IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート) 作:ひきがやもとまち
眠気で辛いので休日をフルに使って書くつもりです。
なので、今回はセレニアとラウラの母娘デート回です。
夜から書き始めて三時間足らずしか書いていないので短い上に内容も薄いです。
次回(番外編)はちゃんと書くぞーっ!
注:今話は原作4巻を基にしたオリ回です。原作との繋がりはなく、
セレニアの口撃もほぼ0です。
空は、こんなに青いのに。
風は、こんなに暖かいのに。
太陽は、とっても明るいのに。
どうしてーー
「どうして私は、こんなにも死にたくなっているんでしょう・・・」
気分壮快とは真逆のテンションゆえにか、思わず心の中で皮肉な替え歌を歌ってしまいました。
ああ、死にたい。死んでしまえば楽になれるのに、死ねない。
死ねないって辛い。辛すぎる。いっそ死にたい。
何が辛いのかって? そりゃ決まってますよ。
ーー周囲の人々が私たちへと向ける可愛い生き物を愛でるかのような、至福を噛みしめている視線が死ぬほど辛い・・・。
「・・・? どうされたのですか、お母様?
ーーもしかして、ラウラとの『母娘デート』は楽しくないですか?」
ーーああ、ダメだ。て言うか、ムリだ。
うるうるとした円らな瞳は、まるで捨てられた子犬に上目遣いで見つめられているかのように錯覚させられます。
そんな彼女を突き放す事は私は生涯できそうにない。むしろ、できなくていいです。
現在進行形で碌でなしの私ですが、せめて人でなしにはなりたくありません。
「・・・そんな事ありませんよ、ボーデヴィッヒさん。
娘との母娘デートが楽しくない母親なんて居るはずがないでしょう?」
「・・・! わ、私も! 私もすっごく楽しいです、お母様!!
お母さんとの母娘デートを楽しめない娘なんて、この世に存在しません!」
いや、居ますよいっぱい。多分ですけど。
この世どころか日本の東京都に限定しても千単位は余裕で行けるんじゃないですかね?
たとえば私の実妹とか。
ーーなどと言う夢のない話を夢見る乙女な愛娘に伝えられるはずもなく、伝える必然性も意義も存在しない。
私は笑顔(デフォルトで無表情な為あんま変わりませんが)で、ボーデヴィッヒさんの頭を優しく撫でてあげながら、静かに諭します。
「そうですね。母娘デートは日本の伝統芸能ですし、古来から日本人の母娘は仲が良かったのでしょう。
ですから、私たちもずっと仲良しですよボーデヴィッヒさん」
「お母様!(にぱぁっ♪)」
彼女にぎゅっとしがみつかれた事で、さらに優しさが増す周囲の視線。
辛い。辛すぎる。
いい年したオッサン(前世と通算した場合です)の私が、何故こんな暖かく見つめられなければいけないのか・・・。
おそらく、のほほんとした笑顔の裏でいろいろと隠している、のんびり悪魔の謀略にはめられたのが全ての要因だったんでしょう・・・。
それは、今から三日ほど前のことですーー。
「ねぇねぇ、セレりん。セレりんってさぁ~、
ラウラんと『母娘デート』しないの~?」
「・・・本音さん、あなた多分疲れてるんですよ。家に帰ってゆっくり休んでからお話ししましょうね?」
「いやいやいや! 病人扱いは止めてくれないかな!? めっちゃ健康だよ私! むしろ寝過ぎが原因で健康すぎてるよ!」
「病人は皆そう言うんですよ」
「健康でも言うわ! むしろ言わない人なんて世界中探しても居ないんじゃないかなっ!?
ーーあっ! さてはセレりん、私の話を聞く気ないね!」
ちっ、バレましたか。もう少しで誤魔化して有耶無耶にできそうだったのに・・・。
まぁ、バレたからには仕方がありません。話を聞かざるを得なくなったので、大人しく身体ごと彼女に顔と話題を向けます。
「なんなんですか? その『母娘デート』って。
初めて聞いたような気もしますし、聞いたことがあるような気は無きにしもあらず・・・?」
「どっちなのかな・・・? ま、いいや。
ダメなセレりんの為に、のほほんさんが特別に教えてあげよう。耳の穴かっぽじって、よーく聞きたまへ~。
『母娘デート』って言うのはねぇ~、呼んで字のごとくお母さんと娘さんの二人だけでデートすることなんだよ!」
「いや、それは名前を聞けば分かりますけども。
そう言うことではなくてですね。具体的に何を目的として何をするのかについて聞きたいわけでして」
「え? 普通に二人でプール行ったりショッピング行ったりカフェでお茶したりするだけだよ?」
「まんまじゃないですか・・・」
それ、母娘である必要性なくないですか? 別に、彼氏でも友達でも誰でもいいような気がしますが・・・。
それと、なぜに「母娘」限定? 「父娘」とか「父息子」あるいは「母息子」じゃダメなの?
「チッチッチ。分かってないなぁセレりんは~。
女の子同士でやるからこそ意味があるんだよ? 男の子が混じっちゃったら恋バナもできないよ?」
「母と娘で恋バナしてどうするんですか・・・。何の解決も進展もしない上に、出会いすらもない。ーーそもそもお母さんは、女の「子」じゃないと思うんですけど・・・」
「え? セレりんは、お母さんで女の「子」だよ?」
「・・・そうでしたね。忘れてましたよ」
正確には忘れていたかったです。黒歴史よりも質悪いですよね。
今を生きるこの時間こそが忘れ去りたい黒歴史って、ターンエー超えましたよ私。悪い意味で、ですけども。
「と言うわけなので。セレりんは今度の休日にラウラんと母娘デートすることに大決定いたしましたぁ!
みなさん拍手~。どんどんぱふぱふ~♪」
「いや、行きませんて。私、行くなんて一言も言ってませんし。
そこ。勝手に口笛吹かないように。そこの人も紙吹雪を作り始めないでください。
ちょっと? なんで貴女はお守りを売りに来てるんですか? はい? 実家が神社で不況がたたって参拝客が少ない? 貴女がそのお守りを所持していなさい。
おい、ちょっとそこのイギリス代表候補生。背中に隠した薄い本を差しだしなさ――ああくそっ!逃げられたっ! くぅ・・・、もう少しで校内に出回っている「百合母娘」の原本が差し押さえられるチャンスだったのに・・・!」
「セレりんも随分と、うちのクラスに染まったもんだよねぇ~。
うんうん、良きかな良きかなぁ」
いや、良くないですから。全然良くないですから。
混沌としてるじゃないですか、このクラス。完全な治外法権になってるじゃないですか。これ以上ないほどにカオス化してるじゃないですか。
「お母様! 日本の伝統文化に「母娘デート」という素晴らしい物があるとのほほんから聞いたのですが、本当なのですか!?」
「・・・卑怯ですよ、本音さん。親の問題に娘を持ち出すのは」
「聞こえな~い。聞こえないったら聞こえな~い♪」
このタヌキめ・・・。もう貴女のことを、のほほんさんだなんて絶対に呼んであげませんからね。
貴女なんて「ほんわかさん」で十分です。笑顔と別のナニカが同居している「変猫」の登場人物ほんわか様から取りました。ピッタシです。
・・・あれ? そうすると私の立ち位置が副部長の「マイマイ」に・・・。
「行きましょうお母様! 二人っきりで母娘デートに! 絶対に楽しいです!
あ、いえ違うんですよ? 別にデートが楽しいというわけではなくてですね!
・・・お、お母様とのデートが楽しいのは絶対だからと言いたいだけでして・・・その、あの・・・。
だ、だからその~・・・あうあう」
「「「・・・・・・・・・(ぽわ~ん)」」」
クラス中がボーデヴィッヒさんへの愛に染まっていくのが実感できます。ついでに私の選択肢が、がりがり削られていく音も聞こえてきました。
・・・これ既成事実化されてません? この状況で断るのって不可能じゃないですか? どう考えても選択の自由が与えられていませんよね?
「さぁ、セレりん。決断を!」
「・・・・・・・・・・・・・・・行きます」
「わぁ~い!やったぁっ!! お母様との初母娘デートだぁっ!
お母様に日頃のご恩をお返しするぞぉ~!おーっ!!」
「セレりんの責任重大だね?(にまにま)」
「・・・・・・(いつか泣かす)」
ーーと、そんな事があってから三日後の今日。
私たちは母娘の二人は、のほほんさん改めほんわかさんお手製の「母娘デートの定番コースマニュアル」を片手に、こうして街へと繰り出したわけなのですがーー。
『開業記念! 第一回ウォーターワールド水上ペアツイスターゲーム大会開催中! 参加者は女性限定。美しい人大歓迎。
小さくて可愛らしいお嬢さんには参加するだけで豪華景品をプレゼント! 皆さん奮ってご参加ください』
「帰りましょう、ボーデヴィッヒさん。此処は地獄ですよ」
「見てください、お母様! あっちの男がお母様へ渡して欲しいと貢ぎ物を渡してきました! さすがはお母様です!
えっと、中身はーーダイヤの首輪?」
「返してきなさい。今すぐ、即刻、早足で」
『子供服セール中!試着もできます。
小さなお子様をお持ちのお母様方に良いお知らせです。ただいま当デパートでは子供服専門の読者モデルを募集しております。採用されたお子さんには、いずれ芸能業界へと進められるようプロダクションのスカウトマンが審査員を担当します。
うちの子が世界で一番かわいいと信じる貴方。ご参加をお待ちしております』
「帰りましょう、ボーデヴィッヒさん。此処から先は地獄です」
「見てください、お母様! あの店の店長が売れ残ったからと服をこんなに! ぜひともお母様と私の二人で着てみて欲しいとのことです。
えっと、この服は・・・ウサミミとブルマ?」
「返してきなさい。あと、今すぐ通報もしておくように」
『本日開店。ロリメイド喫茶「チビクルーズ」
可愛らしいメイドさんや執事さんと過ごす憩いの一時。貴方も一緒に楽園へと参りませんか?
アルバイト募集。採用条件:外見年齢12歳未満。実年齢は不問。
バストサイズが86センチ以上、身長は145センチ以下だった場合は問答無用で採用決定』
「帰りましょう、ボーデヴィッヒさん。此処は地獄よりも質が悪い」
「見てください、お母様! あの店の店員たちがお母様にお渡して欲しいとこんな手紙を! さすがはお母様です!
えっと、内容はーー「help」?」
「お巡りさーーっん!!」
「つ、疲れた・・・」
おかしいですね・・・普通デートってこんなに波瀾万丈な物でしたっけ・・・? なんか色々と危険な臭いしかしない場所しか行ってないんですけども・・・。
「お母様! 「くれーぷ」という物を買ってきました! 甘いデザートだそうです。一緒に食べましょう!」
最初から最後まで騒動の中心にいるにも関わらず、一切疲労の色を見せないボーデヴィッヒさんは流石に代表候補生です。これなら何時何処にお嫁に出してもやっていけるでしょう。
早く相手を捜してあげて幸せにしてあげたいです。そして、お役御免になった私は適当にのたれ死にます。
一度死んでますし死ぬのは慣れてますからね。
「ん? これってミックスベリー味ですよね?
あのお店は確か「ミックスベリーを食べると幸せになれる」というおまじないがあると噂されていた・・・」
ですが実際にはミックスベリーは店頭で扱っておらず、ストロベリーとブルーベリーの二つを、二人で一緒に食べることで幸せになれるという良いお話タイプの情報戦略でした。
一度だけ更識会長に誘われて来たことがあり、その時に宣伝用ポスターの表記と扱っている商品の矛盾から「広告詐欺です」と指摘し、店主の方が職務質問されてからと言うもの噂は途絶え、今の今まで忘れていたのですが・・・。
「それに前よりも美味しくなってるような・・・」
一口なめた後、もう一口を今度は齧ってみましたが、やはり美味しい。スゴく美味しいです。
以前来たときには、ジンクスによる宣伝効果に頼りすぎて味の低下が著しくなっていたと聞きました。驕り高ぶった末にポスターにまで書いてしまったと、深く反省してらっしゃったのを覚えています。
「あの屋台の店主からお母様にお渡しするよう頼まれたのです。
それと、伝言が。「本気を出した俺のクレープは、ジンクスなんかに頼らなくても人を幸せにできるんだぜ」との事ですが、どういう意味でしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
思わず私は屋台の方へと視線を向けましたが、タイミングが悪かったらしく別のお客を相手にされていて店主さんの顔を見ることは叶いませんでした。
まぁ、正直に言うと反省の態度などは覚えていますが顔の方はちょっと・・・。割と平凡な顔立ちでしたし。
なので、かつての彼が奮起して持ち直したのか、あるいは彼から話を聞いた別の誰かが新たな情報戦略を始めた結果なのか、どちらであろうとどちらでもなかろうと、私には意味がない。
だって、覚えていない私には“わからない”ですから。
覚えていないのは知らないのと同じ。知らないことを疑って真実に行き着いたとしても、実証できない限り真実にはならない。
それならば、今の私にとっての真実とは「あの店の出すミックスベリーは美味しい」これひとつだけです。
他の商品は食べていないので知りませんし、分かりません。もしかしたら、美味しいのはミックスベリーだけかもしれない。美味しい商品だけを渡して店の評判を高めたいだけなのかもしれません。
でも、ミックスベリーだけは確実に美味しい。
それだけは紛れもない真実であり、私にとっては誰に否定されても信じ抜く価値がある情報でもあります。
「お母様、こっちのチョコバナナフルーツデラックスもお食べになってください!
はい、あーんです♪」
「多いですね! つか、デカいんですけど!?
ーーはぁ、なんかもう、どうでも良くなってきましたよ。
あーん。・・・ん、美味しい。ボーデヴィッヒさんもどうぞ。はい、あーんです」
「有り難うございます、お母様!
あ~んむ。・・・むぐむぐ、もごもご」
「ほら、口の周りにチョコが付いたままになってますよ。拭いてあげるからジッとしていなさい。
ーーん、服の袖口に付いちゃいましたか。まぁ、帰ってから洗えば落ちるし別にかまわなーーちょっとボーデヴィッヒさん! 人の手元を舌で舐めるのはやめてください! 人が、人が見てますから!
ああ、ちょっと待って! そこはダメですってば! 唇の周りを舐めて綺麗にするのは色々とまずーーんんぅっ・・・」
後日談になりますが。
「百合母娘」は夏のコミックマーケットにおいて記録的大ヒットを出し、全国の同人誌専門ショップで取り扱われる運びとなったそうです。
つづく
注:最後の一線は超えておりません。