IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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1話「捻れた候補者選び」

「はいっ。織斑くんを推薦します!」

「私もそれが良いと思います!」

「では候補者は織斑一夏・・・他にはいないか?」

 

 次々と上がる織斑さんを推挙する声。

 それを知っていたかの如く、流れるように話を進める織斑先生。

 

 ・・・・・・あぁ、やっぱりこうなりましたか・・・予想通りですし、始めからこれ以外に道が無かったとはいえ・・・・・・不幸なことです。

 織斑さん、あなたはつくづく運が悪くて・・・・・・つくづく女運がいい。

 前世の私なら嫉妬したでしょうし、妬んだでしょうし・・・もしかしたら憎んでいたかもしれませんね。

 まぁ、すでに私の中に『男』が残っていない以上、ただの“たられば”にしかなりませんけども・・・・・・。

 

「ちょっ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらなーー」

「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」

「い、いやでもーー」

 

 案の定、抵抗を始める織斑さん。そして、あらかじめ用意してあったであろう正論で黙らせようとする織斑先生。

 

 ーーあぁ・・・・・・茶番だ・・・・・・。

 お約束とお決まりとパターンだけで形成された見事すぎる『茶番』だ・・・。

 見ている方としてはそこそこ楽しめるのですが、当事者としてはたまったものではないでしょう。

 本来、見物人にすぎない私が“ここ”で口を出す必要はない。

 どうせ、放っておいてもどこぞのイギリス代表候補生が突っかかってきて皆さんの望んでいる結果へと至る道が出来る。

 戦いの後に芽生える恋心とーーいずれ形成されるハーレムへの舗装道路。

 道が出来れば後は走るだけです。

 綺麗に整えられた一本道の上を進んでいけばいいだけの簡単なお仕事。

 

 今、織斑さんに求められているのは、そういう役割です。

 求めているのは、おそらくーーこの場にいない誰か、なのでしょうが、結果としては誰もが喜びを得られる。

 誰も損をしないだけでも、それは大きな“利益”でしょう。

 それになによりーー“ここ”ではそれ以外に選択肢が与えられていません。

 プレイヤーが如何に先の流れを予期していようとも、存在しない選択肢は選びようがない。

 織斑さん、私たちはね・・・・・・誰も彼もが、与えれた自由の中で選ぶ事しか出来ないんですよ。

 だから、今あなたが置かれている状況は必然です。

 偶然など、この場に限っては存在しません。

 

 だからまぁ、私に出来ることもまた何もないのですが・・・。

 一応、与えられている自由の一つを使って、解説だけはしてあげようかと思います。

 それがーー道化役を押しつける私たちからの、せめてもの手向けです。

 

「ーー無駄ですよ、織斑さん。

 結末の決まった出来レースに口出しすることに意味なんて有りません。

 所詮、こんなものは予定調和に過ぎないんですから」

「・・・・・・は・・・・・・?」

 

 ポカンと、アホっぽい表情で固まる織斑さん。

 ついでにクラスも静まりーー気のせいでなければ後ろの席から大声で何かを言おうとした誰かも声を飲み込んだ気がしましたが・・・・・・気のせいですよね?

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! なんだよ、その出来レースって!?

 クラス対抗戦なんだろ? だったら、その選手はクラスの代表ーーつまりリーダーってことじゃないかっ!

 それなのに、なんで出来レースになるんだっ!?」

 

 織斑さんが必死な表情で訴えてきますし、背後から同意するように首を激しく上下させる誰かさんの気配も伝わってきます。

 

 まぁ、彼らの主張もあながち間違ってはいないのですが・・・どんなモノにも時と場合という奴がありまして・・・ね?

 つまり、そのーー

 

「ーー代表者の仕事は対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席・・・つまりはクラス委員長・・・ではあるんですが・・・・・・。

 ・・・・・・どこの社会でも後輩は先輩を立てるのが常識ですし、立てなければ物事がうまく流れません。自己主張の激しい新参者なんてお荷物にしかならず生徒会からも教師陣からも白眼視されます。

 当然の帰結として他クラスからはクラス丸ごとバカにされ、その原因となった代表者はハブられます。

 最低でも二年生になってからでないと、クラス委員長の地位に意味は生じません。むしろ、雑用を押しつける口実にはピッタリでして・・・」

 

 

 

 なんでしょう・・・。

 空気がどんどん重くーーいえ、淀んできた様な・・・・・・

 

 ・・・まぁ、自分でも夢のないことを言っている自覚はあるのですが・・・

 

「で、でも対抗戦ではクラス代表として出るのは確かなんだろ・・・?

 クラス代表って事はクラス最強ってこと・・・で、いいん・・・だよ、な・・・?」

 

 だんだんと語調が弱くなってきた織斑さんが、どこか縋るような視線と口調で訴えてきます。

 ですが、ごめんなさい、織斑さん。

 私には、あなたの期待に応える力はないんです・・・。

 

 ですから・・・事実だけ伝えますね?

 

「・・・・・・入学したての新入生たちにどれほどの力の差があると?

 適正は才能でしかなく、才能を活かせるようになるだけの経験が私たちにはありません。

 そうなれば自然と、すでに訓練を受けている代表候補生が有利になりますが、別に関係者や来賓を招いての大規模イベントでもない、ただの小競り合いに過ぎない対抗戦で本気を出し、手の内を晒して何か得がありますか? 状況判断の拙い奴だと酷評されて終わりですよ。

 つまり、将来有望な選手は本気を出さず、本気を出した選手は将来を狭める。ーー要するに、楽しんだ者勝ちのお祭りイベントなんですよね、コレ」

 

 

 ガーン・・・・・・。

 そういう効果音が付いてもおかしくない表情で凍りつく織斑さん。

 

 ・・・いや、もう・・・なんか、すいません・・・わざとでは・・・悪意はないんですよ・・・?

 

 

 ーーただ、結果がこうなると判っていただけで。

 

「じ、じゃあ・・・代表者に必要な能力は強さじゃない・・・の、か・・・?」

 

 彼は、もはや蒼白を通り越して真っ白になってきた顔色で私に問いかけてきますが・・・

 

 織斑さん、なんでそうまでして地獄に墜ちたいんですか?

 いいじゃないですか、素直に代表になって勝ち、自分はやはり強い、そう思えれば。

 どのみち、あなたに聞こえないところで色々言う連中は出てくるんですから、自分の心だけでも楽園にいましょうよ。

 あなたに必要なのは強さよりも、逃げ出す事を正当化できる強かさだと思いますよ?

 

「・・・茶番劇の役者に求められるのは道化役としての能力。

 道化に一番向いているのは、勝っても負けても笑い話で済む人物。

 そして、お祭りで人気が出やすい皆の人気者と言えば・・・愛らしい見た目だけしか見てもらえない・・・・・・『パンダ』。

 そして、女子校に通う唯一の男子生徒である貴方は・・・・・・『学生パンダ』なんです・・・・・・」

 

 

 

 空気が凍りました。

 もしくは、時間が止まりました。

 誰も言葉を発しません。

 誰も言葉を発せません。

 ただ皆一様に・・・・・・織斑さんから視線を外します。

 誰一人として直視しようとする人はいません。

 だって、見てしまえば・・・・・・哀れみを隠すことなんて・・・出来るはずがありませんから・・・・・・。

 

 ・・・・・・うん。

 この沈黙・・・辛すぎますね。

 とりあえず、助け船か何かないものでしょうか・・・?

 たとえば、クラス代表の座を織斑さんと争いたいと思うパンダ志望・・・・・・げふんげふん、失礼。

 勇気ある戦乙女は、どこかに居られませんかー?

 

「ーーオルコッーー」

「辞退しますわ。

 是非とも、織斑さんにやっていただくべきでしょう。

 そうすれば皆、万々歳で満足できますし」

 

 あ、あれー・・・?

 お、おかしいですね・・・確かこの作品、ハイスピード学園バトルラブコメで、ヒロインたちも全員IS操縦者なんですよ、ね・・・?

 IS操縦者同士の絆の深め合いって、バトルじゃ・・・ないんです、か・・・?

 ここで二人が戦わなかったら織斑ハーレムはどうなってしまうんでしょうか・・・?

 

 ・・・もしかして・・・

 

 ・・・私・・・・・・やっちゃいました・・・・・・?

 

「・・・・・・よし、こうなったら仕方ない。

 本当はこんな形にしたくはなかったが・・・こうなった以上は他に手がないから仕方ない。

 織斑。異住と決闘しろ。

 それで負けた方がクラス代表者だ」

「「・・・・・・はい?」」

 

 今度は私も声を出しました。

 織斑先生が、ものすっごくイヤそうな表情で、ものすっごくイヤそうに言い放ったのは、あまりにもバトル作品らしくない結論でした。

 

 負けた方に押しつけられる栄冠って・・・そんなバトル作品、いったい誰が読みたがるんですか・・・・・・

 

 と、とりあえず反論してみましょう。

 

「あの・・・私、適正もランクも最低のFなんですが・・・勝負になりますか?」

「どのみちお祭りイベントだ。ひたすら受けを狙え。そうすれば、とりあえずは他の生徒に迷惑はかからん」

「代表者は生徒会や委員会の会議に出席・・・・・・」

「発言権など無い以上、誰が出ても同じだ。

 だったら、この際パンダでもいいだろう」

 

 ・・・・・・ダメだ。完全に自棄になってる。

 これが世界最強ブリュンヒルデの出した結論・・・・・・。

 

 ・・・・・・原作の世界大会優勝者って、こんなんで良かったんですかね・・・・・・?

 

「セレニア・・・悪いが俺は・・・どうあっても、負ける訳にはいかなくなったみたいだ」

「格好良く厨二っぽいセリフを言いましたけど、それ中身は凄まじく格好悪いって自覚あります?」

「格好悪くたって良い。

 嘲われたとしても別に良い。

 だが、それでも俺はーーパンダにだけはなりたくない!」

「う、うわー・・・・・・」

 

 コレにはさすがの私もドン引きです。

 絶対、主人公が戦う理由にしちゃいけない感情ですよね、ソレ。

 なんか、すでにしてバトルもラブコメもないような・・・強いて言えば残念系とでも言えばいいのか・・・・・・

 

 とりあえず針路修正したいんですが、リセットボタンはどこですか?

 

「よし、それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑と異住はそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」

「はいっ!!」

「・・・・・・はぁ」

 

 どうやら人生にリセットボタンはないようです。

 

 凄まじい覇気を纏って凛々しく返答する織斑さん。

 覇気どころかやる気もなく、溜息で返事をする私。

 両者の間にはエベレストよりも高いーーテンションの落差があるのは誰の目にも明らかだった事でしょう。

 

 

 こうして、IS学園初の代表者の地位を押しつけ合う為の決闘が、正式に認められてしまったのです。

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・コレ、本当に《インフィニット・ストラトス》?

 

つづく


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