IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

1 / 115
本編
プロローグ「《インフィニット・ストラトス》の異邦人」


 

 ーー私が《インフィニット・ストラトス》の世界に転生してから十六年の時が流れました。

 すでに今の私に、前世の男子高校生だった頃の記憶と自我は欠片ほども残っておらず、完全にこの世界の住人の一人、異住・セレニア・ショートと言う名の少女として第二の人生を送っています。

 尤も、私には《インフィニット・ストラトス》という作品に関する知識は殆どありません。

 生まれ変わったときに原作の主人公とヒロイン達の名前と《IS》という存在について与えられただけです。・・・誰によって与えられたかについては、考えたことがありませんので分りかねますが。

 なにしろ、転生自体が非現実的すぎて科学が通用しそうにないので、科学文明によって作られた現代社会に生きるーー生きていた私の常識は何一つとして通用しないでしょうから。

 解る筈のない事を解ろうとするのは愉しい事ですが、時間の無駄でもあります。

 無駄を楽しむことは出来ますが、さし当たってはこの世界について学ぼうと勉強にいそしみ続けた結果・・・・・・

 

 ・・・・・・最悪なことにIS学園への入学を勧められるほどの成績となった上にIS適正が有ることも判明し、私は進路選択の自由を失いました。

 せめてもの救いはIS適正が低かったことぐらいですかね・・・。これならば原作キャラと出会っても戦うことにはならないでしょうし、そもそも関係すら持つことも出来ないでしょう。

 与えられた知識によると《インフィニット・ストラトス》はハイスピード学園バトルラブコメという、いささか詰め込みすぎな印象のあるジャンルなんだそうです。

 『バトル』と名が付く以上は戦うのでしょう。主人公やヒロイン達が・・・・・・あるいは、主人公が、ヒロイン達と。

 どちらにせよ、IS適正が低い上に技術者としてしか期待されていない私はお呼びではない。大人しく観客席で野次を飛ばしながら見物するつもりです。

 そうするーーつもりだったんです・・・・・・・・・・・・

 

 それなのに・・・・・・・・・

 

 

 

「今日からお隣さんだな、仲良くしようぜ。

 そんじゃあ改めてーー俺は『織斑一夏』だ。

 これからよろしくな、異住」

「・・・・・・・・・・・・よろしくお願いします、織斑さん。

 それと、私のことはセレニアとお呼びください。名字は呼ばれ慣れてないんですよ。

 とっさの時に返事が遅れると何かと不便そうですし、できれば名前の方でお願いします」

「ん? そうなのか? わかった。

 んじゃ、もっかい改めて・・・よろしくな、セレニア」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ええ・・・・・・お手柔らかに・・・・・・・・・・・・」

 

 なんの淀みもない笑顔を向けてくる、女子校であるはずのIS学園に通うことになった唯一の『男子』生徒、織斑一夏さん。

 彼こそ《インフィニット・ストラトス》の主人公であり、織斑ハーレムの主人であり・・・・・・物語中に起きる全ての事件の中心人物です。

 私はあろうことかーーその歩く核弾頭みたいな人と隣り合う席にさせられたみたいです・・・・・・。

 

「はぁ・・・・・・」

 

 なんやかやと話しかけてくる織斑さんの言葉に相槌を打ちながら、私は彼に気づかれないよう注意しながら、小さく溜息をつきました。

 まったく・・・・・・なぜ、無力な一生徒でしかない私を騒動の中心人物の間近に置くのでしょうか? もしもの時は責任を取っていただけるんですかね・・・。生命保険って十六歳からでも入れましたっけ・・・・・・?

 

「いやー、周りがみんな女の子ばっかりで気後れしてたし、しかも隣の席に外国人の子が座ってるからビビっちまったけど・・・・・・日本語が通じて、マジでホッとしたよ・・・・・・。

 ・・・・・・さすがに一年間も会話が出来ない奴とお隣さんでやってくのは、ちょっと、な・・・・・・」

 

 しみじみと語る織斑さん。ショートホームルームの自己紹介時にガチガチだったのと比べれば大分マシになったと言えるでしょう。

 

 ・・・まぁ、判る話ですがね・・・。

 

「・・・この学校は偏差値が無駄に高い所謂エリート校ですから、その心配は杞憂でしたね。ついでに言えば、外国人の子は他にも結構いるみたいですが、問題なく日本語が通じるみたいですよ。

 ・・・・・・それと、私は生まれも育ちも日本ですから日本語しか話せません。英語の授業とかで頼ってこないでくださいね?」

 

 何の嫌がらせか、日英のハーフとして生まれ変わった今の私の容姿は、銀髪碧眼に白い肌という如何にもな外国人でした。そのため、こういった誤解は受けやすいので気にはしませんが、利用されるのはイヤです。

 なので、堤防作りのための牽制をさせていただきました。

 

「え!? い、いや、そんな事か、考えてなんかい、いない、ぞ・・・・・・?」

 

 ・・・・・・明らかに考えてましたね、この顔は・・・。牽制しておいて良かったです。

 私としては原作キャラとは可能な限り関わり合いたくありません。チートバトルに巻き込まれるのは御免被ります。

 

 余談ですが、先程のは牽制のための嘘で、私は五カ国語はなせます。

 内訳は、英語、中国語、フランス語、ドイツ語、ロシア語となっています。本の虫がおかしな風に作用した結果なのですが・・・・・・

 

 ・・・・・・なぜでしょう。なんだかスゴく、フラグを建てさせられている気がするのは・・・・・・。

 

 その後も休み時間が終わるまで彼は私に話しかけるのをやめませんでした。

 本気で不安だったんでしょうね。緊張が僅かに取れたとたんに、ため込んでいた物を私に向かって一気に吐き出した感じです。

 謂わば私はこの時点で巻き込まれただけの被害者と言うより被災者なのですが・・・、

 さすがにこの状態の彼に冷たく当たるのは気が引けます。しばらくは付き合って上げようかと思っているとーー

 

「ちょっと、よろしくて?」

「へ?」

 

 いきなり声をかけられて素っ頓狂な声を上げる織斑さん。

 ちなみに、声をかけられたのは織斑さんであり私ではないので、丁重に無視させていただきました。

 まぁ、一応礼儀として顔は向けてあげましたが。

 

「聞いてます? お返事は?」

 

 その人ーーIS学園にいる以上、当然のように女性なのですが・・・いやはやなんとも運の悪い事で・・・。

 同情しますよ、織斑さん。

 まさか、外国人相手に緊張が解けた途端に別の外国人から話しかけられるなんて・・・国外に出たことがない上に外国人を前にすると妙に緊張してしまう典型的な日本人であるところの織斑さんにとって、これはまさに拷問でしょうね・・・・・・。

 案の定、硬直して言葉をなくしてしまいましたが・・・それを無視されたと解釈したらしい彼女は先程よりもきつい声で問いかけます。

 

 まぁ、彼が言葉を失ったのは彼女の美貌に圧倒されたのもあるのではと思いましたが・・・今は言わないで置きましょう。

 無視されているならば、こちらとしても都合がいい。余計な言葉で飛び火するのは遠慮したいです。

 しばらくは傍観させていただきます。

 

 ・・・・・・できるならば、そのままフェードアウトするつもりですし・・・・・・

 

「あ、ああ。訊いてるけど・・・どういう用件だ?」

「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

「悪いな。俺、君が誰か知らないし」

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」

 

 彼女の言葉に無視できない単語が混ざりました。

 なるほど。この人がヒロインの一人であり、いずれ形成される織斑ハーレムの一員でもあるイギリス貴族令嬢のオルコットさんですか。

 巻き髪ロールという如何にもなお嬢様ヘアーで判りやすいですね。

 とりあえずは、この状況と無関係な私は無言で見物を続けますが。

 

「あ、質問いいか? 代表候補生って、何?」

「あなたっ、本気でおっしゃってますの!? 国家代表IS操縦者の、その候補生として選出されるエリートのことですわ。

 大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。唯一男でISを操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待はずれですわね」

「俺に何かを期待されても困るんだが」

 

 キーンコーンカーンコーン。

 話に割って入ったのは三時間目開始のチャイムでした。

 きっと、今の織斑さんにとっては福音に聞こえたことでしょう。

 

「っ・・・! またあとで来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」

 

 悔しげに言い捨てて自分の席へと戻っていくオルコットさん。すごく元気一杯です。

 彼女とは間逆に、すごく元気が無くてうなだれながら机に突っ伏す織斑さん。疲労困憊と言った感じです。南無。

 

「・・・・・・お疲れさまでした。ーー災難でしたね?」

「うう・・・分かってたなら助け船を出してくれ・・・まじで死ぬかと思った・・・・・・」

 

 胃の辺りを押さえながら呻く彼は、意外と普通の少年でした。

 じっさい、あれほどの美少女ーーしかも外国人ーーを前にして普段通りというわけにはいかないでしょうね、男の子だったら。

 たしか、与えられた僅かな原作知識の中に「織斑一夏は朴念仁」とありましたが、鈍いことと異性に興味がないことは同義ではないようです。

 

 ・・・・・・ですが、申し訳有りません、織斑さん。

 新たな加害者の登場に、私は何も出来そうにないです。・・・出来ても、する気はありませんでしたが。

 それでも隣席としての仁義は守るべきでしょうから、伝える事だけはしておきますね。

 

「織斑さん・・・一難去ってまた一難みたいですよ・・・・・・?」

「・・・・・・は?」

 

 その間の抜けた反応には応えず、教室に入ってきた二人の人物ーー担任の織斑千冬先生、副担任の山田真耶先生のやたらと真面目な表情に視線を向け、再び溜息をつく。

 そんな私たちに教壇に立った織斑先生が告げたのはーー

 

「この時間は実践で使用する各種装備の特性について説明するつもりだったのだが、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな。

 誰かやりたい奴はいるか? 自薦他薦は問わないぞ」

 

 ああ・・・この後の展開が予想できる・・・・・・。

 本当に・・・心の底から同情しますよ。

 でもまぁ、諦めてもらいましょう。それが主人公に与えられた役割なのでしょうから。

 

 

 なのでーー苛烈な青春の最初の一ページ目を飾る戦い、頑張ってくださいね? クラス代表に『確定している』織斑一夏さん?

 

つづく




チートバトルは(書くのは)嫌いなので、主人公はチートになりません。
ひねくれているので強くなる為の努力もしません。
いつまでたっても弱いままです。
強キャラが好きな方はご注意を。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。