IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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本当は少佐を活躍させたかったのですが気がつけば束さん一色でした。
少佐は次回に活躍させたいです。少なくともそれを目指すつもりです。


15話「逆襲したかった束」

 合宿二日目。

 今日は午前中から夜まで丸一日ISの各種装備試験運用とデータ取りに追われるそうです。

 特に専用機持ちの皆さんは大量の装備が待っているそうなので大変でしょう。

 

 まぁ、私には関係ないんですけどね。

 だって、専用機どころか量産機にすら殆ど乗ってませんもん私。

 それ以前に、一年一組で総飛行時間が十時間を超えている生徒なんて実のところ代表候補生のお三方を除けば織斑さんだけなんですよ。

 

 理由は言わずもがな。

 砲撃事件で大量の生徒が重傷を負って入院したのと、修復直後に起きた室内全力戦闘を理由に、学園側からISを使用した授業のほぼ全ての履修を許可されず、教師陣からのクレームにも断固として拒絶の姿勢を貫いたからです。

 

 当然の対応なんですけどね。

 これだけ短期間の間に大事件が連続し、学園側が何の対応もしないとか世間が許してくれません。まして国立学園です。運営費は税金から出ている以上、国民からの非難は選挙に影響しすぎます。

 

 と言うわけで、我がIS学園一年一組はIS学園生でありながらISをろくに操縦できる者がいないのに代表候補生の数は学年一という面白キャラ集団になってしまったのでした。

 

 ・・・・・・これ、卒業以前に進級できるでしょうか?

 

「ーーさて、全員時間通りに集合したようだな。

 それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え。

 ・・・最後に、異住。お前は専用機持ちと一緒の班になって貰うが、基本単独行動だからそのつもりでいるように」

「・・・理由をお聞きしても?」

「アレを見ても、同じ質問ができるのか?」

「・・・・・・すいません、愚問でした」

 

 素直に頭を下げざるを得ない私です。

 なにしろ、織斑先生の指さす先にある“アレ”。

 昨日までの時点で完成にはほど遠かったはずの更識簪さんの専用IS打鉄弐式・・・ではなくなった新型IS『ラスト・バタリオン』が偉容を誇っているのですから、そりゃあ強く出れません。完全にやぶ蛇です。

 

 しかし・・・見れば見るほど、完全に兵器ですよねコレ・・・。

 

 外見的にはガンダムに出てきたギラ・ズールに似ているところがあり、武装も酷似しています。

 マシンガン、グレネードランチャー、パンツァーファウストを標準装備。

 これに専用武装として88ミリ砲『アハトアハト』、80センチ長銃身狙撃砲『ドーラ』、本体から分離独立して遠隔操作が可能な機動砲台『デウス・ウクス・マキーナ』は追尾機能を持つ巡航ミサイル『V1改』を50発搭載。

 

 ・・・実戦仕様なんてレベルじゃねぇ・・・。

 広域殲滅型どころか地獄創世型とでも呼ぶべき化け物です。て言うか、コレひとつで世界滅ぼせません?

 

「こんな化け物を自作して所有までしている危険人物を放置するなど、本来ならば絶対に有り得ん。束と同じく国家が強制収容すべき天災・・・いや、“大”天災とでも呼ぶべきか・・・。少なくとも、フリーハンドを与えるのが論外な奴だと言うことは説明しなくとも理解できるだろう?」

「・・・まぁ、それなりには」

「しかし、今のアイツにはお前の声しか届かん。

 な・ぜ・か、昨日の夜から人が変わってしまったらしくてな。会話が成り立たないそうだぞ? お前以外には誰ともな。不思議なことが有るもんだよなぁ。

 ーーで? 理由に心当たりはあるんだろう?」

「・・・・・・断定されるのなら聞く必要もないのでは?」

「無論、嫌がらせだ。これぐらいは許せ。

 なにしろーー私にはもう、なにが現実なのか分からない・・・・・・」

 

 頭を抱えて蹲り、神と世界を呪いはじめる織斑先生。

 

 ーーうん、気持ちは分かりすぎますし、多分私のせいでもあるんでしょう。

 なので、そっとしておきます。私は私の出来ることをやるだけです。

 

 先生の心のケアは私には不可能なので、彼女の後輩で副担任の山田先生にお任せします。

 きっと期待に応えてくれると信じていますよ、山田先生。

 

「呪ってやる・・・」

 

 背後から誰かの怨嗟の声が聞こえた気がしますが、気のせいです。

 

 ーーさて、面倒ごと・・・もとい、教師として当然の責務を山田先生にお任せした私は、普段通りに候補生の皆さんが集まっている場所へと向かいます。・・・この異常な環境に慣れ始めている自分がちょっとイヤです。

 

「ああ、良かった。皆さんお集まりのようですね。おや? 今回は篠ノ之さんも一緒なんですか。今日はよろしくお願いします。

 お荷物にしかなれませんが、精一杯頑張らせていただきまーー」

 

 

 

「ね、姉さん!? ど、どうしてここに!?

 ーーあと、後ろにある、その真紅のISはどうしたんですかっ!?」

「戯けが! 儂はこうしてここに居る。何の不思議が有ろうか?

 まして儂は貴様の姉である負け犬、篠ノ之束などでは断じてない! 儂は魔王の手により殺され、そして悪魔の力でもって新人類へと生まれ変わったのだからな!

 この身を焼く業火の痛みと熱さが儂に教えてくれたのだ。この世の摂理は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬーーと。故に今の儂を今までと同じとは思わぬ事だな。儂の戦闘力は変身するごとに数十倍まで跳ね上がるぞ?

 やがて貴様等を全員倒した暁には、儂は東方不敗マスター束ではなく、真の王者・東西南北中央不敗スーパー束となってくれる!! うわっはっはっは!」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 これほどまでに今すぐ回れ右をして所定の位置へと戻りたくなったことは前世今生あわせても初めてです。

 仮に所定の位置に戻った後、山田先生から恨み節を延々と聞かされ続けるという苦行が待っていると確定していなければ、迷わずに戻っていたことでしょう。

 

 因果応報、自業自得、剣に生きる者は剣に倒れる。

 世の中とは意外と公平で上手く出来ているのですね・・・。

 

 ・・・それはまぁ、ともかくとして。

 

「ーー国家機密の塊である専用機の運用データという、外部への流失が国の命運を左右するようなトップシークレットを取得する場に部外者の侵入を許しておいて、何故平然としていられるのですか? 一応は皆さん、国家代表候補生という自国と国民の安全と利益を優先せねばならない立場でしょうに・・・。

 だいたい、その方が篠ノ之束博士なら即刻拘束すべきでは? 国際指名手配されるている身ですよ、その人」

『は!? そうだった!!

 無駄な抵抗は諦め、武器を捨てて両手を頭の後ろで組み、大人しく投降しなさい! そうすれば命だけは保証します!!』

「ちょっ、え、えぇぇぇぇっ!?」

 

 いきなりISを展開して四方から銃口を向けてきた各国候補生たちの反応に、篠ノ之さんの実姉である篠ノ之博士を自称する人物は激しく狼狽します。

 なんとなく見覚えがある気がしますが、気のせいでしょう。知り合いにこんなのが居たら、通報するか病院を紹介しているはずですから。

 

 ・・・こういう対応が一般的だと思うのですが、彼女はどういう対応を期待していたのでしょうか・・・?

 背後に見知らぬIS、おそらく彼女の最新作を従えており、ISの開発者たる彼女がどれほどの機密を隠し持っているか分からない以上、強奪及び解析、その後に待っているのが違法を承知で行われる拷問であることぐらい察せられてもいいものですが・・・。

 

「篠ノ之博士、イギリス本国までご同行願います。抵抗さえしなければ身の安全は保障いたしましょう。暖かい寝床と味のする食事もご提供致しますわ」

「捕虜待遇!?」

「甘いわねセシリア、中国だったらそんな間怠っこしい真似はしないわ。強制連行して身体の隅々まで徹底的に調べ尽くすのみよ! 脳を解剖すれば彼女の能力の一端が解明されるかもしれないじゃない。国家繁栄のために必要な犠牲だわ!」

「何時の時代の中国!? 国家社会主義だよねそれ!?」

「フランスはあんなに強引じゃないので大丈夫ですよ、篠ノ之博士。あくまでも紳士的な対応こそ貴族的で優雅で優れているという方針です。

 ーーもちろん、悪魔に魅入られた者を火炙りにするのはフランス的道徳に反しませんけどね?」

「ジャンヌ・ダルク!? ジル・ド・レェが凶行に走るから止めるべきですシャルル陛下!」

「ドイツは勝利の為なら手段を選ばない」

「ナチズム!? まさかネオナチ構成員なの!? 独裁者はイヤー!!」

 

 ・・・・・・阿鼻叫喚。そんな言葉が頭に浮かびました。

 

 ・・・て、あれ?

 

「日本はいいんですか簪さん? あのままだと篠ノ之博士が諸外国に取られてしまいますよ?」

「私は憲兵ではないよ、マルグリット。ああいう仕事は教え子であり友人でもあるゲシュタポ長官殿に任せるさ」

「ゲシュタポ長官が友人の女子高生って・・・」

 

 なにそれ、イヤすぎる・・・。

 でも、ナチズム信望者が娘を名乗ってる私も人のことを言う資格がない気がします・・・。

 

 平凡な女子高生だったはずの私はいったい何処に行ってしまったのでしょう・・・・・・思えば遠くに来たものです。

 

「ーーいい加減にせぇや、おい! 私を誰だと思ってるのかな!? 天下の篠ノ之束さんだよ? お宅の国が保有しているIS全部自爆させられたいんか!?」

「国家脅迫罪です。完全なテロ行為です。最悪の場合は銃殺も止むを得ません。幸い、最新型ISはそこにあるみたいですし、それさえ確保すれば技術的優位は確立できるかと」

『撃ち方用意! 射撃姿勢! 発砲準備良し!!』

「待ってぇぇぇぇ! お願いですから待って下さい! この通りですぅぅっ!」

 

 土下座で命乞いする篠ノ之博士。

 彼女を取り巻く武装した美少女高校生たち。

 

 シュールだなぁ・・・・・・。

 

「・・・ところで篠ノ之博士(?)、ひとつお訊きたいしたいのですが。

 ーーその格好はなんですか?」

 

 私は彼女が着ている身体にフィットした黒いコスチュームとマント、脇に抱えたノーマルスーツのヘルメットみたいな顔全体を覆う黒い仮面を・・・端的に一言で表現するならば、世界に対して反逆しそうな服装について訪ねてみました。

 趣味だ、と答えられたらどうしましょう・・・。

 

「ふふふ・・・私は世界を壊し、世界を再生するーー」

「国家に対する脅迫ではなく、全世界に向けての宣戦布告です。世界秩序を守るために危険分子の即刻排除を意見具申いたします」

「すんません、調子こきました!許してつかぁさいっ!!」

 

 これでもかと言わんばかりに土下座する篠ノ之博士。

 額を地面に擦り付けるのが通常の土下座ですが、今回のは半ば地面にめり込んでいます。

 頑丈な頭蓋骨ですねぇ。

 

「・・・姉さん」

 

 汚らわしい汚物を見る目で篠ノ之さんが自分の姉を見下しています。完全に相手を人間とは見なしていない目です。

 虫を潰すよりも簡単に、あっさりと捻り潰してしまいそうなほど冷たい目です。ちょっとだけ怖いです。

 

「そ、そうだ箒ちゃん! お姉ちゃんを助けてくれたら、この新型をあげるよ! 第四世代型IS紅椿! 私が対魔王用に心血を注いで作り上げた最高傑作にして、箒ちゃんが乗ること前提の最終決戦兵器!

 右手に持ってる『雨月』と左手の『空裂』は単一仕様の武装で打突に合わせて刃部分からエネルギー刃を放出させ連続して敵を蜂の巣に! 射程距離はなんとアサルトライフル並でーー」

「射撃すら禄に当てられない人が、打突で遠距離攻撃しても当たらないのでは? どう考えても難易度上がってますし。

 それに連射性能、速射性能どちらもマシンガンのほうが上です。引き金を引くだけいいんですからね。それなのに、兵器において極めて重要な整備性とそれに伴うコストパフォーマンスが悪い専用装備ではハンドガン以下です。なまくら包丁ですよ」

「つ、次に『空裂』ね! こっちは対集団仕様の武器で斬撃に合わせて帯状の攻勢エネルギーを放って攻撃するんだよ! 振った範囲に自動で展開するから超便利ーー」

「これだけ長いと振りかぶるまでに時間が掛かりすぎてしまって、有効射程範囲内から余裕で退避できますよ?

 振った範囲と言うことは標的が前方にいなければ効果は見込めないのでしょう? 宇宙空間での使用を想定して設計されているIS同士による戦闘は三次元機動が基本です。上下に逃げられたら掠りもしない上に、大振りで隙だらけになっては敵の射撃による反撃に対処することが出来ませんが?」

「そ、そ、それだけじゃないんだよ箒ちゃん! なんとなんと! この紅椿は全身のアーマーを天才の束さんが作ったオリジナル兵装『展開装甲』にしてあるのです! システム最大稼働時にはスペックデータはさらに倍プッシュだーー」

「消費エネルギーも倍プッシュなんて落ちだけは無しに願いますよ、ただでさえIS最大にして唯一の欠点はエネルギー効率の悪さによる継戦能力の低さなんですから。

 1体1で戦い、連戦しない事前提のモンド・グロッソならいざ知らず、通常戦闘の最中にエネルギー切れなんて起こされたら目も当てられません。動かないISなんてただの鉄クズです。敵にとっては良い的ですよ」

「ち、ちなみに紅椿の展開装甲は即時万能対応型で、攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替えが可能。つまりパッケージ換装を必要とせずにあらゆる戦況に対処出来るという現在絶賛机上の空論中のものでーー」

「机上の空論中と言うことは、運用やこの機体を用いた戦術、仲間同士の連携なども研究されてないわけですよね? 1から研究を始めるとして篠ノ之さん専用機である以上、彼女は研究機関で実験動物扱いですか?

 それと、高性能な武装は往々にして使いこなすのに高い技量が求められます。世界最高性能で最新装備とくれば、それこそブリュンヒルデでもない限り使いこなせませんけど・・・これ篠ノ之さん専用機なんでしょう? 彼女は1年で適正ランクCで実戦訓練においても特別好成績と言うわけではありませんよ?

 ーーあらゆる面で信頼性0以下じゃないですか、この新型・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 うん、これは酷い。酷すぎる。

 まさに机上の空論で最高性能を引き出せる機体を作っただけの機体。実際に使うときのことは一切考慮されていません。

 

 性能の高さこそが機体の強さと思いこんだ、典型的なMAD思想の塊。

 いくら高性能な機体でも、パイロットが性能を引き出せなければ意味がない。パイロットの特性を理解した上で作るのが専用機なのに、開発者がパイロットを数値上でしか知られないし、見てもいない。

 

 ようするに篠ノ之博士の妄想が形となった「わたしの考えた最強IS」です。完全で完璧で他に表現しようのない厨二機体です。

 

 ・・・スゴい、これほど見事な欠陥機は初めて見ました。

 本当に実在したんですねぇ・・・。

 

「姉さん・・・捨てて下さい、このガラクタ」

「箒ちゃぁぁぁぁっん!? 

 言ったよね? お姉ちゃん言ったよねぇ? この機体は心血を注いで作り上げた私の最高傑作だってお姉ちゃん言ったよねぇぇ!!

 それなのに一度も使わずに廃棄処分は酷すぎるよぉぉぉぉぉっ!!!」

「そうだぞ箒。世界に四六七機しかないISだ。それがひとつ増えたんだぞ? ただ捨てるだけなんて勿体ないじゃないか。

 折角だから俺に斬らせてくれ。一応は俺も元剣士だからな。一度でいいからISを本気で斬ってみたいと思っていたところだ」

「いっくぅぅぅぅっん!?

 IS! これISだから! 藁人形じゃないから! 試し斬りの対象にしないでくれるかな!?

 お願いだから、私の娘を傷つけないでぇぇぇっ!!!!」

 

 紅椿に取り縋り、大号泣しながら盛大に泣き声を上げ始める篠ノ之博士。

 ロボットを自分の娘と呼んだかと思えば、自分自身が戦わせるために作った機体を傷つけないでって・・・どうせいっちゅうんじゃ。

 

 もはやMADどころじゃないですよ、この人。

 完全に別世界に心を飛ばしてしまってます。ヒッピーです、お医者さんを呼びましょう。そして精神病棟に隔離して長期治療です。それしかありません。

 

「・・・なにを騒いでいるんだお前たちは・・・。

 迅速にテストの準備をしろと言っておいたはず・・・ん? そこで泣いているのは束か? そんなコスプレまでして、なにをやってるんだお前は・・・」

「ちいちゃぁぁぁっん! 酷いんだよ! みんなが酷いんだよ! 私の作った最新型のISが傷ついても良いって言うんだよぉぉぉっ!!」

「・・・? ISは傷つくことが前提だぞ? 傷付けたくないなら博物館にでも寄付すればいいじゃないか」

「やだいやだいやだい! 私はこの子とずっと一緒にいるんだいっ! 誰にも渡さないんだいっ! 紅椿ちゃんはいつまでも私の物なんだからぁぁぁっ!!」

「・・・さっき、篠ノ之さんが乗ること前提の専用機って言ってませんでしたっけ?」

「篠ノ之家の恥曝しめ・・・!」

 

 もはや幼児退行までしてしまったようですね。本格的に入院が必要でしょう。

 

「バカを言ってないで、早くその新型を篠ノ之に渡してフィッティングとパーソナイズをしてやれ。どうせ、その為に不法侵入してきたんだろう? 早くやることやって、とっとと帰れ。侵入者を放置すると監督している私の責任になるんだ。これ以上減棒されて堪るか。

 ーーなによりも、昨日から公安が旅館内部で探している不審者ってお前だろう? 見つかったら間違いなく収監されて二度と太陽の光を見れない場所に幽閉されるぞ」

 

 なにそれ、怖い。

 同じ現代日本なのに、この差はいったい・・・もしかして、あっちの日本にもそういう施設がーーうん、私はなにも気づいていないし考えついてもいない。いないったらいないんだい。

 

「やだやだやだーっ! 私にはもう、この子しかないもん! この子以外はいらない、この子だけ居てくれればいいの! この子さえ居てくれれば他は何にもいらないの!

 紅椿は束さんだけの物なのぉぉぉぉぉぉっ!!!」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 ここに来て、まさかの独占欲発揮。しかも人のために作った機体に感情移入しすぎて。

 これは・・・新しいには新しいけど・・・誰得なんですか? と言うか誰か得するんですか?

 

 まったく需要のない成人女性の自作に対する異常な愛憎劇。

 なんとも気不味い雰囲気を破ってくれたのは、担任よりも頼りになる我らがクラスの副担任山田先生です。

 

「たっ、たっ、大変です! お、おお、織斑先生っ!

 特命レベルA、現時刻より対策をはじめられたし・・・・・・」

「しっ。機密事項を口にするな。生徒たちに聞こえる。手話で話すんだ。

 ・・・・・・なるほど、了解した。山田先生は他の先生方への連絡をお願いします。

 ーー全員、注目!」

 

 与えられた指示を伝えるために走り去っていく山田先生の後ろ姿が見えなくなった後、織斑先生はパンパンと手を叩いて私たち生徒の視線を集めます。

 ・・・隣にいる篠ノ之博士のおかげで端から視線が集中していましたけどね。

 

「現時刻よりIS学園教員は特務任務行動へと移る。今日のテスト稼働が中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内で待機すること。以上だ!

 ーーおい、異住。どこに行く気だ?」

「・・・はい? いえ、今ご自分で各自室内待機と仰られたじゃないですか」

「この非常事態にお前を室内になど待機させたら何が起きるかわからんだろうが。

 束は何をやらかすかわからん天災だが、お前は何をしても大規模破壊を散蒔く、自由意志で歩行して爆発する核弾頭だ。まだ天災の方が被害を防止しやすいくらいだぞ」

「そこまで言いますか・・・」

「はっきり言おう。お前と世界だったら、私は世界と戦う方を選ぶ。

 世界という敵は形を持ち、刀が通じるが、お前はなんだかよく分からん。

 切れる切れない以前に、切ろうとして近づいたら空からビームのゲリラ豪雨が降ってきて、足下からは大噴火が起きたとしても私は驚かん。今までの件で、お前は何でも有りなんだと言うことが身に染みてわかった」

「いや、さすがにそれは起きないでしょう。どんな天変地異ですか、それ?

 むしろそれは世界最後の日では?」

「君が望むというならばマルグリット、私と大隊諸君が世界を終わらせて来ても構わないよ? 君と比べれば世界など塵芥に等しい価値しかないのだからね。

 ああ、ああ、マルグリット。君の足跡だけで満足していられた嘗ての日々が、今はただただ信じられない。理解できない。君が目の前にいるのに、こうして近くに寄れるのに、手を伸ばせば触ることすら可能なのに・・・一体どうして足跡だけで満足できるというのだろう? それは遙かなときの中で悠久の時間を生きてきた私にとってさえ、我慢できない地獄の苦しみ。ああ、ああ、ああーーマルグリットぉぉぉっ」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 なんか、オペラみたいなことを無表情に言い出し始めましたよ、更識妹さんが。

 しかも織斑先生が「ほらな?」と言いたげな視線で私を見据えてきます。ぐぅの音も出ません。完全に可笑しな物を呼び起こしてしまった自覚が今回はありすぎますから。

 

「分かりましたよ・・・。大人しく先生方に追随すれば宜しいのでしょう?」

「よし。言質はとったからな? 後から色々言ってくるなよ? ブリュンヒルデは世界最強IS操縦者にすぎず、魔王と戦うことを運命づけられた選ばれし者じゃないからな?

 ーー専用機持ちは全員集合しろ! 織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰!

 それと、篠ノ之もこーー」

「ちいちゃん! 私も! 私も参加させてほしいんだよっ!」

「・・・部外者はお引き取り願いたいのだが」

「イヤだよ! このままじゃこの子と離ればなれになっちゃうもん。そんなのイヤすぎるよぉ!! 私は手柄を立てて紅椿の所有権を勝ち取るんだい! 勝って我が子を魔王の手から取り戻すんだい!」

「誰ですか魔王・・・て、織斑先生、なぜそこで私の方を見るんですか?

 それになんだか、「またやったのか」的なニュアンスを視線から感じられるような気がするのですが・・・?」

「気のせいだといいな」

「否定してくれないんですね・・・」

 

 嘆息しつつ周囲を見渡すとーーうおぉい、篠ノ之さんがフェードアウトしちゃいましたよ。メインヒロインが原作の重要イベント(だと思います)で、まさかの途中棄権ですよ。

 予想外の原作崩壊です。むしろ、これを予想するって無理じゃね?ってレベルです。

 

 ・・・・・・おい、本当にどうすればいいんだこの状況・・・?

 胃がどうとか言ってられないほど凄まじすぎるんですけども・・・。

 

「マルグリット、マルグリット。ああ、ああ、マルグリットぉぉぉぉ」

「待っててね紅椿ちゃん、お母さん頑張るからね! 絶対に親権を他人になんか渡したりしないんだから! 死んでも貴女だけは守ってみせるんだから!」

 

 よく分からないメロドラマを繰り広げている、よく分からない二人の原作キャラ。

 そして、自主的に重要イベントの参加を辞退したメインヒロイン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《インフィニット・ストラトス》のジャンルって・・・なんでしたっけ・・・?

 

つづく




まさかの束加入フラグが建ちました。もう何でも有りです。
むしろ福音が可哀想な気がしてきました。少佐と天災と魔王が相手だもんなぁ・・・。
勝つイメージが沸くはずも無し。

と言う訳で次回は福音を一方的に蹂躙します(^^♪

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