IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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今回は珍しくバトル要素があります。
ただし、バトル描写はありません。
逆にギャグ要素が少ないです。
この作品にはなにも期待してはいけません。


10話「軍人と漫画家は相性が悪い」

「・・・・・・なんで、こんな大騒ぎしてるんだ? 女だろ?アレ・・・」

 

 転校生の一人が世界で二番目の男性IS操縦者(しかも超美形)と聞いて、周囲が姦しいほどに騒がしい黄色い悲鳴をあげる中、織斑さんが私に、不思議そうな表情と声で訊いてきました。

 その眼には、まだ多少の眠気が残っています。もしかしたら、彼ーーではなく彼女シャルル・デュノアさんの自己紹介を聞いていなかったのかもしれません。

 

 私にとっては当然でも事前情報のない織斑さんにはわかりづらいはずのことなので、一応確認を取ります。

 

「分かるのですか? 彼女の本当の性別が?」

「胸がCはあるからな。ギリギリ射程圏内だ。アレより下だったらわからないし、興味もなかった」

「・・・・・・そうですか」

 

 すみません、原作の主人公らしい(と仮定します)織斑一夏さん。(たぶん)私の所為で平行世界のあなたをこんな変態にしてしまって・・・。

 責任をとって、ちゃんとハーレムは用意しますので、どうか成仏してください。

 

「・・・・・・もう一人の方はいかがですか?」

「俺には何も見えないな」

「・・・・・・」

 

 どうやら本当にC以下は視界に入らないようです。

 (原作の)織斑さん、ごめんなさいごめんなさい、本当に心の底からごめんなさい。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

 面倒くさそうに織斑先生がぼやきますがーー当然、誰一人聞いてやしません。

 だって、織斑先生の言葉ですよ? 聞いてくれるはずがないでしょう?

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~」

『・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 ピタッと音が響いたと錯覚するほど、山田先生の言葉には即座に反応する皆さん。

 すごい対応の差です。これが実績の違いという奴なのでしょう。

 

 あ、織斑先生が見られないように袖で眼を拭っていました。・・・泣いてましたね、あれは。

 

 ・・・見なかったことにしましょう。余計な恨みは買いたくありませんし。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 自己紹介が続くと言われて静聴しているのに、肝心のご本人であるラウラ・ボーデヴィッヒさんは未だに口を開かず、腕組みをした状態で教室の女子生徒たちを下らなそうに見ています。

 

 ただしそれもわずかな時間、今はもう視線をある一点・・・織斑先生にだけ向けています。

 

「・・・挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 

 いきなり姿勢を正して敬礼と共に素直に返事をするボーデヴィッヒさん。

 その学生らしからぬ、軍人としか表現できない言動に皆さん唖然としていますが、私はそれよりも織斑先生の言葉の方が気になりました。

 

 普段からーーと言っても入学直後からの数週間の間だけですがーー織斑さんに「千冬姉」と呼ばれるたびに「織斑先生と呼べ」と鉄拳制裁し、「織斑」と実の弟に対しても名字呼びをしていた彼女が、ボーデヴィッヒさんに限っては「ラウラ」とファーストネームを呼び捨てです。

 

 私は織斑さんに視線で問いかけると、最近やたらと勘が鋭くなって朴念仁という設定は何処に行ったのかと思わせられている彼は、当然のことのように私の意を汲んで説明に応じてくれます。

 

 これは、原作改変して良かった点・・・ですよね?

 

「千冬姉ーー織斑先生は一年ほどドイツで軍隊教官として働いていた。その後に一年置いて今の職についたんだ。

 たぶん、その時の教え子の一人なんだろう」

「ははぁ・・・なるほどなるほど~。

 それにしても、あの織斑先生が軍隊の教官ですか・・・本当に役に立ったんですか、アレで?

 軍人は図体がでかくて大きな声が出せればいいっていう、よくある誤解の原因になってたりしてませんよね?」

「お前にはそう見えるだろうな、間違いなく。・・・いっそ、お前が指揮を執った方がいいんじゃないか? 最強集団が出来ると思うぞ。

 具体的にはレッド・ショルダーみたいな」

「あははははっ、冗談がお上手ですね織斑さんは。

 私みたいにひ弱で無能な雑魚に率いられたら、どんな強兵集団も「いらん子小隊」になってしまいますよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ・・・あれ? なぜかコメントがありませんが・・・ああ、なるほど。ボーデヴィッヒさんが話すのを聞いているんですね。

 興味ないと言いつつもちゃんと聞いてあげてるあたり、やはりヒロインと主人公の絆は強いようです。これならばハーレム形成の方にも期待が持てますね。

 

 ・・・って、あれ?

 ちょっと織斑さんとの会話に集中していたせいで彼女の話を聞き逃していたのですが・・・なんで織斑さんの席の前で彼を睨みつけてるんですか、ボーデヴィッヒさーー

 

 バシンッ!

 

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ・・・いきなり殴りましたね。それもスゴく良い音がする平手打ちです。

 おそらく無駄な動きがないからでしょう。私は格闘の知識も経験も皆無なので、憶測と妄想に元ずく勝手な推測ですけども。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

 クラス中が注目する中で彼女ーーボーデヴィッヒさんが絞り出すような苦々しい声を出しますが、それに対する織斑さんの反応は、

 

「ーーふん、三次元が」

 

 ・・・現実を見下しきったような侮蔑の視線で放たれるオタク発言でした。

 原作の織斑さん、本当の本当にごめんなさい。お願いですから化けて出ないでください・・・。

 

「・・・なんだと?」

「出来損ないの三次元と話すことなど何もない」

「ーーっ!」

 

 如何にもなオタク発言に、なぜかボーデヴィッヒさんは過剰反応してISの一部を部分展開。織斑さんへと襲いかかります。

 

 が、引き籠もって漫画を書き続けていたはずなのに、なぜか強くなっていた織斑さんは自身もISを部分展開。あっさりと攻撃を防ぎました。

 

 ・・・漫画家がやたらと強い作品ってありますけど、アレって本当だったんですね。

 

「私を出来損ない呼ばわりすることは許さん!」

「知らん。三次元の上にC以下など人間以下だ。語る価値もない」

「ーー貴様ぁぁぁっ!!」

 

 この世すべての憎しみが凝縮したようなボーデヴィッヒさんは、もはや遠慮は無用とばかりにISを全面展開。見たことのない漆黒のISです。

 おそらく彼女の専用機なのでしょうが無駄に大きい武装ばかりです。火力型なのかもしれませんね。

 

 あ、ちなみに私は避難しましたよ。

 巻き込まれた瞬間、即座に死亡が確定する雑魚ですからね。

 原作キャラ同士のバトルになんか怖くて関われませんし、関わりたくもありません。

 

「私はもう出来損ないではない! あのどん底にいた頃の無力な私では、断じてないんだぁぁぁっ!!!」

「下らん。三次元は何処まで行っても出来損ないにしかなれん。悔しいなら次元を一つ下げて見せろ」

 

 ・・・なんでしょうか、このテンションの差は。

 

 て言うか、これちゃんと会話成立してます?

 なんだか、お互いの間にものすごい認識の違いを感じるんですけど・・・。

 

 それにしても、この状況でなぜに織斑先生は止めに入らないのでしょうか? もしかして、この機会に織斑さんの腐りきった性根を叩き直すつもりだったりしますか?

 ・・・腕組みして眺めているところを見るとおそらくそうなんでしょうね。もう嫌なんですけど、このクズ教師。

 なんでこんなのに教員資格与えますかねぇ、この世界の文部省は。

 

 まさかとは思いますが織斑先生、自分にとって最大の汚点である愚弟をここで亡き者にとか・・・考えてないですよね?

 

 ・・・信じてますよ? 本当の本気で。

 

「ーーん? 体が・・・」

「やはり貴様など、私とシュヴァルツェア・レーゲンの敵ではないのだ!

 消え失せろ! 思い知れ! 私を出来損ないなどと見下した己の迂闊さを後悔しながら死んでいけぇ!!」

「切り札を初見で見せたあげく、止めの一撃になりきれない・・・。

 だから出来損ないだと言ったのだ。身の程を知れ、三次元」

「なっ!? 私の後ろにーーがぁっ!?」

 

 おお、よく見てなかったらいつの間にかボーデヴィッヒさんが切り札を使っていたみたいですね。

 しかし、織斑さんには通じなかったみたいです。

 

 え? どうやったのかって?

 知りませんよ、そんな事。軍事的な知識はゼロ以下なんです。後で図書室で教本でも漁っておきます。

 

「こ、こんなところで負けるのか、私は・・・!

 負けられない、負けるわけにはいかない・・・! 敗北させると決めたのだ・・・あれを、あの男を、私の力で完膚無きまでに叩き伏せると!」

「不可能だ。諦めろ、出来損ないの三次元」

「!! ぐっ・・・ああああああっ!!!!」

 

 突然、ボーデヴィッヒさんが絶叫して放電し始めましたけど・・・乾電池が壊れたんでしょうか?

 

「! あれは・・・ヴァルキリー・トレースシステムーー!?

 バカなっ、IS条約違反だ! ドイツは何を考えている!そうまでして軍事利用を押し進めたいのか!

 操縦者は使い捨てのモルモットではないのだぞっ!」

 

 叫ぶ織斑先生ですが・・・いいからお前、早くアレをどうにかしろや。一応は教師でブリュンヒルデなんだろうが。

 いい加減にしないと、マジで出るべき所に訴え出ますよクズ教師。

 

「やれやれ・・・基礎性能を上げただけで勝てると思いこむ。だから三次元は何処まで行っても出来損ないなんだ。

 少しはセレニアを見習え、戦闘力5以下のゴミめが」

 

 全身を黒一色に染めて生き物の鼓動のように脈動しているシュヴァなんたらとか言う専用機は既に原型を保っていませんでしたが、元々の状態にすら価値を見いだしていなかった織斑さんにとって、どのみちゴミであることに変わりはないようです。

 

 ・・・それと、なにか不穏当な呟きが混じっていたような気がするのですが、気のせいですよね・・・?

 

「落ちろ、蚊蜻蛉。

 零落白夜、発動。イグニッション・ブースト」

 

 そう呟くように言った織斑さんの手元の光の剣ーー雪片弐型・・・でしたっけ?が形状を変化させて日本刀の形を取りますが、あまり綺麗とは言い難い雰囲気を持つ形です。

 

 なんと言うべきか・・・美術刀に価値を見いだせず、人を斬るためだけに特化した物を作りたいという刀匠の執念じみた怨念を感じますね。

 妖刀村正ってこんな刀なのかもしれません。

 

 その妖刀雪片(私命名)であっさりとシュヴァなんとかを一刀両断した織斑さんは、倒れてくるボーデヴィッヒさんに一瞥をくれる事もなく、さっさと帰り支度を始めてしました。

 

「お、おい織斑、まだ授業は始まっても・・・・・・」

「この教室で授業ですか? どうやって何を教えるのか興味がありますね。聞かせてもらえますか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 織斑先生沈黙。そして轟沈。

 

 そりゃそうです。無事な物なんて殆どないんですから。

 机も椅子も窓ガラスもほぼ全て吹き飛んでしまいましたよ。

 無傷なのは避難するときに私が持って行った自分と織斑さんの荷物だけですね。

 

 修復完了と同時に再び全壊。・・・これ、誰の責任問題になるんでしょうか? 明日には理事会の何人かは首が飛んでそうです。

 

「どうやらお返事が頂けないようなので失礼します。原稿で忙しいので」

 

 そう言って、私が手渡した鞄を手に取り、教室を出ていく織斑さん。

 どうでもいいんですが、なんで受け取るときに顔を赤くするんですか? 戦闘で興奮したのかもしれませんね。

 後で冷たい飲み物でも差し入れましょう。

 

 ・・・なにやら一瞬「新妻」とかいう単語が聞こえた気がしましたけども・・・BAKUMANの新妻エイジ君のことでしょうか?

 まぁ名作ですし、漫画家としては気になる作品でしょうからね。

 

 

 

 そうして織斑さんが去り、ボーデヴィッヒさんが倒れ、織斑先生が立ち尽くし、他の生徒の皆さんはいつの間にやら廊下に避難してしまいーー当然、私は員数外。

 

 何も動くものがなくなって、沈黙のみが支配する教室に『忘れられた存在』の呟きが空しく木霊します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの・・・ボクは、どうすればいいのかな・・・・・・?」

『あ』

 

 あ。

 

つづく




一夏が強いのは漫画家として精神統一が極限にまで達し明鏡止水に至っているからです。

なお、ラウラとのフラグは完全に折れました。もはや一夏に対しては憎しみしかありません。

次回、ようやくシャル回です。

注:レッド・ショルダー。装甲騎兵ボトムズで主人公が所属していた部隊。
  別名吸血部隊。ギルガメス宇宙軍の象徴と言われるほどの強さを誇るが
  冷酷残虐無慈悲で非戦闘員民間人区別なく殺す最恐にして最凶な赤い悪魔。

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