IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート) 作:ひきがやもとまち
主な執筆時間である深夜が最近眠くてしょうがない、布団の魔力に負けまくりです。
それと、プライベートで色々とあって気分がささくれ立つことが多いんですよね。そういう時にセレニアを書くのは嫌です。彼女を悪意で汚したくないので。
明日は休日ですし頑張って更新できる範囲で更新していきたいです。
なお、けっきょく福音戦は二つに別けました。
今回が会議編で次回が決戦編です。
戦えないセレニアが主役だとこうせざるを得ませんでした。すみません。
あと、今回のセレニアはちょっとだけ保身的です。
「では、現状を説明する。
二時間前、ハワイ沖で試験稼働中にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。監視空域を離脱したとの連絡があった。
その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することがわかった。時間にして五十分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった。教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう。
ーーそれでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」
「はい。確認しておきますが、それは学園上層部の独断ではなく、本当にアメリカ・イスラエル両国政府からの正式な要請なのですか?」
「え? そこ聞くの・・・?」
凛々しい表情で授業をするように語っていた織斑先生が意外そうな声を出して意外そうな表情をします。唖然としていると言うよりもポカンとしていると言う表現が似合いそうな間抜け面です。
・・・そんなに意外な質問でしたかね?
条約違反の軍事使用を前提として開発された新型ISの撃墜を他国に要請するなんて普通ならあり得ませんし、何らかの思惑が絡んでいると見るのが一般的な気がするんですが・・・。
「えっと・・・、すまん、そこまでは確認していない。学園上層部からは指令内容と目標ISの詳細データのみが送られてきただけで、それ以外は何も・・・」
「・・・バカですか? 確認なしで他国の機体と交戦させる気だったんですか? 最悪、学園上層部のパワーゲームに利用された挙げ句に捨てられますよ?
それと、対処せよとの事でしたが、それは撃墜せよと言うことですか? それとも撃退ないし無力化ですか? あるいは救援が来るまでの間足止めをする遅滞防御せよと言うことでしょうか?
あまりにも大雑把すぎて判断しかねるのですが」
「え、あ、えー・・・と。・・・どれなんだろうな・・・?」
「はぁ・・・」
この人は・・・。
この状況をモンド・グロッソと同一視してやいませんかね? 試合と違って対処する=戦って倒す、ではないんですけども・・・。
ひょっとして、初見時のボーデヴィッヒさんの人格に偏りがあったのは、この人が教官を務められたせいとかではないですよね?
ーーまぁ、今は別方向に偏りすぎていますけども・・・。
「それと、機体の暴走とのことでしたが一応はまともに機動している以上、事前に入力されていた、なんらかのプログラムの元で動いていると見るべきだと思うのですが、それについては?
最低でも敵の目的が奈辺にあるのか知らないと作戦も何も立てようがありません」
「そ、それについては何も知らされていない。ただ、スペックデータと対処命令が送られてきただけでだな・・・」
「何を考えてるんですかアメリカとイスラエルは・・・。
敵の作戦目標も教えてこないで何をどうやって対処しろと言うんです? 今現在はこちらに向かっているとしても、一秒後には真逆の方向に進路を変える可能性だってあるでしょうに。
ーーそれとも、アメリカは日本とIS学園の疲弊でも狙っているんですかね?」
「あり得る話だねぇ。なにしろ、こちらの出撃メンバーは一人を除いて軒並み代表候補生で専用機持ち。おまけにメンツにはアメリカ代表候補は入っていない。
戦力分析には理想的な状況だ。いっその事、どれか一機でも落ちてくれたら万々歳だろう。ヤーボどもの考えそうな事だよ。くっくっく」
簪さんがイヤな感じに嘲ってます。戦争が好きそうな笑顔です。
・・・本当に、これ更識会長になんて言い訳すれば・・・。
「そ、それらに関しても照会してみないことには即答することは出来ない。ただ、指令書に書いてあったのは先程述べた内容と敵スペックだけで、それ以外は何も聞かされていないし聞いてもみなかった・・・」
「子供のお使いですか、貴女は・・・。
言われたことを言われたとおりにやればいいのは子供と一兵卒だけです。作戦を指揮する立場にあるのなら、まずは作戦に関する情報を集めなさい。敵機の情報収集なんて分析班に任せておけばいいんですから。指揮官は指揮官にしかできないことをやるべきです。
指揮下に入る生徒たちの安全を確保するためにも指示内容を吟味するぐらいはして当然でしょうに・・・」
「い、いや、その・・・私はあくまで操縦者の世界王者であって、別に指揮官として部隊を率いた事があるわけでは無くてだな・・・」
「じゃあ、なんでこの場で指揮権を握ってるんですか、貴女は・・・」
「・・・・・・山田先生、指揮権を委譲します。後のことはお任せしますので、どうか宜しく」
「え、えええええぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」
自分には出来ないからって責任放棄しやがった!
最低だ!最低の指揮官だ!なんでこんなのを寄越したんだIS学園上層部!
戦わないブリュンヒルデはただのダメな大人だった!!
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
ああ、皆さんが織斑先生に向ける視線が冷たい。虫を見る目になってます。
いったい、どこまで堕ちる気なんですか世界最強・・・。もう後がない・・・いや、今更ですか。
じゃあ、もういいや。
何はともあれ、無い物はないので無い物ねだりは早々に諦めざるを得ません。限られた情報だけで一番マシな作戦を考えなくてはいけなくなりました。それぞれが考える作戦のために必要な質問をし意見を出し合います。
まさに戦争ですねぇ~(やけくそ気味)
候補生たちからの質問一番手はオルコットさん。
「指揮官代理、目標ISの詳細なスペックデータを要求しますわ」
「あ、は、はい!わかりました。ただ、これらは二カ国の最重要軍事機密です。けっして口外しないでくださいね? 情報が漏洩した場合、皆さんには査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がーー」
「晒してしまった以上、情報は何処かから必ず漏れます。なので、漏れてもかまわない程度の情報しか向こうも送ってきませんよ。
少なくとも武装にはデータにない物があるという前提の上で作戦を練るべきでしょうね」
「ううぅ・・・私の立場っていったい・・・」
半泣きになりながら山田先生はコンソールをいじってデータを呼び出します。
提示されたデータを見ながら候補生さんの方々が相談をはじめました。
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型・・・わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」
「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ。しかも、スペック上ではあたしの甲龍を上回ってるから、向こうの方が有利・・・」
「この特殊武装が曲者って感じはするね。ちょうど本国からリヴァイブ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しい気がするよ」
「ーーとのことだが、君の意見はどうかなマルグリット?
第三者である素人の考えも聴いてみたい」
オルコットさん、凰さん、デュノアさんの順で意見を交わしあっていたら、なぜか簪さんが私にお鉢を廻してきました。
そのニヤケ面殴りてぇ・・・。
それから、そんな期待に満ちた目で私を見ないでくださいボーデヴィッヒさん。一般人に候補生の相手は無理ですから。知識面でも完敗ですから。
・・・だからと言って、母を敬愛する娘の期待をガン無視できるだけの度胸と頑丈な胃は持ち合わせていないわけで・・・もう、破れかぶれです。
「ーー資料にある多方向同時射撃ですが、おそらくこれは自分の周囲に小粒弾頭を撒き散らして攻撃する、いわゆるクレイモア地雷と似た兵装ではないでしょうか? これならば僅かなエネルギー消費量で周囲全体を攻撃できますし、回避に集中せざるを得ないので反撃の心配もありません。
なによりも「相手の意表を突く」という戦術の基本に則っているので“試合用”ではない“軍事用”と誇称するには相応しいのではないかと。
それに、もともとアメリカ軍が開発した兵器ですしね、コレ」
ボーデヴィッヒさんの一件以来、私も必要に迫られた為に仕方なく図書館で戦史のライブラリーを流し観してきました。その中にあったのがクレイモア対人地雷です。
対歩兵用の上に設置式であり、ISが誕生して以来見向きもされなくなって久しい兵器ですが、実際のところ発想としてはまだまだ現役です。むしろ、超有効です。
この世界の人たちは、どうにもモンド・グロッソばかりに目を奪われているのかIS戦を決闘と勘違いしがちですが、決闘が戦場でおこなわれていたのは何百年も前のことで、今の時代にもし戦争が起きたら決闘なんてあり得ません。
戦争をする以上、IS条約も無効になります。ISを使って戦争を始める時点で、条約なんて守る気は欠片もないでしょうから。
だからこそ、軍事用、つまりは「戦争が起きた場合」を想定して造られたISは、もはやマルチフォーム・スーツではなく人を殺すための兵器です。兵器は敵を殺せればそれでいいんです。
「クレイモア地雷って・・・対人地雷禁止条約に引っかかりまくってんじゃないの!」
「対人ではなく対ISですからね、問題なしです。IS条約にも明記されておらず、禁止事項には引っかかりません」
「・・・っ。だからって・・・!」
凰さんから怒りをぶつけられますが、私に言われても困ることしかできません。条約を決めたのも破っているのも私ではないので、何とも答えられませんし。
・・・あと、その条約に加盟してない上に対人地雷保有しまくってる中国の候補生にだけは言われたくねぇ・・・。
「まぁ、あくまでも仮説に過ぎません。今の時点で語り合うことではないでしょうが、とりあえず合っていると仮定して話を進めた場合ですが、回避困難な武装であり有効射程もそれなりにあります。接近戦は避けるべきでしょう。
仮にこの兵装がメイン武装の場合、射撃型というのはブラフですね。むしろ、攻撃のために接近してきたところを迎撃して大ダメージを与える防御型、あるいはカウンター型とでも言えばいいんでしょうか? とりあえず、既存のISを相手にすることを前提に考えられた戦術は役に立たないと割り切ってください」
『・・・・・・・・・・・・』
皆さんが一様に沈黙に包まれます。
既存の教育を受けてこられた方々には発想の転換はし辛いのかもしれません。
こうなると、彼女たちを向かわせるのは避けるべきでしょうね。固定概念が通じない敵を相手にするのに固定概念を信じ込んでいる人はまるで向いていません。それどころか相手の固定概念を利用する戦術までインプットされている可能性すら考えられます。
私は心の中で出撃メンバーから原作ヒロイン4人を外しました。
こうなると残りはーー
「織斑さん、簪さん、それから篠ノ之博士。お願いしても宜しいですか?」
既存の教育を受けた時間が短い織斑さん、常識を無視するのが信条らしい天才の篠ノ之博士・・・そして、目的の為ならば手段を選ばなそうな簪少佐殿。これが、今回のベストメンバーでしょう。
「セレニアの頼みを断るつもりはない。
もとより俺は一本の刀。敵の首を取る以外のことは知らんし興味もない。日本の武士は寝ても覚めても突っ走ることしか頭にないものだ」
織斑さん・・・それ、いつの時代の武士ですか? 武士道が生まれる江戸時代以降にはいませんってそんな人。ただの人切りじゃん、ヤダー。
「紅椿を篠ノ之椿に改名できるだけの手柄が手にはいるなら、束さんは神様にも喧嘩を売るよ!
相手が売るつもりのない喧嘩でも買ってあげるし、気にくわない奴にむりやり喧嘩を売らせるのは束さんの十八番だから任せんしゃい!」
篠ノ之博士の快諾をいただきました。不安しか感じません。絶対に平和的な収まり方は期待できそうにない。
・・・あと、本当に認知する気なんですね、紅椿を・・・。
「ようやく観客がこっちを向いたわけだ。踊り出したら私はとことん踊り切るぞ、できるだけ楽しくね。我々が現世に帰還したことを世に知らしめるのろしとなって貰うとしようじゃないか。
ーーなにしろ私は、戦争が大好きなのだから」
予想通りの答えを返してきた人のことは省略します。面倒くさい。
「では、ご理解とご了解を得られたところで山田先生。日本政府に連絡してください。
“日本国領海内でアメリカ・イスラエル両国の新型機と交戦し撃墜する許可を頂きたい。頂けないのであれば生徒の安全と将来を守るべき教師としての義務から出撃そのものを拒否する”と。
ああ、ついでに“敵機が領海内に進入し、本土に攻撃を開始する可能性は未知数であり、対処するための準備にはいくばくかの時間が必要。最長でも二十分間しか待てない。それ以降に何が起きようとも現場では責任を負いかねる事を予め通達しておく。なお、返答は公式文書にてお願いする”も付け加えておきますかね」
時間制限は多すぎず少なすぎない方がいい。平和ボケして事件解決後の責任問題について話し合っているだろう永田町の皆様方には給料分の仕事をして頂きましょう。国民の血税で暮らしているんですから、これぐらいは当然の義務です。
責任の所在を明確にしておくのも役人を相手にする場合はセオリーです。現場に責任を押しつけられてはたまりません。
文書以外は信用できません。政治家の証言なんて何の保証になるのか。本音と建て前を使い分けて生きている連中には建前を実行せざるを得ない場所に突き落としてやればいいんですよ。いい気味です。
先生が生徒の安全を優先するのは職務上正しい。文句を言おうにも「生徒よりも国が大事」と宣言できる勇気が日本の政治家にあるのなら、アメリカに脅される形でのIS学園誕生はなかったでしょう。なによりもまず身の安全を確保するのが安全保障という物です。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
・・・やめてください、その魔王を見る目。
本当に痛いんですから・・・。
「と、とにかく準備はしておいてください。時間ギリギリに返事が届いて対応が遅れたらこっちの責任にされちゃいますから。
十分前行動は学生の基本ですよ?」
「いまさら学生っぽいこと言われても違和感しかないんだけど・・・」
「わたくし、“綺麗な手で紳士的にクリケットを行う”という言葉の意味を初めて理解できましたわ・・・」
「セレニア・・・そんなだから他クラスの子たちから“大災害”って呼ばれることになるんだよ?」
「う、うるさいですね、ほっといてください。これが私の戦い方なんですぅー。別にルール違反はしてませんー。セレちゃん悪くないもん!
ーーそれと、デュノアさん。そのお話をもう少し詳しく・・・」
「アハトォウン(傾注)!!」
・・・大事な質問の途中で邪魔された。
こ・の・戦争狂めぇぇぇぇ!!!
「諸君。無敵の新兵諸君。
我々は満身の力をこめて、今まさに振り下ろさんとする握り拳だ。我らはわずかに一個小隊、三機にしか満たぬ寄せ集めだ。
だが、諸君は一騎当千の猛者だと私は信仰している。ならば我らは諸君と私とマルグリットで総兵力三千と一人の軍集団となる。
敵に恐怖の味を思い知らせよう。世界中に我々の軍靴の音を轟かせてやろう。そして、ゼーレヴェは遂に大洋を渡り陸へとのぼり、海へと還る・・・。
大隊長殿! 第三次ゼーレーヴェ作戦、発動命令を!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・え? もしかしなくても、大隊長って・・・私?
・・・・・・マジで?
・・・・・・・・・うん、絶対に無理!
「ーーそれでは、ご命令をどうぞ。指揮官代理、山田先生」
「な、なんで私なんですかっ!? 作戦考えたのもメンバーを選出したのも異住さんですよね!? 私、何の役にもたってませんよね!? そうですよね!?」
涙目で激しく狼狽える山田先生ですが・・・すみません。私には荷が重すぎるんです。職務上、給料のうちと思って割り切ってください。
「当然でしょう? 織斑先生から指揮権を引き継いだのは山田先生であって私ではありません。むしろ、差し出口を挟みすぎてしまったことを深く反省しているところです。申し訳ありませんでした、以後は口を慎みます」
「え、ちょっと待って・・・! そ、それじゃあ私はどうすれば・・・!?」
オロオロされていますが、口を慎むと言ったばかりなので沈黙を続けます。責任追及をかわすには沈黙するのが一番なのです。
「う、うぅぅぅぅ・・・! ・・・はぁ、仕方ないので諦めます・・・。
ーーいつの間にか先輩もどっか行っちゃってるし・・・」
あ、本当だ。居なくなってます。
責任者が責任押しつけた挙げ句雲隠れするのはさすがにどうかと思いますが、今回は私に言う資格がないので黙っておきます。
沈黙の砦です。責任追及に対しては難攻不落です。
そこに立てこもる口実が手には入って良かったです。
「えーと・・・。それじゃあ、とりあえず作戦発動してくだーー」
「ジーク・ハイル!!!」
「勝利の栄光を篠ノ之椿ちゃんに!!!」
「首、置いてけぇ!!!」
「ひぃっ!?」
台詞を遮られた山田先生が悲鳴を上げました。・・・気持ちは分かりますけどね。
やる気で満ち満ちている皆さん。あるいは殺る気と書くべきなのでしょうか?
そんな彼らのやる気に水を差すのは気が引けて仕方ないのですが、これはさすがに黙っておくと後々大問題に成りかねませんので、あえて言わせていただきます。
「ーー肝心の撃墜方法について、まだほとんど話していないんですけど・・・」
『あっ』
・・・・・・戦力的には不安は皆無なのに、なぜだか不安しか感じられない戦いとは、これ如何に・・・。
つづく
最近タグに「パロネタ色々」と付け加えた方がいいか迷ってます。