおかしい!

 

「いいから来い! お前には聞かなければいけないことが山ほどあるんだ!

 あと、お前の嫁と娘も呼ぶからな! 家族会議だ! 私も保護者として同席させてもらう!」

「篠ノ之さんの立ち位置って、どういう設定!?」

「私は知らん! 政府に聞け!」

「横暴だぁーーっ!!」

 

 ジタバタと足掻く小動物を引きずりながら、私は他の連中にも連絡を取る。

 幸い、文化祭の開催期間は二日間。後一日ある。

 催し物はどれも趣向が凝らされ、ごうも・・・コホン。尋問にも流用できるモノが多々あることだろう。

 明日が悦しみで仕方がない。胸が躍る心地とは、まさにこの事ーー。

 

「し、篠ノ之さん・・・? 笑顔が怖いんですけれど・・・?」

「大丈夫だ。問題ない」

「絶対に大丈夫じゃない返しだソレ!」

 

 む。失礼な奴だな。

 本当に“私は”大丈夫だというのに。

 

「待って! 待ってください! まだ終わってませんから! フィナーレが残ってますから!

 遠足は家に帰り着くまでが遠足です!

 なので今回の作戦も、目的を果たしたという報告が届くまでが作戦でーー」

「そちらは、あの戦争凶にとっての作戦だ。

 お前の作戦はもう終わった。後は事後処理でお仕置きを受けることだけが、お前に残された最後の任務だ。

 ーー乗り越えろ」

「格好良く言ってもダメなのーっ! イヤなのーっ!

 セレちゃん、おうち帰るのーっ!!」

 

 泣き叫ぶセレニアとは実にレアな物を見た。後で写真にも収めておこう。きっと、こいつも泣いて喜ぶ。

 

 ーーしかし・・・。

 

「地下か・・・。

 IS学園島を作る際に使用したという物資搬入口。

 そこが蜘蛛女の墓場となるか否か。勝負のーーいや、生死の分かれ目だな。

 あいつは生き延びることができる、か・・・?」

 

 さっきから無駄に足掻いてるバカの予測によると、敵は追撃のリスクを減らす為、ほとんど迷宮化している此処を確実に使用するとのことだったが・・・。

 

「あそこは本物の地獄を創りやすい。心が渇くほどの地獄を見なければいいのだがな・・・。

 できるなら、そっとしておいてやりたい・・・」

「篠ノ之さんの趣向って80年代ふーー」

「よーし! まずはメイド服だな! 任せろ!

 お前専用の超ミニスカメイド服を用意してやる!

 悦んで覚悟しろ!」

「いーやーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上の騒がしさとは裏腹に、此処は静寂に満ちていた。

 古代から住み続けている竜が、このまま永遠に眠り続けていられるのではないかと錯覚しそうな程、そこにはただただ静寂のみが沈滞していた。

 置き忘れられた時間、置き忘れられた記録、置き忘れられた夢と人と・・・死体の山。

 

 そこは地獄にもっとも近く、もっとも天国に近い。

 

 なぜならそこには今、殺戮者にして絶対者が我が物顔で居座っているのだからーー。

 

「Zun Metzten Mal♪

 Wird hun Appell♪

 geblasen!♪」

 

 少女が、指揮を、執っている。

 人間を、戦場を、世界を、全てを楽器に見立て、戦争音楽を奏でているのだ。

 

 この世界は楽器だ。

 この世界に生きるあまねく生命は、鍵盤に張られた弦のうち、替えの利く一本にすぎない。

 音色を上げて、吼えて這いずる一個の楽器。

 

 ただ、それだけ。

 

 命の尊さを知りながら。

 人生の面白さを知りながら。

 人の偉大さを知りながら。

 

 それでもなお、彼女の中の“彼ら”は嗤い、言う。

 

「さぁ、“死を始めよう”か。

 きっと楽しいぞ、すごく。

 

 ――なぁ、君もそう思うだろう?

 もう一人の“私”よ」

 

 彼女が一度目を閉じた後、軽く見開いたとき、纏っていた印象が音を立ててガラリと変わる。

 

 死臭と硝煙にまみれた黒衣の軍装が、まるでボロボロになったローブのように感じられる。

 常ににたにたと薄ら笑いを浮かべていた表情が今では物静かに悪意を湛え、傲慢さと尊大さと無限の知識欲に満ちあふれている。

 

 彼らは一人だ。

 一人で彼らだ。

 

 人間と神の本来有り得ぬ融合体。

 特異点が生み出してしまった世界の危機そのもの。

 

「見定めなければならない。

 この世界が本当に、マルグリッドが神として統べるに値するのかどうかを。

 この世界の人間に、マルグリッドの統べるパライゾの住人たる資格があるのかどうかを。

 試さなければならない、示させなければならない、証明させなけなければならない。

 出来ないと言うのであればーー巻き戻し、やり直させるまでのこと。

 成功するまで何度でも何度でも何度でもやり直させよう。

 時間など無限だ。幾らでもある。

 彼女はあれよりもずっとずっと上等な存在だ。皆に畏敬され、崇拝されるべき存在だ。汚していい存在ではない、貶していい存在ではない、貶めていい存在ではない。

 彼女こそ、マルグリッドこそーー真の女神であらねばならないのだから」

 

 恍惚とした表情で言い切った彼らの前に一人の虫けらが現れる。

 彼らを見てギョッとした彼女がなにやら喚き出すが、そのような些事を彼らが気にかけることはない。

 彼らはただ、殺し、創り、奏で、演出するだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、今宵の恐怖劇(グランギニョル)をはじめよう」

 

つづく




先程から次話の内容を考えているのですが、メインキャラの都合上どうしても暗い鬱展開になりそうなので、次次話も含めて二話纏めて出します。
なので更新まで少し間が空くと思われますが、ご容赦ください。

――流石にあの鬱展開はちょっと・・・辛い・・・。

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