IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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今話から新章開幕です。
いきなり訳わかんない始まり方ですが、基本的な流れは原作準拠のままです。
学園祭やってキャノンボール・ファスト参加して修学旅行行ってと普通にISストーリーを進めていく予定です。

・・・裏で色々ありますけどね。表側で行われてるのは茶番劇で裏側こそ本命とか、もう完全にISじゃねぇ。こんままじゃ原作者様に土下座しないといけなくなりそうです。

本気で原作尊重作品考えてみよう・・・。


新章開幕「新たなる戦いのバッカーノ(バカ騒ぎ)」

「都内の超高級リゾートホテルのスィートルームを1フロア丸ごと貸し切りたぁ剛毅だねぇ。うちのお偉方も普段からこれぐらい羽振りがよければ、こっちも楽できるんだけどな」

 

 大型ソファーに仰向けに寝転がったオータムがワイングラス片手にそう嘯く。

 私は苦笑しながら、自分の恋人に返事を返す。

 なるべく不自然にならないよう細心の注意力を払い、相手の傲慢な性格を揺さぶりこちらの望む反応をしてくれるようコントロールしていく。

 

「あら、あなたは組織の羽振りが良いなら良いで上への罵倒に利用したんじゃない? 

 たとえば「こんな所に金掛けてないで現場に物と人を送ってこい」みたいに」

 

 案の定、思った通りに彼女は獰猛な笑みを浮かべてグラスを掲げて見せる。私はそれに付き合いながらも、内心苦笑せざるを得ない。

 なんたる単純思考。脊髄反射並の思考力しか持ち合わせていない彼女が上位の地位に立てているのは、ひとえに「閣下」のお陰だと言う事実は想像すらしていない。

 

 自分の力が実力重視の組織において認められ、部下たちは無能な役立たずだから有能な自分が使い捨てても許されるのだ。そう信じて疑おうとしない純真さには、呆れを通り越して感動すら覚える。

 どうすればここまで純真無垢な戦闘狂が熟成されるのか大いに疑問だ。興味深い、研究して論文に纏め学会で発表すれば高く評価されるんじゃないかしら?

 

 ・・・いえ、これは欺瞞ね。自己正当化のための言い訳にすぎないわ。

 だって、私が彼女をこのように“作り替えた”のだから。

 

 我が国にとって使い勝手の良い捨て駒として使い潰せるように、来るべき日に備えて『亡国機業』幹部会を手駒にすげ替えたのと同じようにーー。

 

 こちらの気も知らぬ彼女は脳天気な口調で「しっかし・・・」とつぶやくと、嘆くような口調で愚痴混じりの慨嘆を始める。

 

「強奪予定の『アラクネ』がイレイズドごと吹っ飛んだときには冷や汗かいたが、まさか発展改良型の『アラクネⅡ』がワシントン陸軍基地に保管されてたとはな・・・。想像もしてなかったぜ。

 おまけに『サイレント・ゼフィルス』の追加装備までがめてくるたぁ、やっぱ私の恋人は最高だっ! 幹部会が絶賛するのも当然だよな。まったく、恐れ入ったよ」

 

 私は穏やかな笑みで恋人から送られる心からの賛辞に応えながら、心中で苦笑を深める。

 私が入手してくる情報はすべてFBIを始めとしたアメリカ諜報機関が入手してきた物ばかり。その中から都合の良い物を斡旋し提供してきただけで、私自身が情報収集の達人というわけではまったくない。

 だいたい、一個人が巨大組織による大小様々な支援も無しに国家相手の諜報戦など挑めるわけがない。そんなこと諜報員歴が少しでもあれば分かりそうなものだけど・・・どこまでもお人好しで愚かで愚直な彼女は、恋人が自分を利用し裏切る腹積もりで接しているなど想像の埒外であり、身内を疑おうとは発想すらしない。

 つくづく愚かで自信過剰で自意識過剰で面白可笑しい人。出来れば、もう少しだけ側に居続けてその狂態を見物していたかったのだけど・・・残念。任務を果たす時期が来たみたい。

 

「世界初の男性IS操縦者、織斑一夏の専用機『白式』の強奪。それが今作戦における趣旨だけど、作戦内容は頭に叩き込んであるわね? 言うまでもないけど秒単位でタイムスケジュール調整がされているから失敗も命令違反も許さないわよ」

 

 へいへい分かってますよ、と返してくる彼女の返答はいつも通り。

 ようするに「臨機応変に立ち回り、自分好みの獲物を見つけたらそっちを優先する」と言う、彼女なりの遠回しな意思表示。

 

 私はそれに微笑で返し、苦笑を隠す。

 

 そして心中では安堵する。

 彼女は今作戦の意図を自分に都合よく解釈し、私に都合よく誤解してくれたらしい。

 これなら十分、戦果を期待できるだろう。

 

 強いだけの猟犬は優秀ではない。飼い主の意図を解し、その目的を果たすには自分がどう動けばいいかを考えるのが優秀な猟犬に必要な絶対条件。

 

 彼女、武装テロ組織『亡国機業』が抱える実働部隊『モノクローム・アバター』の隊員にして今作戦のために本国から受領した専用IS『アラクネⅡ』の操縦者でもある野卑た美女オータムには、せめて開戦に先立つ狼煙として暴れてもらう。

 その程度の任にも耐えられないのであれば、今まで彼女を飼うのに費やした経費が無駄になる。選挙が近いこの時期にその様な事態は出来うるなら避けたい。

 

 ーーまぁ、もっともねーー

 

 私は薄く笑いながら心の中で呟き捨てる。

 

 ーーあなたのような無能な働き者に与えられる最後の報償が銃殺刑以外有り得ないのは、変えようがない事実なのだけどーー。

 

 

 

 

 

 

 

 九月三日。

 二学期初の実戦訓練が行われている校庭をよそに私たち一年一組は、本来であるならば放課後の特別HRでやるべき、学園祭時にやるクラスの出し物を決めるための話し合いを繰り広げていました。

 

 

 ・・・ここってIS学園ですよね? IS操縦を習う場所ですよね?

 なのに、なんで実戦訓練を見学すらせずに学園祭の出し物話し合ってんの!? 意味分かんないんですけど!?

 

「は~い、それじゃあ今まで出た案の中から決を採りたいと思いまーす。

 まず一つ目から。

 え~と、なになに・・・『織斑一夏のホストクラブ』・・・? 却下。

 二つ目は、と。『織斑一夏とツイスター』これもボツ。

 あとは、えっと・・・『織斑一夏とポッキーゲーム』『織斑一夏と王様ゲーム』『織斑一夏が女の子の胸を揉む大会(巨乳限定)』・・・って、コラァッ!! そこのエロス魔王! なに考えてんのよあなた! 欲望ダダ漏れどころか欲望しか頭に無いじゃない!

 あと、巨乳の子限定だと私のセレちゃんが入っちゃうから却下よ却下! 絶対絶対、ぜ~ったいに却下!!」

 

 唾を飛ばしながら喚きまくってるのは一年一組と無関係なはずの生徒会長、更識楯無さん。

 ・・・仕事はどうした、サボるなよ。虚さんに言いつけちゃいますからね?

 

「では、わたくしの出した案『美しき百合の喫茶店ガーデンブルク』を!」

「いえ、いっそのことボクの出した案『ボクとセレニアの結婚披露宴』を!」

「お母様、お母様! 見て下さい! ラウラ、チョウチョさんが作れるようになりました!」

 

 

 ・・・私、帰っちゃだめかなぁー・・・。

 

 いつの間にやら隣の席になっていたボーデヴィッヒさんが作ったあやとりの出来を褒めてあげながら、私は変態揃いの一年一組メンバーについて思いを馳せました。

 

 

 ーーなぜ、こうなってしまったのか・・・と。

 

 ほんの半年前まで、ここまで異常な混沌化はしていなかったはず。

 なのに、なぜ。

 なぜ、どうして変態してしまったんだ《インフィニット・ストラトス》・・・!

 

 ーーこれ、どう足掻いても原作通りに戻すの無理くね?

 辞めちゃおっかなぁ~。胃が痛い思いするのもうイヤなんですけどぉ~。

 

 

 

 ガララっ。

 

「おいお前ら、授業始めるぞ席に着け。

 ・・・それと更識は教室出る前に服を着ろ。その姿で出歩かれると私の所に苦情が届くんだよ何故か・・・」

「全裸こそ、神が人に与えたもっとも自然な衣服!

 全裸以上に素敵な服装などありはしません!」

「“服”じゃねぇぇぇぇ!!」

 

 ・・・今日もお疲れさまです織斑先生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あ~、こほん。

 突然だがIS操縦指導要員としてアメリカ軍からIS学園に派遣されてきた特別教師の先生を紹介する」

「初めまして皆さん。今日から一年一組の副担任補佐を務めますアメリカ軍所属のナターシャ・ファイルスです。来年までの短い期間ですが、皆さんのIS操縦技術向上のため全力を尽くしたいと思いまーー」

『なんでうちのクラスにIS操縦指導要員が来るのっ!?

 うちのクラス、IS使った実習やったことあったっけ!?』

 

 自己紹介の途中で起こる盛大な疑問の雄叫び。

 さもありなん。正直私もやったこと有るか無いか微妙なくらい記憶に残っていませんからねIS実習。

 ほとんどが座学なうえに、そもそもの総授業時間数自体が他クラスより圧倒的に少ない。

 教室吹っ飛ばされたり、担任がゾンビ化したり、天災が就任してきたのをもみ消すために教員一同総動員されて自習になったり・・・ほんっとーにIS学園って名前が表記詐欺になりかけてますよね、この学園。

 

 経営陣は本当に仕事してるんでしょうか? いえ、そもそも全員懲戒免職になってたりしませんよね?

 税金で運営されてる国立校がこれで総選挙は本気で大丈夫なんでしょうか・・・? うちのクラスだけで外国の代表候補生三人も抱えてるんですけど・・・。

 日本の外交政策までもがヤバそうな件について。

 

 

 

 ああ・・・胃が痛いよぅ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううぅ・・・胃がぁ・・・」

「大丈夫、異住さん? お薬は飲めそう?

 痛みが退かないようなら保険の先生に医療ポッドの使用申請を出すけど・・・」

 

 保健室のベッドの上で呻いている私の背中を新任のファイルス先生が優しくさすりながら、水の入ったコップを差しだしてくれました。私はお礼を言いつつ水を受け取り、一息で飲み干します。

 

「ふぅー・・・。ようやく人心地つけました。ありがとうございます。

 それと、お手数をおかけして申し訳ありませんでしたファイルス先生」

「ナターシャでいいわよ、異住さん。私の方こそ病人に保健室まで案内してもらいながらで悪かったわね。あらかじめ見取り図は見ていたのだけど、実際に歩いてみると微妙な違いが多くて・・・。正直、助かっちゃった。

 だから、ありがとうを言わなければいけないのはむしろ私の方。先にお礼を言われちゃって先生としての立つ瀬がなくなっちゃったわ」

 

 微笑みながら苦情の殻をかぶせた感謝を告げるファイルス先生。

 美人であることが専用機持ちの絶対条件なんじゃないのかと疑問がわくほど、例外なく美人さん揃いの専用IS所持者たちの中にあって、年齢的には若干年上に位置していますが十分以上に美人でお胸の大きい金髪でオシャレなカジュアルスーツを着こなした白人美女。

 

 これで専用機持ちというこの世界が誇るスーパーエリートの一員とかズルいと思います。

 いえ、別に自分がなりたいとかではなく前世の女子クラスメイトが居たら嫉妬に狂っただろうなと。やはりラブコメラノベは格差社会が基本なんですね・・・。世知辛いです。

 

「それは失礼しましたナターシャ先生。では私のことも、異住ではなくセレニアとお呼び下さい。こっちの方が慣れてるので返事しやすいんですよ」

「そう? じゃあ遠慮なく。

 それでセレニア、体調はもう平気? 保険の先生は今日、急な用事で出かけてるから来られないけど、病院に行くなら私の車で送るわよ?」

「いや、さすがにそこまでして頂く訳にはいかないでしょう。新任であるなら顔合わせや挨拶周りなどやることが沢山あるはずです。そちらを先にこなしてください。

 私の方はもともと寮生活な上に学生寮が目の前にありますからね。疲れたら戻って休みますし、それでも治らなければ病院にかかりますよ。IS学園周辺施設は、そこらの政令指定都市より充実してますから」

「それならいいのだけれど・・・。でも、無理しちゃだめよ? 辛いときに辛いと言えるのも立派な能力なんだから」

 

 優しくも厳しいお言葉に頭が下がります。辛いときに無理する人の多くは途中で潰れてダメになる。そして、ダメになった理由を他に求めて逆恨みを繰り返し挫折を続ける。それを死ぬまで繰り返すのは正直ゾッとしないので、疲れた時には適当に頼らせて貰いましょう。

 

「色々とありがとうございます。お言葉に甘えて、そうなった時には頼らせて貰いますね」

「ええ、もちろん。何といっても今の私はあなたたちの先生なんだから。

 生徒を守るのは先生の勤めであり義務よ?

 軍人と同じで役割を全うし義務を果たさないと、社会人として子供たちの見本にはなれないんだから、努力しないとね」

 

 朗らかに笑うナターシャ先生ですが、それでいくと織斑先生はどうなるんでしょう? あの人義務果たしたこと有りましたっけ?

 ・・・え? 篠ノ之博士? あの人は学園が養ってるニートです。数のうちに入れちゃダメです。

 

 ・・・ああ、そうだ。ちょうど良い機会だし、この際だから聞いておきましょう。

 わざわざお誂え向きにも二人きりなわけですしね。

 女子校の保健室で生徒と先生が二人きりなのは色々ヤバそうで噂が立ちそうですが、今なら問題ありません。

 

「そういえばナターシャ先生。貴女が日本に派遣されてきた理由について確認したい部分があるので聞いてもよろしいですか?」

「え? なにかしら、私に答えられる質問だと良いのだけれど・・・」

「簡単な質問ですし答えられる範囲だけで結構ですよ。無理強いはしませんし、答えたくないなら無視してくれてもかまいません」

 

 そう前置きしてから、私はまずナターシャ先生に大上段から切り込んでみます。見栄張っただけですけどね。

 

 

「アメリカ政府からの特使としてIS学園に派遣された理由について、貴女どこまで説明受けてます?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・あれ?

 

 不自然なタイミングで急激に訪れた突然の沈黙に、私は思わず周囲を見渡してしまいます。なにも変わってないのは確認するまでもないですが、念のためにです。

 

「・・・・・・なん・・・で・・・」

「・・・はい? 失礼、よく聞こえなかったのでもう一度お願いしまーー」

「なんであなたがその事を知っているの!? それは政府閣僚ですら知らされていないSSSレベルの特務命令なのよ!」

 

 顔色を変え、表情も険しくし、さっきまでとは別人のような剣幕で詰めてくるナターシャ先生。

 

「いや、なんで知っているのかと聞かれましてもね・・・」

 

 知らないけど推測したら当然そうなっただけなので、どう答えたらいいのか・・・。

 一から説明していくのは正直すごく面倒くさいですが、彼女がどこからどこまで知っているのか分からない以上、一から説明してくしかないですよねぇ・・・。

 はぁ、メドい・・・。どうせ推測と妄想の継ぎ接ぎ理論でしかないのになぁ・・・余計なこと言わなきゃ良かったです。次からは気をつけよ。

 

「まず、ナターシャ先生が派遣されてきた表向きの理由をざっとおさらいしましょう。

 これは先程のHRで貴女自身が語ってくれたことの焼き回しに近いものですが、私なりに自己解釈した表現が混ざるので多少歪になることは予めご了承下さい」

 

 1、アメリカ現政権は先の福音戦で日本に大きな借りを作ることとなり次の統一選挙で席次を大幅に失うことを懸念し、人気取り政策の必要に迫られている。

 

 2、福音暴走及びイレイズド消失という二つの大事件はアメリカ軍にとっても大きすぎる過失であり、市民の間では軍組織の無能ぶりが連日囁かれており軍民交流が必要不可欠な事態に陥っていると判断した。

 

 3、福音戦は知らぬ者がいないほどに拡散した情報であるが、その実それらの情報ソースはネットや噂話など不確定かつ不明瞭な物ばかりで信憑性のある情報源は何処もこの件については触れていない。

 

 4、3の理由からIS条約に抵触している軍事使用前提の最新型IS「シルバリオ・ゴスペル」は正体不明のISとして、通称でもある“福音”の名しか知られておらず、詳細はほとんど全てが軍事機密のベールで覆い隠された状態。当然、操縦者がナターシャ・ファイルスであることを知る者など民間にはいない。

 

 5、ナターシャ先生は軍事用ISという、下手したら戦争を引き起こしかねない機体の操縦者に選ばれるだけあり、国民的人気を誇る国家代表候補の筆頭である。軍人とはいえ正しくは軍属に近い存在であり、正式な命令権が現場の平指揮官に与えられるほどやすい存在ではない。特別待遇されたエリート中のエリートである。

 その一方で半民半軍の特殊な立場故にアメリカ陸軍スカイ・ソルジャーズの曲技飛行にも参加するなど軍民問わず豊かな人脈と人気を誇り、国政や選挙に大きな影響力を有するVIPでもある。

 

 6、上記の理由から彼女が民間に寄与することは政府や軍に対する市民の悪感情を和らげる効果が期待され、IS操縦者育成機関を運営しているにも関わらず常に人材難で頭を悩ませている日本政府にとっても渡りに船であった。両者の利益が共有されたことから今回の件は双方共に歓迎され円満な形での来日が可能となった。

 

「と、要約すればこんなところですか・・・って、どうしましたナターシャ先生。急に膝を抱えて座り込んだりして。何かイヤなものでも見ましたか?」

「・・・いいえ、何でもないの、何でもないのよ・・・。

 大丈夫、私は大人。現実が苦くて辛いものだってことくらい分かっているから・・・ええそう、分かってる。分かって・・・いる、のよ・・・・・・」

「はぁ・・・」

 

 よく分かりませんけど、本人が大丈夫だというなら大丈夫なんでしょう。

 ・・・いえ、全然大丈夫そうに見えないのは分かってますよ? ただ、本人の意思を尊重しただけです。

 個人の自由は尊重しないといけません。日本は民主国家ですから。

 

「まぁ、とりあえずここまでが大前提となる土台の情報。そして、問題はこの後です。

 貴女が仰られたことが全て真実だとして、アメリカにも確かに利益があるとしましょう。では、これは果たして本当にWin-Winの取引なのか? 答えは断じて否です。

 まったく取引になってません。破綻してます。不渡りどころか破産宣告に等しい。こんな物を対等といえるならヤルタ会談だって正当性を主張できる。どう考えてもアメリカしか損をしない完全な不平等条約ですよ」

 

 このイベントが原作にあるかどうか知りませんが、いくらなんでも無理がありすぎる。絶対無理。こんなの他の作品じゃ通らないって。

 いや、IS原作でも通らないと思いますけどね?

 

「そ、それはどうして・・・? 正直聞きたくないんだけど、聞かなきゃ話が進まないし・・・ううぅ・・・日本にきた早々にジレンマがぁ・・・」

 

 なんか苦悩しだしたナターシャ先生。異性との交際に悩みでも抱えてるんでしょうか? そういう相談は私に持ってこないでくださいね? 絶対に解決できねぇ。

 

「理由はシンプルです。此処が各国代表候補生たちが集うIS学園で、貴女がアメリカの開発した最新鋭機の操縦者でありながら、IS学園に所属する教員として赴任してきたからです。これが理由の全てですよ」

 

 私としては分かりやすく端的に纏められたと満足してたんですが、やはり共有している情報に誤差があるらしくナターシャ先生は頭上に?マークを浮かべています。・・・もう少し細かく説明しましょう。

 

「貴女が保有する専用機はアメリカの最新型ですが、教員として登録された以上は整備するのはIS学園の整備科です。そして学生の中にいる専用機持ちはほぼ例外なく各国の国家代表候補であり、自国の損得を第一に考えなければいけない立場にある。それでいて学生寮は二人で一部屋、部屋割りはランダムです。

 これで関係を深めた相手と情報交換しない未来の国家代表候補はクビにすべきだと私は思いますね。なにしろ、そこいら中に重要な情報源が溢れている。

 互いの国の未来のため、両国の平和と安寧のため協力し合い、ライバル国の軍事技術集めに手を取り合いながら邁進するのは、むしろ自然なことでしょう?」

 

 なにやらナターシャ先生の顔色が悪くなってきた気がしますが、特にドクターストップは掛からないので続けます。

 

「仮に福音を持ってきてなくても関係ありません。IS操縦を教える際に使用する訓練機の量産型には貴女が福音で得た操縦データを入力するはずですからね。

 たとえ貴女ご自身の手で入力したとしても結果は同じ。

 だって、IS学園にある訓練機は打鉄とラファールだけですし、どっちも学園の備品ですし。データ流出の恐れがあるからって理由で本国に持ち帰るのも不可能ですし。

 なにしろ全世界あわせても四六七機しかない超稀少兵器だ。日本国内に限っていえばさらに減って、IS教習が義務付けられてるIS学園保有数に至っては、一度の授業に使えるのが多くてたったの二機ですよ? 一機減るだけで授業計画が大幅な見直しを迫られる。どんだけお金があっても足りません。国民の血税で運営されてんですから無駄金使うにも限度があるでしょう。

 なので、絶対にあり得ません。断言できます」

 

 ・・・なんか、さっきより顔色悪くなってません? 本当に大丈夫なんでしょうかね、この人。

 変な病気持ちは周りにたくさんいますが、アレは変態という不治の病なので無視しときましょう。

 

 とはいえ、ここまでが今現在説明できる範囲の内容。これ以降はナターシャ先生からの返答次第ですかねぇ。

 ・・・どっちみち私の妄想の産物でしかないので意味も価値もないですけどね。暇潰しに聞くぶんには良いかなぁ、というレベル。

 

 言うまでもありませんが、顔色が悪くて暇だったら休みなさい。話なんか聞いてる暇はねぇ。

 

「・・・・・・ああ、もう・・・。なんだか予定狂いっぱなしだわ・・・。

 議長から「おもしろい子」って聞いたのは事実だけど、こんなのを「おもしろい」なんて表現できるのは狸じじいなあの人だけよ・・・。一般人に補佐しろなんて無理難題も良いところだわ。なにもかもが無茶苦茶じゃない・・・」

 

 ・・・・・・?

 なにやらよく分からないことを言い出しましたが・・・。もしかしてこの人も厨二さん? 正直間に合ってるんでお帰りいただきたいです。

 

「・・・はぁ。来ちゃったものは仕方ないか。自分の任務を果たしましょう」

 

 顔を手で覆い、一撫でした後ナターシャ先生の表情が一変しました。

 それまで優しい美人のお姉さんだったのが、戦場に立つ女性軍人へと変質した・・・のかもしれません。軍人さんには会ったことないんで正確なところはさっぱりです。

 しいて言うなら、エマ中尉みたいな表情ですかね? とにかくエリートで真面目な女性軍人さんキャラクターの表情だとご理解ください。

 

「IS学園生、異住・セレニア・ショート。貴女にアメリカ政府上院議会議長ゴップよりの書状を渡します。謹んで受理すること。なお、本件は部外秘であり記載されている者以外への情報流出は許されず、違反した際にはアメリカ政府の威信に懸けて相応の罰則が架せられるものと記憶せよ」

「・・・・・・・・・」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?

 

 

「ち、ちょっと待ってください、いまいち事情がさっぱりで・・・。

 ってか、え? 議長? ゴップ? あれ、どこかで聞き覚えがあるような・・・」

 

 ・・・あれ? あれ、あれれ~? なんだか変なことに巻き込まれ出しちゃったぞ~?

 

 ゴップってあれですよね? ジャブローでモグラで一年戦争でファーストガンダムで、んでもってMSVーRでは連邦議会議長で事件の黒幕の一人で人類存続を確定させたくて・・・いかん、脳の限界が迫ってきたぞ。どうなってんだコレ、ホントの本当に。

 

 私の混乱をよそにナターシャ先生は冷静に事務的な口調で報告というか警告というか、とにかく私に都合の悪すぎる内容を一方的に告げてくる。・・・くそぅ、さっきまで顔色悪かったのは演技かよぅ。

 詐欺だよぅ、ヒドいよぅ、大人の軍人さんに苛められてるよぅ・・・。

 

「これは正式な議長からの通達であると同時に『ゲームへの招待状』でもある。

 なお、プレイヤーとして参加を許可されたのは貴官と他にもう一人、アメリカ国防長官ヨブ・トリューニヒト氏の二名のみである。

 両名とも己が良識と倫理の許す範囲内において、知略と人脈と保有戦力の限りを尽くして競い合え。己の正義は己の力と勝利によってのみ実証される」

 

 ・・・・・・ん? また聞き覚えのある変な名前が出てきたような・・・。気のせいだよね?

 

 気のせいだと思いたいな。気のせいであってほしい。うん、気のせいに違いない。

 だって、あり得ないもんね、私があのエゴの怪物で保身の天才で弁舌のみを武器に常勝の天才と渡り合った異形の政治業者相手にゲームで競い合うとか、そんなバカげたことあるはずがーー

 

 

「ここに宣言する。

 地球統一国家「地球連邦」建国を目指すヨブ・トリューニヒトと、民主共和制の守護者たらんと望みし異住・セレニア・ショートによるIS戦略戦術シミュレーション・ゲーム「IS戦争」の開幕を。

 そして、ゴップ議長の名に誓って約束する。

 勝者には人類の未来における“在り方”を、来るべき新時代“人とはどう在るべき存在か”を規定する権利と影響力が与えられることを」

 

 ・・・・・・・・・・・・ま、マジですか・・・・・・。

 

 

「ISの世界普及はこの時、この瞬間、このゲームの為にこそ有った。

 力と知恵と勝利こそが戦争における全てである。勝者が正しく、敗者は滅びる。

 数世紀の後に正義が証明されても、それは勝者が敗者になった結果にすぎない」

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

「人類が人類である限り戦争が無くなることはない。

 認めよ、その事実と現実を!

 そして、否定せよ!

 理想が現実に打ち勝つことは無いという常識を!

 すべての常識は仮定から生まれ、実験により実証されて理論となる。

 理論を作れ!世界を回せ!世界に「あるべき形」などない!

 明記せよ、この事実を!

 時代も世界も戦争も平和も、全て! 人が作ったものだ! 人が作ったもので人に壊せぬものなど無い!

 時代を否定するなら破壊しろ! 戦争を否定するなら停めて見せろ!

 力持つ者の言葉にこそ意味があり、力なき者に誰かを守る事など決して出来ぬ。

 汝等の力だけが勝者を決める! 戦争の鉄則、努々忘れること無かれ!!」

 

 

 こうして、訳が分からないまま明らかな原作崩壊が行われたのでした。

 

 

 

 

 ・・・・・・ところで、放課後に学園祭の出し物決める話し合いの続きやるんですけど、疲れたんで帰っちゃダメですか?

 もう、何もかも忘れて泥のように眠りたいです・・・。

 

 

 ああ・・・これまでで最大規模の原作崩壊が全然関係ないところで行われて、気づいたら巻き込まれてて、しかも人類の未来決めるゲーム大会に出場するのが国防長官と女子高生って・・・・・・これ、なんてノーゲーム・ノーライフ?

 

 

 ――っつか、《インフィニット・ストラトス》どこ行った!?

 最近出た記憶ねぇんですけど! タイトル詐欺になるからいい加減出てください! ・・・ああ、胃がまた痛い・・・。

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 なお、台本通りとはいえ厨二セリフを大声で叫ばされたナターシャさんは、夜に自室で転げ回りましたとさ。




IS戦争は聖杯戦争のIS版みたいなのです。
ようするに限定戦争&代理戦争。・・・本当にISじゃないですよね今作って・・・。

追記:どうにも説明不足過ぎたらしく疑問の声が多いので予定を変更して今作の次話を最優先で書きますね。
なんとなく意味深なひき方をしてみたかったんです。混乱させてしまいごめんなさい。

注:作者はアメリカに悪意はありません。トリューニヒトはともかく議長は比較的良識派でアメリカも正常に動かしてます。
決してアメリカそのものが世界征服目指してるわけではないので誤解なきよう。

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