IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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最近、他の方のIS作品を読んでいるうちに私もISバトルを書きたくなりましたが
今作でそれをやる気には絶対になれず、じゃあもう一本IS書こうと思い、
主人公にボトムズのロッチノ大尉をあてて書き始めたら
誰が彼を知ってるだろうか?と疑問を抱き、こちらを二本書くことに時間を注ぎました。


11話「ルームメイトが新妻と愛娘になった件」

「・・・ただいま戻りました」

「お帰りなさいませ、お母様! 今日も愚かな愚民どもに裁きの鉄槌を下してきたのですね。お疲れさまです!」

「お帰りなさい、セレニア。ご飯にする? お風呂にする? そ、それとも・・・ボク・・・かな・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 ・・・・・・なぜ、このような事態になってしまったんでしょうか・・・。

 

 数日前まで快適で孤高な一人暮らしを満喫させてくれていたニートの楽園IS学園寮の自室に、今では子供が母親に甘えるように私にしがみ付いてくるボーデヴィッヒさんと、新妻のように三つ指ついて私を迎えるデュノアさんが我が物顔で・・・いえ、家族顔で居座っています。

 

 まさに悪夢の如き光景です。

 頭痛を感じて思わず頭を抑えましたが、よく調べたらやっぱり胃痛でした。もうお約束になってきましたね。

 

(・・・あの時の私はなにか間違った選択をしたのでしょうか? この作品、ラブコメのくせにムリゲーすぎでしょう・・・)

 

 この悪夢は三日前の保健室から始まります・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に、織斑さんに倒されたボーデヴィッヒさんが気絶してます。

 

 ヴァルキリーなんとかいう謎なシステムから解放された際、ラブコメゆえにか全裸で放り出され、そのままの姿で床に放置されています。

 

 ・・・なんか、言葉にしてみると酷すぎますね。ヒロインに対して以前に女の子にしていい対応じゃないでしょう、どう考えても。完全に陵辱系エロゲの主人公じゃないですか織斑さん。

 

「あー・・・、異住。その、なんだ・・・ボーデヴィッヒを保健室に運んでやってくれるか・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」

 

 今日ばかりは織斑先生の言葉に否は唱えられませんでした。

 だって、ボーデヴィッヒさんが女性としての恥をさらしている原因・・・ではなくとも遠因は私にあるわけですから。・・・たぶん。

 このまま放置するのも人任せにするのもどうかと思い引き受けましたが、即座に後悔しました。

 

 体重も身長も私よりボーデヴィッヒさんの方が上だったのです。

 なんと言うことでしょう、これでは持てません。持ち上げられなければ運べないじゃないですか・・・っ!

 

「・・・おのれ原作、なにがロリキャラですか、私よりも5センチくらい高いじゃないですか。どう考えたって理不尽すぎでしょう。彼女がロリなら私はなんだと言うんですか・・・っ!」

 

 自分の低すぎる身長と、それとは真逆に大きすぎる胸が最大にして唯一のコンプレックスになっている私にとって、ボーデヴィッヒさんは羨ましすぎるスタイルの持ち主でした。

 

 低い身長にあわせてすべてのパーツが小さいのです。まるで子供のようです。これです。これこそ萌えなロリキャラです。合法ロリです。私もこういうふうに生まれたかった。いえ、転生したかったです。

 

 しかし今はそれどころではありません。

 保健室に運ぶための人員を探さなければならないのですが、あいにく私は友達が少ないです。頼めるのは織斑さん以外では本音さんくらいです。

 当然ですが織斑さんには頼めません。本音さんは体力的に戦力になりません。むしろ足手まといです。

 

 こうして必然的に教室に残っていた最後の一人、忘れられていた転校生こと、フランスの男装美少女シャルル・デュノアさんと二人でボーデヴィッヒさんを運ぶことになったのですがーー

 

 

「ーーどうかな、異住さん。ボーデヴィッヒさんは目を覚ました?」

 

 ボーデヴィッヒさんをベッドに寝かせた後、デュノアさんが心配そうに訊ねてきます。 

 安心させてあげるべきなのでしょうが、私に医療関係の知識は皆無で、気休めと承知で適当なことを言えるような性格はしていません。

 

「まだ、ですね。外傷はありませんし、そろそろ目を覚ましてくれると期待したいのですが・・・」

 

 と、我ながら願望でしかないとハッキリ伝えすぎな言い方に多少の自己嫌悪を覚えます。嘘をつかないにしても、もう少し言いようがありそうなものですが、残念ながらぼっちの私はコミュ力0です。たったの5ですらありません。

 

 ・・・・・・うん、なんか悲しくなってきたので自虐はやめましょう。今まであまり意識してきませんでしたが、意識したとたんに涙が・・・

 

「ーーそちらは如何でしたか? 職員室の方は収まりましたか?」

「うん。もともとVTシステムの搭載に関してはボーデヴィッヒさん自身に何の責任もないし、使用も本人の自由意志とは言い難いものだったみたいだからね」

「それはよかったです。安心しました」

 

 ええ、本当に安心しましたよ。これで彼女が退学になったりしたらヒロインが一人退場して、完全に原作が破綻してしまいますからね。そうなったら、二度と原作通りの道筋に戻れなくなってしまいます。

 

 それってつまり、私のせいですよね? 人間一人分の人生改変でも重すぎるのに、ヒロイン全員分あわせて七人ですよ? 絶対に背負えませんって。

 今でさえストレスが凄いんですよ? 胃に穴が空くほどに。

 この上さらに精神的負担が増えたら死にますから。ラノベ主人公みたいな鋼の精神は持ってないんですよ私は。

 

「・・・・・・優しいんだね、異住さんは」

「・・・ほぇ?」

 

 突然なにを言い出すんですかこの人は。思わず変な声を上げちゃったじゃないですか。

 

 いやいや、無いです無いです。私が優しいとかマジ無いですから。・・・むしろ、明らかに世界を歪ませている張本人ですから。下手したら悪の魔王ですからね私。・・・あれ? なんか職員室の方から変な波動を感じたようなーーて、私は厨二ですか。

 

 いけません、あまりに的外れな言葉を言われて混乱したようです。ひとまず落ち着かなくては。あ、それとーー

 

「デュノアさん、私のことはどうぞセレニアとお呼び下さい。どうも名字で呼ばれるのには慣れる事ができなくて」

「そうなの? なにかイヤな思い出でもあるの?」

「いえ、別に。単純に名前の方が好きなんですよ。母親が付けてくれた名前ですし」

「・・・っ!」

 

 いや、まったく。うちの母親の親バカというよりも子煩悩ぶりは、いい加減どうにかして欲しいですよ、本当に。

 見た目は子供なのにもの凄い母性本能の塊ですからねあの人。

 しかもその対象が私一人に限定されているせいかやる事が派手で・・・ハッキリ言ってドン引くレベルです。

 なぜ、姉妹で似た外見のミレニアさんにはあれほど冷淡なのに、私に対してだけは異常に甘いのか・・・まったく理解できません。

 

 なにしろ、私がビーフシチューが好きだといったら一年三百六十五日毎日毎食ビーフシチューにするんですよ? 好きが大嫌いなりましたよ。

 

 ・・・・・・それでも苦情や文句を言えないのが転生者の悲しい性でしてね、なまじ精神年齢が高くて無駄知識が多いせいで養ってもらってる感が抜けないんですよ。生まれたときから居候、みたいな。

 

 別に今の親を実の親とは思えないとかではないですよ? ただ恩返しはしなくちゃなと思ったりするくらいで。

 基本私はヘタレですからね。恩には礼で返さないと怖くて仕方ないんです。チキンなヘタレは貸し借りにうるさいのです。

 

「・・・・・・セレニアは、お母さんが大好きなんだね」

「・・・は?」

 

 ほんと、なにを言い出すんですかね、この人は。

 

 ・・・まぁ、別に嫌いではないですし感謝もしています。好きか嫌いかの二択ならば間違いなく好きと答えるでしょうけど・・・。マザコンとかそういうのでは無しにですよ。

 

「・・・・・・ねぇ、セレニア。ちょっとだけ聞いて欲しい話があるんだけど・・・いいかな?」

「・・・まぁ、ボーデヴィッヒさんが目を覚ますまでの暇潰しにでも」

「ふふふ、意外とひねくれてるんだね。見た目はすっごく可愛いのに」

 

 ほっとけ。かなりほっとけ。

 

「実はボクのお母さんはねーー」

 

 そこから先の話しは、彼女が性別を偽っている状態で話せるギリギリな線までの転校理由でした。

 

 母親の死、引き取られた父がデュノア社の社長、本妻からの罵倒、高いIS適正を買われての候補生入り・・・等々。

 

「それが性別を偽ってまで転校してきた理由なんですか?」

「ーーえ、ええっ!!?? な、なんで、その事を・・・」

「生徒会の人に聞きました」

 

 正確には聞かされました。拒否権は与えられませんでした。

 

「そ、そんな・・・どうして・・・デュノア社が社運を賭けてまで行った隠蔽工作なのに・・・」

 

 思わず溜息がでますね。

 暇潰しには丁度良いですし、この際なので説明しておきましょう。

 

「あのですね、居ない人間を居たと見せかけるには十年くらい前から周到な根回しが必須なんです。

 昔住んでいた家の近所、通っていた学校関係者、同級生やクラスメイト、親が使っていたスーパーの従業員。その他無数のエキストラに証言してもらうための買収だけでも大変なのに、互いの証言に食い違いが起きないように綿密なシナリオを作ってエキストラに必要な分を暗記させる・・・。どれだけのお金と時間と手間が掛かると思ってるんですか? たかがIS開発企業に賄える額だとでも思います? 私がデュノア社の社長でしたら、そんな大金があるのなら他のIS開発計画を買収します。その方が安いですから」

「そ、そんなに・・・?」

「昔だったら巨大国家クラスなら十分可能でしたが、今は超大国の国家予算がまるまる一年分は必要でしょうね。もちろん国にもよりますし、調べる側の調査能力次第ですけど」

 

 現代日本において、なりすましは現実的ではありません。いえ、やるのは簡単ですよ? ただ、警察が動いたら即座にバレるだけで。

 とくに日本には戸籍制度があるので調べようと思えば一時間で余裕で調べ尽くされます。殺害した被害者に何年間もなりすますなんて、警察が容疑者の一人として目を付けた時点で解決してますよ。

 だから私はサスペンスドラマが嫌いです。ツッコミどころが多すぎてコメディドラマにしか見えないので。

 

「じ、じゃあボクはどうすれば・・・い、居場所が・・・」

「普通に先生方に頼めばいいのでは? 貴女が持っているのはフランスの専用機なのでしょう。それをネタに強請ってやれば、たかが落ち目の一企業如きを国家が守るはずがありません。あとは向こうで勝手に始末を付けてくれますよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ・・・なんですか、その目は。まるで私を悪魔か魔王みたいに。

 何度でも言いますが、私はただの無力で無能なFランクですからね。

 

「う、ううぅん・・・・・・」

「・・・ん? 良かった、気が付いたみたいですね」

 

 良かったですよホント、空気が急に重みをまして辛かったので。

 

「ボーデヴィッヒさん、私がわかりますか? ・・・て、そもそも自己紹介してませんでしたね。ええと、私はーー」

「お母様」

「は・・・?」

 

 ・・・今なんつった?

 

「お父様」

「ぼ、ボクぅ!?」

 

 驚き慌てるデュノアさん。

 当然です、私だって驚いてますし慌ててます。

 いや、これ本気でどうすれば・・・・・・!

 

「ぼ、ボク、織斑先生を呼んでくる!」

「お、お願いします」

 

 事態は一学生が対処できるレベルを大きく超えすぎています。

 こういう時こそ良識と常識と知識と経験をもった正常な大人に押しつけてしまいましょう。子供が責任逃れをしても責められることのない大事なので。権利は行使するためにあるのです。

 

 しかしーーー

 

「いやなのーっ! お父様もお母様と一緒じゃなきゃダメなのーっ!

 うわぁぁぁぁぁぁぁんっ!」

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

 大声で泣き出すボーデヴィッヒさん。

 無表情に沈黙する私たち二人。

 

 ・・・・・・もう、ほんと・・・誰か、助けて・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 検査の結果、予想通りボーデヴィッヒさんは脳に障害を負っていました。VTシステムを力尽くで解除した影響もあるそうですが、これにはデータ不足が原因で確かなことは言えないそうで、ようするに解決方法が判らないと言う回答でした。・・・役立たずめ。

 

 そして障害の内容ですが、基本的には今まで通りです。能力的にも知能面でも問題は見つからず、当然ISも展開できます。

 

 ただひとつだけ問題なのは、私たち二人を両親だと認識してしまっているという一点のみ。・・・なにそのご都合主義。どんな脳疾患だよ。ラブコメぱねぇ。

 

 しかも、困ったことに私たち二人と一緒にいたがるばかりか、私たち二人が別行動するのも嫌がります。どうやら私たちが絡んだ時だけ幼児退行するらしいのです。だからやめろ、その超ご都合主義。

 

 結果、私たちは三人でひとつの部屋を使うことになり、ボーデヴィッヒさんは私のことを「お母様」、男性名のシャルルから本名であるシャルロットへと戻し、女子生徒としてあらためて転校してきたデュノアさんを「お父様」と呼んで実の親のように懐いています。

 

 ・・・まぁ女子の制服でお父様と呼ばれているデュノアさんは複雑そうでしたが。

 

 こうして私たちは、IS学園初のそしておそらく最後だろう同性ばかりの擬似親子生徒としてあらためて通うことになったのです。・・・いや、それはおかしい。あと、オルコットさん、その手にある薄い本は没収します。タイトルからして如何わしい内容としか思えませんから。

 

 

 

 それからの私たちは、端から見れば仲睦まじく、冷静に見れば頭のおかしい関係を続け、ようやく少しだけ諦めがついてきた頃、デュノアさんがわずかに頬を染めながらポツリと呟くのが聞こえました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、セレニア・・・・・・本当に、子作りしちゃおっか・・・?」

 

 無理です。

 

つづく




次回は水着を買いに行きますが、原作とは全く違う展開です。
具体的には束さんがでてセレニアとバトルです。あくまでセレニア流のバトルですが。

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